経腸栄養 - 大塚製薬工場

●病気と薬
ー 臨床栄養シリーズ ④ー
経腸栄養
パレットの上でさまざまな色を調和させていくように
薬剤師さんにとっての理想の姿、
求めている色をつくりだすためのお手伝い ができたら…
そんな願いをこめてお届けします。
●フェイス&フェイス
国立病院四国がんセンター薬剤科
●トピックス
「看護のヒヤリ・ハット事例」にみる
与薬エラーの発生要因について
●Otsuka Information
●情報キャンバス
愛媛県はもちろん四国全県のがん
治療の中核病院である国立病院四国が
んセンターは、全国的にみても極めて早
●
薬
剤
部
・
薬
局
訪
問
●
第
20
回
国
立
病
院
四
国
が
ん
セ
ン
タ
ー
・
薬
剤
科
テ推医
レ進療
ビにネ
電寄ッ
話与ト
をすワ
使るー
っ ク
た の
在
宅
医
療
い時期から県内の医療ネットワーク化推
進に精力的に取り組んでいます。その
一環として現在試行中のテレビ電話に
よる在宅医療について、薬剤科長の中西
年久先生と副薬剤科長の琢磨律儀先生
薬剤科長 中西年久先生
にお話をうかがいました。
テレビ電話によってさまざまな医療機関が情報を共有できる
●●まず“テレビ電話を活用した在
して入院が必要な方に少しでも多く
宅医療”の試行を始めた経緯をお教
入院してもらうことを目的としてい
えください。
ます。
中西
●●どのようなシステムなのですか。
これはNTTからの働きも
あって始めた研究のひとつで、内科
琢磨
テレビ電話を使った遠隔地医
医長の谷水先生が中心となり病院全
療は既に例がありますが、このシス
体で取り組んでいます。昨年10月
テムの大きな特徴は患者さん宅と
に開始し3月でいったん終了して研
ナースステーション(医師・看護婦)
、
究報告をまとめたのですが、患者さ
薬剤科、かかりつけ医、訪問看護ス
んの要望もあり現在も継続して行っ
テーションの5カ所にテレビ電話を
ています。対象としている患者さん
置き、多地点で同時に診察や会議が
は、本来なら環境さえ整っていれば
できる点です。例えば定期的に何曜
入院させなくても在宅で治療でき
日の何時に患者さんに電話をすると
る方です。そのような患者さんの環
決めておけば、その時間に皆でやり
境を整え、在宅医療への不安を取り
とりできます。顔を見ながら話がで
除いてご自宅に戻っていただく、そ
きるというのは、患者さんにとって
患者さん側の装置
エコーキャンセラー
脚付テレビカメラ
マイクとスピーカ
両方の機能を装備。
角度を変えて体の
様々な部位を撮影
できる。
バイタルセンサー
テレビ電話
〔 国立病院四国がんセンター〕
愛媛県松山市堀之内13
●病 床 数:360床
●外来患者数:1日平均480名
●外来患者への処方箋発行枚数:1日平均約230枚
うち院外処方箋発行率:93%
●薬 剤 師:6名(うち非常勤2名)
1
脈拍や心電図、
血圧などを測定。
体温など簡単な
質問には手入力
で答えられる。
4分割表示が可能。
ハンズフリーで
会話ができる。
緊急通報ボタン
緊急時にはナースステーションを
呼び出せる。
心電図モニター
端末を手首と足首につけ、スイッチを
入れるだけでデータが送られる。
非常に安心感があるようです。
その点、このシステムではいろいろ
●●さまざまな医療機関が参加して
な医療機関が患者さんの情報を共有
いるのですね。
でき、また、医療者どうしのテレビ
琢磨
入院時の医療の質を維持しな
会議にも使えますから、医療連携の
がら在宅に移行するためには、医療
推進という点でもテレビ電話の役割
機関の連携が不可欠だと思います。
は大きいですね。
ネットワークの構築で、
質の高い
医療サービスを提供
内科医長 谷水正人先生
入院ー在宅ケアの服薬指導の一貫性を維持することが重要
● ● 薬 剤 科 としてはどのように関
ると、入院から在宅へ、あるいは在
わっておられるのですか。
宅から入院へ移行する際の服薬指導
琢磨
の一貫性が維持されなければなりま
薬剤科は、この7月までに13
例中9例に関わってきまし
せん。その連携をいかに
