3. 環境(公害)用分析機器 3.環境 (公害) 用分析機器 〈概説〉 であることなどから,測定成分が同じでも測定方法, 機器の構造は異なっている。 (1)環境(公害)用分析機器の特徴 表1 環境基準の指定成分と測定法 環境基本法では,公害とは環境の保全上の支障の うち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相 当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚 染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭によって人の 健康又は生活環境に係る被害が生ずることと定義さ れている。環境(公害)用分析機器は,これらの原 因となる要素のうち,化学成分の分析を行う機器に 対して付けられた名称である。環境(公害)分析機 器の主なものは,大気汚染分析装置,水質汚濁分析 装置及び悪臭分析装置などに大別することができ る。さらに,これらは測定方法からみると自動連続 式(自動間欠式も含む)のものと,手分析のものと にわけることができる。前者は,従来のプロセス用 連続分析機器から発展してきたもので,後者は,ラ ボ用分析機器が主体となって発展してきた。 物 質 B7952 一酸化炭素 非分散形赤外線吸収法 B7951 浮遊粒子状 物質 質量濃度測定法,光散乱法,圧 電天びん法,ベータ線吸収法 B7954 二酸化窒素 吸光光度法,化学発光法 B7953 光化学オキシ ダント 吸光光度法,電量法,紫外線吸 収法,化学発光法 B7957 ベ ン ゼ ン GC-MS法又は同等以上の性能を 有すると認められる方法 ― トリクロロ エチレン 〃 ― テトラクロロ エチレン 〃 ― ダイオキシン類 ポリウレタンフォームを装着した採取筒をろ紙 後段に取りつけたエアサンプラーにより採取し た試料を高分解能GC/MSにより測定される方法 ― 成分を検出測定するため,高感度の機能をもつもの 表2 ばい煙等の測定方法(排出規制) が多く,それはまた逆にいえば,試料条件,環境条 物 質 件などの影響を敏感にうけやすいといえる。さらに れる。環境(公害)用分析機器が計量法による法定 中和滴定法,沈澱滴定法,比濁 法(以上硫黄酸化物),溶液導電 率法,赤外線吸収法,紫外線吸収 法,炎光光度法,定電位電解法 (以上二酸化硫黄) 燃料中の硫黄 含有率 微量電量滴定式酸化法,放射線 式励起法,放射線式透過法など 9種類(以上石油類) ジメチルスルホナゾⅢ吸光光度 法,メチレンブルー吸光光度法 など5種類(以上ガス類) エシュカ法,高温燃焼法(以上 石炭,コークス類) いて法の規制を受けるのも,このためである。環境 (公害)用分析機器の選定は,法,条例,協定などに 行わなければならない。以下に大気汚染,水質汚濁, 悪臭,その他にわけて,法に規定された項目に対す る測定方法を要約して表1∼5に示す。なお,表の 中の太宇で表されたものには,市販の環境(公害) 専用機器があり,( ) 付のものは法に規定された以 )の測定方法をもつ機器を採用する場合は,法 で指定する測定方法との相関をとるなどして,得ら れた測定値を補正する配慮が必要である。 (2)大気汚染分析装置 大気汚染分析装置には,工場からのばい煙,自動 車の排ガスなどを測定する発生源用と,汚染物質を 含む環境大気(発生源のガスが大気に拡散したもの) を測定する環境用とがある。前者は高濃度目盛であ り,後者は低濃度目盛であるほか,試料ガスの特性 も発生源ガスは,一般に,高温,多湿,多塵(じん) 有 害 物 質 該当JIS K0103 Z8808 B7981 K2301 K2541 M8813 重量法, (光散乱法) , (光透過法) Z8808 カドミウ ム,鉛 原子吸光法,吸光光度法,ポー ラログラフ法 Z8808 K0097 塩 吸光光度法,連続分析法, (隔膜 電極法) , (溶液導電率法) , (検知 管法) K0106 ば い じ ん 外の測定方法を示している。 ( 測 定 方 法 硫黄酸化物の 排出量 計量器に指定され,性能,使用方法,修理などにつ 規定された汚染物質の規制値と測定方法を考慮して 参考JIS 溶液導電率法,紫外線蛍光法 環境(公害)用分析機器は,一般に極微量の汚染 再現性,安定性などに対しても高い信頼性が要求さ 測 定 方 法 二酸化硫黄 素 吸光光度法,(イオン電極法), 塩化水素 (溶液導電率法) ,廃棄物焼却 用は硝酸銀法 K0107 ふ っ 素 吸光光度法, (イオン電極法) K0105 窒 素 酸 化 物 吸光光度法,化学発光法,赤外 線吸収法,紫外線吸収法,定電 位電解法 K0104 Z8808 B7982 165 環境(公害) 環境基準 公害専用機器 指定測定方法 排出規制 悪臭物質 3.環境(公害)用分析機器 表3 自動車排出ガスの測定方法 物 質 測 定 方 法 一 酸 化 炭 素 非分散形赤外線分析法 炭 化 水 素 非分散形赤外線分析法 水素炎イオン化検出法 窒素酸化物 非分散形赤外線分析法 化学発光法 参考JIS D1028 D1029 D1030 D1101 D8004 D8005 D8006 デ ィ ー ゼ ル 光反射式 黒煙 光透過式 境 学的酸素 化 要 求 量 項 浮 遊 物 質 目 酸性過マンガン酸カリウム 法,(COD計),(TOC計), (TOD計), (UV計) ○ ○ ○ 重量分析法,(光透過法) , (光透過・ ○ (光表面散乱法), 光散乱法) , (積分球法) ヘキサン抽出 物 質 ○ ○ 抽出―重量分析法, (抽出― 赤外線吸収法) ,(乳化濁度 法) , (紫外蛍光法) フェノール類 ― ○ 蒸留―吸光光度法 ふ 素 ― ○ 蒸留―吸光光度法,イオン 電極法 大腸菌群数 ○ ○ 希釈―培養―計数法 っ 溶 存 酸 素 ○ ― ウインクラー・アジ化ナトリウム変法, ミラー変法,隔膜電極法 水を汚濁する成分の種類は極めて多く,JIS K 窒 素 ○ ○ 紫外線吸光光度法,還元法,化学発光法 0102「工場排水試験方法」には約60種類の試験項目 り ん ○ ○ 吸光光度法 (3)水質汚濁分析装置 が記載されているが,法規制では,比較的広く存在 (4)悪臭分析装置 する項目のみを選んで規制している。これらの項目 悪臭防止法で規制された悪臭物質と,その測定法 に対する法の指定測定方法には,昭46環告59及びJIS 表5に示す。これらの悪臭物質の分析には,従来 K 0102に示された方法により測定することとなっ からラボ用分析機器が利用されており,最近では ており,そのほとんどは手分析法である。しかし実 GC-MSを使用した悪臭成分解析が検討されている。 際の測定にあたり,この方法では,人手がかかり, 常時監視ができないなどの理由から指定手分析法に 準じた方法や,全く別の測定方法で測定が自動化さ れた装置が用いられることが多い。表4に環境基準, 排水基準に定められた測定項目と試験方法を示す。 表4 環境基準の測定方法 環境 基準 排水 基準 測 定 方 法 ン ⃝ ⃝ 蒸留―吸光光度法, (イオ ン電極法) アルキル水銀 ⃝ ⃝ GC法,TLC分離―原子吸 光法 総 原子吸光法 項 目 シ 健 康 項 目 ア 銀 ⃝ ⃝ 有 機 り ん 水 ― ⃝ 吸光光度法,抽出―GC法 カドミウム ⃝ ⃝ 抽出―原子吸光法,ICP法 鉛 ⃝ ⃝ 抽出―原子吸光法,ICP法 クロム (六価) ⃝ ひ ⃝ 吸光光度法,原子吸光法,ICP法 素 ⃝ ⃝ 原子吸光法 B ⃝ ⃝ 抽出―GC法 ― ⃝ 抽出―原子吸光法 ― ⃝ 抽出―原子吸光法 クロム(全) ― ⃝ 吸光光度法,原子吸光法,ICP法 P C 銅 亜 生 活 環 鉛 ― ⃝ 原子吸光法,吸光光度法 鉄(溶解性) ― ⃝ 原子吸光法 pH ⃝ ⃝ ガラス電極法 生物化学的 酸素要求量 ⃝ ⃝ (クーロメト 標準希釈法, リ法) , (酸素センサ法) マンガン(溶解性) 166 表5 悪臭防止法の規制物質と測定方法 悪臭物質 アンモニア メチルメルカブタン 硫化水素 硫化メチル 二硫化メチル トリメチルアミン アセトアルデヒド スチレン プロピオン酸 ノルマル酪酸 ノルマル吉草酸 イソ吉草酸 プロピオンアルデヒド ノイマルブチルアルデヒド イソブチルアルデヒド ノルマルバレルアルデヒド イソバレルアルデヒド イソブタノール 酢酸エチル メチルイソブチルケトン トルエン キシレン 測 定 法 吸光光度法 ガスクロマトグラフ(FPD) ガスクロマトグラフ(FPD) ガスクロマトグラフ(FPD) ガスクロマトグラフ(FPD) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID,MS) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FTD,MS) ガスクロマトグラフ(FTD,MS) ガスクロマトグラフ(FTD,MS) ガスクロマトグラフ(FTD,MS) ガスクロマトグラフ(FTD,MS) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) ガスクロマトグラフ(FID) FPD :炎光光度検出器 Flame Photometric Detector FID :水素炎イオン化検出器 Flame Ionization Detector FTD :アルカリ熱イオン検出器 Flame Thermionic Ionization Detector MS :質量分析計 Mass Speotrometer 3. 環境(公害)用分析機器 (5)その他の環境(公害)用分析機器 今までに述べた大気汚染,水質汚濁,悪臭の各分 析装置に分類されないものに,温室効果ガスの高精 度測定,河川,湖沼,海域などの底質の汚染,農用 地の土壌の汚染,産業廃棄物中の有害物質による汚 染,食品加工後の残留物質による汚染,未規制物質 (有害化学物質やいわゆる環境ホルモン等)などの 監視や管理に用いる環境(公害)用分析機器がある。 これらの汚染に対する法の規制は,各々に対して, 公共用水域の底質の除去基準,農用地の土壌の汚染 防止等に関する法律,廃棄物の処理及び清掃に関す る法律,食品衛生法があり,そこにそれぞれの基準 値と測定方法がきめられている。これらの測定方法 は, ラボ用分析機器を用いた手分析法が主であるが, 一部では,上記の測定を目的とした機器も開発され ている。 167 3. 環境(公害)用分析機器 3.1 大気汚染分析装置 3.1.1(2) 硫黄酸化物分析計 Oxides-of-sulfur analyzer 〈概要〉 環境用硫黄酸化物分析計は,大気中の二 酸化硫黄濃度を測定するための計器であり,JIS この方式の構成例を図1に示す。 (2) 炎光光度検出方式 B 7952に自動計測器として, 溶液導電率方式,炎光光 この方式は,大気中の二酸化硫黄を水素炎で還元 度検出方式,電量方式及び紫外線けい光方式のもの して励起状態のS 2*を生じさせ,このS 2*が基底状態 について規定されている。環境測定においては溶液 に戻る時の発光スペクトルのうち394nmの発光強度 導電率方式が多く用いられているが,最近は紫外線 から,大気中の二酸化硫黄濃度を求めるものである。 けい光方式のものが増加している。 高感度で水分の影響がないという利点はあるが,他 〈原理及び特徴〉 の硫黄化合物や二酸化炭素の影響を受ける。 JISで規定されている各方式に ついて,原理及び特徴を次に示す。ただし,電量方 式は,現在,使用されていないので,除外した。 (1) 溶液導電率方式 この方式の構成例を図2に示す。 (3) 紫外線けい光方式 この方式は,大気中の二酸化硫黄に紫外線を照射 この方式は,大気中の二酸化硫黄が吸収液中の過 して励起状態のSO2*を生じさせ,このSO2*が発する 酸化水素と反応して,硫酸イオンを生じ,吸収液の けい光の強度を測定して,大気中の二酸化硫黄濃度 導電率を増加させる時の導電率変化から,大気中の を求めるものである。けい光を発する芳香族炭化水 二酸化硫黄濃度を求めるものである。 素の影響があるので,透過膜チューブやスクラバで 反応式 H2O2+SO2→H2SO4 溶液導電率方式には,間欠形と連続形があるが, 除く必要がある。 この方式の構成例を図3に示す。 1時間周期で測定を行う間欠形では,0∼0.05ppmの 〈用途〉 高感度測定が可能であり,多く使用されている。 間値の1日平均値が0.04ppm以下であり,かつ1時 大気中の二酸化硫黄の環境基準は,1時 また,間欠形は,自動ゼロ点調節により,約0.4mS/m 間値が0. 1ppm以下である。この環境基準の達成のた という導電率の低い吸収液を使用しても,安定した めに,固定発生源では,燃料の低硫黄化や脱硫装置 測定ができる。測定は,3∼5レンジを自動的に切 の設置が進められている。そして各地の測定ステー り換えて行い,広範囲で有効である。干渉成分とし ションには,間欠形溶液導電率方式の二酸化硫黄自 ては,二酸化炭素,アンモニアなどがあるが,自動 動計測器が設置され,テレメータシステムによって ゼロ点調整や粒状しゅう酸トラップ又はアンモニア 中央局に伝送され,常時,大気中二酸化硫黄濃度を スクラバなどで除去できる。 監視している。 168 溶液導電率 炎光光度検出 紫外線けい光 励起状態 テレメータシステム 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(3) 一酸化炭素分析計 Carbon monoxide analyzer 〈概要〉 大気中の一酸化炭素(CO)は,近年の環境 (2) 定電位電解方式 浄化に伴い,測定範囲の低濃度化(フルスケール 定電位電解法によるCO測定は,ガス透過性隔膜を 10ppm以下)が必要条件となっており,測定値の信 経由して電解液中に拡散したCOを定電位に保たれ 頼性・安全性の維持のため,分析計,サンプリング た電極上で電気化学的に酸化し,その際発生する電 系のハードとソフトの両面から技術的改良がなされ 解電流によってCOを定量するものである。 ている。 検出器としてガス透過性隔膜,作用電極,対電極な 〈原理及び特徴〉 どを備えた電解そう,定電位電源,増幅器などで構 (1) 赤外線吸収方式 成されており,小形軽量であるため移動測定に便利 CO分子は固有の波長(4.7mm付近)の赤外線を吸 である。干渉成分としては炭化水素等があるため, 収する特性をもっており, 圧力が一定のガス体では, 吸着管により除去する必要がある。 濃度に対応した吸収を示す。高感度化を実現するた 〈用途〉 めに,ゼロ点の安定性の向上,干渉影響の低減等に や加熱炉から漏洩する雰囲気の監視用,駐車場やト よる信頼性向上をはかった一例として,流体変調方 ンネル内の監視と喚気制御用に用いられている。測 式がある。 定範囲は,大気汚染測定では0∼50ppm以下,製鉄 各種燃料機関からの排ガスの拡散,工場 従来の回転セクタによる光学系の変調をロータリ 所,エンジン検査室周辺では0∼100ppmの多点切 バルブを使用することによりゼロガスと試料ガスを 替え測定方式,トンネル内の監視用は0∼200ppm,駐 一定の周期で交互に切換え,試料ガスの赤外線吸収 車場用は0∼100,0∼200ppmなどである。今後, によって生ずる変調効果を利用したものである。こ 一酸化炭素計の改良や技術的進歩により小形化,低 の方式は,ゼロドリフトは原理的に生じないという 価格,メンテナンスフリーなどの実現により,工場, 特長に加え,従来の方式では光路エネルギーバラン ビルのほか各家庭における厨房設備や室内で発生す スの調整の幾何学的な光学ズレによる位相バランス る一酸化炭素の監視により安全性を確保する目的に の調整といった,いわゆる光学調整が必要であった も有用である。 ものが,原理上不要となっている。またサンプリン グ系の付加により,ゼロガス,試料ガス中のベース ガスを合わせることによっても,干渉影響の低減を 実現している。 169 環境用一酸化炭素計 赤外線吸収方式 流体変調方式 高感度 定電位電解方式 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(4) 塩素・塩素化合物分析計 Chlorine and chlorine compound analyzer 〈原理〉 環境大気用分析計としては,塩素分析計 と塩化水素分析計が主である。 図2に塩化水素分析計の校正例を示す。一定濃度 の塩素イオンを含む吸収液を一定量ずつ測定セル及 塩素分析計は,大気中の塩素自動計測器JIS B び基準セルに注入する。フィルタでダストを除いた 7955に規定されているオルトトリジン吸光光度法 試料(大気)を一定流量で測定セルに導入し,これ によるものが用いられている。この方法は,吸収発 に含まれる塩化水素を吸収液に捕集する。測定セル 色液と試料(大気)とを一定流量比で接触させて塩 を通過した試料(大気)は次いで基準セル内の吸収 素を吸収させ,光度計により吸収前後の吸光度を測 液と接触したのち,外部に排出される。測定セル及 定することにより,試料(大気)中に含まれる塩素 び基準セルにはそれぞれ塩素イオン電極が挿入され 濃度を連続的に測定することができる。 ており,共通の参照電極を用いてそれぞれの塩素イ 塩化水素計は,一定量の試料(大気)中に含まれ る塩化水素を,一定量の吸収液に捕集溶解させ,こ オン濃度に対応した電位を測定し,その指示差から 試料(大気)中の塩化水素濃度を求めるものである。 の溶液中の塩素イオン濃度をイオン電極法によって 〈特徴〉 測定して,試料(大気)の塩化水素濃度を求めるも 生時の環境大気への塩素リークを監視する目的で, ので,通常,1時間ごとの累積濃度記録が得られる。 0∼0.5ppm程度の測定レンジが用いられる。 塩素分析計は,事故あるいは異常事態発 図1に塩素分析計の構成例を示す。オルトトリジ 塩化水素分析計は,発生源周辺のバックグラウン ン吸収発色液(オルトトリジン塩酸溶液)を送液ポ ド測定にも使用できる0∼0.05ppm程度のレンジの ンプで比較セル,ガス吸収部,測定セル,吸収発色 計器が用いられる。 液タンクに循環させておく。