ロンドン公共交通調査報告 - Keio University

ロンドン公共交通調査報告
Report of public transport in London
大谷内
肇(慶應義塾大学 政策・メディア研究科 1 年)
Hajime Oyauchi
(Graduate school of media and governance, Keio University)
I am researching the public transportation system. It is important that the public
transportation system of the future come for the passenger to use it easily by cooperation of
each transportation system. In this paper , I want to compare the transportation of London
with the urban traffic of Japan.
キーワード:ロンドン市交通局,地下鉄,バス, LRT
Keywords: Transport for London, Tube, Bus, LRT
1.はじめに∼調査目的∼
現在,私は有澤研究室で鉄道・バスを中心と
した公共交通機関の運行パターンの改善につい
て研究を進めている.公共交通機関は現在ダイ
ヤを定めてそれにしたがって運行している.た
だ,鉄道もバスも限られた人的・物的リソース
の中で最善にちかい形での解として現在のダイ
ヤを制定して運行しているが,更に良い運行方
法が考えられるのではないかと推測している.
また,これからの公共交通のあり方を考える上
で,各輸送機関が密接に連携し乗客にとって非
常に利用しやすくすることが必要となる.
更に,
こうした公共交通が密接に連携する為には行政
側の都市デザインを含めた積極的な公共交通体
系導入の政策が必要になってくると考える.こ
のような状況で,最近 LRT(Light Rail Transit)
と呼ばれる次世代路面電車がヨーロッパの各都
市で導入されてきている.今の路面電車は乗降
車する際にステップをのぼりおりする必要性が
あったが,こうした LRT は低床式であり,段
差が殆どなくスムーズに乗車することが可能で
あるというのが最大の特徴であり,バリアフリ
ーを推進し,どんな方でも公共交通を利用しや
すい基盤を形成していくためには,これから重
要な役割を担っていくと考える.また,バスに
ついても同様の理由で超低床化が進行している.
こうした公共交通の未来を考える上で,地下
鉄・バスを長年運用しその規模が全世界でも有
数の都市であり,更には新交通システムや LRT
の導入にも積極的で,都心部に流入する車に対
して渋滞税を課すなど公共交通の推進に積極的
である英国首都のロンドンの都市交通の現状を
視察し,これからの日本の公共交通のあり方や
連携などについて考察を加えることにした.
2. ロンドンの都市交通状況
2.1 概要
ロンドンの交通を統括している団体として
Transport for London という団体がある.この
団体はいわばロンドン市交通局ですが,これ以
外にもバス,DLR(Docklands Light Railway)
の運営をしており更に Croydon の Tramlinkと
London river service の一部マネージメントを
実施している.地下鉄(Tube),バス,DLR は運
行スケジュールの策定を行い,実際の運行につ
いてはバスの場合は民間バス運行会社に運行を
殆ど業務委託しており(一部バスは TfL 傘下の
London Buses による運行),また DLR につい
ては実際の運行業務については傘下の
Docklands Light Railway Ltd.に委託している.
更に Tramlink は Tramtrack Croydon Ltd.が
運営・運行しており,運賃関係の配分や管理な
どで TfL が関わっている状況である.更に
Victoria Coach Station といわれる長距離バス
ターミナルの管理運営や Taxi の許認可にも関
わっている.このようにロンドンの交通体系を
一手に引き受けており,ここが運賃体系の決定
や新線の建設なども進めている.具体的にはヒ
ースロー空港の新ターミナルの建設に伴っての
新線建設やパディントン駅∼リヴァプール駅を
つなぐ路線を核とした Cross London Rail
Links やロンドンの中心部にトラムを走らせる
Cross River Tram などの計画が推進されてい
る.
2.2 料金体系
今回,この調査・取材を 2005 年 10 月に実施
した.そのため,その時点のデータをもとにし
ているが,この調査と前後してロンドン交通局
の料金改定が発表された.この原稿は料金改正
以前のデータで話をする.また,改正に関わる
内容についてはこの章の後半で解説する.
