『社会思想史』 2013年度秋学期 1 坂本達哉 講義の内容 1.社会思想史とは何か 2. 近代社会の出現とマキアヴェリ 3. 宗教改革と科学革命 4. 古典的「社会契約」思想の展開-ホッブズとロック 5. 啓蒙思想の展開-フランスとスコットランド 6. ルソーの文明社会批判と人民主権論 7. スミスにおける経済学の成立と文明社会の擁護 8. 産業革命の社会思想-功利主義と古典派経済学 9. 資本主義批判の社会思想-ヘーゲルとマルクス 10. 大衆社会の成立-トクヴィル・ミル・限界革命 11. 大衆社会の批判と西欧文明の危機 12. 資本主義救済の社会思想-ケインズとハイエク 13. 現代の社会思想-現代リベラリズムの諸形態 2 講義スライド 講義で使用するスライド資料は<keio.jp>の履修 者教材欄にアップするので、プリントアウトして持 参すること。 過去講義分のスライドもたえず修正されるので、定 期的に全体を更新保存しておくこと。 3 指定教科書 坂本達哉 『社会思想の歴史-自由と公共の視点から-』 (名古屋大学出版会、年内刊行予定) 4 成績評価その他 学期末試験によって判定する。 三田祭前後に理解度確認のための小テストを行う。 毎回出席をとる。成績評価の参考にする。出席者が少 ない日はダブル・ポイントになる場合もある。 章が進むごとに、質疑応答の時間を設ける。 5 1 社会思想の歴史とは何か (1) 経済学と社会思想 (2) 社会思想史とその他の思想史 (3) 社会思想史の根本的な問い (4) 社会思想の巨人たち (1) 経済学と社会思想 社会思想 経済思想 経済理論 7 経済 理論 経済学史 経済 経済思想史 政策 社会思想史 経済史 8 (2) 社会思想史とその他の思想史 社会思想史 政治思想史 哲学・倫理 思想史 9 (3) 社会思想史の根本的な問い 1.思想家が「人間の本性(Human Nature)」をどのよ うに考えているか? 2.思想家がその時代の社会の仕組みをどのように見 ているか? 3.思想家が「人間の本性」と「社会の仕組み」との 関係をどのように説明するか? 4.その思想家が人類の未来についてどのように考え るか? 10 「リスボン大地震」と文明社会の危機 11 リスボン地震は1755年11月1日に発生。津波による死者1万人を含む、 5万から6万人が死亡した。推定されるマグニチュードは8.5。 ホッブズの問題提起 “Grief, for the calamity of another, is pity; and arises from the imagination that the like calamity may befall himself; and therefore is called also compassion, and in the phrase of this present time a fellow-feeling: ” 12 スミスの回答 “How selfish soever man may be supposed, there are evidently some principles in his nature, which interest him in the fortune of others, and render their happiness necessary to him, though he derives nothing from it except the pleasure of seeing it. …That we often derive sorrow from the sorrow of others, is a matter of fact too obvious to require any instances to prove it;” 13 18世紀思想の大論争 「人間は利己的か利他的か?」 1.被災者の苦痛にできる限り共感する(非利己的) 2.共感された苦痛を軽減したいと欲する(利己的?) 3.被災者支援により被災者の苦痛を軽減する(理性的) 4.被災者の苦痛軽減(快楽増大)により、共感された苦 痛が軽減し、快楽が増大する(利己的?) ⇒東日本大震災復興問題をめぐる政治問題 14 社会思想の「文脈CONTEXT」 思想家①の 「問題」 思想の文脈 ① 時代の文脈① 15 (3)社会思想の巨人たち(前史) 16 古代 中世 近代 (3)社会思想の巨人たち(近代・現代) 18世紀 19世紀 20世紀 慶應義塾の伝統 高橋誠一郎(1884-1982) 小泉信三(1888-1966) 18 参考文献(通史・教科書) 坂本達哉『社会思想の歴史-自由と公共の視点からー』 (仮題 名古屋大学出版会、近刊) 水田洋『新稿・社会思想史』ミネルヴァ書房、2006 山脇直司『社会思想史を学ぶ』ちくま新書、2009 山脇直司『ヨーロッパ社会思想史』東京大学出版会、1992 川出良枝・山岡龍一『西洋政治思想史――視座と論点』岩波書店、2012 猪木武徳『経済思想』岩波書店、1987 経済学史学会編『古典から読み解く経済思想史』ミネルヴァ書房 Q.スキナー『思想史とは何か-意味とコンテクスト』岩波書店 2012 1990 19 今村仁司他編『岩波 哲学思想事典』岩波書店、2008 2.