平成 27 年度 欧州超短期派遣プログラム(ドイツ・オーストリア) 報告書 平成 27 年度 10 月 東京工業大学 グローバル人材育成推進支援室 目次 1 海外派遣プログラムの目的 ············································································· 3 2 参加学生の紹介と研修日程 2-1 派遣プログラム日程················································································· 4 2-2 参加学生の紹介······················································································· 5 3 各国の概要 3-1 ドイツ/アーヘン ······················································································ 6 3-2 オーストリア/ウィーン ············································································· 8 4 訪問先の詳細 4-1 アーヘン工科大学(RWTH Aachen) 4-1-1 大学概要 ························································································ 10 4-1-2 研究室訪問 ····················································································· 11 4-1-3 文化プログラム・学生交流 ································································ 15 4-1-4 その他 ··························································································· 17 4-2 美術史博物館・自然史博物館・ミュージアムクオーター ······························ 18 4-3 ウィーン工科大学(TU Wien) 4-3-1 大学概要 ························································································ 22 4-3-2 ウィーン市のスマートシティ構想 ······················································· 22 4-3-3 研究室訪問 ····················································································· 23 4-3-4 その他 ··························································································· 26 4-4 国際原子力機関(IAEA) 4-4-1 Vienna International Center と国際原子力機関の概要 ·························· 28 4-4-2 保障措置について ············································································ 29 4-4-3 日本人等職員との懇談 ······································································ 30 5 その他 5-1 市内交通······························································································ 32 5-2 食事 ···································································································· 32 5-3 街の様子······························································································ 33 5-4 その他 ································································································· 33 6 所感 ········································································································· 38 1 海外派遣プログラムの目的(執筆担当:植田大樹) 本プログラムはグローバル理工人育成コースの下記の 4 つのプログラムのうち、4)実 践型海外派遣プログラムの一環として実施された。 1)国際意識醸成プログラム:国際的な視点から多面的に考えられる能力、グローバル な活躍への意欲を養う。 2)英語力・コミュニケーション力強化プログラム:海外の大学等で勉学するのに必要 な英語力・コミュニケーション力を養う。 3)技術を用いた国際協力実践プログラム:国や文化の違いを超えて協働できる能力や 複合的な課題について、制約条件を考慮しつつ本質を見極めて解決策を提示できる 能力を養う。 4)実践型海外派遣プログラム;自らの専門性を基礎として、海外での危機管理も含め て主体的に行動できる能力を養う。 グローバル理工人育成コースにおける実践型海外派遣プログラムは、上記1)から3) のプログラム履修後に学生を海外に派遣し、現在まで育成された能力を活用し、自身の今 後の研究やキャリア形成の参考となるような経験を積むことであり、本コースの集大成と して位置づけられている。 実践型海外派遣プログラムは、次の4つの能力の育成を目指す。 1)自らの専門性を基礎として、異なる環境においても生活でき、業務をこなす力を持 ち、窮地を乗り切るための判断力、危機管理能力を含めて自らの意思で行動するた めの基礎的な能力を身につけている。コミュニケーション力と自分の考えを説明で きる表現力が向上する。 2)異文化理解が進み、相手の考えを理解して自分の考えを説明できるコミュニケーシ ョン能力、語学力、表現力を身につけている。異文化理解が進み、語学力が向上す る。 3)海外の様々な場において、実践的能力と科学技術者としての倫理を身に着け、チー ムワークと協調性を実践し、課題発見・問題解決能力を発揮して、新興国における 科学技術分野で活躍するための基礎的な能力を身につけている。 欧州超短期派遣プログラム(ドイツ・オーストリア)は、グローバル人材育成推進支 援室が主催する初めてのプログラムとして実施された。本報告書は、グローバル理工人 コースに所属する参加者 8 名による、現地での活動の記録である。 3 2 参加学生の紹介と研修日程(執筆担当:植田大樹) 2-1 派遣プログラム日程 日付 行動予定 訪問内容 宿泊地 9 月 7 日(月) 成田発-アブダビ着 EY871 21:20~04:35 機中泊 9 月 8 日(火) アブダビ発-デュッセルド EK157 08:45~13:50 アーヘン ルフ着 デュッセルドルフ-アーヘ ン(電車移動) 9 月 9 日(水) 1. 研究室訪問 アーヘン工科大学訪問 9 月 10 日(木) 2. 学生交流 9 月 11 日(金) 3. 文化プログラム 9 月 12 日(土) アーヘン-デュッセルドル ウィーン フ(電車移動) デュッセルドルフ発-ウィ AB8436 12:15~14:20 ーン着 9 月 13 日(日) 市内観光 博物館・大聖堂など 9 月 14 日(月) ウィーン工科大学訪問 1. 研究室訪問 9 月 15 日(火) 2. 学生交流 9 月 16 日(水) 3. 市内建築物見学ツアー 9 月 17 日(木) 国際原子力機関(IAEA) 9 月 18 日(金) ウィーン発-アブダビ着 EY1980 12:15~19:55 9 月 19 日(土) アブダビ発-成田着 EY878 22:05~13:15 引率者 大森 建 大学院理工学研究科化学専攻 村田 涼 大学院理工学研究科建築学専攻 牧野 崇行 国際部国際連携課総務グループ 高橋 祐子 国際部国際連携課総務グループ 4 機中泊 2-2 参加学生の紹介 4年生 高田 親矢 千葉 凛平 富澤 真優 工学部 有機材料工学科 工学部 機械宇宙学科 生命理工学部 生命科学科 3年生 石井 晴花 植田 大樹 工学部 土木・環境工学科 山崎 星奈 工学部 化学工学科 工学部 有機材料工学科 応用化学コース 2年生 石丸 拓実 小島 摩利子 理学部 化学科 生命理工学部 生命工学科 5 3 各国の概要 3-1 ドイツ/アーヘン(執筆担当:山崎星奈) 3-1-1 ドイツ 人口:8,094 万人(2014 年) 面積:35.7 万平方キロメートル(日本の約 94%) 首都:ベルリン(人口約 343 万人)(2014 年) 通貨:ユーロ(EURO) 換算レート 1€=135 円(2015 年 9 月現在) ドイツの位置 地理 中央ヨーロッパに位置し、ベルギー、オランダ、フランスなど 9 か国と隣接する。 気候 ドイツは冷涼、曇りがち、湿潤な冬と夏が特徴的である。西岸海洋性気候に属し、 緯度の割には温和な気候となっている。 民族・宗教 ゲルマン系を主体とするドイツ民族 キリスト教(カトリック 2,546 万人、2,483 万人)、ユダヤ教(11 万人)(2012 年、 独連邦統計庁)、イスラム教(400 万人)(2009 年、連邦内務省) 政治体制 連邦共和制(16 州、1990 年 10 月 3 日に東西両独統一)であり、元首はヨアヒム・ ガウク大統領。