平成 23 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠 Up Newsletter バックナンバーは、当事務所のホームページで参照できます。 http://www.up-firm.com 1 完全子会社同士の無対価合併 完全子会社同士の無対価合併 1. 会社法の規制 100%子会社同士が合併する場合は、兄弟合併とも言われます。実務上は新設合併はマイナーで、法律上の許認 可の関係で一方が存続する吸収合併が一般的です。また、同一企業グループ内での組織再編成の場合は、無対価 合併が一般的です。簡易合併に該当する場合は、存続子会社での株主総会決議は不要です(会 796③)。 合併消滅子会社の純資産の部は、以下の 2 通りの引継処理が認められています(企業結合適用指針 408(3)①)。 会計規 35 合併消滅子会社の純資産の部を、資本金・資本準備金・その他資本剰余金に任意に配分する方法 会計規 36 そのまま引き継ぐ方法 2.設例 以下の財務内容の 100%子会社 S1 と S2 が無対価で兄弟合併して、S1 が存続会社となる場合 (親会社 P が持つ子会社株式 S1 の会計・税務簿価は 200 百万円、S2 は 500 百万円) S1(合併存続会社) 諸資産 (金額単位:百万円) 2,000 諸負債 1,200 資本金 100 資本剰余金 100 利益剰余金 600 S2(合併消滅会社) 諸資産 3,000 諸負債 1,200 資本金 250 資本剰余金 250 利益剰余金 1,300 (1)会計処理 平成 18 年 4 月 1 日以降は、「企業結合に係る会計基準」が適用されます。100%子会社同士の兄弟合併は、「共 通支配下の取引」に該当します。このため、資産負債は簿価引継となります(企業結合会計基準 41)。存続子会社 S1 の会計処理は、以下の通りです。 諸資産 3,000 諸負債 1,200 その他資本剰余金 500 その他利益剰余金 1,300 ※100%子会社同士の合併のため、グループ内企業の再編である。会計上は企業結合会計基準により、100%親子会社間での合併と 同様に「共通支配下の取引」となる。このため、時価による評価替えを行わず、簿価引継ぎで会計処理される。 バックナンバーは、当事務所のホームページで参照できます。 http://www.up-firm.com 2 UP!Consulting 無対価合併の場合は新株を発行しないので、資本金及び資本準備金は増加させるのは不自然です。消滅子会社 の資本金及び資本準備金は「その他資本剰余金」として引き継ぎ、利益準備金は「その他利益剰余金」として引き継 ぎます(企業結合適用指針 437-2)。このため、存続子会社の資本金を増加させずにその他資本剰余金に計上する 会社計算規則 36 条 2 項の処理で説明します。 なお、親会社は消滅子会社 S2 の株式簿価 500 百万円をそのまま存続子会社 S1 の株式簿価 200 百万円に加算・ 付替の会計処理をします(同 203-2(1))。 子会社株式(S1) 500 子会社株式(S2) 500 (2)税務処理 無対価合併でも、税制適格要件を満たし適格合併に該当します。このため、合併法人 S1 は被合併法人 S2 の合併 直前の税務上の簿価で資産負債を引継ぎます(法法 62 条の 2①)。この事例では、S1 社の受入純資産は 1,800 百 万円となります。株主資本の内訳は、子会社の資本金等の額と利益積立金をそのまま引き継ぎます。無対価合併で は、合併により増加する資本金はありません。このため、S2 社の最後事業年度の資本金と資本金以外の資本金等の 額の合計を、資本金以外の資本金等の額として引き継ぎます。存続子会社 S1 の税務処理は、以下の通りです。 (金額単位:百万円) 諸資産 3,000 諸負債 資本金等の額 利益積立金 1,200 500 1,300 適格合併の場合の親会社の税務処理としては、会計処理と同様です。消滅子会社 S2 の株式簿価 500 百万円を、 そのまま存続子会社 S1 の株式簿価 200 百万円に加算・付替処理するだけです(法法 24①一、61 条の 2②、法令 119 条の 3⑩)。 子会社株式(S1) 500 子会社株式(S2) 500 (3)申告調整 調整不要です。 3.平成 19 年 1 月 20 日改正以前の会社計算規則 100%子会社同士を合併させる場合に、合併存続子会社が親会社に対価として新株発行するケースと無対価合併 するケースでは、以下の通り存続子会社 S1 の会計処理が相違していました。 ①親会社に新株を発行するケース 存続子会社 S1 の純資産が 1,800 百万円増加する (旧・会計規 59①但し書き) ②無対価合併のケース S1 に負ののれんが 1,800 百万円計上されて、利益として償却する(旧・会計規 13) バックナンバーは、当事務所のホームページで参照できます。 