P-36 船舶の消火設備設計指針改定研究委員会 最終報告書

P-36 船舶の消火設備設計指針改定研究委員会
最終報告書
2014 年 3 月
社団法人 日本船舶海洋工学会
(社)日本船舶海洋工学会
◎
造船設計・生産技術研究会
造船設計部会委員名簿(2014 年 3 月現在)
委員名
氏名
所属
部会長
荒井
誠
横浜国立大学 大学院 工学研究院 海洋空間のシステムデザイン教室 教授
顧問
井上
義行
横浜国立大学 名誉教授
顧問
細田
龍介
大阪府立大学 名誉教授
顧問
福地
信義
九州大学 名誉教授
委員
大和
裕幸
東京大学 理事・副学長
(兼 大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 教授)
委員
田中
進
委員
長谷川
委員
田中
幹事
垰
幹事
植村
広島大学 大学院 工学研究科輸送・環境システム専攻 准教授
和彦
太氏
大阪大学 工学部 船舶海洋工学教室 教授
九州大学 大学院 工学研究院 海洋システム工学部門 准教授
克幸
三菱重工業(株) 交通・輸送ドメイン 船舶・海洋事業部 長崎技術部 次長
卓司
ジャパン マリンユナイテッド(株) 舞鶴事業所 設計部 艤装設計グループ グル
ープ長
委員
金湖
富士夫
海上技術安全研究所 海洋リスク評価系 系付上席
*
委員
越智
宏
(財)日本海事協会 船体部 主管
*
委員
稲垣
秀彦
住友重機械マリンエンジニアリング㈱ 製造本部 船装設計G 主任技師
委員
中村
千春
ジャパン マリンユナイテッド(株) 呉事業所 設計部 船装設計グループ グルー
プ長
委員
高木
圭一郎
佐世保重工業(株) 海洋設計部
委員
松本
起宜
ジャパン マリンユナイテッド(株) 商船事業本部
委員
新
雅善
船装設計課 課長
基本設計部
三菱重工業(株) 交通・輸送ドメイン 船舶・海洋事業部
船装グループ
長崎技術部
船装設計
課 主席
委員
加藤
恒司
川崎重工業(株)
船舶海洋カンパニー
技術本部
造船設計部 船装設計第二課
課長
*
委員
出川
雄一郎
サノヤス造船(株) 設計本部
委員
鈴木
幹久
三井造船(株) 船舶艦艇事業本部
委員
阿部
三十六
三井造船(株) 千葉事業所 船舶・艦艇事業本部 船舶設計部船装設計課 課長
委員
津上
由紀夫
(株)名村造船所
委員
大黒
克伸
ジャパン マリンユナイテッド(株) 有明事業所
伊万里事業所
船舶設計部
船装設計課 課長
艦船設計部
船装設計課 課長
基本設計部 部長
設計部
船装設計グループ グ
ループ長
*
委員
舟橋
宏樹
三菱重工業(株) 交通・輸送ドメイン 船舶・海洋事業部 下関技術部 船装設計課
委員
松尾
和昭
(株)大島造船所
設計部
委員
大橋
徹也
川崎重工業(株)
船舶海洋カンパニー 技術本部
課長
○
船装設計課 主務
基本設計部
基本計画第一課
主事
◎
P-106 船舶の消火設備設計指針改定研究委員会
○
同
*
討議参加
及び執筆担当
*入沢
真生、上村
*岸本
大輔
*原
*野村
委員長
委員会リーダー
有輝
材料艤装部
住友重機械マリンエンジニアリング㈱ 製造本部 船装設計G
文枝
明宏、田中
日本海事協会
三井造船(株) 千葉事業所 船舶・艦艇事業本部 船舶設計部船装設計課
星文
三菱重工業(株) 交通・輸送ドメイン 船舶・海洋事業部 下関技術部 船装設計課
目次
1 消火の原理及び一般知識
1.1
概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.2 燃焼の原理
1.3
消火の原理
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
1.4
火災の種類
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
1.5
消火方法及び消火剤の選定
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
2 船舶の火災と消火設備
2.1
概要
2.2
船舶火災とその発生原因
2.3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
船舶火災の実態
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
2.4
船舶の消火設備
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
2.5
船舶の消火設備のメンテナンス
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
3 船舶消火設備の詳細とその設計法
3.1
水消火装置
3.2
非常用消火ポンプ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
3.3
固定式泡消火装置
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
3.4
固定式炭酸ガス消火装置
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
3.5
固定式局所消火装置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24
3.6
蒸気消火装置
24
3.7
スプリンクラー消火装置
3.8
ハロン消火装置
3.9
ドライケミカル(粉末)消火装置
3.10
固定式加圧水噴霧消火装置
3.11
高圧水噴霧消火装置
3.12
簡易式、持ち運び式、移動式消火器具
3.13
消防員装具
3.14
火災探知装置および手動警報装置
3.15
特殊区画の消火装置
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
25
・・・・・・・・・・・・・・・・・
25
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
26
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
27
・・・・・・・・・・・・・・
28
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
4 船舶消火に関するルール
・・・・・・・・・・・・・・・・
30
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
(i)
1
消火の原理および一般知識
1.1
概要
消火の方法を学ぶためには,まず,火災というものについての知識が必要である。ここでは,これ
らの基本的知識について述べ,燃焼の機構ならびにその形態,および爆発について言及し,消火の条
件とその方法について記述した。
1.2
燃焼の原理
1.2.1
燃焼の機構
(1) 酸化反応による燃焼
燃焼とは一般に化学変化に伴う発熱によって温度が上昇し,その結果として発せられる熱放射
線の波長および強さが肉眼に感じるに至ったものである。したがって燃焼は,いかなる化学変化
を伴っても,それが前述の状態を満足すれば見られるものであるが,最も普通に見られるものは
酸化に伴う燃焼である。
この燃焼が起こるためには,燃焼可能な物質(可燃物),酸化反応に必要な酸素およびその反
応を起こさせるに必要なエネルギーの存在が必要であり,これを燃焼の三要素とよぶ。燃焼の機
構は複雑で,まだ完全に解明されてはいないが,近年徐々に明らかにされてきたところによれば,
可燃物は燃焼して炭酸ガスと水になるが,燃料が直接酸素分子と反応してそれらが生じるのでは
ない。酸素分子と衝突した燃料分子は,分子が切れたり酸素原子と結合したりしていろいろな遊
離基や中間生成物を作る。遊離基は不安定で反応性に富んでいるから,他の燃料分子や遊離基と
反応して新しい遊離基を作り出す。このように反応が始まるととめどなく反応が進行するのを連
鎖反応とよぶ。連鎖反応の途中で,H 2 O や CO 2 のように安定な物質ができると,そこで連鎖反
応はやみ,余ったエネルギーは分子の運動エネルギーを増すのに使われる。すなわち温度が上が
る。炎が青く光って見えるのは励起状態にあるいろいろな遊離基からでる放射のためである。
(2) 燃焼の速度と発熱量
可燃物の燃焼速度 m(t) (kg/s)は,燃焼量 M(t)(kg)および見かけの反応速度 r(t)(1/s)によって決ま
る。この見かけの反応速度は,可燃物の燃焼を酸素との準 1 次(ほぼ線形的な)反応と見なすと,次
の Arrhenius の式により表現できる。なお,この反応は極めて温度に対し非線形性が強い反応で
ある。
r(t)=ζ・χ 0 (t)e-Ea/RT(t)
ここに,tは時間,T(t)は可燃物の絶対温度(K),Eaは見かけの活性化エネルギー(J/mol)であり,
ζは反応定数(1/s),Rは気体定数(8.314J/mol・K)である。また,χ 0 (t)は燃焼の際の酸素濃度(無次
元)であり,燃焼に応じて時間変化する。例えば,木材の場合には,おおよそζ=0.123(1/s),Ea
=2.03×104(J/mol)である。
また,
発生熱量 Q(MJ/s)は燃焼速度 m(t)に可燃物の単位質量当たりの発熱量 h(MJ/kg)を乗じて,
Q=h・M(t)r(t)により算出する。
1
1.2.2
燃焼の形式
一般に可燃性の気体・液体または固体が空気中で燃焼を行う場合には拡散燃焼,蒸発燃焼,分解
燃焼または表面燃焼の4種の燃焼形式のうちいずれかをとる。
なお,船舶火災の約半分を占める機関室火災は,油の「蒸発燃焼」によるものが多く,火災伝播
の速度が速い。また,居住区の火災では「分解燃焼」や「表面燃焼」が大部分を占めている。この
ために,消火の方法が異なり,使い分けが必要である。
1.2.3
燃焼と爆発
可燃性物質が燃焼する場合には,可燃物質と燃焼を支える空気または酸素とが接触する必要があ
り,この接触の方法として物質の界面で拡散によって互いに混合する場合と,はじめから両物質が
混合せられている場合とがある。後者のように可燃性ガスに適当な空気をあらかじめ混合して,そ
の濃度を爆発範囲内にしたものは拡散の過程が省かれるから,伝播速度は極めて早い。この混合ガ
スに着火すれば,着火源において局限せられた反応域が形成されてこれが混合ガス中を伝播してゆ
く。その進行速度はガス組成によって異なるが,大体 0.1~10m/sec 程度のものである。この反応
域を燃焼波(Combustion wave)という。
水素,アセチレン,プロパンなどの可燃性ガスと空気または酸素との混合物は着火すれば,上述
の燃焼波を形成して伝播するので,ガス混合物はきわめて短時間に燃焼し尽くされる。
もしこの混合ガスが密閉容器内または閉鎖個所に存在するときはほとんど瞬間的に発生した燃焼
熱のために燃焼ガスは膨張して約 700~800kPa の高圧を発生し,器物または建物を破壊するに至
る。これがいわゆるガス爆発である。
つぎに管内の混合ガスに一点より着火したとき燃焼波がある距離を進行したのち,突如として燃
焼伝播速度を増加し,ついにその速度が 1000~3500m/sec に達することがある。このような現象
を爆轟現象(De-tonation phenomenon)という。このとき局限せられた反応域は爆轟波(Detonation
wave)と称せられる。爆轟波の伝播速度は音速を超えているので,その進行前面には衝撃波(Shock
wave)が形成される。
一般に爆発とは前述の物理的爆発や,上述の爆轟あるいは単に燃焼の激しいものを指していうも
のである。
1.2.4
