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2015年、保険業界を占う
~デジタル展開後の真の勝者
逆ざや解消、アベノミクスがもたらした株高・円安トレンドを受け、2014 年度の
保険各社の業績は一定の結果を得るものと思われる。
しかし、人口減少、保険離れ等、保険業界を取り巻く環境は依然として厳しいうえ
に、技術革新がもたらすイノベーションにより、もはや業界内でのみ競争優位性
を保つのでは足りない状況にさらされており、2015 年は強固で新しい経営土台
を作れるか否かの分岐点に差し掛かる年になると考えている。
保険各社は、現在進めている「デジタル化」の次のステップである「デジタル展
開」後の真の勝者となるために、保有する潤沢な資産・人材をどのように活用する
べきなのか。弊社が考える3つの進化に沿って述べていきたい。
林 岳郎
2000年 アクセンチュア㈱入社
金融サービスグループ
マネジング・ディレクター
保険グループ統括
また、保険料の最適化や個人に合った商
これは、より顧客の視点でのライフアド
品提供を受けるためであれば、保険会社
バイザーとしての機能をもち、一方的・
が自分の利用状況・行動に関する情報に
受動的なスタンスから、より顧客視点で
アクセスしても良いと思っていることが
能動的なスタンスへシフトすることを意
分かっている。
味する。
の会社がマルチデバイス化や情報の電
顧客ニーズの多様化を受けて、保険各社
大企業は顧客が最も必要とするアドバイ
デジタル化
子化を完了しており
(図表1)、
は次のステージへの戦略を模索すること
の次のステップへ進もうとしている。
スを提供できる人材・ノウハウ、および情
になるが、今後は全ての企業が上のス
報を保有しているものと思われる。
1.デジタル化の進化
保 険 各 社 は 積 極 的にデジタ ル 投 資を
進めている。生保各社においてはシミュ
レーション・設計・申込、損保各社において
は新契約・契約管理・事故対応等で、大半
弊社では、
ビジネスデジタル化の発展段
階を3 つのステージに分類(図表 2)
して
いるが、各社ともステージ1の半ばに来て
テージを狙える時代であり、伝統的企業
が新たな価値を創造し、競争優位を築く
チャンスになるであろう。
経営上の最重要事項である顧客保護・満
足度達成への注力のみならず、
ビジネス
モデルをより顧客視点にシフトできる企
いると考えている。
2.ビジネスモデルの進化
また、デジタル化の浸透により、保険に
保険各社はどのように独自戦略をもち、 ものと考える。
業こそが、結果ビジネスでの勝者になる
対する顧客ニーズも変化している。弊社
上のステージへ進むことができるのか。
調査結果でも、71% の顧客がデジタル
キーワードは『カンパニーセントリックか
が、
ビジネスモデルの進化における勝者
らカスタマーセントリックへのシフトチェ
となり、
上のステージに進むことができる
ンジ』
である。
であろう。
チャネルによる商品購入を求めている
こと、80% の顧客がパーソナライズ化
された商品・サービスを求めていること、
11
この判断・行動様式を実践する保険会社
図表 1 保険会社のマルチデバイス化や情報の電子化状況
分類
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
シミュレーション
設計
申込
自動査定
決済
デジタル商品
マーケティング
ソーシャル
新契約
契約管理
事故対応
決済
国内生保
国内生保
国内生保
外資生保
外資生保
外資生保
国内生保
カタカナ生保
国内生保
外資生保
国内生保
国内生保
外資生保
ひらがな生保
国内生保
分類
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
リード管理
国内生保
国内損保
国内損保
国内損保
国内損保
国内損保
国内損保
国内損保
ダイレクト損保
外資系損保
外資系損保
凡例
:開発済み
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:開発中 / 開発予定 :開発当面無し / 不明
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3.商品・サービスの進化
新しい技術の台頭による新たな商品・
サービスの進化:
新しい技術を活用した商品・サービスの
展開は、保険会社に限らず全ての企業に
入、
レセプトの有効活用等、常に変化する
ると考えており、考え方次第でそのすそ
ビジネス環境での勝利に向けて、弊社ク
野は広がるものと思われる。
ライアント経営者の方々からは、新ビジ
ネスの在り方や次に述べる企業間連携
の機会に対する問い合わせが絶えない。
電力会社やガス会社との提携は無いか?