議会は二院制であり、連邦議会と連邦参議院からなる。 経済・産業 世界有数の先進工業国であり貿易大国でもある。GDP の規模は欧州第一位。 主要産業は自動車、機械、化学・製薬、電子など。 〈引用元〉 外務省 HP ドイツ連邦共和国基礎データ http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/germany/data.html#section1 Wikipedia ドイツの地理 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%AE %E5%9C%B0%E7%90%86 6 3-1-2 アーヘン 地理・人口 アーヘンはドイツの最西部、オランダとベルギ ーとの国境に位置し、3Country Point(3 か国の 国境が接する場所)は観光名所となっている。 人口は約 26 万人の小さい街であり、アーヘン 工科大学に通う学生が多く住んでいる。 シティホール 歴史・文化 アーヘンはローマ帝国の皇帝、カール大帝(748 年~814 年)が気に入り、最も多く の時間を過ごしたとされる古い街で、その痕跡が数多く残されている。当時から、ア ーヘンには温泉が湧いており、現在でも入浴することができる。カール大帝はアーヘ ンで亡くなり、遺体はアーヘン大聖堂に埋葬された。アーヘン大聖堂はユネスコの世 界文化遺産にドイツで初めて登録された建造物である。 アーヘンの中心部に位置する壮麗なゴシック様式のシ ティホールでは、32 人のドイツの王たちが戴冠式を行 った。 アーヘンは古くから馬の競走会が行われる地として 有名で、アーヘンの駅の前には 4 頭の馬のモニュメン トが見られる。 大聖堂の内部 3 Country Point アーヘンの市街地からバスで 20 分ほどの山の上に、ドイツ・オランダ・ベルギーの 国境が接する場所がある。記念碑と各国の国旗が掲げられ、多くの学生や観光客が記 念撮影をしに来ていた。また、子供用の遊び場やアトラクションがあり、ちょっとし たテーマパークのような場所である。ここでは、オランダのフライドポテト、ダッチ フレンチフライが食べられるそうで ある。 〈引用元〉 Stadt aachen http://www.aachen.de/EN/sb/ac/inde x.html 3 Country Point での記念撮影 7 3-2 オーストリア/ウィーン(執筆担当:千葉凜平) 3-2-1 オーストリアについて オーストリアの位置 1 正式国名:オーストリア共和国 首都:ウィーン 人口:約 845 万人 km2 オーストリアの国旗 (2013 年、日本の約 15 分の 1) (日本の約 5 分の 1) 面積:約 8.4 万 気候:オーストリアは湿度の低い大陸性気候で、山岳地帯が多いため夏は涼しく冬は 極寒。夏は 30 度を超える日もあるが、湿気が少ないので過ごしやすい。 時差:日本との時差は 8 時間で、日本時間より 8 時間遅い。サマータイム(4〜10 月) 実施中は 7 時間の時差になる。 民族:約 90%がゲルマン系。他にハンガリー系など東欧系、ユダヤ系民族で構成。3 宗教:約 78%がカトリック、約 5%がプロテスタント、ほかにイスラム教、ユダヤ教 など。3 言語:ドイツ語 通貨:ユーロ(2015/9/25 では 1 ユーロ=134.42 円)4 政治体制:連邦共和制。9 つの州からなる。永世中立国。EU(欧州連合)に加盟。 経済・産業:オーストリアは高度に発達した工業国で、主な工業部門は、機械、鉄鋼、 食品加工および嗜好品、化学そして自動車産業である。大企業はないも のの、ドイツ企業の下請け的な役割の中小企業がオーストリア経済の中 心を担っている。また観光もオーストリア経済にとって非常に重要な産 業部門である。アルプス地域の自然景観や都市地域の文化遺産など、多 種多様な観光資源があり、ヨーロッパの人を中心に年間約 2500 万人の観 光客が訪れる。5 食文化:かつてのオーストリア帝国には独自の文化と料理を持つ多様な民族が住んで いたため、オーストリアの食文化は極めてバラエティー豊かである。オース トリアの代表的な料理はウィーナー・シュニッツェルという仔牛のカツレツ である。また古くからワインの文化が盛んで、様々な品種のブドウが栽培さ れている。 8 3-2-2 ウィーンについて ウィーンの位置 2 人口:約 176 万人 面積:415km2 (2013 年、オーストリア全人口の約 20%) 地理・歴史:ウィーンは、ドナウ川に沿ってヨーロッパを東西に横切る道と、バルト 海とイタリアを結ぶ南北の道(琥珀街道)が交差するところに位置し、 ハプスブルク家がここに本拠地をおいたことで発展した。ハンガリーか らスラブ文化を、ドイツからゲルマン文化を、そしてイタリアからラテ ン文化を取り入れ、多彩な民族性を集約する都市として栄えた。現在は オーストリアの首都であり、同国を構成する 9 つの州の一つでもある。 経済・産業:金融業、観光業が盛んで、オーストリアの国内総生産の約 5 分の 1 を占 める。6 文化:ウィーンでは、ハイドン、モーツァルト、シュトラウス、などの数多くの名音 楽家が生まれ、活躍した。またドイツ出身のベートーベンやブラームスなども ウィーンで活動したなど、ウィーンは古くからクラシック音楽が盛んで、 「音楽 の都」と呼ばれている。ウィーンには数多くの歌劇場やコンサートホールが存 在し、現在でも毎晩のようにクラシック音楽のコンサートが開かれている。ウ ィーン国立歌劇場は世界で最も有名な歌劇場の一つで、この国立歌劇場専属の オーケストラであるウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーによるウィーン・ フィルハーモニー楽団は、世界随一の実績と知名度を誇る名門楽団である。 (参考文献) 1 http://miku39shimizu.seesaa.net/archives/20130620-1.html 2 http://italying.zening.info/map/Austria/index.htm 3 地球の歩き方 4 三菱東京 UFJ 銀行 5 オーストリア政府観光局公式サイト 6 Wikipedia「ウィーン」 9 4 訪問先の紹介 4-1 4-1-1 アーヘン工科大学(RWTHAachen) 大学概要(執筆担当:石井晴花) アーヘン工科大学は、ドイツのアーヘンにあり、工学系大学として国内最高峰の教育機 関である。学生数は 42298 人、留学生は 7056 人であり、東工大と比べると学生数も留学 生の割合も多くなっている。教授数は 512 人だが、スタッフは 4745 人と多い。 学部数は 9 学部あり、以下のように分かれている。 ・faculty 1 数学、コンピューターサイエンス、自然科学 ・faculty 2 建築 ・faculty 3 土木 ・faculty 4 機械工学 ・faculty 5 ジオ資源、材料工学 ・faculty 6 電気工学、情報工学 ・faculty 7 芸術、人間 ・faculty 8 ビジネス、経済 ・faculty 10 医療 このように、アーヘン工科大学では理学、工学だけではなく医療や経済系、アートの学問 も存在している。 アーヘン工科大学はキャンパスに集約されてはおらず、アーヘン市内に校舎や研究所が 点在している。そのため、移動する場合はバスを使うことが多くなる。今回私たちはキャ ンパスツアーなどでたくさんの校舎、研究所を回ったが、大学病院など歩いていくには遠 い場所もあった。図 1 の Super C にはホテルから徒歩で行けたが、他の研究所は基本バス で移動した。電車は空港への移動以外では使うことはなかった。 学食も充実しており、昼食は 3 日とも違うカフェテリアで食べた。東工大にももっと入 りたくなるようなカフェテリアが欲しいと思った。 Super C カフェテリア 10 4-1-2 1) IGM 研究室訪問 Mechanism Theory and Dynamics of Machines(執筆担当:石井晴花) Jan Brinker さんに説明、案内をしてもらった。彼は修士生であり、この研究室に所属し ている。筋肉質で胸筋がとてもかっこよく、半袖 T シャツの彼の姿に見とれてしまうメン バーも多かった。 IGM の研究分野は以下の 3 つに分かれている。 ・メカニズム理論と運動学 ・機械力学と振動工学 ・ロボットと機械 メカニズム理論と運動学では、構造の合成、選択、機械の寸法選択、機械の分析、ソフ トウェアツールの開発などを行っている。機械力学と振動工学では、振動と応力の分析、 システムのモデル化とシミュレーション、寸法の決定と最適化、質量と力のバランスなど をテーマに研究をしている。ロボットと機械の分野では、開発と設計、分析やモデリング や最適化、開閉や軌道の構想、確認やモデル化や検証、基礎研究などをテーマとしている。 小さな細長い部品と部品をいくつか接続し、ある周期で部品を円運動させて、部品同士が それぞれを動かしあい、その結果全体として、とある一つの動きになる。そのような研究 をしていた。 研究室見学では、実際に機械を見せてもらった。機械の中がどのような理論でできてい るのか、全く知らなかったため、勉強になった。機械を動かすためには、部品と部品をう まく接続して動かしていくのだ、ということが分かった。 研究室見学で説明を受けた機械 2) Institute of Applied Microbiology(執筆担当:高田親矢) Institute of Applied Microbiology とはバイオテクノロジーをより工学的に活用すること を目指している研究所である。初めに、主に電気化学の分野への応用を考えているという Rosenbaum 研究室について説明を受けた。微生物の活動というものは、まだまだ人類が真 似できないことが多い。もし有益な活動についてより理解を深めることができれば、もし 11 その活動を制御することで応用をすることができれば、効率の高い触媒などに利用できる、 と彼女は考えているようだった。Rosenbaum 研究室の後には、同研究所の別の研究室であ る Blank 研究室についての説明を受けた。Blank 研究室は、微生物を我々のエネルギー消 費のサイクルにより組み込んでいくことで、この社会に利益をもたらすことを目指してい る。