ロンドンの運賃体系はゾーン制の運賃になっ
ており地下鉄は基本的に Zone1-6 に区分されて
おり,またこのゾーン制度は DLR と一部の
Natiolal Rail にも適用されている.Zone1でい
くら,Zone をまたがるといくらということで料
金が制定されている.基本的に Zone1 の地下鉄
の運賃は 2 ポンドになっている.又,バスの運
賃は一乗車 1.2 ポンドになっている.また,1Day
Travelcard 3Day Travelcard があり,更に一週
間,一ヶ月,一年単位の定期券がある.この
Travelcard については 1Day と 3Day については
ピーク時(平日午前 4 時 30 分∼9 時 30 分)も使
える運賃とオフピーク時(ピーク時以外,土日祝
日は全日)に有効の運賃と二つに分かれており
zone1-6 の 1Day Travelcard の場合 Offpeak 運
賃が 6 ポンドにもかかわらず,ピーク時を含め
ると 12 ポンドまで値上がりする.因みに
Zone1-6 がどの区間に相当するかと言うと,ヒ
ースロー空港からロンドン中心部に地下鉄で出
る場合に相当する.参考までにヒースローエク
スプレスですとパディントン駅まで 2 等車で片
道 14 ポンドになる.
2.3 Oyster カード
また 2003 年より導入開始された Oyster カー
ドと呼ばれる IC カードシステムがある.これは
日本の Suica などと同じようにカードの中に利
用料金がチャージされ,乗車の際に引き落とさ
れるシステムになっている.バスの場合は以前
はゾーン制でしたが,今はロンドン市内であれ
ば一律料金となっているので乗車する際のみで
ある.また,トラムは乗車する前に停留所でタ
ッチしてから乗車することになっている.これ
をせずに乗車すると,係員による抜き打ちチェ
ックが入り,
その際に Oyster カードの場合でも
係員の持っている機械でチェックされて有効で
ないと罰金を支払うことになる.また,Suica
と同様に定期券の役割を果たしており,ロンド
ンでは一週間単位から定期券の扱いになってい
る.定期券の TravelCard になると,元国鉄の
National Rail でロンドンの Zone に組み込まれ
ている区間はこの TravelCard で乗車すること
ができる.逆に,プリペイド機能では National
Rail の区間は一部の区間しか乗車することが
できない.又 1DayTravelCard の役割を果たす機
能として,Oyster Pre Pay capping という制度
がある.これは一日の乗車金額がそのゾーン内
で決められた金額に達すると自動的にそれ以上
は引かれなくなるという機能である.ただし,
この場合でも 1DayTravelCard で乗車できる
British Rail のうちかなりの路線で利用できな
いので,それらの路線に乗車する際にはあらか
じめ通常の 1DayTravelCard を購入するか別途
乗車券を購入する必要性がある.ちなみに
Oyster カードで乗車した場合,地下鉄の Zone1
の一乗車料金が1.7ポンドと30ペンス安くなる.
また Zone1-6 の料金の場合,通常運賃は 3.8 ポ
ンドになるが,月曜日から金曜日までの 6 時 30
分から 19 時 30 分までは 3.5 ポンド,その他の
時間帯・曜日は 2 ポンドとなる.
写真 1 Oyster カードの検札の模様
乗車券種類
普通料金(片道)
切符
Oyster Pre Pay
平日 6 時 30 分 それ以外の時
ゾーン
から19 時まで 間帯・
土休日
Zone1
£2.00
£1.70
£1.70
Zone1-6
£3.80
£3.50
£2.00
一日乗車券
1day Travelcard
Oyster Pre Pay
Peak
Off-Peak
Peak
Zone1-2
£6.00
£4.70
£6.00
Zone1-6
£12.00
£6.00
£12.00
Peak:平日 4 時 30 分∼9 時 30 分の朝ラッシュ時間帯に乗車開始
Off-Peak:平日の 9 時 30 分以降に乗車開始,土日祝日の終日
回数券
カルネ
10 枚組
£17.00
(Zone1 のみ設定)
capping
Off-Peak
£4.70
£5.70
表 1 ロンドン地下鉄・一日乗車券の料金抜粋
尚,2005 年 10 月 4 日にロンドン市長より
乗車体系を現金より Oyster カードに移行
させる為に運賃改定が行われると発表され,
2006 年の 1 月 1 日より施行されている.こ
れによると地下鉄の Zone1 の運賃が現金の
場合 3 ポンドに値上がりする代わりに,
Oyster カードで決裁した場合は逆に 1.5 ポ
ンドになるとしており,Zone1 だけでいえ
ば二倍もの差がつく形になる.バスの場合
は 12 月までが現金で 1.2 ポンドのところ,
1 月からは現金では 1.5 ポンドになり,
Oyster カードの場合は平日の朝 6 時 30 分
から 9 時 30 分までは 1 ポンド,それ以外の
時間帯は 0.8 ポンドに据え置かれる.既に
ロンドンの地下鉄の 5 割の乗車,ならびに
バスの 4 割の乗車が IC カードによるもので
あるとの説明であるが,現在はこのカード
は主に定期券の利用であり,通常の乗車も
IC カードに移行していくために今回の料金
改定をするとのことである.これにより,
Oyster カードで乗車する乗客にとっては,
実質的な値下げにつながるが,逆に Oyster
カードを所持しない人間,特に TravelCard
も利用しない一回乗車の観光客などに対し
ては大幅な値上げとなるので,TravelCard
を利用するように宣伝していくか,観光客
に対しても Oyster カードを積極的に利用
していく施策が必要になると考えられる.