試料(大気)は吸引ポン 〈用途〉 プに吸引されてダストフィルタ,流量計を通過して 場周辺での環境大気の測定,塩素を扱う所でのガス洩 ガス吸収部で一定流量比で吸収発色液と接触して, れ監視,ゴミ焼却場周辺でのHCl濃度測定。 化学工場周辺でのCl 2濃度測定,電解工 大気中の塩素を吸収発色液に吸収させる。比較セル 及び測定セルで,吸収前後の吸収発色液の吸光度を 求め,増幅器で比較セルと測定セルとの吸光度の比 較と信号増幅を行い,指示記録する。 分析計の校正は,次亜塩素酸ナトリウム溶液を吸 収発色液に加えた目盛校正用等価液を用いて行う。 170 大気中の塩素 オルトトリジン吸光光度法 塩化水素計 塩素イオン電極 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(5) オキシダント・オゾン計 Oxidant and ozone analyzer 〈原理〉 全オキシダントの分析計として吸光光度 に切り換えてセルへ導入している。最後に化学発光 法(図1),電量法(図2)があり共に吸収液を使用 法であるがオゾンとエチレンは反応して可視領域 する。吸収液はpH7に調整したよう化カリウム溶液 (430nm)の化学発光をする。エチレン過剰のもとで でKI濃度は原則として2%である。オキシダント 発光強度はオゾン濃度に直線的に比例するので発光 (主にオゾン)と中性よう化カリウムの反応は次式 の強さを光電子増倍管で測定するのが化学発光法で のようによう素(I2)を遊離する。 2KI+O3+H2O→I2+2KOH+O2 ある。 〈特徴〉 ウェット式はスパン校正液が使用できる 分析計では一定流量の吸収液と一定流量の試料ガス ので校正が容易な反面,応答は7∼8分(90%値) とを接触反応させ,遊離したよう素量を測定する工 と余り早くない。またSO2など還元性ガスが負の干 夫がされている。吸光光度法ではよう素量を波長365 渉を与えるので前処理として酸化剤を通す。測定範 nmの吸光度で測定しオキシダント濃度とする。ま 囲は0∼0.2,0∼1ppmまで。オゾンガスは標準ガ た,電量法においてはよう素量を電解還元して測定 スボンベが無いためドライ式の校正にはオゾン発生 するものであるが,これは吸収液中に一定電位を与 器とKI法による手分析が必要。紫外吸収法は応答は えた一対の電極を設けておき電極に水素被膜が形成 早いがオゾン分解器の寿命が課題。測定範囲は0 され分極状態としておく。ここに遊離よう素が入っ ∼0.1から0∼1000ppmと広い。 てくると,H 2+I 2→2HIなる反応で電極表面の水素 化学発光法は応答も早く妨害成分の影響も無いが, 被膜が除かれ電流が流れるという原理を利用してい エチレンガスボンベを必要とする。測定範囲は0 る。この電流値はオキシダント濃度に比例する。オ ∼0.1,0∼2ppmまで。 ゾン分析計としての紫外線吸収法(図3),化学発光 〈用途〉 法(図4)は,ともにオゾンと反応させる吸収液を シダント濃度の監視や警報に使用される。電量法, 必要としないため,前者がウェット式と呼ばれるの 紫外線吸収法,化学発光法は環境測定に使用される に対しドライ式と呼ぶ。オゾンは紫外領域に吸収ス 例は現在のところごく僅かであり,研究所での動植 ペクトルを有するのでその吸収量でオゾン濃度を測 物に対するオゾンの暴露実験などに使用される。紫 定することができる。測定波長として254nmを使 外吸収法はこのほかにウェット式オゾン分析計など 用し同波長帯に吸収をもつ共存ガスの影響を受けな に用いたり,高濃度オゾンによる水処理場の脱臭処 いようにオゾン分解器を設け試料大気の通路を交互 理のモニタとして使用される。 中性よう化カリウム法は環境大気中オキ 171 中性よう化カリウム 吸光光度法 電量法 紫外線吸収法 化学発光法 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(6) 炭化水素分析計 Hydrocarbon analyzer 〈概要〉 環境用炭化水素分析計としては,検出原 非メタンはバックフラッシュして一括して測定する。 理に水素炎イオン化検出法(FID)を用いるものが主 測定のためには分離管の切り換えが必要で,現在市 である。測定方式としては,炭化水素を分離せずに 販されているのは図3の3種類の方式がある。1分 連続測定する全炭化水素計と,炭化水素をメタンと 析は,6∼10分である。 メタン以外の炭化水素(非メタン)とに分離して測 〈特徴〉 定する非メタン炭化水素計とがある。 また連続測定が行える。FIDは炭素数に応じた応答 〈原理〉 を与えるので濃度はメタン換算濃度ppmCで表され (1)全炭化水素計 るが,炭化水素が酸素と共存した状態では炭化水素 全炭化水素分析計は装置が簡単であり, 全炭化水素の測定は,FIDに一定流量の試料と水 の種類によって応答が変り (酸素干渉) ,組成の変動 素を導入し,水素炎中で液化水素をイオン化し生成 が大きい試料では定量性に問題がある。差量方式は したイオン電流を測定して炭化水素濃度を求める。 非メタン炭化水素の測定を行うが,全炭化水素測定 測定は連続して行われる。 で上記酸素干渉があり,またキャリアガスに空気を (2)差量方式非メタン炭化水素計 用いると非メタン炭化水素測定にも酸素干渉があ 全炭化水素とメタンを測定し,この差から非メタ る。直接方式はキャリアガスに窒素を用い,酸素と ン炭化水素濃度を求める。測定は試料を計量管で一 炭化水素は分離するので,メタン,非メタン炭化水 定量採取し,キャリアガスで全量を検出器に送り全 素ともに酸素干渉のない測定ができる。間欠測定で 炭化水素を測定し,他方の計量管で採取した試料は あるので,濃度変動の激しいところでは変動に追従 ガスクロマトグラフの分離管でメタンと非メタンに できなくなる。 分離し,メタンを測定する。非メタン炭化水素は, 〈用途〉 バックフラッシュ(逆洗)され系外へ排出する。1 炭化水素の濃度監視,漏れの監視に用いられ,非メ 分析は3∼5分で行われる。 タン炭化水素計は,大気汚染の調査,濃度監視,道 (3)直接方式非メタン炭化水素計 路近傍での排出実態の調査,環境調査等に用いられ メタンと非メタン炭化水素を分離し,非メタン炭 全炭化水素計は,発生源近くでの特定の る。 化水素を直接測定し濃度を求める。測定は試料を一 環境大気中の非メタン炭化水素濃度の測定につい 定量採取し,ガスクロマトグラフの分離管で酸素と ては,指針が定められており,直接方式非メタン計 メタン,それと非メタンに分離し,メタンを測定, で測定することとされている。 172 水素炎イオン化検出法 FID メタン 非メタン 酸素干渉 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(7) 窒素酸化物分析計 Oxide-of-nitrogen analyzer 〈概要〉 大気汚染物質としての窒素酸化物の多く 他に試料大気吸引ポンプ,吸収液タンク,吸収液定 は高温燃焼に伴って発生し,主に自動車や各種燃焼 量供給部,吸光度測定部,プログラマ,指示記録計 炉などの排ガスに含まれ,大気中に放出される。 などから構成され,1時間を周期とする間欠測定方 昭和48年に二酸化窒素について環境基準が制定さ 式である。測定記録は周期の始めにゼロ点調整を行 れ,ザルツマン試薬を用いる吸光光度法による連続 い,試料大気の通気測定がすすむに従ってのこ歯状 測定が義務づけられている。 に上昇し,周期の終りに1時間平均濃度を示す方式 連続分析計としては昭和49年にJIS B 7953(1981 年改定)が制定され,吸光光度法と化学発光法が規 定された。 〈原理及び特徴〉 である。構成例を図1に示す。 この方式は環境基準濃度レベルのNO2を長期間安 定に測定できるため環境基準による大気汚染の評価 環境大気中に含まれる窒素酸化 のための測定法に指定されている。 物は主に二酸化窒素(以下NO2と記す)と一酸化窒素 (2)化学発光法 試料大気中のNOとO3の気相反 (以下NOと記す)である。吸光光度法は原理的に 応によって生じる化学発光強度がNO濃度に比例関 NO 2分析法であり,化学発光法はNOの分析法であ 係にあることを利用して,試料大気中に含まれるNO る。 濃度を測定する方法である。NO2はO3との化学発光 (1)吸光光度法 吸収液としてのザルツマン試薬 反応がないので,試料大気をコンバータに通して (N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩,スルフ NOに還元して測定する。得られる測定値はNO 2と ァニル酸及び氷酢酸の混合溶液)一定量に,一定流 NOの合わせた量のため,コンバータを通さないと 量の試料大気を一定時間通気させると,試料大気中 きのNO濃度を差し引いて求める。分析計の構成例 に含まれるNO2が吸収され,吸収液と反応して赤紫 を図2に示す。この方式は環境濃度レベルから排ガ 色に発色する。この発色を545nm付近の吸光度を測 スまで広範囲に直線性が得られ,また応答が速い。 定することによりNO 2濃度を測定する。NOは吸収 〈用途〉 液と反応しないので,NO2吸収後の試料大気を酸化 自動レンジ切換式分析計が広く使われている。 液(硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液)に通し, 吸光光度法は0.1,0.2,0.5ppmNO2,NO 化学発光法は測定範囲0.1∼2ppmを多段切り替 NO2に変えてから同様の方法で測定する。分析計は えできる分析計が市販されている。両方式とも主に 試料大気の流れに従ってフィルタ,流量計,NO2用吸 環境濃度監視用として使用されている。 収びん,酸化びん,NO用吸収びんの順に配列され, 173 大気汚染物質 環境基準 ザルツマン試薬 吸光光度法 化学発光法 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(8) ふっ素・ふっ素化合物分析計 Fluorine and fluorine compound analyzer 〈概要〉 環境用ふっ素・ふっ素化合物分析計は, を含む酢酸ナトリウム溶液を用いる。この乾式捕集 大気中のガス状無機ふっ素化合物濃度を連続的に測 形の特徴は,大量の試料大気を吸収管に通気させて 定するもので,孔径0.8mmのフィルタを通過する無 も蒸発や飛散という問題がないため吸収効率が高 機ふっ素化合物をガス状無機ふっ素化合物と定義す い。図1に本方式による構成例を示す。 る。測定法には,イオン電極法と吸光光度法とがあ (b) 湿式捕集形 試料大気と緩衝液を一定の割合で直接的に接触さ る。 〈原理及び特徴〉 せて一定量の試料大気中に含まれるガス状無機ふっ (1)イオン電極法 素化合物を所定量の緩衝液に捕集溶解する。緩衝液 一定量の試料大気中に含まれるガス状無機ふっ素 を吸収液としているので通気による緩衝液の蒸発を 化合物を一定量の緩衝液中に捕集・溶解イオン化さ 常に水で補いながら捕集を行う。吸収液には10 −5 せ,この溶液中のふっ化物イオン濃度をイオン電極 mol/rのふっ化ナトリウムを含むくえん酸ナトリ 法によって測定する。試料大気中のガス状無機ふっ ウムの水溶液が用いられる。図2に本方式による構 素化合物濃度を原則として3時間ごとに求める。通 成例を示す。 常測定範囲は0∼5ppbレンジが主である。この方式 (2)吸光光度法 の特徴はふっ素イオンのほかにはほとんど応答しな 一定量の試料大気中に含まれるガス状無機ふっ素 いふっ素イオン電極を用いるので,亜硫酸ガスや二 化合物を一定量の吸収液中に吸収して発色させ吸光 酸化窒素等,他の共存ガスの影響を受けにくい。ガ 光度法によって発色の程度を測定する。この方法で ス状無機ふっ素化合物の捕集方法には,次の2種類 は.オゾン,二酸化硫黄,塩素,塩化水素,窒素酸 がある。 化物などは正(+)の誤差を与え,アンモニアなど (a)乾式捕集形 は負(−)の誤差を与える。吸収発色液としては,エ 吸収液を用いて,内壁にアルカリ膜を作った試料 リオクロムシアニンR・塩化ジルコニウム・塩酸 吸収管に大気を一定流量で導入して,大気中に含ま 混合溶液が使用される。図3に本方式による構成例 れるガス状無機ふっ素化合物を吸収させたのち,こ を示す。 の内壁を一定量の緩衝液で洗い流し捕集溶解する。 〈用途〉 吸収液には例えば,炭酸ナトリウム溶液(1w/v%) を用い,緩衝液には10−5mol/rのふっ化ナトリウム ガラス繊維製造工場,アルミニウム精錬工場など の付近における大気汚染の監視用に用いられる。 174 環境用 ガス状無機ふっ素化合物 イオン電極 吸光光度法 ふっ化ナトリウム 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(9) 浮遊粒子状物質濃度計 Suspended particulate matter meter 〈概要〉 浮遊粒子状物質とは,大気ないし室内空 比較測定を必要とする。 気中に浮遊する固体及び液体粒子であって,粒径が 図2は,共振周波数の変化から粒子の質量を求め おおよそ10mm以下のものをいう。浮遊粒子の形状や るもので,圧電素子(水晶振動子)の共振周波数が 比重など物理的性質は,発生原因によりさまざまで これに付着した粒子の質量に比例して減少すること あり,また,化学的組成も異なる。このため,粒子 を応用している。この場合,圧電素子の表面への粒 の大きさは,流体力学的挙動すなわち沈降速度が等 子の付着捕集には,捕集効率の良い静電集じん方式 価となる比重1の球形粒子の直径(mm)として表さ がとられている。 れる。また,その濃度は,単位容積の空気中に含ま 3 この方式は,検出信号が粒子の質量に直接比例す れる粒子の質量として,質量濃度(mg/m )で表さ ることから,原理的に質量濃度との対応性に優れて れる。一方,自動計測器としての濃度計は,直接粒 いる。一方,繰り返し測定で,測定を何回か繰り返 子の質量を検出するものではなく,それと一定の相 えすごとに圧電素子の洗浄を必要とする。図3は, 対的関係にある物理量を検出して,相対的に粒子の b線の吸収が透過物質の質量に比例することを応用 質量濃度を測定している。 して,浮遊粒子を捕集する前と捕集後のろ紙にb線 〈原理及び特徴〉 を透過し,b線の吸収量の差から粒子状物質の質量 浮遊粒子状物質の濃度計には, 光の散乱,共振周波数の変化,放射線(b線)の吸 を求めるものである。この方式は検出信号が粒子の 収などが測定原理として用いられている。 質量に直接比例することから,原理的に質量強度と 図1は,光の散乱を応用するもので,暗室内で浮 の対応性に優れている。 遊する粒子に光を照射するとき,粒子の物理的性質 〈用途〉 が同一であれば,浮遊粒子による散乱光量はその量 及び公害監視,労働安全衛生基準に係る作業環境の に比例することを応用している。この場合,散乱光 管理,ビル管理基準に係る室内環境の管理に用いら の強弱に応じて変わる光電流を積分してパルス信号 れる。これら環境基準に示される浮遊粒子状物質濃 に変換し,パルス輝度を質量濃度に対応させている。 度は,0.1mg/m3以下である。 この方式は,濃度変化に感度よく追従することか ら,連続モニタリングに適する。一方,質量濃度は 環境基準に係る大気汚染のモニタリング そのほか,清浄空気環境における製造工程の管理 などに用いられる。 一定でも粒子の形状や屈折率などの違いで散乱光量 が変わることから,質量濃度との対応には手分析と 175 浮遊粒子状物質 質量濃度 光散乱方式 ピエゾバランス方式 β線吸収方式 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(10) 硫化水素分析計 Hydrogen sulfide analyzer 〈原理〉 環境用硫化水素分析計は,大気中の硫化 度を測定することにより硫化水素濃度を測定するも 水素を連続的に測定するもので,検出方法として電 のである。図2にその構成例を示す。分析操作はプ 量滴定法によるものと,吸光光度法によるものとが ログラマにより次の順に行われる。吸収液が吸収セ ある。 ルに計量注入され,比色計の校正が行われる。大気 (1)電量滴定法の原理 一定濃度の臭素を含んだ が1時間吸引される。吸収動作完了後は,その間に 電解液に,大気を一定流量で送り込むと,試料(大 蒸発しただけの吸収液が補充され,つづいて,あら 気)中の硫化水素との反応により消費される臭素を かじめ計量された発色液が添加され,発色状態を比 電気分解により生成補充するときの電気量が・硫化 色測定し,硫化水素濃度として指示記録される。 水素濃度に比例しているので,その電気量より試料 (大気)中の硫化水素濃度を求めるものである。図 吸収セル内の吸収液は,1時間ごとに新らしいも のと交換され,測定がくり返される。 1に構成例を示す。試料(大気)はダストフィルタ 〈特徴〉 により粉じんを除去されたのち,ポンプ,流量計, バッチ式測定法であり,指示記録も1時間経過しな SO2スクラバを経て電解セルに導かれる。SO2スクラ いと出ないが,0∼0.1ppmの高感度測定ができる。 バにはフタル酸水素カリウムが充填されている。 吸光光度方式のものは,1時間単位での 電量滴定方式は,測定範囲が0∼0.5ppm程度で, E1E2は電解液中の臭素を,分極状態か消極状態かで 瞬時値が連続的に読みとれる。 検出している。電解液中の臭素が試料(大気)中の 〈用途〉 硫化水素と反応して一定濃度より減少すると,制 ン製造工場での環境濃度測定。 パルプ,セロファン,ビスコースレーヨ 御回路が動作して臭素電解発生固路に電解電流が流 地熱発電所での環境濃度監視。 れ,電解アノードE3では臭素が発生し,電解液中の し尿処理場,下水処理場などの臭気測定に使用さ 臭素濃度を一定に保つ。この場合の電解に要した電 れている。 気量(電流×時間)が生成した臭素量に比例するこ とはファラディの法則であきらかにされている。 (2)吸光光度法の原理 亜鉛アンミン錯塩溶液を 吸収液として大気中の硫化水素を吸収させ,これに 塩酸酸性モリブデン酸アンモニウム溶液を加え,生 成する青紫色を640nm付近の波長の光を用いて吸光 176 大気ガス中硫化水素 硫化水素濃度 硫化水素計 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.1(11) 環境大気用複合分析計 Combined ambient air polution analyzer 〈概要〉 環境大気用複合分析計は,大気中の二酸 (2) 浮遊粒子状物質濃度計−b線吸収法 化硫黄濃度を測定する硫黄酸化物分析計に,大気中 b線吸収法は,低いエネルギーのb線を物質に照射 の浮遊粒子状物質濃度計を組み込み,同時に記録で した場合,その物質の質量に比例してb線が吸収さ きるようにしたものである。 れることを利用した測定法で,ろ紙上に捕集した浮 その測定方式は,硫黄酸化物分析計では間欠形溶 遊粒子状物質にb線を照射し,透過b線強度を測定す 液導電率方式ないし紫外線蛍光方式が採用され,浮 ることによって,浮遊粒子状物質の質量濃度を測定 遊粒子状物質濃度計においては,β線吸収法が一般 するものである。 なお,分粒器を通すことにより,10mm以上の粒子 的に用いられる。 それぞれの分析計で測定された二酸化硫黄濃度と をカットするしくみになっている。 SPM(浮遊粒子状物質)濃度は,マイクロコンピュ 〈用途〉 ータを介して,同一記録計に記録される。 る。環境基準としては,二酸化硫黄の場合,1時間 〈原理及び特徴〉 値の1日平均値が0.04ppm以下,かつ1時間値が JISに基づいた,それぞれの測定 方式について,原理及び特徴を図1に示す。 (1) 二酸化硫黄濃度計―溶液導電率方式 大気汚染のモニタリングに主に用いられ 0.1ppm以下で,SPMにおいては,1時間値の1日平 均値が0.10mg/m3以下,かつ1時間値が0.20mg/m3 この方式は,大気中の二酸化硫黄が吸収液中の過 以下である。それぞれの濃度を監視するため,テレ 酸化水素と反応して,硫酸イオンを生じ,吸収液の メータシステムなどを使ったりあるいはデータロガ 導電率を増加させる時の導電率変化から,大気中の などで,データを集計・分析する事なども可能であ 二酸化硫黄濃度を求めるものである。 る。 反応式 H2O2+SO2→H2SO4 なお,硫黄酸化物分析計には紫外線蛍光方式を用 一時間周期で行う間欠形で,0∼0.05ppmの高感 いた複合分析計も使用される。この方式は二酸化硫 度測定から,5レンジを自動的に切り換えて,広範 黄の測定を二酸化硫黄に紫外線を照射して励起状態 囲に安定した測定が可能である。干渉成分としては, のSO2*を生じさせ,このSO2*が発するけい光の強度 二酸化炭素,アンモニアなどがあるが,二酸化炭素 を測定して行うものである。 は自動ゼロ点調整で,アンモニアはしゅう酸トラッ プやイオン交換膜によるアンモニアスクラバなどで 除去できる。 177 硫黄酸化物 浮遊粒子状物質 SPM b線吸収法 分粒器 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(1) アンモニア分析計 Ammonia analyzer 〈概要〉 アンモニア測定法には,色々な原理があ ング方法を工夫し,煙道近辺で比較的安定な一酸化 るが,基本的な区分としては,間接測定法と直接測 窒素に変換して測定するので,直接法と比較して, 定法に区分される。間接測定法とは,アンモニアを サンプリング系が簡単になる。 他成分に変換したり,他のガスと反応させて,変換 (2)直接測定法 されたガスの濃度を測定することにより,間接的に 測定原理としては,アンモニア自体が紫外線領域 アンモニア濃度を測定する手法である。 に吸収スペクトルを持つ性質を利用した紫外吸光光 〈原理及び特徴〉 度法による方法等がある。サンプリングラインはア (1)間接測定法 ンモニアの損失を防ぐために高温に加熱する必要が 酸化触媒を用いてアンモニアをNOに変換した後 ある。 (あるいは還元触媒を用いて排ガス中のNOxを低 物理的な直接測定法であるため,前処理装置が不 減した後),この一酸化窒素の濃度(あるいはNOxの 要,水蒸気による吸収のない紫外線波長領域を使用 減少分)を赤外線吸収法(あるいは化学発光法)に することにより除湿器が不要,自己変調法の採用に よって測定し,アンモニア濃度を測定する方法であ より他物質による干渉が少ないなどの点が特長とし る。 てあげられる。 現状では,煙道排ガス中のアンモニアの測定は,還 〈用途〉 元触媒を用いて,排ガス中に共存するNOxとアンモ 最近の排煙脱硝装置の発展はめざましく,とくに ニアを還元反応させ,その結果減少したNOx濃度を 乾式アンモニア還元法が有効な手段として知られ, NOx計で測定し,還元反応前のNOx濃度との差量を 実用化されている。アンモニアの消費量を少なくす 測定し,等価的にアンモニア濃度を測定する方法が る目的や,二次公害(悪臭防止法によって,大気中 主流となっている。但し,近年発電用燃料との関係 濃度の許容限度が定められている) を防止する目的, で酸化法も増加の傾向にある。 あるいは脱硝装置後段のエアヒータの閉塞を予防す アンモニアガスは,容易に水に溶解したり,共存 するSO2(SO3)と水とが反応して酸性硫安の結晶物 る目的のため,高感度アンモニア連続測定装置が必 要となる。 が生成される。したがって間接測定法ではサンプリ 178 アンモニア計 間接測定法 直接測定法 NH3 コンバータ 紫外線吸収方式 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(2) 硫黄酸化物分析計 Oxides-of-sulfur analyzer 〈原理〉 発生源用硫黄酸化物分析計は,各種ボイ に特に配慮が必要である。最近では,冷却除湿器の ラ排ガス,加熱炉及びその他の燃焼機関からの排ガ 代わりに気相除湿器が使用される場合がある。 ス中に含まれる硫黄酸化物のうち二酸化硫黄成分を 〈特徴〉 連続的に測定するもので,赤外線吸収方式と紫外線 原理に光吸収を用いた非破壊方式であることから種 吸収方式が主として用いられている。紫外線吸収方 々の特徴をもつ。主な特徴を列挙すると, (1) 流量影 式は,二酸化硫黄の280∼320nm付近における紫外線 響が少ない。(2) 応答速度が速い, (3) 高感度測定が可 の吸収量の変化を光電的に測定するもので,光学系 能である, (4) 妨害成分による干渉影響が少ない。 (5) に分光器を用いた多波長方式を採用し,二酸化硫黄 自動校正装置の付加により安定した測定データが得 と吸収スペクトルが重なる二酸化窒素の影響の補正 られる, ( 6) 保守性がよい,などである。さらに,近 を行うほか,一酸化窒素や二酸化窒素などを同時測 年急速な進歩を見るエレクトロニクス技術,センサ 定する複合分析計にも用いられている。 技術,新材料などを応用して,測定精度,安定性及 赤外線吸収方式は,二酸化硫黄の7.3mm付近にお 赤外線吸収方式及び紫外線吸収方式は, び保守性の面で改良がなされている。 ける赤外線の吸収量の変化を選択的に測定し,排ガ 〈用途〉 ス中に含まれる二酸化硫黄を連続的に求める。図1 黄分を含む燃料の燃焼,硫酸製造工場,金属,ガラ に,赤外線吸収方式(赤外線ガス分析計)の原理図 スなどの精錬工程などから発生するが,大部分は燃 を示す。光源から照射される二つの光束により試料 料の燃焼による。排ガス中硫黄酸化物分析計は,ば セル及び基準セルにおける吸収量の差を検出器にて い煙発生施設での連続監視に用いられている。産業 電気信号として検出する。試料排ガス中に含まれる 別には,一般工場の発電用小型ボイラ,火力発電プ 二酸化炭素及び水分は,妨害成分として干渉影響が ラント,セメント,鉄鋼,石油化学,製紙,焼却炉 無視できないので光源フィルタ及び検出器の組合せ など多岐にわたって用いられている。 排ガス中の硫黄酸化物は,重油などの硫 によりこれらの影響を少なくする工夫がなされてい る。図2は,赤外線ガス分析計を硫黄酸化物分析装 置に組み込んで使用する場合の構成例である。 二酸化硫黄は,凝縮水に溶解しやすく,ゴム材質 やガラス繊維などに吸着されたり,これと反応を起 しやすいので,前処理装置の構成,接ガス材料など 179 硫黄酸化物 赤外線吸収方式 紫外線吸収方式 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(3) 一酸化炭素分析計 Carbon monoxide analyzer 〈概要〉 排ガス中の一酸化炭素 (CO)の測定はガス る。 クロマトグラフ法,検知管法,へンペル式分析法, 〈用途〉 赤外線吸収法,定電位電解法などがJISに採用されて どで,主として,各種のボイラ,加熱炉などからの いるが,最近では,ほとんどの場合,非分散赤外線 排ガスの測定に用いられる。場合によっては多点の 吸収法が用いられるので,本項では,それについて 自動切換測定が一部で用いられることもある。これ 述べる。 は多くの測定点を集中的に監視することができる。 〈原理及び特徴〉 燃料の燃焼,金属精錬,化学反応工程な 赤外線吸収法はCOガスのもつ (図2)。また,最近では,燃料の効率的燃焼及び低 4.7mmを中心波長とする赤外線吸収を利用した分析法 公害化を目的としてボイラの低酸素運転が注目され であり,図1に示す構成例が一般的である。 ており,従来のO2計のみの制御からCO計とO2計の 試料ガスはサンプリング装置で一定条件(調湿また 組合せによる燃焼管理制御が見直されている。 は除湿を含む)になるように処理され,赤外線ガス 分析計に導入される。赤外線ガス分析計の基本構成 は,「発生源用」や「環境用」に用いられる赤外線 分析計,及びプロセス・現場用赤外線分析計などと ほぼ同様である。COを選択的に検出するために,通 常,検出器にはCOを一定分圧で封入したものが多く 用いられている。また測定範囲はCO 0∼100ppmか ら0∼1%が一般的であるが,0∼100ppmのような 低濃度測定に対しては排ガス中のCO2やH2Oなどに よる干渉影響が無視できないレベルとなり,干渉フ ィルタとして多層膜の光学フィルタを用いたり,さ らに干渉補償型検出器を採用したりしてより選択性 が高く測定誤差の少ないものも使用されている。 赤外線吸収式一酸化炭素分析計の特徴は (1) 応答速 度が速い, (2) 流量影響が少ない, (3) 発色剤や還元剤 などの試薬が不要。などが主なものとしてあげられ 180 一酸化炭素計 赤外線吸収法 多点自動切換測定法 燃焼管理制御 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(4) 塩素・塩素化合物分析計 Chlorine and chlorine compound analyzer 〈概要〉 塩素ガス及び塩化水素ガスは,化学製品 しいため電位差はゼロになる。いま,塩化水素を含 の反応施設や活性炭製造用反応炉などで生成される む試料ガスを採取したとすると測定セル中の溶液は が,これが大気の汚染源となる。また,廃棄物中の 塩化水素濃度に応じて塩化物イオン濃度が増加す 塩化ビニール系樹脂が焼却される際には塩化水素ガ る。このとき基準側電極は一定の電位を保っている スが生成される。これは脱塩酸処理を行わないとき のに対して測定側電極は,増加した塩化物イオン濃 には100ppmを超えることがある。大気汚染防止法に 度に対応して電位が変化する。この両電極間の電位 は塩素系汚染物質として塩素ガスと塩化水素ガスの 差を測定することにより,試料ガス中の塩化水素濃 排出基準が定められている。 度が求められる。図2のように分析計では一定量の (1)塩化水素分析計 試料ガスと溶液がポンプによって流れているので, 〈原理及び特徴〉 排ガス中の塩化水素を分析する 試料ガスは常に一定の比率で溶液に吸収される。こ 方法には,チオシアン酸水銀 (Ⅱ)吸光光度法,硝酸 の方法はイオン電極比較方式であるため,安定した 銀滴定法,イオン電極法があるが,前二者は自動分 測定ができ,共存する他成分の妨害影響も少なく, 析法には適さない。イオン電極法は.試料ガスを一 しかも低濃度から高濃度まで測定できる。又試料ガ 定の水溶液に吸収し,このとき塩化水素の解離によ ス中の水分を気相除湿器で除去後,赤外線吸収法で って生じた塩化物イオン濃度をイオン電極によって 測定する方式も採用されている。 定量する方法であり,広く自動分析計に採用されて 〈用途〉 いる。以下にこの方法について述べる。 て発生する塩化水素ガスの監視に用いられる。 図1に検出部の例を示す。塩化物イオン電極は, 焼却炉で塩化ビニールなどの燃焼によっ (2)塩素分析計 溶液中の塩化物イオンに感応し電位を発生し,その 〈原理及び特徴〉 電位はイオン濃度の対数に対して直線的に変化す 率でオルトトリジン塩酸酸性溶液に吸収させて,得 る。検出部は,一定濃度の塩化物イオンを含む水溶 られた呈色液の435nm付近での吸光度を測定し,塩 液を満たしたセル及び同液に試料ガスを吸収させた 素濃度を自動的に定量する方法がある。吸収発色液 溶液を満たしたセルからなり,各セルにはそれぞれ 量と試料ガス通気量の比を適当に選ぶことにより幅 塩化物イオン電極が浸され,多孔質セラミックなど 広い範囲での測定範囲が得られる。 で液絡されている。試料ガス中に塩化水素が含まれ 〈用途〉 ないときは両セル中の溶液の塩化物イオン濃度は等 まれる塩素の監視に用いられる。 塩素を含む試料ガスを一定の比 化学反応に伴って排出されるガス中に含 181 イオン電極法 塩化水素計 基準セル 測定セル 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(5) 酸素計 Oxygen analyzer 〈概要〉 窒素酸化物や塩化水素の排出基準では, 図1に示す検出器は,圧力検出形磁気力方式で, 濃度規制の盲点である“空気で薄めて出す”という 不均一な磁界中に酸素(常磁性の気体)が存在する 弊害を防止するため,排ガス中の酸素濃度を同時測 と,酸素は磁界の強い方に引きつけられ,その部分 定し,施設の種類によって定まる基準酸素濃度を用 の圧力が上昇する。この圧力上昇を非磁性体の気体 いて下式により排出濃度を補正計算して求める方式 (例えばN2)を使って,磁界外に取り出し,変化を が採用されている。 検出する。検出部が試料ガスに触れないので, 腐蝕性 〔窒素酸化物の量Cの計算式〕 ガスに強い。試料ガスの熱的性質(熱伝導率等)や, 21−On ・Cs 21−Os 加熱性ガスによる指示誤差がない。補助ガスが少量 C= On:施設の種類により定められた酸素 (%) Os:排出ガス中酸素濃度(%),20%を超え る時は20%とする。 必要だが,ゼロドリフトの少ない特長がある。 酸素の電気化学的性質を利用したジルコニア式酸 素計は,高温の酸化ジルコニウムを酸素濃度が異な る2つのガスを境するように設ける。(図2)2つの Cs:標準状態に換算した窒素酸化物の実測濃度 界面間に酸素濃度の比の対数に比例した起電力が発 酸素濃度の測定法としては,酸素の常磁性を利用 生する。原理的に測定出力は酸素濃度の対数に比例 する方式と酸素の電気化学的な性質を利用するジル するので低濃度の酸素を精度よく測定できる。 コニア法がある。これらの酸素計は工業プロセス用 〈用途〉 として用いられるものと同じ原理のものであるが, は,主としてばい煙発生施設の排ガスの窒素酸化物 同原理のものを公害計測器として証明行為に使用す や塩化水素の濃度補正システムに使用される。(図 る場合は計量法による検定に合格したものでなけれ 3)排煙中の酸素濃度は,燃焼の空燃比とも関係す ばならない。 るので,燃焼コントロール用にも全く同じ原理の酸 〈原理及び特徴〉 概要にも述べたように,公害用の酸素計 酸素は常磁性体であっで磁場に 素分析計が使用される。このことを利用して,直接 吸引されるという性質がある。窒素酸化物も常磁性 測定が困難である排煙の流量を,計測が比較的容易 体であるが,通常共存する濃度は非常に小さく,測 である燃料の流量と酸素濃度から換算することがで 定への影響はほとんどない。常磁性を利用する酸素 き,SOxの排出総量を測定するシステムに酸素計が 分析計は,磁気力式と磁気風式に分類できるが,こ 使用されている。(図4) こでは前者の1例について検出器の構造を説明する。 182 酸素計 磁気力方式 磁気風方式 ジルコニア方式 酸素濃度による換算式 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(6) 炭化水素分析計 Hydrocarbon analyzer 〈概要〉 測定発生源から排出される炭化水素類は た特徴を持っている。分析計の仕様例として(a) 測 種々の成分からなり,かつその濃度も広範囲にわた 定範囲:0∼20ppmCから0∼2000ppmC, ( b) 再現 っている。炭化水素の測定に用いられる分析計とし 性:±1%, ( c) 応答速度:90%応答,10秒以下, ては,ガスクロマトグラフにおける有機物の高感度 (b) その他:高沸点炭化水素の吸脱着による応答の 検出器として知られている水素炎イオン化検出法に 遅れを防ぐために,サンプリングラインを100℃∼ よるものが多い。このほかに非分散赤外線吸収法に 150℃に加熱することもある。 よる分析計を用いる場合もある。試料ガスは,その (3)非分散赤外線吸収法 この分析計は,炭化水 採取点から,吸着の少ないふっ素樹脂製の導管など 素の3. 3mm付近における赤外線吸収を利用したもの (加熱保温する場合もある)を通って,連続的に分 である。検出器にはへキサンガスが封入されて 析計に導入される。 おり,へキサン換算濃度として測定する。また半導 〈原理及び特徴〉 体センサなどとの固体検出器も用いられている。構 (1)水素炎イオン化検出法の原理 図1に示され 造が簡単で取扱いが便利という長所がある反面,炭 ているように,一定流量に制御された炭化水素を含 化水素の種類によっては均一な応答を示さず,特に む試料ガスと,燃料用の水素とを混合し,細いジェ 大気汚染の立場から見て重要なオレフィン類,芳香 ットノズルの先端で燃焼させた場合,試料ガス中の 族類の炭化水素に対して感度が悪いという欠点があ 炭化水素が燃焼し,複雑なイオン化が起こる。この る。図2にこの分析計の構成例を示す。 水素炎をはさんで対向した電極を設け,適当な電場 〈用途〉 をかけると,コレクタ電極と対極の間にイオン電流 一般煙道排ガス中,石油貯蔵施設や塗装工場の排気 が流れる。