放射状弾丸暗渠施工法による圃場排水性改善技術 兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター 作物・経営機械部 牛尾昭浩 はじめに 水田転換畑で畑作物を栽培するには、圃場の排水性を高めることが最も重要であり、そのために、様々な営農 排水方法が考案されている。ここでは、水稲後の麦作における圃場の排水性改善を目的として、本暗渠の補助暗 渠として位置づけられている弾丸暗渠を積極的に活用して、本暗渠が施工されていない粘質土壌の圃場で本暗渠 施工と同等の排水性改善効果を得るための方法について紹介する。 施工方法 ここで紹介する方法は、 圃場の周囲を作溝した 「額 縁明渠」 、作土と耕盤の間に沿って施工される「平行 浅層暗渠」 、圃場の排水口に施工する「集水穴」とそ こへ水を導く「放射状集水暗渠」で構成される。 施工は以下の順序で行う。前作収穫後に、①溝堀 機で、耕盤の位置まで掘り下げながら額縁明渠を施 工する (深さ 20cm 程度) 。 ②集水穴を掘り下げる (深 さ 50cm) 、現場では重機使用) 。③額縁明渠の底か ら耕盤に沿うように、対面に向かって、同じ間隔で 斜めに平行浅層弾丸暗渠を施工する(深さ 20~ 30cm 程度) 。④平行暗渠施工終了後、集水穴から放 射状に広がるように、平行浅層暗渠よりも深い位置 に集水暗渠を施工する(深さ 30~40cm 程度、3~4 本) 。 施工のポイントは、放射状集水暗渠の深さで、平行浅層暗渠よりも少し低く施工する必要がある。また、平行 浅層暗渠の間隔は土壌条件によって異なり、間隔が狭いほど排水効果が高まるが、作業時間が増加する。 本方式の利点 本方式の有利な点は、圃場内の明渠本数を減らす ことができるので、 作物を播種する面積が増加する。 その結果、圃場当たりの実収量が増加する。明渠が ないと、そこに繁茂する雑草防除をする必要もなく なり、圃場の凸凹もないのでコンバイン収穫時の心 労が軽い。また、従来の弾丸暗渠は深さ 40~60cm で耕盤を破砕するように施工されるが、上記の方法 では浅層に施工されるため、 作業機の負荷が少なく、 暗渠の施工本数に比べて作業時間はそれほどかから ない(10a当たり 30 分がめど) 。 圃場試験 場内の重粘土圃場において、弾丸暗渠による排水 対策と不耕起播種の組み合わせによる試験を行った。 供試した圃場は排水性が非常に不良なうえに水稲収 穫直後からまとまった降雨があり、小麦栽培には劣悪な条件であった。 播種後の出芽そろいは弾丸暗渠の有無に関わらず耕起播種区で非常に不良であり、穂数の確保に大きく影響し た。また、耕起区では小麦の生育量が少ないために、カズノコグサ等のイネ科雑草がかなり繁茂した。 収穫物の稈長や穂数は、弾丸暗渠を設置することにより、耕起、不耕起いずれの区も良好になり、千粒重 は重くなり、収量、検査等級とも向上した。播種法の違いでは、収量(精麦重)が不耕起播種・弾丸暗渠有 り区で最も多くなり(36.6kg/a)、耕起播種・弾丸暗渠無し区の 4.8 倍に達した(表1) 。 以上により、小麦栽培にとって不適な粘質土壌条件では、浅層弾丸暗渠による排水対策と不耕起播種法の 組み合わせにより、良好な収量と品質が得られることがわかった。 兵庫県稲美町の事例 その年の4~5月積算降水量 作付面積(ha) 10a当たり収量(kg/10a) 500 稲美野台地に位置する稲美町は、転作 が、 土壌が粘質で排水不良の圃場が多く、 生産性は良好ではなかった。そこで、地 400 降水量(mm) 作付面積(ha) 収量(kg/10a) 作物として製茶用大麦が振興されていた 300 200 元の農業改良普及員が放射状弾丸暗渠施 工法を積極的に推進した結果、作付面積 が飛躍的に拡大し、天候に左右されなが 100 0 1 2 3 4 らも収量・品質の安定化が図られた(グ ラフ) 。 5 6 7 8 9 10 年次(平成) 11 12 13 14 15 16 17 兵庫県における六条大麦の作付面積、10a当たり収量 ならびにその年の4~5月にかけての積算降水量 弾丸暗渠方式の限界 県下に、行政・普及が一体となってこの方式を 推進したところ、各地で以下のような点が課題と して指摘された。 ○排水孔のつぶれ(浅層に施工されるために構造 が保てる条件に限りがある。粘質土壌では維持 されやすい) 。 ○作土層が浅かったり、粗れきが多いと施工でき ない(作土層が浅すぎると暗渠孔の構造が保て ない。粗れきが多いと弾丸暗渠機が壊れる) 。 ○施工にある程度の時間を要する(所要時間は 20 ~60分/10㌃。 機械装備や施工間隔で異なる) 。 ○排水性が圃場表面の勾配に依存する(大区画圃 場で顕在化した) 。 ○施工する時期によって排水効果が異なる(極早生品種収穫後(9 月下旬)の施工では、作業性が良好で、十分 な排水効果が得られるが、早中生品種収穫後(10 月中下旬)では、湿潤な土壌状態での施工となり、11 月上旬 に播種した後の排水効率も劣る) 。 まとめ 以上、適用条件に限りがあるものの、弾丸暗渠施工法による営農排水対策は、粘質圃場における排水性改善方 法としては定評を得ているので、適用できる地域には積極的に導入を図っていきたい。 現在、稲-麦-大豆の連続不耕起栽培技術の確立に向けて取り組んでいるところであり、そのなかでも排水対 策は重要な検討課題となっているので、今後の展開に期待したい。
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