躍進する中東航空会社の活動の分析 2013/07/17 欧州コンサル

躍進する中東航空会社の活動の分析 2013/07/17 欧州コンサル 中東航空会社の急激な台頭は、欧州を中心とする競争相手が、湾岸諸国の国家補助金、有利な規制、安
価な燃料を非難することとなった。 今般、中東航空会社の経営戦略、政府との関係、拠点空港との関係を調査し、どのようにしてこれほど
急激に成長できたのかを分析し、彼らの成長が国際航空市場に与えた影響を突き止めることにより、競争
相手が中東航空会社に対して唱えた主張の正当性の検証もあわせて行った。 【 中 東 航 空 会 社 の 戦 略 、 ビ ジ ネ ス モ デ ル 】 中東航空会社の経営戦略は、管理しやすいコストベース、有利な規制環境、伝統的な競争相手に比べて
「クリーンスレート(まっさらな状態)」であることをもとに、急速な成長と拡大を追求する典型的特徴
がある。また、その戦略は国家戦略と密接につながっており、湾岸諸国の過去20年間の記録的成長を押し
上げ、成長に貢献するとともに、特に欧州、アジア、アフリカ、オセアニアの中間点となる地理的位置に
あるという利点を活かしてきた――世界の人口の90%が、アラブ首長国連邦(UAE)やカタールから直行便
で飛行できる範囲にいて、インドや中国の重要な成長市場には2.5時間の飛行時間で到達する。われわれは
以下、湾岸の主要航空会社3社のビジネスモデルを順次検討する。 1 . エ ミ レ ー ツ 航 空 ドバイに本社のあるエミレーツ航空は、中東の主要航空会社3社のうち、最古参かつ最大規模で、湾岸の
航空業の大規模な拡大と1990年代以降の同地域の目覚ましい好況の象徴だった。エミレーツ航空は1985年
に、ドバイの王族が提供した初期資本1000万ドルで設立され、2012-13年度には3900万人を輸送し、7億7100
万ドルの利益を計上した。 エミレーツ航空の戦略は、長期的成長を視野に入れながら、素早く競争相手に仕掛ける大胆な拡張に基
づいていた。初期は、ドバイ発カラチ、ムンバイ、デリー行きなど、他の航空会社の便が通過する路線ま
たは他の航空会社の便が不十分な路線の運航を通じて成長を遂げた。次に、目的国がエミレーツ航空を既
存航空会社の脅威にならないと受け止める他路線で、運輸権(traffic right)を大胆に追求した。 受け入れ国は、エミレーツ航空が保有機群の少ない、市場への浸透度の低い、国際舞台で重要性の乏し
い弱小航空会社であるとして、大きな競争相手になることを見通せず、喜んで、将来的に競争相手となる
同社に空港使用を認めた。エミレーツ航空は1991年までに、シンガポール、ドイツ、香港、タイ、英国と
ドバイとの間で、運輸権の獲得に成功した。いずれもその後の20年間、同社の成功にとって重要な市場と
なった 。 同社の成長は1990年代に一層加速し、1994年には目的地33ヵ所の路線網を有し、6億ドルの収益を上げた。
2000年までに、目的地は45ヵ所に拡大し、航空券の販売高は10億ドルを上回った。 この成長の中心的要素は、燃費が良く、機体幅の広い新型機の購入を通じて、エミレーツ航空の保有機
群が急拡大したことである。同社は、1996年にボーイング777の早期導入に踏み切ったことで、ノンストッ
プで11-12時間の運航が可能になり、双発機の燃費の良さを活かした効率改善と高い旅客輸送能力を得つ
つ、世界的な営業圏を大きく拡大した。これは、エミレーツ航空の他の保有機群にも当てはまり、年数が
浅く、幅広の機体ですべて構成され、その中には超長距離の777-200LRなどの様々な777のモデルや、エア
バスA330、A340、A380などの多様なモデルが含まれる。この機体保有戦略は、旅客1人当たりの単位コスト
が多くの競争相手を下回ることにつながるほか、貨物輸送能力も向上し、貨物輸送で旅客からの収益を補
って、1飛行当たりの収益性を一段と高めることができる。マーケティングの観点からも、エミレーツ航空
は、新技術と最新鋭機をいち早く導入する会社として売り出すことで、時代の最先端として自社を位置づ
けた。 また、ほぼ長距離サービスしかないエミレーツ航空の路線網では、旅客がドバイで別の長距離便に乗り
換えることが多く、既存の魅力ある2つの運航を接続させて、さらに効率を高めることができる。例えば、
英ニューカッスル発ドバイ行きの便で、UAEが最終目的地の旅客もいるかもしれないが、その便の旅客が第
6の自由(sixth freedom)の権利 により別の便に乗り換えられることで、サービスの魅力が一層高まる。 単純なニューカッスル-ドバイ路線への需要は、限られた復路の利用を生み出すのにとどまるが、アジア、
オーストラリア、アフリカへの乗り継ぎの需要は、追加利益を生み出せることから、収益性が高まること
になる。 さらに、このハブのアプローチは都市のペアをつくり出す――そうでなければ、実現不可能で採算に合
わないだろう。ニューカッスル発ドバイ行きの便では、クアラルンプールまで乗り継ぎたい旅客は10人に
とどまるかもしれないが、この需要を他の以遠の目的地に向かう旅客の需要と結びつけることで、あるい
は同様に他の出発地からドバイに到着する旅客の需要と結びつけることで、ドバイ及び以遠の路線で、利
益が出るようになる。 このアプローチは、欧州のハブ航空会社が取ったものに似ている。欧州の航空会社は、短距離と長距離
のサービスを組み合わせて、同じように都市のペアで収益性を生み出し、1つの出発地から行ける目的地の
1
数を極大化した 。ただし、この2つの戦略が異なる点は、欧州のハブ航空会社が非効率な短距離路線の大
半を採算に乗せるため(このような路線の大半が赤字)、長距離路線に頼ったのに対し、エミレーツ航空