近代社会の出現とマキアヴェリ 20 (1) 西欧近代の思想的源泉 (2) 市場経済の復活 (3) 近代国家の出現 (4) マキアヴェリにおける「近代人」の発見 (1) 西欧近代の思想的源泉 近代思想・近代科学 キリスト教 古典古代 21 (2) 市場経済の復活 市場経済発達の条件 ・農業生産力の増大 ・貨幣流通と貨幣地代化 ・剰余生産物の市場化 ・農奴解放 ・都市の発達 AD500 BC500 AD1500 22 (3) 近代国家の出現 近代国家成立の条件 ・「主権」の確立 ・「国民」国家の確立 ・「法の支配」の確立 ・領主・貴族権力を支配 ・教会を支配(宗教改革) ・常備軍の確立 ・官僚制の確立 ・財政の確立 ・植民地の獲得(重商主義) 「絶対主義」国家として成立 23 (4)マキアヴェリにおける「近代人」の発見 封建社会の解体と市場経済(商業)の復活 十字軍遠征・東方貿易によるアラビアからのギリ シア・ローマ文献の逆輸入 パリ大学神学部における「スコラ哲学」の隆盛 →トマス・アクィナス(1225-74)の『神学大全』 →アリストテレス哲学とキリスト教の総合 ボローニア大学法学部における官僚養成 →ペトラルカ(1304-74)によるキケロ復興 →「弁論術」を軸とする共和国エリートの養成 「古典的共和主義」(スキナー)あるいは「市民 的人文主義(シヴィック・ヒューマニズム)」 (ポーコック)の伝統の出発点。18世紀まで大き な影響。 Nicolo Machiavelli, 1469-1527 24 マキアヴェリの生涯 1469年:フィレンツェに法律家の子として生まれる 1498年:共和国政府の第二書記局長になる(~1512年まで) 1500年:フィレンツェ軍顧問の副官として、フランス兵を借りてピサ戦役に参加。 フランス王が一方的に同盟破棄。使節副官としてフランスに派遣 1502年:教皇軍のチェーザレ・ボルジアがウルビーノを征服。チェーザレと交渉、 和議を結ぶ 1503年:教皇アレクサンデル6世死去、チェーザレ失脚 1504年:市民兵の創設を主張。1506年:軍部秘書となる。 1511年:教皇ユリウス2世が神聖同盟でフランスに対抗。フランスに赴く 1512年:市民兵はスペイン軍に敗退。メディチ家のフィレンツェ復帰とともに失職。 『リヴィウス論』に着手(未完)。 1513年:反メディチ陰謀の容疑で拘束。拷問を受けるがすぐに釈放。『君主論』脱稿。 1520年:『フィレンツェ史』の執筆を始める(~1525年)。 1527年:ローマ略奪の報がフィレンツェに伝わりメディチ家再追放。死去。 25 『君主論』(1513年頃)の思想 ポリス的人間観・キリスト教的道徳観の否定 → 近代的人間の発見(伝統的な「君主の鑑」論との決別) → 政治的リアリズム=科学的政治学の出発点 君主における「徳Virtu」(=力量)と「運命Fortuna」 社会秩序の合理性と盲目性 →近代(市場)社会の成長とその未成熟性 →卓越した政治家による民衆の指導 社会秩序の源泉としての「法」と「力」 → 「法の支配」をささえる近代的個人の原型としての君主 26 「すべての国の土台は、よい法律とよい武力とである。よい武力をもた ぬところによい法律はなく、よい武力があって初めてよい法律がありう る。…ローマとスパルタは、何百年のあいだ、軍備が整っていたおかげ で自由であった」(『君主論』2節) 「愛されるより恐れられる方がはるかに安全である。そもそも人間は恩 知らずで、むら気で、偽善者で、厚かましい。…人間は恐れている者よ り愛する者を容赦なく傷つけるものである。たんに恩義の絆で繋がれて いる愛情などは、自分の利害が絡めば、すぐにでも断ち切ってしまうか らである」(17節) 「用意周到であるより勇猛果敢な方がよい。なぜなら、運命の神は女神 であるから、彼女を征服しようとすれば、打ちのめしたり、突き飛ばし たりする必要がある。彼女は冷静な生き方をする者より、こんな者ども に従順になる」(25節) 27 『政略論』における「近代国家」の発見 理想の国家形態としての共和制 → 君主制+貴族制+民主制=混合政体論 共和制ローマ崩壊の原因 1.奢侈の流入と富の不平等の発生=「清貧」のすすめ 2.傭兵制度による武勇精神の衰退=民兵制の提案 共和制の本質としての=「法の支配」の原理 →法の厳格な執行+法の空隙の補完 →「民衆」の肯定的再評価 共和制における政治的指導力(『君主論』との一体性) →法を超える政治的判断力の不可欠性 28 「民主制を君主制や貴族制のもつ効果にとけ込ませなかったために、 アテナイはスパルタより短命に終わった」(『政略論』1巻2節) 「国家が領土や富において繁栄しているのは、その国家が自由な政体 の下にある場合に限られる。…個人の利益ではなく公共の福祉を追 求することが国家を発展させる。こうした国家は共和国以外にはな い」(2巻2章) 「このような諸制度を生きた者にするのは、どうしても一人の人物の 力量(ヴィルトゥ)を要する。法律を犯そうとする者に対し勇気を もって対決し、法を執行する人物がいなければならない」(3巻1 章) 29 参考文献 『マキァヴェッリ全集』(全6巻+補巻)(筑摩書房1998年~2002年) マキャヴェッリ『君主論』(岩波文庫、中公文庫、講談社学術文庫) マキャヴェッリ『政略(リヴィウス)論』(世界の名著) M.