このイオン電流を増幅器で増幅し指示計 ダクト中の炭化水素濃度の測定や,有機溶剤回収装 などに導き,炭化水素濃度を測定する。水素炎中の 置の濃度監視及び制御用としても用いられている。 イオン生成機構については,炭素凝集説や化学イオ 非分散赤外線吸収法による分析計は,その取扱いが ン化説があるが,まだ十分には解明されていない。 簡便なところから,おもに車検・整備工場向けの自 (2)水素炎イオン化検出法の特徴 水素炎イオン 動車排ガスモニタとして用いられている。 水素炎イオン化検出法による分析計は, 化検出法による分析計は,一般的には炭素原子数に 比例した応答を示し,広い濃度範囲にわたって直線 性があり,感度が高く,応答速度も速いという優れ 183 炭化水素 水素炎イオン化検出法 非分散赤外線吸収法 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(7) 窒素酸化物分析計 Oxides of nitrogen analyzer 光学フィルタ 〈概要〉 物質が燃焼した後排出される排ガス中に ベールの法則として次の式で示される。 I=I0e−kct ………………………………(3) は必ず,窒素酸化物 (NOx) が含まれている。NOxは, 一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO 2 )の総称であ I0:入射赤外線の強さ I:透過赤外線の強さ り,これらは大気汚染防止法により,その排出濃度 k:気体によって定まる定数 c:気体の濃度 が一定の値を越えてはならないと定められている。 t:気体(セル)の厚さ NOxを測定する方法は,化学発光方式,赤外線吸収 NOの赤外線吸収特性は, (3) 式のように,濃度と,吸 方式,紫外線吸収方式などがある。 収量との関係が,指数関数として示される。 〈原理及び特徴〉 化学発光方式は,NOとオゾン 赤外線吸収方式は,構造が単純で,試料ガス流量 (O3)が反応して,NO2になるとき放射される光の強 の影響を受けないなどの特徴をもっている。また感 さを測定して,NO濃度を測定するものである。こ 度も高く,安定性も優れている。 の発光強度は,NO濃度と比例関係にあり,また,排 化学発光方式及び赤外線吸収方式は,基本的に ガス中に共存する他の成分は光を出さないことから NO分析計であるため,NO 2も同時に測定するには NOのみを選択的に測定することができる。この反 NO 2をNOに還元変換してから間接的にNO 2も測定 応の機構は次式で示される。 する機構が必要である。 NO+O3→NO2*+O2 ………………… (1) 紫外線吸収方式は,NOが195∼230nm,NO2が350 NO2*→NO2+Hv …………………… (2) ∼450nm付近で紫外線を吸収する特性を利用したも (1) 式は,NOがO3によって,励起分子のNO2*にな ることを示し, (2) 式は,そのNO2*が,光のエネルギ のである。 〈用途〉 (1) 各種燃焼機関から排出されるガス中のNOx濃度の ー(Hv)を放出することを示している。 化学発光方式の分析計は,NOxの広い範囲にわた って直線性を示し,検出感度が高く。さらに,他の 成分の干渉影響が少ないなどの特徴を持っている。 連続監視。 (2) 脱硝装置の反応器入口のNOx濃度を測定し, アン モニアガス注入量を制御する。 赤外線吸収方式は,NOが5.3mm近辺の赤外線を (3) 脱硝装置の反応器出口のNOx濃度を測定し,脱硝 選択的に吸収する特性を利用したものである。この 率の計算を行う。 さらに脱硝触媒の効率低下を判 原理は,SO 2,CO,CO 2,などの分析計に用いられる 断する。 ものと全く同じで,その吸収特性は,ランバート・ 184 窒素酸化物 NOx 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(8) ばいじん濃度計 Dust monitor 〈概要〉 排ガス中のダスト濃度の測定方法は,JIS Z 8808に規定されているが, その方法では, ダスト濃 度の瞬時的な変化や時間的な変動を知ることは,事 さにおける光透過率濃度,光学濃度をそれぞれ1 mの排ガス層に換算して表示するもの。 などである。 実上不可能である。そこで,各種のばいじん用相対 この方法は,基本的にはランバート・ベールの法 濃度計が市販され,それぞれ利用目的に応じて使用 則を利用しているので,ダストの物性により,値が されている。この代表的な方法に, (1) 光透過法, (2) 相当変動するという難点はあるが,装置は一般に比 光散乱法, ( 3) 接触帯電法, ( 4) b 線吸収法, ( 5) 電気 較的安価で手軽にダストの状況をモニタリングでき 天びん法などが考案され実用化されているが,ここ る利点を有している。 では上記の(1)と(2)について述べる。 (2)光散乱法によるばいじん濃度計 〈原理及び特徴〉 この装置は,吸引された排ガス中に光を投射する (1)光透過法によるばいじん濃度計 と,そこに存在するダストによって光の散乱現象が この装置は,排ガス中に外部から光を投射し,排 生ずる。この散乱光強度を電気量に変換し,その大 ガス中に存在するダスト(ばいじん)に起因する投 小によって,ダストの濃度(相対値)を求めるもの 射光の減衰を,電気的に取り出すことによって,そ である。図3に示すごとく,煙道用サンプリングチ こに存在するダストの濃度(相対値)を求めること ューブを有する検出器本体を,煙道壁に固定し,指 ができるものである。 示部は一体化,又は遠隔の制御室に設置されるのが 図1に示す例は,煙道に直接投光器と受光器を対 一般的である。 向させて固定する一般的なものであり,図2に示す この装置は,ステアリン酸標準粒子の質量濃度で 例は,ガスの一部を取込み加熱してミストの影響を 校正されているので,やはりダストの物性により, 無くしたものである。指示部は一体化,又は遠隔の 値が変動する。しかし,低濃度域で高い感度を有す 制御室に設置されている。又,得られるデータは るという特長がある。また,質量濃度との相関デー (a)光透過率濃度:投射光強度に対する透過光強度 の割合で表示されるもの。 (b)光学濃度;光透過率濃度から光学的に得られ る相対濃度を等分目盛で表示するもの。 (c)基準距離濃度;投射光の透過する排ガス層の厚 タも比較的多い。 〈用途〉 煙道,煙突,ダクトなどにおける煙やダストのモニ タリング並びに,各種集じん機の性能評価や燃焼監 視によるエネルギーコントロールにも利用される。 185 光透過法 光散乱法 光透過率濃度 光学濃度 基準距離濃度 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(9) ふっ化水素計 Hydrogen fluoride analyzer 〈概要〉 ふっ化水素計には発生源用と環境用とが イオン電極が装着されており,ふっ化物イオンの濃 あり,濃度及び測定点の状況に応じて使いわける。 度に応じた電位差が得られる。この電位差を高入力 発生源用はフルスケール1∼2ppm,環境用はフル インピーダンスの増幅器を通して読み取ることによ スケール5∼10ppbが普通である。いずれも測定点 り試料ガス中のふっ化水素濃度を知ることになる。 に試料採取器を設置し,装置側よりエアーポンプで また,吸収液には一定濃度のふっ素イオンが添加さ 測定すべきガスを吸引し,吸収液に接触吸収させて れており,定期的にポンプ(P2)により測定セルへ直 いる。環境用の試料採取器は,ガス吸引量が多く吸 接送液され,装置の自動零点校正が行われるように 着の心配が少ないので一般に発生源用のものより簡 構成されている場合が多い。ふっ化物イオン濃度と 単な構造になっている。検出器は,主としてイオン 電位差の関係は次のネルンストの式により与えられ 電極が用いられるが,比色法を用いることもある。 る。 E=E0−(RT/nF)・ln[MF−] 発生源用は,ふっ化水素の濃度が高いため,測定値 が連続して得られる瞬間連続方式を採用できるが, ここでEは測定された電位差,E0は標準酸化還元電 環境用は濃度が低いため一定時間の濃縮工程が必要 位,Rは気体定数,Tは絶対温度,nはイオンの価 になり,そのため1∼3時間に1回の測定値が得ら 数,Fはファラデー定数,MF−はふっ素イオン濃度 れる間欠連続方式になる。 〈原理及び特徴〉 (正しくは活量)である。図2にふっ化物イオン濃 イオン電極法は保守が容易であ 度と電位差の関係の例を示す。 り再現性,選択性共に良好で,使い易いが,電極に 〈用途〉 寿命があり交換の必要が生じる。比色法は長期間の 工場などの煙道中の排ガスの監視,及びこれら工場 使用には耐えるが,測定セルが汚れると測定値に影 の付近における大気汚染の監視用に用いられてい 響を与えるなどの欠点がある。ふっ化水素計の代表 る。 ガラス繊維製造工場,アルミニウム精錬 的なものとして図1にイオン電極法を採用した発生 源用ふっ化水素計の構成例を示す。煙道中のふっ化 水素は,ダストフィルタを通り加熱導管を経て吸収 槽に至る。吸収槽でふっ化水素は,溶液ポンプによ り送液された吸収液に吸収され検出部へ運ばれる。 検出部の基準セルと測定セルのそれぞれにふっ化物 186 発生源ふっ素 ふっ化水素 ふっ化物イオン濃度 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(10) 硫化水素分析計 Hydrogen sulfide analyzer 〈概要〉 〈特徴〉 排ガス中の硫化水素分析方法は,JIS K 0108に規定 (1) 測 定 範 囲 は 0 ∼ 1 p p m 測 定 レ ン ジ か ら 0 されているが,その方法として(1)硝酸銀電位差 ∼100ppm測定レンジが用いられ,この測定範囲 滴定法, ( 2 )イ オ ン 電 極 法 , ( 3 )メ チ レ ン ブ ル ー 内で任意に警報設定ができる機能を内蔵してい 吸光光度法, ( 4)ガスクロマトグラフ法があり,そ る。 れらの方法では,硫化水素計として長期間の連続モ (2)メンテナンスが容易である。SO2スクラバ液, ニターとしての使用は実用上不可能である。そこで 電解液の交換は自動化されていて,液の補充は 排ガス中の硫化水素を測定する目的で市販されてい 1月に1回で済み,電解液などの交換による欠 る濃度計として, ( 1 )電 量 滴 定 方 式 , ( 2 )紫 外 吸 測時間も15分で終了する。 収方式のものが考案され,実用化されているが,こ 〈用途〉 こでは電量滴定方式について述べる。 製紙工場等の排ガス中臭気成分測定 〈原理〉 試料ガスをクエン酸塩系のSO2スクラバを通して亜 硫酸ガスを除去したのち,よう素を含む電解液中に 一定流量で導入すると,試料ガス中の硫化水素がよ う素と反応し,電解液中のよう素が減少する。 H2S+I2 → 2I−+S 同時に同じ電解液中に挿入した分極電位検出電極の 信号によって,当量点に対する偏差値に比例した電 解電流を電解電極間に流し,減少したよう素を発生 させ,自動的に補充させる。 2I− → I2+2e− 電解電流の制御回路は,この反応を常に維持するよ うに働くので,電解電流の瞬時値を読み取ることに よって,試料ガス中の硫化水素濃度が求められる。 187 発生源硫化水素 電量滴定方式 SO2スクラバ 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.2(11) 発生源用複合分析計 Comined stationary emission analyzer 〈概要〉 大気汚染の主要因として固定発生源の煙 る。 道排ガスと,移動発生源の自動車排ガスがあげられ 赤外線吸収方式の3成分測定複合分析計の構成例を るが,ここでは,煙道排ガス中の二酸化硫黄 (SO2), 図1に,紫外線吸収方式の原理図を図2に示す。紫 窒素酸化物(NOx),一酸化炭素(CO),炭化水素 外線吸収方式ではガスセルに紫外線を透過させて, (HC)及び酸素(O2)などの成分で,複数の成分を一 NO,SO2,NO2の各ガスに対応した3つの波長(NO, つの装置で同時に分析する複合分析計についてのべ 226nm,SO2,287nm,NO2,380nm)の透過率を分 る。上記の成分のうちO 2 は汚染成分ではないが, 光検出して電気信号に変換後,各ガスのスペクトル NOxの総量規制で濃度補正用として不可欠な測定 の重なりをマイコンで演算処理をして打ち消すこと 項目となっているものである。また,最近の省エネ により,3種類のガス濃度を一つの分析計で同時に ルギー政策により,複合分析計はボイラ排ガス中の 測定できる。 CO,CO2,及びO2の分析にも使われている。 また,NOxは,NOとNO2の出力加算により求め これらSO2,CO,CO2,HCの各成分の測定には,主 る。紫外線吸収方式の最小目盛はNOxが50ppm,SO2 に赤外線吸収方式が,NOx測定には赤外線吸収方式 が50ppm程度であるが,紫外線ランプが長月的な安 または化学発光方式が,O2の測定には,磁気式又は, 定に乏しいため,1時間に一度ゼロ補正用のサーボ ジルコニア方式が採用されている。また,紫外線吸 モータでゼロを補正して連続測定ができるように工 収方式を用いて,一つの分析計でNOxとSO2とを同 夫されている。 時に分析できるものも開発されている。 〈用途〉 〈原理及び特徴〉 SO 2,O 2の測定。ボイラ排ガスのCO,CO 2,O 2の測 赤外線吸収方式は,各ガスが特 定の波長域において赤外線を吸収する原理を利用し 固定発生源からの煙道排ガス中のNOx, 定。廃棄物焼却プラントのNO2,CO,O2の測定など ている。O2測定における磁気式は,O2の強い常磁性 を利用して,排ガス中のO2を選択的に測定するもの である。また,ジルコニア方式は,ジルコニア磁器 の酸素分子のイオン電導性を利用してO 2を測定す るものである。赤外線吸収方式の最小目盛は,通常, NOxが50ppm,SO2が50ppm,COが50ppm程度であ る。O2は一般に5%から25%の範囲で使用されてい 188 固定発生源 移動発生源 赤外線吸収方式 ジルコニア方式 紫外線吸収方式 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.3(1) 研究・生産用自動車排ガス分析装置 Automotive exhaust gas analysis system for laboratories and assembly lines 〈概要〉 自動車排ガスの測定で研究・生産に使用 ない材料,すなわち一般にはテフロン,バイトン, されている装置は,濃度測定用と重量濃度測定用に ステンレススチールを用い,試料ガスの濃度変化を 大別される。 より忠実に測定できるようにデッドスペースの少な (1)濃度測定装置 い構造にしている。ガスのハンドリングタイム(デ 〈原理及び特徴〉 ッドタイム)は試料ガス導入管を5m接続した状態 自動車の排ガス中には多量の水 分,オイルミスト及びダストが含まれている。この で3秒程度である。 ためガス条件を一定に調整し,長時間安定した測定 分析計で多く使用されている測定範囲は,CO計で ができるように,サンプリング装置が分析計に付加 50ppmから5%,CO2計で0.5∼20%,HC計で10∼ されている。 5000ppmC,NOx計で10∼5000ppm,O 2 計で1∼ 濃度測定に用いる分析方法は,一般に一酸化炭素 25%である。 ( C O ),二 酸 化 炭 素( C O 2 )は 非 分 散 型 赤 外 線 法 〈用途〉 ( N D I R ),炭 化 水 素( H C )は 非 分 散 型 赤 外 線 法 ル規制等)は濃度規制であり,これらの試験用に用 (NDIR)又は火素炎イオン化法(FID),窒素酸化物 いられるほか,品質管理のためにエンジン調整用タ (NOx)は非分散型赤外線法(NDIR)又は化学発光 ーンテーブルや生産ラインの終わりで検査に用いら 法(CLD),酸素(O2)は磁気式(磁気力式)又は電気 化学式(ジルコニア)式が用いられる。またディー 排出ガス規制の一部(6モード,アイド れている。 研究開発を主目的とした専用装置として,O2計や ゼルエンジン自動車の炭化水素(HC)測定には高温 CO2計を用いた空燃比(A/F)計,インテークマニホ 形の水素炎イオン化法(FID)が用いられている。 ールドのCO2濃度を指標としたEGR(Exhaust Gas 図1に装置の構成の例を示す。サンプリング装置 Recirculation)率計,CO,CO2,HC濃度からA/F は試料ガス中のミスト状の水分,オイル分を除去す (Air/Fuel)値を求める車載形で電池を電源とする るためのドレンセパレータ,オイルキャッチャ,水 A/F計等が自動車の低公害化,省エネルギーを目的 分量を一定に保つための冷却除湿式クーラ,試料ガ とする実験に用いられ,研究開発に役立っている。 スを吸引するポンプ,分析計保護用のフィルタ,校 正ガス導入用電磁弁ユニット,分析計及びサンプリ ング装置をエアパージするポンプ等で構成されてい る。使用する部品は極力,吸着や化学変化を起こさ 189 EGR率計 A/F値 自動車排ガス分析装置 濃度測定装置 重量濃度測定装置 定容量試料採取装置(CVS) 3. 環境(公害)用分析機器 として,VFM(ベンチュリフローメータ) を用いた (2)重量濃度測定装置 〈原理及び特徴〉 重量濃度測定には,濃度測定装 置と定容量試料採取装置 (CVS Constant,Volume 可変流量タイプのCVSも使用されている。 〈用途〉 自動車の排ガス規制用に多く使用されて Sampler)とを組み合わせて測定する方法が一般に おり,主に車の型式テスト及び生産車輛の抜き取り 用いられている。試料採取装置は現在米国,ヨーロ テストに用いられる。また連続試料採取口から直接 ッパ諸国,日本で使用されているCVS法がほとんど 濃度を測定することにより,モードごとの排出重量 である。 濃度が測定可能となり,排ガスの状態をダイナミッ 図2にCVSの構成の例を示す。試験車からの排出 クに把握することができ, 研究開発に役立っている。 