引火点と発火点
可燃性液体の引火に対する危険性はその引火点(Flash point)で決められる。引火点とは前述の
通り,その液体が空気中で,液体表面の近くに引火するに十分な濃度の蒸気を生ずる最低温度であ
る。
もし可燃性液体の温度が,その引火点より高いときは常時,火源との接触によって引火する危険
がある。したがって引火点の比較的低い可燃性液体は非常に危険性が高くこれを特に引火性液体と
いう。
液体が着火した場合ひきつづいて液面で燃焼を継続するためには引火点より高い温度が必要であ
る。この最低温度を燃焼点または火焔点という。
発火点(Ignition point, Autoignition temperature)とは他から火焔,電気火花などの着火源を与
2
えないで物質を空気中または酸素中で加熱することによって,発火または爆発を起こさせる最低温
度である。発火点は,固体,液体のみならず気体についても測定される。しかし一般に発火点は,
物質を加熱する容器の表面状態,加熱速度などによって影響をうけることが大きく,固体物質では
それの物理的状態によって影響されるので,発火点は物質固有の定数ではなく,ある状態での実験
値である。
1.3
消火の原理
消火を行うには,燃焼反応をストップさせるために燃焼の三要素のうち一要素以上を排除するか,
あるいは連鎖反応を中断するかを行えばよい。その方法には防火の目的をも含め,種々考えられるが,
主として窒息効果,希釈効果,冷却効果,抑制効果の4つがある。
消火は酸化の反応速度を抑制するものであり,前述の反応速度を表すArrheniusの式において,「窒
素効果」と「希釈効果」では燃焼の際の酸素濃度χ 0 (t)を低下させ,「冷却効果」では燃焼体の温度T(t)
を下げ,さらに活性物質を用いる「抑制効果」では反応定数ζを小さくすることに相当する。
1.4
火炎の種類
火災はいろいろな形式で発生するのでそれを明確に分類することは一概にはできないが,「木材,
紙などによる火災」「油火災」「電気火災」に分類されている。
現実には各種火災が単独に発生することはまれであり,複合して起こるのが普通である。また上記
による分類に属さないものに,金属火災(たとえばアルミニウム,マグネシウムによるもの)や,ガ
ス火災がある。
1.5
消火方法および消火剤の選定
現在では,1.3 で述べた消火の条件に適合するような幾多の種類の消火方法,あるいは消火剤が使
用されているが,それぞれ特有の効果をもち,適した使用条件がある。
1.5.1
水
冷却効果を利用したもので,主として木材,紙などの火災に最も効果がある。また,噴霧水は蒸
発熱を奪う冷却効果だけでなく,燃焼面を噴霧で覆う窒息効果もあるので,油火災のうちでも重油
のような引火点の高い油火災も消火できる。完全噴霧すれば電気火災に使用できる。
1.5.2
炭酸ガス
希釈効果,窒息効果および冷却効果を利用したものである。ガス体としてどのような間隙にも浸
透するため複雑な形状をしたものでも消火可能であり,また,消火における汚損がないため精密機
器や各種機械あるいはそれを含んだ施設の消火に適している。また炭酸ガスはそれ自体が電気的絶
縁性にすぐれているので,電気による火災および電気施設を含んだ火災にも使用できる。
1.5.3
ドライケミカル(粉末)
現在使用されているものには,それぞれ重炭酸ソーダ,重炭酸カリウム,リン酸アンモニウムを
3
主成分とするもの3種がある。窒息,抑制および冷却効果を利用したものであり,表面火災に対し
てその消火性能が速効的であり,能率的であるため火焔の拡大が早い各種引火性液体の火災に最適
である。また薬剤は電気絶縁性が高いので電気火災にも適している。
重炭酸ソーダ,重炭酸カリウムは油火災および電気火災に効果があり,リン酸アンモニウムはこ
れに加え木材・紙などによる火災にも適しているため,あらゆる火災に使用できる。
1.5.4
泡
主として油火災に用いられ,水による消火方法や不燃性ガスまたは消火薬剤による消火方法では
効果が少ないか,またはかえって火災を拡大したりする危険性のある可燃性もしくは引火性液体の
火災の消火に最適とされている。この泡は非常に薄い膜でできており,火に対して強靭で燃焼する
液面上を自由に流動展開する性質をもつほか,立体表面に粘着するという他の消火剤にはない特性
をもっており,火災の表面を覆って,窒息効果をもたらす。
消火泡には化学泡と機械泡(空気泡ともいう)とがある。化学泡は重炭酸ナトリウムの水溶液と
硫酸アルミニウムの水溶液との化学反応により発生する炭酸ガスを核とする泡であり,一方,機械
泡は動物または植物性蛋白質の加水分解生成物を基剤とする濃厚な溶液,または合成界面活性剤を
基剤とする溶液を水によって一定濃度に希釈したものを機械的に撹拌すると同時に,空気を吸引す
ることにより発生する空気を核とする泡である。
1.5.5
代替ハロン
ハロン 1211,1301,2402 及び過フッ化炭化水素を使用する消火装置は,モントリオール議定書
第 2 回締約国会合の決議により,1994 年以降新たな設置は禁止されており,現在では代替ハロンと
して,フルオロケトンや新ガス(CHFC227ea)等を使用した消火装置がある。
1.5.6
水蒸気
火災の発生した区画に水蒸気を吹き込むことによって中の空気が排出され,希釈効果が得られる。
また水蒸気自体は電気絶縁性も高いので電気火災にも使用できる。
しかし水蒸気が噴出する際,放電することがあるので使用場所には注意を要する。実際に使用さ
れている実例はほとんどない。
1.5.7
砂およびおがくず
砂およびソーダをしみこませたおがくずは窒息および冷却効果を有する。規則要求にて砂および
ソーダをしみこませたおがくずを準備するよう要求があるが,消火器で代用可能であることから,
実際に砂およびソーダをしみこませたおがくずを準備することはほとんどない。
2
船舶の火災と消火設備
2.1
概要
船では陸上設備と異なり,火災を起こした場合,他からの応援を待つ機会は少ないので,それ自体
に相当の消火能力を有していなければならない。
4
これら船舶火災から乗組員,貨物および船体を守るため各種法規や規則は,消火設備についての条
項を設け,厳しい条件を提示している。船は容積が限られるため,装置の大きさに制限を生じるので,
充分,性能の良いものを装備すると共に,乗組員としてもその操作に熟練しておかなければならない。
現在,船には各種の固定式消火装置が装備されているが,初期消火を目的とした各種の持ち運び式
消火器なども,陸上施設同様に必要であることはいうまでもない。
船の周囲には海水がふんだんにあるとはいえ,消火のために無制限に注水すると船は沈む危険性を
生じると共に,積荷の海水による損傷も著しくなることがあるので注意しなければならない。
万一,火災が起こった場合には,これを消すため蔓延を防ぐことが大切であるが,木船の場合は別
として,普通の鋼船では,地上建造物ではあまり例を見ない構造,すなわち周壁がすべて熱伝導の良
い鋼板で囲まれているため,一室に火災が起きると,たとえその室を密閉して火焔が外にでないよう
に努めても隣室側の壁面がすぐに加熱され,それに接触しておかれた可燃物が燃えはじめるので,火
災は次々に他の室へと広がっていく可能性が強い。これを防ぐために船舶においては消火設備だけで
なく,防火構造が重要な意味を持ってくる。船舶の安全について規定している国際条約「海上におけ
る人命の安全のための国際条約」(The international convention for the safety of life at sea 1974)
によると居住区の隔壁構造をその区画の出火の危険程度に応じてA級,B級及びC級仕切りに分けて
規定しているが,その要求するところはA級,B級はそれぞれ1時間,30分間の標準火災試験が終
わるまでに煙および炎の通過を阻止し得るように造られていることであり,C級については承認され
た不燃性材料で造ることである。さらにA級,B級については火にさらされない側の平均温度が最初
の温度より 140℃を超えて上昇しない時間によってさらに細分化したクラスを設定している。
一方,火災を早期に発見することは,火災の拡大を防止する最上の手段であるので,火災警報装置
および火災探知装置も防火設備として重要なものの一つである。
近年,世界の船腹量の急激な増大にともない,船舶火災の発生数も増加してきており,これに関連
してときおり船における現行の消火装置の有効性などに対する意見も聞かれるようになってきたが,
これについては,今後ともさらに綿密な調査研究と装置の改善・工夫,および開発がなされなければ
ならない。
2.2
船舶の火災とその発生原因
2.2.1
船における燃焼物
船には種々様々の貨物を積むが,これと共に船自体の燃料も積まなければならない。また,船の
構造のうち,とくに居住区は陸上の建築物とほぼ同等の居住設備を有して,可燃物も多く存在する。
これら,貨物・燃料・構造物を含むあらゆる材料のうち火災または爆発をおこす危険性を有する
物質(これを危険物質-Hazardous materials-と称する)をぬき出して,化学的性質によって分
類するとほぼ次の8種になる。
(1) 可燃性ガスおよび蒸気
(5) 爆発性物質
(2) 可燃性液体
(6) 自然発火性物質
(3) 易燃性物質
(7) 禁水性物質
(4) 可燃性粉体
(8) 混合危険物質
5
2.2.2
火災の発生場所と発生原因
(1) 発生場所の分類
火災の発生場所は大別して,機関室および補機室,居住場所,および貨物場所に分けることが
できるが,それぞれについて,火災の発生条件を調べると次のようになる。
(a) 機関室および補機室の火災
機関室や補機室には,主推進機関をはじめ,ボイラーや各種補助機関があり,それらに対し
て燃料や潤滑油が常に使用され,少しの不注意で着火し,火災に至る危険性は大きい。
(b) 居住場所の火災
乗組員が居住する場所は隔壁および主要構造物が鋼であること以外は陸上建築物とさして
異なったところはなく、普通一般に人為的に起こる火災が発生しやすい。壁はA級またはB級
隔壁であるとはいえ,室内には木製の家具や布製品が使用されているおり、木材,紙,布によ
る火災が多いといえる。また,居住区内には調理室,無線室あるいは荷役制御室などが含まれ
ることが多いので電気機器に起因またはそれを含む火災の発生も考えられる。
(c) 貨物場所の火災
船によってその積荷はまちまちであるが,貨物として可燃物が積まれることも多い。
タンカーなどの場合はいったん火災を生じると早期に火災をくい止めることができなけれ
ば次々に拡大して,貨物場所全域が火災となることもある。また積荷が綿花のような場合は,
一度に大火災になるのを防ぎ得たとしても完全に消火するには相当時間がかかる。
(2) 船の状況
船における火災は一般的に乗組員の不注意による場合や,また不可抗力的な条件が加わって発
生することが多い。ここでは火災発生時の船の状況について触れる。
(a) 航海中の火災
航海中は貨物場所は閉ざされているので,人の不注意により火災の発生する機会は少ないと
いえるが,積荷の種類によっては思わぬ火災の発生を見ることがある。たとえば,船の動揺に
より積荷が摩擦して発火したり,あるいは石炭,銅鉱石など貨物の性状によってはそれ自体が
発熱し,これが蓄積されて自然発火した等の事故例も報告されている。
またタンカーの場合,揚荷港近くになって甲板機械を操作した際,火花が発生して,甲板上
に滞留していた石油ガスに引火して火災を起こした例がある。
(b) 停泊中の火災
岸壁に停泊中は外部から部外者が船内に立ち入る機会も多く,乗組員以外の人間の不注意に
よって火災が発生する場合が考えられる。