た。テレビ電話回診への参
スムーズに行うかが今後
加以外に、患者さんの退院
の課題だと思います。
時に在宅ケアに向けて服薬
●●ネットワーク化が進
以上だったのは、患者さんやその
指導を行ったり、外来受診
むと、薬剤師の仕事も変
家族の精神的な安心を非常に得
時にコンプライアンスの確
わってきますか。
られ、不可能だと思われていた事
認も行います。
中西
例で在宅への移行が実現した点
副薬剤科長
琢磨律儀先生
薬剤師の仕事は、
テレビ電話の効果として予想
例えれば地盤石のような
です。患者さんの顔を見て会話
もので、間違いのないよう
をすれば、その状態がほとんどわ
んに接します。そこでは病気の進行
に見えないところで仕事を行っている
かりますし、必要なら即座に具体
状況や治療の話が中心になります
わけですが、地盤石であるために責任
的な指示が出せます。例えば、カ
が、その中で薬の飲み方や副作用の
もあまり取らされていないというこ
テーテルが詰まって血液が逆流
チェックを行ってきました。
ともあります。今後は、薬剤師の責任
したときでも、注射器を見せてこ
実際は在宅患者さんの薬剤の調剤
を明確にしていきながら、仕事の幅を
うしなさいと指示できるわけです。
は町の保険薬局が行いますから、将
さらに広げていくことが大切なのだ
高額なシステムですから保険
来的には保険薬局もテレビ電話に参
と思います。
テレビ電話回診では、ド
クターたちと一緒に患者さ
点数化は難しいと思いますが、患
加することになるでしょう。そうな
者さんの満足度向上という点でも
医療機関の差別化を図るアイテ
病院の装置
ムとして使えると考えています。
一方、課題もあります。このよ
うなネットワークでは、主治医と
患者さんの1対1の関係ではな
エコーキャンセラー
テレビ電話
く1人の患者さんにいろいろな
人がタッチしますから、それら医
療者間の意思の疎通をスムーズ
パソコン
患者さんに関する情報を管理
にするためのコミュニケーショ
ン・スキルが求められると認識
しています。
(談)
2
臨床栄養シリーズ─ ④
久留米大学小児外科
田中芳明 先生
消化器疾患や、消化管術後で、消化機能の低下もしくは消
化管の使用が制限されている患者さんに、経腸栄養法や静脈
栄養法が広く施行されています。これらの栄養法の進歩に
よって、患者さんの生命とQOLが維持され、いろいろな疾患
の治療の可能性が大きく開かれました。
今回は、経腸栄養法の実際と、最近のトピックスを、久留米
大学小児外科の田中芳明先生にうかがいました。
栄養管理法と栄養剤には
どんなものがありますか?
今回はこの中で、経腸栄養についてお話ししま
しょう。
消化吸収能に何ら問題はなく、経口摂取がうま
Q
経口摂取ができない患者さんに行われる栄
くできない患者さんの多くは、経鼻経管栄養法に
養法には、中心静脈栄養や経鼻経管栄養な
より栄養剤を投与されます。胃瘻、腸瘻というの
ど、いろいろなものがありますが、それらの適応は
は、皮膚表面からカテーテルを胃や腸に挿入し、
どのように理解すればいいでしょうか。略号もい
栄養剤を投与する方法で、経腸栄養を比較的長期
ろいろあって覚えにくいのですが。
間行わなければならない場合に用いられます。
A
静脈・経腸栄養ガイドライン(コメディカル
のための静脈・経腸栄養ガイドライン:日
■ 図1■
内視鏡的胃瘻造設
本静脈経腸栄養学会 2000 / 7刊行)では、現在こ
のようにわかりやすく整理されています。
内視鏡
経腸栄養(EN:Enteral Nutrition)
経口栄養
経鼻経管栄養
胃瘻
腸瘻(手術的)
栄養カテーテル
手術的胃瘻造設
内視鏡的胃瘻造設
胃壁
腹壁
静脈栄養(PN:Parenteral Nutrition)
末梢静脈栄養
(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)
中心静脈栄養
(TPN:Total Parenteral Nutrition)
3
内視鏡で確認しながら空腸へもカテーテルを確実に
挿入できる。
経腸栄養はどんな場合に
行われるのでしょうか?