http://www.up-firm.com 3 UP!Consulting 100%子会社同士を合併させる場合は、親会社に多くの裁量権があります。合併新株を発行させるか、無対価合 併を選択するかで、上記の通り会計処理が相違するのは不適当という意見が多くありました。このため、平成 18 年 12 月に企業結合の適用指針が改正されました(企業結合適用指針 437-2 項)。また、会社計算規則も改正されました。 無対価合併のケースでも、①と同様の会計処理をすることになりました。 4.平成 22 年度税制改正 平成 22 年度税制改正において、100%グループ内での無対価の合併・分割・株式交換の組織再編成は原則的に は税制適格に該当することが明確化されました(法法 2 十二号の八イ、法令4条の 3②)。この改正は、平成 22 年 10 月 1 日以降の組織再編成から適用されます。 【無対価での適格合併のパターン】 ケース① ケース② 親会社 P(存続会社) 親会社 P 100% 100% 親会社 P 100% 合併 子会社 S(消滅会社) ケース③ 合併 子会社 S1(存続会社) 100% 70% 合併 子会社 S2(消滅会社) 子会社 S1(存続会社) 子会社 S2(消滅会社) 30% 親会社が 100%子会社を吸収合併 100%子会社同士が合併するケー 100%グループ内で合併するケ するケース(法令 4 条の 3②一) ス(法令 4 条の 3②二ロ) ース(法令 4 条の 3②二ハ) なお、100%グループ内での無対価組織再編成ならば全てが無条件に適格の組織再編になるとは限りません。例 えば上記のケース③の事例では、合併存続会社 S1 が S2 の株主である P 社に S1 社株式を交付しても 100%支配関 係に変化がありません。このため、対価の省略を合併契約書に記載すれば適格合併となります。 下記のケース④の事例でも、株式等を交付した場合と省略した場合で資本関係に変化がないため、無対価合併は 適格合併になります。合併対価を交付しても資本関係に変化がないので、株式交付を省略したと言えるものに限って 税制適格合併に該当するものと考えます。 下記のケース⑤の事例では、株式等を交付した場合と省略した場合で資本関係に変化があるため、無対価合併 は非適格合併になります。 バックナンバーは、当事務所のホームページで参照できます。 http://www.up-firm.com 4 UP!Consulting ケース④ ケース⑤ 親会社 P 100% 親会社 P(存続会社) 70% 100% 合併 70% 合併 子会社 S1(消滅会社) 子会社 S2(存続会社) 30% 子会社 S1 子会社 S2(消滅会社) 30% 100%グループ内で合併するケース 100%グループ内で合併するケース (法令 4 条の 3②二 ニ) (法令に該当せず) ケース⑤では、合併消滅会社 S2 の株主である S1 社に対価として P 社株式を交付すれば親子持合関係となります。 非適格合併の場合は原則として、S2 社で資産を時価で譲渡したものとして課税されます(法法 62)。なお、100%グル ープ内での非適格合併に該当するので、平成 22 年 10 月 1 日以降の合併では譲渡損益調整資産に係る譲渡損益 が繰り延べられます(法法 61 条の 13)。 また、適格合併でも繰越欠損金の引継ぎが無条件に出来る訳ではありません。上記事例の S1 社又は S2 社が繰越 欠損金を持つ場合は、制限されないかを確認する必要があります。完全子会社同士が 5 年間の支配関係を経過して いない場合には、みなし共同事業要件という繰越欠損金の引継要件を満たす必要があります(法法 57③)。合併法 人の合併事業年度開始の日の 5 年前の日から継続して支配関係がある場合には、完全子会社の合併法人と被合併 法人の繰越欠損金の使用・引継制限は、適用されません。すなわち、上記事例の S1 社と S2 社が合併直前にグルー プ外部から購入したオーナーチェンジの場合であっても、S1 社と S2 社の兄弟関係(支配関係)が 5 年間途切れてい なければ、それぞれの兄弟会社の繰越欠損金は制限されません(法法 2①十二号の七の五、国税庁 グループ法人 税制関係の質疑応答事例 平成 22 年 10 月 6 日 Q7)。 Reference Purpose Only 本レターに掲載している情報は、一般的なガイダンスに限定されています。この文書は、個別具体的ケースに対する会計・税務のア ドバイスをするものではありません。会計上の判断や税法の適用結果は、事実認定や個別事情によって大幅に異なることがありえます。 また、解説の前提となる会計規則や税制が変更されている可能性もあります。実際に企画・実行される場合は、当事務所の担当者にご 確認ください。 バックナンバーは、当事務所のホームページで参照できます。 http://www.up-firm.com 5
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