しかも消防活動に習熟した乗組員の多くが上陸しており,部外者のみが火災発生場所に存在
した場合は,初期消火を有効に行うことができず大火に至ることもある。タンカーが荷油を満
載して岸壁に停泊する場合は特に注意を要する。
6
(c) 衝突時の火災
狭隘な水路や入港の途中に衝突し火災を起こすことが多く,この種の事故は近時頻繁に発生
している。ことにタンカーによる衝突事故は必ず火災を伴うものと考えてよく,さらに海上に
油が流出し,それが発火して付近を航行中の他の船にも被害を及ぼすことが多い。
このような場合は,乗組員は船から脱出したくとも脱出の方法がなくなり,多くの人命を失
う大事故につながりやすい。また船同志の衝突以外に,船と岸壁との衝突による事故も記録さ
れている(1965 年 5 月室蘭港におけるタンカー「ヘイムワルド号」の衝突炎上事件)。
このような事故は,各石油基地にて発生する可能性があり,船側の消火設備だけでなく陸上
側の消火設備および港湾消防艇の充実などもあわせ検討されるべきである。
(d) 荷役中,油槽洗浄中およびガスフリー中の火災
これは特にタンカーにみられる事故である。原油を荷役中においては,甲板上に石油ガスが
滞留し風向きによっては居住区内などでの不注意な火気使用により引火して爆発および火災
を引きおこすこともある。あるいは,荷役中にタンクのアレジホールを開けた際,携帯してい
た不完全な懐中電灯の点滅によりスパークが発生し,タンク内のガスに引火し,火災に至った
例もある。
この種の事故は爆発をともない,岸壁側にまでも損害を与えると同時に,油流出による海上
火災を引き起こし,近くの岸壁で荷役中の他船も火災にまきこむ可能性がある。
このような場合には,船側ならびに岸壁側の消火能力を最大限に発揮させる必要があること
はいうまでもないが,沖側の舷側にワイヤーをたらしておき火災時に洩船により曳航離岸して
もらう準備を整えておくとともに,油荷役用ホースおよび係船索の切断の方法を考慮しておく
ことも必要である。
(e) 座礁時の火災
これもタンカーに多い事故でありタンカー以外の船においては座礁が火災の直接の原因に
なることはまずないといってよいであろう。
タンカーの場合は座礁時に船底外板の損傷部から油が海上に流出し石油ガスが海面を覆っ
て,本船あるいは他船の何らかの発火源によって容易に引火し,火災発生の危険を生じやすい。
また,損傷部は船底にあるため,1タンクあるいは数タンク分の原油は完全に海上に流れ出
し,海面を広く汚損する結果をも招きやすい。
(3) 発火源とその対策
船における火災または爆発災害を防止するには発火源についての管理を完全に実施することが
重要である。船における発火源の種類を,そのエネルギーの発生方法にしたがって区分すれば
表 1 のとおりに分類される。
7
表 1 発火源とその対策一欄表
発
火 源
発 火 を 起 こ す
発
火 の
原 理
(1)物質の分解熱・酸化熱・吸着
自
然
発 火
摩擦および衝撃
性
状
物 質
船における発火場所
防
具 体 例
止 対
策
多孔質・粉末状または,
セルロイド・生石灰・石炭・黄
①油ぼろ・含油繊維・掃除用布紙を放置しない
機関室,倉庫,石炭
繊維状の物質
燐・金属ナトリウム・カーバイ
②石炭を積む際には, 粉炭ならびに水分をできるだけ
積載倉,ボイドスペ
(2)禁水性物質の水との接触, あるいは混合
ド・金属粉・含油繊維・掃除用
排除する
ース,補機室
危険物質が互いに接触することによる
布及び紙・油ぼろ・原綿・屑まゆ
熱・発酵熱などによる
摩擦エネルギー
硬度および融点の高い物
鉄製工具
①鉄製工具類の使用をさけ,ノンスパーク材のものを 機関室
衝撃エネルギーが熱に変わる
質。なお,熱伝導度は小
石・釘
使用する。
ポンプルーム
さいほど発火しやすい
梱包用鉄帯
②鉄鋲を打った靴の使用を禁ずる。
上甲板
③アルミ材と鋼板の直接接触に注意する
(1)燃焼物,電弧,高熱物によ
火気および高熱物
燃焼を生じるすべての物質
る火気
の際の火の粉,漏電などによる加熱され 所での作業をさける。
(2)過負荷電流・漏電などによる
た電気機器・配線・点灯した電球。
過熱
(1)高電圧による火花放電, 回
電 気
火 花
路の開閉・断線・接触不良など
機関室
②喫煙等に際しては,決められた場所で行うこと。
マッチ,タバコ,炊事による火気,機械設 ③電気機器,機械設備を常に保守点検し 不良個所か
備の火気
らの発熱の可能性を未然に取り除く。
一般の電気機器および配
電気開閉器,電動機,照明器具
①使用する電気機器および配線は材料を選択し,入念 居住区、機関室
線
分電盤,制御盤,変圧器,換気
な工事を行うこと
扇,計器スタンド,ヒューズ箱
②電気機器はできるだけ危険場所の外に設ける。これ 無線室、
さし込み接続器
ができぬ場合は防爆構造のものを使用する。
配線盤のある場所
引火性液体
①接触する2物質はできるだけ帯電序列の近いものを
荷油・燃料油管
選び静電発生量を抑制する
蒸排気管のフランジ・
乾燥した粉体,または粒状体
②引火性液体を含む設備を接地する
ドレッサー継手部,
・噴出するガス体
ゴム靴をはいた人体
③電気抵抗の高い物質のかわりに導電性 のある物質 配管と船体
・人体
化学繊維の作業衣
を使用する
による弧光放電
(2)電気接点における微小火花
静電気
作業上火気, 作業外火気, 金属溶接切断 ①作業者は火気に対する注意を払い可燃 物のある場 居住区
2種の物質が接触したのを離散
・絶縁性の液体および高
することにより,静電電圧があ
分子物質 (固有抵抗
らわれる。
1012Ω・cm以上のもの)
(ガソリン,ベンゼン,エーテル等)
④作業場の湿度を75%以上に保つ
⑤空気中にイオンを作り帯電体表面の荷電を中和する
8
機関・荷役制御室
ハッチカバー
2.3
船舶火災の実態
2.3.1 日本海事協会船級籍船の機関室火災調査事例
1993 年から 1999 年の 7 年間に NK 船級 52 隻に発生した機関室火災,及び 2000 年から 2012 年
の 13 年間の 58 隻を対象とした火災事例の調査を行った。
船種別
機関室火災件数
12
0.25
10
0.15
火
災
発
生
率
0.10
%
0.20
8
件
数
(
)
4
0.05
2
0
3.0
2.5
1.5
1.0
0.5
0.0
0.00
船種
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
年度
件数
93~99年
火災発生率
a) 機関室火災発生隻数の年度別推移
平均(93~99年)
00~12年
平均(00~12年)
b)船種別の機関室火災発生件数と年平均発生件数
GT別
運航状態別
20
3
18
航行中
2.5
16
14
2
12
件
数
年
平
均
件
数
2.0
ar
go
il
Ta
nk
er
Re
ef
er
Ca
rC
ar
rie
Bu
r
lk
Ca
LP rrie
r
G
Co
Ta
nt
nk
ai
er
ne
rc
Ch
ar
em
ri e
ic
r
al
Ta
nk
er
O
re
Ca
rri
er
O
th
er
s
6
Ge
ne
ra
lC
件
数
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
0.30
O
14
10
1.5
8
1
6
4
航行中以外
年
平
均
件
数
29%
30%
27%
0.5
2
0~
9
,0
0
50
9
,9
9
73%
70%
71%
30
,0
0
0~
49
,9
9
9
29
9,
99
0~
10
,0
0
5,
99
6,
00
2,
99
0~
3,
00
0~
9
9
0~
1,
00
0~
99
49
50
~
9
0
9
0
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
GT範囲
93~99年
00~12年
平均(93~99年)
平均(00~12年)
c) 総トン数(GT)別の機関室火災発生件数と年平均発生件数
d) 運航状態別の機関室火災発生件数の割合
船齢別
0.25
0.20
( )
発
0.15
生
率
0.10
%
0.05
0.00
0~4
5~9
93~99年
e) 機関室火災の発生場所
10~14
船齢範囲
15~19
00~12年
f)船齢別の機関室火災発生率
9
20~24
93~12年
原因別
9%
4%
20%
18%
原因(FO)別
FO
電気
LO
WO
T/C
溶接中
14%
40%
16%
M/E
G/E
ボイラ
FOタンク
FO清浄機
8%
5%
8%
5%
11%
5%
19%
17%
45%
47%
38%
4%
4%
23%
16% 11%
13%
56%
6%
5%
71%
28%
14%
9%
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
11%
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
g) 機関室火災の原因別の割合
h) 燃料油(FO)が原因とされる機関室火災の発生機器別の割合
原因(電気)別
原因(LO)別
主配電盤
10%
8%
始動器
LOこし器
M/E
G/E
LOタンク
17%
発電機
25%
20%
制御盤
20%
40%
43%
33%
50%
57%
20%
60%
10% 25%
20%
42%
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
i) 電気が原因とされる機関室火災の発生電気機器別の割合
j) 潤滑油(LO)が原因とされる機関室火災の発生機器別の割合
発見方法
消火方法
乗組員発見
火災警報
4%
33% 30%
7%
38%
8%
2%2%
7%
16%
26%
26%
26%
持運式
固定式
海水
自然鎮火
船外から
6%
6%
62%
70% 67%
46%
63%
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
55%
k) 機関室火災の発見方法別の割合
小円:1993~1999年
中円:2000~2012年
大円:1993~2012年
l) 機関室火災の消火方法別の割合
10
2.3.2 IHS Fairplay の海難データベースによる船舶火災事故調査
海上技術安全研究所によって Information Handling Services Fairplay の海難データベースの解析
が行われた。
5.00E-03
300
4.00E-03
250
3.00E-03
200
2.00E-03
1.00E-03
150
a) 船舶火災事故の推移(機関室内または機関室外)
All
Other Dry Cargo
RORO Pass
Pass Cruise
Reefer
RORO Cargo Carrier
Container Carrier
Bulk Carrier
General Cargo
Oil Tanker
Engine Room
Outside Engine Room
Engine Room
Pass/General Cargo
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
0
Other Tanker
50
LPG Carrier
100
Chemical Tanker
LNG Carrier
0.00E+00
Outside Engine Room
b) 船種毎火災事故発生頻度(1/隻年)
1800
0%
1600
1400
1200
4%
1000
15%
M/E
800
Boiler
600
400
Engine Room
Electric
Aux.