ガスはすべて試料採取系に取り入れられ,精製され なお,自動車のエネルギー消費量の指標とされて た空気で希釈される。希釈された排ガスはサイクロ いる10.15モード燃費も本装置で求められたCO, ンを通り,臨界流量ベンチュリ管(CFV:クリティ CO2,HC重量より燃料消費量を算出できる。 カルフローベンチュリー)を通過するため, 希釈され た排ガスはつねに一定量吸引される。この結果主流 ガス中の排ガス中の測定物質物質の濃度は,その排 出重量に比例する。排ガスと希釈空気とがよく混合 されて,組成が均一なガス流になったあと,一般に メインCFVの前段から試料を小さなベンチュリで 主流の流量に対し一定比の流量でバッグに分取し, 分析装置で濃度を測定する。排ガスの濃度が低い場 合には,希釈空気の汚染が測定精度に影響する場合 が多いため,希釈空気を別のバッグに採取測定して 補正する。 試料バッグは国内規制の10.15モード,11モード では1組(試料用,希釈空気用各1個)が用いられ るが,米国連邦規制では3組(6個)のバッグが使 われている。 また,試験車の各モードの排出量の全排出量への 寄与を求めるため,バッグ導入用試料採取口と同じ 採取点に連続測定用試料採取口があり,そこから分 析装置へ直接試料を導入し, 測定することもできる。 装置の流量は通常2∼10m3/minで,試験車の排ガ ス排出量に応じて,水分が凝縮しないよう十分な流 量が必要である。流量の安定性は通常±1∼2%以 内である。なお熱交換器の温度調節の精度は±5℃ 以内である。試料の採取に用いられるバッグは高沸 点のHCの吸着を防ぐため,ふっ素系のプラスチッ クフィルムが用いられている。 なお,ディーゼルエンジン自動車の場合は,ガソ リン自動車に比べ高沸点HCが多い。この場合バッ グを用いると高沸点のHCが吸着され,誤差が大き くなる。このため希釈された試料を高温形FIDで連 続測定し,この出力を電気的に積算する方法が用い られている。また最近の傾向として,LEV/ULEV規 制に対応するため,CVSの希釈率を最適化する方式 190 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.3(2) 黒煙測定器 Diesel Smoke Meter 〈原理〉 ディーゼル機関から排出される排気煙の れる。 汚染度を測定する計測用装置としてろ紙反射式スモ 汚染度(%) = {1−(汚染ろ紙規約反射率/未汚染ろ ークメータがある。ろ紙反射式スモークメータの本 紙規約反射率} ×100 体は,通気部及び汚染度計測部より構成されている。 規約反射率:特定の照明及び観測条件における物体 通気部:ディーゼル機関より排出された排気煙は, 表面の輝度Lと標準白色面の輝度L 0を100として比 (図1)の矢印のように,プローブ,排気導入管, L/L0を求め,これを百分率で表したものである。 ろ紙装着部,吸引ポンプの順で吸引される。ここで ろ紙:排気煙の中から固体粒子などをろ過して分離 排気煙の吸引量は吸引ポンプの容積により決定さ するのに用いる紙をいう。 れ,吸引時間は吸引ポンプの吸引速度調節ネジで調 〈特徴〉 節される。なお吸引ポンプはスプリングで駆動され になっているために光源ランプ及び光電池が排気煙 る。 の影響を受けない。次にろ紙の厚さのムラの影響を 汚染度計測部:ろ紙装着部に装着された未汚染ろ紙 受けないなどの特徴がある。ただ排気煙の固体粒子 は,吸引ポンプで吸引された排気煙中に含まれる固 などの色によって影響を受ける欠点がある。 体粒子などにより汚染される。この汚染されたろ紙 〈用途〉 をろ紙装着部より取り出し検出台の上に乗せ検出ボタ 煙の汚染度を測定するために用いられており,ディ ンを押す事によって,光源ランプからの光は汚染ろ紙 ーゼル車の黒煙測定器として使用されている。なお によって吸収反射されその反射光は,光電池により 現在ディーゼル車の排気煙の汚染度は50%が規制値 電流に変換され指示計に汚染度(%)として指示さ と定められている。 本体構成の通気部と汚染度計測部とが別 主にディーゼル機関から排出される排気 れる。たとえば汚染度が高い場合は汚染ろ紙からの 反射光は少なくなるので,光電池により変換される 電流は少なくなる。したがって指示計は左側が汚染 度が高く右へいくほど汚染度が低い目盛になってい る。なおここで用いる主な用語の意味は次の通りで ある。 汚染度:汚染度とは排気煙濃度測定用ろ紙が排気煙 によって汚染される度合を指し,次の式により表さ 191 ろ紙反射式スモークメータ 黒煙 汚染度 光源 光電池 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.3(3) 車検・整備用自動車排ガス分析計 Automotive exhaust gas analyzer for inspection and service 〈原理〉 自動車の車検・整備用ガス分析としては 一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)を測定している。 〈特徴〉 分析計の機能については,運輸省令自動 車整備検査用機械器具の技術上の基準に定められて この測定原理には非分散形赤外線分析法(NDIR)が おり,認定に合格したもののみ市販されているため, 採用されている。 これは自 動 車 排ガス中 の C O 4.6 mm,HCが3.4mm付近の赤外領域における光の吸収 各メーカとも基本仕様は同一である。 (1)測定範囲:自動車から排出されるCO・HCの中で を利用したもので,選択性や応答性に優れた特徴を 有し,排ガス中の共存成分(干渉成分)の影響を受 HCはエンジンの種類によって大きく濃度が異な る。このため,4サイクル・特殊・2サイクルエン けにくく,連続測定にも十分に耐え,測定値に対す ジン車に分類しており,一般的に4サイクルエンジ る信頼性も高い。なお,以前には接触燃焼法もあっ たが,これは正確さが劣るため現在では生産されて ン車には濃度が低く,2サイクルエンジンでは,そ の特性から4サイクルエンジンの10倍以上ものHC いない。 測定器は排ガス採取部,分析部(光源部,セル部 が排出されるため,分析計もそれに対応して非常に 目盛範囲の幅の広いものが要求される。したがって, 検出器),及び指示器(分析部から発信する測定濃度 ほとんどの分析計はアナログ表示のもので CO0 に比例した電気信号を増幅して濃度値を指示する) からなっている。分析計の代表的な構成例を図1に ∼2/8vol.%,または0∼2/10vol.%,HC0∼500/ 2,000ppm,0∼4,000/8,000ppmなど2段あるいは, 示す。採取管からとり込まれた自動車の排ガスは前 置フィルタを通り,分析計に導かれる。排ガス中に それ以上の多段切換目盛りをもっている。ディジタ ル表示のものではCO0∼10vol%,HC0∼10,000 含まれる水分はドレンセパレータで分離され,スト ppmとなっている。 レーナを通り,ドレン用ポンプで排出される。一方, 水分が分離された排ガスはダストフィルタで,排ガ (2) 応答速度,分析計に装備されている採取管へガス を採取しはじめた時から,測定ガス濃度の90%値を ス中のオイルミスト,ダスト,カーボンなどを除去 し,試料採取用ポンプで分析部に導びかれ,排ガス 指示するまでの時間は,10秒以内である。 〈用途〉 自動車整備の際,アイドリング状態での 中の測定成分の濃度に応じた連続的な指示をとして 出力される。フローモニターは試料吸引監視用に設 排ガス調整用として使用されるほか,事故の際排ガ ス規制基準値に合格しているかどうかの判定用に用 けられたものである。なお,分析計の出力は指示計 いられる。なお,車検用分析計は,合否判定を自動 により直読されるほか,記録計への出力(一般に DC100mV)としても取り出せる。 的に行う機能をもち,サンプリング系が長時間の連 続使用に耐えるように強化されている。 192 (自動車の)車検・整備用ガス分析計 アイドリング状態 4サイクルエンジン車 2サイクルエンジン車 非分散形赤外線ガス分析法(NDIR) 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.3. (4) SO2ガス分析装置 SO2 analyzer 〈概要〉 エンジンオイルに起因するSO( 2 S化合物) 分析装置について述べる。 〈原理及び特徴〉 SO2ガス分析装置:従来これらのガス分析方法とし ては湿式化学分析法やガスクロマトグラフ法が用い られてきた。これらの測定方法では間けつ的な測定 方法となるため,瞬時における排ガス傾向の把握は 不可能であった。以下述べる連続分析装置では,流 体変調方式の赤外線ガス分析計が用いられている。 連続測定における重要なポイントは,サンプリング 流路中でSO 2 の溶解と赤外線分析計に他の炭化水 素ガスや水分が与える干渉影響の問題である。図1 にSO2ガス分析装置の例が示されている。試料ガス 中のオイルミスト等は高温型前処理装置で完全に燃 焼させ,またSO2の水分による溶解を防ぐため,高温 サンプリング及び半透膜除湿装置をそなえている。 干渉影響については,干渉補正形検出器を用いて 影響を低減する。また,サンプリング系においても, サンプルガスを2ラインに分け,一方のラインに測 定対象ガス(SO2)のみを吸着させるような触媒をお き,このラインのガスを参照ガスとして用いるよう な工夫がなさている。 〈用途〉 SO2分析装置は,エンジンオイルの消費量計として 使用されている他,触媒の効率チェック用として使 用されている。 193 SO2ガス分析装置 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.3. (11) 自動車用多成分排ガス分析装置 Multi-component gas analyzer for automotive emission 〈概要〉 エンジン排ガスなどガス分析の対象となる試料ガ 使用されている。また,ホルムアルデヒドの連続分析法とし スは,通常,数∼数100成分の化合物を含んでいる。この ても有用である。さらに別の例として,燃料電池用メタノー ような混合ガス中の複数成分を同時かつ連続的に分析す ル改質システムの研究において,メタノール・一酸化炭素・ る方 法として,フーリエ 変 換 赤 外 分 光 法( F o u r i e r 二酸化炭素・水・メタンの同時分析による改質システムの評 Transform Infrared:FTIR)および質量分析法(Mass 価にも応用されている。 Spectroscopy:MS)が用いられる。 〈原理および特徴〉 (3)MS法の原理:MS法は,試料ガスを真空中でイオン 化し,イオンの電磁気的な性質を利用して質量ごとに分離 (1)FTIR法の原理:FTIR法は,NDIR法と同じく赤外 するものである。イオン化および質量分離にはいくつかの手 線の吸収を利用した分析法である。図1に,FTIRを用い 法がある。図2に,化学イオン化法と4重極型質量分離法 た多成分ガス分析装置の構成例を示す。光源から出射し を用いたガス分析計の例を示す。最初に,水銀・キセノン・ た赤外光は平行光となり干渉計へと導かれる。干渉計では クリプトン原子のいずれかが電子衝撃イオン化法によって一 2光束に分離された赤外光がそれぞれ異なる光路長を経 次イオンとなる。次に,電荷交換領域では,一次イオンと て再度結合される。こうして生成された干渉光は長光路多 の衝突により試料ガス分子がイオン化する。この試料ガスイ 重反射セルへと導かれ,試料ガスによる吸収を受けた後, オンのうち,測定対象成分イオンに対応する質量数のもの 検出器へ到達する。干渉計の連続スキャン (1∼数秒間隔) だけを4重極部で分離し,最終的にイオン電流として検出 で得られる干渉信号は,そのたびごとにフーリエ変換され する。多成分を連続分析するには,検出する質量数を一 る。このように連続的に得られる赤外吸収スペクトルに基づ 定間隔でスキャンさせる。 いて,試料ガス中の多成分の濃度が算出される。 (4)MS法の特徴:分子量の大きな化合物は通常の条件 (2)FTIR法の特徴:FTIR法では中赤外領域全域(波 ではガスにはならないため,検出する質量範囲はで2∼300 長2.5∼25μm付近)の吸収スペクトルが採取できるため, amu(原子質量単位)程度である。ほどんどのガス分子がイ この領域に吸収をもつ様々なガス成分を測定できる可能性 オン化できるが,FTIR法同様,実際の測定対象成分は試 がある。実際に測定対象となる成分は,試料ガスの種類ご 料ガスの組成に依存する。エンジン排ガス分析の場合,1,3- とに異なる。現在最も応用の進んでいるのはエンジン排ガ ブタジエン・ベンゼン・トルエンなどの有害成分の分析,ある ス分析の分野で,酸化還元状態の異なる窒素化合物(一 いは硫黄分による触媒被毒研究のための二酸化硫黄・硫 酸化窒素・二酸化窒素・亜酸化窒素・アンモニア)が同時に 化水素の同時分析などに応用できる。MS法は非常に感度 分析できることから,触媒上での窒素酸化物の挙動解析に が高いことも特徴で,ppbレベルでの計測が可能である。 194 フーリエ変換赤外分光法 質量分析法 FTIR法 MS法 多成分排ガス 窒素化合物 3. 環境(公害)用分析機器 大気汚染総合監視装置及びシステム 3.1.4 Air-pollution monitoring equipment and system 〈概要〉 大気汚染総合監視装置は,環境基準の適 広域的にかつ常時連続的に監視する測定局で,大気 合状況の監視や自動車排ガスによる汚染状況の測定 汚染の広域分布の測定や,時間的変化の調査予測を などの目的に,大気汚染物質 (SO2,浮遊粒子状物質, し,緊急対策を含む大気汚染対策を目的に設置され NOx,Ox,CO,HCなど)の測定装置を1か所に設 るものである。測定項目は二酸化硫黄 (SO2),浮遊粒 置して総合的な大気汚染の測定を行うものである。 子状物質,窒素酸化物(NO2,NO),光化学オキシダ このような総合監視装置を設置した場所を測定局 ント(Ox),一酸化炭素(CO),炭化水素(CH 4,non といい,この測定局が測定目的に応じて数か所から −CH 4)などである。また大気汚染と密接な関係の 数十か所にわたって設置されている。図1に測定局 ある気象(風向,風速,気温,湿度)の観測装置や の例を示す。これらの測定局を中央局としてテレメータ 日射量等の測定装置などが必要に応じて設置され で接続し,各測定点のデータを総合的に解析,必要 る。 な処理を行うシステムを大気汚染総合監視システム 自動車排ガス測定局:自動車交通量の多い道路周 という。 辺地域の排気ガスによる大気汚染を調査する目的で 〈原理及び特徴〉 測定局には,試料ガスの採取部, 設置されるもので,測定項目はCO,NOx,HCなど 測定機器,測定機器を長期間無人運転するための制 に限定された特定目的の測定局である。 御機器,校正用ガスなどが設置され,さらに必要に 測定車:一般環境大気測定局が恒久的な固定局で 応じて日報作成程度までを行うデータ処理装置が設 あるのに対して,測定機器を搭載した自動車を使用 置され,一つの完結した測定システムとなっている。 した移動局である。測定車は,固定局の設置場所を この測定局は通常, テレメータで中央局と接続され, 決定するための予備調査,あるいは固定局では不可 全測定局の動作状態の監視ならびに総合的なデータ 能なより細かい測定網によるデータが必要な場合な 処理や解析が行われる。また中央局では汚染状況が どに使用される。測定車の持つ機動性を利用して任 一目でわかるよう,地図やデータの表示盤が設置さ 意の場所や時間で多くのデータを得ることができ れることもある。図2に総合監視システムの概要を る。測定項目は総合測定局とほぼ同じである。また 示す。 もう少し長時間測定し,しかも移動性のあるコンテ 〈用途〉 大気汚染測定局には次のようなものがあ ナ式もある。 る。 一般環境大気測定局:一般環境大気汚染の状況を 195 大気汚染システム 一般環境大気測定局 自動車排ガス測定局 テレメータ データ処理装置 3. 環境(公害)用分析機器 3.1.5(2) 校正用機器及び装置 Calibration system and device 〈概要〉 校正の確からしさと頻度の適切さが,分 〈原理及び特徴〉 流量比混合法は,目的成分と希 析結果に大きな影響を及ぼす。このためJIS K 0055 釈ガスの各流量を一定値に制御し,均一に混合し, (ガス分析装置校正通則)が定められ,校正用ガス 連続的に調整する方法である。装置の基本構成例を を用いて行う動的校正方法が規定されている。 動的校正は,減光機構・光学フィルタ・等価液など 図1に示す。発生濃度は次式により求められる。 出などの一部分を対象とするのと比べて,実際の測 Q1 Q2 C0+ C0′ C0+Q2 Q1+Q2 ゼロガス発生器を内蔵した校正用ガス調整装置 定と全く同じプロセスを対象とするので,系統的な (図2)の場合は,希釈ガス用の熱式流量計と成分 誤差を除去でき,測定原理・構造形式・構成部品が ガス用の微小流量制御部による流量比で制御されて 異なっている分析装置にも採用でき,同一の測定値 いる。原料ガス90ppmを2%の精度で希釈して0∼ が得られる。この場合でも分析値が測定成分以外の 0.1ppmの二酸化硫黄計や窒素酸化物計用ゼロスパ 共存成分によって影響をうけ測定値が一致しないこ ンガスが得られる。この装置の微小流量制御部は計 とがある。これについては干渉テスト用の標準ガス 量容器内のガスの出入りを容積,温度,圧力から流 を用いて調査しておく必要がある。 量を計算し,電磁弁を開いている時間にフィードバ を用いて行う静的校正が試薬の反応・光電測定・検 これらの目的には,容器入り標準ガスとともに分 C= ックして流量制御している。 析計の検量線を点検する標準ガス分割器,流量比混 標準ガス分割器(図3)は,等寸で特性の等しい毛 合法によって目的成分を数分の1∼1億分の1・精 細管を数本並べ成分ガスと希釈ガスを同圧として供 度1∼5%で調整する校正用ガス調整装置,窒素又 給し,選択した毛細管数の比率でスパンガスの濃度 は大気中の汚染物質を除去するゼロガス調整装置な を0.1∼0.5%の精度で等分割する。 