市町村合併の政策評価 - 日本経済研究センター

市町村合併の政策評価
一最適都市規模・合併協議会の設置確率
西川雅史
埼玉大学*
本稿の目的は、市町村合併の政策目的を支出削減であると考えた上で、その政策効
果について検討・評価し、合併政策に必要となるアイデアを提示することにある。
日本の市町村合併に関する先行研究の多くは、ハーシュ (
1
9
7
9
) のリサーチデザイ
ンを踏襲し、最適都市規模論 (minimume
f
f
i
c
i
e
n
ts
c
a
l
e
) と支出削減効果を安易に結
びつけ、最適都市規模へ合併しようとする地方自治体のインセンティブを軽視してき
た。筆者の知る限り、わずかな例外は、横道・村上(1993a、1
9
9
3
b
)、横道・沖野 (
1
9
9
6
)、
松本・森脇・長峯 (
2
0
0
2
) である。しかし前二者には統計的な玉確さに不足があり、
後者は関西の特定の自治体にデータが制約されている。本稿では、これらの不足を補
うべく、全国の市町村データから地方自治体の合併インセンテイブを考察した。そこ
から得られた最も 興 味深いファクトは、面積 が大きい町村部で合併への気還 が醸成さ
れにくいという点である。したがって、面積に配慮していない現行の合併促進法は、
十分に支出削減効果を発揮できない可能性がある。
1
.
はじめに
政策を評価する際には、まず、政策目的を明らかにする必要がある。 選 択 さ れ た
政策の妥当性を評価することは、極めて主観的なものとなり非常に困難であるが、
選択された政策の目的を特定化することは、さほど難しくないであろう。次に、政
策手段(内容)が、政策目的を最も適当に引き出すように選択されているか否かに
本稿の草稿段階で横山彰教授(中央大学)、鷲見英司専任講師(東北文化学園大学)、山下耕治専任
講師(長崎大学)、林正義助教授(明治学院大学)、桃田朗助教授(帝塚山大学)、赤井伸朗助教授(神
戸商科大学経済研究所)、長峯純一教授(関西学院大学)から 貴重なアトパイスを頂いた。また、本誌
の査読者か らは、本稿の不足部分を指摘いただき改善に役立てることができた。
記 して謝意を表します。
なお残されているであろう過棋は、すべて筆者の責任に帰される。
キ連絡先 〒3
3
8
8
5
7
0 さいたま市下大久保 2
5
5 埼玉大学経済学部、 T
E
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0
4
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5
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3
3
2
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PAGE10F19
ついて検討しなければならない。無料で実施できる政策が無いものとすれば、費用
を最小化しつつ、政策効果をあげることが期待されるからである。
本稿で採り上げる市町村合併(合併特例法)の政策目的には、①委任事務を任す
ことができる受け皿づくり、乏効率化による支出削減の 2つがあるように思われる。
目的の①を評価するためには、行政の役割と限られた財源を中央政府と地方政府の
どちらに配分すべきか判断しなければな らない。これは、配分効率について言及す
るものであり、主観的な要素が介在しやすく、その取り扱いは容易でない。他方で、
目的の②は、政府による公共財・サービスの生産効率を改善し、実質的にパイを拡
大させるものであるから、パレート基準に照らすことで「望ましさ」を評価するこ
とができょう。そこで以下では、一貫して後者の意味で市町村合併の目的を捉え、
適切な政策が選択されているのかを検証したい。こうした問題設定は、最適都市規
模の議論を踏まえつつ、合併による規模の拡大によって支出削減が可能であること
を示唆する中井(1988) 、斉藤(1996) 、吉村(1998) 、林(1999) 、原因・川崎
(
2
0
0
0
) 、小竹 (
2
0
0
0
) 、塩津・原因・伊多波 (2001)と同様のものであるにまた、
現実の市町村合併にまで踏み込んだ研究には、横道・村上(1993a、1993b) 、横道・
沖野(1996) があると横道・村上(1993a、 1993b) は、昭和の大合併以降の合併事
例について、制度・人口・面積・財政・経済事情なと多角的かっ時系列的な分析を
行っており、最も包括的な研究と位置づけられよう。そこで示された興味深い帰結
の lっとして、
「市町村の財政状況が悪化すると市町村合併は減少する傾向がみら
れる」があるが、この点は、本稿の分析結果と相容れないものとなる。また、横道・
沖野(1996) は、財政の効率性だけではなく、広域行政圏の視点から実際の合併事
例を分析している点に特徴がある。上記 2つの研究は、過去の合併事例を統計的に
分析している点で本稿の範となっている。
ここでは、彼らの研究のうち最適人口の議論、面積の効果などを考慮する視点を
踏襲しつつ、他方で、合併協議会の設置確率を実証的に考察することで議論を拡張
し、より具体的に合併政策の評価に資する分析を行う。以下本稿の流れは、つづく
2節で、限界費用と平均費用の交点として都市の最適規模を推計し、 1
7万人という
結果を得る。この値を合併による支出削減が可能な臨界点と解釈し、合併政策の政
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.
st
a
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u
.
a
c
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j
p
担
林(
2
0
0
2
)では、 日本 の研 究における「最 適 」が r
minimume
f
f
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n
ts
c
a
l
e
J を意 味 し て い る と と を指
摘した上で、 海外の文献も含め非常に包括的な整 理をしている 。
2 この他に、小西 (
2
0
0
0
)、 川 瀬 (
1
9
9
9
)、 小 林 (
1
9
9
8
)は、市町村合併の事例研究を行っている 。 ま た 、 横
1
9
9
5
b
)は、消防団というユニークな視点から分析をしている。
道(
1
PAGE2OF1
9
策効果(支出削減)を評価する lつの基準とする。この基準から過去の合併事例を
7万人を超え
振り返ると、大規模な都市が周辺自治体を吸収するケース、すなわち 1
る人口規模となることが多く、支出削減効果は限定的にしか期待できなかったこと
になる。そこで 3節では、現在進行中の合併がどのような市町村で発生しつつある
のかをロジット分析で検証し、今後発生するであろう合併動向について明らかにす
る。その結果、地方政府の行動様式が町村部と市部で大きく異なることが示される。
とりわけ、自治体の面積の大きさが、市部で合併を後押しする効果を有する一方で、
町村部で足止め効果を有する点が興味深い。横道・村上(19
9
3
b
l が指摘するよう
に、政令指定都市・中核市などへの昇格インセンティブが存在する市部では、面積
が大きい自治体の合併が進むものの、町村部では、そうは行かないようである。 4
節では、実証分析の結果を踏まえ、政策効果を有効に引き出すためには、面積に対
する配慮が必要であることなどを提言する。最後の 5節では、分析結果を整理し要
約する 。
2
.