現段階の技術では、まだまだ多くの問題を抱えているが、より分析を続けていくこと で、将来的には非常に有用なものになっていくはずであると彼は考えているようだ。それ ぞれの説明を受けた後には、実際に研究を行っている実験室などを覗かせてもらった。 3) Institute of Biochemical Engineering (執筆担当:富澤真優) この研究室では、“Tailor-Made Fuels from Biomass”という、生物を原料とした燃料の生 産についての研究を行っている。講義の中ではマイクロプレートや振盪したフラスコでの 微生物培養とそのモニタリングについて、また Mixed Culture Process という微生物によ る代謝を利用した効率的な化合物生産についてなどの説明を受けた。マイクロプレートに は 1 枚のプレート上に多数ウェルが並んでおり、それぞれのウェルで少しずつ pH などの条 件を変えて培養の様子の違いを観察することがで きる。研究室見学では実際にそのマイクロプレート や、それに正確に速くピペッティングをするための 機械、高速で振盪中のフラスコなどを見せていただ いた。フラスコの振盪はオンラインで制御できると いうことモニターし、制御できるということだった。 また、巨大なバイオリアクターでは、10bar の高圧 をかけて効率良く培養を行うことができるという。 研究室の説明を受けている様子 4) Institute of Biotechnology(執筆担当:小島摩利子) ここでは、生体触媒を主な題材として、実験室内で分子を進化させることを目指してい る。天然の酵素の遺伝子に変異を加えていくつかのアミノ酸を置換することで、酵素に新 しい機能を持たせたり、本来よりも能力を発揮させたりできるのだ。そして、実験やタン パク質のデザインに関する研究に役立てることを目指している。 例えば、巨大菌(Bacillus megaterium)が持つ酵素「P450 BM-3」を進化させた。 P450 BM-3 は酸化作用を持つ酵素である。この酸化作用を有機合成などに役立つように改 変しようと考えた。 酸化作用を持つ生体分子には NADPH もあるが、これは高価で実験用としては使いにく いため、これに代わる安価な触媒を作り出そう、という試みである。結果的に P450 BM-3 のアミノ酸を 5 つ置換することで、元の分子よりも優れた活性を示す変異体を作ることが できた。 クロマトグラフィーなどの実験方法も紹介してくださった。変異を加えた遺伝子をもと 12 に、分子モデリングを行なって構造を予想することもしているそうだ。 さらに、FhuA というタンパク質を薬剤に役立てる研究も行なっている。FhuA は細胞膜 のチャネルを構成し、細胞膜内外間の物質の輸送を制御する働きを持つ。FhuA を高分子で 作られた小胞の膜に取り付けて、小胞内に薬を入れると、それを標的器官に運んだ後に FhuA を通じて薬を放出させるシステムを作ること ができるかもしれない。また、高分子膜に FhuA を取 り込み、アミノ酸の光学異性体を分ける「キラルフィ ルター」を作ることも目指している。 研究内容についてご説明いただいた Arit 氏は、東 工大を訪ねたことがあり、日本語も少し話せる方だっ た。最後に「もし、これから先アーヘン工科大に来る チャンスがあったときに、遠慮なく連絡して」と、メ ンバー一人ひとりに名刺をくださった。 説明を受けている様子 5) Institute of Organometallic Chemistry(執筆担当:植田大樹) 9 月 11 日の午前中は Department of Chemistry(化学科)の見学を行った。主な内容を 3 つに分けて紹介する。 ・奥田先生からの紹介 はじめに、現地で有機金属化学の研究をされている奥田純教授からアーヘン工科大学全 体と化学科の歴史について説明をしていただいた。奥田先生が所属する Institute of Inorganic Chemistry は化学科の4つの研究部門のうちの一つであり、その化学科はさらに Faculty of Mathematics, Computer Science and Natural Sciences (Faculty 1) に属して いる。化学科はアーヘン工科大学が設立された 1870 年から存在していて、第二次世界大戦 で破壊されてしまうまでは現在の SuperC があった場所に化学科の建物があったことなど を聞いた。 現在の SuperC かつての化学科の建物 (左の画像はアーヘン工科大学 化学科の歴史について https://www.chemie.rwth-aachen. de/cms/Chemie/Die_Fachgruppe/Profil/~jym/Historie/lidx/1/より引用) 13 ・建物見学 次に、つい最近完成したという学部生用の講義・実験棟を見学した。学部では週に4回 実験があるという話を聞いて、私の学科では週に2回なのでその多さに驚いた。また新し いだけあって実験室は写真のようにとても綺麗だった。さらに実験室の窓から見えるアー ヘンの町並みも非常に美しく、これも日本では中々感じられないものだと思った。 綺麗な実験室 実験室からの眺め ・大森先生の研究紹介 その後、引率の大森先生から奥田研究室の学生に向けに行った研究紹介を聞いた。主題 は生理活性天然物の全合成である。特に印象的だったのは冒頭の全合成を登山に例えたお 話で、目的とする化合物は一つだがそれに至る経路は複数あり、どの経路を選ぶかで途中 で新しい反応が見つかったりするのが面白いということだった。内容としては、ある種の 天然物に共通するキラルな骨格構造をどのように合成するかという問題から試行錯誤を繰 り返して、冒頭の例え話のように途中で興味深い構造の化合物を合成したりしながら最終 的には目的の構造を作ることに成功していて、全合成という分野の一つの成功パターンを 学ぶことができた。 6) Laboratory for Machine Tools and Production Engineering (WZL)(執筆担当:千葉凜 平) アーヘン工科大学の研究室見学最終日の午後は、生産加工に関する機械工学を研究して いる WZL( Werkzeugmaschinenlabor:生産加工研究室)という研究室を見学してきた。この 研究室は生産工学、製造技術、工作機械、計量学・品質管理の 4 つの分野に分かれていて、 一人の教授がそれぞれの分野を率いている。今回は切削技術を専門とする Benjamin Döbbeler 博士に研究室を紹介していただき、4000m2 もある巨大な実験室を案内していた だいた。ここの研究室もアーヘン工科大学の他の研究室と同様に企業と共同で研究を進め ているため、研究の規模が非常に大きかった。 14 玄関に展示されている旅客機のエンジン 巨大な実験室に設置された旋盤 実験室には、旅客機のエンジンの加工のための特殊な工作機械、微細加工を可能とする 熱線加工機、巨大な CNC 自動旋盤など、日本の機械系の研究室では稀に見る最先端の大型 工作機械が多数あり、経済的な側面からも産業との結びつきの強さを感じた。実際に企業 と密接な関係を持って研究活動することで、最先端の研究結果を速やかに産業へ応用でき るのであろう。またドイツが環境先進国と呼ばれるだけのことはあって、エネルギーと資 源を効率よく使う環境に優しい加工法の研究にも力を入れていた。 熱線加工機 左の加工機を用いて作られた微細なギア (右下のカプセル内に入っている) 4-1-3 文化プログラム・学生交流(執筆担当:石井晴花) 1) Survival German アーヘン工科大学での初日に、Hänel 先生にドイツ語を習った。短い時間だったため、 喋れるようになることはできなかったが、簡単な挨拶は覚えることができた。自分の名前 の名乗り方、どこの出身か、今日の天気についての言い方などを会話形式で楽しく教えて もらった。一年生の時に第二外国語でドイツ語を習ったメンバーもいたが、基本的にはほ ぼみんなドイツ語に苦戦していた。しかし、授業の最後の方では紙を見なくても習ったこ とは聞かれても返せるようになっていて、ドイツ語をもう少し知りたいと思った。Hänel 先生とはその後の昼食も一緒に食べて別れた。 15 授業の風景 最後に記念撮影 2) Buddy アーヘン工科大学の生徒で、日本に留学経験 のある、またはこれから留学しようとしている 生徒が 1 人につき 1 人 Buddy として付いてく れた。出発前からメールで連絡を取ったりした が、英文でメールを書くのは難しかった。 Buddy には City Walk をしてもらったり、 Dinner や飲み(Drink)に連れて行ってもらっ たりした。英語でコミュニケーションをとり、 Buddy と行った Bar での写真 アーヘン工科大学やアーヘン、ドイツのことを教えてもらい、また日本や東工大のことに ついて話した。テーブルサッカーをした時は、私達も Buddy も楽しく本気で遊んだ。中に は日本語を少し話せる Buddy もいた。彼らは東工大の雰囲気や日本の文化(アニメなど) に興味があるようで、話が盛り上がった。 3) City Walk 9/10 に Buddy にアーヘン市内を案内してもらった。アー ヘ ン 大 聖 堂 を は じ め 、 City Hall 、 Puppenbrunnen 、 Elisenbrunnen、Printen のお土産屋などたくさん歩いて回 った。途中でアイスを食べたり、RWTH のパーカーや T シ ャツを買ったりなどもした。Buddy と話しながら歩くことは とても楽しかったし、アーヘンの街並みを感じられてとても 良かった。ヨーロッパは日本と違い地震がないし、建物が木 造ではないため、古い建物を残すことができるそうである。 歴史ある街を現地の学生と一緒に散策できて、アーヘンにつ いて理解が深まった。 アーヘン大聖堂 16 4-1-4 その他(執筆担当:石井晴花) 1) Campus Tour アーヘン工科大学のキャンパスをバスで移動しながら回った。化学系の研究室が集まる キャンパスや、運動場、病院などを説明してもらいながら行った。同じ都市にあるのにそ れぞれの場所が離れているため、バスで回るところが日本の大学と違って面白いところで あった。病院は、最初見た時はエネルギータンクかと間違えてしまうぐらい変わった形を していた。内装だけでなく外装でも配管を隠さず剥き出しにしているのがとても珍しいな、 と感じた。