の(もっぱら)長距離と長距離をつなぐモデルは、複数の魅力的な長距離路線を組み合わせて、さらなる
利益と成長を実現しようとしている点である。 エミレーツ航空はまた、特に米国向けに、第5の自由の便も運航している。エミレーツ航空の航空機は、
ドバイ-ミラノ-ニューヨークのように、まず欧州の空港に向けて運航し、米国に向けて継続する。この
場合、旅客はドバイまたはミラノで搭乗でき、ミラノまたはニューヨークで降機できる。エミレーツ航空
はこれで、ドバイ-ミラノ、ミラノ-ニューヨーク、ドバイ-ニューヨークという、他の形では利用客不
足で維持できないであろう3路線から同時に恩恵を受けられる。 エミレーツ航空の保有機群と路線網で達成される費用効果はさておき、同社のビジネスモデルはまた、
他の費用優位にも依存する。一部は後の章でより詳しく取り上げるが、ビジネスモデルの要となっている
ことは、ここで論じる価値がある。 多くの点で、エミレーツ航空の費用構造は、欧州の格安航空会社のそれに似ている。実際、ゴールドマ
ン・サックスの2004年の調査は、エミレーツ航空の1席当たりの費用が、ブリティッシュ・エアウェイズ、
ルフトハンザ、エールフランス-KLMよりも、ライアンエアーに近いと結論づけた。1席当たりの利益もラ
イアンエアーに近く、ルフトハンザの2倍、ブリティッシュ・エアウェイズと比べても5分の2大きかった。
この費用面の優位は、格安航空会社と似た基盤――低い人件費、保有機群の最大利用、空港との有利な関
係、最新の燃費に優れた航空機から成る比較的均質な保有機群の運航――のもとで実現した。実は、2000
年から2010年までの10年間に、営業利益率がエミレーツ航空を上回ったのは、ライアンエアーだけで、エ
ミレーツ航空の10.6%に対し、ライアンエアーは21.1%だった。エミレーツ航空はこの費用効果により、自
社のフライトの旅客イールドを高め、収益に対する費用を極小化することで、収益性を一層高めている 。 2 . エ テ ィ ハ ド 航 空 アブダビに本社を置くエティハド航空は、2003年に設立されたUAEの国営航空会社で、史上最も急速に成
長した航空会社でもある。旅客数は2004-05年度に200万人だったのが、2011-12年度には1100万人に増加、
2011年には初めて1400万ドルの利益を計上した。2012年の利益は4200万ドルで、前年比200%増加した 。 エティハド航空のビジネスモデルは、3つの航空連合(ワンワールド、スターアライアンス、スカイチーム)
のいずれかに参加することを目指すのではなく、組織的成長、コードシェア、提携航空会社の少数株式保
有を組み合わせることを特徴としてきた。 エティハド航空の目的地(旅客及び貨物)は2004年に17ヵ国だったのが、2012年に86ヵ国に達した 。同
社の路線網は、欧州、アジア、アフリカ、オセアニアの都市のペアを結ぶ「世界の地理的中心」というア
ブダビの位置を活用しようとしている 。インド亜大陸では、エティハド航空の便の運航数が多く、2013
年にはインド航空会社のジェットエアウェイズに資本参加して、さらに強化した。 エティハド航空の創業時は既に、エミレーツ航空が地域内で成熟した支配的地位を得おり、次第にグロ
ーバル市場でも支配的地位を得つつあった。エティハド航空は世界の舞台で足場を固めるため(ドバイに
本社を置く競争相手とは異なり)、自社との間で補完的な意欲を持つ他の航空会社から選んで提携する戦
略を追求した。この提携手法には、コードシェアと資本参加の両方が含まれる。 エティハド航空は現在、アメリカン航空、サウジアラビア航空、アリタリア、海南航空、トルコ航空、
ANAなど他の航空会社との間で、40を超えるコードシェア協定を交わしている。最近は、エールフランス-
KLMや南アフリカ航空との間で、注目すべきコードシェア協定を発表した。前者は特に、湾岸航空会社に対
する大手欧州航空会社の態度の変わり方を示している。欧州の大手航空会社は以前、中東航空会社を敵視
していたが、エールフランス-KLMがエティハド航空と提携したのは、アブダビ経由で路線網を拡大し、サ
ービスの選択の幅を広げることが可能であると認識したことを表している。一方、エティハド航空は、旅
客と貨物合わせて338の目的地のネットワークと、1週当たり約1万4000便の運航を提供するコードシェア協
定を利用してきた。この規模は、中東の他のあらゆる航空会社を上回る 。 次のステップは、エティハド航空が自ら喧伝する「戦略的資本提携(strategic equity alliance)」で、
これにより航空会社数社の少数株式を保有している――セーシェル航空(40%)、エアリンガス(2.987%)、
エアベルリン(29.21%、筆頭株主)、ヴァージン・オーストラリア(9%)、ジェットエアウェイズ(40%)。
エティハド航空は2013年6月、セルビアのヤット航空との間で、同社の少数株式投資につながる了解覚書
(MOU)に調印し、欧州域内市場にさらに足がかりを得ることになる。 コードシェアリングによって、エティハド航空は、地理的困難や、エミレーツ航空などの他社との既存
の激しい競争のため、自社主導の発展が難しい路線で、座席数と収益を増やすことができる 。コードシェ
アと戦略的提携のネットワークは、2012年3-8月期にエティハド航空の路線網に80万人の旅客を送り込み、
2億8100万ドルの寄与を達成した。 エアリンガスとの提携は、ダブリン経由で北欧や英国に至る航空路へのアクセスをエティハド航空に与
え、費用効果で勝るエミレーツ航空と競争できるようになった。エミレーツ航空は、マンチェスター、グ