地方政府の支出
これまで、中央政府は、国土の均衡ある発展を重要な政策目標とし、集権的な財
政制度(地方財政調整制度、政策金融機関)を利用した再分配政策と、その結果と
しての公共投資によってこれを達成してきた。仮に、この政策目的が達成されてい
るならば、各地方政府が提供する生活インフラの水準は、個々の地域住民にとって
概ね等しいものと理解することができる。この判断は、現実との翻艇は否めないが、
先行研究でも暗黙ないし明示的に利用されてきた仮定である。ここで、全国で一定
に保障されるべき生活インフラを「公的供給財 (
p
u
b
l
i
c
l
yp
r
o
v
i
d
e
dg
o
o
d
s
l J と定
義すると、市町村合併によって目指すところの財政支出の効率化とは、公的供給財
の平均費用を下げることと解釈できょう。なお、国策として全国均ーの公共サービ
スを目指してきた日本以外を分析対象とするならば、このような前提は容認し難く、
供給水準を一定とみなすための処理が必要になるであろう。
2
.
1 歳出からみる最適規模の考え方
公的供給財の定義か ら、他を一定とすれば、 l 人当たりの供給水準は等しく、そ
p
r
i
v
a
t
eg
o
o
d
s
l につい
の必要経費も等しくなる。また、公的供給財のうち私的財 (
ては、人口比例的な支出(可変費用)であり、非排除性・非競合性を有する公共財
PAGE3OF19
(
p
u
b
l
i
cg
o
o
d
s
) については、人口規模に対して相対的に非弾力的な支出項目(固
定費用)と考えることができる。公的供給財には、これら 2つの性質が含まれてい
るものとすれば、歳出と人口の関係を式(1)のように定式化できょう。
y=Ax
巳
(
1
)
上式で yは各地方政府の歳出額(総費用)、 xは個別地方政府の人口規模である。
これを対数変換した上で単回帰モデノレの形状にしたものが式 (
2
)である。
(
2
)
lny=lnA+alnx+ε
ここで Aは、人口規模以外で歳出額へ影響を与える要素を意味する定数項、ないし、
公的供給財の固定費用であり、 εは通常の仮定を満たす誤差項である。また、
q
は
2
)を偏微分することで人口に対する弾力性を意味する値となり、式 (
3
)のように
式(
書き直すことができる。ここでの分析目的か ら、日は、平均費用と限界費用の羊離
率を示すパラメータとして理解する(図 lの矢印部分)。
団 二
d
y
j
命 日 付y d
y
y
j
x
x dx
(
3
)
二
式 (3) から、限界費用曲線 (MC)
と平均費用曲線 (AC) の交点で a~1 、日 >1 な
らば規模の不経済が生じており、
q く
l ならば規模の経済が発生することになる。
ここで、日二 lとなるような人口規模を pop と定義すると、 MC=ACの条件か ら、
これを歳出からみたときの最適な人口規模と解釈できょう。
図 1 限界費用と平均費用の比としての q
限界費用・平均費用
MC
AC
MCjAC二 日
pop(a 1
)
二
PAGE4OF1
9
人口規模
2
.
2 最適人口規模
255 の市町村データを用いたクロスセクシ ョン
現実の pop を特定化するため、 3
分析を行い、人口規模の変化に応じた歳出額の推移を明らかにする。ここで、自治
体が提供する公的供給財の量を一定水準であると仮定するために、基礎的自治体を
制度に応じて政令指定都市、東京特別区、市、町村と区分した上で、
「全市区部」
二政令指定都市(12
) 十東京特別区 (
2
3
)十市 (
6
5
8
)、 「市部市 (
6
5
8
) 、 「町
村部町村 (
2
5
6
2
) と定義し、後者の 2つについて、それぞれ以下のような手順
で作業を加える。ここで使用するデータは、特に言及しない限り『市町村別決算状
9
8年度版)~によるものである。
況調(19
①
人口規模順に自治体を並び替える。
②
人口規模が小さい順に 1~1000 番目の町村をサンブツレとする小グループをつ
くり、これを式 (
4
)によって回帰し、式 (
3
)で意味するところの q を推計する。
③
0
0
1番
②の小グループか ら、最小の人口規模の自治体を lつ除き、追加的に 1
0
0
0の町村をサンプノレとして②の作業を行う。以降、
自の自治体を加え、再び 1
5
6
3本の推計式から 1
5
6
3個の q を
この作業の繰り返しによって、最終的に 1
得る
(
4
)
lny二
戸 +alnx+ε
y
歳出総額、 x
人口規模、
p
定数項、 ε 誤差項
0
0
0
作業手順は、町村部を例にして説明されたが、市部については、町村部で 1
とある小グループの大きさを 200とした上で、 4
7
1本の推計式から 4
7
1個の q を推
計した。このように、小グループ。こ、との線形近似の連続によって関数全体の形状を
捉える手法は、 l 本の回帰モデルで全体を表現する先行研究よりも妥当であると考
える。なお、小グループのサイズが町村部と市部で異なっているのは、相対的に前
者で極端な値が多いことから、個別の影響力を低下させて、より安定的な係数を得
るための処置である。各推計モデノレの分析結果は割愛し、日の推計値とその t値を
図 2で示した。また、分析段階で標準誤差には Whiteの一致推計量を用いている。
この作業 の替わりに、 2562にある町村を人口を小さい方から単純に 100ずつ区分し、 2
5の 日 を算 出し
てみた。しかし、それでは、原子力発電所 を立地する 自治体や、大規模な公共事業が発生した個別 自治
体の影響 を除去することができず、推計結果の大半が有意 とならない。また、日 も上下におおきく 振幅
し、安定的ではなかった。
3
PAGE5OF1
9
図 2 日の推計値と人口規模の関係
(
b
) 市部
(
a
) 町村部
α=ゆ"
W
i
y
/
x
)
使ゴ油会占/州
0.
