福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 [研究論文] 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 ― 祖父母との同居体験に着目して ― 鈴 木 隆 史 Ⅰ.はじめに わが国の高齢者の人口構成割合は2 4%(平成2 4年)であるが、老年人口で見ると1 9 8 0(昭和 5 5)年との比較では1 8 9%増加した。一方、年少人口は4 0%減少し、生産年齢人口では4 0歳∼ 6 4歳までの構成割合が増加し(3 4%) 、生産年齢人口も高齢化も進んでいる現状がある1)。こ のような超高齢化社会では、病院や施設、地域や在宅で生活を営む高齢者へのケアを提供する 上で、対象者個人の深い理解や多元的な理解に至るよう2)な能力が必要である。 高齢者を理解する能力を養う方法として、高齢者と時間を共にするのが最も身近な方法の一 つであると考える。例えば、“好みの歌”に代表される趣味・嗜好は、高齢者が受けた教育や 生活背景も含めて感覚的に理解することができる。ただ、その条件の一つとしていわゆる親・ 子・孫世代の同居(以下、3世代同居)は1 9 8 0(昭和5 5)年には全世帯の5 0. 1%を占めていた が、2 0 1 1(平成2 3)年には1 5. 4%と過去の3分の1未満となった。むしろ3世代同居は少数派 になっている3)。そのため若年者が対象を理解する過程で高齢者が生きてきた生活体験や時代 背景を把握することが困難になっている。高齢者の理解に関する研究では、若年者の高齢者と の同居に着目して研究した報告は少ない。 趣味・嗜好の代表としての音楽に目を向けると、看護ケア提供の場面では CAM(complementary and alternative medicine:補完・代替医療)の一つの方法として音楽療法が挙げられており4)、 その主流は認知症高齢者への回想法と併用した内容が多い。終末期患者に対しては、緩和ケア 施設の2 8. 7%で音楽療法が行われている5)。そのほかにも周手術期の看護場面や、施設におけ るレクリエーションとアクティビティを合体させた利用、地域における転倒予防教室や口腔機 能向上の教室での活用など利用される場面は多岐にわたる。 その一方で好んで聞く曲や聞いて心地のよい曲、すなわち「なじみの曲」 (あるいは「なじ みの音楽」 ) については、高橋6)、土谷7)、坂下8)、松原9)らの研究があるが、そのいずれも「な じみの曲」の探る方法が容易でないことが知られている。 そこで、本研究では、看護学生とレクリエーション講習会参加者を対象に“高齢者にとって 受付日 2013. 11. 27 受理日 2013. 12. 26 所 属 看護福祉学部 ―4 5― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 の「なじみのある音楽」 ” について調査し、調査対象世代の違いや高齢者との同居の有無でその 傾向に違いがみられるのかについて検討した。 Ⅱ.研究方法 1.研究対象 研究は調査票を用いた自記式回答方式で行った。対象は福井県内のA大学看護学科2年生学 生(以下、看護学生)と福井県内のレクリエーション講習会参加者(以下、講習会参加者)で ある。対象者数は看護学生が5 4名、講習会参加者が1 7名である。調査は2 0 1 2年1 1月から1 2月に かけて実施した。 レクリエーション講習会とは、福井県レクリエーション協会が開催する2 0 1 2年6∼1 2月の8 日間の講習会を指す。講習会のコースは、幼少児(障がい児)1 6コマ、高齢者(障がい者)2 2 コマ、レクリエーションインストラクターの資格取得コース3 4コマに分かれている。調査実施 時は全コース共通の日程であった。(9 0分で1コマ換算) 講習会参加者を研究対象として決定した理由は、レクリエーションを通して対象者へのかか わりを学びたいという意欲が高いこと、看護学生とは異なる年代構成や生活背景を持っている ことから、対照群として決定した。 2.調査方法 調査票は以下の内容を尋ねた。 (1)基本属性:性別・年代、きょうだいの有無 祖父・祖母との同居の有無(同居の経験がある場合は同居年数) (2)なじみのある音楽については、以下の3つの内容を尋ねた。 ①自由記述で、回答者個人の“なじみのある音楽(曲) ( ”歌手・作曲者名含む)とそ の音楽になじんでいる理由(時代・経験を含む)※曲名は複数記載可能 ②自由記述で、回答者個人が高齢者と接する時に対象者自身が想起する“高齢者にと ってのなじみのある音楽(曲) ” ※曲名は複数記載可能 ③空欄完成法で( )内に対象者の考えを問う設問を実施した。 「私自身にとってなじみのある曲は( )の影響が大きい」 3.用語の定義:本研究では、“なじみのある音楽”を、対象者自身に聴き覚えがあって、口 ずさむことができる楽曲とした。 ―4 6― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 4.分析方法 基本統計を行った後、看護学生と講習会参加者との2群間で音楽(曲)数の比較はt検定を 用いた。得られた音楽(曲)については、音楽販売店で一般的に市販されている楽曲のジャン ルに分類した。ただし合唱曲については、記載された“音楽になじんでいる理由”を楽曲ジャ ンルより優先して分類した。