ラスゴー、ニューカッスルなどの英国の数都市に運航している。より規模の小さいエティハド航空が自力
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で運航できない旅客数が少なめの路線である。しかしエアリンガスとの提携で、エティハド航空はダブリ
ン経由でこれらの都市にアクセスできるようになった。エティハド航空とエアリンガスは、エアリンガス
のダブリン-米国路線でもコードシェアを実施し、エティハド航空の運航範囲が最小限の費用で拡大して
いる。 同様に、エアリンガスは、アブダビ以遠のエティハド航空の目的地にアクセスする恩恵を受ける。特に
オーストラリアは、アイルランド系の移民が多数居住し、エアリンガスは、アブダビからシドニーやメル
ボルンに向かうエティハド航空の便で、コードシェアを行っている。エアリンガスはこれにより、限られ
た保有機群と欧州周縁部にハブのある小規模航空会社ではまったくアクセスできない目的地に到達でき
る 。さらに、エティハド航空とヴァージン・オーストラリアの提携は、エティハド航空と、その延長線上
でエアリンガスの両方に、オーストラリア国内市場へのアクセスを与える一方、ヴァージン・オーストラ
リアには、提携しなければ実現できない世界的なネットワークが与えられる。 3 . カ タ ー ル 航 空 カタール航空の成長も、エミレーツ航空やエティハド航空の成長のアプローチや軌跡と似ているが、戦
略に伴う国家建設の要素が大きいだろう。カタールは、広範なガスの埋蔵にもかかわらず、かつては国際
的にあまり目立たなかったため、最近まで、グローバルビジネス、観光業、外国投資に関して、UAEに後れ
を取っていた。カタール航空はカタール国家が50%を保有しており、ガスからの富を背景に、小国をグロー
バルビジネスの一大ハブに成長させる国家構想の重要な一部を成す。 カタール航空は当初1993年に設立され、その後1997年に再び設立された。2011-2012年度には、約1700
万人の旅客を輸送するまでに成長した。これは、エミレーツ航空やエティハド航空に似た路線や保有機群
の追求を通じて実現したが、特に欧州とアジアに注力し、質の高いサービスの提供を強調した。このイメ
ージが、カタールのマーケティングの核心にあるが、実際には、「友達連れや家族連れ」の旅行者も、自
社の路線に熱心に呼び寄せようとしている。 カタール航空の全体的な目標は、高品質のサービスで市場における地位を獲得しつつ、最大手ではなく、
中東航空会社の大手の一角として定着することにある。同社のアクバ・アル・バクルCEOは、カタール航空
は、規模ではエミレーツ航空に次ぐ湾岸第2位の航空会社の地位を保つため、エティハド航空と戦いつつ、
他社のサービスの標準や水準を測る指標となる航空会社になることが目標だとした。 カタール航空はまた、UAEの航空会社よりもニッチを狙うアプローチを追求し、エティハド航空やエミレ
ーツ航空が無視したアジアの客数の少ない路線で運航している。カタール航空は、欧州や南米路線の一部
で単通路のエアバスA320を運航するほか、座席数が少ないが航続距離の長いボーイング787を世界で初めて
運航した航空会社の1つである。ボーイング787は、「旅客が少なめの路線(thinner routes)」で、効率
改善を通じて収益性を高める設計になっている。 カタール航空は、中東路線でも UAE の航空会社より目立っており、中東域内のフライト座席数に占める
割合は 27%と、エティハド航空の 23%、エミレーツ航空の 14%を上回る。 輸送能力では、カタール航空の上位10路線のうち5つが、ドバイ、クウェート、バーレーン、アブダビ、
ダンマンと、中東域内で占められる。この地域的な存在感の大きさは、世界だけでなく、中東で政治大国
として立国しようとするカタール政府の取り組みの特徴であろう。より外向きのUAEと対比される。 エミレーツ航空とエティハド航空が、世界規模の連合体制に背を向けたのに対し、カタール航空は最近、
そのような消極的姿勢を改め、ブリティッシュ・エアウェイズの後押しを得て、ワンワールドに加入した。
ワンワールドは3つの連合のうち最も緩やかで、カタール航空は、独自の成長計画とサービス基準を保つ一
定の自由を得られつつ、広範に連携した連合の路線網、特にカタール航空の存在感がUAEの競争相手より薄
い米州やアフリカへの路線で、恩恵を受けられる。カタール航空をワンワールド内に取り込んだことで、
連合の他の主要航空会社(ブリティッシュ・エアウェイズ、アメリカン航空、イベリア航空など)は、エ
ミレーツ航空やエティハド航空と競争するための橋頭堡を湾岸地域に築くことができる。 [中東の航空会社と政府の関係] 湾岸の航空会社と政府の関係は、成功のかなりの部分で鍵となってきたが、競争相手から強い批判を浴
びるもととなった。この関係の中心には、航空会社の所有、資本へのアクセス、税制・規制、UAEとカター
ルの経済開発戦略がある。 【所有と資金調達】 湾岸の主要航空会社3社はすべて、事業立ち上げの際に政府支援を受けており、100%または一部が国有化
されている。また、政府が航空会社の戦略、業務、経営をどの程度支配するかについては、航空会社によ
って違いがある。 エミレーツ航空は、ドバイ政府が出資した資本金1000万ドルで設立され、2機のボーイング727と、エミ
レーツ訓練学校などのインフラ投資8800万ドルを受けた。エミレーツ航空は、ドバイ政府の独立投資部門
3
であるドバイ投資会社が100%保有する。会長兼CEOは、王族のアハメッド・ビン・サイード・アル・マクト