7
1
.
4
0
.
6
0
.
5
0.
4
0
.
3
0
.
2
0.
1
お旧L
人
4
.C
l
l
J
人
ラ旧聞人
う却瓜
注)中央の実線が係数。薄い色の実線が、 2標準偏差で示される 96%の信頼区間。
図 2は、縦軸に q とその信頼区間、横軸を推計で用いた小グノレーフ。ごとの平均人
口 (X) としたものであり、そこから得られる重要な情報は、町村部で叫が 1を超
えていないものの、市部では、人口規模が非常に大きい場合に叫が lを超えている
3
)から、日が lとなる人口規模を超えてしまうと、限界費用が
という点である。式 (
平均費用を上回ることになり、規模を大きくすることで歳出の効率性が低下してし
まう。つまり、現時点で、人口規模を小さくすることで支出削減を期待できる都市
が存在しているのである七
2
.
3 合併効果の臨界点 Ipop
」
本
支出削減が市町村合併の政策目的であるとするならば、合併後の人口規模が pop
より小さいことが、政策効果を得るための lつの十分条件となる。この、平均費用
と限界費用の比によって定義される臼が lになる pop を推計するにあたり、日が人
口規模に対して概ね右肩上がりであることを考慮して、日が lを超えることのない
5
)を回帰分析する
町村部を対象から外して市部に分析対象を限定し、式 (
4
5
推計した日を利用して、平均費用関数を描き出したととろ、ハーシュ (
1
9
7
9
) が指摘した鍋底を確認
することができ、彼の指摘が日本にも適用可能であることがわかった。
ここでは、簡便化のために、個別自治体の人口
xが小グループの人口規模 X に与える影響は限りなく
I
X
/
o
x Oだと考える。
小さく、日
二
PAGE6OF19
日二戸 +
μX +ε
印
(
5
)
式(
4
)の回帰分析で算出された、各小グノレーフ。ご、との値o
X : 推計で用いた各小グループごとの平均人口。
回帰結果から、右辺の各係数と t 検定の有意性確率は、戸 ~o.
5
7
6
0(
0
.
0
0
) 、μ =
0
.
0
0
0
0
0
2
4
9(
0
.
0
0
) である。また、自由度調整済み決定係数は 0
.
6
6
3、F検定は 1%
水準で有意である。これらから、叫が l となる pop を(1s
)
/
μ で求めると、 1
7万
2
8
1人と算定された。先行研究では最適人口規模について、 l人あたり歳出総額を従
8
8
)が 1
2万人、林(19
9
8
)が 1
3
.
3万人と推計して
属変数とする分析から、中井(19
いる。これらの分析では、すべての市区町村を分析対象としているが、原因・川崎
(
2
0
0
0
)が指摘するように、政令指定都市など、提供される公共サービスの水準が制
度的に異なる自治体を比較することは妥当でないであろう。そこで、本稿は、原因・
2
0
0
0
)の指摘を踏まえて、公的供給財の供給水準が異なる政令指定都市、東京
川崎 (
特別区を除外し市部のみを分析対象としている。また、
q
と人口の関係を推計する
時には、極端なデータによる影響を緩和しつつ、連続的な線形近似によるアプロー
チを採用していた。こうした分析上の特徴によって、市制における最適な人口規模
7万と既存研究より大きくなったが、これは、より妥当な推計結果を求めたもの
が1
と考えている。
なお、ここで求められた popは、合併政策が支出削減効果を得るための目安とし
て利用できる。なぜならば、合併後の人口が pop を超えるならば、 l人当たり費用
が上昇することになり、長期で見た場合でも支出削減が期待し難し、からである。最
悪の場合には、合併特例措置として交付された補助金を回収することすらできない
であろう。
ただし、非常に小さな自治体が編入されるようなケースで、合併後に自治体の人
口が pop を超えたとしても、差し引きすると、平均コストが下がるような組合せが
生じうるので、 pop の制約は、あくまで十分条件であり、必要条件ではない点に留
意が必要である。
3
. 期待する合併と発生する合併
1965 年 3 月 29 日 ~2001 年 1 月 25 日の期間で実際に発生した市町村合併を類型化
すると、合併後の人口規模が 2
0万人を超える“編入"が全体の 4割以上であり、合
PAGE7OF1
9
併後の人口規模が 5万人に及ばないような小規模の“編入"は全体の l割に満たな
しJO また、市制の自治体を含まない町村同士の“合体"は、全体の 17.3%でしか
ない。したがって、過去に実現した合併事例は、ある程度の規模を有する都市が、
さらなる拡大を目指す過程で市町村合併が生起する場合が多いといえように 2節の
7万人であるとすれば、大きな都市の合併から
分析結果から、最適な都市規模が約 1
支出削減を期待することは難しく、過去の合併は、必ずしも支出削減に効果的では
なかったことになる。そこで、以下では、合併協議会の設置を「現在進行形の合併」
と捉えることで、どのような市町村が合併に対して積極的であるのかを考察し、現
在の制度を前提とした場合に、合併による支出削減を効果的に達成しうるのかを検
討する。もし、今後とも、大都市中心の合併劇が続くと予想されるならば、現行制
度は、支出削減としづ政策目的に適切ではないと結論することになろう。
3
.