18%
FO/LO
Outside Engine Roomr
c) 船舶火災時の運航モード
2.4
52%
???
?
??
Pushed(Tug only)
Unknown/Not Applicable
Towing
In Dry/Floating Dock
On Station
Dredging
Fire Fighting
On Voyage
Fishing/Trawling
In attendance/Assisting
Moneouvring with Assitance
Moneouvring without Assitance
Bun[kering
Being Towed
Alongside Shore Facility
On Trials
Moored/Anchored
0
Generator
11%
200
b) 機関室火災における火災発生場所
船舶の消火設備
前述の通り,船には様々の形態で火災が発生する危険性が存在しており,しかも,周囲の陸上
における設備と全く異なっているため,これに対応する消火設備には,種々の創意工夫がなされ
ている。各装置の詳細については,第 3 章で記述するが,本章では一覧表により装置の概略を述
べ,相互比較を行う。表 2 に示す装置が主に船舶で使用されるものである。
一般に水消火装置はどのような種類の船でも設けられる。その他の消火装置は,船の種類もし
くは対象区画に応じて,個別に設けられることになる。
たとえばタンカーでは,上甲板,居住区,および機関室(ポンプルームを含む)に対し水消火
装置を設けると共に,カーゴタンク部の上甲板およびタンクに対し泡消火装置を設ける。また一
般貨物船では,上甲板,居住区および機関室に対し水消火装置を設けると同時に,貨物倉に対し
炭酸ガス消火装置を設け、機関室に対しては炭酸ガス消火装置或いは高膨張泡消火装置を設ける。
なお、機関室に対しては、火災危険場所を保護するために固定式消火装置に加えて、固定式の
水系又はこれと同等の局所消火装置の設置が要求される。
11
表 2 船舶における消火装置
装
置
名
水
局所消火装置
固定式炭酸ガス
固定式高膨張泡
固定式加圧水噴霧
(FIXED PRESSURE
WATER-SPRAYING)
固定式高圧水噴霧
(FIXED
WATER-MIST)
自動スプリンクラー
(火災探知及び
火災警報内蔵)
持ち運び式
移動式消火器
固定式甲板泡
固定式
ドライケミカル
作 動
原
理
ポンプにより海水を吸入し、パイプ・
消火栓・ホ-ス・ノズルを通して散水
する
局所消火用の専用ポンプ及びノズルを
有し、自動または手動にて装置を起動
させ、送水ポンプにより対象区画上部
に設置したノズルから清水を散水す
る。
炭酸ガスを液化して容器に貯蔵し固定
配管を施工して、消火対象区画に導け
るようにする。
作動時は、配管を通って気化したガス
がノズルから噴出する。
泡原液タンクとエダクターまたは泡供
給ポンプを有し送水ポンプにより海水
を送って、海水と泡原液を混合する。
混合液はノズルから放出直後に空気と
混合して発泡する
固定配管に必要な圧力で水を満たして
おき、火災時に 5 l/分/㎡で水を散布する
少量の清水と圧縮空気を水噴霧ノズル
で混合して非常に微細な水滴を発生さ
せる
効
冷
窒
窒
冷
果
却
息
適
用
火
災
息
却
窒
冷
息
却
窒
冷
息
却
窒
冷
息
却
用
区
画
特
徴
長
所
短
所
・すべての火災、およびあらゆ ・海水をかけることに
る区画の消火に使用できる。
より、冠水被害が残る
・初期、拡大いずれの火災にも
使用できる。
・何度でも使用できる
・取扱いが簡単
・区画内の人の生命に危害を及
ぼさない
・機器へのダメージが少ない
火災および油火災
完全噴霧すれば電気
火災にも適用可
全区画
機関室火災
主推進及び主発電に使
用される内何機関の火
災危険部分
ボイラ前面
焼却炉の火災危険部分
加熱燃料油清浄器
機関室、ボイラー室
・消火剤による汚損がないので
貨物倉、タンカーやケミ
精密機器や機械の消火に最
カル船のポンプルーム、
適
液化ガス船の貨物機械
・狭隘場所も消火できる
室
息
却
窒
冷
適
電気による火災ある
いは電気機器を含む
火災
油火災その他火災に
も使用可
備
・窒息性なので、放出
前に作員は退避しな
ければならない
・一度使用すると再充
填が必要
・密閉できない場所で
の使用は無効である
・原液は海水と混合す
ると全量取替えが必
要
・散布面を汚損しやす
い
主として油火災
機関区域、タンカーやケ
ミカル船のポンプルー
ム
・油による火災には最も有効
・泡が対象区画に充満し、完全
鎮火が可能。再燃を抑えるの
に有効
機関室火災全般
機関区域
・区画内の人の生命に危害を
及ぼさない
一般火災
油火災
居住区画、機関区域、タ
ンカーやケミカル船の
ポンプルーム
・区画内の人の生命に危害を
及ぼさない
・機器へのダメージが少ない
一般火災
客船、または貨物船の居
住区域及び業務区域
・区画内の人の生命に危害を
及ぼさない
・大区画の消火には効
果が薄い
・初期消火用としては最適
・移動可能なため、使用に便利
・拡大火災には効果が
少ない
・油火災に最も有効
・泡が燃焼面をおおって完全鎮
火が可能
・再燃を抑えるのに有効
・原液は海水と混合す
ると全量取替えが必
要
・表面火災に速効的消火能力が
ある。
・人畜無害
・一度使用すると再充
填が必要
・使用後配管のフラッ
シングが必要
SOLAS で
は規定な
し。(H25.3
現在)
圧力タンク内に清水をためておき、火
災発生と同時に固定配管を通じて区画
の天井に取り付けられたスプリンクラ
ーヘッドから散水する
水、炭酸ガス、泡、粉末などの種類が
あり、いずれも携帯・移動可能な容器
に消火剤が入れられており、化学作用
または蓄圧器により放出される
泡原液タンクとエダクターまたは泡供
給ポンプを有し、送水ポンプにより海
水を送って混合する。
混合液はノズルから放出直後に空気と
混合して発泡する。
窒素ガスにてドライケミカルタンクを
加圧し主配管またはホースを経てホー
スノズルから消火区画へ噴射する
冷
窒
却
息
冷
窒
抑
却
息
制
窒
冷
息
却
冷
窒
抑
却
息
制
(粉末の
み)
水…一般火災、油火災 全区画
炭酸ガス…油火災、電
気火災
泡…油火災、一般火災
粉末…一般火災・油・
電気火災
油火災
タンカーやケミカル船
の貨物タンク及び貨物
甲板
一般火災
油・電気火災
限定された貨物区画(液
化ガス船の上甲板)
12
考
さらに初期消火のために持ち運び式あるいは移動式消火器をそなえると共に,消火活動を助け
るための消防員装具を準備しておかなければならない。
これらの消火設備をいかなる順序で使用するかは乗組員のその時点での判断に任されるが,一
般的には火災の規模とその種類により決めるべきであろう。
すなわち,ごく初期の一般火災であれば,持ち運び式消火器で消火できるであろうし,ある程
度拡大した油火災は固定泡消火装置によらざるを得ないであろう。また電気設備を含む火災に対
しては,その初期には持ち運び式炭酸ガス消火器によればよいが,拡大した場合は,もし装備さ
れていれば,固定式炭酸ガス消火装置を用いて消火すべきである。
これらの消火装置を最も効果的に活用するため,火災探知装置あるいは火災警報装置が設けら
れることがある。これは独立した装置として設けられる場合と,消火装置と連動した装置として
設けられる場合があるが,船舶の省人化あるいは機関室の無人化の傾向が増大するにつれて,装
備が急増してきている。
2.5
船舶の消火設備のメンテナンス
消火設備のメンテナンスについては,MSC.1/Circ.1432 にてガイドラインが発行されている。
しかし,メンテナンスに関しては各主官庁の指示によるため,各主管庁の指示のもと,ガイドラ
インに従い,適切に点検・整備することが要求される。なお、船舶用持ち運び消火器、固定式CO 2
消 火 装 置 に つ い て は 、 MSC.1/Circ.1432 と は 別 途 、 ガ イ ド ラ イ ン ( IMO
Res.A.951,MSC.1/Circ.1318)が発行されている。
3
船舶消火設備の詳細とその設計法
3.1
水消火装置
3.1.1
概要
水消火装置は消火ポンプにより海水を汲み上げ,送水管により送水し,消火栓に連結されたホー
スおよびその先端のノズルを通して放水する最も一般的な消火装置である。また初期・拡大時いず
れの場合にも適用できるので,その利用度は大きい。したがって水消火装置は,船の種類のいかん
にかかわらず採用されているといっても過言ではなく,対象区画も貨物区画,機関室あるいは居住
区と多岐にわたっている。この装置の各要目は,ルールによりその条件が定められており,これに
合致する必要がある。
消火ポンプは少なくとも 2 条の射水を十分な水量で同時に行えるだけの容量を有することを要求
され,台数および合計容量は船の種類および大きさによって規定されている。消火栓の配置,ホー
スおよびノズルの装備数量についても規定があり,また,その口径や長さについても条件が設けら
れている。消火ポンプはその操作時の便宜のため機関室に設けられるのが普通であるが,機関室が
火災になると,消火ポンプは使用不能となることも考えられる。この非常時を考慮して各ルールは
機関室外に独立して非常用消火ポンプを設けることを要求している。
3.1.2
要目の決定
(1) ポンプの台数と容量
13
ポンプ台数は各ルールに規定されているが,主として,1,000GT 以上の船では 2 台以上必要と
されている。ポンプの個々の能力としては,いかなる場合でも少なくとも規定された圧力で 2 条
以上の射水を送り得るものでなければならず,また,合計能力を台数で割った平均値に対し一定
以上の容量を有する必要がある。これと同時に合計容量はビルジポンプ容量との関連において決
定される。
一般にルールで要求される消火ポンプ合計容量 Q(m3/h) は次式で求められる。
Q = α・n B ・Q B ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ①
但し, Q ≦ Q M
ここで α : ルールにより規定される定数
n B : ルールにより要求されるビルジポンプ台数
Q B : ルールにより要求されるビルジポンプ 1 台当たりの容量(m3/h)