どがあり,これらは公的機関の検査制度によりトレ 〈用途〉 環境大気用等の分析装置の動的校正装置, ーサビリティーが確保される。 精度管理設備として使用されている。 また,オゾン発生機を主体とするオキシダント計, 動的校正装置,浮遊粉じん自動測定機を校正するた めの標準粒子発生装置等は,それぞれの装置の内部 で発生した目的成分を別途値い付けする。これらの 校正用機器による試料は調整しながら使用される。 196 校正用ガス調整装置 標準ガス発生器 流量比混合法 気相滴定法 動的校正方法 3. 環境(公害)用分析機器 3.2 水質汚濁分析装置 COD計 3.2.3(1) Chemical oxygen demand meter(COD) 〈概要〉 水中の被酸化性物質を化学的な酸化剤を に添加した過マンガン酸カリウムの量が1/2消費さ 用いて酸化して,用いた酸化剤の減少量を滴定によ れた場合がCOD値 10mg/rに相当するので,高濃 って求め,酸素の量として表したものがCODであ 度の時は試料をあらかじめ希釈して測定し,得られ り,有機汚濁の一つの指標となっている。JIS K た 値 に 希 釈 倍 率 を 乗 じ て 測 定 値 と す る 。例 え ば 0102の17∼20が各種のCOD測定方法となるが,水質 100mg/rの試料では試料量20mr,希釈水80mrを 総量規制では17項が「指定計測法」とされている。 用いることになり,装置内には試料希釈装置が内蔵 実用化されているCOD計は17項の操作をできるだけ されている。反応部は恒温に保たれた水溶又は油浴 忠実に守って自動化されている。またアルカリ性の で加熱される。水の沸騰点が100℃であることを利 過マンガン酸カリウムを酸化剤として用いたアルカ 用した加熱法が水浴であり特別な温度制御は不要であ リ性法COD計も実用されており,下水試験方法に るが水の補給が必要なことと沸騰水の還流効率によ 準拠している。また,自動計測器としてJIS K 0806 っては消費電力が大きくなる。油浴は正確な温度制 (化学的酸素消費量(COD)自動計測器)にとりあげ 御機構が必要であるが,電力消費が小さく熱媒体の られている。 油も長寿命である。塩化物イオンのマスキングと酸 〈原理及び特徴〉 ガラス製の反応槽に試料,硫酸, 化触媒の効果を有する銀塩は高価なため,廃液中の 硝酸銀,過マンガン酸カリウムを一定量加えて, 銀回収のために排水系統が分離されている。 100℃の恒温槽中で30分間加熱反応させる。試料中の 〈用途〉 有機物質と過マンガン酸カリウムが反応して,過マ 要機器として用いられる。測定範囲は0∼20mg/r ンガン酸カリウムが減少する。30分後に酸化停止の から0∼200mg/r程度が利用される。 公共水域や事業場排出水のCOD監視用主 ために過剰のしゅう酸ナトリウムを添加し残ってい る過マンガン酸カリウムと反応させ,過剰分のしゅ う酸ナトリウムを再び過マンガン酸カリウムで滴定 を行ない(逆滴定)加熱反応で消費した過マンガン 酸カリウムの量を求めて演算後指示記録する。滴定 時の終点検出は通常は白金電極と比較電極による酸 化還元電位差の急変点を利用するか双白金電極に定 電流を流し,その間の電位の変化を利用する。最初 197 COD 有機汚濁 過マンガン酸カリウム アルカリ性法 硝酸銀 3. 環境(公害)用分析機器 TOC計 3.2.3(2) Total organic carbon analyzer (TOC) 〈概要〉 水中に存在する有機物中の炭素を有機体 で行われる。測定範囲は,一般用では0∼10mgC/r 炭素(TOC)という。TOCは水質汚濁の指標の一つ から0∼10000mgC/rを超えるものまである。高感 でありJIS K 0102[工場排水試験方法]にも記載さ 度用(純水用)としては0.02∼1mgC/r,さらには れている。また,純水中の不純物の指標の一つとし それ以下のものがある。IC除去処理(脱炭酸処理) ても用いられ,この関連のJISとしてK 0551[超純水 のパージガスには,二酸化炭素を含まない空気また 中の有機体炭素(TOC)試験方法]がある。また, は窒素が用いられ,バッチ式処理と連続処理がある。 JIS K 0805(有機体炭素(TOC)自動計測器)にもと 試料注入は,燃焼酸化法では,マイクロシリンジに りあげられている。試料中には一般に溶存二酸化炭 よる手動注入の他にシリンジポンプやスライドバル 素,炭酸イオン,炭酸水素イオンなどの無機体炭素 ブによる間欠注入が行われる。湿式酸化法ではマイ (IC)が含まれているので,これを分別するために, クロシリジンによる手動注入の他に,ループバルブ 試料に塩酸などの無機酸を加えてpHを2∼3にして による自動間欠注入あるいは定量ポンプによる連続 ガスで通気処理をすることによりICを除去する方法 注入がある。燃焼酸化法の燃焼管には,石英ガラス, と,試料を酸性化してICを二酸化炭素に変換し, セラミックなどが使用され,酸化触媒には白金など これをキャリアガス中に抽出した後,検出部へ導入 の貴金属,酸化コバルト,酸化銅,アルミナなどが しICを測定し,TCとICの差からTOCを求める方法 使用される。装置の校正は,TOC用としてはフタル がある。 酸水素カリウム,IC用としては炭酸ナトリウム及び 〈原理及び特徴〉 炭酸水素ナトリウムを用いて標準液を作成し行な TOCあるいは全炭素(TC)を二酸化炭素に変換する う。測定値はTOC値そのものをプリンタで印字した 方式には,大別すると燃焼酸化法と湿式酸化法があ りデジタル表示する場合や,アナログ出力信号とし る。前者は,試料を酸素を含むキャリアガスと共に てバーグラフあるいはトレンドグラフの形で出力さ 高温に保持された酸化触媒充てん管に注入し,TOC れる場合がある。 を二酸化炭素に変換する。後者は,試料を酸化剤(ペ 〈用途〉 ルオキソ二硫酸塩)と反応させてTOCを二酸化炭素 工場排水などの水質の監視用および排水処理設備の に変換するもので,酸化剤と反応させる時に紫外線 評価,管理用に用いられる他,冷却水,ボイラ水, を照射して紫外線の酸化力を併用する方式もある。 純水,超純水などの有機性不純物の管理に用いられ 二酸化炭素の測定は,非分散形赤外線式ガス分析計 る。 有機汚濁の指標として河川,湖沼,海域 198 有機体炭素 (TOC) 無機体炭素 (IC) 非分散形赤外線式ガス分析計 3. 環境(公害)用分析機器 TOD計 3.2.3(3) Total oxygen demand meter (TOD) 〈概要〉 水中の被酸化性物質の主なものは有機物 セラミック製であり充分に酸化される。燃焼後は水 質と考えられるが, 有機物質の構成元素である炭素, 分を除湿してから固体電解質検出器(ジルコニア式 水素,窒素,硫黄,などは燃焼分解の際に酸素と化 酸素計)または湿式電解質検出器(白金鉛燃料電池) 合して酸化物になり酸素を消費することになる。 によって酸素濃度が測定される。間欠式の記録は一 TODの酸化反応(900℃Pt触媒中にて) 般にはバーグラフ式かトレンドグラフ式で表され 反応 安定な酸化生成物 る。計器の目盛校正にはフタル酸水素カリウムが用 C+O2→CO2 いられゼロ校正液には蒸留水が用いられる。低レン 2H+ 12 O2→H2O ジでの目盛校正時には水中の溶存酸素を充分に除去 1 2 N+ O2→NO したゼロ液を用いることになる。測定範囲は0 S+O2→SO2(一部SO3) ∼50mgO/rから0∼5000mgO/rが用いられるマ この消費される酸素の量を全酸素消費量(TOD) ルチレンジを備えたものもある。無機塩類は燃焼管 といい有機性汚濁の一つの指標として利用されてい の触媒表面に付着して能力を低下させる原因となる る。参考に主な物質のTOD測定例を表1に示す。 ので燃焼管や触媒の洗浄を行う必要があり,共存す る硝酸イオン,亜硝酸イオンは燃焼時に酸素を放出 〈原理及び特徴〉 少量の試料を一定量の酸素を含 するので負の誤差をまた溶存g素も負の誤差の要因 む不活性ガスと共に高温度の燃焼管に送り込み.有 となるので注意する必要がある。 機物などを燃焼させた後に酸素の減少量を測定して 〈用途〉 TODを求める。一定濃度の酸素を含んだキャリヤガ 常時監視,排水処理装置の運転管理,排水処理装置 ス(酸素濃度の調節にはシリコンチューブ内を一定 の解析及び評価,水質総量規制溶自動計測器。 河川,湖沼,海域,工場排水等の水質の 流量で不活性ガスを流すと大気中の酸素が一定の割 合で透過する性質を利用した方法も用いられている) を一定の流量で燃焼管へ供給しながら,スライドバ ルブなどによって一定量の試料を間欠的に送り込み (定量ポンプによって連続的に試料注入する方法も ある)被酸化性物質を燃焼酸化させる。燃焼管は白 金系又はアルミナ系の触媒が充填された石英製又は 199 全酸素消費量 (TOD) 固体電解質検出器 湿式電解質検出器 3. 環境(公害)用分析機器 BOD計 3.2.3(4) Biochemical oxygen demand meter (BOD) 〈概要〉 水中の好気性微生物の増殖あるいは呼吸 (2) クーロメトリ法 作用によって水中の溶存酸素は消費される。この酸 あらかじめ前処理された試料を培養びんに入れて恒 素消費量を生物化学的酸素消費量(BOD,Bioche- 温槽にセットする。微生物活動が進むに従って溶存 mical Oxygen Demand)という。一般には20℃の温 酸素が消費されて二酸化炭素が生成する。培養びん 度で5日間に消費される酸素量をmg/rの単位で表 中の吸収剤によって二酸化炭素を吸収するとびん内 示する。JIS K 0102によれば酸素の消費量が予想さ 圧は減少するので,これをマノメータで検知する。 れるBOD値の40∼70%になるように試料を希釈し マノメータからの信号によって酸素供給用の電解び て測定することになっているが,あらかじめBOD値 んにおいて電気分解が行われ酸素を発生させてマノ がわからない場合には種々の希釈倍率に調製した試 メータの圧力が元に戻る迄続けられる。定電流で電 料の測定をする必要がある。一方消費されていく酸 解を行っているので酸素発生量に電解時間は比例す 素を常に補給していく直接法の場合には高濃度の る。この時間を計測することによって消費された酸 BOD値も測定することができる。この曝気法,ク 素量を計ることになる。通常はこのユニットが6個 ーロメトリ法(直接法)の他にも微生物電極を使用 装着されており,6種の試料を同時に測定すること したものもある。 ができる。時間計測なので記録は連続的に表示され 〈原理及び特徴〉 ることと,高濃度の試料も希釈なしでBOD値を計 測することができ,測定範囲は0∼50mg/rから0 (1) 曝気法 あらかじめ前処理された試料をふ卵びんに入れ恒温 ∼1000mg/rのレンジ切替を備えているものもあ 槽内のターンテーブルに乗せる。ターンテーブルは る。 一定時間ごとに間欠的に回転し,定められた位置に 〈用途〉 おいて開栓されて溶存酸素(DO)測定電極が挿入さ 理装置の評価及び運転管理,微生物活動の解析等に れDOを測定し,ついで大気を一定時間曝気して再び 利用される。 環境水,工場排水等の水質監視,排水処 DOを測定する。測定が終わると閉栓してターンテー ブルが回転し次の試料に移り同様のことを繰り返 す。 この動作によって曝気後のDO濃度と一定時間経 過後のDO濃度の差を5日間積算して求めることにな る。測定範囲は0∼30mg/r程度である。 200 溶存酸素 生物学的酸素消費量 (BOD) 曝気法 培養びん クーロメトリ法 3. 環境(公害)用分析機器 UV計 3.2.3(5) Ultraviolet absorption meter 〈概要〉 有機物質の中には紫外線を良く吸収する 試料によっては懸濁物を含むことがあり,紫外線 ものとそうでないものがある。フェノール,ベンズ が懸濁物によって散乱を受けることによって誤差に アルデヒド等の芳香族化合物や,フミン質,リグニ なるので,これを低減するために紫外光と同時に可 ン等の天然化合物は吸収が多いが,アルコール,ブ 視光を測定して補正を行う二波長計測方式が実用さ ドウ糖等は吸収が少ない。多種多様の有機物が含ま れている。懸濁物質でも有機性の場合と無機性の場 れている工場排水や河川水は紫外線の吸光度を測定 合では誤差要因としての扱いが異なるので,二波長 することにより,CODに代わる有機汚濁物質の指 計測方式の採用は試料ごとにチェックする必要があ 標とすることができるが,水質の性状についてはあ る。校正にはフタル酸水素カリウムの溶液を用いる らかじめCOD法でチェックする必要がある。 ことが多いが,簡易的なチェックには光学フィルタ 〈原理及び特徴〉 紫外線照射用の光源ランプと紫 を用いる方法もある。いずれにしてもあらかじめ 外線検出器を備えた流通セルに,試料を連続的に導 COD法と比較をして求められる換算式を用いて 入して紫外線の減少度を測定する。用いる紫外線の COD濃度に変換することになる。 波長は250∼260nmが利用できるが,実用上では低圧 〈用途〉 水銀灯の輝線スペクトルである254nmを用いる場合 るための専用計器であり,水質総量規制に対応して が多い。また同ランプは比較的小形なことと寿命が 利用されている。 測定範囲は吸光度目盛りで0∼0.5 長いことにより連続使用に適している。セルは紫外 から0∼2程度であるが,セル長が6mm∼25mmま 線の透過率が優れている石英で作られ,円筒形フロ であるので試料濃度に合わせて選定することになる。 水質汚濁の一つである有機汚濁を測定す ーセル,角形フローセルなどがあるが,水道の蛇口 状のノズルから自由落下する水柱に直接紫外線を照 射して特にセル面を有さないものもある。セル面の 汚れは測定誤差となるので一定周期で自動的に洗浄 する機構が設けられており,ブラシ,スポンジ,ワ イパー,空気,薬品等による方式が用いられている。 セル部の構造には試料採水形式のものと,検出部を 直接試料中に設置する浸漬(せき)形式のものがあ り,後者はサンプリングに関する手間を要さない。 201 紫外線吸光度 二波長計測方式 水質総量規制 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.3(6) 全窒素測定装置 Total nitrogen analyzer 〈概要〉 水中での窒素はさまざまな形態で存在し 加熱したニッケル触媒管に水素をキャリヤガスと ており,亜硝酸イオン,硝酸イオン,アンモニウム して通し,試料を注入して窒素化合物をアンモニア イオン,有機体窒素に区別される。これらの形態別 に還元する。これを滴定セル内の電解液に吸収し, にそれぞれの分析方法がJIS K 0102に規定されてお 電気分解で発生させたH+で自動滴定を行う。 り,形態別の測定値を合算して全窒素とする方法, (3)化学発光法 亜硝酸イオンと硝酸イオンの合量,アンモニウムイ 加熱した金属酸化物上に精製空気をキャリヤガス オンと有機体窒素の合量を合算して全窒素とする総 として通し,試料を注入して窒素化合物をNOに変 和法,アルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウムで試料 換する。このNOとO3との反応で生じる化学発光量 の前処理を行って生成した硝酸イオンを吸光光度法 を光電子増倍管で検出して全窒素量を測定する。 で定量する全窒素測定方法がある。 またJIS法以外に,窒素化合物をアンモニウム,窒 (4)ガスクロマトグラフ法 加熱したPd触媒管にHeをキャリヤガスとして通 素酸化物,窒素などに変換して,電量滴定法,化学 し,試料を注入して窒素化合物をN 2に変換する。 発光法,ガスクロマトグラフ法などにより測定する このN 2を熱伝導的型検出器を用いたガスクロマト 方法がある。 グラフで測定する。 窒素の分析はさまざまな分野で行われており,こ のほかにも分析方法はあるが,ここでは環境測定の 分野で現在利用されている方法に限った。 〈用途〉 水質汚濁防止法施行令における富栄養化の一つの 指標となる全窒素量の測定。 〈原理及び特徴〉 (1)紫外線吸光吸光度法 試料をアルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウムと共 に120℃で加熱分解を行い,生成する硝酸イオンを 220nmの紫外線吸光光度法により測定する全窒素測 定装置であり,JIS法に準拠した全自動の間欠連続運 転を行う。図1に本法の測定原理を図2に構成例を 示す。 (2)電量滴定法 202 亜硝酸イオン 硝酸イオン アンモニウムイオン,有機体窒素,全窒素 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.3(6) 全りん測定装置 Total phosphorus analyzer 〈概要〉 水中でのりんはさまざまな形態で存在し によるモリブデン青吸光光度法を採用している。試 ており,りん酸,ポリりん酸,動植物質中のりんな 料をペルオキソ二硫酸カリウムを共に加水分解を どがある。試料の前処理により違いで, (1) りん酸イ (120℃・30分間) して,りん化合物をりん酸イオンに オン,(2)加水分解性りん, (3)全りんの測定に区 した後,強制水冷した処理液にモリブデン酸アンモ 別される。 ニウム・タルトラトアンチモン酸カリウム溶液及び 富栄養化の問題など環境関連では,JIS K 0102の 規格46.3の全りんの測定が使用される。 アスコルビン酸溶液を加えてモリブデン青を生成さ せて880nmで吸光光度測定を行う。 〈原理及び特徴〉 (1)りん酸イオンが七モリブデ 装置は採水から測定及び記録まで完全自動化され ン酸アンモニウム及びタルトラトアンチモン酸カリ ており,全りん濃度のモニタに使用される。モリブ ウムと反応して生成するヘテロポリ化合物をアスコ デン青はセルなどへの付着があるので測定後には洗 ルビン酸又は塩化すずで還元し,生成したモリブデ 浄を十分に行う工夫などがされている。全りん濃度 ン青の吸光度を測定してりん酸イオンの濃度とす が高い試料を測定する場合は,あらかじめ試料を希 る。モリブデン青測定の多数検体を処理するための 釈してから前処理を行う機構になっている。 