ウェーバー『職業としての政治』(岩波文庫) 佐々木毅『近代政治思想の誕生』(岩波新書) Q.スキナー『マキャヴェッリ』(未来社) Q.スキナー『近代政治思想の基礎 : ルネッサンス、宗教改革の時代 』 (春風社) J.G.A.ポーコック『マキァヴェリアン・モーメント-フィレンツェの政治 思想と大西洋圏の共和主義の伝統』(名古屋大学出版会) P.バーク『イタリア・ルネッサンスの文化と社会』(岩波書店) 30 3.宗教改革と科学革命 31 (1) 宗教改革(Reformation)とは何か (2) ルネッサンスと宗教改革:共通性と異質性 (3) ルターの「信仰義認」論 (4) カルヴァンの「予定説」と『プロ倫』問題 (5) プロテスタンティズムと「科学革命」 (1) 宗教改革(REFORMATION)とは何か 14世紀 ウィクリフの改革(イングランド) 1419-1436年 1517年 フス戦争(ボヘミア) ルター「95箇条の論題」 1520年 ルター『キリスト者の自由』 1524-1525年 ドイツ農民戦争 1534年 イグナチオ・デ・ロヨラらによりイエズス設立 (反宗教改革) 1536年 カルヴァン『キリスト教綱要』刊行、ジュネーヴで改革に協力 1536年 ヘンリー8世の再婚とイングランド国教会の成立。トマス・モアは翌 年処刑 1541年 カルヴァンがジュネーヴに戻り神権政治を行う 1555年 アウグスブルクの和議 (ルター派領主の承認) 1562-1598年 ユグノー戦争(フランス) 1568年 ネーデルラント諸州の反乱 1572年 サン・バルテルミの虐殺(フランス) 1598年 ナントの勅令(フランス) によるユグノー(カルヴァン派)の承認 1618-1648年 三十年戦争(ドイツ)近代国家体制の確立 32 (2)ルネッサンスと宗教改革:共通性と異質性 共通性 =古代思想の復活と原点回帰 → 封建社会批判の武器としての古代思想 → 古代ユダヤ的伝統(『旧約聖書』)への回帰として の宗教改革 異質性 =理想とする人間モデルの相違 → ルネッサンスの「人間肯定(ヒューマニズム)」とユダヤ・キ リスト教の「人間否定」 → ルネッサンスの「万能人」VS 宗教改革の「職業人」モデル → 宗教改革の社会的基盤は中小の無名の生産者層 (ルネッサンスの基盤=大商人・貴族との相違) 33 ユダヤ教における唯一絶対神(ヤハヴェ)による世界と人 間の創造 → 神の絶対性と人間の卑小性 → ユダヤ民族の苦難の歴史と救済の物語 『旧約聖書』における人間の原罪 → 善悪観念の獲得による楽園追放 → 「自由」の代償としての「原罪」 → 神の処罰としての「労働」と「出産」 『新約聖書』におけるイエスの処刑・贖罪・復活 → → → → 全人類の原罪をイエスが「贖(あがな)う」 逆説的な人間本性(=利己心・エゴイズム)の肯定 ユダヤ選民思想の克服 神の前の万人平等の思想(→基本的人権の思想) 34 「初めに、神は天地を創造された」(『旧約聖書』1.1) 「人が、ひとりでいるのは良くない。わたしは彼のために、彼にふ さわしい助け手を造ろう。」( 2。19 )「こうして神である主は、 人から取ったあばら骨を、ひとりの女に造り上げ、その女を人の ところに連れて来られた。」(2.23) 「生めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地 の上を這う生き物をすべて支配せよ」 (1.28) 「口にはいるものは人を汚すことはない。かえって、口から出るも のが人を汚す物である」「悪い思い、すなわち、殺人、姦淫、不品 行、盗み、偽証、誂りは、心の中から出てくるものであって、これ らのものが人を汚すのである」 (『マタイによる福音書』15.11-20) 35 (3)ルターの信仰義認論 人間の精神的・内面的自由と物質的・外面的隷従 36 神の前での万人平等 →「信仰によってのみ義とされる」(聖書主義) → 新約・旧約労政書のドイツ語版を出版 → カトリック的身分制の否定(万人司祭主義) 「隣人愛」の実践 → 世俗の「職業・天職 Beruf; Calling」の肯定 → 「世俗内的禁欲」の道を提示 現世秩序肯定と政治的保守主義 → 身分秩序の維持・「転職」の否定 → トマス・ミュンツァー率いるドイツ農民戦争 (1524-25)を批判 Martin Luther, 14831546 (4)カルヴァンの「予定説」と『プロ倫』問題 「二重予定説」 → 「救われる者は永遠の昔から神の意志によって決めら れている」 37 → 神の絶対性と人間の無力性→ 個人の内面的孤独化 救いの「確証」としての「利潤」 → 営利活動の道徳的承認(ウェーバー説) → 社会の合理的・組織的変革 → 「隣人愛」の事物的・非人間的性格 Jean Calvin,1509-1564 宗教的動機の後退=資本主義精神の自立 → フランクリンの「時は金なり」(18世紀)から 「精神のない専門人、心情なき享楽家」へ 不安と孤独からの逃避 → カルヴィニズムとナチズムの同質性(フロム) Max Weber,1864-1920 「世俗的職業の内部における義務の遂行を、およそ道徳的実践のもち うる最高の内容として重要視し…修道院にみるような生活は、神に 義とされるためにはまったく無価値というだけでなく、現世の義務 から逃れようとする利己的な愛の欠如の産物だ、とルターは考え た」(『プロ・倫』 109-110) 「我々が知りうるのは、人間の一部が救われ、残余のものは永遠に滅 亡の状態に止まるということだけだ」「ここでは[神は]永遠の昔か ら極めがたい決断によって各人の運命を決定し、人間の理解を絶す る超越的存在となってしまっている。」