Q M : ルールにより要求される消火ポンプの最大容量(m3/h)
(2) ポンプの吐出水頭
ポンプの吐出水頭は次式により算定される。
H F =H 1 +H 2 +H 3 (m) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ⑧
但し
H 1 =ノズルから射水中に各消火栓で維持されるべき圧力に相当する水頭(m)
H 2 =静水頭であり,ポンプから消火栓までの垂直距離(m)
H 3 =管内の損失水頭(m)
(3) 消火主管径
枝管については,先端に設けられる消火栓の数により決められるべきで,各消火栓における水
量および圧力がルール要求値を満たすよう個々の条件に応じて配管抵抗計算等により決定する
必要がある。
3.1.3
配置
(1) 主消火ポンプの配置
消火ポンプは一般にビルジポンプ,バラストポンプ,あるいは雑用ポンプと兼用することが認
められている。これらのポンプは操作を機関室で行うために機関室に設置されるのが普通である。
2 台以上のポンプを消火ポンプとして配置する場合は,いずれでも使用可能なように切換可能な配
管系統にしておく必要がある。ポンプの配置高さは,できる限りベースラインに近い下方とし,
吸込揚程が高くならないように留意すべきである。また吐出側の配管はできるだけ抵抗が少なく
なるように注意しなければならない。
(2) 消火栓の位置
消火栓の位置として常に容易に接近でき,かつ消火ホースが容易に連結できるような場所を選
ぶべきである。
14
また,すべてのルールに明記されているように人が通常近づき得る船内の各部に,少なくとも
2条の射水が可能な数とし,そのうちの 1 条は単 1 のホースで行いうるように配置しなければな
らない。
ただし,消火栓の具体的な配置,その数はホースおよびノズルに関連して決めるべきである。
3.1.4
消火ポンプの遠隔操作
機関室の無人化または 1 名当直を採用する船においては,消火ポンプを船橋および,もしあれば
火災制御室から遠隔操作することが要求される。もちろんポンプは機側でも操作可能でなければな
らない。一般にポンプの自動発停は電気的に行う。
3.1.5
付属品
(1) ホース
以前は綿帆布製ホースが多く採用されていたが,最近は合成繊維ホースやゴム引きホースが使
用されるようになってきた。ルールによってはホースの材質が明示されているものがあるので注
意を要する。
(2) ホースカップリング
ホースの両端に取り付けられるホースカップリングには幾多の種類がある。ホースの一端には
雄型を他端には雌型を取り付けるのが普通である。ホースカップリングには、中島式カップリン
グ(JIS F7335)、町野式カップリング(JIS B9911)、ANSI カップリング、マーサブレッド型カップ
リング(英国規格)
、STORZ 型カップリング(DIN 規格)
、NOR カップリング(ノルウェー規格)
等がある。
(3) ノズル
すべての消火ノズルは各ルールに規定されているように停止装置付きの射水および噴霧兼用を
使用しなければならない。射水は 1 本の射水を遠くまで飛ばすのに用いられ,噴霧は水を噴霧さ
せるのに使用される。普通の水では油火災には使用できないが霧状にすれば油による火災にも使
用できる。
(4) 逃し弁
消火ポンプが送水管・消火栓およびホースの計画圧力をこえる圧力を発生しうるものがあると
きは逃がし弁を設ける必要がある。これらの弁は主消火系統のうちいずれの部分においても過圧
を防ぐように配置し,かつ調整しなければならない。
(5) 国際陸上連結金具
世界各国のいずれの港においても,陸上からの給水をうけることができるよう,消火主管に少
なくとも 1 個の国際陸上連結金具を設けることをすべてのルールは要求しているが,これは本船
側のいかなる消火ポンプも使用不能の場合を考えれば,当然配慮されねばならない措置である。
15
この金具は近寄りやすい場所に格納しておかねばならない。
3.1.6
配管
(1) 導設要領
火災は突発性を有するものである以上,常にこれに対処できる状態を保っていなければならな
いことはいうまでもない。消火ラインを全く別の用途に使用することはこの意味で避けるべきで
ある。
また,区画の火災により消火ラインが損傷をうけて使用不能とならぬような配慮も必要である。
また,消火栓での圧力をできるだけ高く維持するために,配管は可能な限り曲がりを少なく,ス
ムーズに行い,荷物や作業者により損傷をうけぬような注意も必要である。
(2) 止め弁
局所的な火災に当たって,余分な個所に送水しないため,あるいは部分的に主管が損傷をうけ
ても消火作業に支障を来さないため,消火主管に止め弁(Isolating valve) を要求されることがあ
る。
(3) 伸縮継手
上甲板を導設する主管に使用する伸縮継手は主管庁または船主協会により承認された型式のも
のでなければならない。
3.2
非常用消火ポンプ
3.2.1
概要
消火ポンプはその操作時の便宜のため,機関室に設けられるのが普通であるが,機関室が火災に
なると消火ポンプは使用不能となることも考えられる。この非常時を考慮して各ルールは機関室外
に独立して非常用消火ポンプを設けることを要求している。
また,最近は機関室の主消火装置として,高膨張泡消火装置が採用される事例が多く,高膨張泡
消火装置への給水装置としても非常用消火ポンプは使用される。
3.2.2
ポンプの要目
非常用消火ポンプに求められる容量は,各ルールで定められている。一方で,機関室の主消火装
置として高膨張泡消火装置が採用されている場合,
[非常用消火ポンプの容量] ≧ [泡消火装置に必要な容量] + [ 2 条射水に必要な容量]
となる。
なお、IACS UI SC163 で,消火栓圧力 0.27 N/mm2 における,射水の容量が定められている。
3.2.3
ポンプの種類
ポンプの駆動方式として、一般的にディーゼルエンジン駆動,電動,油圧駆動がある。普通は電
動ポンプが多く使用される。
16
電動ポンプは機関室以外の区画に設けられた非常用電源により駆動されるが,構造上小型にでき
るので限られたスペース内に設置しやすい利点がある。
油圧駆動ポンプには,そのパワーユニットとして電動のものとディーゼルエンジン駆動のものが
あり,前者は非常用発電機により動かされる。油圧駆動ポンプは駆動部とポンプ本体をきりはなし
てポンプ本体のみを船底付近に設置することができる。
3.2.4
配置
非常用消火ポンプの配置上留意しなければならないことは,主消火ポンプの設置区画以外の場所
に設け,その区画の火災によって損害を受けないようにすることである。 SOLAS によれば,2 つ
の自動閉鎖式ドアによって構成されたエアロック等を設けない限り,機関室と非常用消火ポンプお
よびその動力源のある区画を直接結ぶ通路を設けてはならない。
また,消火ポンプのある区画は,A 類機関区域または主消火ポンプのある区域の境界に隣接して
はならない。それが不可能である場合は,境界を規則に従って防熱する必要がある。
非常用消火ポンプ,その海水取入口,吸入管及び配水管並びにしゃ断弁は,機関区域の外側に配
置されなければならない。このような配置が不可能である場合においても,海水吸入弁を非常用消
火ポンプの同じ区画にある場所から遠隔操作できるものとし,かつ吸入管をできるだけ短くするな
らば,シーチェストを機関区域内に設置することができる。吸入管または配水管の短管は,それら
が堅固な鋼製ケーシングにより閉囲されているか又は A-60 級で防熱されていることを条件として,
機関区域内に設置することができる。当該管の肉厚は堅固なものでなければならず,11 ミリメート
ルを下回らないとともに,海水取り入れ弁に対するフランジ接続を除き全て溶接されたものでなけ
ればならない。(SOLAS II-2 Reg.10 2.1.4.1)
また,IMO の第 88 回海上安全委員会において,吸入揚程に関する FSS コード 12 章 2.2.1.3 の規
定に対する統一解釈が,
MSC.1/Circ.1388 として承認され,
2012 年 1 月 1 日以降起工船に適用され,
以下の(1)から(4)における状態の全てにおいて,有効吸込揚程が必要吸込揚程を下回らないことが必
要となっている。
(1) 航海中の最小喫水状態(バラスト水交換作業が必要な場合は,その状態を含む)において,向
かい波によって上下動した状態。上下動に伴う喫水線降下量は MSC.1/Circ.1388 参照。
(2) 航海中の最小喫水状態(バラスト水交換作業が必要な場合は,その状態を含む)において,横
波によって横揺れした状態。
横揺れに伴う傾斜角はビルジキールを有する船舶にあっては 11°,
ビルジキールを有しない船舶にあっては 13°とする。
(3) トリム無しの状態でプロペラの 2/3 が没水している静的な状態。
(4) 貨物を積載せず,消耗品及び燃料を 10%積載している状態での入港バラスト状態。
3.3
固定式泡消火装置
3.3.1
概要
固定式泡消火装置は泡原液と水を一定比率で混合し,その混合液を機械的に撹拌して空気を核と
した泡とし,その発生泡を燃焼面に展開被覆し,窒息および冷却効果を利用して消火する油火災を
17
対象とした装置である。対象区画としては機関室,タンカーの荷油ポンプ室,荷油タンクの上甲板
である。泡の性質上から分類すると空気泡(Air foam)または機械泡(Mechanical foam)および化学泡
(Chemical foam)の 2 種があり,空気泡は発生する泡の倍率により低膨張式と高膨張式に分類される。
3.3.2
低膨張式泡消火装置(Low expansion system)
(1) 作動原理
海水と泡原液をプロポーショナー(Proportioner) により一定の比率で混合し,その混合液が放
出口の発泡器(Foam maker) を通過する際に空気を吸引撹拌し,空気を核として所定の圧力で空
気泡を発生させるものである。
(2) 船舶に通常使用される方式
a) プレッシャープロポーニング方式
原液貯蔵タンクの頂部にプロポーショナーを
取付け,ポンプからの圧力水を一部タンク内に
圧入しタンク内圧を一定に保つとともにプロポ
ーショナーのエダクター作用で発生する差圧に
よりタンクから原液を吸引して,一定比率の混