1 分析モデル
いま、ある地方自治体(ないし代表的住民)にとって合併すること、ないし合併
協議会を設置することから得られる便益を k とする。まず、 kは、自治体の「人口」・
「面積」としづ環境変数から影響を受けるものと考えられる。人口がある程度大き
い自治体には、政令指定都市、中核市、特例市などへの昇格が望めるなど心理的な
合併の便益がある。また、合併特例債が合併後の人口に応じて増加することは、合
併の財政的な便益と人口の関係を示唆している 8 他方で、面積については、自治体
昇格について面積要件があるわけではなく、さらに、合併特例債でも明示的に考慮、
されないなど、人口に比べると合併に対する効果が不明瞭である。しかしながら、
基礎的な変数である面積が合併の便益へ与える効果は興味深く、実証分析によって
明らかにする必要があろう。また、合併の便益は、地方自治体の財政事情にも影響
を受けるであろう。合併特例法の財政優遇措置を考えれば、財政的に困窮する自治
体ほど合併による補助金を期待し、合併へ前向きになるものと考えられる。具体的
に、自主財源比率と起債制限比率を地方財政の健全性を示す尺度とすると、自主財
源率が低く、起債制限比率が高いほど合併協議会を設置し、合併を実現することの
便益が相対的に高まるであろう。しかしながら、この直観的な仮説には異論がある。
9
9
3
b
) は、市町村合併が市町村財政の悪化の減少関数である
横道・村上(1993a、 1
日本稿の投稿 は
、 2001年 5月である。
7合併後の人口には、 1
9
9
8年データを利用しているので合併時のものではない。
8人 口 に よ る 上積 みには制限があるので、一方的な上昇を促すものむはない。
PAGE8OF1
9
こと、すなわち、財政が健全であるときに合併が生じる傾向にあることをマクロの
時系列分析から指摘している。本稿は、ミクロのクロス分析によってこの点を再検
証することになる。以上から、合併からの便益を、上記 4つの変数の関数として式
(
6
)のように設定する。
え=f(pop,
,
a
r
e
a
,
,
or
,r,kisai
,
)
a
r
e
a : 面積)、
0庁
(
6
)
自主財源比率(地方税収/歳出総額)、
k
i
s
a
i :起債制限比率(%)
人口、面積、自主財源比率、起債制限比率は、いずれも自治体に固有の変数であ
るが、自治体が合併から得られる便益は、周辺自治体との相対的な関係にも依存す
るであろう。例えば、近隣の自治体が合併すると、自分達の相対的な地位が低下し、
人口の流出や小売業販売額の低下などが危倶されるであろう。また、いわゆる横並
9
9
9年に合併し、
び意識が作用するとも考えられる(例えば、兵庫県は、篠山市が 1
柏原町・氷上町・青垣町・春日町・山南町・市島町が合併協議会を設置している)。
そこで、
「危機感ダミー」としづ変数を導入し、この点を考慮する。
え=f(pop,
,
0陀 ai , or~ , kisaii , Di )
D
(
7
)
危機感ダミー(該当~l)
危機感ダミーは、 1
9
8
5年 1月から 2001年 1月 2
5日までに合併ないし合併協議会
設置などの活動が、同一県内において“複数"存在した都県を l、それ以外をゼロ
とする変数であり、茨城県、栃木県、埼玉県、東京都、静岡県、兵庫県、香川県、
5 日時点で
熊本県がこれに該当しているむにこのうち東京都だけは、 2001年 1月 2
合併協議会を設置している自治体を有していなし、。というのも、あきる野市、西東
京市が相次いで合併してしまったためである。
危機感ダミーには、上記の解釈だけではなく、都道府県が独自に提供する合併支
援策の差異が現出したものと理解することもできる。例えば、合併が喫緊の課題で
あると判断した都道府県は、金銭的に評価できないような制度的サポートを実施し
ており、それが都道府県の格差を作り出している可能性もあるへとすれば、
「
危
81
9
7
9年 2月 (加 古川市)から 1
9
8
5年 3月(広 島市)の聞で合併した自治体が皆無であることから、昭
和 40年代の合併ブームが 1
9
7
9年 2月で終思したものと判断した。
日山下 (
2
0
0
0
)は、地方政府の超過課税について近隣自治体の横並ぴ意 識 の 有意 性を示している。
2001年 3月以降の事例を数多く吉むならば、都道府県別で合併支援本部の効果を測定することも可能
むあろう。この烹は、データの蓄 晴 を待って別稿に譲る。
l
1
1
PAGE9OF1
9
機感ダミー」は、都道府県の危機意識が顕在化したものと考えることもできょう。
8
)のように定式化する。
これらの設定に留意し、式(7)を観測できない便益として式 (
え= X,
s+μ
1
(
8
)
X,
は、既に言及した合併の便益へ影響を与える変数であり、戸はその係数である。
μ
1は、観察できないが既知の分布を有する値とする。ここで、自治体が合併する時
9)となる。
には、合併の便益がプラスでなくてはならないので合併の条件が式 (
X,
s+μ > 0 Q μ ,
>-X
,
s
(
9
)
ただし、合併の便益 k,を実測することはできない。観測できるのは、合併協議会が
9
)が満たされて合併協議会が
設置されたか否かという事実だけである。そこで、式 (
設置された場合を l、それ以外をゼロとする観測値院で代替する。
w,l
二
ず
μ,
>-X,
s
w, O
ず
otherwise
二
(
10
)
なお、 X,
sは指示関数 (indexfunction) と呼ばれるものである 12 式(10)で w, lと
二
なる可能性 p,
は
、 μIが X,
sよりも大きい領域に入る可能性として理解することが