通信業が保有している情報を最大限活
用する提携はないか?クレジットカード会
も勝利をもたらす一つの機会であると考
企業間提携や連携による新たな商品・
社の情報にリーチし、
これまでにないリー
える。
サービスの進化:
ド生成ができないのか?等、保険各社が
既に、アリアンツとBMW の提携、東京海
検討すべき企業間連携の切り口は幅広
Googleドライバーレスカー、ウェアラブル
機器の浸透、既にサービス提供が始まっ
ているテレマティクス等、保険ビジネスに
影響をおよぼす可能性のある新しい技
術の台頭は枚挙にいとまがない。現在の
上日動とNTTドコモの提携等、大企業間
の提携は拡大している。
しかし、直接的に
はビジネスシナジーがないと考えられて
いる企業間連携には、
まだ十分に手が付
保険商品・サービスの根底を覆す技術革
けられているとは言い難い。
新に対して、
勝負を挑む会社こそが、
保険
保険各社が注力すべきポイントは、さま
ビジネスにおける勢力地図を塗り替える
会社になるであろう。
ざまな企業とサービスを結び付けるエコ
システム(データを企業全体、ひいては
い。
位置情報を活用し事故を防ぐサービス、
ウェアラブル・グーグルグラス等を活用し
契約者の病気を防ぐサービス、ライフラ
イン利用率を活用した契約者確認サー
ビス等、
これらは結果、付加保険料を下
げ、サービスも充実するなど顧客満足に
つながるだけではなく、保険会社もメリッ
技術革新がもたらす新たな商品・サービ
各企業のパートナーに容易にそして有益 トを享受できる。
スの今後と併せ、マイナンバー制度の導
に循環させることができるシステム)
にあ
12
図表 2 ビジネスデジタル化の発展段階
デジタル化のステージ
各ステージの代表的シーン
(例)
ステージ1
チャネルの
デジタル化
ステージ1
新たな収益源の獲得
ステージ3
デジタルビジネス
コンバージェンス
チャネルの
デジタル化
プロセスの
デジタル化
ステージ2
ステージ2
商品・サービスの
デジタル化
商品・
サービスの
デジタル化
• モバイル機器/ゲーミフィケーションを
活用した新規顧客の開拓
• 街頭における顧客情報に応じた
デジタルサイネージ広告の提供 など
• センサーテクノロジーを活用した
生産工程・倉庫ピッキング業務の効率化
• 金融機関における申請承認プロセスの
自動化 など
• GPS/機器稼働センサーを活用した
産業機器のサービス化
• ウェアラブルデバイスを付けた衣料品
• 輸送業のリアルデータのマネタイズ など
ステージ3
デジタル
ビジネス
コンバー
ジェンス
• ネット・メディア企業、医療機器メーカー、
保険会社等が連携したヘルスケア
サービスなど
次の保険ビジネスを創出する企業が新た
している一方、弊社が呼ぶ「ビッグバン型
験を行っている。中国の2大インターネット
に表れる可能性は十分にありえる。今、保
破壊」を被る可能性にもさらされている。 企業、
テンセントとアリババは最近、中国
ステージ1
プロセスのデジタル化
コスト効率化
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険各社は保険ビジネスにおける現在の
位置を他に奪われるか、現状を維持・拡大
できるかの分岐点に立っていると考えて
いる。
各進化がもたらす企業の復権
日本ではシリコンバレーのような大規模
ベンチャーによる新たなビジネスの台頭
は難しく、日本版のベンチャーは大企業
の関与を避けて通れないと考えている。
これまでに述べた 3 つの進化を経て、大
企業は復権と次世代企業としての勝者
(図表3)
となる。
イノベーションによって競争のルールが
瞬時に変わることを、弊社は「ビッグバン
型破壊」
と呼んでおり、
今日ではほぼすべ
ての業界がデジタル化のメリットを享受
13
破壊的変化を最も被りやすいのは、情報
を基盤としたサービスを扱い、それらを
デジタルで提供できる業界だ。その典型
が保険業界である。
弊社の推計によると、今後 1年間で最大
平安保険と組んで保険商品をオンライン
で販売すると発表した。グーグルは2011
年、保険商品比較サイトのビートザット
クオート・
ドットコム( BeatThatQuart.