得られた音楽(曲)数は、重要度判定するために ABC 分析を行 った。クラス基準は、クラスAを7 5%、 クラスBを1 5%(累積9 0%) 、 クラスCを1 0%(累積1 0 0%) とした。 また、祖父母との同居の有無を考慮した看護学生と講習会参加者の4群間で楽曲数の比較は 分散分析を用い、同居年数と、きょうだい数、回答者個人にとってのなじみの曲・高齢者にと ってのなじみの曲の相関についても算出した。 空欄完成法については、得られた言葉の総数をカウントし、同じ意味を持つ言葉(楽曲)を カテゴリー化して分析を行った。 5.倫理的配慮 調査は、看護学生の調査票には、回答への自由参加、回答しない場合でも不利益が生じない ことについて書面に記載し、配布時には同様の内容を口頭で説明した上で研究協力への依頼を 行った。講習会参加者には、講習会主催者に研究の趣旨を説明し、研究協力への承諾を得た上 で、講習会参加者に看護学生と同様の内容を書面ならびに口頭にて説明の上、研究協力への依 頼を行った。 Ⅲ.結果 1.回答者の基本属性 表1に回答者の属性を示した。回答者は看護学生5 1人(回収率9 4. 4%) 。講習会参加者1 7人 (回収率1 0 0%)で、性別は看護学生の男性4人(7. 8%) 、女性4 7人(9 2. 1%) 、講習会参加者 の男性3人(1 7. 6%) 、女性1 4人(8 2. 4%)であった。看護学生も講習会参加者も“きょうだ い有”のものが9 0%を超えており、ちなみに看護学生ではきょうだい数4人が最も多いきょう だい数であり、講習会参加者の最大きょうだい数は8人であった。表2に回答者の年代を示し た。年代では、看護学生は1 0歳代2 2人、2 0歳代2 8人、3 0歳代1人、と2 0歳代が多い構成となっ た。一方、講習会参加者は2 0歳代2人、3 0歳代1人、4 0歳代3人5 0歳代9人、6 0歳代2人と5 0 歳代、4 0歳代が多い構成となっている。 表3には、祖父母との同居の有無について示した。過去の同居も含めると、看護学生も講習 会参加者も半数が祖父母との同居歴があった。現在同居有の者は平均同居年数が2 0. 5年、過去 に同居があった者は平均同居年数が1 2. 9年となっている。 ―4 7― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 表1 回答者の属性(%) 回収率(%) 看護学生 講習会参加者 男性 女性 きょうだい有 きょうだい無 9 4. 4 4 (7. 8) 4 7 (9 2. 1) 4 9 (9 6. 1) 2 (3. 9) 1 0 0 3 (1 7. 6) 1 4 (8 2. 4) 1 6 (9 4. 1) 1 (5. 9) 表2 回答者の年代(%) 年代 看護学生 1 0歳代 2 0歳代 3 0歳代 4 0歳代 5 0歳代 6 0歳代 2 2 (4 3. 1) 2 8 (5 4. 9) 1 (2. 0) 0 0 0 0 2 (1 1. 8) 1 (5. 9) 3 (1 7. 6) 9 (5 2. 9) 2 (1 1. 8) 講習会参加者 表3 祖父母との同居の有無と同居年数(%) 看護学生 講習会参加者 平均同居年数 最大同居年数 最小同居年数 現在同居有 1 5 (2 9. 4) 2 (1 1. 8) 2 0. 5年 5 6年 1年 過去に同居有 1 5 (2 9. 4) 8 (4 7. 1) 1 2. 9年 3 0年 1年 同居経験なし 2 1 (4 1. 2) 7 (4 1. 2) 2.回答者個人のなじみのある曲について 表4に回答者個人のなじみのある曲(音楽)数を示した。挙げられた曲(音楽)の平均数は 講習会参加者が2. 6 5曲と看護学生の1. 6 1曲に比べ有意に高い値を示した。 表5、表6は回答者別にどのような曲をなじみのある曲として挙げたかを一覧にして示した。 看護学生はなじみの曲・音楽のジャンルとして J−POP(4 0. 2%) 、合唱曲(1 9. 5%) 、童謡・唱 歌(1 7. 1%)の順に高くこの3ジャンルで全体の7 5%を占めている。なお、演歌のジャンルは 1曲も挙げられなかった。もっとも多い回答の曲名は「旅立ちの日に」 (回答数5)であった。 講習会参加者では、歌謡曲(4 1. 9%) 、童謡・唱歌(3 4. 9%)の順で高く、この2ジャンル で全体の7 5%を占めている。なお、合唱曲・映画音楽・演歌のジャンルは1曲も挙げられなか った。もっとも多い回答の曲名は「なごり雪」 、 「手のひらを太陽に」 (いずれも回答数2)であ った。 表4 回答者個人のなじみのある曲(音楽)数 平均回答数 看護学生 1. 6 1±1. 5 4 講習会参加者 2. 6 5±1. 8 0 総回答数 8 2 ! 4 3 (t-test *P<0. 0 5) ―4 8― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 表5 看護学生個人のなじみのある曲・音楽 ジャンル 曲名 ( )内は回答数を示すが1曲の場合は省略する 合計 ABC 分析 合唱曲 旅立ちの日に (5) 、世界に一つだけの花 (3) 、栄光の架橋 (2) 、 1 6 手紙、さくら (森山直太朗) 、埴生の宿、Believe、翼をください、 (1 9. 