できるので、 μ
1の累積分布関数を Fいとすれば式 (11)のようになる。
p, 1-FJ-X,
s
J
(
1
1
)
二
ここで、 μ
1が対称的に分布するならば p,FJX
,
s
Jとなる。同様な仮定から、 w, O
二
二
となる可能性 q
,
は
、 q
, 1-FJX,
s
Jとなる。
二
従属変数を、観測できない合併の便益 k,
から、観測できる二値変数 w,
へ置きかえ
たことで、二値選択モデルとなり、 Fμを特定化すれば最尤法に基づいた推計を行う
ことができる。ここでは、ロジスティック分布を仮定するので、尤度関数は、
二
日 [F(X,
s
)
j
[
I-F(
X,
s
J
]
"
L
(
12)
これを対数変換することで式(12
.1
)となり、最尤推定法によって係数 p
を求めるこ
とになる。
工{
w
,
l
o
gF(
X,
s
J+(1-w
,
)l
o
g
[
l
-F(
X,
s
J
]
logL=
(
12
.1
)
実際のデータで w, lとなる自治体は、表 lに一覧としてまとめた 13 また、代議制
二
'
"
日r
eene(
2
0
0
0
)は、本稿のようなモデルを指示 関数モデル(indexf
u
n
c
t
i
o
nmodel)として整理してい
t
i
l
i
t
yf
u
n
c
t
i
o
n
) という名称の方が直観的
るので、それに従った。しかし、確率的効用 関数 (randomu
にはわかりやすいかもしれない。その場合には、協議会を設置 した場合の便益と、設置 しない場合の便
益を比較して行動が決定されるようなモデル設定になるが、分析手法は同じである 。
0
0
1年 2月
'"茨城県水戸市と常北町がま安置 した合併協議会は、実質的 に 頓 挫 し て い る (日本経済新聞 2
PAGE10OF19
民主主義において最終的な決定権を有する行政が、住民からの請求によらずに合併
協議会を設置したケースについてはこれを区分し、もう lつ の 従 属 変 数 (z)を用
意した(表 1の 4
2から 7
6
)
工{z,logF(X,
s
)+(1-z,
)
l
o
g
[
l
-F(
X,
s
)
]
}
(
J2
.2
)
logL=
なお、ロジスティック曲線の累積分布関数は非常に簡便な形へ書き直すことができ、
)のように表されることになる。
合併協議会を設置する可能性は式(J3
=
己
五
(
J3
)
R 二日X,
s
)
表
1 合併協議会を設置している自治体
主
1
2
3
4
5
8
7
8
9
1
0
1
1
1
2
1
3
1
4
1
5
1
6
1
7
1
8
1
9
2
0
青森県
階 上町
茨 純明
県
栃 木県
栃 木県
常北 町
佐野市
小山市
栃 木県
栃 木県
図沼町
葛生 町
緒玉県
朝霞市
緒玉県
緒玉県
埼玉県
埼玉県
埼玉県
を木市
和光市
新座市
富士見市
上福岡市
埼玉県
埼玉県
山 抽黒
山梨県
山 朝早
大井町
三芳町
八 田村
山 朝早
山梨県
山 製唱
若草町
櫛形 町
白根 町
芦安村
甲西町
2
1
2
2
2
3
2
4
2
5
2
6
2
7
2
8
2
9
3
0
3
1
3
2
3
3
3
4
3
5
3
6
静岡県
清水市
雪 知県
愛 知県
費 知県
豊川市
音 司事 T
一宮町
費 知県
愛 知県
兵 庫県
小板井町
御j
堂町
柏原町
兵 庫県
兵庫県
氷上町
青垣町
兵庫県
兵庫県
兵庫県
3
8
3
9
4
0
4
1
r
r
4
2
4
3
4
4
4
5
4
6
4
7
4
8
4
9
ブサーム
青森県
八戸市
茨柑l
早
茨 城県
世 塙l
黒
水戸市
つ〈ば市
牛堀町
世 塙l
黒
茨城県
栃 木県
潮 押T
茎自
前T
栃木市
5
8
5
9
6
0
6
1
6
2
6
3
6
4
6
5
品腎
香川県
引田町
香川県
香川県
香川県
白黒戸
了
大畑 T
埠田町
香川県
香川県
香川県
大川町
主、開T
寒川町
香川県
長崎県
長尾町
厳 原町
埼 玉県
日 埼 玉県
浦和市
大宮市
春日町
山南町
市 島町
5
1 埼 玉県
5
2 静岡県
与野市
静 岡市
樫 山時
6
7 畏崎県
岡山県
岡山県
香川県
香川県
香川県
川上村
八東村
内 世T
土 問T
池田町
5
4 山口県
下松市
新 商R
覇市
能主担T
福岡県
福岡県
沖縄県
宗像市
玄海町
{中里村
7
0
7
1
7
2
7
3
7
4
7
5
7
6
沖縄県
真書
'
11
村
日
日
日
山口県
山口県
山口県
5
7 山口県
鹿里担T
防
防
長 崎県
6
9 長崎県
美j
豊島町
豊玉町
峰町
長崎県
畏崎県
舵本県
舵本県
舵本県
上県町
上対馬町
上村
免田町
岡原村
舵本県
舵本県
項恵村
探田村
3
.
2 ロジット分析の結果
分析データの記述統計量は表 2、分析結果は表 3にまとめである。
まず、分析結果から市部と町村部の行動様式の違いとして、自主財源率と面積で
係数の符号が異なることを指摘することができる。 t検定で有意性を棄却されるも
のを除くと、市部では自主財源率が高く、面積の大きい自治体で合併協議会が設置
される確率が高くなり、対照的に町村部では、自主財源率が低く、面積の小さい自
26 日)などの指摘もあるが、ここでは、活動へのムーブメントを観察することに主眼があるので、既
成事実によって線引きを行うことで問題はないと考えた。
PAGE11 OF19
表
ム
ロ i
人
〉
平均
最
中位大値
標小準偏
最
値差
歪Bt
突E
度
2
記述統計量
j
j
j
j
!
l(
k
m
2
)
1
0
8
5
7
日7
7
6
5
3
8
1日
7
8
7
5
8
5日
日2
8
2日
1
1
18
8
4.
