自殺死亡の高齢化要因・社会経済要因と余命に及ぼす影響

自殺死亡の高齢化要因・社会経済要因と余命に及ぼす影響
Aging - socioeconomic factors and influence on remainder of one's life of suicide
金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
Yoshihiro Kaneko(National Institute of
Population and Social Security Research)
E-mail:[email protected]
報告要旨:
自殺統計(警察庁「自殺統計」)によれば、日本の年間の自殺者数は、1998 年に急増し
てから 14 年間 3 万人を超える状況が続いたが、2000 年前半以降、厚生労働省の自殺うつ
病等防止対策や各省庁の自殺防止の取り組みにより、2011 年の自殺者数は 3 万 651 人と、
1998 年の急増以降初めて 3 万 1 千人を下回った。しかし、先進諸国の中では日本の自殺
死亡率はロシアやバルト諸国とともに高い水準にあり、その結果、国別・地域別では、日
本人女性の平均寿命は 2010 年まで 26 年連続世界一だったが、2011 年は香港を下回り 2
位となった。日本人男性も 4 位から 8 位に順位を下げた。性別に見ると職場のメンタルヘ
ルスと自殺防止対策が進み、男子の自殺が低下した反面、女性の自殺は減少していない。
本研究では、日本の自殺死亡・自殺死亡率の推移を高齢化要因と社会経済的要因に分け
て分析するとともに、地域差の考察と国際比較をすることにより日本の自殺死亡の特徴を
考察する。また、高齢化要因と社会経済的要因が日本の自殺死亡・自殺死亡率に及ぼす影
響の実証分析の結果を利用して、自殺うつ病対策やこれを含む健康長寿対策が進められる
ことにより日本の男女別平均余命がどの程度変化するかについて考察する。
実証分析では、失業率と自殺率との関連性は男女別・年齢階級別に異なることが先行研
究から知られているので、本研究では、男女別・年齢階級別の複数時点からなるプールさ
れたクロスセクション・データを用いた実証分析を行う。従属変数には、厚生労働省『人
口動態統計』男女別・年齢階級別(20 歳以上 65 歳未満までの 5 歳階級別)の自殺死亡率
(人口 10 万人対比率)を用いる。説明変数には、総務省統計局『労働力調査』(各年版)に
よる男女別・年齢階級別の失業率の対前年変化率(今期の失業率-前年の失業率/前年の
失業率)、総務省統計局『家計調査年報』各年版による世帯主の年齢階級別の世帯負債比率
(世帯主の年齢階級別の世帯負債額/世帯の経常収入)、厚生労働省『国民生活基礎調査』
の「ストレスの要因別・ストレスを感じている人の割合」
(男女別・年齢別)を用いる。推
定では誤差項の系列相関、不均一分散性、固定効果等を考慮した推定方法を用いる。
自殺うつ病対策等により日本の男女別平均余命がどの程度変化するかの影響については、
「平成 18 年版国民生活白書」で用いられている無障害平均余命の計算方法を応用して分
析する。