最近ではこの胃瘻造設の方法として「内視鏡的
胃瘻造設」が一項目加わりました。従来、胃瘻や
腸瘻の造設は、小さな切開とはいえ開腹手術で行
では、表皮からカテーテルを挿入し、内視鏡で観察
Q
しながらカテーテルの先端を胃に固定したり空腸
ぐ思い浮かべますが、経腸栄養との関係はどう考え
へも確実に導けるようになり、患者さんの負担を
ればいいでしょうか。
大幅に減らせるようになりました。
(図1参照)
Q
経腸栄養剤にもいろいろな種類があります
A
が、これはどう分類すればいいでしょうか。
ありました。
A
以下のように分類して理解していただきた
わねばなりませんでしたが、内視鏡を用いる方法
術後や消化管の機能が十分でない場合の栄
養療法というとT P N(中心静脈栄養)をす
確かに日本ではTPNが非常に普及し、いろ
いろな場合に第一選択的に使われる傾向が
しかし、実際は経腸栄養の方がより生理的であ
り、ハイリスク手術、腹部外傷、重度の頭部外傷と
いと思います。
いった重篤な患者さんでも、できるだけ早く経腸
1. 天然濃厚流動食
栄養を始めた方が、敗血症合併率、感染症合併率が
2. 半消化態栄養剤
有意に低率で、さらには入院費用も少なくて済む、
3. 消化態栄養剤
というデータが多く報告されています。
4. 成分栄養剤(ED:Elemental Diet)
TPNの合併症としては高血糖がありますが、高
5. 特殊組成栄養剤
血糖状態になると好中球の貪食能が阻害され、感
それぞれの特徴は、表1を見てください。右にい
染性合併症が起こりやすくなります。
くほど、通常の食品に近く、左にいくほど蛋白の分
また、T PNで栄養管理を長く続け、腸管を使わ
解の程度が高くなります。それだけ消化の必要が
ない状態が長引くと、腸管の絨毛が萎縮し、その
少なくなり、胃や腸の消化機能への依存度が少な
機能が減退して腸管内の細菌や毒素が血液中や
くなります。
リンパ管中さらには後腹膜腔に入り込むバク
特殊組成栄養剤というのは特殊な病態、たとえ
テリアル・トランスロケーション(Bacterial
ば肝不全の病態(肝性昏睡など)の治療目的で分岐
translocation)が起こりやすくなるといわれて
鎖アミノ酸を増やした製剤などをいいます。
います。これは敗血症や全身の臓器障害の要因と
なり、最近では、手術後や外
■ 表1■
傷後になるべく早く消化管
経腸栄養剤の種類と特徴
成分栄養
消化態栄養
半消化態栄養
天然濃厚流動食
糖質
デキストリン
デキストリン
デキストリンなど
粉飴、蜂蜜など
蛋白
結晶アミノ酸
ジペプチド
トリペプチド
ペプチド
蛋白水解物
大豆蛋白
乳蛋白など
脂肪
少ない
少ない
多い
多い
消化
不要
一部必要
一部必要
必要
残渣
なし
少量
中等量
多量
を使う経腸栄養を始めるべ
きであるといわれています。
この、なるべく早くという
のは、報告者によって差が
ありますが、だいたい術後
味
良好とはいえない 良好とはいえない 良いものが多い
−
(日本静脈経腸栄養学会「コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン」
2000.7 南江堂刊より・改変)
24∼72時間くらいを意味
します。
但し、全身状態(特に、循
環動態)が安定してから、と
いう条件があることを忘れ
てはいけません。
4
Q
経腸栄養の適応は非常に広く考えるべきだ
A
そうです。たとえ経口摂取ができなくても、
経腸栄養の処方は?