ゥーム殿下で、ドバイ民間航空局長官やドバイ空港会長も務める。 エティハド航空は、アブダビ政府が100%保有しており、2003年に勅令で設立された。エティハド航空の
取締役会会長は、王族のハマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下で、アブダビ皇太子裁判所の
所長及びアブダビ投資庁長官でもある。 カタール航空は国営だが、カタール政府が株式の50%を保有し、残りの株式は民間投資家が保有する。同
航空会社は当初、民間会社として設立されたが、1990年代末の再設立が後の成功の地ならしとなった。政
府が同航空会社の株式を引き受け、経営の支配権を握った。 民営化の選択肢が2008年に提起されたが、その前に100%国有でなければならないとの奇妙な結論が出た。
この話はその後尻すぼみになったが、アル・バクルCEOはしばしば、民営化は同航空会社が黒字化した後の
ことで、おそらく2013年に行われるだろうと話している 。カタール航空は定期の決算発表をしていないが、
2010-11年度は大幅黒字を計上したと伝えられる。翌年度は小幅な赤字だったという 。 国有が不当な優位を与えているとの批判に対しては、エミレーツ航空は、1985年以降の23億ドルの配当
金支払いが、ドバイ政府の初期投資(上述)を返してなお余りあると指摘した。同航空会社は、業務面は
完全に独立しており、政府と経営陣からは、同社が独立採算で利益を出すことと、株式公開企業ではない
が、国際会計基準(IFRS)に準拠して監査済み決算報告書を発表することを明確に求められているとも主
張した 。 OECD諸国の輸出信用機関からの支援がさらに、中東航空会社の拡大の基盤となった。輸出信用機関は通
常、半政府機関で、資金調達のアレンジを支援して輸出を促進する。この支援は、信用保険や保証、直接
の金融支援の形を取り得る。 エティハド航空は2009年に、エアバス343-600を2機、エアバス330-300を3機、ボーイング777-300ER
を3機購入する資金を調達するため、米国(ボーイング機向け)、英国、フランス、ドイツ(エアバス機向
け)の輸出信用機関から、可能な限り最も高い評価を得るとともに、10億ドルの融資保証を受けた。エア
バスによると、このような資金調達は、2008年以後の金融危機で民間資金が干上がった際に、非常に人気
が高まり、輸出信用機関の資金調達の寄与度が、航空機の売上高の3分の1に達したという。 航空機購入の低コストの資金調達手段として、輸出信用の資金調達を用いる点は、欧米の航空会社から、
自分達を犠牲にした湾岸航空会社支援であり、強力な財務体質と政府支援を受けている湾岸航空会社には
必ずしも必要な支援ではないだろうと批判された。欧米の航空会社は、欧州航空会社が米国の航空機を購
入する場合や、逆の場合でも、同じ資金調達を受けることはできない。 欧米航空会社のグループは2010年に、輸出信用による資金調達について、航空機の販売価額の20%を上限
とするよう求め、信用の条件も商業融資より不利になるようにすべきだとした。これが、リスクプロフィ
ールに基づき、融資に対して支払われる手数料を引き上げた2011年2月のOECD決定につながった 。 信用格付や保証を受ける前に、エティハド航空の監査済み財務諸表、事業計画、運航実績などの企業デ
ータは、同社が採算ラインに達し、商業的使命を果たす力があるかどうかを見極めるため精査される。エ
ティハド航空のジェームズ・ホーガンCEOは、輸出信用機関の前向きな意見は、同航空会社がUAEやアブダ
ビ当局からソブリン保証や特権を受けていないことを認めたことになると述べた。 一方、エミレーツ航空は、「(エミレーツ航空の)保有機群のうち、輸出信用機関を通じて資金調達し
たのは、20%にすぎない。(中略)エミレーツ航空の費用面の優位は主に、より高い従業員の生産性から生
じている」としたドイツ銀行の調査を挙げる 。同航空会社はさらに、「エミレーツ航空は、輸出信用の資
金調達に関して、あらゆる航空会社が等しく資金調達にアクセスできるべきだとする考えに同意し、一部
の形の資本コストを引き上げた2011年2月のOECD決定を支持した」と主張した。 【税制と規制】 湾岸諸国の財政・規制制度も、湾岸航空会社の成功の一因に特定されている。UAEは、石油会社や銀行を
例外として、国内で行われる活動に所得税や法人税を課さない。そのためエミレーツ航空やエティハド航
空にとっては、大きな費用節減が生じる。エミレーツ航空は、納税義務軽減のおかげで、年間2億5000万ド
ルを節減していると推計される 。 これは、中東航空会社の競争相手から批判を浴びる的となっている。競争相手は、湾岸航空会社が受け
る税制上の恩恵が、不当な優位を与えているとしている。例えばエミレーツ航空はこれに応えて、UAEに法
人税がないのは、湾岸地域全体や、実は世界の他の多くの地域と同様であると指摘した。同社は続けて、
アメリカン航空がより低い州税の恩恵を受けるため、1979年に本社をニューヨークからテキサス州フォー
トワースに移転したことや、とりわけドバイ着の便を運航する他のどの航空会社も、ドバイでの業務に課
税されていない事実を指摘した。同様に、税金は利益に対してのみ課せられるため、外国の多くの航空会
社が赤字であるため、実際には自国でも課税されていないとも指摘した 。 4
同じく、湾岸諸国の割安な労働コストは、不均衡な優位であり、さらには商業的成功を収めるための労
働者の搾取であると、他の航空会社から批判されてきた。特に、湾岸諸国はインドやパキスタンに近く、
UAEやカタールの経済全般に当てはまるとおり、航空会社は安い労働力のプールを利用できる 。湾岸諸国
