プロローグ まず最初にビジュアルプロジェクトの概念やテクニックを理解していただく前に私自身のプ ロジェクト経験を共有したいと思います。 システムインテグレーター時代には、プログラム開発、 導入教育、詳細設計、基本設計、要件定義、そしてプロ ジェクトマネジメントと一連のシステム開発のライフサ イクルを 7 年に渡って全て経験させていただきました。 その後もデータベースベンダー、ソフトウェアハウス、IT コンサルティングと情報システム業界/IT 業界において 25 年以上に及び大小様々なプロジェクトの現場を経験してきました。プロジェクトメンバーの 一員として、時にはプロジェクトリーダーとして、さらにはプロジェクトマネージャという様々 な立場で実践を積み重ねてきました。 私自身の経験がすべての方々の模範になるとは思えませんが、これからプロジェクトに関わる 方々やプロジェクトリーダーとして活躍が期待される若手システムエンジニアの方々に反面教 師としても何か「気づき」や「ヒント」を与えられたら幸いです。 私が実経験を通して身をもって感じているのは、プロジェクトは決して教科書通りに進まない ということです。多様な人間が集まって織り成すドラマとも言えるほど一つとして同じプロジェ クトはありません。だからこそ、その場の状況に合わせて常に考え、判断し、実行する力が求め られるのだと思います。 そのためには、プロジェクト全体を俯瞰し、常に冷静な意思決定や判断を支援できる道具が必 要です。私は、これまでの自らの経験から、そのヒントが「地図」にあることをある日気がつ いたのです。 プロジェクトに「地図」と「コンパス」を創りたい... そう切に願う私自身の体験と想いをご理解いただき、あなたと共有できればと思います。 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 大規模プロジェクトの試練 1985 年に社会人になって以降、IT 業界の中で大小様々なプロジェクトに関わってきました。 システム開発という形態では、業務そのものが プロジェクトであり、当時はあえて明確にプロ ジェクトという特別な意識をもってはいなかっ たような気がします。しかし、1988 年初めて の大規模プロジェクトとの出会いがやってきま した。当時、まだコンピュータ化があまり進ん でいなかった企業の一大変革プロジェクトの始 まりでした。 そこでは、これまでにシステム開発の段階でしか経験のなかった私に多くの試練とチャレンジ を要求してきたのです。システム開発のどちらかと言えば、下流に位置する要件に沿った設計、 仕様にそったプログラミングを中心に詳細を詰める経験を積んだ私にとっては衝撃的な場面で した。そこには、要件や仕様といったレベルのものはまったくありませんでした。あるのは様々 な想いや葛藤、そして問題と課題の山だったのです。 もちろん、お客様にとっても何もかもが初めての試みだったので、何をどうしたらよいかとい うのは、お互い暗中模索の状態でした。しかも、そもそもそのプロジェクトで目指すべき方向も これから決めていくという段階です。決まったことを実行する私の習慣からはとても耐え切れな い状況が続いたわけです。 それまでは、与えられたテーマを下へ、下へと具体化してきたわけです。ところが、この時は 一度最上段に行き着いてから、また下へ下っていくという流れになっていたのです。まるでジェ ットコースターのように、上にいっては下がり、下がっては上にいくというような思考プロセス の連続だったわけです。 そこから学んだことは、プロジェクトには、目的やゴールというものが付き物ですが、それら は初期の段階でははっきりとは存在していないということでした。正確に言えば、存在しないと いうよりは、はっきりとは見えていないといったほうがいいかもしれません。当然、プロジェク トが成功した暁のイメージについても同様です。これらは、そのプロジェクトリーダーをはじめ とするチームが自ら定義し、創り上げていくものなのです。 プロジェクトの下流での仕事に慣れれば慣れるほど、これらは上から渡されるべきもの、既に 決まっているべきものという前提意識が強くなりますが、最上流ではそうはいきません。 そこには、プロジェクトを進めていく上での明快な地図などはなく、地図は自らが描き、創るも のであることを思い知らされるのです。しかし、その経験がその後の私自身のワークスタイルを 変革する上での大きなヒントになるとは、正直この時には思いもしませんでした。今となっては ただひたすらにそしてがむしゃらに取り組んでいたことが昨日のことのように思い出されます。