3. 利用実態∼視察を通じて∼
今回の調査では地下鉄,Bus,LRT の三
種類の交通機関を中心に現状を把握し、日
本の現状と比較した.
3.1 地下鉄(Tube, London Underground)
現在,地下鉄は 12 路線で運行されており
一日の平均乗降客数は 2004 年度で 270 万
人を数える.路線名を挙げると
・ Bakerloo ・Central ・ Circle
・ District ・East London
・ Hammersmith&City ・Jubilee
・ Metropolitan ・Northern
・ Picadilly ・Victoria
・ Waterloo&City
となる.
写真 2
地下鉄の様子
ロンドン市内の高速交通機関としてその存
在を確立しており,非常に利用しやすい交
通機関ではあるが,ただ,世界で一番最初
に作られた地下鉄をその路線網の中に含ん
でおり,Jubilee 線の一部区間を除いては総
じてその施設は古い.特に,ロンドン中心
部の Zone1 に属する地下鉄駅については駅
の構造上からバリアフリーを推進する為の
エレベーターやエスカレーターを設置する
だけの余裕が無い駅が多く,また地表から
ホームが離れているからという理由でエレ
ベーターが設置されている駅についても,
地表面から車椅子を利用される方が一人で
ホーム上まで移動することが難しい駅が殆
どである.更に施設が古いこともあり,大
掛かりなメンテナンスの為に週末などに路
線を止めたり,特定の駅を通過したりとい
う事例が発生している.このようにバリア
フリー面ではまだまだ多くの問題を抱えて
おり,この点については日本の各地下鉄の
ほうがはるかに優れている.運行頻度につ
いては各路線 3~6 分間隔で運行されており,
この点については他の大都市の地下鉄と遜
色は無い.ただ,日本の地下鉄と異なりク
ロスシートの車両が多いこともあり,また
車両によっては車端部のドアが小さいこと
もあって,乗降に非常に手間取ることがあ
る.このように,設備が古いことから来る
制約条件で,ロンドンの地下鉄はその本来
の能力を発揮していない状況になると考え
えられる.また,日本と比較して乗車券の
自動販売機が相対的に少なく,その一方で
出札窓口が必ず各駅に 1 つある状況である.
こ の 窓 口 に お い て TravelCard や
OysterCard の発券やチャージをしてくれ
るので,その点については利便性が高いと
考えられる.
3.2 Bus
一方バスについてはある程度評価ができ
る.2005 年末に昔から走行していた「ルー
ト・マスター」と呼ばれる旧型の二階建て
バスが全て廃車になり,連節バスや新しい
二階建てバスに切り替わっている.このた
めバリアフリー化が一気にすすみ,いまで
は殆どのバスがバリアフリー対応のバスに
なっている.
写真 3 バスの乗降風景
ロンドン市内で最大の輸送機関であるバス
は市の中心部から郊外までくまなく路線網
が張り巡らされており,多くのバスは民間
業者に業務委託されて運行している.また
輸送人員については地下鉄を越える 480 万
人もの人を輸送している.バスは,ロンド
ン市内だけでも 200 を優に超える系統が走
り,そのどの系統もかなりの本数を走行さ
せている.この為,始発から朝ラッシュ前
までと夜の終バス近くを除いた時間帯は,
時刻表が表示されていないケースが多く,
every5-7 minutes といった表記が多く,
10-12 minutes という表記もよく見られる.