ということなのですね。
消化管の機能が保持されていれば、すべて
経腸栄養の適応があるといえます。
また、T PNを行っている患者さんでも、消化管
機能が少しでも回復してきたら、経腸栄養の併用
を始めるべきです。
ただし、禁忌があることを忘れてはいけません。
Q
栄養剤にはいろいろな製剤がありますし、
患者さんの体格や病状によって投与量や栄
養成分も違うと思いますが、処方の基本的な考え
方をお教えください。
A
1
キーポイントをお話ししましょう。
エネルギー投与量
まず、絶対的禁忌、つまり無条件に避けるべきも
のは、ショック状態、腸閉塞、腸管の虚血、それに
患者や家族が拒否する場合です。
相対的禁忌、つまり状況によって避けるべきも
のは、腸管の部分的な閉塞、重度の下痢、多量の排
液のある腸管皮膚瘻(腸から皮膚表面に孔が通じ
まず熱量ですが
1.3 ∼1.5 BEE あるいは
1.2 ∼1.3 REE
BEE:Harris-Benedictの式で算出した基礎代謝量
REE:呼気ガス分析で求めた安静時エネルギー消費量
(コラム1参照)
て腸液が漏れる状態)、重症膵炎などです。
1
COLUMN
◆基礎代謝量
BEE(basal energy expenditure)
性 別 、身 長 、体 重 、年 齢 か ら H a r r i s Benedictの式で算出した推定値が広く
用いられている。
その人が安静にしている時のエネルギー
Harris-Benedictの式
(日本人のための簡易式。体重から算出で
きる。
)
男性 BEE=14.1×体重(kg)+620
女性 BEE=10.8×体重(kg)+620
消費量推定値である。
◆間接熱量測定法による安静時代謝量
REE(resting energy expenditure)
呼気ガス分析によって酸素消費量と炭酸
ガス産生量を計測し、その人の時々刻々
のエネルギー消費量を計測する方法。こ
PLUG
(40 ∼ 50 L / MIN )
AIR FLOW
れによって得られた安静時の代謝量が
REE。そのつど、呼気を収集しなければな
らないという手間はかかるが、BEEと違っ
てその時々の実際のエネルギー消費量が
推定できる。
5
CANOPY
図:頭部にキャノピーをかぶせて呼気ガスを分析する。
(従来のマスク密着による呼気の採集によるストレスを
軽減できる)
つまり、基礎代謝あるいは安静時代謝の数10%
増し、ということです。
但し、ハイリスク手術、重症感染症、糖尿病など
の患者ではできるだけ毎日呼気ガス分析を行って
REEを算出し、正確にエネルギー投与量を決める
ことが望まれます。
エネルギーの過剰投与は、耐糖能異常や免疫
能低下、肝障害などを起こしやすくします。
適正な投与量は
リノール酸として
乳児 1∼2 % 全エネルギー
成人 3 % 全エネルギー
α-リノレン酸として
1∼1.2 % 全エネルギー
とされています。
また、最近α-リノレン酸にはアレルギーや癌、
動脈硬化の抑制効果が報告されていますが、現在
2
アミノ酸投与量
の日本人の食事ではリノール酸に対するα-リノレ
ン酸の割合が低いことが問題視されています。こ
エネルギー摂取量が足りないと、アミノ酸や蛋
れについては、後でお話しします。
白質がエネルギー源として使われてしまいます。
現場での注意と工夫
ですから、投与したアミノ酸が蛋白源として有効
に利用されるためには、必要十分なエネルギーが
投与されていなければなりません。
一般には、アミノ酸6.25g(窒素1gに相当)に
Q
その他、栄養療法中の患者さんについて、
医療現場で注意すべき点とか工夫すべき点
対して150kcalの非窒素熱源(主に糖と脂肪)が必
があるでしょうか。
要といわれています。
(ノンプロテインkcal/ N=150)
A
しかし、多発外傷、重症熱傷、ハイリスク手術、
まず、誤嚥性肺炎への注意です。これは現場
でのケアに負うところが大きいと思います。