(152-54) 「将来この鉄の檻の中に住むものは誰なのか、そして、この巨大な発 展が終わるとき、まったく新しい預言者たちが現れるのか、あるい はかつての思想や理想の力強い復活が起こるのか、一種の異常な尊 大さで粉飾された機械的化石と化すのか、まだ誰にも分からない」 (365-66) 38 (5)プロテスタンティズムと「科学革命」 キリスト教と「科学革命The Scientific Revolution」の本質 的連関 理性と信仰の対立と調停(コペルニクス・ガリレオ) 神の創造(意志)と自然法則(理性) → 「第二の聖書」としての自然 → 自然の合法則性(奇跡の承認との共存) Rene Descartes,1596- 1650 デカルトの合理主義(演繹的方法一般→個別) → 感覚の誤りやすさ=「我思う、ゆえに、我あり」 (方法的懐疑) → 機械論的自然観・心身二元論 → ベイコンの経験主義(帰納的方法 個別→一般) → 「知は力なり」(火薬・羅針盤・印刷術) → 「蟻」「蜘蛛」の方法から「蜜蜂」の方法へ → イドラ(1.種族 2.洞窟 3.市場 4.劇場) Francis Bacon,1561-1626 39 新・旧教徒間の内乱(三十年戦争1618-48) → 諸国民・諸宗派の実定法に優越する「自然法 natural law」の探求 → 国際商業の中心アムステルダム(レイデン大学) → 「国際法の父」と呼ばれる グロチウスの問題 → 国際商業戦の発展と宗教戦争の混乱 → 宗教・宗派を超えた理性的自然法の認識 → 理性(論理・数学)に反しない神 Hugo Grotius,1583-1645 「人間本性 Human Nature」の探求 → 1.自己保存権 2.社会的本性 → 両者の関係は? 未解決問題として残す → ホッブズが継承・一定の解決 40 「良識(bon sens)はこの世の中でもっとも公平に配分されている」「私 たちの意見の多様性はある者が他の者よりより多く理性を備えているか らではなく、私たちが思想を色々と違った道で導くところから来るので ある」(デカルト『方法叙説』第1部) 「私が一切をそのように虚偽であると考えようと欲する限り、そのように 考えている「私」は必然的に何物かでなければならないことに気づいた。 そうして<私は考える、それ故に私は有る>というこの真理がきわめ て堅固、確実であることに気づいた」(同上、第4部) 「学を扱ってきた人々は経験派か合理派かのいずれかであった。経験派は アリの流儀でひたすら集めては使用する。合理派はクモの流儀で自分の 中から出して網をつくる。しかるにミツバチのやり方は中間で、庭や 野の花から材料を拾い集めるが、それを自分の力で変形し消化する。 哲学の真の仕事もこれと異ならない」(ベイコン『新機関(ノヴム・ オルガヌム)』) 「あたかも神ですら二掛ける二を四でなくすることができないように、神 は本当に悪であるものを悪でなくすることはできない」(グロティウス 『戦争と平和の法』) 参考文献 ルター『キリスト者の自由』(1520)(岩波文庫) カルヴァン『キリスト教綱要』(1536)(邦訳あり) デカルト『方法叙説』(1637)(岩波文庫) ベイコン『ノーヴム・オルガヌム(新機関)』(1620)(岩波文庫) トレルチ『ルネッサンスと宗教改革』(1913)(岩波文庫) ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』1904年(岩波文庫) エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』1941年(創元社) バターフィールド『近代科学の誕生』(1949年)(講談社学術文庫) ク-ン『科学革命の構造』1962年(みすず書房) 42 4.古典的社会契約思想の展開 -ホッブズとロック 43 (1) ホッブズの機械論的人間観と社会観 (2) 絶対主権による政治社会の設立 (3) ロックの理性的人間観と自然法思想 (4) 政治社会としての<市民社会> ホッブズとロックの時代(黒字ホッブズ、赤字ロック) 1588年 国教会牧師の次男として生まれる。英海軍がスペインの無敵艦隊撃破 1608年 オックスフォード大学卒業。2代目デヴォンシャー伯の家庭教師となる 1620年 フランシス。ベイコンの助手となる 1631年 3代目デヴォンシャー伯の家庭教師となる 1632年 イングランド南部に弁護士の長男として生まれる。 1636年 ガリレオを訪問 ユークリッド幾何学に開眼 1641年 イングランド内の政情不安、パリへ亡命 1649年 国王チャールズ1世処刑。共和制樹立。 1645年 Thomas Hobbes 1588-1679 イングランド皇太子(のちのチャールズ2世)パリに亡命。