また,主要バス停においては LED 表示によ
る発車案内もあり,旅客に対する情報案内
もある程度は充実させている.
写真 4 バス時刻表の例
また,路線によっては Night Bus を走らせ
て,夜遅くに帰る人たちのサポートとなっ
ている他に 24hour service のバスも運行さ
れており,利便性の充実が図られている.
これは 24 時間動いている都市ロンドンな
らではだと考えられるが,サービスが充実
している一端をしめすものである.このよ
うに地下鉄以上に市民にとって身近な存在
であるバスについては総合的にサービスが
向上しており,地下鉄を補完しているとい
えよう.
3.3 LRT(Light Railway Transit)
ロンドン郊外の Croydon を中心としてウ
ィンブルドンまで路線を延ばす LRT が運
行されている.この LRT は Croydon の街
中では道路の上の併用軌道を走行するが,
街中を出ると専用軌道を走行し,高速走行
する日本で言う広島電鉄の宮島線のような
形態である.
写真 5 Croydon の LRT
この特徴は市の中心部でトランジットモー
ルを走行するところにあり,歩行者と LRT
のみが通行が許可されている.その区域か
らは関係の無い乗用車が排除されトランジ
ットモールが確立されている点が最大の特
徴ともいえる.勿論,LRT はバリアフリー
には十分な対策がとられており停留所から
の乗降については非常にスムーズであった.
更 に こ の Croydon の 街 の 中 心 部 に あ る
British Rail の駅では LRT のホームとバス
の停留所,タクシープールがコンパクトに
まとまっており,相互に乗り換えしやすい
状態にまとまっている.これは行政が LRT
の建設に伴って Croydon 駅を交通結節点に
するという明確な目標をもってデザインし,
その結果非常に利便性の高いターミナルが
完成したとも言える.
写真 6 Croydon 駅前交通広場
尚,LRT とバスは同じ料金体系であり,相
互に利用しやすくなっている.ただ,LRT
の場合は各停留所に IC カードリーダーが
あり,そこに接触してから乗車するが,バ
スの場合はバスに乗車する際の運転手横の
IC カードに触れて乗車する必要がある.
4. ロンドンの交通体系から学ぶこと
ロンドンの交通体系はロンドン市交通局
主導のもと各種施策が進められてきた.特
に一番市民と接する機会の多いバスについ
てはバリアフリーを含めた積極的な方針を
採ることによって,ルートマスターの廃車
に伴い大分効果があがるようになってきた.
また,LRT については現在の Croydon で成
功を収めた実績を元に,ロンドン中心部を
通す LRT の計画が進められているほどであ
る.このように bus&LRT については非常に
積極的に新しい交通体系の導入が図られて
いる.その一方で地下鉄は世界最古の地下
鉄路線を証有しているというのもあり,設
備的に非常に古くなってトラブルが発生し
ている事実も否めない.また,バリアフリ
ーについても地上を走るバス&LRT と比較す
るとまだまだ進んでいないのが現状である.
この現状を把握した上で,日本で何が出来
るだろうと考えると,まずはバスや LRT の
利便性を確実に向上した上で,運賃・運行
体系を統一していくべきではないかと考え
ている.更に,今後 IC カードがどの事業者
でも相互利用ができるようになっていくこ
とも合わせて,運賃についてもそのエリア
ごとに総括的な運賃設定ができる仕組みを
導入したほうがいいかと考える.特に観光
客向けの運賃などでは IC カード一枚でど
の交通機関も乗車することが可能な周遊券
タイプの設定や一日乗車券の導入が必要か
と考える.また,バリアフリーについては
地下鉄においては日本は英国よりも先に進
んではいるが,さらに利用しやすい駅環境
整備をすすめていくことが必要ではないか
と考えている.
参 考 文 献 : [1] The Mayor’s Transport
Strategy , London Travel Report ,
Transport for London,2005
[2] ロ ン ド ン 市 交 通 局 ホ ー ム ペ ー ジ
(http://www.tfl.gov.uk/), Transport for
London