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 2 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 苦悩と葛藤の毎日 そんな状況の中でも、時間は確実に過ぎていきました。徐々に見え なかったものも時間がたてば見えてくるような気がしました。しか しながら、現実はそれほど甘くはありませんでした。 プログラミングを通じて左脳中心によりロジカルに、具体的に物 事を詰めていくことが習慣化してしまった私にとって、右脳中心に 物事を大局的に見たり、全体像を見るというのは、そう生易しいものではありません。そもそも お客様の業務や使っている言葉が、私にとっては全く未知のものばかりです。そういう意味でも、 毎日、毎日が常に新しいこととの出会いです。 そんな繰返しの中から、お客様のニーズやら課題を的確に掴んでいくのは、本当に至難の技だ ったのです。それにもまして、それまでは上司から仕事や仕様を渡されて自分自身が仕事をこな すスタイルであったのが、そのプロジェクトの発足を境に状況は一変してしまったのです。 自社のプロジェクトメンバーも一人、二人と徐々に増えていき、やがて私が率いるチームだけ でも、20 名を越え、お客様を含めるとプロジェクト総勢 100 名を越える規模になっていたの です。もちろん、そこには様々なステークホルダー(利害関係者)が存在し、それぞれの立場を 考慮した振る舞いや説明などというものも初体験の連続でした。そんな状況の中で、関係者と合 意を形成するというのがいかに難しく、重要であったかは言うまでもありません。 そもそも何を合意するのか?といった点ですら、立場が違えば全く異なってしまうからです。 さらには、顧客の目指す目的を貫くためには、綺麗事ばかりもいってられません。真に顧客のた めに働くためには、時には社内とも闘わなければならないからです。 現実にあった場面でお客様にこんな指摘をされたことがありました。 「あなた達は、一体どこを見て仕事をしているのか? 」と。 最近では、顧客志向だとか顧客中心ということが当たり前のように叫ばれています。私にとって は顧客を中心にするということの意味が、このプロジェクトを通じて痛いほど身に刻まれた経験 となったのです。 当時は、役職も肩書きもありませんでした。しかし、気がつけば実質上プロジェクトリーダー 兼プロジェクトマネージャという立場になっていたわけです。自分自身の仕事が複数のメンバー をチームとしてマネジメントしながら成果をあげることが当然要求されるわけです。 しかし、それまで自分の仕事を 100%こなすことについては、自身満々であった私も、チー ムをまとめて相乗効果を発揮するというのは全く別次元の話でした。チームが自分の身体の一部 のように一体となって動くようになるまでは、頭だけが先走り、手や足がついてこないという状 態です。そんな中で、私はお客様のプロジェクトリーダーを見ながら学んだのです。 真のリーダシップとは、自らが動くことであり、あらゆる障害を取除くためには、何でもやる Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 3 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 覚悟が必要であることを。 そして、迷わず前進し続ける勇気をもつことを身をもって体験したのです。プロジェクトにお いて、私が関われる部分はわずかしかありません。実際に業務を実行するのは私ではなく一人ひ とりのメンバーなのです。頭でいくらあせってもその意志や想いが手足に伝わらなければ、チー ムはばらばらに動いてしまうのです。 もちろん何もかもが初めてだったわけで、今のように立派なプロジェクトマネジメント理論や 技法すら知らない私にとっては何もかもがチャレンジの連続だったのです。こうして、駆け出し のプロジェクトリーダーの苦悩と葛藤の日々が始まったわけです。 次から次へと押し寄せてくるプロジェクト特有の課題と試練に悩まされる日々 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 4 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 混沌がもたらす恐怖 プロジェクトは、日を追うごとに複雑さを増してい きました。やがて私の仕事は、メンバーへの仕事の アサイン(割当て)とマネジメント一色になってい ったのです。自分の仕事はプロジェクトメンバーが 解散した深夜や休日というパターンになっていきま した。 