しかし患者さんはこの病院の見た目をどう思っているのかが気になった。内装 は緑で統一されていて、おもしろいとは思ったが、少し不気味でもあった。運動場周辺は 開放的で、ここで運動するのはとても気持ちよさそうだな、と感じ、スポーツをしたくな った。その近くには生徒たちの部室や小さなパーティーができるような場所もあり、気分 転換にはちょうどいい場所となっていた。 病院 運動場 また、その後はドイツ、オランダ、ベルギーの国境が引いてある 3 Country Point へ行っ た。オランダ、ベルギーとは近いため、アーヘンからはバスで 15 分ほどで行くことができ た。まるで市境のように国境が引いてあり、海に囲まれている日本では絶対に見られない ような場所になっていて、EU は面白いな、と感じた。パスポートも必要なく一歩歩いただ けでオランダ、ベルギーに行くことができた。また、オランダでは一番高いポイントにな っているようであるが、日本に住んでいる私たちからすると対して高い場所ではなかった ため、オランダ、そしてその近くにあるアーヘンも海抜があまり高くない場所なのだとい うことを実感した。 このように 3 か国の国境が引かれている 17 4-2 美術史博物館・自然史博物館・ミュージアムクオーター(執筆担当:石丸拓実) ウィーンに移動したのは土曜日。日曜は何もないので市内をめぐることが出来た。行っ た場所は人それぞれだが、私はその中からミュージアムクオーター(現代美術館)、自然史 博物館及びウィーン大学に行くことが出来た。その際のエピソードなどとともに紹介する。 4-2-1 自然史博物館 自然史と美術史、2 つの博物館は元は王家の宝物を保管するという意味合いがあった。自 史博物館、美術史博物館は 2 つの建物が道路、門を挟んで対となっている。芝生の広いス ペースがあり、紐を使って大量のシャボン玉をつくるといったパフォーマンスや、路上で のギターやアコーディオンの演奏などが行われており、芸術の街を肌で体感できる。 馬頭のパフォーマー 芝生の公園と博物館 1) 自然史博物館内――常設展 まず驚かされるのが装飾の豪華さ。壁面には彫刻、天井には絵画があしらってある。こ れは日本と西洋の博物館、さらには学問に対する姿勢をうかがい知ることができる。日本 の博物館の壁は均質な白、ないし展示物と関係するペイントを施されていることが多い。 (今度国内の科学館に行く際には注目して見て欲しい。)これは多種の展示に対応するため、 そして展示物に集中してもらうため、あるいは余計なコストを下げるためであろう。では なぜ、ウィーン自然史博物館には一見展示とは関係ない絵画や彫刻があるのか?これはか つて学問を修める事ができたのは限られた人間にしかできないことであったことをしめし ているのではなかろうか。広場に建つ、マリア・テレジアの堂々たるブロンズ像。彼女が 敬愛されているのは女性皇帝であるということにとどまらない。世界ではじめて「義務教 育」を創設し、学問を庶民の手のものにし、知識レベルの向上に大きな役割を果たしたか らこその尊敬なのだ。博物館、美術館がそのよう場所に現在も設置されているのは「学問 の庶民化」の再解釈であり、マリア・テレジアのオマージュなのである。 18 絵画が見えると思う マリア・テレジア像 展示の点でもユニークである。 日本では博物館は物語性を要求されることが多い。すなわち、 「~の歴史」といった具合だ。 対してウィーン自然史博物館は元が王家の「宝物庫」的役割を担っていたため、経時的と いうよりは体系的で、特に宝石、鉱石が非常に充実している。 また、博物館は非常に広く、人の流れを意識せずに展示物を眺めることができるのはこの 建物ならではというか日本ではあまりないなあと感じる。 細かな部分の作りこみも素晴らしいものがある。博物館や科学館への展示への典型的な批 判として「リアルではない」というものがある。展示物が剥製などの展示物は生きていた 時の環境まで再現されており、模型だと思っていた恐竜が尻尾を振り、叫ぶ(!)など、 仕掛けがたくさんあり、見ていて飽きが来ない。 すべて宝石の棚 室内にもかかわらずリアル 2) 特別展について 展示手法、剥製の作成法に関する展示であった。がん患者の頭蓋骨や、虫によって筋肉を 分解し骨だけにするなどの展示が行われていた。 19 正しい狐はどれ? 4-2-2 ミュージアムクオーター 1) ミュージアムクオーター前広場 ウィーンでは保守的な気質のため土地開発のたびに非難が建築家や担当者に対して出たと いう。しかし、ミュージアムクオーターの前の広場は一切不満の声はきかれなかった。ま さに市民になくてはならない憩いの場になっているといえる。 私たちが見学に行った日も、お椀型のベンチに多くの人が寝転がっており、ブラスバンド の演奏などが行われており活気があった。 2) Mumok(近代美術館) 入場は無料である。現代美術なので解説がないとよくわからない作品も多いと感じた。館 内撮影禁止である。 4-2-3 美術史博物館 自分は美術史博物館にはいっていないので美術史博物館に訪問した千葉 凛平さんの文章 を引用する。 美術史美術館は、古代から 19 世紀に至るヨーロッパ各地の美術品を収蔵していて、ルー ブル美術館と並びヨーロッパ 3 大美術館の一つに数えられる。各自がウィーン市内を丸一 日自由に観光して回れる日が 1 日だけあったのだが、 「地球の歩き方」に「ウィーンで一ヶ 所だけ観光するなら迷わずココ」と書いてあったので、数ある博物館の中からここを選び、 美術品のコレクションを見に行ってきた。美術史博物館は自然史博物館の向かいに対にな るように建てられていて、ウィーンを象徴する荘厳な建築物であった。 外観 古代ギリシャの彫刻 20 天井の装飾 中に入ると正面に大理石でできた大きな階段と柱があり、登った先には古代ギリシャ・ロ ーマの彫刻が飾られている。天井や柱など、建物全体が一つの大きな美術品のようで見事 に美しかった。2 階には絵画のコレクションが飾られていて、有名なブリューゲルの「バベ ルの塔」などがある。ブリューゲルの作品は、当時の日常に触れた絵が多くて見ていて非 常に面白かった。 展覧室 「バベルの塔」 館内のカフェ この美術館にはヨーロッパ中から様々な画家の作品が集められていて見飽きず、途中でゆ っくりと座りながら見るための椅子がたくさん置いてあったり、美術館の真ん中にはきれ いなカフェがあったりするので、長い時間楽しむことができた。 4-2-4 ウィーン大学 シュレディンガーゆかりの学校であるが、この日はお休みであった。キャンパスは TU ウ ィーンや RWTHAACHEN に比べてまとまったキャンパスを持っているように思われた。 21 4-3 ウィーン工科大学(執筆担当:富澤真優) 4-3-1 大学概要 今回訪れたウィーン工科大学(Vienna University of Technology, TU Wien)は、建築学・ 情報科学を中心とした各工学分野について研究を行っている、今年でちょうど創立 200 周 年を迎える大学である。今回の訪問のアレンジメントを行ってくださった JASEC(Japan Austria Science Exchange Center)のスタッフの方々や、講師の方々による案内を受けな がら、いくつかのキャンパス・研究室を見学した。 メインキャンパス TU the Sky TU the Sky からのウィーンの展望 我々が今回訪れた各キャンパスは地下鉄のカールスプラッツ駅付近に集中しており、と てもアクセスが良さそうだと感じた。外観は一部近代的な要素を取り入れながらも、歴史 的な外観の建造物が多いウィーン市内の風景とよく調和していたことがとても印象的であ った。TU the Sky はなかでも特に近代的な様子の建物であり、ウィーンの建物の中でも特 に高いというその上層階のベランダからはウィーン市内の様子を一望することができた。 4-3-2 ウィーンのスマートシティ構想 1) スマートシティ構想概要 Dr. Weinwurm から、ウィーンのスマートシティ構想についての説明を受けた。 Smart City Wien は、Quality of life, Resource preservation, Innovation の 3 つを柱と して、資源や環境に配慮しながら、よりよい生活の質を求めて革新を行っていくという 考え方である。具体的には、エネルギーを効率よく使うための技術を生み出し、その技 術を利用して建物の改修を行うことや、公共交通機関の整備によって自家用車からの排 気ガスの総排出を抑える取り組みなどがその一環である。日本国内でも「環境のために」 などの文言を耳にする機会は多いが、こうして他国が環境に配慮してどんな方策をとっ ているのかを知ることができ大変興味深い内容であった。 2) Presentation Energy & Environment, Guided Tour Energy Plus Building TU Wien’s monitoring team の Alexander David 氏はエネルギー・環境に配慮した 22 建造物について、講義と TU the Sky のガイドツアーを通して話してくださった。TY the Sky はもともと研究棟として使われていた建物を、事務所などと一緒になった形で建て 替えたもので、エネルギー効率そして環境への貢献を配慮した技術・工夫を数多く取り 入れている。そのような Plus-Energy Building に用いられる技術として、建物の外側 の光電池パネルからエネルギーを得る他、エレベーターが動くときに熱として無駄にな っていたエネルギーを利用するシステムなどがあることを知ることが出来た。空調の管 理についても外気の通気性の確保や熱の効率的な利用の工夫がなされていることを、実 際に建物の設備を見学することで学ぶことができた。 光電池パネル 空調を管理する部屋 4-3-3 研究室訪問 1) Mathematics & Geometry 糸でできたモデル プログラミングを体験した部屋 Prof. Udo Hertrich-Jeromin の研究室では、さまざまな数式に基づいて形成される複 雑な曲面のモデルを見学したり、実際にモデルを作成するプログラミングを体験した。 理論の説明の際には複雑な数式も使われていたが、教授は「犬の散歩」のたとえを用い たりなどしてわかりやすい説明をしてくださった。