グリーンウィーク - ビューローベリタス

システム認証事業本部
欧州環境会議「グリーンウィーク」で示されたEUの今後の大気・エネルギー政策方向性
2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa(エンヘサ)社より、海外における法規制を
テーマに記事を連載しております。
去る6月に、欧州最大規模の環境会議「グリーンウィーク」が開催されました。2012年は水の年でしたが、2013
年は大気問題が主要なテーマと位置づけられ、6月4日から7日にかけて、大気質の評価と今後必要とされる
政策及びその課題について、欧州委員会、政策立案者、政府機関関係者、NGO、産業界や市民団体の代表者
の間で、活発な議論が交わされました。会議では、従来の政策によって大気質は大幅に改善されたものの、
特に人口密集地では、期待されるレベルには達していないことが明らかにされました。また、各加盟国による
大気モニタリングと大気質の改善や、大気、エネルギー、気候変動に関する政策の相互関係性、産業からの
排気に対する利用可能な最善の技術 (Best Available Techniques: BTAs) の導入などが話し合われました。
今回の記事では会議の概要とEUの大気汚染防止政策の展望を概説します。
EU大気質
会議中、専門家から、近年硫黄酸化物などの主要な大気汚染物質は減少しつつあるものの、粒子状物質(PM)
や二酸化窒素を主体とした窒素酸化物、オゾンについては、人の健康、気候変動、またエコシステムに対する影
響の大きさを鑑みて、さらに大気中への放出を削減するような政策が導入されるべきであると提案されました。
この指摘に基づき、コンサルテーションとステークホルダーによるセッションが開かれ、欧州委員会は、大気汚染
物質の放出による環境と健康への影響を減少させるための提案を公表しました。国や地域レベルの努力が必須
であるとの前提に立ち、欧州委員会としては、国別排出上限指令 (National Emission Ceilings Directive) など
の既存の大気指令の改正を検討しています。欧州委員会はまた、2030年に向けた大気質の改善を目指し、
農業と都市部からの大気汚染物質の排出削減に関する研究を強化することを検討しています。また、輸送機関
からの排気のさらなる規制も予定されており、バス・トラックに対する排出基準であるEuro 6が2014年に、Euro
6Bが2017年に導入されます。
工業活動でいえば、欧州委員会は現在、産業排出指令 (Industrial Emissions Directive) の下、利用可能な
最善の技術 (BAT) に関するBREFを作成しています。セッション「大気質及び産業排出: BAT 結論とその大気
質に対する影響」においては、BATはその性質上、運営許可において自ずから強制的な排気制限を設定する
ことにつながるため、BAT案の透明性を確保することが重要であると強調されました。
大気問題、気候変動、エネルギー
大気問題は、気候変動とエネルギー問題と不可分のものです。セッション「大気、エネルギー及び気候変動: 3つ
の問題、3つの機会」では、気候変動と大気汚染について、それぞれの政策間におけるベネフィットとトレードオフ
をどうコントロールするべきかについて、意見が交わされました。また、エネルギー問題については、セッション
「ヨーロッパにおけるシェールガスなどの新化石燃料: 気候変動及び環境問題」において、活発な議論が交わさ
れました。新化石燃料から排出される大気汚染物質は、主に次のようなものがあります:
- オゾン、二酸化窒素、粒子状物質 PM2.5 などの一般的な大気汚染物質
- ベンゼン、トルエン、ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などの有害物質
- メタンやブラックカーボンなどの気候フォーシング物質
セッション内で紹介された科学的知見によれば、シェールガス生産からの大気汚染汚染物質の排出量は、天然
ガス生産によるものより大きいことが推計されています。EU加盟国では、まだポーランドや英国といった数カ国
のみがシェールガス開発を始めており、ヨーロッパは、シェールガス開発について条件の違いがあるとはいえ、
大気排出による影響を低く抑えるための立証技術やマネジメントアプローチの面で、アメリカの経験に頼る部分
が大きいと言えます。
欧州委員会エネルギー総局は、各加盟国のエネルギーミックス政策を尊重する一方で、ヨーロッパにおける
安全でサステイナブル、かつコスト効率のよいエネルギー供給を推進するには、エネルギー供給源の多様化と、
オンショア・オフショア双方における「地元産」エネルギーの開発が必要であるとの結論に至りました。現在EUで
は、例えばルーマニアにおいてシェールガス開発の一時停止措置が取り下げられるなど、複数の加盟国が自国
のシェールガス政策を見直しています。欧州委員会内では、シェールガス生産に伴う環境問題は政策、ガイダン
ス、または強制義務の伴う規制など、どのような形で規制されるべきか、またEU全域、加盟国単位、地域・産業
ごとなど、どのレベルで規制されるべきか、議論が進んでいます。いずれの結論になるとしても、気候と環境の
保護を担保するようなシェールガス生産と運営を促す規制が採用されることになるでしょう。
また、グリーンウィークの後に開催されたサステイナブル・エネルギーウィークにおいて、二酸化炭素回収貯留
(CCS) に関する課題も取り上げられました。EUでは、二酸化炭素回収貯留は脱炭素に必要な技術であると
認識されています。しかし、二酸化炭素回収貯留は未だ社会的に受容されておらず、責任問題も解決されて
いません。さらなる問題として、ヨーロッパでは当技術に対する金銭的投資が決定的に不足しています。今後、
欧州委員会は本会議でのフィードバックを元に、ヨーロッパにおける二酸化炭素回収貯留を推進するための
枠組みを準備することになります。
燃焼設備からの排気制限
大気質の評価中、欧州委員会は、将来的に、小規模の燃焼プラントに対するエコデザイン義務を課す可能性を
提示しました。現在は熱入力が50メガワットを超える大規模燃焼プラントしか規制されていませんが、熱入力が
1から50メガワットの燃焼プラントについても規制を課すべきかどうか、委員会内で議論が進んでいます。欧州
委員会の調査報告書によれば、熱入力が1から50メガワットの燃焼プラントからの排気を規制することによる
経済的効果は、明らかにそのコストを上回るとされています。しかしながら、委員会はこのタイプの燃焼プラント
に対する将来的な規制として、より負担の軽い許可制度や一般的な排気ルールの方を検討しており、企業に
おける事務処理やコスト負担を大幅に増大させる統合環境許可制度の適用は、小規模燃焼プラントには採用
されないと見込まれます。
まとめ
グリーンウィークではヨーロッパにおける大気質を改善する際の課題や、今後の政策の方向性が示されました。
特に、工業排気の削減、自動車・燃焼プラントからの排気の改善、またエネルギー政策に関する議論の内容は、
今後のEU政策に反映される可能性が高いと言えるでしょう。2013年秋に公表予定の欧州委員会の大気質に
関する政策計画において、これら分野での今後の政策の方向性が明らかになると思われます。EUの今後の
大気政策について、継続的な動向ウォッチを要望される方は、下記までご連絡下さい。
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・ビューローベリタスジャパン㈱ システム認証事業本部 営業部 TEL:045-651-4785
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であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生)法令遵守を支援しています。日本にもサテライトオフィスを開設して
おり、日本時間に日本語での対応が可能です。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、
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