合液をつくる方式である。この混合液がスプリ
ンクラーから吐出される際に空気を吸引撹拌し,空気泡を発生させる。
b) プレッシャーサイドプロポーショニング方式
送水圧力を利用してダイアフラム弁を作
動させ,原液流量を調整する方式で配管内の
水および原液の圧力および流量が変化して
も常に混合比を一定に保つようにされてい
る。すなわち送水圧力(P 1 )をダイアフラム弁
の上部に原液の圧力(P 2 )を下部にとること
により(P 1 )>(P 2 )となれば弁は閉まり,逆の
場合は開き自動的にバランスして原液を混
合する方式である。
(3) 要目の決定
泡消火装置の要目を決定する場合は,該当ルールに規定された要求を満足させなければならな
い。そこでルールに要求される項目と設備する船舶の条件をもとに性能的にも経済的にもすぐれ
た機器を選び出すことが重要である。
① 泡消火対象区画の面積(m2)
A U =L×B
A U : 上甲板の面積(m2)
L : 貨物油タンク部全長(m)
18
B : 船の幅(m)
② 原液と海水の混合液供給量(l/h)
次のうち大きい方とする。
i) Q U =D U ×A U
ii) Q U =6×60×A U '
=0.6×60×A U
Q U : 上甲板に対する混合液供給量(l/h)
D U : ルール要求の混合液供給量(l/h・m2)
A U ' : 最大水平面積を有する貨物タンクの水平面積(m2)
③ 泡原液量(l)
a) 上甲板
V U =Q U ×M×T U /60×1.15
V U : 上甲板に対する泡原液量(l)
M : 原液の混合比(例えば 3%原液の場合は 0.03)
T U : ルール要求の放出時間(min)
1.15: 15% のロス補充分
④ 原液貯蔵タンク容量(l)
タンク容量(l)=V U の値を 100l単位で切り上げた値とする。
⑤ 消火ポンプ
ポンプ容量は、泡消火に必要な海水量と SOLAS で規定されている 2 条射水の量を加えた
もの以上あればよく、ポンプ吐出揚程は、最高部のノズルまでの高さ、管内諸損失水頭及
びノズル圧力の加算したもの以上であれば良い。
⑥ 発泡器のサイズと数量
使用する発泡器のサイズと数量は各種発泡器の性能曲線を参照し、各対象区画に対してル
ール要求を満足させるのに十分なものとして決定しなければならない。
3.3.3
高膨張式泡消火装置(High expansion system)
本装置は低膨張式に比して歴史が浅いが現在実用化されており,SOLAS において機関室,ポンプ
室の消火装置の一つとして使用を認められている。
原液と海水の混合液を消火対象区画まで配管で送り,対象区画内に設けた複数の発泡器で 600 倍
~700 倍に発泡させて放出する方式である。
(1) 装置概略
原液タンクから,原液ポンプにより一定量の原液を海水ラインに供給し海水と混合させる。気
泡は三次元的に対象区画に拡がり,量の効果(空気の排除),蒸気の効果(酸素濃度を下げる),冷却
19
効果(水分の気化による冷却)を利用して消火する装置で機関室,ポンプ室などに対して効果的であ
る。
発泡器は火災対象区画内に分散配置され,火災対象区画内の空気を吸引し泡を発生させる。
装置は発泡器、混合装置、現役タンク、制御盤、原液から成る。
(2) 特徴
a) 長所
① 固体可燃物や油類の火災に適する。特に他の方法では消火が困難のもの,例えばゴムタイ
ヤのような炭素分を含んだ物質をうず高く積み上げたものにも有効である。
② 消火方法は部屋の一隅から泡を吹き込むだけで障害物に無関係に消火できる。
③ 人体に無害である。また緊急の場合は熱または煙から人を保護するのにも役立つ。
④ 流動性に優れているため,狭隘部,入り組んだ場所の消火にも適す。
⑤ 原液を長期にわたって保存しても変質しない。
⑥ 泡に異臭がなく,自然消滅する。
b) 短所
① 高電圧の電気火災には適さない(いくらか導電性を有する)。
② 隔壁のない平面的消火には適さない。
③ 火の拡がっていく先の場所も予冷できるが,一点に集中できない。
FIRE
CONTROL
STATION
PANEL
泡原液タンク
PS
泡原液調整弁
PS
泡原液用ポンプ
エダクター
圧力スイッチ
発泡器
非常用消火ポンプ
(3) 要目の決定
高膨張泡消火装置の要目は、IMO MSC.1/Circ.1271 に基づいて決定できる。
20
① 泡の容量 Q F (m3/min) ・・・ IMO MSC.1/Circ.1271 適用の場合
Q F =Amax × x
Amax
: 対象区画の最大面積 (m2)
x
: IMO MSC.1/Circ.1271 で定める泡の充満速度 (m/min)
② 水の容量 Qw(m3/min)
Qw=Q F ×1/β×(100 - γ)/100
β
: 膨張率
100 - γ : 水の割合(%)
③ 原液の容量 Q L (m3/min)
Q L =Q F ×1/β×γ/100
γ : 原液の割合(%)
3.4
固定式炭酸ガス消火装置
3.4.1
概要
(1) 炭酸ガス消火の原理及び概要
炭酸ガスを消火の目的に使用する場合,その特長は種々あるが,主として窒息作用と冷却作用
の 2 つである。
窒息作用による消火とは,不燃性ガスである炭酸ガスを吹きつけることにより雰囲気中の酸素
濃度を燃焼限界以下にすることである。すなわち通常空気中には大体 21%の酸素を含んでいるが,
これが 15~16%以下になると物体は燃焼を続けることができなくなる。ただしこの 15~16%とい
う値は種々の物体の燃焼に必要な酸素量の平均値である。
冷却作用による消火とは,炭酸ガスは放出後すぐ気化するが,高圧シリンダー内に貯蔵された
炭酸ガスは放出速度が速く,かつ放出時の膨張率が高いので,その気化熱と断熱膨張の仕事によ
り周囲の温度を急激に低下させるものである。
炭酸ガス消火は消火活動によって機器類およびその区画を濡らしたり,汚したりする心配がな
く,消火後類焼しない機器類の再使用は通風換気によって容易に行なえるし,また非腐蝕性であ
り,一般的に化学作用を起こさないので長時間の充満によって腐蝕あるいは化学分解を起させる
心配がない等の利点がある。炭酸ガス消火法の適用にあたり次の諸点を留意の上決定されること
が望ましい。
・ 放出された炭酸ガスが充満し,充分なる消火作用が行なえるように密閉区画であるこ
とが望ましい。
・ 充分なる密閉区画であればすべての火災に適用できるが,特に油火災,電気火災に対
しその効果を発揮する。
・ 窒息性ガスであるから呼吸具なしで放出区画への人間の立ち入りは不可能であり,ま
た放出前に脱出不可能な場所あるいは常に人間がおり脱出遅れの可能性がある居住
区のような場所には適切でない。
(2) 船舶における炭酸ガス消火装置
21
炭酸ガス消火装置は,大きく高圧式と,低圧式に分けられる。低圧式とは,-18℃,2.1MPa
の状態で炭酸ガスを貯蔵する方式であり,高圧式とはそれ以上の圧力(20℃ では約 5.6MPa)で貯
蔵するものであるが,現状では船舶において用いられているのは,ほとんど高圧式である。
3.4.2
消火に必要な炭酸ガス量
炭酸ガス量は,各ルールに要求される必要量計算式に従って正確に算出しなければならない。各
国政府および船級協会ではこれを機関室および貨物区画にわけてその必要量を決めている。そして
両区画を有する船においては両者のうち大きい方を取るのが一般的である。
(a) 貨物区画に必要な炭酸ガス量 (FSS CODE, JG, NK, ABS, LR, DNV, BV)
QC =
VC × 0.30
0.56
Q C ・・・・・必要炭酸ガス量 (kg)
V C ・・・・・最大貨物区画容積 (m3)
※ ルールでは一般に 1kgを 0.56m3と換算している。
(b) 機関室に必要な炭酸ガス量(2,000GT 以上の船、FSS CODE, JG, NK, ABS, LR, DNV, BV)
Q M1 =
VM1 × 0.40
V × 0.35
, Q M2 = M2
0.56
0.56
Q M1 およびQ M2 のいずれか大きい方にする
Q M1 , Q M2 ・・・V M1 , V M2 で計算された必要炭酸ガス量 (kg)
V M1 ・・・・・・・・・最大の場所の総容積にケーシングの水平面積が当該場所の水平面積の 40%以
下となる高さまでの容積を加えた容積 (m3)
V M2 ・・・・・・・・・最大の場所の総容積にケーシングの容積を加えたもの (m3)
※ また各々の容積に機関室に起動用空気溜の圧縮空気を大気に換算した容積を
V M1 およびV M2 に加えなければならない。但し安全弁の吹出しが機関室に開放している場
合。
3.4.3
炭酸ガス消火装置の配置設計
(1) 概要
炭酸ガス消火装置として,通常船舶用として使われる高圧式を採用するならば,適切な場所と
広さを有する炭酸ガスシリンダールームを設けなければならない。炭酸ガスシリンダールームに
は,必要量の全炭酸ガスシリンダー,起動用の炭酸ガスシリンダー,炭酸ガスシリンダーバルブ
の一斉開放装置とそのコントロールシステム,警報装置のスイッチ,各消火対象区画への配管お
よびそのマニホールド,バルブ類を配置する。遠隔起動容器箱は火災発見時短時間で到達でき,
対象区画外でそれを操作しやすい場所,例えば火災制御室,居住区の通路やカーゴコントロール
ルーム等に設置する。
22
(2) 放出ノズルの配置
消火対象区画内を短時間で消火に充分なる条件を満たすように放出ノズルの形式およびサイズ
の選択配置に充分な考慮をはらわなければならない。炭酸ガスは前述の如く,空気より重い気体
(空気に対する比重:1.528)であるから,拡散前の炭酸ガスは底部に遊在する傾向が強い。しか
しノズルを上部のみに偏在させる事は,早期消火,開口の密閉性等の点から考えて好ましいこと
とはいえない。
(3) 配管
複数箇所の消火対象区画に炭酸ガス消火装置を設ける場合,目的対象区画のみに炭酸ガスが送
れるように配管するとともに目的にあうコントロールシステムを設けなければならない。目的区
画以外への炭酸ガスの流出は消火能力の不足をきたすのみならず他区画内の乗組員の人命が危険
にさらされる恐れがある。
(4) 炭酸ガスシリンダールームの配置
高圧式炭酸ガスは常温高圧で液化してシリンダーに貯蔵してあり,頂部はシリンダー弁によっ
て封じられている。このシリンダー内の液化炭酸ガスは周囲温度の上昇により内圧が上昇するが