モデルには立体として形成されたも のと、糸を張り巡らせてあり簡単に形状を変えられるものがあった。それらに実際に触 れることで、曲面が直線の集合でできていることを体感でき大変興味深かった。説明を 23 受けた後、我々は 4 組に分かれて自らコンピューターに向かい、それぞれ好きな数式を 打ち込んだ曲面のプログラムを作成した。ここで作った曲面は、後日の Modelbuilding workshop にて一部実際にモデルとして形成した。 2) SimLab Lab の説明を聞く Virtual Reality の体験 SimLab (Interdisciplinary Centre for Spatial Simulation and Modeling)は、建築・ 都市の有効な空間利用や効率のよいエネルギーシステムをコンピューターを用いてシ ミュレーションする研究室である。今回の Lab Tour では、大きなスクリーンで様々な シチュエーションの Virtual Reality (VR)の映像を見せていただいた。映像は 3D 眼鏡 をかけることで立体的に見える。3D 眼鏡のなかにはひとつだけ球体がいくつか取り付 けられた特殊なものがあり、カメラがその眼鏡の動きを感知して、掛けている人の視点 に合わせて映像が変化するようになっていた。VR では建物の中を歩くだけでなく外観 を上から見下ろしたり、川の水の流れを追って水力発電の歯車の中に入っていったりな ど普段我々が絶対にできないことを実際にしているような感覚を楽しむことができた。 3) Modelbuilding workshop Florian Rist 氏の案内を受けながら、Mathematics & Geometry Lab. でプログラミ ングした曲面のモデルを作る体験をさせていただいた。まずはスタジオ内の見学をさせ ていただいた。白を基調とした広々とした空間の中に、ものを作るための道具や写真を 撮るためのスペースが用意されていた。その後、時間の関係で 1 種類の曲面について、 発泡スチロールからの曲面切り出しを体験した。熱線で発泡スチロールを溶かしながら 切っていく機械を使用したが、切り出しを行う前の初期プログラムの設定でどのように アームを動かして切るか決める必要があったり、アームを動かすスピードが速すぎると 発泡スチロールが動いてしまったりと、決してスムーズには作業は進まなかった。しか し、そのような試行錯誤もモデル作りの中の面白さのひとつなのだろうと感じた。ほか に作成した曲面については、3D プリントで作られた立体モデルを後ほどいただくこと 24 ができた。 スタジオの見学 発泡スチロールを切る機械 4) Chem. Process Eng./Energy Technology and Biotechnology Prof. Franz Winter には Chemical Process Engineering/ Energy Technology、Dr. Oliver Spadiut には Biotechnology での研究についてお話しいただき、それぞれの研究 室を見学させていただいた。 講義の様子 研究室の見学 Chem. Process Eng./ Energy Technology では、焼却によって出る灰に残った重金属 や肥料を分離して有効活用するための研究を行っている。物質の分離の際には化学薬品 を使うほか、熱処理を行うなどする。また、生産した物質や排出物を分析するシステム の研究についてもお話を伺った。 Biotechnology では、生産したいタンパク質の遺伝子をクローニングし、作らせたタ ンパク質を生成して利用する研究についてお話を伺った。培養する細胞の性質や条件に よって研究室には多くの種類のバイオリアクターが用意されていて、異なる 3 種類の基 質の入った容器が接続されたもの、高濃度の塩を好む細胞を培養するために部品に金属 を使わないものなどを実際に見学することができた。細胞の培養時に与える基質のこと をスニッカーズに例えてお話されるなど、ユーモアに富んだ方であった。 25 4-4-4 その他 1) City Tour Vienna & Visit to Shibukawa-Eder Architects 日本人講師の方の案内で、ほかの日本人留学生と共にウィーンの著名な建物を巡りな がら街を歩いた。シュテファン大寺院をはじめとした各建造物について、建築した人 物・建築様式・建てられた時代・人々の反響など様々な視点から案内していただき、前 知識がなくてもそれぞれの建造物の成り立ちについて思いを馳せながら歩くことがで きた。ウィーンの人々は新しいもの嫌いで、各時代の主な様式に合わない建物ができる と大抵評判が悪かった、というお話は大変興味深かった。 Shibukawa-Eder Architects シュテファン大寺院 また、City Tour の終わりに東工大の卒業生で TU Wien で講師をなさっている建築家 の渋川さんの事務所、Shibukawa-Eder Architects を訪問した。外観は古い建物のなか に作られていた事務所だったが、明るく居心地のよさそうな内装になっていた。そこで 建築の模型を見させていただいたり、ウィーンでの建築の仕事についての具体的な話を 伺ったりした。 26 2) Excursion Wien Energie Heating Plant Simmering 燃料のウッドチップ タービンの見学 TU Wien に所属しているものではないが、Wien Energie のバイオマス燃料を用いた 発電所を見学させていただいた。火力発電というと石油や石炭を燃料として思い浮かべ やすいが、こちらで用いていたのは木材のチップであった。発電所の見学では燃料が運 び込まれる場所から、燃料を燃やす炉で炎の上がる様子を見たり、巨大なタービンを見 学することができた。今回訪問した研究室の多くでも環境に対する取り組みがなされて いたことが印象的であったが、さらにこの発電所の見学によってウィーン全体での環境 に対する意識の強さを感じることができた。 3) その他 City Tour ほか一部のプログラムでは日本人留学生や日本人講師の方などと交流する 機会をもつことができた。その中には東工大と関わりをもつ方もいて、ウィーンでの滞 在・留学について様々な境遇の話を聞くことができた。また、最終日に訪問した JASEC の事務所は日本語の本がたくさん入った本棚や日本の大学の留学関連のポスターを見 ることができ、ここでも日本との接点を感じることができた。 東工大の留学ポスター 27 4-4 国際原子力機関(IAEA) 4-4-1 (執筆担当:高田親矢) Vienna International Centre と国際原子力機関の概要 Vienna International Centre(VIC)とは、いくつかの国際連合の機関を有する施設である。 エントランスは厳重に警備されており、中に入るには空港と同じようにいくつかの検査を 受けてパスしなければいけない。約 5000 人の職員が働いており、その国籍も非常に多様であ る。また、エントランスの先には噴水を取り囲むように世界中の国旗が掲げられており、そ の様子はまさにここは国際機関であることを表している。この VIC の中にオフィスを置い ている機関の 1 つが IAEA である。 VIC の全容の模型 Vienna International Centre IAEA とは、International Atomic Energy Agency という、国際連合傘下の機関のことで ある。本部はウィーンの Vienna International Centre の中にあり、原子力の平和的利用の促 進、及び軍事的利用の阻止を目的としている。 2015 年 9 月現在の事務局長は日本人の天野之弥である。IAEA の主な活動は大きく 3 つに 分けられる。核技術とその応用についての研究(Nuclear Technology & Applications)、核の 安全保障(Nuclear Safety & Security)、施設の検査と認証(Safeguards & Verification)、であ る。今回はその中でも主に Safeguard のチームの方々に話を伺い、実際に行っている検査方 法や、核分裂などの基礎的な理論について講習を受けた。 The IAEA flag 会議の様子 国際機関であり、公平性等も加味しなければならないため、会議は数種の言語に翻訳され ながら行われていた。また、我々が訪問した時、丁度メインの広場では各国の現在の原子力 28 に関する取り組みのプロモーションが行われていた。その様子もまた、IAEA は世界中で活 動をしているということを再認識させるものだった。 4-4-2 安全措置について まずは、IAEA とはどのような機関であるのか、目的や使命は何であるのか、今までにあっ た事例などの説明を受けた。その後に、核についての基礎的な学習をし、実際に小型の放射 線測定器を用いて、放射性物質の同定やその放射能の測定を行った。 測定器で実験を行う様子 数種の測定方法の比較を行う様子 核や原子についての基礎的な学習と実験ののちには、IAEA が検査や認定の際に行ってい る方法について、実際の装置とともに説明を受けた。古い検査方法と新しい検査方法に関し て共に説明を受けた。時代とともに検査方法は何度も改善されてきたということを理解し た。また、昔用いられていたというシールはおみやげとしていくつかもらうことができた。 原子力発電所などを検査する機会があったら、ぜひとも使わせていただきたいと思う、もし そのような機会があれば、だが。 発電所等に置かれる機器の説明を受ける様 昔用いていたというシールの使用例 子 これは著者の個人的な感想であるが、私自身はそもそも初め、こういった安全保障などを 29 司る機関は、どちらかというと会議や企画をメインに取り組んでばかりで、実務に関しては あまりスペシャリストなどがいないのではないかという印象を持っていた。だがしかし、こ のように何を行っているのか説明をすることができたり、実際に検査対象の現地に赴いて 仕事をこなしたりなどを行っていることを知り、私の最初のイメージが間違っていたこと を理解した。 4-4-3 日本人等職員との懇談 最後に我々は、IAEA で職員として勤務している、もしくは IAEA と密な接点をもって日 本国内で働いている職員の方々と懇談を行った。