敗血症など蛋白の維持や回復に多量の窒素源を必
経鼻チューブを入れたり抜いたりするときの刺
要とする病態では、相対的に窒素を多くする処方
激で嘔吐させたりしないように慎重にしなければ
が必要です。この比率は100∼130程度とされて
なりません。通常のゲップなどでも胃内容が逆流
います。
して誤嚥の原因となります。ことに高齢者は咽頭
具体的には、アミノ酸として
一般的な外科手術後で 1.0∼1.5g/kg/day前後
異化亢進時には 2.0∼4.0g/kg/day
が必要とされます。
の反射が弱く、咳反射も減弱していて非常に誤嚥
を起こしやすいので注意が必要です。
対策としては、半座位にする、投与速度を落と
す、チューブ先端を十二指腸から空腸上部に留置
する、などの工夫が有用です。
また、経腸栄養法は静脈栄養法と違って感染に
3
脂肪投与量
無神経になりがちですが、大腸菌やバクテロイデ
ス、黄色ブドウ球菌などの混合感染が起こること
必須脂肪酸(リノール酸、α-リノレン酸など)
があります。食品と同じですから開封後すぐ使う
は細胞膜の重要な成分であり、生体の機能維持に
という配慮が必要です。ことに粉末製剤で溶解し
必要なエイコサノイドの前駆体でもあります。必
て使うものは、溶解操作中に汚染を受けることは
須脂肪酸が不足すると、成長障害や皮膚炎、易感染
避けられませんから注意して下さい。細菌は溶解
性、視力障害、不妊などの症状が現れるといわれて
後4時間後くらいから増殖が急速になりますから、
います。また、過剰投与でも免疫能の低下が報告
気を付けなければなりません。
されています。
下痢や腹部膨満感、腹痛、悪心嘔吐、といった
6
α-リノレン酸の話題
合併症もケアの課題となります。これは、投与速
度、栄養剤の温度や濃度、浸透圧、さらに組成の影
響を受けて発生します。
そのような兆候があった場合、まず投与速度を
Q
先ほどの必須脂肪酸についてですが、最近
α-リノレン酸がにわかに注目され、それを
落として経過を観察することが大切です。効果が
う た っ た 油 な ど も 売 り 出 さ れ た り し て い ま す。
なければ止瀉薬の併用を考慮します。また、食物
脂肪をめぐるこのあたりのお話しをお聞かせくだ
繊維を添加するということも検討すべきです。
さい。
私たちは、投与開始時には0.5kcal/mL程度の
濃度で、25∼50mL/hr の早さで始めています。
間欠投与というのも、大変有用なやり方です。
A
かつては飽和脂肪酸が動脈硬化の元凶とし
て問題になり、不飽和脂肪酸に注目が集ま
りました。厚生省の栄養基準でも飽和/不飽和比
食事摂取を考えれば、間欠的な方がより生理的と
というのが取り上げられました。ところが最近で
いえます。空腹の期間ができ日内リズムができる
は、この不飽和脂肪酸の中でもリノール酸(ω6
ことが消化管機能、ひいては患者さんのQOLに良
(n-6)系脂肪酸 )とα-リノレン酸(ω3(n-3)系脂
い影響を与えます。在宅栄養などでは、間欠投与
でチューブから解放される時間ができれば、社会
復帰の可能性も出てきます。
肪酸)の比が問題になっています。
n-6系脂肪酸は摂取されるとアラキドン酸に代
謝され、ロイコトリエン4系統やプロスタグラン
ジン E2 、トロンボキサンA2 などが生成されます。
■ 表2 ■
グリーンランド・イヌイットと
デンマーク人の疾患発症数比較
(人)
このロイコトリエン4は炎症促進作用があり、トロ
ンボキサンA2は血小板凝集作用があります。その
ために、n-6系脂肪酸の取りすぎは、炎症反応、ア
グリーンランド
イヌイット
デンマーク人
急性心筋梗塞
3
40
脳出血
25
15
これに対して、n-3系脂肪酸はn-6系脂肪酸の代
多発性硬化症
0
2
謝を競合的に抑制し、その悪影響を抑えるのです。
乾癬症
2
40
甲状腺中毒症
0
7
気管支喘息
1
25
糖尿病
1
