星の誕生 天の川、マゼラン銀河、そして私たち

星の誕生
天の川、マゼラン銀河、そして私たち
A セッション●イントロダクション
マゼラン銀河に星の誕生をさぐる
長谷川哲夫
14
福井 康雄
28
長田 哲也
40
芝井 広
47
小山 勝二
58
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70
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星の誕生は宇宙の物質進化の原動力/星の誕生をみる/星の形成過程
惑星の誕生過程/星の多様性はどこから/マゼラン銀河に星の誕生を探る
マゼラン銀河と銀河系/マゼラン銀河は若い進化段階にある
マゼラン星雲大研究プロジェクト/浮かび上がるマゼラン銀河の新しい姿
B セッション●星の誕生と死
『なんてん』のみたマゼラン銀河
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なぜマゼラン雲か/ 300 個近い巨大分子雲の発見/球状星団形成の謎を解く
星団と分子雲の距離/分子雲の進化段階/『なんてん』電波望遠鏡
スーパーシェルとの比較/星のない巨大分子雲/今後の計画
南アフリカ:赤外線で若い星の集団をさぐる
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赤外線による観測/赤外線の発見/南アフリカの 1.4m 望遠鏡 IRSF
IRSF 望遠鏡の構成と性能/私たちの銀河系の星形成/大マゼラン雲サーベイ
星形成領域の観測例
インド:気球に載せた望遠鏡で宇宙の塵を調べる
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星間塵を観測してなにがわかるか/遠赤外線の観測手段
気球搭載赤外線望遠鏡 FIRBE /インド国立気球基地からの打ち上げ/望遠鏡の回収
気球を用いた遠赤外線観測による星間物質の研究/大マゼラン雲の観測
恒星生成活動度の系列
宇宙から:星の誕生を X 線でとらえる
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超新星爆発とニュートリノ/電磁波の種類と X 線/宇宙からの X 線の検出
X 線衛星「あすか」/星の形成領域の X 線観測
誕生した星はいつから X 線を放射するか/分子雲芯で星の新生児を観測
星の保育園/青年期から星の死へ
C セッション●パネルディスカッション
大学の研究室で生み出される望遠鏡
はじめに/自分でつくり、自分で観測する醍醐味を/名古屋大学理学部の工作室
手づくりの装置で観測する意味/天文学の黎明期の装置づくり
ものづくりを通して原理・法則を学ぶ/個人における分業と研究室における分業の両立
21 世紀の天文学と手づくりスピリット/身の丈にあった学問から
D セッション●特別講演
すばる望遠鏡で何が見えたか?
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すばる望遠鏡の製作から建設まで/すばる望遠鏡でみたオリオン星雲
星の誕生と降着円盤/スーパーウィンド/すばる望遠鏡の特長(その 1)
褐色矮星と惑星/すばる望遠鏡の特長(その 2)/謎の光/もっとも遠くを
林 正彦
78
本書は、平成 14 年 10 月 30 日、31 日に有楽町朝日ホール(東京都)にて行われた第 17 回「大学と科学」
公開シンポジウム「星の誕生―天の川、マゼラン銀河、そして私たち」の内容を収録しました。
目 次
E セッション●宇宙の夜明け
宇宙の夜明けから銀河の誕生まで
郷田 直輝
94
西 亮一
110
谷口 義明
118
田村 元秀
128
観山 正見
141
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152
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宇宙は広大、豊か/宇宙の大構造(超銀河団とボイド)/宇宙モデル
標準モデル:フリードマンモデル/現在の宇宙の姿(宇宙論パラメータ)
宇宙の重力質量を担うもの/宇宙定数(ダークエネルギー)の存在
宇宙全体の進化:ビッグバンモデル/宇宙創生の謎/宇宙の階層構造の形成
銀河の形成と進化/今後の展開/ 21 世紀、新しい宇宙像がみえてくる
宇宙で最初の星
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星間ガスの組成と星の形成/熱圧力と重力のせめぎあい/宇宙における冷却機構
宇宙最初の星形成/水素分子の形成過程/宇宙初期の原始ガス雲の進化
星のもとになるコアの最小質量/星の種ができるまで/回転運動の影響/まとめ
銀河の誕生はとらえられたか
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天文学とはなにか/銀河の構造とスケール/銀河の構造と分類
銀河は合体して丸くなる/遠い銀河は若い銀河/遠くの銀河を探索する
ハッブル・ディープ・フィールド/遠い銀河は赤くみえる
遠い銀河のベストテン/より遠い銀河をみるために
F セッション●太陽系の誕生
見えてきた惑星誕生の場
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はじめに/惑星とは/太陽系の仲間たち/惑星と恒星の違い/系外惑星探査の歴史
系外惑星が見つかった/惑星誕生の現場をみる/円盤の直接観測