17.7MPa ~ 19.6MPa(約 60℃)でシリンダー弁に設けられた安全弁が作動するように設計され
ているので高温になる場所はさけなければならない。シリンダールームの温度上限を NK 及び BV
23
では 55℃と規定し防熱などの対策を要求している。
炭酸ガス消火装置に限らず,固定式消火装置の消火剤保管場所は SOLAS II-2 Reg.10 4.3 に規
定されている。
3.5
固定式局所消火装置
3.5.1
概要
局所消火装置とは,IMO の要求により 2000 年改正 SOLAS II-2 Reg.10 5.6 にて規定された,A
類機関区域内で特に火災危険度の高い機器(主機,発電機用補機,ボイラ-,焼却炉,加熱燃料油洗
浄機,イナ-トガス装置用発電機等)の火災を初期消火する目的で設置される消火装置である。
3.5.2
システム構成、構成機器
消火装置としての主要な構成機器は,消火ノズル, 圧力ポンプ及び放出管,手動起動装置及
び停止装置,起動警報装置による。
局所消火装置の消火ノズルは A 類機関区域内にある保護対象を承認された有効な散布範囲内に含
むように配置される。消火剤としての清水は清水タンクより圧力ポンプにより加圧され,放出管を
経由して消火ノズルに到達する。これらの清水タンク,高圧ポンプなど清水の放出に関わる機器は
何れも保護対象のある A 類機関区域の外に配置されなくてはならない。
局所消火装置の保護対象となる機器は下記の通りである。
・ 主推進及び主発電に使用される内燃機関の火災危険部分 (注)
・ ボイラ-前面
・ 焼却炉の火災危険部分
・ 加熱燃料油清浄機
3.6
蒸気消火装置
蒸気消火装置はボイラーから発生する水蒸気を消火対象区画に吹きこんで,これらの区画内の可燃
性ガスおよび空気を稀釈し排出することによる窒息効果と水蒸気の凝縮水による冷却効果を利用して
消火する装置であるが、SOLAS は蒸気消火装置を,新造船に対し設ける事を禁じており現在はほと
んど使用されていない。
3.7
スプリンクラー消火装置
3.7.1
概要
スプリンクラー装置は,スプリンクラーヘッドと称される散水装置を消火対象区画の天井面に配
置し,消火管に接続して常時加圧しておき,火災の際,自動または手動により射水する装置である。
特に,自動スプリンクラー装置は,ⅡC 方式の防火構造を採用する居住区の消火装置として使用さ
れる。
3.7.2
スプリンクラー
スプリンクラー装置は自動スプリンクラー装置と手動スプリンクラー装置に大別され,自動スプ
24
リンクラー装置にはヘッドの機構により閉鎖式と開放式があり,さらに閉鎖式の中には湿式(Wet
system)と乾式(Dry system)がある。また手動スプリンクラー装置のヘッドの機構は開放式であ
る。
3.7.3
スプリンクラーヘッド
スプリンクラーヘッドはスプリンクラー装置中,最も重要な部分である。ヘッドの形式には閉鎖
湿式,閉鎖乾式および開放式があり,開放式の場合は火災探知装置を利用することにより元弁を開
き散水するが,閉鎖式ヘッドは対象区画の室内温度がヘッドの作動温度に達すると開放し散水する
機構になっている。SOLAS には「居住区域及び業務区域において,摂氏 68 度から摂氏 79 度まで
温度で作動」とあり,高温が予想される場所においては、「天井の最高温度に摂氏 30 度を超えない
温度とする」と規定されている。
3.7.4
給水装置
火災を感知してスプリンクラーヘッドより散水するのであるが,その散水初期には圧力タンクよ
り清水が送水され消火にあたる。清水が散水されると圧力タンク内の圧力降下によりスプリンクラ
ーポンプが作動して清水に代えて海水を送水し消火にあたる方式がとられている。
3.7.5
配管および配置
自動スプリンクラー装置において SOLAS等にはそれぞれ対象区画の分割に対する規定があり,
また一系統の最大スプリンクラーヘッド数はSOLASでは 200 個以下と規定されている。手動スプ
リンクラー装置および自動スプリンクラー装置の開放式においては一区画が同時に一斉散水される
こと,火災の拡がりを考慮して最小区画面積を定める必要があり、SOLAS 2008 のFSS(火災安全
設備のための国際)コードにおいて、少なくとも 280m2の面積とする必要がある。
3.8
ハロン消火装置
ハロン消火装置は閉囲された区画に有効な高速消火装置であり,消火対象物を汚損しない,極めて
毒性の少ない装置である為,船舶に於いても,機関室,ポンプ室や自動車運搬の貨物艙等に使用され
てきた。但し、ハロンガスは,オゾン層を破壊するという地球環境上の問題が提起され,使用禁止と
なった。
3.9
ドライケミカル(粉末)消火装置
3.9.1
概要
ドライケミカル(粉末)消火装置とは,微細な粉末状消火剤を用いた消火装置のことでドライパ
ウダー消火装置又は粉末消火装置とも言われる。
粉末消火剤は第1種から第4種に分類され,船舶用としては主に第1種が使用されている。第1
種は炭酸水素ナトリウム(NaHCO 3) がその主成分であり,BC剤とも言われる。
ドライケミカル消火装置を装備すべき船舶の種類,装備方法は SOLAS の IGC コード,IBC コ
ードに規定されている。しかし IBC コードが適用されるケミカル船においてドライケミカル消火装
25
置が使用されるケースはほとんどなく、主としてガスキャリアーに使用される。
消火装置としての構成は,粉末薬剤を貯蔵しておく粉末貯蔵容器,粉末を噴射する為のN 2ガスな
どの加圧用ガス容器,加圧用固定配管,ハンドホースライン,モニターから成っている。
3.9.2
機器の構造と機能
以下のような機器で構成されている。
1 : 粉末タンクユニット
1.1 粉末貯蔵容器
1.3 定圧作動弁
1.4 粉末コック(元弁)
2 : 窒素シリンダー
2.1 容器弁
3 : 窒素マニホールド
3.2 圧力調整器
4 : 選択弁ユニット
4.1 選択弁
5 : 粉末ホースステーション
6 : 粉末モニター
7 : 起動装置
7.1 起動用ボンベ
3.9.3
ドライケミカル消火装置の配置設計
装置を構成する加圧容器、管、付属品及び貯蔵容器の逃し弁に対する要件は IGC コード 11 に記
載されている。また、モニター及びハンドホースラインの配置についても要求がある。
3.10 固定式加圧水噴霧消火装置
3.10.1 概要
固定式加圧水噴霧消火装置は水を微粒子状に噴霧して,その冷却作用,水蒸気による窒息作用,
油に対する乳化作用,希釈作用などの効果によって消火,火勢制止,延焼防止,火災防止などを図
るもので,機関区域やタンカーの貨油ポンプ室及び車両区域,ロールオン・ロールオフ貨物区域,
車両甲板区域(以下「車両区域等」という)の消火装置として有効であり,カーフェリー等の車両
区域等で実績がある。
基本的なシステムはノズル,清水圧力タンク,加圧水噴霧ポンプ,ポンプ始動盤,分配弁,固定
26
配管,弁類及び電路などから構成される。
火災発見後,該当する区画の分配弁を開くことにより,加圧された清水圧力タンク内の水が該当
区画の管内に流れだし,その結果,清水圧力タンク内の圧力が下がることで,加圧水噴霧消防ポン
プが自動的に駆動され,連続して加圧された微粒子状の水がノズルより吐出され,噴霧消火作業が
行われる。
3.10.2 系統図
以下に系統の一例を示す。
3.11 高圧水噴霧消火装置
3.11.1 概要
少量の清水と圧縮空気(又はイナートガス)を水噴霧ノズルで混合して非常に微細な水噴霧を発
生させ消火剤として使用する為,環境に対する影響が無く,無毒性である。
速度を持った水噴霧であることより,機器の背後,狭い場所や入り込んだ場所を含み,全ての場
所に到達出来る良好な流動性を有しているので,消火システムとしての効果がある。また,他のガ
ス消火システムと異なり,消火区画を密閉する必要もない。
27
3.11.2 システム概要
本システムは、軌道システム、貯留システム、監視
システム、配管システムからなり、系統図は右図の
ようになる。
3.12 簡易式,持運び式,移動式消火器具
3.12.1 システム概要
項目
消火器は初期消火の目的で備えるもので,
消火器の容量または重量
消火器の種類
簡易式
4.5l 以上 9l 未満
持運び式
9l 以上 13.5l 以下
簡易式と持運び式は人間の手で持運びでき
移動式
13.5l を超え 45l 以下
る形式のもので簡易式は持ち運び式に較べ容
簡易式
2kg 以上 5kg 未満
持運び式
5kg 以上 9.5kg 以下
に比べて重量が大きく人手による持運びが困
移動式
9.5kg を超え 28kg 以下
難なため台車を設けた形式である。
簡易式
1kg 以上 3.5kg 未満
持運び式
3.5kg 以上 9.5kg 以下
移動式
9.5kg を超え 28kg 以下
船舶用としては泡消火器,粉末消火器,炭酸
ガス消火器および水消火器が一般に使われる。
量が小さいものであり,移動式とは持運び式
化学泡消火器
炭酸ガス消火器
各国ルールにおいて,その容量により範囲
粉末消火器
が決められているが,各国ルールで規定され
る最小値と最大値を示すと右図のようになる。
28
3.12.2 泡消火器
泡消火器は重炭酸ソーダと硫酸アルミニウムの化学反応による泡を放射するもので,転倒式,破
蓋転倒式(破鉛転倒式)および開底式がある。
転倒式
破蓋転倒式
3.12.3 粉末消火器
粉末の主成分によって重炭酸ソーダ主剤,重炭酸カリウム主剤および第 1 リン酸アンモニウム主
剤の 3 種類に大別され,構造では加圧式と蓄圧式の 2 種類がある。
転倒式
破蓋転倒式
3.12.4 炭酸ガス消火器
鉄製のボンベに液化炭酸ガスを封入したものでボンベ容積は液化
炭酸ガス 1kg について 1.5l 以上が必要とされている。ボンベの頂部
にはガスの放射を行うバルブ,ノズルおよびホース等が付属してい
る(図 3.12-5 参照)。
バルブの開閉方法により把握式,ピストル式および回転式の 3 方
式があるが,一般的には把握式が最も多く製造されている。
3.13 消防員装具
3.13.1 装具の役割と種類
消防員装具は火災によって発生した煙,ガス等により火災区画に近寄り難い時に使用するもので
あり,SOLAS (第Ⅱ-2 章 第 10 規則)にて,全ての船舶で,少なくとも 2 組の消防員装具を搭載す