何分、仕事のスタイルや役割に加えて、何もかもが初めてということもあり、事前にタスクを 分けて一人一人に仕事を割当てるような要領は身についていませんでした。こうして、やりなが ら常に考えるという状況にどんどん追い込まれたわけです。 こんなことを言うと、 「タスクのプランニングなんてプロジェクトの計画段階でやるものだ! 」 と怒られそうですね。 当時のプロジェクトでは、まさに走りながら全てを決めて、また走るというスタイルでした。 つまり、毎日が変更と意思決定の連続だったのです。そんな中で、私が日々自問自答を繰り返し たことは、 「どうしたらこの混沌とした状況をもっと明快にすることができるのだろうか? 」 ということでした。 性格的にも、複雑でごちゃごちゃしたことが大嫌いな私は、その状況をどうにかしてシンプル にしたかったのです。携わっていたシステムがマッピングシステムだからというわけでもないの ですが...まさに地図のように複雑な物事の関係や位置をシンプルに表現する技術がこの状況に も応用できたらありがたいなどとおぼろげに感じていたのかもしれません。もちろん、この時点 ではその具体的な解など見出す術もなく、ただただ忙しい日々をなんとか乗り切るしかありませ んでした。 こうして、この明快さを欠いた混沌とした状況がもたらしたものは一体何だったのでしょう か?それは、様々な物事を理解したり、伝えたり、また実行したりする上での膨大な作業負荷と 時間のロスだったのです。複雑さと混沌がもたらすもの-それは、あらゆる状況の無理解を引起 し、時間を浪費させ、注意力を散漫にさせ、ひいてはメンバーのモチベーションを徐々に低下さ せていくといった恐ろしいほどの負の効果があるのです。そして、経過する時間と成果とのギャ ップをどんどん広げていったのです。考えてみれば単純な話です。見知らぬ土地に立って、地図 ももたずに漠然とした目的地をあてずっぽうに歩いている状況と同じです。同じ道を何度も通っ たり、また引き返したりと無駄なことの連続なわけです。結果的に浪費される時間は、どんどん 積み重なり、やがてスケジュールの遅延として顕著に表れるようになりました。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 5 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 時すでに遅しで、一旦この状況にはまりこむとおいそれと挽回することはできず、もがけばも がくほど時間を浪費するという悪循環にはまっていったのです。あらゆる状況をもっと全体的に 捉え、関係を明快にするなどという発想は当時は、思いもしませんでした。毎日、毎日ただがむ しゃらに目の前の問題をかたづけていったのです。今思えば、物事を局所的にしか見れない状況 にどんどんはまっていったわけです。 リーダーとしての役割と課題 当時は、プロジェクトのゴールに向かってただ一生懸命、全力投球という状況でした。しかし、 今思えばその時、本当に私に課せられた課題は何であったのか?と思います。細かい問題や課題 は山のように膨れ上がり、プライオリティなどといい始めたら全てが優先度1となってしまうよ うな状況です。 プロジェクトが目的を達成するために最も忘れてはならないこと。それは、常にプロジェクト の目的に遡って様々な意思決定を下すことです。それに気がつかなければ、問題はすべて優先度 が高く設定されてしまいます。そうして、限られた時間とリソースの中で解決することがより困 難になっていくのです。 プロジェクトはいわばカオス(混沌)との闘いです。リーダーがリーダーとしての責任感と自 覚を持って、メンバーと一体感をもってゴールを共有していく必要があります。見知らぬ土地で 時に道に迷いながらも地図とコンパスを頼りに日々軌道修正しつつゴールへと誘導していかな ければなりません。時には、自らの責任を背負いすぎて、一人相撲をしてしまうこともありまし た。 そんな時、メンバーである年輩の女性から 「やって欲しいことは、遠慮なくメンバーにお願いしなさい。自 分だけでいい格好をしようとしないの。 みんなが協力するかどうかはわからないけど、あなたがお願い すれば協力する人は必ずいるのよ。」 などと手厳しいながら涙の出そうな言葉をもらったこともありました。 おかげで、メンバー全員の協力により、最大のピンチを脱したことも忘れられない経験です。 一人の力の無力さを思い知らされると同時にチームで何かを成し遂げる醍醐味を味わいました。 また、プロジェクトの現在置かれている全体の状況を正しく把握することもとても大切です。 しかも、それは時々刻々と変化していくものなので、一度把握できたからといって安心すること もできません。