装置もある。(2)試料を酸性にして加熱することに 〈用途〉 よりりん酸イオンになるりん化合物を加水分解性り となる全りん量を連続的に測定するための専用計器 んといい,加熱処理前後のりん酸イオン濃度の差に であり,環境基準又は排水基準を維持するために利 より求める。また連続流れ分析装置を利用した加水 用される。 全りん測定装置は富栄養化の一つの指標 分解性りん測定装置もある。 (3)試料にペルオキソ 二硫酸カリウムを添加して, 密封容器中で120℃に加 熱処理を行い,すべてのりん化合物をりん酸イオン にして測定することで全りん濃度が求まる。 試料に多量の有機物や分解しにくい有機体りんを 含む場合には,硝酸・過塩素酸又は硝酸・硫酸分解 法などが用いられる。 全りん測定装置は前記のJIS法に準拠しており,ペ ルオキソ二硫酸カリウム分解・アスコルビン酸還元 203 りん酸イオン 加水分解性りん りん化合物 モリブデン青 富栄養化 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.4(1) シアン計 Cyanide analyzer 〈概要〉 シアン化合物には猛毒なものが多く,水 の妨害を受けず,選択性が高く,アルカリ試薬の添 質汚濁防止法によって,工場排水基準として1mg/r, 加及び,サンプリング装置が不要である。応答速度 環境基準として「検出されないこと」と規制されて は排出基準の1mg/rにおいて90%応答が2∼3分 いる。シアン計にはイオン電極を直接試料に挿入し と速い。また計器は,ヘッドアンプと組み合わせて て測定するものと,通気により,シアン化物イオン 構成する場合,遠隔配置(約1∼2km)が可能であ をガス化させ,吸収液により吸収されたシアン化物 る。またイオンクロマトグラフを内蔵した新しいシ イオンを測定または隔膜形ガス電極を用いるものが アン計も検討されている。 ある。 〈用途〉 〈原理及び特徴〉 シアンの発生源はメッキ,製鉄,金属精 ここでは隔膜形ガス電極を用い 錬,金属表面処理,焼入,都市ガス発生,シアン化 た検知警報器について説明する。検知警報器は監視 合物やシアン化合物を用いる化学製品の製造,写真現 計器であるため,応答が速く,保守が簡単で,誤警 像,滅菌消毒等々広範囲である。水質汚濁防止法, 報を出さないために選択性が高いことが望ましい。 水道法,公害対策基本法の環境基準で1mg/r以下, 隔膜形ガス電極を用いた水中シアン検知警報器につ 又は検出されないことと厳しく規制されているの いては図1に示すように,検出器と指示警報器から で,これを遵守するには工場の排水口に,また産業 構成される。検出器は図2に示すように,電極と通 廃棄物の不法投棄等による公共用水域の汚染監視 気装置から成る。シアン化物イオンを含む試料水に に,河川,湖沼,海洋をはじめ上下水道取水口等に, 通気を行い,pH8.5以下で,気相に揮発してくるシ シアン自動測定装置を設置し,常時連続的にシアン アン化水素ガスを隔膜形電極で検知する気相測定方 濃度を検出する必要がある。 式である。隔膜を透過したシアン化水素ガスに応じ て電極の電位変化が生じて指示警報器に送られ,シ アン濃度を指示し,警報動作を発する。 特徴は気相測定方式が,電極と試料と非接触であ るため汚染されず,洗浄装置・前処理装置が不要で, 膜の寿命が延び,長時間にわたる無保守連続運転が 可能である。また隔膜形電極を採用しているため, 硫化物イオン・高濃度の残留塩素を除き,共存部分 204 シアン 猛毒 検知警報器 気相測定 隔膜形電極 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.4(2) フェノール計 Phenol analyzer 〈原理〉 フェノールは私達の生活においては,消 毒剤を始めとして化学製品に使用され,なじみの深 吸光度の差により,フェノールを測定している。 フェノール計としての測定範囲は両測定方法と いものであるが,その毒性と,自然界に流出すると も,0.1∼3.0mg/rである。 塩素と反応して塩素化フェノールを生成し,それが 〈特徴〉 4−アミノアンチピリン法による比色法は, 極微量でも水に著しい異臭味を与えることなどから, JIS K 0102「 工場排水試験方法」に規定されている 排水基準項目にもとり上げられている。 方法で,測定の基準となるものであるが,測定に試 水中のフェノールの測定法としては,いくつかの 薬を必要とする,測定時間が長い(1時間)など不便 方法があるが,4−アミノアンチピリン法による比色 な点がある。ただし,試料に妨害成分が含まれない 法及び紫外吸光光度法などがよく知られている。 場合は,蒸留を省略した測定器もあり,測定時間が 前者は,試料をpH調整した後蒸留し,その留出液 短く(15分間),構成も簡単になっている。一方,紫 に塩化アンモニウム―アンモニア溶液を加え,pHを 外吸収法は,pH調整ぐらいで,試薬をほとんど必要 約10に調整した後,4−アミノアンチピリン溶液とフ としないこと,測定がほぼ連続的にできることなど ェリシアン化カリウム溶液を加えて,生成する赤色 利点が多いが,濁りが多い試料を測定する場合や試 のアンチピリン色素を510nmの波長で比色測定する 料中にフェノールと同じように289nmの波長に吸収 ものである。この測定方式の反応は基本的には蒸留 がある有機物が混入した場合等は大きな誤差を生ず 操作を必要としないが,測定に対する妨害を防ぐた るので注意を要する。 めに行われている。この方法の測定器としては,図 〈用途〉 1の構成例に示したように, 試料及び試薬の計量部, 境基準項目に指定され,各工場よりの排水基準は 蒸留部,発色反応槽部,及び比色計部などからなり, 5mg/r以下と厳しく規制されている。このことか 自動的に測定できるようになっている。 ら,フェノールなどを排出するコークス,ガス製造 フェノールは生活環境の保全に関する環 一方,後者は,図2に示すようにフェノールが紫 工場,及び化学工場などにおいては,排水を処理し 外線を吸収することを利用したもので,試料をpH調 た後放流している。フェノール計はこの排水の監視 製し水銀ランプの発光線である289nmの吸光度を測 計として主に使用される。また,上水場においても, 定して行われる。この方法の測定器においては,試 緊急時のフェノールのセンサとして使用されてい 料の濁り等の妨害を補正するために,フェノールの る。 吸収のない365nmの吸光度も別に測定し,両波長の 205 塩素化フェノール 4-アミノアンチピリン法 比色法 紫外吸光光度法 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.4(3) 六価クロム分析計 Analyzer for Chromium Ⅵ 〈概要〉 人の健康に係わる環境基準の有害金属と して,カドミウム,鉛,クロム(6価),ひ素,水銀 液に入射する単色光の強さをI0,透過した強さItとす ればこの間には次の関係が成立する。 などが規制対象となっているが,これら有害金属分 log I0/It ∝(ランベルト・ベールの法則)。 析計の一例としてクロム(6価)分析計について解 このうちI0は溶液による吸収の全くない状態にお 説する。クロム化合物は自然水中にはほとんど存在 ける透過光と同一であるので,発色させない状態の せず,存在する場合はクロムを使用している工場の 検水を満して測光し,指示計が0mg/r(透過率 排水が混入したものといえる。クロムは水中で3価 100%)となるよう光源LEDの明るさを調製し,こ 又は6価として存在することが多いがその毒性は6 の値を基準とし,次のその検水に試薬を加えて発色 価の方が強い。クロム分析計は全クロム分析計と6 させ,そのときのItを求めることによって濃度Cを求 価クロム分析計とに分けられる。全クロム分析計は, めることができる。このとき液槽の形状を一定に保 検水中の3価クロムなどを過マンガン酸カリウムで ち,指示計に濃度目盛を付すことにより濃度直読が 酸化し6価クロムとして測定するものであり,光電 できる。使用する光源LED及び光検出器の中心波長 比色形の検出器で測定される。 は,対象とする発色に対し吸収が最大となる540nm 〈原理及び特徴〉 付近のものを選ぶ。 ここでは6価クロム測定につい て述べる。測定すべき検水を一定量採取し,それに この分析計は試薬を注入し,発色させる前に検水 硫酸の一定量とジフェニルカルバジド溶液の一定量 のにごりやセルの汚れによる透過光の減少分を自動 を加え,混合することによって含まれている6価ク 的に測定し,マイクロコンピュータで演算時に加算 ロムの濃度に応じた赤紫色の発色が見られる。この を行うことにより測定誤差をなくしている。 赤紫色の濃度を吸光光度法によって,波長540nm付 〈用途〉 近で定量するものである。吸光光度法とは図1に示 イントの顔料,クロムなめし革製造工場,染色工場 すように,光源LED,回転型測定槽,光検出器,測 排水の監視用など広く使用され,0∼1mg/rから 定すべき検水を配置し,LEDから発した光が測定槽 0∼5mg/r程度のものが多く使用されている。 河川などの環境用,メッキ工場排水,ペ 内の発色済の検水を通り,その透過した光の強さを 光検出器によって検出し,変換部で増幅させて指示 計を振らせる方法である。 いま,ある濃度C,液槽の長さが一定のとき,溶 206 吸光光度法 光源LED 光検出器 ランベルト・ベールの法則 六価クロム 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.4(4) 油分計 Oil content analyzer 〈概要〉 一般工場排水,船舶排水などの監視に設 と,光が散乱もしくは吸収されるという現象を利用 置される油分計には,溶媒抽出・赤外線分析方式や している。油分濃度を測定するためには,透過光あ 乳化濁度方式などが用いられている。溶媒抽出方式 るいは散乱光の光量変化を調べる。通常どちらか片 では試料水と溶媒とを混合し抽出する抽出部と,混 方であるが,両方の光量を調べることもある。 合した水と溶媒との分離部,溶媒により抽出した油 この方式では,油粒子の大小や,油粒子以外の懸 分を測定する赤外線分析部とで構成されている(図 濁物質が直接的に測定値に影響を及ぼすので,試料 1)。乳化濁度方式では,試料水中の油粒を均粒化す セルの前段に“乳化器”を設けるなど,油粒子と, る乳化器と,光学系とで構成されている(図2) 。この 懸濁物との乳化(微粒子化)に対する難易度の違い 他,試料水に紫外線を照射し,生じる蛍光を受光し を利用して,これらの測定値に与える影響を減らす て油分濃度を計測する方式もある。 ような工夫がなされている。特徴として, (1) 油種 〈原理及び特徴〉 溶媒抽出・赤外線分析方式は"油 (重質油や軽質油)による影響を受けやすい(乳化 分”が持っている赤外線吸収帯(波長3.4∼3.6mm) のされやすさが異なるため),(2) 懸濁物や,試料水 を利用して油分濃度の測定を行うものである。この の着色による影響を受けない, (3) 構造が比較的単純 場合,塩酸々性にした試料水中の油分をまず"溶媒 である,(4) 応答速度が比較的速い,などがあげら 相”に溶かし込ませるという抽出操作を行い,この れる。測定範囲としては,0∼20,0∼100,0∼ 油分を含んだ溶媒を赤外線分析部に導入する (図3参 1000ppmレンジのものが多い。 照) 。抽出溶媒としてはフロロクロロカーボン系や四 〈用途〉 塩化炭素が使用される。この方式は, (1) 油種による 船舶排水(ビルジ水:0∼20ppm,バラスト水:0 感度差が少ない, (2) 試料水中の懸濁物質による影響 ∼1000ppm計)の監視等,環境保全用に設置される。 一般工場水(0∼5,0∼10ppm計), を直接受けにくい, (3) 抽出比率を変えることにより その他に,ボイラ水中への油分の漏洩監視用として, 低濃度領域まで測定できる。 などの特徴があるため, プラント類の安全管理・効率維持のために設置され 油分測定法としてJIS*にも正式に採用されている。 ている。 また他の特徴として, (4) 構造がやや複雑である, (5) 溶媒等がある。測定範囲は,0∼5,0∼20,0 *JIS K 0102工場排水試験方法 ∼100ppmレンジのものが多い。 乳化濁度方式は,試料水中の油粒子に光を当てる 207 油分計 溶媒抽出・赤外線分析法 乳化濁度法 (油分の) 赤外線吸収帯 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.4(4) 油膜検知器 Oil on water alarm 〈原理〉 油膜検知器は光を監視水面に照射し,そ の反射光を測定して油膜の有無を検知する検知器 タ設定や校正を行う。パラメータの設定により油膜 検知,計器異常の条件を設定することができる。 変換器からの信号は正常時,油膜検知時,計器異 である。 空気と他の物質との境界面に入射した光の反射率 常時でそれぞれ異なり,受信計では変換器の出力を はその媒質の屈折率によって異なる。一般に油の屈 受けて油膜警報信号,計器異常信号を出力する。 折率は水に比べて大きく,反射率は水の1.5・2.0倍 〈特徴〉 となるので水面の反射光を測定することにより油膜 水面と非接触であるため浮遊物や波の影響を受け の有無を検知できる。 〈構成〉 数μm程度の薄膜検知が可能なため微量 の油漏れの監視に適している。 図1は油膜検知器の構成例である。検出 器は光源,反射鏡,受光部から構成されている。 光源には小型で寿命の長い,半導体レーザーダイ ない。 0.3m・2.0mにおいて水面変動の影響を受けない。 光源の寿命が長い。 オードが用いられておりコリメーターレンズによっ メンテナンスが容易である。 て平行光になっている。さらに太陽光の影響を除く 防爆型も用意されており,設置場所の制約がない。 ためパルス点灯されて照射される。 〈用途〉 タンクヤードの漏油検知。石油・化学プ 光源部から照射された光は水面で反射し,反射鏡 ラントなど工場排水の油膜監視。上水施設の取水 を経て受光部に到達する。反射鏡には放物面鏡を用 口の油膜監視。水力発電所のタービン油の漏油検 いており幅広い水面変動や水面の波の影響に対応し 知など。 ている。一般に水面変動には0.3m・2.0mまで対応 可能となっている。 受光部には光を電気信号に変換するためフォトダ イオードを用いているが,ここに外乱光の影響を抑 えるためダイクロイックフィルタが内蔵されてい る。 受光部で得られた信号は変換器に送られ,ここで 油膜検知や計器異常の判定を行う。 変換器にはマイコンが内蔵されており,パラメー 208 油膜 反射率 屈折率 レーザー管 ピーク検出 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.5(1) 水質汚濁複合分析計 Combined water pollution analyzer 〈概要〉 環境汚染が地球規模の問題として注目さ たり,また複合化されたセンサを直接河川に投入し れている昨今,水質汚濁の状況の監視およびその防 現場で水質汚濁を測定することを目的としているた 止を目的とした水質調査は非常に重要視されてお め,仕様,測定範囲,測定精度の点でラボ用機器よ り,事業場からの排水又は環境における海水,河川 り一般的に若干劣っている。 水,湖沼水等の水質の測定が常時又は定期的に行わ 測定項目,測定方式,測定範囲,測定精度(又は 再現性)について仕様の例を表1に示す。 れている。 水質の測定は当初,試料を実験室に持ち帰りラボ 〈用途〉 水質汚濁複合分析計は一般的に測定現場 用の測定器で行っていたが,水質測定のための省力 へ手軽に携行して測定できるよう小形軽量化され, 化が進み,現在では海水,河川水,湖沼水などの試 一台の測定器で多項目の水質分析ができるため,各 料を現場で簡便に多項目の測定が出来るようになっ 方面での水質検査に用いられている。 代表的な用途を下に示す。 た。 水質汚濁複合分析計の測定項目はpH,電気伝導 ・工場排水,建設現場排水(処理場) 率,溶存酸素,濁度,温度等の複数項目を組み合せ ・都市下水(処理場) たものが多い。 ・井水,河川,湖沼,海水,ダム,農業用水 〈原理及び特徴〉 水質汚濁複合分析計は大きく分 けると,水質簡易分析キットとしてサンプルを採取 ・養殖漁業,生け簀,活魚輸送 ・液耕栽培農業 し,分析しようとする目的にあった試薬を滴下し, 発色させ標準色と比較することにより, アンモニア, カドミウム,六価クロム等を分析する比色に代表さ れる方法,pHなどのラボ用分析機器の原理を用い たいわゆる水質汚濁複合分析計がある。 pH,電気伝導率,溶存酸素,濁度等の測定原理は 「ラボ用分析機器」の各項目の〈原理〉に記述され ているので省略する。 水質汚濁複合分析計は現場でサンプルを採取し, 試薬を滴加し発色した色により簡易に濃度分析をし 209 水質汚濁複合分析計 多項目水質計 水質汚濁 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.5(2) 水質汚濁総合監視装置及びシステム Water pollution monitoring station and system 〈概要〉 濁っている水は有害で,澄んでいる水は (1)直接検出できる項目の一例 無害とは断定できない。総合的に水質成分を測定し 水温 て判定する必要がある。また水質は時間と共に変化 pH ガラス電極 する場合が多いので,その測定はできれば連続的に DO ガルバニ電池法 継続して行う必要がある。 電気伝導率 交流2極法 塩素イオン 塩素イオン電極法 水質自動監視装置は,水質汚濁の程度を調べるの 白金抵抗体 に必要な項目を化学的,物理的,電気的に連続して ORP 白金又は金電極法 測定できるよう構築されており,測定データが時間 ふっ素イオン ふっ素イオン電極法 経過と共に記録されるようになっている。又,測定 値が警報設定値を越えた場合には瞬時に警報信号が 発信できるようになっている。 