オーストリアの地域農家が経営するバイオエネルギー会社

今泉レポート
農業地域の農民によるバイオエネルギー会社
将来のエネルギーのあり方を示唆するバイオエネルギー事業見学記
このところ「農業の活性化」「地方の自助努力」「限界集落」、あるいは「飼料や燃料の値上が
りによる農業経営の危機」など、ともすると地方のネガティブな現状を見聞きすることが多い毎
日だが、昨年秋にオーストリアで、まさにこれら諸問題を克服する好例といえるような農村地域
の事業を見学してきた。それは未来の再生可能エネルギー社会を垣間見るような、しかも、実際
に何百軒もの農家が出資する優良な営利事業として運営されているという、とても興味深いプロ
ジェクトであった。
2007 年 10 月、ある出版社の企画によるヨーロッパバイオエネルギー視察ツアーの一員として、
オーストリアの第二の都市グラーツの郊外にあるミューレック・エコ発電有限会社を訪問した。
これはドイツの LIPP 社の最新型のバイオガスプラントを導入したもので、今までのような家畜
糞尿や食品残渣などの有機性廃棄物の処理を目的とした施設ではなく、当初から発電事業として
エネルギー作物を主な原料とする「本格的なバイオエネルギー施設」という前知識のみで、見学
のコーディネーターとして参加したが、実際にはこのバイオガスプラントはこの会社としては 3
番目の新しい設備で、それ以前に年月を重ねた再生可能エネルギー事業の長い歴史があることを
現地で知った。
ミューレック・エコ発電会社の LIPP バイオガスプラントと原料のとうもろこし(ドイツエネルギー庁資料より)
ウィーンを発ってグラーツまでの高速道路で、バスの中から、車体に BIODIESEL と大きく書
かれた大型のタンクローリーが走行しているのを見て、オーストリアのバイオディーゼルの普及
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を実感したが、実はこのタンク車は、訪問するミューレックの会社に属するものだった。このグ
ループ名は「バイオエネルギー・ミューレック」という名称で、グループの中に SEEG(南ステ
ィリア・エネルギー共同組合有限会社)、NarWarm(近隣暖房会社)そして EkoStrome(エコ
発電会社)という 3 つの会社がある。SEEG は、廃食用油を主原料とするバイオディーゼル生産、
NarWarme は製材・家具工場からの木屑やおが屑を主原料とする地域暖房熱供給会社、そして
EkoStrom は、出資者の何軒かの農家が生産するとうもろこしと、酪農農家からの家畜畜糞、そ
してバイオディーゼル製造工程から出るグリセリンを発酵させてバイオガスにし、ガス発電する
という、異なったバイオ原料をそれぞれの特徴を生かしたエネルギー化プラントによる農村地域
総合バイオエネルギー会社なのである。しかもこの会社が、自治体や県、国といった公共の政策
や補助金によって設立されたものではなく、はじめは何軒かの農家の自主的な資金集め、設立、
経営努力により発展してきたものだと聞き、二重の驚きであった。
バイオエネルギーミューレック工場全景
この「バイオエネルギー・ミューレック」の発端は、1985 年というから、今から 23 年も前のこ
と、ミューレック村の居酒屋で何人かの農民たちが、ビールを飲みながらこれからの農業経営に
ついて話し合っている場面から始まる。当時から農家の経費に占める暖房、乾燥、農業機械、自
動車やトラクターの燃料などのエネルギー費用は、かなりの割合で経営に重くのしかかっていた。
エネルギーの市場価格が上がるとその分だけ直接経費増につながるため、なんとか、エネルギー
市場価格と連動しない、長期的に安定したエネルギーが手に入らないものかと喧々諤々の討論を
していた。そこで、使用済の食用油からディーゼルオイルが作れる事を知っていた農民の一人が
「我々でトラクターの燃料を作る会社を設立しようではないか」という提案をした。事業化の難
しさを冷笑する大方の意見の中で、何人かの熱心な人々が同意し、その後、1987 年から 2 年間、
近くの農業大学で実験を行い、技術的にも、経営的にも事業が成立することを確信し、1989 年
に SEEG(南スティリア・エネルギー協同組合会社)を設立した。当初は「単なる物好き」程度
に見られていたこの活動も、やがて創立者たちの熱意ある説得と実績の積み重ねによって同調者
が増えはじめ、最終的には地域を越えた 570 軒を越す農家が出資会員としてこの会社の運営に参
画した。その後、SEEG の順調な経営に支えられ、1998 年に NarWarme(近隣暖房会社)が SEEG
の出資者と新たに加わった 2 軒の農家によって設立され、更に 2003 年に NarWarme 出資者と
新たに 7 軒の農家が加わりバイオガスによる電力会社 EkoStrom(エコ発電会社)が設立されて
現在に至っている。
3 社の概要は次の通りである。
◇
南スティリアエネルギー: 従業員 16 名、バイオディーセル生産年間 1000 万リットル(1
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リットルの卸価格は約 150 円-市場価格は 200 円)
、原料は近くのグラーツ市から出る廃食用油
が 90%で、出資者の農家の栽培す
る菜種油が 10%、顧客は出資会員、
市町村役場、公共・民間輸送会社、
民間ガソリンスタンドなどである。
◇
近隣暖房: 従業員 2 名、1000
kW のバイオマスボイラー2 基、
年間 7500MWh を給湯、顧客は近
隣の 250 軒で、1 軒当たりの暖房
費は年間約 20 万円である。顧客と
なる家までのパイプ敷設費(8 万
円)は会社が持ち、屋内の設備工
事費用は利用者が負担するように
なっている。
◇
エコ発電: 従業員 2 名 処
理量 120 トン/日(エネルギー作