では、一体どのようにプロジェクトの全体像を把握すればよいのでしょうか?当 時の私にはまだその解は見出せませんでした。ただ、確実に言えることは、プロジェクトには、 全体像を表す地図と方向性を示すコンパス(羅針盤)が必ず必要だということです。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 6 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 立場的にプロジェクトをリードしていく役割をもった私にとって、最も重要な課題は何だった のか?それは、このプロジェクトの地図とコンパスをいかに創るか?といったことだったのかも しれません。つまり、常に状況が変化する中で、その地図とコンパスを使ってプロジェクトとい う船を適切にナビゲートすることが、リーダーとしての役割だったのです。 なぜなら、プロジェクトはどんなに綿密に計画してもその通りに進むことはほとんどありませ ん。むしろ道を間違えたり、方向を見失ったりすることは当たり前だと思ったほうがよいでしょ う。プロジェクトを成功させるためには、プランニング能力やマネジメント能力も必要です。 しかし、私はそれ以上にこのナビゲーション能力が重要なのではないかと思っています。 地図を描き出すことの意味 プロジェクトを円滑に進める上で不可欠な地図を創ろうと思 ったのは、比較的最近のことです。 しかし、私はこのプロジェクト体験以降知らず知らずのうちに 様々な地図を描く手法に自然と魅せられていったのです。その 始まりが、1992 年に出会ったマンダラートという創造的思 考法です。そもそも人間が未知の物事をどのように理解し、習得していくのか?といったことに 興味を持っていた私は、人間の思考プロセスとメカニズムに目をつけたのです。 そして、その過程の中に地図を描くヒントがあるのではと直感的に思っていたのです。以降、 インフォメーションマッピング、マインドマッピング、メッセージマッピングといった様々な地 図化手法と出会いました。そして、頭で理解するだけではなく、日々の業務で実践と研鑚を続け てきました。 一言で地図を描くといっても、実際にやってみると実は思ったほどに単純なことではありませ ん。そもそも描く対象が目に見えない知的な情報空間です。その空間をどうやって認識するかが わからなければ地図を正しく描くことはできないのです。 地図はそもそも何のために必要かと言えば最終的には、目的地へとたどりつくために適切に行 動するためです。そうなると行動するための条件を知らなければ地図は描けないことになります。 簡単に言ってしまえば、人間は何を知れば行動できるのか?といった素朴な疑問に答えられる か?ということです。 私は、様々な手法を何度も何度も実際に使いながら、ある一つの結論に至りました。それは、 行動するためには、5 つの W の要素が不可欠であるということです。誰もが知っている 5W2H の 5W です。なんだそんなことかなんて馬鹿にしてはいけません。まず、ビジネスのあらゆる 場面で遭遇する物事にこの 5 つの W の要素が不明確なものがいかに多いかに気づく必要があり ます。 誰もがわかっている、知っているということと、実行できているというのは全く違います。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 7 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 地理的な空間に方位(東西南北)があるように、知的な情報空間にも方位が必要です。 人間(Who?)を中心として、Why?/What?/Where?/When?という認知のカタチがあるのです。 これを教えてくれたのは、他ならぬマンダラート(5W マンダラ)です。 現実に私達が生きている空間には、地理的な地図というものが今や当たり前に存在しています。 しかし、そもそも最初から地図などあったはずもなく誰かが創ったわけです。しかも、日本に限 らず世界中にその地図があるわけですから、これは真面目に考えるとすごいことだと思います。 今ではあまりにも当たり前になりすぎて、感動する人は比較的少ないのではないでしょうか? では、この地理的な空間ではなく、私たちが現在ビジネス活動を営む情報空間に置き換えた場合 はどうでしょう?あるいは思考空間ではどうでしょう? 情報社会、知識社会と言われてすでに久しくなります。現代の私達は、この情報空間でビジネ スを行っていることに気がつくことが第一歩です。