5%) COSMOS A 歌謡曲 川の流れのように (2) 、 美空ひばりの歌 、 およげたいやきくん、いい湯だな B 5 (6. 1%) 歩いていこう (いきものがかり) (2) 、Everyday カチューシャ、 ChooChooTRAIN (EXILE) 、それでも信じてる、MyGeneration、 涙そうそう、扉、HOME、道 (EXILE) 、My graduation、 SHAMROCK、ワンダーライン、MILK TEA、ふたりごと、糸、 3 3 If (西野カナ) 、LOVE LOVE LOVE、オレンジ、散歩道、 (4 0. 2%) 空と君のあいだに、Shine、横顔、ありがとう (いきものがかり) 、 青いベンチ、少年時代、Sign、LOVER SOUL、たとえどんなに…、 DESIRE(加藤ミリヤ) 、終わりなき旅、サンドイッチ、 J-POP A aiko の曲(歌手) 洋楽 Express/Show me How you burlesque 、WHAT MAKES YOU BEAUTIFUL、 5 Shake That、Call me baby、 All For Christmas is you (6. 1%) B 童謡・唱歌 ふるさと (3) 、もみじ (2) 、赤とんぼ、こいのぼり、 !!!! !!!!! ずいずいずっころばし、ロンドン橋、茶摘み、 !!!!!!!!! どんぐりころころ、ちょうちょ、雪、箱根八里、朧月夜 1 4 (1 7. 1%) A 映画音楽 カントリーロード (耳をすませば) 、風の谷のナウシカ 2 (2. 4%) C クラシック エリーゼのために、トルコ行進曲、天国と地獄 3 (3. 7%) C 4 (4. 9%) C 0 (0%) C 子守唄 (2) 、ショッピングセンターの曲、小・中・高校の校歌 その他 !!! (ジャンル不明) 演歌 注:(1)祖父母・同居家族とのエピソードが書かれていた曲は波線で記載する。 !! (2)楽曲のジャンルについては、一般的に販売されている楽曲のジャンルに従うが、回答の自由記載中 に楽曲の理由・目的がある場合には、そのジャンルを優先する。 (3)歌手名で記載の場合は、 斜字 で示し、その歌手が最も多く歌うジャンルで記載する。 (4)同一名の歌曲は回答者が回答した歌手名(作曲者名、映画はタイトル名)を記載した。 ―4 9― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 表6 講習会参加者個人のなじみの曲・音楽 合計 ABC 分析 合唱曲 0 (0%) C 歌謡曲 なごり雪 (2) 、東京のバスガール、リンゴの唄、スーダラ節、 !!!!!!! !!!!! !!!!! 雲にのりたい、きよしのズンドコ節、四季の歌 (芹洋子) 、 !!!!!! 星降る街角、冬の稲妻、上を向いて歩こう、 1 9 世界の国からこんにちは (三波春夫) 、あなた (小坂明子) 、 (4 4. 2%) 真夜中のギター、神田川、芸者ワルツ、翼をください (赤い鳥) 、 しあわせなら手をたたこう、 美空ひばりの曲(歌手) A J-POP STORY、ハッピーハロウィン MARIA、三日月 3 (7. 0%) B 洋楽 Take it easy、ホテルカリフォルニア、 ビートルズの曲 3 (7. 0%) B 童謡・唱歌 手のひらを太陽に (2) 、ふるさと (2) 、あんたがたどこさ、 七つの子、春の小川、もみじ、赤とんぼ、かえるの歌、 しゃぼん玉、ふじの山、ちいさい秋みつけた、里の秋、 アルプス一万尺 1 5 (3 4. 9%) A 0 (0%) C 2 (4. 7%) C 1 (2. 3%) C 0 (0%) C ジャンル 曲名 ( )内は回答数を示すが1曲の場合は省略する 映画音楽 クラシック ジュピター、祝典序曲 初音ミクの激奏 その他 (ジャンル不明) 演歌 注:(1)祖父母・同居家族とのエピソードが書かれていた曲は波線で記載する。 !! (2)楽曲のジャンルについては、一般的に販売されている楽曲のジャンルに従うが、回答の自由記載中 に楽曲の理由・目的がある場合には、そのジャンルを優先する。 (3)歌手名で記載の場合は、 斜字 で示し、その歌手が最も多く歌うジャンルで記載する。 (4)同一名の歌曲は回答者が回答した歌手名(作曲者名)を記載した。 3.回答者自身が想起する高齢者にとってのなじみのある曲について 表7に回答者自身の高齢者にとってのなじみのある曲(音楽)数を示した。挙げられた曲(音 楽)の平均数は講習会参加者が7. 5 9曲と看護学生の2. 5 7曲に比べ有意に高い値を示した。 表8は看護学生・講習会参加者がどのような曲を高齢者にとってのなじみのある曲として挙 げたかを一覧にして示した。看護学生はなじみの曲・音楽として、ふるさと(童謡:回答数1 4) 、 川の流れのように(歌謡曲:回答数1 3) 、赤とんぼ(童謡:回答数9)の順に高い。なお、回 答数1の内容が3 7個得られた。 講習会参加者では、ふるさと(童謡:回答数1 2) 、赤とんぼ(童謡:回答数6) 、 夕焼け小焼 け(童謡:回答数5)の順に高かった。なお、回答数1の内容が4 7個得られた。 ―5 0― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 また、いずれかの群で2個以上回答得られたもののうち、もう一つの群で1個以上の回答が 得られた回答は1 5個(表8:太字箇所)あった。