29
ることが義務付けられている。
また,消防員装具は火災安全設備コードの要件に適合しなければならない。
消防員装具は,個人装具及び呼吸具から成っている。
3.13.2 個人装具
個人装具は,防護服,長靴,手袋,ヘルメット,電気安全灯 (手さげ灯) 及び斧から,成り立って
いる。
3.13.3 呼吸具
呼吸具は,シリンダー内に貯蔵されている空気の容積が 1,200l 以上の自蔵圧縮空気作動
式呼吸具又は 30 分以上その機能を果たし得る他の自蔵式呼吸具とする。呼吸具のすべての
空気シリンダーは,互換性を有するものでなければならない。
自蔵式呼吸具のシリンダー内の空気の量については,MSC.339(91)により,200l 以下に低下する
前に,使用者に対して警告を発する可聴警報及び可視もしくはその他の装置が備えられてなければ
ならない。本規定は,MSC.338(91)により,2014 年 7 月 1 日以降の起工船に適用される。2014 年
7 月 1 日より前の建造開始段階にあった船舶については,2019 年 7 月 1 日以降の最初の検査時に適
用される。
また,訓練に使用される呼吸具は,チャージ用の専用コンプレッサー又は使用されたシリンダー
を交換するための適切な数の予備シリンダーを装備しなければならない。本規定は,MSC.338(91)
により,2014 年 7 月 1 日以降の起工船に適用される。2014 年 7 月 1 日より前の建造開始段階にあ
った船舶については,2014 年 7 月 1 日以降の最初の検査時に適用される。
3.14 火災探知装置及び手動警報装置
3.14.1 一般概要
火災探知装置とは火災の発生を初期の段階において感知して自動的に警報を発生する装置であり,
火災の早期発見または火災の兆候をとらえて,その被害を最少にすると同時に人命の安全を確保す
るためのものである。最近においては,主機関の遠隔操作装置の飛躍的な発達により機関室の無人
化が進み無人化船の機関室には火災探知装置の装備が要求される。また最近ではカーフェリー,自
動車運搬船等の車両甲板にも要求される。
一般に火災探知機の種類は検出器の機能によって,イオン式火災探知装置,光学式火災探知装置,
熱式火災探知装置,赤外線及び紫外線式探知装置に分類される。
3.14.2 イオン式火災探知装置
イオン式火災検知装置は,微量の放射性物質を含んでいるため,不要になった場合の処理が困難
であること,また危険物に該当するため,現在では光電式火災探知装置等の代替火災探知装置に切
り替えが進められている。
3.14.3 煙管式火災探知装置
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煙管式火災探知装置とは,警戒対象区画から火災によって生ずる煙を検出し自動的に警報を発す
るとともに,視覚,聴覚により火災を探知する装置である。本装置は吸煙器,火災探知器, 電動排
気ファン三方弁およびこれらを接続する煙管等からなり,警戒対象区画の空気を2台の電動排気フ
ァンを交互に使用することにより,常時探知器に吸引して,吸引空気中の煙の有無により火災を探
知するものである。
この装置は荷役時の倉内に発生する細かい塵によって誤報をすることがあるので,荷役時には装
置を停止する必要があり,検出口に盲栓等を装備することが望ましい。
一般にこの煙管式探知装置の吸煙管は炭酸ガス消火装置と兼用できる特長をもっており,炭酸ガ
スシリンダー室に設けられた三方弁を切換えることにより,煙管を利用して直接炭酸ガスを消火区
画へ放出することができる。
3.14.4 熱式火災探知装置
熱式火災探知装置は,火災時に発生した熱を検出して火災警報を発するもので差動式,定温式,
補償式および補償率式(定温特殊型)に分類される。本装置の検出器には設定温度によって直接的
にサーモスタットの接点を作動させ電気回路を作り,その信号を受信器に送る電気サーモスタット
式と空気の熱膨張の原理を利用し,その膨張圧により接点を作動させ,信号を送る空気式の2つの
方式に大別することができる。一般的には電気サーモスタット式が広く使用されており機能的に優
れた補償率式(定温特殊型)が認められ,各種船の居住区域,自動車運搬船,カーフェリー等の車
両甲板,また無人化船の機関室に特に認められる場合を除き他方式と併用して装備される。この節
では定温式,差動式については原理の説明にとどめ補償率式(定温特殊型)について重点的に詳述
することにした。
3.14.5 手動警報装置
船舶の警報装置は火災警報装置と一般警報装置に分類され居住区域全域,業務区域,制御場所に
わたり船橋または火災制御室に直ちに警報することができるよう,火災警報装置を装備せねばなら
ない。また,退船することを乗組員に知らせるための目的で,警報装置を装備せねばならない。
火災警報装置と一般警報装置は電気的には同一の装置である。火災,浸水などの非常事態が発生
した場合に船内の要所に装備したベル,サイレンなどの電気式警報機を手動式警報発令スイッチに
て作動させ,船内全居住者に通報するものである。本装置は警報発令用スイッチ,音響警報機,ヒ
ューズ箱および電路接続箱より構成されている。
3.15 特殊区画の消火装置
3.15.1 危険物積載船倉
危険物を積載する船舶の場合,貨物及び区画の種別によって,消火ポンプの遠隔操作,能力の強化,
冷却装置,火災探知装置,固定式炭酸ガス又は不活性ガス消火装置の備付け等が追加要件となる。
SOLAS では,次の(1)~(9)について追加要件を規定している。(SOLAS II-2 章 19 規則)
(1) 給水装置
(2) 発火源
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(3) 火災探知装置
(4) 通風装置
(5) ビルジ排出
(6) 人員の保護
(7) 持運び式消火器
(8) 水噴霧装置
(9) ロールオン・ロールオフ区域の分離
3.15.2 燃料油清浄機室
燃料油清浄機室の消火装置の要求は, 各船級によって異なっている。NK の場合、次の要求がある。
甲板から甲板まで到達した鋼製隔壁で閉囲し, かつ, 鋼製自己閉鎖戸付きの独立した区画としな
ければならない。また, 下記機器を設けなければならない。
・ 固定式火災探知警報装置
・ 区画外から作動可能な固定式消火装置
・ 独立の機械通風装置又は機関室の機械通風装置から分離可能な通風装置
・ 固定式消火装置の操作場所に近接した区画外の場所から, 通風装置の吸気口及び排気口が閉
鎖可能な装置
但し,機関室の火災発生のおそれが少ない場所に設置し,かつ次の(a)及び(b)を満足する場合は,
鋼製隔壁で閉囲する必要はない。
(c) 清浄機の設置場所に対して有効な独立の排気式機械通風装置を備えているか,又は機関区域
の通風装置のダクトが当該機器の設置場所の換気に対して有効に機能するように設置され
ていること
(d) 次のいずれかの固定式消火装置を備えていること
i)
自動作動式のもの
ii) 火災により隔離されることのない場所から操作できる手動式の固定式消火装置と固定式
火災探知警報装置との組み合わせ
3.15.3 塗料庫
SOLAS には以下のように規定されている。
塗料庫は次の方法の何れかにより保護する。
・ 最小ガス放出量が保護される場所の内容積の 40%に等しくなるように設計された炭酸ガス消
火装置
・ 1m2当たり少なくとも 0.5kgの粉末を有するよう設計された乾粉末消火装置
・ 1m2当たり少なくとも毎分 5lの水を放出する水噴霧装置又はスプリンクラ装置
・ 主管庁により決定された,同等の保護を与える装置
いずれの場合においても,当該装置は,当該保護された場所の外部から操作されなければならな
い。
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3.15.4 深油調理器具
深油調理器具には次に掲げるものを取り付けなければならない
(1) 各主管庁,船級の認める国際的基準について試験された、自動又は手動の消火装置
(2) 主及び予備のサーモスタットであってそのいずれかが故障した際に操作者に警報を発するも
の
(3) 消火装置の作動に際して電力を自動的にしゃ断する措置
(4) 当該深油調理器具が設置されている調理室内における消火装置の作動を示すための警報
(5) 消火装置の手動操作のための制御装置であって乗組員による迅速な使用のための明確な指示
が表示されているもの
3.15.5 ギャレーダクト
調理室レンジからの排気用のダクトが居住区内を通る場合, ダクト内に固着した油の火災に対す
る消火装置として, SOLAS では, ダクトの下方末端の防火ダンパーおよびダクト上方の防火ダンパ
ー, 調理室から操作される排気用送風機の停止装置, ダクト内の消火のための固定装置を要求して
いる。LR 及び ABS では, SOLAS と同様であるが, NK/JG では, 消火装置はダクト内の火災により
自動的に作動するものでなければならず, 固定式ガス消火装置を設ける場合は, 消火剤の量を消火
区画の容積の 100%以上としなければならない。(NK/外国籍船については SOLAS と同じ)
3.15.6 ベントライザーフレームアレスター
タンカーの貨物タンク内蒸気混合気体の通風装置としてベントライザーが設置されるが, 排気口
にはタンクに火災が侵入するのを防ぐ装置を取り付けることを SOLAS では要求している。消火装
置についてのルール要求はないが, ベントライザーに持ち運び式炭酸ガス消火器を接続できるよう
コネクションを設けることもある。
3.15.7 ヘリコプター甲板
ヘリコプター甲板の消火設備については, ICS Guide to Helicopter/Ship Operations (Fourth
Edition 2008)や SOLAS 第 II-2 章第 18 規則で要求がある。
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船舶消火設備に関するルール
本章は、SOLAS、JG、NK、LR、DNV、DNV "F"、ABS、BV の各ルールについてまとめたもの
である。本報告書では割愛する。
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