が安い外国人労働力に依存する点は、建設部門や接客業を中心に、低賃金と劣悪な労働条件――労働時間、
生活条件、社会的保護など――のため批判されてきた 。 これらの極めて現実的な懸念は、湾岸航空会社への批判に拡大した。オーストリア航空の元CEO、Peter Malanik氏は、「雇用法がドバイにない」のは、「児童労働によって作られたTシャツのようなもの」と批
判した。エミレーツ航空はこの批判に応えて、何千人もの従業員に対し、同社に長年精勤する意欲が出る
「優れた労働条件」を提供していると表明した。また、税や社会保険の引き下げが、一見すると、航空会
社が安い労働力を活用して高成長を得る機会となっているように映るかもしれないが、実際は、従業員が
世界各地から中東に移住する動機づけとなる、競争力のある報酬体系を打ち出す余地を航空会社に与える
もので、そのうちの20-30%は追加的な社会的便益になると指摘する。同社は、自国で100ドル稼ぐパイロ
ットの例を挙げ、そのうち30ドルは課税により国に納付されるが、ドバイなら、エミレーツ航空がパイロ
ットに70ドルの給与を支払い、医療、教育、運輸、住宅、年金に30ドル上乗せすることで、より魅力的で
効率的な提示になるとした 。 湾岸航空会社は、欧米航空会社が排出量、汚染、騒音管理に関する厳しい法律に従わなければならない
のに比べて、緩い環境規制から利益を得ていると非難されてきた 。極めて重要なのは、EUを中心とする世
界の他地域の当局が、化石燃料使用を減らし、代替エネルギーに誘因を与える立法措置を通じて、化石燃
料消費の削減を目指す中で(燃料価格の全般的な上昇が航空業界に打撃を与えてもいる)、湾岸航空会社
は、石油の豊富な国の政府から、無償または補助金付きの燃料を得られる特典があると、競争相手から非
難されていることである。 UAEとカタールに、EU、米国、日本の規制と同程度に広範な航空分野の持続可能性規制がないのは、明ら
かである。UAEの連邦環境法 とカタールの環境保護法 はいずれも、工業工程、陸上輸送、炭化水素の採収
からの排出や汚染を扱う面が強く、それも軽い取り上げ方にとどまる 。加えて、次章で検討するとおり、
湾岸地域の空港は、欧州や他地域の一部のハブのような業務制限を受けない。 しかし、湾岸の航空会社は、最新の静かで燃費の良い保有機群に投資することで、業務の持続可能性を
確保する措置を講じていると述べている。エミレーツ航空は、「平均年数が5年の若い保有機群と、100旅
客人キロあたり4リットル未満の平均燃料燃焼(average fuel burn)――大半の最新の小型車より優れて
いる――のおかげで、(排出量は)ICAOのグローバル機体群の平均より30%低い」 と主張する。 この測定基準は年次環境報告書に示されており、エミレーツ航空は、同社の環境パフォーマンスと改善
策を述べて、標準的な業界慣行の先を進んでいると主張する 。エティハド航空も年次報告書で、燃費と業
務の効率改善に向けて取った措置と、航空用代替燃料を開発するためのバイオエネルギー研究投資を詳し
く述べている 。 この保有機群の特徴は、確かに湾岸航空会社の環境パフォーマンスや経営成績を高めるが、世界の他地
域の航空会社がドバイ、アブダビ、ドーハ行きの便を運航する際に、同じ軽い規制に従うように、湾岸航
空会社が欧州、北米及び他地域で運航する際は、もちろん競争相手と同じ規制の多くに従わなければなら
ないと主張することもできるだろう 。 特に、石油価格上昇が競争相手の航空会社の経済状態に及ぼす影響を踏まえると、燃料の問題は、中東
航空会社の成長に関して、最も物議を醸しやすい問題かもしれない。中東の石油がもたらす富が、1980年
代以降のこの地域の急成長の主たる原動力となったことや、湾岸諸国の政府、国営石油会社、航空会社の
緊密な関係を考えると、湾岸航空会社の成長は、無償または補助金付きの燃料の入手によって説明し得る
ことが、容易に見て取れる。 半面、それが真実だと示唆する一般公開された証拠は、ほとんどない。逆に、湾岸の航空会社は、燃料
に対価を支払っており、競争相手と同等の価格で業界標準のヘッジ業務を行っているとして市場を安心さ
せようと躍起になっている。 エミレーツ航空は、いくつかのメッセージ文書で、ドバイ政府から有利な燃料条件を受けてはいないと
明言している。同航空会社は、燃料は営業費用の最も大きな部分を占める(2010-11年度は34.4%で、実際
にブリティッシュ・エアウェイズやルフトハンザより高い )と主張し、燃料の主な購入先はBP、シェル、
シェブロンであって、ドバイ政府ではないと指摘した。同航空会社はまた、ドバイ自体が石油の豊富な国
ではなく、微々たる埋蔵量と限定的な精製施設しかないと指摘し、エミレーツ航空との契約が他のすべて
の顧客航空会社のものと同等で、同様の価格であり、補助金付きや無償の燃料ではないことを上記石油会
社が確認した文書を提示している。エミレーツ航空はさらに、世界中の空港での燃料コストを比較したデ
ータも提示し、シンガポールが実はドバイより安く、香港は同水準で、フランクフルト、ヒースロー、ロ
サンゼルスがわずかに割高だと指摘した 。 エティハド航空も自らの立場について、国際信用市場で示された信頼が、アブダビ政府やUAE連邦政府か
ら有利な燃料条件を受けていない証だと主張する 。同航空会社は2012年の年次報告書で、やはり燃料を最
5
大の費用に挙げた。ただし、同航空会社がヘッジをかけた燃料の量は、2013年が76%、2014年が38%、2015
年が16%となっている。カタール航空だけは、燃料関連の批判に対して、控えめに対応している。財務諸表