中でも上位4曲のうち3曲は同一曲であった。 表7 回答者自身の高齢者にとってのなじみのある曲(音楽)の数 平均回答数 総回答数 看護学生 2. 5 7±2. 3 8 1 3 4 講習会参加者 7. 5 9±5. 3 3* 1 2 8 (t-test *P<0. 0 5) 表8 回答者自身の高齢者にとってのなじみのある曲・音楽 順位 看護学生 (回答数が2以上のものは順位付けを行う) (数) 順位 講習会参加者 (数) 1 ふるさと 1 4 1 ふるさと 1 2 2 川の流れのように 1 3 2 赤とんぼ 6 3 赤とんぼ 9 3 夕焼け小焼け 5 4 上を向いて歩こう 8 4 川の流れのように 4 5 津軽海峡冬景色 6 4 雪 4 6 千の風になって 5 4 リンゴの唄 4 7 さくら、ズンドコ節 美空ひばり (歌手) 、リンゴの唄 4 7 高校三年生、さくら どんぐりころころ、桃太郎 3 1 1 あゝ人生に涙あり、青い山脈、憧 れのハワイ航路、浦島太郎、北国 の春、荒 城 の 月、瀬 戸 の 花 嫁、炭 坑節、夏 は 来 ぬ、鳩 ぽ っ ぽ、バ ラ が咲いた、春が来た、春 の 小 川、 星影のワルツ、もしもしかめよ、 紅葉、我は海の子 2 1 1 1 4 荒城の月、夕焼け小焼け、 天城越え 愛燦 々、君 が 代、こ い の ぼ り、氷 川きよし (歌手) 、蛍の光、 また君に恋してる、祭、雪 3 2 <回答数1> あゝ人生に涙あり、五木ひろし (歌 手) 、海、海その愛、演歌 (ジャンル) 、大きな古 時計、お正月、おふくろさん、朧月夜、おもいで 酒、およげたいやきくん、君が代、きらきらぼし、 金太郎、高校三年生、坂本冬美 (歌手) 、サンタが 街にやってくる、しあわせなら手をたたこう、ジ ングルベル、ずいずいずっころばし、炭坑節、茶 摘み、手のひらを太陽に、てんとうむしのサンバ、 童謡 (ジャンル) 、なごり雪、涙そうそう、にんげ んっていいな、春の小川、ブルーライトヨコハマ、 、紅葉、桃太 真っ赤な太陽、孫、民謡 (ジャンル) 郎、横浜たそがれ、与作 <回答数1> あんたがたどこさ、いい湯だな 上を向いて歩こう、うさぎとかめ、海、演歌 (ジ ャンル) 、王将、大きな栗の木の下で、お座敷小 唄、お正月、お手手つないで、お山の杉の子、帰 ろかな、かたつむり、岸壁の母、金太郎、靴が鳴 る、芸者ワルツ、高原列車は行く、里の秋、四季 の歌、世界の国からこんにちは、ズンドコ節、船 頭小唄、ソーラン節、チューリップ、月、鉄道唱 歌、手のひらを太陽に、東京のバスガール、東京 ブギウギ、童謡 (ジャンル) 、とんがり帽子、とん ぼ、長崎は今日も雨だった、花嫁、春、孫、松の 木小唄、見上げてごらん夜の星を、みちづれ、み かんの花咲く丘、麦と兵隊、柔、ゆりかごの唄、 我が人生に悔いなし、若者たち ―5 1― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 4.回答者自身の同居の有無による高齢者にとってのなじみのある曲(音楽)について 表9に回答者属性別の高齢者にとってのなじみのある曲(音楽)数を示した。なお、この分 析では、現在同居あり・過去同居ありを「同居歴あり」として分析した。平均回答数は多い順 に講習会参加者・同居歴なし(8. 4 3) 、講習会参加者同居歴あり(7. 0) 、看護学生同居歴なし (3. 0) 、看護学生同居あり(2. 2 7)となった。図1のとおり、分散分析の結果、看護学生と講 習会参加者の間で有意差が見られたが、各群で同居歴の有無によるなじみの曲数の差は見られ なかった。 表9 同居の有無による高齢者にとってのなじみのある曲(音楽)の数 人数 平均回答数 1人当たり 最小回答数 1人当たり 最大回答数 看護学生同居歴あり 3 0 2. 2 7±2. 5 6 0 1 0 看護学生同居歴なし 2 1 3. 0 ±2. 0 7 0 9 講習会参加者同居歴あり 1 0 7. 0 ±3. 4 6 2 1 2 講習会参加者同居歴なし 7 8. 4 3±7. 5 0 4 2 5 18 16 14 12 10 8 6 7.00 4 2 0 2.27 3.00 ┳ㆤᏛ⏕࣭ ྠᒃṔ࠶ࡾ ┳ㆤᏛ⏕࣭ ྠᒃṔ࡞ࡋ ㅮ⩦ཷㅮ⪅࣭ ྠᒃṔ࠶ࡾ !は有意差ありを示す 8.43 ㅮ⩦ཷㅮ⪅࣭ ྠᒃṔ࡞ࡋ Bonferroni test(p<0. 0 1) 図1 看護学生と講習会受講者の同居の有無による高齢者になじみのある曲数の比較 5.回答者自身の祖父母との同居年数、きょうだい数と回答者自身のなじみの曲数、高齢者に とってのなじみの曲数との相関について 表1 0に回答者自身の同居年数、きょうだい数と回答者自身のなじみの曲数、高齢者にとって のなじみの曲数との相関を示した。祖父母との同居年数では、回答者自身の高齢者にとっての なじみの曲数にごくわずかな相関(r=0. 1 8 9 p=0. 1 2 3)がみられた。その他ではきょうだ いの数と回答者自身のなじみの曲数(r=0. 2 7 4) 、回答者自身のなじみの曲数と高齢者にとっ ―5 2― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 てのなじみの曲数(r=0. 4 1 4)との間で有意な相関が見られた。 表1 0 同居年数、きょうだい数となじみの曲の相関係数 回答者自身の 回答者自身の 祖父母との 高齢者にとって きょうだい数 なじみの曲数 同居年数 のなじみの曲数 祖父母との同居年数 −0. 