com)を買収し、イギリスとドイツ、フラン
スで保険商品の価格比較サイトを立ち上
4000 億ドルの保険料が、業界内で移転 げた。
する。弊社が世界各国で行ったアンケー
トでは、3 分の 2 以上の顧客が、保険会社
以外から保険商品を購入することを検討
すると答えた。そして23%が、
グーグルや
アマゾンといったオンラインサービスの
プロバイダーからの購入を検討すると答
えた。
もちろん、市場調査と販売力だけで保険
会社になれるわけではない。また、新規
参入企業には規制という高い障壁があ
り、特に自己資本に関する要件は厳しい。
加えて、他社が複製しにくい重要な「ハー
ド」資産もある。保険金の支払いを支え
る大規模な投資ポートフォリオや、複雑
業界外の企業は既にこの傾向に対応し
なバックオフィスのシステム、専門知識な
ており、デジタルを通じて保険を扱う実
どだ。
図表 3
“Big is the Next Big Thing” デジタル化の進展は企業の復権をもたらす
テクノロジープレイヤーによる既存市場への侵食
デジタル化による企業の復権
店舗
広告
テクノロジー
企業
facebook
発電
GMS
Google
自動
運転車
顧客
倉庫
携帯
電話
店舗
顧客
物流
金融
YAHOO!
取引情報
マーケット
プレイス
AWS
顧客
amazon
既存
企業
Kindle
家庭
動画
電力
家電
販売
テクノロジーを活用した場の確立とビジネス成長
メディア
送配電
設備
写真
記事
顧客
テクノロジーとビジネス資産活用による破壊的変化
• AmazonやGoogleは大規模投資を一気呵成に行い吸引力ある
「場」を形成
• 企業は自社の持つ膨大な顧客ベースや設備等ビジネス資産の
新たな異なる価値に気づき始めた
•「場」を梃子に多くのサービスを立上げデジタル化を牽引し、
リアルビジネスのフィールドにも侵食
• テクノロジーとビジネス資産の組合せにより新たな価値を
創造することで、企業が復権を遂げる
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しかしこうした資産も、変化する顧客の
を認識し、的確にデジタル展開を行うこ
需要に合わせて保険会社がデジタル面
とにより、生き残る可能性を手にできる。
での能力を開発しなければ、価値を失う
そしてみずからが破壊者となって、自社
だろう。他業界のサービス提供者と同様
が創造した新しい環境で繁栄することさ
に保険会社も、単なる商品販売から「価
え可能になる。
値ある体験」の提供へと戦略を移行させ
まとめ
る必要がある。
各社の状況により、各テーマの優先順位
既述の通り、
多くの企業は、
「デジタル化」 は変わる点、
またグローバル展開や、
リス
を既に進めている。すなわち、デジタル クマネジメント、働き方の進化、
ダイバシ
技術を用いて自社の効率化を図り、顧客
へのサービスを向上させている。
次 のステップとなるのは「デジタル 展
開」、つまりデジタル技術を用いて、新た
なビジネスモデルや製品・サービスを創
造することだ。それは従来の事業の枠を
超えるものであってもいい。既存の大企
業は、
デジタル技術がチャンスとなること
ティー等その他取組むべきテーマは他に
もあるものと理解しているが、本稿であ
げた3つのテーマは経営テーマとして不
可避であると考えている。今回は紙面の
都合上、各テーマに対する具体的な事例
や進め方について、記載できなかったが、
今後、各社の方々と議論を深めていけれ
ばと考えている。
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