の定期開示をしない方針を取っていることが、その理由かもしれない。 【経済開発戦略】 上述のとおり、中東航空会社は、政府の所有者や支援者から一定の独立を与えられているが、その成功
が本国にとって戦略的重要性を持つことは明白である。UAEとカタールはともに、運輸、特に航空が、国の
成長や開発の戦略的推進力だと特定している。両者の地理的位置は、世界の人口の大多数が直行便で届く
範囲にある。また、交易の要衝としてのペルシャ湾岸地域の伝統から、湾岸諸国は航空ハブとして発展す
る上で、理想的に恵まれている。 この戦略的構想こそが、中東の航空会社と政府の関係を最も良く説明する。航空接続の発展を通じて与
えられた接続性により、湾岸諸国では貿易が拡大し国内産業が発展し、さらには航空会社の成長が景気に
直接的な効果を及ぼすことになった。このプロセスを促進するため、政府は、国内航空会社の発展を優遇
するとともに、当初はそれらの業務を支援しながら、オープンスカイ政策で、地域内に他の航空会社をも
誘致する政策を定めた。航空会社の独立性と採算性へのこだわりは、航空会社が経済の中心的存在である
ことや、空会社の破綻が及ぼす悪影響を踏まえた持続可能な開発に対する政府の見方の一角を成している。 オクスフォード・エコノミクスの2011年の調査(エミレーツ航空が委託)は、ドバイの航空部門が12万
5000人の雇用を支え、直接の雇用、地元企業からの財・サービスの購入、同部門就業者の直接間接の支出
を通じ、ドバイのGDPに117億ドル寄与していると論じた。さらに、航空旅行がもたらす観光客の支出で、
13万4000人の雇用と79億ドルのGDPが支えられ、航空の「接続性の便益」(対内直接投資と人材の誘致、ビ
ジネスクラスタの実現、専門化及び他の波及効果)が、ドバイのGDPにさらに25億ドル寄与している。航空
がドバイ経済にもたらす全体的な便益は、25万人の雇用と220億ドルのGDPと推計される――雇用全体の19%、
GDPの28%に相当する 。 一方、アブダビでは、航空は、「極めて重要なクラスタ産業であり、多様なグローバル経済を下支えす
る、成功する自由市場活動の根本的な推進力」と特定されてきた 。エティハド航空も、オクスフォード・
エコノミクスの数字を引用し、同社単独で2012年のアブダビのGDPに23億ドル寄与し、(仕入れ先の企業を
通じた)間接的な寄与は12億ドルとしている。エティハド航空が2012年に誘発した経済寄与分(直接及び
間接の従業員の支出)は11億ドル、同航空会社が触媒となった経済寄与分(接続性の改善を通じた他産業
への影響)は61億ドルだった。 全体では、航空会社は、2012年のアブダビのGDPの107億ドル、非石油GDPの10.5%に寄与した。2017年に
は、これが193億ドルに伸びる見通しで、最も大きな成長の源泉は触媒効果である。同航空会社は、経済開
発のための「プラン・アブダビ2030」で、雇用機会の創出や労働者のスキル向上の媒体として、同国の持
続可能な開発に寄与する際立った存在として取り上げられている 。カタール航空も同様に、同国のガス埋
蔵量をもとに持続可能な成長を図るハマド・ビン・ハリーファ・アール・サーニ殿下の構想の一角を成す 。 この戦略的アプローチは、国際航空業界から、中東が航空ハブとして成長する重要な強みと認識されて
いる。国際航空運送協会(IATA)のトニー・タイラー事務総長兼CEOは、「湾岸地域は、航空に対する大き
な構想ゆえに繁栄した。ここの政府は、経済を推し進める接続性の力を理解しており、その理解をもって、
政府は、低税率と世界規模のインフラを伴った、航空輸送にとって事業しやすい環境をつくり出した」と
述べている。 [ 中 東 の 航 空 会 社 と 空 港 の 関 係 ] ドバイ、アブダビ、ドーハの空港は、中東航空会社の成長にとって不可欠な部分だった。空港容量に加
え、空港使用料の有利な枠組みや、航空会社、空港、政府の事業面のつながりにより、中東航空会社は、
効率的でアクセスしやすいハブの恩恵を受けながら、成長できた。 ドバイ空港は、会長のアハメッド・ビン・サイード・アル・マクトゥーム殿下が、エミレーツ航空の会
長兼CEOでもあり、エミレーツ航空の成長の後を追い、促進するように、1990年代半ばから一貫して拡張し
てきた。ドバイは現在、国際輸送量で世界第4位の空港で、5770万人をわずかに下回る規模の旅客を扱って
おり、2013年には6540万人に増える見通しである。ドバイ空港は2012年4月から2013年4月にかけて、世界
の空港の中で最大の規模拡張を行い、75万7000席を追加した。エミレーツ航空がそのうち61%を占める 。 エミレーツ航空の成長は、有利な空港使用料体系に支えられた。ドバイ空港の着陸料は、競争相手が本
国の空港で課せられる着陸料に比べてはるかに安く、例えばヒースロー空港を50%下回る。一方、エミレー
ツ航空のティム・クラーク社長は、アハメッド殿下が航空会社と空港の両方で会長に就いている恩恵だと、
隠さず認めており、両者が「互いに豊かにする」ことができると主張した 。 エミレーツ航空は、ドバイのグランドハンドリング・サービスについても、ドバイ空港唯一の業者であ
るDnata社(エミレーツ・グループの他企業)がもたらす恩恵を受けているという。同航空は、「独占営業
権者(single-concessionaire)」モデルが、韓国、香港、シンガポールや他の国々でも実施されているが、
欧州航空会社から同じ批判を受けていないと主張する。エミレーツ航空はさらに、ドバイのグランドハン
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ドリング・サービスに対し、他のどの航空会社とも変わらない手数料をDnata社に支払っていると主張した。