0 3 6 きょうだい数 −0. 0 3 6 回答者自身のなじみの曲数 0. 0 0 4 0. 2 7 4* 回答者自身の高齢者にとってのなじみの曲数 0. 1 8 9 0. 0 9 0 (Pearson の相関係数 0. 0 0 4 0. 1 8 9 0. 2 7 4* 0. 0 9 0 0. 4 1 4** 0. 4 1 4** * p<0. 0 5、** p<0. 0 1) 6.空欄完成法による「なじみのある音楽」の影響について 表1 1に空欄完成法による看護学生の「なじみのある音楽」の影響を、表1 2に講習会参加者の 「なじみのある音楽」の影響について、それぞれ得られた言葉についてカテゴリー化した内容 を示した。 看護学生は得られたワードは4 8個であり、8カテゴリーに分類された。最も多いワードはテ レビ(カテゴリー:メディアによるもの)が7個であった。講習会参加者は得られたワードは 1 4個、2カテゴリーに分類された。最も多いワードは昭和初期(カテゴリー:生活した時代を さす内容)が4個であった。 表1 1 看護学生の空欄完成法の回答 カテゴリー化した内容 家族によるもの 影響をうけた人によるもの (家族を除く) (総回答数4 8) 得られたワード ( )内は回答数を示す 合計 姉 (2) 、父親 (1) 、家族 (1) 、親 (1) 、お母さん (1) 小さい頃は曾祖母が歌っていた (1) 7 (1 4. 6%) 友達 (2) 、友人(1) 3 (6. 3%) 生活背景をさす内容 小さい頃 (3) 、時代 (2) 、幼少の頃 (1) 、 子供の頃聞いた曲 (1) 、小学校時代 (1) 、生活環境 (1) 小学生以下のときに聞いたもの (1) 1 0 (2 0. 8%) 記憶・印象によるもの 思い出 (1) 、自分や人との思い出 (1) 、よく歌った (1) 、 よく耳にするということ (1) 、身体 (1) 、心 (1) 6 (1 2. 5%) メディアによるもの テレビ (7) 、テレビの音楽番組 (1) 、テレビCM (1) 、 映画や有線 (1) 1 0 (2 0. 8%) 歌そのものへの印象 歌詞や音 (1) 、歌 (1) 、メロディ (1) 、よく耳にする曲 (1) 4(8. 3%) 教育場面によるもの 学校 (2) 、小・中・高校 (1) 3(6. 3%) イベントによるもの 学校の行事 (1) 、節目や何かのイベント (1) 、 、人生におけるイベント (1) 、 幼稚園のお遊戯 (1) 日常生活・行事 (1) 5 (1 0. 4%) ―5 3― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 表1 2 講習会参加者の空欄完成法の回答 カテゴリー化した内容 (総回答数1 4) 得られたワード ( )内は回答数を示す 合計 生活した時代をさす内容 昭和初期 (4) 、昭和初期∼昭和4 0年代 (1) 、昭和 (2) 、 昔からある童謡(1) 8 (5 7. 1%) 生活背景をさす内容 少年少女か成年期 (1) 、小学校∼青春 (1) 、 ちいさい頃か若い頃 (1) 、若い者 (1) 、若い頃 (1) 、 自分の子供の頃(1) 6 (4 2. 9%) Ⅳ.考察 1.“回答者自身のなじみのある音楽”について “なじみのある音楽”については、明確な定義が定まっておらず各研究者によって様々な面 から“なじみ”についてアプローチしている。今回の調査でなじみのある音楽を“聞き覚えが あって、口ずさむことができる”としたのは、回答者自身が(1) “感覚的”に楽曲を獲得で きていること、 (2)特別な場所や機材が不要で、いつでもどこでもその楽曲を歌うことが容 易であることの2点を重きにおいたからである。この“なじみのある音楽”を回答者自身がど のようなイメージを持って回答するのか、その判断の一つとして対象者の年齢が挙げられる。 今回調査対象となった看護学生は2 0歳代の学生が最も多く、講習会参加者は4 0∼5 0歳代が多く、 いわゆる親子ほどの年齢差があり今回の結果は完全な親子ではないものの世代間の相違として 見ることができる。 得られた楽曲のうち、看護学生で最も総数が多いのは「J−POP」のジャンルであり、そのほ とんどが2 0 0 0年以降に発表された楽曲である。なじみのある理由については、個人的な体験が 多く、その体験の中で「一人で聞いた」という回答がほとんどであった。次に多い「童謡・唱 歌」のジャンルでは表5波線のとおり、赤とんぼ、こいのぼり、ずいずいずっころばしの3曲 !!!! !!!!! !!!!!!!!!! で、なじみのある理由を「祖父母が教えてくれて一緒に歌った」という回答がみられた。3番 目に多い「合唱曲」では、なじみのある理由を「卒業式や合唱コンクールなどで一緒に歌った」 という回答がほとんどであった。 これら3つのジャンルで ABC 分析上Aクラスに分類され、看護学生の“なじみのある音楽” の理由は「個人的な体験での楽曲への共感」 、 「祖父母から受け継ぐ楽曲」 、 「同世代での体験の 共有」の3つが大きいと考えられた。 一方、講習会参加者で最も総数が多いのは、「歌謡曲」のジャンルであり、そのほとんどが 1 9 7 0年代までに発表された楽曲である。