9
癌
46
53
イットの方が喫煙率も高くコレステロール摂取量
胃潰瘍
19
29
も多いのに、そのイヌイットの方が心筋梗塞、気
てんかん
16
8
管支喘息、糖尿病、乾癬などがはるかに少ないと
神経症
10
8
いう結果が出たのです。食生活を検討すると、グ
レルギー反応の促進、梗塞性病変の増悪といった
悪影響が考えられます。
特にエイコサペンタエン酸(EPA)にそのような
作用が強いといわれています。
これを実際に示唆する疫学データとして話題に
なったのは、グリーンランド・イヌイットとデン
マーク人の比較研究です。グリーンランド・イヌ
リーンランド・イヌイットの方が n-3 系脂肪酸の
●多価不飽和脂肪酸摂取量
n-3系
14g
3g
n-6系
5g
10g
摂取量が非常に多いということが分かりました。
(表2参照)
1950−1974の25年間の集計結果
Kromann N.,Acta Mededica Scandinavia,1980
Bang,H.O.,et al, Am J Clin Nutr.1980
最近では日本でも、厚生省基準でこの比率を問
題にするようになりました。
(第6次改訂・日本人
の栄養所要量1999年)
7
そこでは、脂肪摂取量を総エネルギーの20∼
25%に抑えると同時に−−−−
な部分を占めつつあるという現状をみると、n-3系
脂肪酸の摂取をもっと増やすべきだという発想は
大切ではないかと思います。
飽和脂肪酸:一価不飽和脂肪酸:
多価不飽和脂肪酸 =3:4:3
多価不飽和脂肪酸中の n-6:n-3=4:1
と細かく決めています。
(コラム2参照)
最近の、アレルギー疾患が非常に増えていると
そして、経腸栄養剤でも、従来、この問題にはあ
まり関心が払われず、n-6系脂肪酸優位の製剤が多
かったのですが、最近ではこれを意識してn-3系脂
肪酸を配合し、n-6系脂肪酸との比率を考慮した製
剤も出てきているということが注目されます。
いう状況、脳出血に代わって脳梗塞が死因の大き
2
COLUMN
飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の代謝経路と生理作用
非必須脂肪酸
含
有
量
の
多
い
食
品
代
謝
経
路
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
動物性食品
動物性食品
パーム油など
オリーブ油など
必須(多価不飽和)脂肪酸
リノール酸
α-リノレン酸
〔ω6(n-6)系列〕
〔ω3(n-3)系列〕
多くの食用油
野菜の葉・根
ベニバナ油
シソ油
マーガリンなど
エゴマ油など
リノール酸
α-リノレン酸
γ-リノレン酸
エイコサペンタエン酸(EPA)
アラキドン酸
ドコサヘキサエン酸(DHA)
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
細胞膜の構成成分など重要な栄養素で、体内では合成できず
必ず摂取しなければならない。
備
考
これらの脂肪酸は生体内で合成できる。
過剰摂取は動脈硬化などの要因となる。
過剰摂取は本文に紹介したような
デメリットを及ぼす。
● エイコサペンタエン酸
(EPA)
魚介、藻などに多く含まれる。
●ドコサヘキサエン酸
(DHA)
魚介、藻、脳、網膜など。
●α-リノレン酸はリノール酸過剰摂
取の生体障害に拮抗する。
α-リノレン酸〔ω3(n-3)系脂肪酸〕の注目される生理作用
①脳・神経機能の発達と機能維持
②心疾患・脳血管障害の抑制
③アレルギー・炎症の抑制
④抗腫瘍活性
このような生理作用があるというエビデンスが、動物実験や疫学調査で得られており、
非常に注目されている。
(第15回日本静脈経腸栄養学会ランチョンセミナー「ω3系必須脂肪酸の生理作用」2000/2記録集より)
8
「看護のヒヤリ・ハット事例」にみる
与薬エラーの発生要因について