物 60% 家畜糞尿 30%、グリセリ
ン等の産廃 10%)、発電機出力 1 メガワットで年間出力 8000MWh(売電価格は 1Kwh 約 20 円
で、年間売電収入は 1 億 6000 万円)
、そして年間 9000MWh の温水を近隣暖房を通して付近の
住宅に供給、消化液は広さ 800 ヘクタールの農地に液肥として散布している(内 500 ヘクタール
はエネルギー作物用)
この3社の設立の経緯には、バイ
オマスエネルギーの製造における
重要な要件が含まれている。それ
は、廃食用油からバイオディーゼ
ルをつくる「南スティリアエネル
ギー」の工程にはかなりの熱を必
要とし、その熱源に石油や電力を
使っていたのでは採算も合わない
し、また、環境保護の立場から好
ましくない。そこで、このスティ
リア県の地場産業である製材や家
具工場から木片や鋸くずを集め、
バイオマスボイラーで熱源を確保
し、平行して近隣の農家へ暖房用
の温水を供給する会社「近隣暖房」を設立した。そして次のステップとして、バイオディーゼル
製造工程から出る処理が困難な副産物であり、エネルギー価の高いグリセリンとオイルの洗浄水
の処理のために、バイオガス発電による「エコ発電」を設立し、このプラントから出る電力と熱
エネルギーを販売するという、3社の特徴を生かし、余熱や残渣を上手く利用しあう相関関係を
確立したのである。3 社で 20 臆円近い売り上げを達成し、当初は無料であった廃食用油や木材
屑が、今では買取りになっているが、原料費が安価で安定した供給があり、バイオディーゼルや
ボイラーのプラント設備費の償却が進んでいること、従業員が少ないこと、エネルギー利用効率
が高いこと、などから、各会社の収益率はかなり高く、出資者への配当も充分に行われているよ
うである。
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バイオマス・エネルギーの抱える問題点には、食料との競合が指摘されるが、EU では家畜飼
料については、どの国でも自給体制がほぼ整っており、特にフランス、ドイツ、オーストリアな
どの主要国では、飼料用穀類や酪農製品が国内需要を上回る生産過剰になっており、全体の食料
自給率も日本よりはるかに高いことなどから、石油価格の値上がりが日本のように直接的な食品
の値上がりにつながっていない。EU 政府の強力な CO2 削減政策の実行のもとに、各国で再生可
能エネルギー促進政策が採られ、バイオエネルギーの普及が進んでおり、最近、遊休農地へのエ
ネルギー作物栽培を推奨するため、作物栽培規制が撤廃されたという。このミューレック村のプ
ロジェクトでは、地域のエネルギー需要を全て賄える、自給自足地区になることが基本的な目的
になっており、オーストリア政府、スティリア県、などからもその成果が大いに注目されている。
2001 年には、国連や EU 政府、国際的なエネルギー関連団体が共催している「世界エネルギー
地球賞」の第一位を受賞している。現在でも、毎週2~3組の見学者たちが世界各国から訪問し
ており、工場案内が仕事の一部になっていると、説明役の所長は苦笑いをしていた。
再生可能エネルギーは、小規模で地方分散型のエネルギーであり、なかでもバイオエネルギー
は由来が農産物であったり、家畜糞尿であることから、バイオエネルギー製造業は農業地域には
極めて馴染みやすい産業である。このミューレック村は、世界のどの国でも見られるような典型
的な都市近郊型の農業地域であり、エネルギー原料の生産、プラントの設置条件、エネルギーの
製造、販売、消費などの条件が全て整っており、まして、出資者が農業という「正業」を持ち、
バイオエネルギー製造への出資が「副業」になることから、経済的にも極めて有利な条件が揃っ
ており、このビジネスモデルを日本にそのまま当てはめることも不可能ではないように思えた。
最後に「バイオエネルギー・ミューレック」の会社案内に書かれていた挨拶文を紹介してこの報
告の「まとめ」としたい。
(今泉亮平記)
(中略)この地域では現在、持続可能で、クリーンなエネルギー源を使用しています。遅くも
2010 年までに、地域の全エネルギー需要を満たすことができる 100%エネルギー自給自足体制の
確立が、すでに経営計画の中に設定されています。これは言い換えれば、ミューレック地区の全
ての人々が、仮に化石燃料の価格が現在のバイオエネルギー価格より安くなったとしても、再生
可能エネルギー資源への切り替えを受け入れる覚悟であることを示しています。私たちの事業は、
損なわれない環境、エネルギーと食の安全な生活、株主配当という付加価値、そしてその結果と
して地域の雇用の発生という、住民にとって好ましい結果をもたらしました。世界各地からここ
に見学にこられる多くの人々を通して、私たちの事業が、そのまま世界のどの国にでも適用でき
るモデルプロジェクトして紹介して頂ければ、これほどうれしいことはありません。私たちの事
業が創り出すバイオディーゼル、バイオマス暖房、バイオガス、および環境に優しい電力を含む
総合エネルギーシステムは、未来への力強い貢献になるものと信じております。バイオエネルギ
ー・ミューレック協同組合が、世界 83 カ国の 1,230 もの応募の中から、世界エネルギー地球賞
第一位の栄冠に輝いたことをとても誇りに感じており、その後の活動は、ミューレック村民気象
連合が 2006 年に受賞した、ヨーロッパ・ソーラ賞につながっています。私たちは、このメッセ
ージを世界に広げるため、世界中の多くの皆様が、私たちの活動に一緒に参加して頂くことを心
より願っております。それが結果的として、世界平和の実現と、持続可能な未来の社会をもたら
す唯一の方法であると私たちは信じているからです。
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