ホッブズが彼の数学 教師となる。デカルト・サークルと交友 1652年 オックスフォード大学クライスト・チャーチに進学。神学・ 医学に関心。シデ ナム・ボイルらと交流。 1651年 イギリスに帰国。 『リヴァイアサン』を出版 1660年 王政復古 ジェームズ2世即位 1666年 オックスフォードを離れ、アシュリー卿(後の初代シャフツベリー伯)の知遇を 得る。 1683年 アシュリーとともにオランダに亡命、名誉革命(88年)とともに帰国。それま で執筆していた著作を次々に公刊。 1679年 ホッブズ死去 1688年 「名誉革命」による立憲君主制の樹立 1696年 通商植民局委員に就任 1704年 ロック死去 John Locke 1632-1704 44 1642ー48年 大内乱(ピューリタン革命) 45 46 (1)ホッブズの機械論的人間観と社会観 自然科学的・機械論的(デカルト的)人間観 → 世界の基本原理=運動 → 物理的存在としての人間 知性と欲望 外界の刺激→感覚→観念(言葉)→欲望→行為 47 → 「言葉」の正確な定義と結合(因果推論)としての「科学」 →演繹的学問としての人間・社会の学 古典的共和主義イデオロギーの批判 はない。 → 古代の自由は国家の自由。個人の自由で 諸個人の生まれながらの平等 →「能力の平等」から「希望の平等」へ → → 既存の権威・権力(ex.王権神授説)の否定 1.競争心、2.虚栄心、3.不信感 → 個人の反社会性 「自然状態state of nature」の必然性 → 「万人の万人に対する闘争」(=戦争状態) → 所有権の不在、経済活動の不可能(「孤独で貧しく惨めで残虐で短い」) → イメージとしての未開社会・アメリカ新大陸 (2)絶対主権による政治社会の設立 「理性の命令」としての自然法と「死の恐怖」による「自然状態」からの脱出 第1の(根本的)自然法 1.平和を追求せよ = 自己保存の追求 2.自己保存を優先せよ 第2の自然法 =自然権の相互放棄(=主権者への譲渡)による戦争状態の克服 ただし、自己保存権だけは譲渡不可能 → 第3の自然法=社会契約の遵守(強制)=「正義Justice」のための絶対主権=国家の 設立=平和と秩序の回復、所有権の確立 「絶対主権」=「コモンウェルス(国家)」の確立による 1.諸個人の意志=主権者の意志が代表(representation) 2.絶対主権と君主制・貴族制・民主制(しかし絶対王制と適合的) 3.個人の権利と為政者の権利との対立 =1.言論・出版の国家統制、2.貿易・産業の国家統制 自己保存権と絶対主権とが矛盾立する場合 1.徴兵の場合 2.死刑の場合 48 「言語の最初の効用は名称の正しい定義にある。それこそ学問の獲得である」「言葉の誤 用からすべての虚偽と無意味な教説が生じる」「言葉は賢者の計算機である」(4章) 「他人の災難への悲しみは哀れみ(pity)である。これは同じ災難が自分に起こるかもしれな いという想像から生まれる」「それゆえ、大きな悪事から起こった災難には最良の人間 は最小の哀れみしか示さない」(6章) 「この能力の平等から目的達成における希望の平等が生まれる。二人の者が同一物を欲し、 それが同時に享受できない場合、彼らは敵となり、その途上に相手を滅ぼすか屈服させ ようと務める」(13章) 「戦争状態においては勤労の占める場所はない。勤労の果実が不確実だからである」「何 より悪いことは、そこには絶えざる恐怖と暴力による死の恐怖がある。そこでは人間の 生活は孤独で貧しく、きたならしく残忍で、そして、短い(solitary, poor, nasty, brutish, and short)」(13章) 「自然法が何らかの力に対する恐怖なしに自発的に守られるというのは我々の生まれなが らの感情に反している。情念はむしろ我々を不公平、虚栄心、復讐などに導く」「剣を 伴わない契約はたんなる言葉にすぎず、人間の命を保証する力をまったくもたない」 (17章) 「主権者に私を殺すことを許してはいても、命じられたたときに自殺するように義務づけ られているのではない。「殺したければ私や私の仲間を殺すがよい」というのと「私は 49 自分から死のう。仲間を殺そう」というのとはまたく別のことである」(21章) 参考:古代ギリシアの人間観 「最も優れた男たちは最も優れた女たちと出来る限りしばしば交わ らなければならないし、最も劣った男たちと最も劣った女たちはそ の逆でなければならない。また、一方から生まれた子供たちは育て、 他方の子供たちは育ててはならない。」 (プラトン『国家』第5巻8) 「人間でありながら、その自然によって自分自身に属するのではな く、他人に属する者、これが自然によって奴隷である。」 「男と女の関係については、前者は自然によって優れた者で、後者 は劣った者である。また前者は支配する者で、後者は支配される者 である。」 (アリストテレス『政治学』第1巻5章) 50 (3) ロックの理性的人間観と自然法思想 「自然法」の支配下にある「自然状態」 → 自然権の社会化 1.自己保存権=自分と他人の自己保存の尊重 2.