実際に行っている職務に関することだけ でなく、どうして海外で、国際連合の機関で働こうと考えたのか、どうして海外に学位留学 をしようと思ったのかなどについて、聞くことができた。 現地の日本人の職員の方々との懇談 国際連合の機関であるが故に基本的には中立的な立場を取らなければいけないが、必要性 に駆られた時には強行的な決断することも求められる。そのような微妙なバランスを保た なければいけないのが IAEA として、IAEA の仕事を遂行する上で難しいことなのだという 印象を受けた。 また、主に我々に同行してくださった有賀さんは、東京工業大学の学部・修士課程を卒業 し就職した後に、アメリカへ学位留学をして最終的にそのまま経済学の博士課程まで修了 したという。まだ学部生である私にとっては、想像することさえなかなかできない経歴であ る。彼自身のその時々の決断やその理由についての話、IAEA で働くようになってからの話 は、我々にとって非常に刺激的なものであった。 他にも、福島第一原発事故について、その時の IAEA の視点、その時の日本国側の視点につ いての話も聞くことができた。これは福島第一原発事故についてだけでなく一般的な事象 に対して言えることであるが、一箇所や一国だけにいて、その特定の地域で得られる情報の みを受け取っていては気付けないことが世の中にはあるのだということを再認識させられ た。 30 このように、国際的な機関に努めている方々の経歴や経験について伺ったり、実際にどの ように仕事をしているのかを知ったりすることが出来る機会というのはなかなかないと思 う。そういった意味で、今回の IAEA への訪問は、日本を離れて海外で仕事をするということ、 世界を相手にして何か物事に取り組むということとはどういうことなのか、などに関する 知識を得ることが出来たため、非常に充実して良かった。私自身まだまだこれから自分がど のような道を歩んでいくのかわからないが、将来選ぶかもしれない道の選択肢として、将来 選ぶかもしれない道を決定する時の判断材料として、今回の派遣で IAEA に訪問して得られ た知識と経験を活かしていきたいと考えている。 31 5 その他(執筆担当:小島摩利子) 5-1 アーヘン 5-1-1 市内交通 1) DB(ドイツ鉄道) デュッセルドルフ空港~Aachen Hauptbahnhof 間の移動で利用した。車内にはボックス 席があるが、2 階席があるのでたくさんの人が乗車できる。向かい合ったイスは妙に間隔が 狭く、向かいに座る人と膝がぶつかるのが常である。席には雑誌が用意されており、誰で も自由に読めるようになっていた。人が多いためか、スリに遭う可能性があるので、注意 が必要。デュッセルドルフでは日本人を標的にしたスリが多いらしい。スリに遭うとモノ を取られるショックとは別に、精神的なダメージを被るので気を引き締めなくてはいけな い(体験談) 。 2) 市内バス ホテルから大学までの移動、大学の研究棟間の移動に利用した。アーヘン工科大は、日 本のように研究棟や講義棟がキャンパスにまとまっているのではなく、街中に大学関連の 建物が散在している。そのため、現地の学生も建物間の移動にはほぼ毎回バスを使ってい る。 5-1-2 食事 食事は肉料理が多いが、ピザやパスタなどのイタリアンも よく見かけた。ほとんどの食事は食べきれないほどのボリュ ームがあるが、どれもおいしかった。 ドイツ地方の肉料理と言えば、シュニッツェルが有名であ る。シュニッツェルはソースにバリエーションがあり、きの このクリームソースやパプリカのソースなどがあった。右の 写真はタウンホール近くのレストランで食べた、”Jäger Art” というシュニッツェルである。これはきのこが入ったソース であった。フライドポテトがたくさん出てくるのもドイツ料 理の特徴である。ポテトが皿の半分を占めている。日本人に とっては完食するのが困難だが、アーヘンではこの量を小学 ”Jäger Art” シュニッツェル 生くらいの男の子が平らげていた。アーヘン工科大の学生曰 く、日本の料理はサイズが小さいから1食分ではお腹が満たされないそうだ。ちなみに、 ドイツには、「食べ物を残すと次の日は天気が悪くなる(から残さず食べよう)」という教 訓があるらしい。 ドイツはビールが有名で、日本よりもビールの種類が多い。私が飲んだ weißbier は苦み が抑えられていて、炭酸もきつくなく、おいしかった。 32 レストランでは水が有料で、日本の習慣になじんでいると少し面食う。しかも、水を注 文すると炭酸水が出される。炭酸抜きの水が欲しければ、注文の際に「ohne Gas」と言わ なくてはいけない。 5-1-3 街の様子 アーヘンは、教会を中心に放射状に道路が伸びる、ヨーロッパの都市によく見られる構 造をもつ。中心にはアーヘン大聖堂とタウンホールが向かい合うように建てられており、 その周りをレストランやカフェが囲む。アーヘン大聖堂はドイツで初めて世界遺産に登録 された建造物である。 教会、タウンホール周辺は昼夜問わず人が集まっていた。しかし、東京のようなせわし ない雰囲気はなく、穏やかな雰囲気がある。レストランは、日本と異なり建物の外にテー ブルを出して外で食べる形式が多く、客がおしゃべりしながら食事をする光景が広がって いる。研修 2 日目には、アーヘン大聖堂とタウンホールの間の広場で棒高跳びのイベント が行われていた。フライドポテトの屋台があり、ポテトを食べながら見物する大勢の客で 混み合っていた。4 日目の夕方にはアーヘン工科大の有名な教授の誕生パーティーがタウン ホールで行われ、市民楽団やテレビ局も集まりお祝いの雰囲気で賑わっていた。週末だっ たため、夜はバーでお酒を楽しむ人々であふれ、とても賑やかだった。また、ライトアッ プされたアーヘン大聖堂はとても幻想的であった。 レストランから見たタウンホール タウンホール前での棒高跳びイベント 5-1-4 その他 スーパーではペットボトルの水が大量に売られていて、種類も多い。 「sprudel(炭酸・強) 」、 「midium(炭酸・弱)」 、 「natur, still, ohne Gas(炭酸なし) 」の 3 種類があるので、買う ときには表示をよく見なくてはいけない。ドイツの水道水は飲んでも安全らしいが、現地 の人はペットボトルで購入することが多いようだ。 また、空になったペットボトルをホテルのフロントに返したり、学食の専用の機械に入 れたりすると、50 セント(およそ 70 円)もらえる、というシステムがあり、かなり新鮮だ 33 った。 アーヘンの人はとても親切な人ばかりだった。ホテルの店員やバディをはじめ、少し困 っているとそれを察知して笑顔で対応してくれる人が多かった。街中で地図を囲んで立ち 止まっていると「大丈夫?」と声をかけてくれる人もいた。レストランの店員は日本人の 私たちにとても親切に対応してくださり、落ち着いて食事を楽しめた。 5-2 ウィーン 5-2-1 市内交通 1) CAT(City Airport Train) ウィーン国際空港~Wien Mitte/Landstraße 間を走る鉄道。駅で切符を買い、改札のよ うなところでスタンプを押し、車内でそれをチェックされる。30 分おきに出発し、空港か ら Wien Mitte/Landstraße まで停車しない。運転速度はウィーン市内の通常の電車よりも 速く、16 分でウィーンの中心部まで連れていってくれる。エコな交通機関で、エネルギー のうち 92%が水素エネルギー、8%が風力である。 CAT のみの乗車券は€12 で購入できるが、€14 で市内の地下鉄も利用できる乗車券を購 入した。 2) U-Bahn ウィーンの地下鉄。ウィーン市内の移動に利用した。U1、U2、U3、U4、U6 の 5 種類 がある。東京の地下鉄とは異なり、ボックス席ばかりである。この地域では、日本のよう な通勤ラッシュがないから、車内で立つ人のスペースが少なくて済むようだった。CAT と 同じく、切符を買ってスタンプを押す。抜き打ちで切符をチェックされることがあるらし い。改札は左右にポールが立っているだけのかなり簡素なもので、簡単に無銭乗車できて しまいそうだが、それが発覚したときに課せられる罰金が非常に高いため、無銭乗車する 人は少ない。ドアは自動ドアではなく、一番先に降りる人が手動で開けるのが印象的だっ た。 3) Trum 路面電車。ウィーン市内の移動に利用した。乗車券は、U-Bahn で購入したものを使える。 今回は、改札でスタンプを押した後、1 時間はスタンプ無しで U-Bahn も Trum も乗り放 題、そのスタンプを 4 回まで押せる乗車券を購入した(€8.80)。これ以外にも、1 回のスタ ンプで 3 時間乗り放題、1 日中乗り放題のものもある。 車体が大きく揺れるので乗り心地はあまりよくなかった。一応吊り革があるが、位置が 固定されていないため頼りにならない。でもウィーンの景色を見ながらの移動は至福のひ とときだった。 34 CAT Trum 5-2-2 食事 ウィーンと言えば、ウィンナーシュニッツェルである。 アーヘンで食べたシュニッツェルとは異なり、ソースが ない。しかし薄い衣が香ばしく、ソースがなくても十分 おいしい。ウィンナーシュニッツェルは現地の人の生活 に深く根付いているらしく、バイキング形式の食事のと きも必ずミニサイズになって用意されていた。ウィーン でもお肉の付け合わせはジャガイモで、白米の代わりに ウィンナーシュニッツェル ジャガイモを食べている気分になる。 ザッハトルテはウィーン発祥のチョコレートケーキで、現在 は Café Sacher の名物スイーツとなっている。非常に甘いが、 添えてある生クリームが甘さ控えめで、エスプレッソを飲みな がら食べるとおいしい。また、写真にあるように、コーヒーを 注文すると、無料で炭酸無しの水が一緒に出てきた。オースト ザッハトルテ リアでは、コーヒーと一緒に水を出す習慣がある。 ホテルの近くには複数の日本料理店があった。海外の”Sushi”はどのようなものか、一度 見てみたい、という思いで 1 つの店に入ると、寿司を握っているのは日本人で、そこは予 想以上に本格的な寿司屋だった。ネタの種類は少ないものの、北海でとれたらしいサーモ ンは脂がのっていて非常においしかった。この寿司屋での食事がメンバーの中で小さな流 行となった。 5-2-3 街の様子 美術館や劇場が多かった。自然史博物館や美術史博物館、ミュージアムクオーター以外 に、ハプスブルク家の新王宮が美術品を公開する展示施設になっている。