同社によると、ドバイ空港で支払われる他の手数料や税にも当てはまるという 。 他方、エティハド航空は2013年5月、別の政府傘下企業であるアブダビ空港会社から、グランドハンドリ
ング・サービス、機内ケータリング、貨物業務の3つのサービス部門を買収した。これらは同航空の子会社
のエティハド・エアポート・サービシズに統合され、エティハド航空とアブダビ空港の他の全航空会社に
上記サービスを提供する。 アブダビの席数の約70%、容量の80%を占めるエティハド航空の成長は、空港の著しい拡大を後押しした。
同空港は2012年1-9月期に1090万人の旅客を取り扱い、19.8%の伸びとなった。取り扱い貨物のトン数も
14.7%増加した 。2013年4月には、米税関・国境警備局(CBP)が、アブダビ空港に入国審査施設(preclearance facility)を開設すると発表した。同施設では、アブダビ空港から米国に向かう旅客が、出発前に米国の
入国・通関手続きを取ることができ、米国到着後の長い行列を避けることができる。エティハド航空がア
ブダビから米国に向けて運航する唯一の航空会社であるため、この点は、エティハド航空に不当に大きな
優位を与えているとして、欧米の航空会社や空港から強い批判が出ている 。 ドーハ国際空港は2012年に取り扱った旅客数が2120万人に上り、中東でドバイに次ぐ第2位の規模のハブ
となった。カタール航空が国際的な接続性に力点を置いているため、ドーハは現在、国際旅客数でみた世
界の25大空港の1つに数えられる。2013年は、同空港は約19%増の2520万人前後の旅客を扱う見通しで、2007
年に扱った旅客数の2倍以上に達する。約4分の3はカタール航空が扱い、第2位のエミレーツ航空は、座席
数でみてわずか1.1%にとどまる。カタール航空は自ら、ドーハの新たなハマド国際空港を保有する。同空
港は、国営航空の急拡大についていけなかったドーハ国際空港の代わりとして、現在建設が進められてい
る。ハマド国際空港は、当初の容量は年間2400万人だが、2017年までに5000万人まで拡張される。それが、
この新ドーハ空港の競争面の状況にどう影響するかは分からない。カタール航空の競争相手は、圧倒的立
場の航空会社が空港サービスの統括責任を負うことに、当然懸念を示すだろう 。 湾岸の航空会社は、ヒースロー、フランクフルト、アムステルダム、パリ・シャルル・ド・ゴール空港
で、競争相手よりもはるかに制限の緩い空港業務時間の恩恵も受けている。ドバイ、ドーハ、アブダビの
空港は24時間営業で、航空会社はより多くの便を運航でき、より高い効率を達成できる。エミレーツ航空、
エティハド航空、カタール航空は、1日のうちビジネスに好都合な時間(特に夕方)に欧州の空港を出発し、
夜間に中東に到着する便に、以遠の目的地まで乗り換えられるオプションを付けて、運航できる。湾岸の
航空会社はこれにより、欧州と、例えばアジアとの間で運航する他の航空会社に対し、競争することがで
きる。半面、中東の空港に夜間業務制限が敷かれれば、競争相手より不便な早い時間帯に欧州を発たなけ
ればならなくなる。 例えば、カタール航空のQR942便でブリュッセルを午後4時に発ち、ドーハに午後11時30分に到着し、午
前1時30分の香港行きQR812便に乗り継いで、翌日午後3時10分に到着することができる。代わりに、ルフト
ハンザで午後5時から午後7時30分までのいくつかある便の1つで、ブリュッセルを出発し、午後10時5分の
フランクフルト発香港行きに乗り継いで、やはり午後3時10分に到着することもできる。ドーハに夜間業務
制限が課せられれば、ドーハ空港に向けて出発する前にブリュッセルで仕事する貴重な時間を取ることが
難しくなるため、カタール航空がルフトハンザの便と競争する可能性は失われる。 また、業務制限がないことは、湾岸の航空会社がより高い機体の稼働率を達成し、収益性を高められる
ことを意味する。エミレーツ航空は、ドーハ空港が24時間営業しているため、1日平均14時間にわたって機
体を飛ばすことができるのに対し、競争相手は11時間にとどまる。1時間当たり平均15万ドルに上る航空機
の駐機費用が節減できる 。この効率は、保有機群をすべて最新の幅広の長距離旅客機にする(第1章で検
討したとおり、旅客1人当たりのコスト引き下げにつながる)ことで、一段と支えられる。 [中東の航空会社と世界の航空市場]欧州コンサル0717 【 中 東 航 空 会 社 が 世 界 の 航 空 市 場 で 躍 進 し た 理 由 】 中東航空会社の成長はもっぱら、欧州、アジア、北米の競争相手が石油価格上昇の影響や景気変動を乗
り切るのに苦戦している時期に、資金的な観点から、大胆に拡大する能力を持っていることよるものであ
るということができる。 欧州、アジア、北米の大手航空会社は、2001年9月11日の米同時多発テロの後、経営破綻、合併、統合、
輸送能力削減、連合の結成に特徴づけられる危機の10年間を経験した。湾岸航空会社は長期高度成長に目
標を定め、市場再編のため、競争の弱さをうまく利用した。こうして、エティハド航空、エミレーツ航空、
カタール航空の合計輸送量は、2004-2005年度の年平均約1400万人から、2011-2012年度の6200万人超へ
と増加した。 航空会社と政府の緊密な関係が、成長の1つの要素であることは明らかである。しかし、政府が国の優れ
たフラッグキャリアを得るために、「必要な物すべて」に資金を出しているというわけではない。 政府の支援は確かに、湾岸の主要航空会社3社が基盤を固める際の1つの要素で、特に、ドバイ政府がエ