惑星系形成の京都モデル/生まれたばかりの孤立した惑星/第 2 の地球を探せ
私たちの太陽系は特別か
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太陽系の特徴/太陽系外の惑星系の探査法/太陽系外の惑星系の発見
太陽系の形成論/太陽系外の惑星系の成因/惑星探査の課題/惑星をもつ星の特徴
すばる望遠鏡やアルマ計画への期待/宇宙からの惑星探査と宇宙生命の探求
G セッション●パネルディスカッション
宇宙の歴史と私たち
天文学は時間と方向をきめる学問/文化としての天文学の役割
東洋と西洋における宇宙観/隕石から地球・生命誕生のルーツを探る
星の一生と宇宙の輪廻/コンドライト隕石に発見される星間塵の種類
巨大望遠鏡で探る宇宙/アルマ計画の概要/初期宇宙の観測に向けて
宇宙における地球の位置づけ/天文学は人類をかえる力をもつ学問
西洋型と東洋型の共存でさらに発展する/地球の生命は、地球で発生したか
実証的現象の観測による宇宙論の発展/文化に通じる学問領域を育てる
宇宙人とのコミュニケーションは 1 万年後/おわりに
演者紹介
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マゼラン銀河に
星の誕生をさぐる
長谷川哲夫
国立天文台電波天文学研究系教授
私たちの歴史を逆にたどっていくと、私た
ちの先祖から地球上の生き物の進化、地球の
誕生となっています。地球は太陽とほとんど
思います。
星の誕生は宇宙の物質進化の原動力
同じ時期に誕生しました。つまり、星のひと
星の誕生は、宇宙の研究においてどのよう
つである太陽の誕生は、私たちの歴史のおお
な意味をもっているのでしょうか。星の誕生
もとの出来事であるということができます。
は、宇宙に存在するさまざまな物質が進化す
この星の誕生について理解することは、私た
るときの原動力となっています(図 1)。宇宙
ちの歴史を宇宙的な枠組みのなかでとらえる
は約 150 億年前のビッグバンで始まりました
ことにつながります。そのような気持ちで、
が、その直後からかすかにゆらぎができ、そ
本シンポジウムの話を聞いていただければと
のゆらぎが成長して、私たちの天の川銀河な
どの種になる原始銀河
宇宙初期における物質の流れ
現在も続いている物質の流れ
ビッグバン
非バリオン的
ダークマター?
ゆらぎの成長
銀河間ガス
原始銀河の収縮
本重点領域の主な研究対象
銀河
星間物質
星の誕生
が形成されました。こ
の原始銀河のなかで星
が誕生します。
誕生した星は、やが
て一生を終えて死に至
褐色矮星
りますが、星が死ぬと
惑星系
き、その星がもってい
た物質の大部分を星間
主系列星の進化
星の死骸
星の死
白色矮星
中性子星
ブラックホール
宇宙線
図1
14
宇宙の物質進化とそのなかでの星の誕生の役割
イントロダクション
空間に戻します。戻さ
れた物質は、次の世代
の星を形成する材料に
なります。ここに大き
な物質循環、あるいは
−24 15
赤緯(B1950)
20
25
30
35
野辺山45m望遠鏡
16 24 45
30
15
00
23 45
赤経(B1950)
30
15
図 2 へびつかい座の暗黒星雲 左:光でみた暗黒星雲(画像提供: Anglo-Australian Observatory / Royal
Obs. Edinburgh)。右:ミリ波望遠鏡でみた暗黒星雲。△や☆などは赤外線で観測される誕生しつつあ
る星々(画像提供:国立天文台、梅本智文他)
輪廻が回り始めます。星が誕生するのと同じ
ました。星が誕生している現場を、図 2 左に
ように、地球のような惑星も誕生します。そ
示します。これは、夏の星座で、さそり座の
して、星が誕生してから死ぬまでの過程で、
アンタレスと、その北側に、へびつかい座が
星のなかでつくられ蓄えられた炭素や酸素、
広がっており、赤い星雲や黄色い星雲、青い
鉄などの物質が星間空間にまき散らされてい
星雲の間に挟まれて黒い領域がみられます。
き、宇宙のなかの物質が進化していきます。
この領域には星雲や星がないわけではありま
宇宙の物質が進化したその先に、今、私た
せん。そこには背景の星からの光を隠す暗黒
ちがいます。私たちの体にも炭素や酸素、鉄、
星雲が存在しているため、光では暗くしかみ
骨となって体を支えるカルシウムなどが存在
ることができないのです。しかし、その領域
しています。それらはすべて、この星の誕生
を、低温の物質が放射する波長数 mm の電波
と死の循環によって形成され、太陽が誕生す
をとらえる電波望遠鏡で観測すると、光る雲
るときに太陽の周りの地球に集まってきたも
のような物質が存在していることがわかりま
のです。私たちの体は星の灰でできているわ
す。図 2 右は、野辺山の 45m 電波望遠鏡で観
けです。その意味で、私たちは星の子どもで
測した、へびつかい座暗黒星雲の姿です。こ
あるということができます。物質の進化をつ
のような自分では光を放たないほど低温の星
かさどる大きな原動力が、星の誕生です。
間雲が星を形成する材料になります。
星の誕生をみる
図のなかに○や+や☆で示したように、現
在、誕生しかかっているか、数十万年から数
星が誕生するとき、どのようなことが起こ
百万年前に誕生したばかりの星がたくさん存
るのでしょうか。そのことは、1980 年代から
在しています。このように、星は暗黒星雲や
さかんに観測され、かなり明らかになってき
星間雲のなかで誕生します。
マゼラン銀河に星の誕生をさぐる
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