去る6月、厚生省の諮問機関・医療審議会総会において発表された「看護の
ヒヤリ・ハット事例の分析」
(主任研究者 川村治子・杏林大学保健学部教授)
が医療関係者を中心に注目を集めています。医療ミスの背後にある看護のニ
アミス事例を分析し、事故防止への問題提起を促した研究ですが、副題に“与
薬(注射)エラー発生要因の分析を中心として”と示されている通り、病院薬
剤師にとって見逃せない内容といえます。以下、本研究の概要とともに、主任
研究者である川村先生からの提言を紹介します。
研究の概略
スでどのようなエラーが、どのような要
因で発生するのかを中心に分析してい
目的:看護業務に潜む事故発生要因を
整理・分析して、事故防止対策
に供することと、医療システム
の諸要素の問題として検討する
こと。
ます。
対象:300床以上の病院218施設より
11,148事例を収集。
例が最も多く、次いで注射準備過程にお
特徴:自由記載によるヒヤリ・ハット体
験事例収集を行い、エラーの発生
要因を分析することを重視した
研究である。
なくとも病院薬剤師にとって準備段階
注射エラーの各事例について詳しく
は、厚生省のホームページ から検索でき
ます。その中では注射実施段階での事
ける事例が多く紹介されています。少
のエラー事例は看護婦と協力して防止
できるものと思われます。
“薬剤科からの薬剤の払い出しミスを
診察補助業務の
エラーの3/4は与薬関連
8つの注射エラー主要要因
本研究は、看護業務での事例とはい
え、医薬品事故と深く関係するもので
す。まとめとして、注射エラーに関する
主たる要因に以下の8つをあげています。
1. 情報伝達の混乱
2. エラーを誘発する「モノ」の
デザイン−−−類似性や不統一性
3. エラーを誘発する患者の類似性、
同時性と処方のバリエーション
4. 注射準備・実施業務の途中中断と
不確実な業務連携
似した薬剤で混同した/薬効上、同種
5. 不明確な作業区分と
狭隘な注射準備・作業空間
ヒヤリ・ハット事例の6割は医師の診
あるいは関連性のある薬剤で混同し
6. 時間切迫
察の補助業務に関連しており、そのうち
た/単位や数値の誤認をした/薬剤名
7. 薬剤知識の不足
内服と注射(点滴、IVHを含む)の与薬関
の数字を単位量と錯覚した/同じ薬剤
連事例が3/4を占めていました。特に、
で複数の規格があることを認識してお
注射事例は全体の3割を占めていたこと
らず量をミスした”といった身近な事例
から、本研究では注射業務のどのプロセ
が紹介されています。
病院薬剤師さんへの提言
杏林大学保健学部教授・川村治子
看護部の与薬エラー防止上、薬剤師
さんに求めたい関わりについて、今回の
注射事例の研究から、右に挙げてみまし
た。
9
発見できなかった/形状、色、名称が類
読売新聞 2000.6.27
① 病棟与薬業務での役割分担:臨時・
緊急で病棟保管薬を使用する際にエ
ラーが生じやすいこと、またエラー
防止には患者・薬剤双方の情報を
有してこそ初めて気づけることから、
病棟の与薬全般において看護職と薬
剤師がうまく役割分担してほしい。
② 看護職の院内教育、研修への援助:
類似した外形や名称、複数規格の薬
剤でのエラーが多かったことから、
8. 急性期医療に対応困難な
新卒者の知識と技能
■ 厚生省のホームページ www.mhw.go.jp
(看護ヒヤリ・ハット事例で検索してください)
採用薬剤をエラー誘発性という観点
から整理し、特に危険な薬剤につい
ての教育研修を担ってほしい。
③ 薬剤採用時にエラー防止の観点からも
検討した資料を薬事委員会に提供し、
積極的に発言してほしい。
の3点です。組織的な与薬事故防止体制を
構築する上で、薬剤師さんの積極的な貢
献が極めて期待されるところです。
見落としがちだけど役立ちそうなちょっと気になるニュースや、話題の本をピック・アップ
園児の体温に異常あり
ネットサービスの需要、
医療分野が飛び抜けて高い!