劇場では、毎日 のようにクラシック音楽のコンサートが開かれている。日本では、クラシックコンサート 35 のチケットを手に入れるには予約が必須だが、ウィーンでは、席が空いている限り当日券 を安く購入することができる。ウィーンに着いた日の夜には、オペラ「魔笛」を観ること ができた。 教会も多く、中にはハプスブルク家の人々を埋葬している教会もある。ウィーンはオー ストリアの都会であり、新宿や渋谷のようにたくさんの人と大きな建物が集まっている。 その中に教会が混在する様子は不思議だった。人通りの多いところに、シュテファン大聖 堂がそびえ、中へ入るとちょうどミサの最中だった。私たちのように観光目的で訪れる人 が多いため、教会であるのにあまり静かな雰囲気はなかった。歴史ある景観を守るため、 シュテファン大聖堂周辺は、高い建物の建設が禁止されているそうだ。 ウィーンは、歴史ある市街地としての自負が強いようで、都会でありながら古都のよう な雰囲気を持っていた。アパートも、外壁に豪華な装飾が施されたものが多く、建物に対 する情熱を感じた。しかし、たまに装飾を施さないようにデザインされた建物もあり、少 し浮いて見える。「ウィーン人は新しいものを好まない」らしく、そのような建物は住民に 批判されているらしい。 ウィーン中心部の通り grabenstraße シュテファン大聖堂 5-2-4 その他 海外では水道水を飲料水として使える国は珍しいが、オーストリアは水道水を飲んでも 安全なようだ。自然史博物館内のレストランのスタッフによると、ウィーンの水道水はア ルプス山脈由来の湧水であり、おいしいらしい。外出中にのどが渇いた時のために、空の ペットボトルに水道水を入れて持ち歩くとよい。ちなみに、水道水もペットボトルの水も 硬水ばかりである。 自然史博物館前やシュテファン大聖堂の周辺では、貴族用の衣装を来た人が、観光客を 相手にクラシックコンサートを勧めてくることが多い。コンサート会場の写真や演奏者の 写真を見せて予約を促してきたが、値段が高いため行く気になれなかった。何とかして誘 36 いを振り切らなくてはならず、最後は逃げるようにしてその場を離れた。街中で声をかけ られても対応しない勇気が必要であった。 オーストリアはモーツァルトの出身地ということもあり、スーパーやお土産屋では、モ ーツァルトの絵がプリントされたホイルでラッピングされているチョコレートがよく売ら れている。これはマジパンをチョコレートで包んだもので、観光客のお土産としてはちょ うどよかった。 ウィーンのお店は、レストランを除けばほとんどが夕方 18 時で閉まってしまうため、チ ョコレート以外のお土産を買うチャンスが少なかったのが残念である。スーパーが夜 20 時 まで営業しているのがありがたかった。 37 6 所感 私がこのプログラムに参加した主な理由は、広い視野と深い知見を得ること、またそれに より自国や自分のことを客観的に見つめ直し、自分の将来について考えることでした。盲信 しているわけではないですが、海外へ行って現地の学生や職員の方々と交流したり、他国の 文化や生活、人々と接したりすることは、上記の目的を達成する上でとてもよい方法である と私は考えています。 今回の派遣では、アーヘン工科大学、ウィーン工科大学の 2 つが主な訪問大学先でしたが、 やはり同じ大学といえども国や地域によって異なった特徴が現れているのは面白いことだ と思いました。例えば、ウィーン工科大学では建築学科(Architecture)の学生が最も多いとい うことなど、同じ理工系を専門とする我々の大学とも相違点が数多くみられたことがとて も印象的でした。 IAEA(Vienna International Centre)に訪問をすることができたのも、非常に刺激的でし た。世界中を相手にする実際の仕事についてなども然ることながら、職場自体もとても印象 的でした。様々な国の人々が同じ部屋に集まり会議や食事をしている風景は、なかなか感動 するものがあります。そこはまさに「インターナショナル」という言葉が相応しい場所であ り、国際的に活躍をするということのイメージをより具体的に我々に提供してくれた場所 でした。 また、前回にも同じプログラムに参加しイギリスに行ったのですが、その時と比べても、 自分の語学力が上達していたことを実感できたのも良かったです。相手が言っていること を聞けて、相手に対し言いたいことが言えるようになるというのはとても楽しく嬉しいこ とであると体感しました。これは今後の学習に対しても、いいモチベーションになると思っ ています。 今回このような形で我々が非常に貴重な経験をすることができたのは、計画を立て物事 を手配したり引率したりしてくださった職員の方々、現地で快く我々のことを歓迎してく ださった方々、その他多くの陰ながら支援してくださった方々のご協力のおかげです。本当 にありがとうございました。経験したことをただの記憶や思い出に留めることなく、これか らの人生にぜひとも活かしていきたいと思います。 (髙田親矢) 今回の超短期派遣プログラムは、来年からの派遣交換留学のための視察という位置付け で参加させていただいた。文化の違いや研究への考え方など、現地で実際に触れることで しか分からないことを学び、今後の留学に活かせる経験ができた。 まず、アーヘンの街を歩いていて、信号が切り替わるのが異常に速いということに驚い た。現地の人々は赤信号に変わっても渡ろうとするので、それを見越して早めに切り替え ているそうだが、市民の性格が表れていて印象的であった。現地のご飯はとても美味しか 38 ったが、6 日目に入ったウィーンの和食レストラン「小次郎」で食べた天ぷらうどんが正直 一番おいしくて感動した。ウィーンの和食と日本の和食の違いを調べに入店しただけに、 ある意味期待外れであったが、大学の近くに美味しい日本料理屋があることが分かって嬉 しかった。 本プログラムで特に良かったと思うのは、現地の学生と一緒に観光したりご飯を食べた りして交流できたことである。特にアーヘン工科大学の学生は、毎晩のようにご飯やパブ に連れて行ってくれてとてもお世話になった。全く異なる環境で育った同年代の人達とこ うして親睦を深め、お互いの文化の違いや類似点を発見したり、今後の進路や人生観につ いて語ったりするのはとても刺激的であった。これが留学の醍醐味なのではないかと思う。 現地の大学の研究室を見学して最も日本との違いを感じたのは、研究室の人員構成であ る。海外の大学の研究室は、教授に雇われた Ph.D.の学生が主体で、日本のように学部生や 院生を中心とする研究室とは違った。研究の担い手が大多数の Ph.D.の学生であるので、そ の分研究のレベルも高くなるのだろう。 また、以前から興味のあったウィーン工科大学の教授と個人的にコンタクトをとって面 会することができた。研究室を見学させていただき、研究室のホームページを見ただけで は分からない最新の研究内容や研究室の雰囲気などを知ることができて非常によかったと 思う。さらに教授と話を進めていく上で、来年からこの研究室で研究させていただけるこ とになった。何事も自分から積極的にアプローチすれば、チャンスは広がるのだと感じた。 今回の留学で実にたくさんの人と出会い、話をする機会があったが、皆自分の意見をし っかり持っていて、それを伝える能力に長けていた。自分の場合、英語が話せても、考えを うまくまとまらなかったり、話すネタに乏しかったりしたので、英語力を鍛える以前に国 語力を磨かなければならないと思う。 この留学プログラムを通し、海外の研究室や海外での大学生活について詳しく知ること ができたので、将来の長期留学に対する疑問や不安を払拭することができた。今後の長期 留学、そしてその先の将来へ向けて大きく前進できたと思う。 (千葉凜平) 私がこのプログラムへの参加を希望したきっかけとして、これが 2 週間ほどの短期間の プログラムであるという要素がとても大きく働いていました。海外留学に関心をもってい ながらも、長期間海外に滞在することにためらいがあったためです。外国に行くこと自体 は初めてではありませんでしたが、英語を話すことに苦手意識があったため、長期間の留 学を自分が乗り切れるのかどうかという不安を感じていました。これだけ短い期間ならば なんとかできるかもしれない、とある意味では軽い気持ちで参加を決めたプログラムでし たが、派遣を終えてから振り返るとただ「乗り切る」というだけではない経験をすること ができたように思います。 39 まず、「英語はなんとかなる」と思えたことが大きな成果でした。確かに大学の講義・研 究室訪問で先生のお話しするスピードについていけなかったり、聞き取れても知らない単 語があったりして、自分の専門に近い分野のお話でさえもいまいちピンとこない、という ようなことがありました。しかし、それでも内容を聞き取って理解することはほとんどの 場合できること、もし理解できなかったとしても自分の知る限りの言葉を使って質問を投 げかければ応えてもらえる、ということを実体験として知ることが出来ました。 そして、もうひとつの感想は、やはり 2 週間は短かったということです。短い派遣期間 の中で、大学を訪問する他に街中のお店で食事をしたり、美しく歴史ある寺院や博物館な どを見て回ったりとても充実した時間を過ごしました。事前知識がほとんどないまま訪れ た博物館で観た油絵を面白いと思えるようになったことや、ドイツやオーストリアの食事 を楽しみながらも段々日本の食事が恋しくなったことなども、今回初めて得られた経験で す。しかし、もっと長い期間にわたって日本の外の世界と向き合うことで、さらに多くの 気づきや学びが得られるのではないか、と思えるようになりました。そして長期留学もそ のひとつの手段として、そして自分には手の届かないものではなく可能な手段として考え ることが出来るようになりました。 今回の派遣で得られた気づきを大切にして、まずは日本にいながらでも、視野を広げら れるような学びの機会を持ち続けるよう努力したいです。 (富澤真優) 私が今回海外超短期派遣(ドイツ・オーストリア)に応募した理由は、ヨーロッパへの 留学の憧れからであった。将来土木エンジニアとして働くためには、海外でのプロジェク トにも参加する必要がある。そのため、大学生、大学院生のうちから海外を意識して勉強、 研究をしなければならないことが分かっている。もし縁があれば、大学院に行ったら交換 留学等で半年ほど留学をしたいと考えている。