そして、その空間をスムーズに移動し、目的 地へたどり着くにはやはり地図とコンパスが必要であると私は思いました。 堂々巡りという言葉がありますが、これは人間の思考が行き先を失った時に使われる表現です。 例えて言えば、地図とコンパスを失った状態とも言えるのではないでしょうか?そんな思考の繰 返しによって、最近では脳は宇宙空間であるといった比喩の意味がようやく実感できてきたよう な気がします。そして、実は宇宙の中に自分が存在しているのではなく、自分の中に宇宙がある のだということも... ワークスタイルを変えよう 情報空間の地図を描くというアプローチは、現実にはワークスタイ ルを大きく変えることにつながります。なぜなら、これまでの人か ら与えられた仕事を言われた通りに実行する受動型プロセスとは 根本的に異なるからです。そもそも地図を描くという行為は、能動 的なアプローチです。 ブルーカラーやホワイトカラーの仕事は、例えれば地図とコンパスを事前に与えられ仕事を正 確にこなすことが要求されました。しかしながら、現代のナレッジワーカーが主役となる知識社 会においては、地図とコンパスを自らが描き出すことが求められるのです。これが、根本的な思 考プロセスの違いなのです。これが理解できない限り地図の必要性や価値そして効果を見出すこ とは難しいでしょう。 現場で働く私達自身も、思考プロセスの逆転を余儀なくされていることに気づかなければなら ないのです。その最たる例が、プロジェクトです。過去においてはプロジェクトの成功はどちら かというと合理化による効率化の指標が中心でした。現代のプロジェクトは、成功イメージを先 に描くのです。企業にビジョンが必要なのも同じことです。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 8 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) 変化の激しい時代であればこそ将来像を先に描きだす必要があるのです。そして、その方向性 に向かって進んでいくワークスタイルをとらないと状況の変化に飲み込まれてしまうのです。 この最終結果から先に描くというスタイルは、これまで私たちが身につけてしまった記憶中心 の頭の使い方とは根本的に違います。下位に展開しつつも上位目的に遡る収束思考なのですから、 思考の流れと方向がまったく異なるのです。私たちは頭の使い方、理解の仕方、仕事の仕方、時 間の使い方を抜本的に変えていく必要にせまられているのです。 では、この言わば知識労働型のワークスタイルを身につけるためには、一人一人が頑張るしか ないのでしょうか?もちろん実際にナレッジワーカーとして働く人々が努力する必要はありま す。しかし、これはあくまで全体の 50%に過ぎません。あとの 50%は、企業のサポートが不 可欠だと思います。 ワークスタイルの変革には、教育や適切なツールの導入といった企業の人材育成のインフラ整 備が欠かせません。そのインフラがあるからこそ、一人一人に対して実践し、能力を強化する努 力を期待できるのだと考えます。 人生という一大プロジェクト これまで、企業活動という視点の中でプロジェクトというものを捉えてきました。しかし、考 えてみると実は私達の人生もプロジェクトなのだということに気がつきます。これは、むしろ個 人にとっては、企業や事業よりも明らかに大きなテーマでしょう。 人生の中で、どのようなビジョンを持ち、どんな方向に向かって何を成し遂げたいのか? といった壮大なプランの中で有意義な日々をおくりたいからです。豊かで自由な社会になればな るほどこのテーマはより、一人一人にとって身近で重要になってくるでしょう。 自由の裏返しは、自己責任だとも言われています。自己責任であるからこそ、自分の人生にも 責任をもつことがより必要になるわけです。ここにも地図とコンパスが必要になることは、言う までもありません。 企業や事業のプロジェクトのみならず、個人の人生 に対しても、地図を描き、コンパスを持つというこ とは、成功のために必要なアプローチなのです。そ して、私自身も自らのパーソナルビジョンを 「知識社会の地図とコンパスを創造し、 理解と行動の架け橋となる!」 ことに決めたのです。 私は、これまで一度だけプロジェクトを通して、涙を流したことがあります。嬉し涙であれば よかったのですが、残念ながら悔し涙です。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 9 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) おそらくその時のことは、一生忘れられないことでしょう。