(財)日本情報処理開発協会はこの7月、個人
ユーザーがどのようなインターネットサービス
を利用しているか、または望んでいるかに関す
る調査報告を発表しました。
アンケート調査は1月、2月に企業の情報シス
テム担当者5,000人と一般消費者5,000人を
対象に実施(回収率36%)。消費、労働、育児・
教育、医療、保健などのサービス約50項目を例
示し、各項目に対する利用状況や関心を質問し
ました。
報告では、
「病院・治療内容に関する情報サー
ビス」や「病院の予約」をはじめ、医療・福祉分
野での関心が非常に高く、これらの情報サービ
スの需要の大きさがうかがえます。
インターネットを使ったサービスのニーズ (上位10項目)
積極的に利用したい+利用したい(%)
病院・治療内容に関する
情報サービス
行楽地の宿泊予約、
道路混雑の情報
90.1
89.7
88.1
病院の予約
住民票・免許証・パスポート等の
手続き
82.8
選挙の電子投票システム
81.9
福祉施設・介護に関する
情報サービス
80.7
インターネットを使った健康診断
77.8
観劇・コンサート等の
チケット購入
77.8
ダウンロードサービス
69.5
近隣施設の地図
68.5
0
20
40
60
80
100
病気でもないのに朝の体温が37.5度近くある幼児や、体温
の日差が2度近くある幼児が増えている。こんな調査結果が、
倉敷市立短大・健康教育学の前橋明教授を中心とするグループ
によって9月の日本幼少児健康教育学会で報告されました。
調査は、岡山県内の保育園に通園する4歳児160人を対象に
1年間実施。このうち子どもの体温やリズムが安定する6月の
調査(男児31人)を見ると、37度以上の園児が11人 (35.5%)
と、2年前の同様の調査に比べて倍増していることが判明。こ
の高体温のグループは、睡眠時間や朝食摂取、排便実施状況、
握力、歩数などの成績において、いずれも36度以上37度未満の
グループを下回っていたといいます。
この結果について前橋教授は、豊かな生活によって自律神経
による体温調節ができなくなり、温度変化に対する適応力や汗
腺の機能などが低下したためではないかと分析。運動によって、
かなりの子どもの体温が正常に戻ることが認められたといいま
す。研究成果は11月の日本小児保健学会でも発表される予定
です。
社会全般に
“大革命”
をもたらす
バイオ研究の最前線を
克明にリポート
21世紀はバイオの時代だといわれます。
その中でも注目を集める、遺伝子治療やテ
ィシューエンジニアリング(細胞培養技術)、
遺伝子組み換え技術といった
“知の最前線” 「21世紀 知の挑戦」
立花 隆 著
を中心に解説したものが本書。昨年5月と 文藝春秋/¥1,429(税別)
今年の1月にTBSで放映されたドキュメン
タリー番組「ヒトの旅、ヒトへの旅」
「同Ⅱ」
での取材をもとに執
筆されたものです。
“自分の天職は、難しいことをやさしく語ることにある”
とい
う立花氏だけに、ベクターを使った遺伝子操作の複雑な手法に
しても、その原理がすんなりわかるように解説。先進諸国の中
で、一般国民の科学技術に対する関心が最も薄いといわれる日
本の状況を何とかしたいという氏の熱意が伝わる1冊です。
「Pallette Vol.20」2000年 9月20日発行 発行:大塚製薬株式会社 東京都千代田区神田司町2ー9 企画制作:株式会社協和企画 企画協力:BBプロモーション
CZ11000 I 01
(4019)KK