しかし、中学生の頃からあまり英語が得意 ではなく、特にスピーキングが苦手であった私は、応募して合格した後から急に不安にな った。周りの人と比べて圧倒的に英語が喋れなくて、置いていかれるのではないか、とい う不安だった。 しかし実際行ってみると、確かにあまり通じないし、他の人と比べて英語が話せないし 聞き取れていなかったが、諦めずに聞き返したり、他の単語に言い換えて話し続けてみた ら、何とかコミュニケーションを取ることができた。話した相手は私の英語を聞き取るこ とは難しく大変だったと思うが、優しく接してくれた。そのとき海外では積極性が大事だ、 と言われていたが、その通りだ、と思った。普段英語で一対一で話すことはめったにない ので、Buddy と一対一で話したときは英語をしぼりだすのに苦労したが、ゆっくり聞いて くれたために会話をすることができたし、短い時間であったが英語が少しは上達したよう な気がした。おかげで毎日楽しく過ごすことができた。 40 だが、もちろんある程度英語が話せないと留学、そして将来仕事をするには厳しい。そ のため、これから英語を勉強していかなければならないことを実感した。TOEIC や TOEFL でいい点数を取るなど、英語の勉強で目標とするものはあるため、これから勉強していき たい。 また、研究室訪問では、私が学んでいる土木分野はなかったが、普段学ぶことのできな い化学、生命科学分野、機械分野、エネルギー分野、建築分野について少し知ることがで きたことは自分にとっていい経験になったと思う。特に建築分野では、都市計画のことな どは少し授業でもやっていたし、インターンシップでも習ったため、興味深かった。ウィ ーンのスマートシティ構想の話は、交通計画の話もあり、同じようなことを授業のグルー プワークで考えたこともあったため、このように目標を立てて、計画を実行していくのか、 など参考になった。また、ウィーンの City Walk では、建築事務所の方や村田先生といっ た建築の専門家の方に分かりやすく教えてもらいながら歩いたため、普通に歩くのとは違 った目線で街を見ることができて、勉強になった。 フリーな時間も、メンバーと観光地を回ったり、ご飯を食べに行ったり飲みに行ったり して、仲良くすることができた。どんな研究をしているのか、留学についてどう思ってい るのか、など話を聞くことができて、参考になった。あまり他学科の生徒と関わることも ないため、いい機会であった。他にも他愛のないことを話したりなど、楽しい時間を過ご せた。 2 週間という短い時間であったが、多くの経験や感想を得ることができた。今回がドイ ツ・オーストリア派遣は初だったが、これからも続けていってほしいと思った。これをき っかけに私みたいに英語を頑張ろうと思ったり、留学への意識がわいたりする人が増える はずだからである。引率してくださった高橋さん、牧野さん、大森先生、村田先生、そし て一緒にいたメンバーには感謝しています。ありがとうございました。 (石井晴花) 今回の超短期派遣プログラムは、自分にとって新しいことの発見ばかりでした。 まず第一に、英語は実際に使われているんだ、という発見です。私は今まで日本から出 たことがなかったので、英語に触れるのは英語の授業や教科書か、または留学生が話して いるのを聞くくらいの機会しかありませんでした。しかし今回海外に行って、英語しか聞 かず話さないという環境に身を置くことで英語が本当に使われているということを実感し ました。当たり前のことなのですが、もし仮にこのプログラムに参加していなかったらこ の当たり前の実感も得られなかったと思います。さらに現地の人と会話したり、研究室見 学の際に気になった点を質問したりするうちに、確かに難しくはありますが意外と英語で コミュニケーションを取ることはできるのだなと思いました。 41 また現地で見学した内容に関しては、日本では聞いたこともないような分野の研究があ った反面、国内と同じような研究をしているところは置いてある装置も同じだったりと、 日本ひいては東工大という研究環境は確かに世界と競争できる環境なんだと感じました。 また、アーヘン滞在中にはアーヘン工科大学の学生の方たちと市内を巡り、その後夕食 を一緒に食べる機会がありました。そこで会話しているうちに滞在先の文化や歴史、現地 の言語を学ぶのも面白そうだと思いました。 これらの経験から結論として、将来研究者として海外で働くのも全然ありだな、と思い ました。2週間足らずの短い期間での派遣プログラムでしたが、私の将来の選択の幅は大 きく広がりました。とても有意義な経験ができたことを、東工大の関係者の方々と滞在先 でお世話になった方々に大変感謝しています。 (植田大樹) 私がこのプログラムに参加した目的は、主に 2 つある。1 つは、実践的な英語力を身につ けること。もう 1 つは、将来行こうと計画している、より長期の留学に向けて、はっきり したイメージを得ることである。今回のプログラムではたった 2 週間という短期間であっ たが、私はこの 2 つの目的をおおむね達成できたと考えている。 留学前は、自分の英語力が不安で学生交流や研究室見学で発言できるのか、向こうの生 徒たちと仲良くできるのか心配だったが、実際に日本語が通じない環境で過ごすうちにど んどん英語で会話ができるようになり、外国人にためらいなく話しかけることができるよ うになった。また、ドイツの学生たちと食事をしたり、一緒にバーでビールを飲みながら お互いの趣味や国の文化について語り合うことで、英語が流暢に話せなくても、理解を深 め合うことができた。 大学でのレクチャーは自分の専門外のことも多く、なかなか理解するのは難しかったが、 どの大学も非常にレベルの高い研究をしており、興味深い話ばかりであった。何より驚い たのは、大学のキャンパスが東工大とは比べ物にならないほど広く、キャンパス内をバス で移動していたことである。また、どの建物も綺麗で学部生のための実験設備も十分にそ ろえられており、勉強するには非常に良い環境が整えられていると感じた。 今回の留学では、実際に海外の大学で研究するときのイメージを明確に掴むことができ、 非常に参考になった。また、自分の英語力に自信がつき、将来の留学に対する意欲が高ま った。しかし、同時に伝えたいことが明確に伝わらなかったり、言いたいことが英語で言 えなかったりと、まだまだ努力が足りない点も発見できた。次回の留学に向けて、今回見 つかった課題を克服できるよう、より一層努力していきたいと思う。 (山崎星奈) 42 まず、研究室単位ではなく、研究所に教授が所属する、というスタイルは非常に目新し いものであった。企業との連携なども非常に活発で、基礎研究でも「エンジニアリング」 の色彩を帯びているのはヨーロッパらしさを感じた。化学の研究室に専属のエンジニア・ チームが配属されていて必要な実験器具を内製化しているのも印象的であった。とりあえ ずモデル化して考える、ということが簡単になった現在、 ”ラピッドプロトタイピング”が もの作りの世界においてこれほど重要視される理由もわかる気がした。 ヨーロッパは道も印象的であった。アーヘンでは路上にテラスがあり、多くの人でにぎ わっていた。ウィーンでも同じような光景を目にした。サマータイムによって日が出るの が遅いわりに夜まで明るい。ヨーロッパ人は余暇をいかに自由に使うかという点でも大き く異なる価値観を持っているのかもしれないと感じた。 今後留学の機会があればぜひしたいが、おそらく研究室所属後になってしまうと思う。 また、自分に合った研究でないのに留学というのも本末転倒なので自分に合った研究がで きるなら海外問わず行きたいと思った。 昨年アジアに行ったのでどうしても比較になってしまうが、アジアの学生の英語のレベ ルは圧倒的にドイツやウィーンよりも高いと感じた。アジアの学生に混じって会話すると なると、考えている時間が無いほどであった。その点、今回のプログラムのような講義の 多いスタイルは日本人の構えて答えるというスタイルにあっているのかな、とも感じてい る。 (石丸拓実) 2 年生になり大学生活にも慣れてきたところで、何か新しいことに挑戦したいと思ってこ のプログラムに参加した。私達とは違う文化を持ち、想像を超えた価値観を持っている人 に会ってみたいと思った。 アーヘン工科大の学生との交流が特に印象に残っている。英語でのコミュニケーション に自信はなかったが、交流した学生は日本に興味を持っている人が多く、私の拙い英語も 一生懸命聞いてくれた。 日本を出て、外から日本を見つめるのも貴重な経験だった。1年間日本でインターンを 経験したという博士課程の人が、「ドイツのバームクーヘンが日本にもあるんだよ。」「日本 では抹茶がどんなお菓子にもなり得るんだ!」と嬉々として話していた。海外の学生と話 すことで、日本にいては気にも留めないことが見えてきて新鮮だった。 ウィーン工科大では、来年神戸の理研にインターンに行くという博士課程の人に、日本 の地理や政治について質問された。「日本では原発を再稼働したよね。フクシマがあった のにどうして?」と言われたとき、自分の思いはあってもしっかりと答えられなかった。 その人が知りたかったのは、オーストリアにいてはわからない、日本人しか知らない実情 だったのだろう。このような話題に対して、自分なりの考えをまとめておけばよかったと 43 思った。これからは、自分の興味がある話題の他にも、日本の時事について意見を持つこ とを意識したい。 大学キャンパスの規模は日本の大学に比べてはるかに大きかったが、研究室の雰囲気は 東工大とさほど変わらなかった。研究内容も、海外だからといって日本と特色が大きく違 うこともないように感じた。将来海外で働くべきかどうかはまだ決められない。でも自分 が興味のある研究が海外で優れている場合に、日本でなく海外を選べる柔軟性と余裕を持 っていたい。 今回のプログラムを経て、様々な新しいモチベーションを得ることができた。自分なり の考えをしっかり伝え、本来の私を知ってもらうために英語の勉強に励みたい。海外で、 違う文化を持つ人と対等にサイエンスに関するディスカッションができるように、専門分 野を究めたい。日本について説明できるように、日頃から自国についての教養を身に付け ることを意識したい。そしてもう一度留学し、今回以上に実り豊かな時間を過ごしたいと 思う。 (小島摩利子) 44
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