なじみのある理由については表6波線のとおり東京の !!! バスガール、リンゴの唄、スーダラ節、雲にのりたいの4曲が「親・きょうだいで一緒に歌っ !!!!! !!!!! !!!!! !!!!!! た」という回答、「青春時代の曲」 、 「歌いやすい」などの回答が得られた。次に多い「童謡・ 唱歌」は、なじみのある理由を「子供の頃に良くうたった」という回答が多い中で「仕事で歌 ―5 4― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 った」という回答もみられた。 これら2つのジャンルで ABC 分析上Aクラスに分類され、講習会参加者の“なじみのある 音楽”の理由は「親・きょうだいとの体験の共有」 、 「幼少期の体験」 、 「青年期の体験」の3つ が大きいと考えられた。 この2つ世代の理由から、それぞれの年代での「なじみのある音楽」について検討すると、 日野原10)の「音楽は長期記憶において、いろいろな出来事と結びつきやすい性質を持っている」 、 高橋11)の「音楽は諸感覚を刺激し、気分や感情を喚起し、生理的、精神的反応を引き起こし、 心身に活気を与える」にあるとおり、看護学生・講習会参加者とも、非日常的な体験・日常的 な体験とその時に聞いていた音楽(曲)が一つの符合となっていることがうかがえる。またそ の時の音楽は、気持ちを落ち着かせたり、高揚させるために反復して歌うことで感覚的に歌え るようになり、結果として「なじみの曲」になっていると考える。 音楽が同居家族間で受け継がれるかという視点では、看護学生の場合は3曲と1ジャンル(子 守唄) 、 講習会参加者は4曲と数そのものは多くない。看護学生では、祖父母からの体験という 回答に比べ、講習会参加者は親・きょうだい間での体験と回答があった。祖父母世代から見て 孫への“なじみのある音楽”を受け継がせるのは、童謡・唱歌、子守歌であるが、親世代は歌 謡曲であり、音楽を受け継ぐという点では祖父母世代から見て、子世代と孫世代で異なること が考えられる。 ABC 分析でB,Cランクをみると、演歌は両群とも“なじみのある音楽”の回答は見られ なかった。看護学生に「映画音楽」 、 「洋楽」が多く見られたのは、これらの音楽に接する機会 が看護学生に多くなじみがあると回答したと考える。しかし、映画音楽については、看護学生 と講習会参加者が最も良く映画を見る時代に違いがあると考えられることから「映画音楽」そ のものにも世代間の違いがあると考えるのが妥当であること、また映画自体もテレビで放送さ れるものが多く、テレビで繰り返して感覚的に獲得するプロセスの可能性があることから、比 較的古い世代の映画についてはテレビでの上映の機会そのものに差があるので、講習会参加者 の世代にとっては回答が出にくいジャンルであったと考える。 2.回答者自身の“高齢者にとってのなじみのある音楽”について 表8に示すとおり、看護学生と講習会参加者の両群で挙げられた曲で共通している曲が多い ことが確認できた。その中で最も新しい曲は「川の流れのように(美空ひばり) 」 の平成元年で あり、この曲でも今回調査を行った看護学生にとってはほとんどの学生が生まれる以前の曲で ある。ただこの曲の場合、中学校や高等学校の音楽の教科書にも採用されるなど教育場面での 学習の可能性があると考えられる。この曲の他では両群とも童謡・唱歌が多く挙げられており、 これらの曲は小学校またはそれ以前の場面(保育所・幼稚園等)で歌う機会があり、その場面 ―5 5― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 を高齢者と共有していれば、なお“高齢者にとってのなじみのある音楽”として印象が強くな ると考える。 今回の調査では、回答者自身の“高齢者にとってのなじみのある音楽”について看護学生と 講習会参加者との間で回答数に有意差がみられた。これはレクリエーション講習会に参加して いるという条件によるところも大きいが、参加者が高齢者の世代に近いという条件も考えられ る。特に表8では、回答数が1の音楽(曲)の数は看護学生3 7に対し講習会参加者4 7と講習会 参加者は回答者が少ないにもかかわらず、回答数1の内容が多いことは、回答の多様性を示し ている。しかも高齢者の生活してきた時代の曲が多い。先行研究では音楽の好みのジャンル・ 楽曲の年代について櫻井12)が、好みのジャンルは歌謡曲、童謡、唱歌の順に多く、楽曲の年代 は昭和3 0年代、2 0年代、1 0年代、4 0年代、大正時代の順としていること、曽我部13)は年齢区分 での比較で、7 0歳代は歌謡曲、唱歌、童謡、6 0歳代は歌謡曲、唱歌、童謡・民謡の順に好まれ ているとしている。今回の結果では講習会参加者は“高齢者にとってなじみのある音楽(曲) ” について、高齢者の時代をイメージできていることがうかがえた。ただ、回答数は少ないなが らも看護学生の中には民謡を挙げたり、比較的古い年代の歌謡曲を挙げたりするものもいたが、 なぜ「なじみのある音楽」と挙げられたのかは本調査からはその理由を検討することは困難で あった。 3.“なじみのある音楽”は何に影響されるのか 前述の通り、回答者自身のなじみのある音楽については、その個人の体験や体験の共有によ るところが大きい割合を占めることが示唆された。 本研究では、高齢者にとってのなじみのある音楽は同居の有無が影響されると考えていたが、 分散分析では得られた“なじみのある音楽(曲) ”数は有意差が見られなかった。