ミレーツ航空に提供した初期資本、エティハド航空とカタール航空の国有と資金調達がそうである。エミ
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レーツ航空の場合、初期資本を自社の組織的成長の起爆剤に使ったようである。それにより、同社の所有
者は、1000万ドルの初期投資に対して、大きなリターンを受け取ることができた。エミレーツ航空は、政
府の初期の支援は配当金を通じて返還したと主張しており、2013年の年次報告書を見ると、エミレーツ航
空の所有者に帰属する利益が、2013年は6億2000万ドルに上ることが示されている 。 エティハド航空と、特にカタール航空は、そこまで業績を開示しない。しかし湾岸の主要航空会社3社が
すべて、持続可能な収益性を重視するのは、ドバイ、アブダビ、カタールの各政府が、自尊心を満たす道
具として絶えず補助金を出して維持しなくてはならないような赤字航空会社を政府資産に抱えることを容
認するつもりがないことを示唆する。 この点が、政府の長期的な経済開発戦略の一環として、以前からの伝統的な航空会社を追い抜くという、
湾岸航空会社の戦略の大きな柱の一つとなっている。欧州、北米、アジアの主要航空会社には、ここ数十
年の資金難につながる国有と規制の歴史がある。かつて自国政府から保護された企業として、多くが、競
争的で開かれた市場の需要への対応に苦しみ、持続不可能な保有機群と路線戦略から生じる複雑なコスト
構造、高い人件費、伝統的なフラッグキャリアのモデルに特徴的なその他の重荷を負わされた。この点で、
アリタリアやSASなど、国庫から資金を受け、国に一部保有されながら利益を出せない欧州航空会社と、湾
岸航空会社は、好対照をなしている。 一方、湾岸航空会社は、競争相手が抱えるような負の遺産(legacy cost)を負わない「クリーンスレー
ト」から出発できた。この点で、短・中距離路線で同様の立場から伝統的航空会社を追い落とした格安航
空会社と似ている。格安航空会社は、より単純なコスト構造やより効率的な保有機群の活用を通じて、よ
り高い収益性を達成した 。 また、湾岸航空会社と国家経済の発展における長期戦略構想の重要性に留意することが、不可欠である。
これは、中東の航空会社と政府の関係の中心的側面である可能性がある。 UAE政府とカタール政府は1980年代に、地理的位置を活用し、国際輸送の接続を土台に、自国経済をグロ
ーバルハブに発展させることに経済的な便益があることを認識した。アブダビとカタールは石油やガスの
富を頼りに、ドバイの場合はそれらがないのを補う形で、湾岸諸国はこの構想から、金融などのサービス、
国際貿易、観光の中心地として自らを位置づけることができた。 したがって、航空は湾岸諸国の開発戦略の中心的役割を担い、接続性の向上を通じて、地域の経済成長
の実現者(enabler)として役立っている。だからこそ政府は一体的アプローチを追求するようになり、航
空部門の拡大優遇策(オープンスカイ、安い空港使用料、空港容量の開発、優遇税制)が、経済開発戦略
の中心的な部分となった。 同じ戦略的アプローチは、当初から湾岸航空会社のビジネスモデルの特徴になっている。国の投資は、
事業設立時の支援を提供するが、その後は一定の経営上の独立と厳格な採算性が期待され、持続可能なビ
ジネスモデルが不可欠であることを意味した。 軸となるのが、ビジネスや観光で中東に行く/戻る際の出発地と目的地の両方の需要に応え、効率的な
ハブ体制を通じて乗り継ぐ路線構造(route structure)であり、中東の空港と航空会社をグローバルな乗
り継ぎの中核的要素として確立した。 湾岸航空会社は、路線を運用する上で第5の自由及び第6の自由の権利を活用できる(ハブなしでは不可
能)ため、それ以外の形では存在しないか、供給が不十分な市場を構築できる。最新の高効率な機体への
投資と割安なコスト構造を組み合わせて、湾岸航空会社は、競争相手が伝統的に重視してきた点やアプロ
ーチから離れ、急速に黒字化した。 湾岸航空会社が成功したもう1つの要因は、競争相手の切り詰めと対照的なサービスやもてなしの文化で、
国際的な幅広いマーケティングや宣伝を伴う。湾岸航空会社は、プライベート・スイートや機内シャワー
などの革新的なプレミアムクラスの商品で有名で、エコノミークラスでも、幅広い機内の娯楽や食事のオ
プションがある。このマーケティング戦略は、湾岸航空会社が競争相手と対照的にサービス提供を重視し、
特にスポーツチームやスタジアムの幅広いスポンサー活動を通じて知名度を獲得することになった。 そのような形で、航空会社と空港が全般に、経済危機に誘発されてサービス水準を引き下げて不評を買
ったり、格安航空会社の一部の慣行に悩まされたりしている時期に、中東航空会社は強力なブランドイメ
ージとサービス提供の恩恵を受けた。これは、低いコストベースのため導入できた競争的な運賃とともに、
より魅力的な商品や、空港から航空機、最終目的地までの全体的な旅行体験を提供することで、競争相手
との差別化を可能にした。 したがって、湾岸航空会社は設立時に国家の援助の恩恵を受けることができ、保有機群や中核事業を発
展させる上で、好スタートを切った。それが、航空会社の独自の経営判断を通じて、その後の組織の成長
や買収による規模拡大につながった。企業に親和的な規制制度は、欧州、北米、アジアの主要競争相手が
競争面で弱点を抱えたことと相まって、湾岸航空会社の事業の急激な伸長と、国際航空市場の再編の豊か
な土壌となった。
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