自然法執行権=報復・抑止の権利+第3者に対する処罰権 「自己保存権」の経験化=「労働による所有」の論理 → 身体=固有の財産(property)・労働=労働生産物=私有財産 → 他人の生命・身体・財産の尊重 → 労働による所有・自然法制限(=腐敗禁止)による富の平等 → 財産(property)の交換・分業による豊かで平和な自然状態 → 資本主義的所有(召使いの労働生産物=主人の財産)の黙認 貨幣導入による自然法制限の解除と利己的欲望の開花と財産の不平等 → 勤勉と運の差による貧富の格差の出現 → 富者の貪欲、貧者の生活苦による他人財産の侵害が頻発 → 戦争状態の出現= 立法・司法・行政の各権力の欠如 51 (4)政治社会としての<市民社会> 戦争状態の不都合の克服=「社会結合契約」から「支配服従契約」へ 1.「自由な同意free consent」による「政治社会Civil Society」の設立 2.自然権の「信託trust」による「市民的政府Civil Government」の確立 → 立法、行政(司法)の分離と特定の統治形態の確立 → 立法権(議会)の行政権(国王)に対する優越 → 立憲君主制(名誉革命体制)の理論的基礎づけ 市民社会の歴史的発展とその形成主体としての「自由な個人」の発見 1.共同体(家族→氏族→部族)から政治社会への歴史的発展 2.父権論(王権神授説)批判と市民的政府への服従義務 3.父親の権力と政府の権力は本質的に異なる 共和主義的・急進主義的要素 → 抵抗権(合法的)・革命権(超法規的・暴力的)の承認・「天に訴える Appeal to Heaven」の論理 → アメリカ革命・フランス革命への導火線 52 「社会契約SOCIAL CONTRACT」の論理 社会契約 自然状態 →戦争状態 統治契約 政治社会 政治社会 ① ② 過渡期 平和と秩序 53 『統治二論(市民政府論)』(第2部)から 「自然状態にはこれを支配する一つの自然法があり、万人がそれに従わねばならない」「自然法 は全人類に、何人も他人の生命・健康、自由、財産を侵害してはならないことを 命じている」(6節) 「彼の身体の労働、手の働きはまさしく彼のものである。彼が自然から取り出すもの は何でも、彼が自分の労働を加えたのであり、彼自身のものである何かを加えたのであって、 したがってそれは彼のものとなる」(27節) 「父の命令権は子供の未成年のあいだに限り、その年頃の子供の訓練と支配にふ さわしい程度に止まる。子供が一生を通じてどういう事情でも当然払うべき親を扶養し保 護する義務、尊敬と敬意は、その父親に対して決して統治権、子に対して法を造り刑罰を科す る権力をあたえるものではない」(74節) 「何人かの人々が各自の自然法執行権を捨て、これを公共社会に委ねるように一つの社 会を結成するならば、そこにおいてのみ、政治的すなわち市民的社会が存在する」(89) 「立法権はある特定の目的のために行動する信託的権力にすぎない。立法権がその信託に反して 行動したと人民がみなした場合、立法権を排除または変更できる最高権力が依然と してなお人民の手の中に残されている」(149節) 54 参考文献 タック『トマス・ホッブズ 』 (1995 年)未來社 ロック『統治二論』 (全訳)(2007 年)岩波書店 ダン『ジョン・ロック : 信仰・哲学・政 治 』(1987年)岩波書店 ロック『市民政府論』(第2論文のみ) 下川潔『ジョン・ロックの自由主義政治 (1968年)岩波文庫 哲学』 (2000年)名古屋大学出版会 ロック『利子・貨幣論』 (1978年)東 京大学出版会 ロック『人間知性論』 全4冊(19721977年)岩波文庫 ロック『教育に関する考察』 (1967 年)岩波文庫 浜林正夫『ロック』 (1996年)研究社出 版 バウチャー, ケリー編『社会契約論の系 譜- ホッブズからロールズまで 』 (1997年)ナカニシヤ出版 55 ホッブズ『リヴァイアサン』全4冊 ( 1954-1992年)岩波文庫 5.啓蒙思想と文明社会思想の展開 56 (1) 18世紀文明社会論の歴史的背景 (2) フランス啓蒙の文明社会像 (3) スコットランド啓蒙の文明社会像 (1)18世紀文明社会論の歴史的背景 時代の背景 → 政治的秩序の安定(イギリスの 名誉革命体制・フランスの開明君 主制の確立)を基盤とする経済 的・道徳的秩序の追求へ →マンデヴィル(Bernard Mandeville, 1670-1733)『蜂の 寓話』における「私悪は公益 (Private Vices, Public Benefits)」=「利己心体系」 出現 → フランス啓蒙(絶対王政の限界 内)とスコットランド啓蒙(名誉 革命体制を前提)の共通性と異質 性 →「市民社会」から「文明社会」へ → 利己心の追求(富と奢侈の追 求+名誉の追求) の「意図せざ る結果」としての文明社会の繁 栄 → イギリス的形態(経済的富の追 求)とフランス的形態(政治的 名誉の追求) 57 → 動乱と流血の17世紀から秩序 と成長の18世紀へ 思想の背景 →ニュートン、ロックの多様な継 承 (2) フランス啓蒙の文明社会像 共通課題 → 絶対王政下における文明社会と「法の支 配Rule of Law」の実現 ヴォルテール『哲学書簡』(1734)のイギリス評価 58 → 政治的・宗教的・経済的諸自由の相互促進 → ブルボン王権の強化によるカトリック教会・貴族身 分の抑制と立憲君主政の実現 Voltaire, 1694-1778 モンテスキュー『法の精神』(1748)の風土理論 → 「ヨーロッパの自由」対「 アジアの専制」 → 政体の本性(nature)と原理(principle) → 君主制(名誉)/専制(恐怖)/共和制(徳) → 貴族身分(司法権)による王権の抑制 → ブルボン絶対王制下での「法の支配」の実現 Montesquieu, 1689-1755 イギリスでは「人が物を考えるのは当たり前」であり、それは「彼らの 政治形態の必然的帰結」である。