また、同居 年数の長短となじみのある音楽(曲)数に相関があるか見たところ、0. 1 8 9とごくわずかな相 関が見られた。これは、山崎らの、就学前の祖父母の存在意義として“遊びなど昔のことを教 えてもらえる”が5 0%以上の回答である14)ことから、昔のことを学ぶには祖父母の存在意義は 大きく、同居歴の長い看護学生は高齢者にとってなじみのある音楽を多く出せると考えていた。 残念ながら今回の結果でそれを示すことができるのは、同居歴のある看護学生で高齢者にな じみのある音楽(曲)数は最大で1 0曲と看護学生の中で最も多い曲数を挙げていることのみで ある。相関係数は低いが、祖父母と同居することで、高齢者にとってのなじみのある音楽は伝 承される可能性は残されており、調査方法のさらなる工夫が必要と考える。 得られた相関係数では、回答者自身のなじみのある音楽の数と回答者自身の高齢者にとって のなじみのある音楽に有意な相関がみられたことは、音楽(曲)の数を豊富に知っているもの が高齢者にとってのなじみのある音楽も知っている可能性を示唆しており、きょうだいの数と ―5 6― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 回答者自身のなじみのある音楽(曲)の数との有意な相関は、きょうだい間で音楽の体験を共 有が多くなることでなじみのある音楽を増やしている可能性を示唆している。 空欄完成法でカテゴリー化した内容をみると、両群とも共通していたのは、“生活背景を指 す内容”がなじみのある音楽に影響するとあげていた。看護学生では、同順位のカテゴリーと してメディアをあげており、メディアによる影響が“なじみのある音楽(曲) ”を生み出す可 能性も示唆された。講習会参加者は“生活した時代”を挙げる回答が見られた。これは現在の 高齢者のなじみのある音楽が昭和1 0∼4 0年代の曲に多いことからも、単なる個人の体験ではな く時代との流れとして“なじみのある音楽”を捉えていることが示唆された。 4.どのようにして「なじみのある音楽」を増やしていくとよいのか 現在、看護職による CAM 実践の中で音楽療法は、不眠・頭痛・不適応行動、不安・緊張・ 無為、安静による苦痛、肺活量低下、ADL 拡大困難という健康課題と向き合いながら対象者 の QOL の向上を目指している15)ことが報告されている。また高齢者の回想法として音楽を用 いたアプローチ8)9)も行われていることから、今後音楽を用いた看護からのアプローチは増え ていくと考える。 これらの状況をふまえて今回の結果を振り返ると「自身にとってのなじみのある音楽」は看 護学生では体験を中心にした楽曲が選ばれ、高齢者にとってのなじみのある音楽は教育場面で 既に学習してきている楽曲が選ばれていた。すなわち、現在の看護学生に「体験」に基づく想 起はできているが、 「生活した時代」を考慮する想起が十分でないため、高齢者がどのような 時代を生活したのか、どのような好みがあるのかを理解できていないともいえる。まず高齢者 と接する際に対象となる高齢者がどのような健康課題を抱えており、おかれている精神・心理 状態を把握した上で、高齢者の生活した“時代”を把握する。 “時代”の把握については、高 齢者の自伝的記憶について1 0歳代や2 0歳代で多くの記憶内容をもつレミニセンス・バンプを持 つこと、この時期に自己主体の記憶の生起率が高いこと16)が報告されている。これを現在の高 齢者に当てはめると、少なくとも昭和4 0年代以前の時代の理解が必要である。またジャンルと して歌謡曲を受け継ぐことが必要であるが、講習会参加者の結果から見ると、親世代からの受 け継ぐことが少ないこともあると考えられる。また、今回の調査では祖父母との3世代同居は 全国平均より高い5 0%程度であったが、同居での体験がきっかけとする「なじみのある音楽」 が少なかったことは、祖父母との同居の体験の有無にかかわらず高齢者の時代や生活背景を追 体験のように学習していく必要がある。 そこで、高校までの教育場面で学習できなかった曲を探索し、大学教育で高齢者の理解の一 手段として時代と歌を学ぶという場面が必要になるかと考える。特に時代や生活背景を含める ことで、なぜこのような歌が「高齢者にとってなじんでいる」のかを構造的に学習できる効果 ―5 7― 福井県立大学論集 第4 2号 2 0 1 4. 2 も望めると考える。 Ⅴ.結論 福井県内のA大学看護学科2年生5 4名と福井県内のレクリエーション講習会参加者1 7名に 対して自記式調査を実施し、看護学生5 1人(9 4. 4%) 、 講習会参加者1 7人(1 0 0%)から回答を 得た。そして、回答者個人の「なじみのある音楽」 、 回答者自身が想起する「高齢者にとってな じみのある音楽」 、回答者個人の「なじみのある音楽」の影響について検討した。 1. 看護学生個人の「なじみのある音楽」は、「J−POP」 、 「合唱曲」 、 「童謡・唱歌」の3ジャン ルで回答全体の7 5%を占めていた。講習会参加者は「歌謡曲」 、 「童謡・唱歌」の2ジャンルで 回答全体の7 5%を占めていた。それぞれなじみの理由に個人的な体験を挙げるものが多かった が、看護学生の「童謡・唱歌」のなじみの理由には祖父母との体験を挙げるもの、講習会参加 者の「歌謡曲」のなじみの理由に親・きょうだいの体験を挙げるものがいて、対象者の世代の 違いで、伝承される音楽のジャンルに違いがあると考えられる。 