8
日
2
.
3
5
自 民l
己主!!:lì虚 ~
1
5日 3
1
1
0
7
.
1
2
1
2
3
1
.
1
3
5
.
1日
1
4
7
.
6
8
2日l
1
3
.
5
7
観測値
配置置lIlIl比率1il;盛時乏ミー
日3
8
日3
8
日7
2
日日 3
日1
5
日日7
2
.
1
8
6
5
8
1
0
.
8
8
1
1
.2
日
2
4日
4.
1日
2庁7
日日3
3
.
8
4
日2
4
日日日
l日
日
日日日
日4
3
8
.
4
8
8
.
5
日
2
日3
日
2
.
8
日
2
.
8
日
日日4
3
.
2
7
日l
日
日日日
l日
日
日日日
日3
7
1
.8日
1
.2
1
2
.
4
6
町村部
平〉
中位値
最大値
最小値
標準偏差
歪Bt
突度
{
則値
1
0
7
5
5
.
2
0
8
1
8
日5
0
5
2
8
1
2日
1
8
3日
8日2
5
.
2
5
1
.6
6
日1
6
1
0
3
.
8
8
日3
.
4
日
1
4
日8
.
1日
1
.2
7
1
2
7
.
1日
3
.
5
2
2
1
.
3
4
1
.4
2
5日4
2
5
日2
4
.
4
7
4
果
析
分
表
従属変数
日1
8
日1
4
日8
5
日日 l
日1
4
モデノレ1
モデノレ2
協議会設置w/o{
主民発議
協議会設置
12.611
2.640*キ〈
9
.323
1
.794制 同
0.0000009 O
.
O
O
C開 21
0.00000080.0000023
0.003
0.001*
0.004
0.002
8.011
2.462制 同
8.173
3.323
O
.1
0
2
0.092
0.305
O
.1
2
9
危機鳴ダミー
1481
0.688
1.902
0.509
サ L ブル数
658.00
対 数 尤 度関数
4
3
.56
76.97
制限付き対数尤度
55.91
96.39
口
1
i-squared/有意 水 準
24.71
0.00
38.84
O
.00
従属変数 ~O
647
636
1
1
2
2
主墨率塾二よ
定数項
人口規模
面積
自主財源比率
起債制限比率
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
E
P
主
従属変数
モデノレ3
モデノレ4
協議会設置w/o{
主民発議
協議会設置
5
.794
1
.0
4
3*キ〈
4.768
0.667制 同
0.00001940.0000427
0.0000083 0.0000222
0.006
0.004
0.006
0.003
0.071
1
.513
6.072
3.325
0.082
0.051
O
.138
0.076
危機鳴ダミー
2794
0.466*場〈
1.954
0.297
サ L ブル数
2
5
6
2
.0
0
対数尤度関数
1
1
3
.1
0
234.45
制限付き対数尤度
135.98
261
.84
口
1
i-squared/有意 水 準
4
5
.7
7
0.00
54.80
O
.00
従属変数 ~O
2538
2508
54
24
主墨卒誕二よ
定数項
人口規模
面積
自主財源比率
起債制限比率
*
*
*
*
*
*
注) 1 分 析 手 法 M
ultinomialL暗 i
tModel
!
MaximumLikelihoodEstimates
2 表 3で 各 モ デルに 関する f
直は 、左 か ら 「 係 数 標準 誤 差 有意水準」と並んでいる。なお、
水準、
各 係 数 の 有意性 は 、 係 数 を そ の 標 準 誤 差 で 除 し た 擬 似 的 な t検定によるもので、材木 1%
5%水 準 、 *:10%水 準 で の 有意性 を そ れ ぞ れ意 味している。
*
*:
PAGE12OF19
治体で確率が高くなっている。説明変数としての人口に統計的な説明力が乏しいの
で、中核都市や特例市などを目指す自治体で合併が進みやすいという仮説は実証で
きなし J ものの、市部の合併は、財政的自立が可能であるような自治体が、さらな
る「規模の経済」を追求する形であるのに対して、町村部では、規模の小さい限界
的な自治体が合併しがちであるものと解釈できるであろう。面積の効果が対称的と
なった原因について考えてみると、住民が自治体として一体感を持ち続けるために
は一定の距離的な限界があり、とりわけ住民間の交流密度の高い町村部でその意識
が重要となるものと考えられる。
次に、起債制限比率が協議会設置確率に与える影響 をみると、その符号は一貫し
てプラスであり、財政状況の困窮が合併を促す可能性を指摘できる。これは、横道・
村上(1993a、 1993b) が、地方財政の良好な時に市町村合併が発生しがちであると
した結論を否定するものである。ここでの分析は、一時点のクロス分析で個別自治
体の財政事情からアプローチしており、彼らの分析との比較は容易でないが、個別
自治体の財政が苦しいほど合併が生起しやすいとしづ本稿の結論は、合併に大規模
な財政的優遇措置が含まれている点を考慮すれば、地方政府の行動様式から合理的
に解釈することができるであろう。ここで、横道・村上(1993a、 1993b) との翻酷
がどこから生まれノたのかを考えてみる。中央政府は、統一地方選挙の実施年に併せ
て景気を上昇させ(政治的景気循環)、地方政府は、地方選挙と合併を同時期にす
ることで地方議員の円滑な選出を促すものと考えてみよう
1
5
すると、好景気によ
る自然増収と合併発生の聞にプラス相関(見せかけの相関)が成立することになる。
また、合併による公共事業増が景気を後押しするならば、彼らの解釈は、原因と結
果が逆転している可能性もある。したがって、地方財政の良好な時に合併が増える
としても、それを「市町村の財政状況に合併の負担に耐えるだけの余裕があること
が必要とされる(横道・村上 [1993a、p76J)J と判断するのは早計である。むしろ、
本稿のようにクロス分析により、経済状況を一定と見なした上で財政状況と合併の
関係を相対的に分析すべきであろう。
他の視点からもう一度起債制限比率を見てみると、市部・町村部の双方で、住民
発議によらない場合 (w/o 住民発議)でのみ有意になっている点が興味深い。起債
制限比率は、その値が 20%を超えると破産自治体として、地方政府の自主的な起債
"人口の二乗項、人口 2
5万前後の自治体ダミーなどを壁入しても結果に影響がなかった。
o
(
1
9
9
3
a
) で指摘されている。
,横 道 ・ 村 上
PAGE1
3OF1
9
が制限され、
「準用財政再建団体」となってしまう 16 また、自主財源比率につい
ても、住民発議によらずに合併協議会を設置した町村部でマイナスに有意であるな
ど、地方政府がより財政指標に敏感に反応していることを示唆している。
3
.