〈原理及び特徴〉 この装置は1)安定した試料水を (2)pH調節して検出する項目の一例 シアン シアンイオン電極法 アンモニア アンモニア電極法 (3)独立した計測器で検出する項目の一例 連続して供給できる採水装置,2)試料に直接接触さ 濁度 表面散乱光 せて測定する検出端を複数持つ検出器,3)全く異な COD 酸性またはアルカリ性過マン 6価クロム ジフェニルカルバジドによる ガン酸カリウム法 った測定原理による複数の独立した計測器等をシス テム化したもので,各項目の測定データはすべて統 光電比色法 一した電気信号に変換され,記録される。採水装置 では,採水ポンプを2台使用した交互運転,逆流等 〈用途〉 が行われる。水温,pH,DO,電気伝導率,は検出方 の水質監視に多く使用されているが,栽培漁業の水 法は異なるが同形の変換器により統一したデータと 質監視や,水耕栽培の水質制御にも利用されている。 して処理される。他の項目も全てシステム的に統一 また,研究所の総合排水監視としての用途もある。 環境計測用として,河川,湖沼,海域等 され,試料水の供給や計測の開始信号がシーケンサ より制御される。比較的多く採用され,また用意さ れている主な測定項目と原理方式をまとめると次の ようになる。 210 水質自動監視装置 総合排水監視 水質監視 水質汚濁 3. 環境(公害)用分析機器 3.2.6(1) コンポジットサンプラ Composite sampler 〈原理〉 コンポジットサンプラは自動採水器の一 置により種々異なるが,その一例を図2及び図3に 種で工場排水や河川水の水質を測定するために試料 示す。本装置は流量計連動形で,流量計により測定 を採水するものである。普通の採水器は一定時間ご した連続量の流量信号を周波数に変換して,流量に と又は定められた時間ごとに一定量の試料を採水す 比例したパルス信号を発生させ,そのパルス数があ るものであるが,コンポジットサンプラは時々刻々 らかじめ設定しておいたパルス数に達すると,一定 変動する流量に対して,一定の比率(流量比)で採 量の採水を行うもので, 流量計からの信号が大きくパ 水するもので,流量が多い場合は多く採水し,流量 ルスの数が多くなるとひんぱんに採水を行うもので が少ない場合は少なく採水するなど流量に対して何 ある。図3の流路では設定パルス数に達すると1回 千分の1または何万分の1かに縮分して採水するも の採水に対して10mr計量され,冷蔵庫にたくわえ のである。コンポジットサンプラを動作原理別に分 られるようになっている。 類するとその種類は多数あるが主なものは次の通り 〈特徴〉 である。 量計の一つとして利用できる便利さがあるが,その 定量ます方式 構造からして自由水面を持つ排水路への設置に限ら チューブポンプ方式 れること,また排水流量が比較的小さい(1000m3/日 ピストンシリンダ方式 以下)場合に限られることなど適用範囲が限定され [ 流量計連動形 分流方式 { 関数容器方式 独立動作形 独立作動形のコンポジットサンプラは流 ここで,流量計連動形のコンポジットサンプラは る。その点,流量計連動形のものは流量に対して採 水比が変えられ,低流量から高流量に至るまで広い 範囲の流量に適応できる。 時々刻々変動する排水流量に対して,流量計からの 〈用途〉 信号により,常に一定の比率で試料を縮分採水する 度規制に加えて総量規制が行われるようになって登 ものである。独立作動形のコンポジットサンプラは 場したものである。総量規制は工場より排水される 分流せき,関数容器などで,排水を分割,縮分採水 汚濁物質の総量を規制するもので,その測定には流 するものであり,総流量は分取したサンプル量より 量と水質濃度の積で行われるものであるが,コンポ 導出され,流量計を必要としない。両者のコンポジ ジットサンプラは総流量の何分の1かを比例採水し ットサンプラの構成は図1に示す通りである。コン 水質測定にあてるものである。 コンポジットサンプラは, 排水の水質の濃 ポジットサンプラの動作原理及びその採水流路は装 211 コンポジットサンプラ 流量計連動形 独立作動形 総量規制 3. 環境(公害)用分析機器 簡易水質検査器 3.2.9 Portable water pollution analyzer 〈概要〉 文明の進歩に伴い,生産活動をはじめ, が,発色する長さ,及び,色調により,濃度を知る 人の生活からの廃棄物を含む排水など,人為的な原 方法である。主に,金属類が,この方法で測定でき 因による水質汚濁が深刻な問題となっている。この る。類似方法として,ポリエチレンチューブ内に, ような情勢に対処するため,水道法,下水道法等で 1回分の試薬を密封しておき,ピンで穴をあけ,検 水質基準が設けられ,水質の測定が義務付けられて 水を吸引し,反応呈色させるものもある。共に,試 いる。 験紙では測定出来ない1ppm以下のものも検出する 法規制が広範囲になり,水質管理が義務付けられ ことができる。 ることにより,水質検査を担当する人が,必ずしも フィルタ法とは,検水に反応試薬を添加し,反応 その専門家であるというわけにはゆかず,また,日 させ,呈色液をセルに入れ,各濃度のフィルタ部に 常の水質管理ということから,操作が簡単で,迅速 は,水の入ったセルを入れて,比色定量する。同様 に検査できるものも望まれるようになった。 のものとして,回転ディスク,アンプルを用いたも 簡易水質検査器は,種々の用途,目的に合わせて のもある。この方法で測定できるものとして,pH, 各試験項目をセット化し,日常の水質管理ができる 残留塩素,鉄,亜鉛,アンモニア性窒素,濁度,色 ようにしたものである。 度等がある。 〈原理及び特徴〉 簡易水質検査器における簡易分 比色法とは,検水に反応試薬を添加し,簡易比色 析法には,試験紙法,検知管法,フィルタ法,比色 計で吸光度を測定し,あらかじめ求めておいた検量 法(吸光光度法)等がある。 線より濃度を求める方法である。この方法は,現場 試験紙法とは,試薬を含浸した試験紙を検水に浸 でも,正確に測定することができる。 した後,呈色を標準色と比べ,濃度を測定するもの その他,正規の試験法のうち,比較的操作が簡単 である。pH,無機陰イオン,金属イオンなどが,本 なものをセット化,現場でも測定できるようにまと 法で測定できる。また,大腸菌群,一般細菌では, めたものがある。外観,濁度,色度,透視度,臭気, 試験紙に検水を含浸し,一定時間培養して,コロニ 味等が,測定対象である。 ー数を数える。試験紙法は,簡易水質検査法のうち 〈用途〉 で,最も簡単で,安価な検査法である。 場,プール,し尿浄化槽,工場排水,その他屋外の 検知管法とは,検知管内に検水を吸引し,検水中 の対象物質と検知剤との化学反応によって充てん剤 上下水道,受水槽,ビル貯水槽,公衆浴 現場における水質検査等,汚染の発見,処理方法の 確認,水質基準の判定,日常の管理用。 212 簡易水質検査器 試験紙法 検知管法 フィルタ法 比色法 3. 環境(公害)用分析機器 3.3 悪臭分析装置 悪臭分析装置 3.3.1 Offensive odor analyzer 〈概要〉 人間の鼻で感じる臭気の強さは物質によ ろ紙に通過させ硫酸塩として採取する。これを分解 って異なり,物質の濃度と臭気の強さは必ずしも対 瓶(図1ロ)に入れてアルカリ液と反応させてトリ 応しないことがある。そこで環境庁は12物質の濃度 メチルアミンガスとし,窒素ガスで液体酸素により を官能試験で評価した臭気強度に換算して規制して 冷却された冷却濃縮管に導き濃縮する。この濃縮管 いる。規制物質は,硫黄化合物[メチルメルカプタ を ン,硫化水素,硫化メチル,二硫化メチル],トリ (1)と同じ加熱導入装置に装着し,GC(水素炎イ メチルアミン,アンモニア,スチレン,アセトアル オン化検出器FID付)で分析する。 デヒド,プロピオン酸,ノルマル酪酸,ノルマル吉 (3)アンモニア(2)と同じ方法でろ紙に捕集し, 草酸,イソ吉草酸であったが,平成5年の改正により この水溶液をピリジンピラゾロン法で発色させ波長 更に10物質が追加になり, 22物質が悪臭規制物質とな 450nmの吸光度を分光光度計で計る。 っている。濃度における臭気測定は濃縮工程が必要 (4)スチレン 大気を多孔質ポリマ粒を詰めたガ であり,また大気中から目的物質だけを捕集したり, ラス製捕集管に通して吸着捕集し,これを直接加熱 選択的に検出する測定機器を選ぶなどの工夫も必要 導入装置(図2②)に装着,加熱しGC(FID付)へ である。 導入し分析する。 〈原理及び特徴〉 濃度を測る機器としてガスクロ (5)アセトアルデヒド 50rの大気試料を樹脂 マトグラフと分光光度計が用いられるが,悪臭分析 製バッグに採り,これを2, 4−ジニトロフェニルヒド 装置はこれに,試料濃縮,試料導入などの付加装置 ラジン捕集管に通し反応させ捕集する。これをアセ を組み合わせたシステムである。代表的な物質の測 トニトリルで抽出・濃縮後GC(アルカリ熱イオン 定法を示す。 化検出器FTD付)で分析する。 (1)硫黄化合物 ガラス製試料ガス採取瓶(1r) (6)低級脂肪酸 大気をアルカリガラスビーズ を真空にし,測定地点でバルブを開き大気を採取す を詰めたガラス製捕集管に通して吸着捕集する。捕 る。これを(図1イ)に装着し,採取物質を液体酸 集管を(4)と同じ加熱導入装置に装着し,蟻酸で 素で冷却された濃縮管に濃縮する。次に濃縮管を加 脱着後,加熱導入しGC(FID付)で分析する。 熱導入装置(図2①)に装着し,急速加熱してGC (炎光光度検出器FPD付)に導入して分析する。 (2)トリメチルアミン 大気を硫酸で処理した (7)自動臭気分析装置(1)の硫黄化合物測定を 自動化したもので,サンプリング,濃縮,GC分析 を30分周期で繰り返し行われる。(図3参照) 213 臭気測定 ガスクロマトグラフ 分光光度計 臭気の濃縮 3. 環境(公害)用分析機器 3.9 その他の環境 (公害) 用分析機器 3.9(1) 水銀分析装置 Mercury analyzer 〈原理〉 試料中の水銀(一般には化合物)を何ら た石英は破損しやすくまた,水銀をトラップするた かの方法で金属水銀にすれば金属水銀は蒸気圧が高 めセラミック製の燃焼管とボートを使用している。 く室温でも容易に気化して原子状水銀になる。この (2)加熱分解で生成したガスは強制冷却した洗気び 水銀蒸気の253.7nmの紫外線の共鳴吸収を利用する んと除湿びんを通し,ガスの洗浄・除湿を行ってい 定量法は,冷原子吸光法といい極めて高感度である。 る。 試料の中から金属水銀を原子状水銀として気化さ (3)上記(2)で除き得なかった分解生成ガスや水 せるため,現在一般的に使用されている方法には還 分が水銀捕集剤を通過するとき,その表面に物理的 元気化法と加熱気化法があるが,ここでは加熱気化 に吸着されるのを防ぐため,捕集剤を捕集時に予熱 している。 法について説明する。 試料を加熱分解し,原子化した水銀を水銀が金と アマルガム合金をつくる性質を利用して,水銀捕集 剤(金)に選択的に捕集する。次に水銀を除去した乾 燥浄化空気を送りながらこの捕集剤を加熱し,水銀 を遊離させる。遊離した原子状水銀は濃縮した形で (4)測定の範囲は0.01ngから1000ngと広範囲にわ たっている。 (5)還元気化法と併用することによって,pptオーダ ーの極微量水銀の測定ができる。 (6)金アマルガムの捕集を2段にすることによって 吸収セルに導かれ,冷原子吸光法によって測定され 水銀をより精製している。 る。 〈用途〉 〈特徴〉 図1に,加熱気化法による試料処理装置, 図2に水銀分析計のブロック図の一例を示す。 一般的な公害分析としての固体・水など の測定だけではなく,エチレンプラントやLNG (Liquefied Natural Gas)プラントの原料管理,硫 (1)多くの試料では単純に加熱した場合,水銀とと 酸生成工場などの製品管理,また地熱などの資源探 もに妨害物質(各種ガス,すす,タール等)が発生 査における岩石,土壌測定にも利用されている。ま し系内を汚染し測定を妨げる。したがって限られた た化石燃料中に含まれている水銀の大気中への拡散 酸化促進炉の能力を越えないように試料に応じ試料 に関し知見を得るため,同上の原理を応用した気中 加熱炉の昇温の設定を行い,また試料の加熱に際し 水銀の監視装置,またオンサイト測定用の携帯型の 発生妨害成分を減少させ或いは除去するため試料に もの,更にパッシングサンプラー等が,環境アセス 添加剤を加える。また石英ガラス製の燃焼管やボー メント,作業環境管理,発生源の調査などの環境調 トは高温でアルカリ性物質に弱く,劣化し,白濁し 査に利用されている。 214 水銀 金アマルガム 還元気化法 公害分析 3. 環境(公害)用分析機器 3.9(2) 酸性雨測定装置 Acid rain/snow monitor 〈概要〉 雨や雪または霧として降下する酸性降下 るために自動洗浄機構が付いている。 物は森林の衰退や湖沼の酸性化など生態系への影響 また硫酸イオンや硝酸イオンを測定するのに吸光 が大きくその長期的なモニタリングは近年益々重視 度セルに試料を導き紫外吸収測定から硝酸イオンを され国内外で実施されている。雨などのモニタリン 求め,塩化バリウム試薬の投入による硫酸バリウム グ法は環境庁の「酸性雨等調査マニュアル」に示さ 粒子生成の比濁測定から硫酸イオンを求めるものも れている。それによるとまず採雨保存し,次いで試 ある。また正確なイオン濃度測定を行うためにイオ 料雨水のpH,電気伝導率測定を行い,更に硫酸イオ ンクロマトグラフを内蔵したり,連結する自動分析 ンや硝酸イオン等の成分濃度をイオンクロマトグラ 装置も市販されている。 フをはじめ各種の方法で分析するものである。酸性 〈特徴〉 雨測定装置は降雨等の分割採取を自動化しpHや電 降雨の雨水中成分濃度の変動や低pHの出現などの 気伝導率の比較的簡単な項目の測定を野外で連続・ 実態が把握出来る。また時間ごとのデータも得られ 自動で行う装置である。またイオンなどの降水成分 るので大気汚染濃度との対比が可能になる。 の分析を意図した装置もある。 〈原理〉 図に酸性雨測定装置の構成例を示す。装 単位雨量ごとに分取し測定するので初期 更に雨水成分の情報をほぼリアルタイムに得るこ とが出来る。 置は感雨器を備え降水とともに受水部のふたが開き 〈用途〉 雨のないときに乾性降下物を捕集しているデポジッ ニタリングし酸性雨の植生,土壌,陸水の生態に及 トゲージにふたが移動する。受水部の下の転倒ます ぼす影響を評価するのに用いられる。 ないし計量部で降雨を単位雨量(通常は0.5mm雨) 乾性及び湿性降下物の酸性化の実態をモ なお設置に当たっては周囲に障害物がなく特定の に分ける。単位雨量毎に試料は電気伝導率測定を行 発生源の影響のない場所を選び,気象観測データの う電極とpH測定用のガラス電極及び温度センサを 得られる場所であることが望ましい。 内蔵した測定セルを流れる。このときにpH,電気伝 導率,温度が測定される。pHの測定範囲は0∼10, 電気伝導率の測定範囲は0∼50mS/mである。 また 各単位雨水の一部は密閉された試料保管タンクに取 り分けられ化学分析用試料として蓄積, 保存される。 装置は野外に設置されるので測定部の汚染を除去す 215 酸性雨 電気伝導度測定 自動測定 pH測定 イオンクロマトグラフ 3. 環境(公害)用分析機器 3.9(3) 残留農薬分析装置 Residual pesticide analysis system 〈概要〉 農薬及び残留農薬の分析装置としてガス られる。四重極型MSは図1に示すような4本のポ クロマトグラフ(GC),高速液体クロマトグラフ ール状の電極があり,対角線状の2本のポールには (HPLC)等が用いられている。しかし,いずれの装置 同一の電圧を,他の2本のポールには極性の異なる も既知成分の定性,定量は可能であるが,未知成分 同一電圧をかける。この極性を高速に切替えるとポ の定性は困難である。ガスクロマトグラフ質量分析 ール内を通過するイオンはポールにかけた電圧に比 装置(GC/MS)は既知成分の定性および定量はも 例し,質量数毎に分離される。このマススペクトル とより未知成分の定性が可能で,近年GC/MSによ から分子量,構造情報が得られ,定性ができる。デ る分析法が多く用いられている。ここではGC/MS ータ検索法はコンピュータに記憶されたマススペク について説明を行う。定性はGC-MSから得られる トルのデータと得られたマススペクトルとを照合 マススペクトルで行うが,この解析はマススペクト し,類似のマススペクトルを抽出する方法である。 ルについての知識や経験を必要とするため通常デー データベースにはNIST(約53,000データ),WILEY タ検索システムを用いる。また,定量には選択イオ (約140,000データ) がある。 定量にはSIMを用いるが, ン検出法(SIM)を用いて行う。 このSIMは分析対象成分に特有なイオンのみを検出 〈原理〉 する方法で,特に目的成分が微量でしかも狭雑物の 図1にGC/MS構成例を示す。GC部で多 成分系の試料を分離し,MS部でマススペクトルを 多い残留農薬の分析では有効な分析方法である。 得る。GCのカラムにはパックドカラムやキャピラリ 〈特徴〉 ーカラムがある。高分離,高感度を必要とする農薬 既知成分の定性,定量はもちろんのこと,未知成分 分析には通常キャピラリーカラムを使用する。MS の定性が可能である。定性はマススペクトルによる 部に導入された試料分子はイオン源内でイオン化さ データ検索システムを用い,定量にはSIMを用いて れる。このイオン化の方法として通常電子衝撃法 微量分析を行う。 (EI法)が用いられる。イオンは質量分離部(例え 〈用途〉 残留農薬の分析にGC/MSを用いると, 残留農薬の分析にはGC/MSを用いる。 ば四重極部)で質量数の分離が行われる。エレクト 特に最近ではゴルフ場に散布された農薬の分析に応 ロンマルチプライヤ(EM)を用いている検出部でイ 用されている。検出感度は農薬の成分によっても異 オン量が測定される。質量分離法には四重極型(カ なるが,マススペクトル測定でppm,SIMによる測 ドラポール型)MS,磁場型MS等があるが,最近で 定でppb程度である。 は特殊な分析を除いて四重極型MSが一般的に用い 216 残留農薬 農薬 GCMS
© Copyright 2024 Paperzz