2. 看護学生にとっての「高齢者になじみのある音楽」は1 3 4個、講習会参加者の「高齢者にな じみのある音楽」は1 2 8個挙げられ、講習会参加者では一人あたりの回答数も多かった。看護 学生・講習会参加者ともに「高齢者になじみのある音楽」の上位の曲は共通しており、主に「童 謡・唱歌」が上位の曲となった。しかも高齢者の時代を考慮した選曲となっていた。 3. 看護学生、講習会参加者ともに、祖父母との同居体験の有無で「高齢者にとってのなじみの ある音楽」の数に違いがあるか検討したところ、有意な結果は得られなかった。ただし、祖父 母との同居年数と高齢者にとってのなじみのある音楽にごくわずかな相関が見られたこと、看 護学生の同居歴がある学生が高齢者にとってのなじみの曲を看護学生の中で最も多く挙げてい ることから、祖父母との同居が看護学生への「高齢者にとってのなじみのある音楽」伝承に可 能性を残していると考えられる。 4. 今回の研究では、看護学生個人の「なじみのある音楽」の影響については体験やメディアの 影響に基づく回答が多かった。看護学生にとって、生活背景を考慮する力はあっても高齢者が 生活した時代を考慮する力の理解が十分ではないと考えられる。今後は高齢者が生活した時代 をふまえた音楽の学習が必要である。講習会参加者の世代と看護学生の世代で受け継がれてい る音楽が少ないことから、いわゆる親子世代で音楽を伝承していくこと、大学教育では高校ま でに学習できなかった楽曲について、時代を含めて考慮した学習が必要である。 Ⅵ.謝辞 本調査にご協力いただきました看護学生ならびにレクリエーション講習会参加者の皆様方 ―5 8― 高齢者にとっての「なじみのある音楽」についての分析 に深謝いたします。また、調査を行うに当たりご協力いただきました福井県レクリエーション 協会の辻岡事務局長をはじめ関係各位様、論文作成でご指導いただきました福井大学医学部看 護学科成人・老年看護領域の鈴木美栄子先生に厚く御礼申し上げます。 本論文は平成2 4年度福井県立大学看護福祉学部看護学科 加古千智さんの卒業論文のデータ について本人許諾をいただいた上で、一部利用し執筆しました。ここに感謝申し上げます。 参考文献 1)厚生労働省:平成2 5年版厚生労働白書 http : //www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/13/ 2)日本看護系大学協議会:平成2 2年度 文部科学省 先導的大学改革推進委託事業 看護系大学におけるモデル・コア・カリキュラム導入に関する調査研究報告書 http : //www.janpu.or.jp/wp/wp−content/uploads/2012/04/H22ModelCoreCurriculum.pdf 3)内閣府:平成2 5年版 高齢社会白書 4)川村武:看護における補完・代替医療の近況 宮城大学看護学部紀要 2 0 0 91 2(1)7 1 ‐ 7 6 5)前田のぞみ、末永和之、佐野隆信 他2名:日本のホスピスの・緩和ケア病棟における音楽療法の現 状分析―全国緩和ケア承認施設アンケート調査結果より― 緩和ケア 2 0 0 71 7(5)4 6 3 ‐ 4 6 9 6)高橋多喜子、萩谷みどり: 「なじみの歌法」のグループセッションへの適用 音楽療法研究 1 9 9 8(3) 8 9 ‐ 1 0 0 7)土谷由美子、小野昌彦、高塚延子:特別養護老人ホーム在住の痴呆性老人への音楽療法―馴染みの歌 の有効性について― 中国短期大学紀要 1 9 9 8(2 9)5 3 ‐ 5 8 8)坂下正幸:『なじみの音楽』が認知症高齢者に及ぼす改善効果 ―ナラティブを考慮した介入につい て― 立命館人間科学研究 2 0 0 8(1 6)6 9 ‐ 7 9 9)松原由美:音楽が認知症高齢者に及ぼす QOL の向上 ∼回想法となじみの音楽を用いての実践∼ 九州保健福祉大学研究紀要 2 0 1 1(1 2)7 9 ‐ 8 4 1 0)日野原重明:標準 音楽療法入門(上)理論編 春秋社 1 9 9 8 1 1)高橋多喜子:音楽療法概説 日本補完代替医療学会誌 2 0 0 4(1)7 7 ‐ 8 4 1 2)櫻井琴音:高齢者の集団歌唱における歌の好みについて―『生きがいづくり教室』のリクエスト曲の 検討― 西九州大学・佐賀短期大学紀要 2 0 0 5(3 5)8 3 ‐ 9 1 1 3)曽我部司、大橋美佐子:童謡、唱歌、大衆歌についての意識調査―中高年を中心に― 中国学園紀要 2 0 0 5(4)1 2 5 ‐ 1 3 0 1 4)山崎美佐子、角間陽子、草野篤子:異世代間におけるネットワークの可能性:祖父母と孫の交流関係 から 信州大学教育学部紀要 2 0 0 41 1 29 9 ‐ 1 1 0 1 5)酒井太一、鈴木隆史:看護実践における CAM(補完・代替医療)活用に関する文献レビュー 日本 看護科学学会学術集会講演集第2 5回 2 0 0 52 9 6 1 6)槙洋一、仲真紀子:高齢者の自伝的記憶におけるバンプと記憶内容 心理学研究 2 0 0 67 7(4)3 3 3 ‐ 3 4 1 ―5 9―
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