その時、私が心に刻んだ想いは、 「地図とコンパスをしっかり持っていれば、共に苦労したメンバーやお客様を泣かせずに済んだのでは....」 ということだったのです。 どんなに一生懸命やっても、どんなに残業をやっても結果が出せなければ、ダメなのはスポー ツの世界もビジネスの世界も一緒です。だからこそ、一生懸命の努力を無駄なことに費やしてい ては、ならないのです。 長期にわたるプロジェクトの場合はなおさら、やるべきこととそうでないことを区別するのが 難しくなっていきます。だからこそ、全体像を常に把握することが重視されるのです。そして、 私はこれらの経験を通じてその全体像を示すひとつの解が、地図なのだということを確信したの です。 今や一人一人の人生の寿命は、企業の寿命よりもはるかに長いと言われています。私達は、自 分の人生という大プロジェクトを成功させるためにも、企業のプロジェクトのあり方を通して、 たゆまぬ学習と改善を繰り返すことを忘れてはならないのです。 単一のプロジェクトを対象にしたプロジェクトマネジメントをはじめとして、プロジェクトに も様々なアプローチが存在します。複数のプロジェクトをプログラムとして捉えて全体最適をは かるプログラムマネジメント、さらには事業全体の利益を優先したポートフォリオマネジメント の考えは、まさに私たちの人生そのものをいかに有意義に生きていくのかといった点においても、 役立つ手法だと思います。プロジェクトを単なる仕事の形態として見るのではなく、自分自身の 人生の一部として捉えてみてはいかがでしょうか? 「時間という資産」を大切に! これまで、大小様々なプロジェクトを通して学んできたことや感じてきたことをふりかえって きました。 「最終的に私が目指したいものはいったいなんなのか? 」 2000 年のある日、そんな素朴な疑問に確かなインスピレーションを与えてくれた 1 冊の本 と出会いました。 シンプリシティ(日経ビジネス人文庫) その日、その言葉にひかれて、迷わず購入した私は大きな衝撃を受けました。そこにはこれま での自分のプロジェクト経験を通じて感じていた日々の心の葛藤の様子が見事に描写されてい たのです。そして、その複雑で混沌とした状況を打ち破る解が、このシンプリシティという全体 を捉える技術であることを知ったのです。情報が溢れ返る社会であればこそ、新たな競争戦略と してこの物事を明快化するシンプリシティという考えが重要になるというのです。 Simplicity is Power - 「シンプリシティは、力なり」なのです。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 10 ビジュアルコラボレーション入門(プロローグ) ここには、まず自分の仕事の仕方を変える方法が提示されていました。そしてプロジェクトを 変え、企業を変えるといった方法が、シンプリシティというコンセプトによって一貫して語られ ています。 そして、一人一人にとって最も重要な資産は、欠けがえのない時間であるということも見逃せな い「キーワード」でした。 私達は、人生というプロジェクトにおいて、もっともっとお互いの時間を大切にすることを学 ばなければならないと思います。そして、この本を通してその具体的な方策のひとつに地図を描 くというアプローチが語られていたことも決して忘れられませんでした。この貴重な時間をより 有効に使うためには、誰かが地図を描く必要があります。それは、紛れもなく 21 世紀を担う私 たちリーダーの役割なのだと私は思いました。 しかし、それまで私には、その地図を描くツールを見つけることはできませんでした。私たち 人間はこれまでと違ったやり方をしようと心に決めても、適切な道具がないとなかなか習慣化で きない弱い生き物です。理屈だけではどうにもならないのです。しかし、2001 年、私はつい にその夢のような地図化ツールを見つけたのです。 MindManager というそのソフトウェアは、その名の通り見事に私の Mind(意識)をマネジ メントしてくれる情報空間のマッピングツールでした。私は、この膨大な情報空間における地図 を描くために今できるところから、そして今あるものを有効に活用しながらスマートな人生と経 営そしてプロジェクトを目指して、自らのビジョンを実現していきたいと思っています。 Copyright (C) 2007-2015 Simple Vision, Inc. All Rights Reserved. 11
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