「イギリスにおいて国民を豊かにし た商業」が彼らを自由にし、「この自由がまた商業を発達させた」。 ロンドンの株式取引所に行けば、ユダヤ教徒、イスラム教徒、キリス ト教徒が「同じ宗派の人間であるかのように」取引をしている。 (『哲学書簡』) 「ヨーロッパでは自然的分割によって、中規模の諸国家が形成され、それ らの内部では、法による支配が国家の維持にとって有利であるから、 法がなければこの国家は没落し、他の一切の国々より劣ったものにな る」「これに反してアジアには隷従の精神が支配している。この精神 はいまだかつてアジアを去ったことがない。この地方の全歴史の中に、 自由な魂を示すただ一つの特徴も見いだすことはできない。人はそこ に隷従の犠牲的精神以外のものを見ることは決してない」 「日本の人民は,彼らの立法者や為政者が彼らにどんな信頼をも抱きえな かったほど残酷な性格をもっている。..これらの法律は,すべての人々 が相互に不信を抱き,各人が各人の行動を詮索し,相互に監視人,証 59 人,裁判役となるように作られているのである。」(『法の精神』 (3)スコットランド啓蒙の文明社会像 ハチソンのマンデヴィル批判 → 人間の自然的「徳virtue」(慈愛心)と利己心体系批判 → 「モラル・センス」理論と社会秩序の可能性探求 ヒュームのハチスン批判 → キリスト教神学にもとづく自然法思想批判 Francis → 「正義(所有権・契約)」の人為性(歴史性・社会性) Hutcheson → 「黙約convention」による正義の法の生成 (1694-1746) マンデヴィル奢侈論の継承と批判 → 「奢侈=感覚の洗練=技芸の洗練」の肯定 → 「勤労・知識・人間性(Industry, Knowledge, humanity)」 の連鎖 → 農工商分業論と貨幣数量説(貨幣≠富) → 自由貿易思想と重商主義批判 文明社会の政治的秩序 → 「野蛮」な古代文明と「洗練」の近代文明 → 社会契約説批判(事実的反証と論理的反証) → 政治的支配の基礎=「暴力」から「世論opinion」へ David Hume, 1711-1776 60 前近代的諸制度と貧困 +イングランドとの「合邦」 (1707年)による急激な経済発展 +4大学の存在 +勤勉・教育熱心な国民性 +民主的な教会制度(長老派) =「スコットランド啓蒙」 61 ヒュームの名言(『政治論集』1752より) 「偉大な哲学者や政治家、有名な将軍や詩人を生み出す時代は、 普通は有能な機織り職人や船大工に満ちている。/時代の精 神<the spirit of the age.はすべての技芸に影響する。/勤 労、知識、人間性(industry ,knowledge, humanity)は分か ちがたい鎖で結合されており、経験と理性の両方から、より 洗練された、普通はより奢侈的な時代と言われているものに 特有であることが知られる」 “Man is a sociable, no less than a reasonable being: Be a philosopher; but, amidst all your philosophy, be still a man.” 「最も民主的な政府ばかりでなく、最も専制的な政府ですら被 62 治者の世論にもとづいている」 参考文献 マンデヴィル『蜂の寓話』1705年(法政大出版局) ヴォルテール『哲学書簡・哲学辞典』中公クラシックス ヴォルテール『寛容論』中公文庫 ヴォルテール『カンディード』岩波文庫 モンテスキュー『法の精神』1748年(岩波文庫) ディドロ、ダランベール『百科全書序論』1755年(岩波文庫) ハチスン『道徳哲学序説』京都大学学術出版会 ヒューム『政治論集』1752年(京都大学学術出版会) ヒューム『道徳・政治・文学論集』2010年(名古屋大学出版会) ハイエク『市場・知識・自由』1964-78年(ミネルヴァ書房) ハーシュマン『情念の政治経済学』1976年(法政大学出版局) ポーコック『徳・商業・歴史』1993年(みすず書房) カッシーラー『啓蒙主義の哲学』1962年(紀伊国屋書店) 坂本達哉『ヒュームの文明社会』1995年(創文社) 坂本達哉『ヒューム 希望の懐疑主義』(慶應義塾大学出版会) 63 6. ルソーの文明社会批判と人民主権論 64 (1) 『百科全書』の思想 (2) ルソーの文明社会批判 (3) 『社会契約論』における人民主権論 (4) 人民主権論と代議制民主主義論 時代と思想の背景 ・ 名誉革命(1689)からアメリカ独立戦争とフランス革 命(1789)へ ・イギリス型議会政治の批判とフランス絶対王政批判 ・「自由主義」(市民的自由の原理)から「共和主義」 (政治参加の自由)への力点移動 ルソーの生涯 1712年 時計職人の子としてジュネーブに生まれる 1728年 16歳で家出、各地を放浪、ヴァランス夫人の愛人 となり独学 1742年 パリに出てディドラと知り会い,新知識を吸収 1750年 『学問・芸術論』『百科全書』への寄稿、『人間 不平等起源論』『新エロイー ズ』『社会契約論』『エ ミール』 Jean-Jacques Rousseau, 1712-1778 1762年 『エミール』発禁処分,逮捕令が出たためパリを 脱出. 1766年 ヒュームに招かれてイギリスに渡ったが「悪魔」 「裏切り者」と罵りあい決裂 1770 年 パリで出版禁止のもと告白的述作を続け,66歳で 孤独死 65 (1)『百科全書』の思想 ディドロ、ダランベール『百科 全書』の思想 ニュートン、ロックを継承する 近代科学の集大成(=人文学と 自然学との統一) 理論と実践の統一へのつよい指 向性(=アカデミアと作業場の 断絶を超えて) 絶対王制下の近代化追求とその 限界を超える近代革命への胎動 66 (2)ルソーの文明社会批判 ・近代自然法学の批判(利己心・私有財産≠本性=歴史の産物) 「真の自然状態とは何であったか?」(=「森を歩く孤独な自然人」) 「自愛心(self-love)」が「虚栄心(self-interest/vanity)」に堕落 「憐憫(pity)」が「社交性(sociability)」に堕落 「自己改善能力」(言葉と理性)による技術と生産力の発展 ・社会発展の歴史的・段階論的把握=私有財産の歴史性・マルクスの先 駆? 1.孤独な自然人から「家族」の形成 (最も幸福な時代・移動生活・牧畜) 2.土地所有の成立 (支配・被支配の区別の確立・農業・「鉄と小麦」) 3.強者による弱者の支配と市民政府の成立(強制された同意の外観) 4.専制政治の出現(主人=国王による人民=奴隷の搾取) 67 (3) 『社会契約論』の人民主権論 「主権」設立行為としての「社会契約」 →「主権」の本質としての「一般意志General Will」 →「一般意志」=人民全体の意志 ≠ 「全体意志Total Will」=多数 の意志 →自然的自由(natural liberty)から社会的自由(civil liberty)へ → 国家の目的=私的利益から公共利益へ 「一般意志=主権」の本質としての「立法権」 → 立法権=1.分割不可能 2.代表不可能 → 主権(国家の魂)と政府(国家の身体)の決定的相違 → イギリス型代議政体(いわゆる間接民主制)の批判 「主権」と「政府」の区別=最良の政体は「選挙貴族制」 主権者(人民全体)の権利と個人の権利の矛盾・対立 → 私有財産に対する公共の利益の優越 68 → 徴兵制と死刑 → 市民の命=国家の「賜物」 (4) 人民主権論と代議制民主主義論 =代議制民主主義(立憲君主制) ルソーの人民主権 =直接民主制 立法権 立法権 国民の代表者 国民自身 行政権 行政権 ロックの議会主権 国王 内閣 国民 国王 官僚 国民 69 ルソーから 「社会の基礎を検討した哲学者たちはみな自然状態にまでさかのぼる必要を感じた。し かしだれひとりとして、そこに到達した者はいなかった」(『人間不平等起源論』) 「虚栄心を生む者は理性であり、それを強めるのは反省である。-人間が苦しんでいる 人を見て、「おまえは滅びてしまえ、私は安全だ」と密かに教えるのは学問である」 (同上) 「ある土地に囲いをして、「これは俺のものだ」と宣言することを思いつき、それを信 じるおめでたい者たちを見つけた最初の人間が政治社会の真の創立者であった」(同 上) 「各構成員の身体と財産を共同の力すべてによって保護する結合の一形式を見出すこと、 それにより各人が全員と結びつきながら自分自身にしか服従せず、以前と同じく自由で あること、これこそ根本問題であり、社会契約がそれを解決する」(『社会契約論』) 「イギリスの国民は自分たちを世界一自由な国民だと思っているが、彼らが自由なのは 選挙をするときだけで、後のすべての期間、彼らは国王の奴隷である」 「人民が十分に情報を持って審議するとき、市民が相互の意志を伝達しなければ、わず かの相違が多く集まってつねに一般意志が生まれる」(同上) 「民主制という言葉の意味を厳密に解釈すれば、真の民主制はこれまで存在しなかった し、これからも決して存在しないだろう。多数者が統治して少数者が統治されるという ことは自然の秩序に反する」(同上) 「統治者が市民に向かって「おまえの死ぬことが国家に役立つのだ」というとき、市民 は死なねばならない」(同上) 70 ルソー参考文献 『人間不平等起源論』光文社古典新訳文庫 『社会契約論』光文社古典新訳文庫 『エミール 』岩波文庫 『人間不平等起原論・ 社会契約論』中公クラシックス 『白水iクラシックス ルソー・コレクション』4冊、白水社 桑瀬章二郎編『ルソーを学ぶ人のために』世界思想社 福田歓一『ルソー』岩波現代文庫 海老沢敏『むすんでひらいて考 ルソーの夢 』岩波書店 中川久定『甦るルソー 深層の読解』岩波現代選書 71
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