3 危機感と面積
危機感ダミーについては、 4 つの推計モデルの全てで統計的に有意であり、近隣
自治体に対する横並び意識、ないしは、合併に対する都道府県独自の対応の成果を
確認することができる。現実に目を移すと、 2001年 4月の時点で、 47都道府県すべ
てが市町村合併の区割り案を含む合併推進要綱や素案を作成している。これまでも、
都道府県は、合併した自治体に対して支出金の増額など事後的な支援をしてきたが、
区割り案の策定にまで踏み込んできたのは非常に大きな変化である。過去の上意下
達的な合併劇が深刻なコミュニティー聞の摩擦を生み出してきたことから、国・都
道府県は表面的な活動を控えてきたが、それだけに今回の積極性は、地方行財政改
革がどれほど喫緊の課題であるのかを自治体に意識させるメッセージとなるであろ
う。そこで、分析に導入した危機感ダミーの効果が全国的に広がるものと仮定し、
これが協議会設置の確率へどの程度までインパクトを与えるのか明らかにする。な
お、危機感ダミーの影響を考察するに当たり、面積の変化についても併せて考慮す
る。これは、協議会設置確率に対する面積の影響は、市部と町村の 2つのモデノレお
いて統計的に有意であること、さらには、実証分析から面積の拡大が町村部におい
て合併の抑制要因となることが指摘されており、危機感の高まりがこの影響をどの
程度まで克服しうるのかは、非常に興味深いものと考えたからである。
危機感を比較するために、協議会設置確率を以下の 2つの式について求める。式
.1
)は、危機感ダミーの効果が全くない場合に合併協議会が設立される確率を示
(
14
.2
)は、危機感ダミーの効果が発生した場合の確率を示すも
すモデルであり、式(14
のである。
D=O
X,
s=b,
+b,
pop+b,
area+bprr+ん
おs
a
z
(
14
.1
)
D=1
X,
s=bc+b,
+b
,
pop+b,
area+bprr+b
,
k
i
s
a
i
(
14
.2
)
ここへ、 p
op、 o庁
、 k
i
s
a
iの各平均値を代入すると、これらの値を一定の仮定の下
におくことができる。その上で、
area については、 2 つの式ごとに、1O ~300 平方
キロメートノレまで 1
0刻みで変化させた値をそれぞれ求める。なお、式(14
.1)と
日準用再建団体は総務省の指嘩 に基づき起債が許可されるが、 自主再建を選択することも可能である。
l
PAGE14OF19
(
14
.2
)の h
Jは、市部については表 2のモデルム町村部についてはモデル 4から得
られた最尤推定量をそれぞれ代入する。ロジットモデノレの特性から、ここで求めら
れた値を式(13
)へ代入すれば、合併協議会の設置確率となる。まず、モデノレ 4から、
町村部における「確率へ置換された値」をプロットしたものが図 3 (町村部)であ
り、縦軸が協議会設置確率、横軸に面積をとっている。
.2
)か ら算出された合併確率の推移、下方は式
図中の 2本の線のうち上方は式(14
.1
) から算出されたものの推移であり、危機感ダミーの有無がコントロールされ
(
14
ている。モデル 4で与えられている推定量の符号から、①危機感ダミーは協議会設
置の確率を上昇させることと、②面積の拡大は協議会設置の確率を低下させること
が分かつており、図 3もその傾向を示している。ここで注目すべきは、危機感ダミ
ーの効果が、面積の増加に伴って低下している点である。面積が非常に小さい自治
体にあっては、危機感が強まることで
8%も協議会設置(合併)の確率が引き上げ
るが、面積の大きい町村にあっては、危機感の変化が確率へ与える影響がわずかに
2%程度になってしまう。ここから、たとえ、制度的な枠組みや合併素案を提供しで
も、町村部にとって面積による制約(抵抗感)は非常に強く、合併への気運が醸成
されにくいことがわかる。
図 3 協議会設置確率に対する危機感ダミーの効果と面積の関係
(町村部)
(市部)
協築達霊Z
醇
協義謹空軍醇
1
2
!
1
2
!
円¥¥
日
四
0
.
0
1
9
7 t F 1
得│
危総経セタミ =
1
E
i
!
0
.
0
0
7
<
!
2
!
0
広
l
「十CI!
=E呂222冨呂君主三 EEE22222量55255525言
語
=E昌吉 22=EEE三EEE222225552E552EE量
小-ーーーーーーー面 積 (附) 1
1
0平方コド
ローーーーーー+大
小-ーーーーーーー 面積 (
k
市
) 1
1
0平方コド口---ーー時大
しかし、後者の場合には、起債が著しく制限される 。
PAGE15OF19
同様に、図 3 (市部)では、市部について協議会設置の確率を面積の推移ととも
にプロットしている。そこでは、確率が面積の増加関数であることを再確認できる。
また、面積が大きくなるほど、危機感ダミーの効果も大きくなる様子が見て取れる。
つまり、危機感が高まることで、より面積の大きい市部ほど協議会を設置する可能
性が高くなる。
4
.
目的・手段・効果
本稿の目的に立ち返り、ロジット分析の結果か ら統計的な有意性を認められるも
のについて解釈すると、以下の 2点に要約される。①自主財源率の高い市部で合併
協議会の設置確率は高くなる。また、②合併に対する危機感が強くなると、面積の
大きい市部でより積極的になるが、面積の大きい町村部では消極性が維持される(協
議会設置確率が殆ど上昇しなし、)。これ らか ら、③現行制度の下で、将来に合併へ
積極的になる自治体は、面積が大きく自主財源率の高い自立した市部、それと、面
積の小さい町村であると推察される。以上のような現状認識から、合併特例に基づ
く財政措置のあり方について 2つの政策提言を行いたし、 17
提言(1)
合併後の人口が 20万を超える自治体は、中核市、特例市に昇格できるー
方で、合併特例による財政措置を受けられない。
2
)
提言 (
複数の市区町村が合併し、人口が 20万人に満たない場合には、合併する
自治体の面積に応じて財政措置を行う。
最適都市規模の議論を念頭に置きつつ、市町村合併の政策目的が支出削減である
とすれば、町村部の合併こそが期待されるのであるから、合併後の人口が十分に大
きくなる大都市の合併には財政措置を控えるべきである。たしかに、表 2では、住
民発議によらずに合併協議会を設置した「市部」の起債制限比率が高いことが示さ
れており、財政措置が都市部でも合併促進効果を発揮することは否定できない。し
かし、市部で合併に積極的な自治体は相対的に自主財源の大きな団体であること、
また、支出削減への寄与が小さいことを考慮すれば、提言(1)は妥当なものであろう。
また、町村部における「面積」の問題は重要である。将来に、市町村合併の必要
,
7最適 人口
1
7万人と推計し、政策提言 が 20万人を区切りとしているのは矛 盾 であるが、特別市へ昇格
する際の要件に人口 20万人以上という規定がある こ とから、現行制度になじみやすい値 を選択した。
PAGE1
6OF1
9
性が意識されるようになったとしても、面積の大きい町村部では合併の気運がほと
んど高まらず、消極性が維持されてしまう。規模の効率性から合併の必要性を認め
るとしても、面積の非効率性が存在するために合併が進みにくいのである。もし、
7万以下)が増えないとすれば、政策目
支出削減を期待できる合併(合併後人口が 1
的を果たすことができないのであるから、政策効果(合併促進)を引き上げるため
2
)が指摘するように、面積の拡大に対する財政的な優遇措置が必要であろ
に、提言 (
う。しかしながら、現行の合併特例法による財政措置では、人口の変化に強く配慮、
する一方で、面積を明示的に考慮、していないのである。
視点を変えると、行政区の拡大が住民のデメリットにならないような施策を工夫
0
0
1年 8月にま
することも有効であろう。例えば、内閣府の市町村合併支援本部が 2
とめた『市町村合併支援プラン』にあるように、郵便局や農協、コンビニエンス・
ストアで行政サービスを提供する施策などは、僻地となることを危倶する住民の不
安を取り除き、円滑な合併を{足す効果があるかもしれない。
5
.
まとめ
本稿の目的は、市町村合併の政策目的を支出削減であると考えた上で、その政策
効果を検証することであった。まず、そのために、地方政府の歳出において、 l 人
7 万であることを
あたり歳出が最低になるような人口規模を回帰分析によって約 1
指摘し、支出削減が可能となる市町村合併には、人口による制約が存在することを
明らかにした。ひるがえって、現実の市町村合併の動向を観察してみると、中核都
市を目指す大都市と、財政的に切迫した小町村で合併への動きが存在していた。ま
た、ロジット分析の結果から以下の点が指摘された。①自主財源の高い市部で合併
協議会の設置確率は高くなる。また、②合併に対する危機感が強くなると、面積の
大きい市部でより積極的になるが、面積の大きい町村部では消極性が維持される(協
議会設置確率が殆ど上昇しなし、)。これ らか ら、③現行制度の下で、将来に合併へ
積極的になる自治体は、面積が大きく自主財源率の高い自立した市部、それと、面
積の小さい町村であると推察される。以上の現状認識から、本稿では、合併特例に
基づく財政措置のあり方について以下の 2つの政策を提言した。(1)合併後の人口が
2
0万を超える自治体は、中核市、特例市に昇格できる一方で、合併特例による財政
2
)複数の市区町村が合併し、人口が 2
0万人に満たない場合
措置を受けられない。 (
には、その面積に応じて財政措置を行う。これらの修正によって、合併による支出
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削減としづ政策目的をより安価に達成できるものと期待される。
これまで、市町村合併のデメリットとして指摘されるのは、もっぱら「地方自治」
の損失や、選挙への参加率の低下など支出を伴わないコストであり、合併の政策コ
スト、つまり合併特例法に基づく財政措置の負担などは考慮されずにきたように恩
われる。また、支出削減についても、その期待ばかりが大きく、政策効果が評価さ
れることもなかった。しかし、現実を見ると、例えば、さいたま市のケースでは、
合併特例債として約 6
6
0億円の起債が認められ、その 7害1
'
が地方交付税で賄われる。
6
0億円の補助金が配分されることになるのだが、
つまり、約 4
『政令市になれば事
業も増えるから、職員数は増えることはあっても減ることはなし、~ 1
8というのが行
政職員の実感であり、支出削減が非常に限定的にしか期待できないことが伺える。
国庫としづ非常に限られた財源から補助金が捻出されていることを意識すれば、政
策目的と政策効果について検討し、より安価な合併政策のあり方を考える必要は大
きいであろう。
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