が ばれ ん ! 肉牛 生き残りをかける 中山間地の肉用牛増頭運動 愛媛県西予市 愛媛県西予市 愛媛県西予市 繁殖牛の放牧 繁殖牛の放牧 繁殖牛の放牧 繁殖牛の放牧 繁殖牛の放牧 「ミカン王国」果樹立県の愛媛県において、畜産の生産額が全国の30位前後 と下位にある中で、西予市は飼養頭数・生産額とも県内の5割を占めています。 県下の市の中では最も広い面積を有していますが、海抜0メートルから1,400 メートルまでの標高差があり、急峻な農地が8割と不利な条件の中で、創意工夫 を重ね、繁殖和牛農家や飼養頭数が微増している地域であります。そのような悪 条件の中で、いかにして経営を展開しているのか紹介いたします。 西予市野村総合支所 産業課 課長補佐 土 居 眞 二 の山間部と三瓶・明浜の臨海地での酪農・養豚・ 1 地域の概要 肉用牛経営が行われており、急峻な斜面にへばり ついたような風景を想像させる。 西予市は、愛媛県の南部中央に位置し、東部の 日本3大カルストの一つ「四国カルスト」から宇 和海に臨む農林水産業を主産業とするまち。市街 の平坦部を北流して瀬戸内海に注ぐ肱川と、その 支流に発達した河岸段丘と背後の起伏に富んだ中 山間部からなり、標高1,400メートルまでの丘陵 な中山間部に囲まれており、主な農耕地は標高 200〜400メートル以上の地形が全体の41%を占 め、標高400メートル前後に至る斜度15度未満の 傾斜地は多様な農林業を支える基礎となってい る。 西予市は、平成の大合併により宇和町・野村 町・城川町・明浜町・三瓶町の5町が合併し市制 が施行され、人口47,000人足らずの「まち」とし て 平 成 1 6 年 に 誕 生 し た 。 農 家 率 は 、 県 平均の 2 畜産業の位置 9.6%に比べ26.1%と2倍以上で、農業への依存が 西予市の畜産業は、乳用牛4,450頭、肉用牛 高いことを窺わせる第1次産業が中心のまちであ 7,260頭と県内の5割近く、養豚に関しても46,300 る。 しかし、利用可能な農地は中山間地に集中 頭と2割ほどを飼養する畜産地帯であり、そのほ し、一部水稲中心の宇和盆地以外は、野村・城川 とんどが中心部から離れた急崚な地形で営まれて 31 が ばれ ん ! 肉牛 いる。昭和の戦中から乳用牛が導入されて60年以 盧 山林を開拓し繁殖牛の放牧 上、近年酪農を筆頭に高齢化と生産コストの増加 昭和53年に就農した井関秀夫さんは、就農と同 から、廃業する農家が増加。県内最大の畜産地帯 時に30頭規模の酪農業を営んでいた。平成3年頃 の存続を危惧する声が聞かれ始めている。 に黒毛和種のET(受精卵移植)に取り組み始め、 西予市作物別生産割合グラフ 8年に酪農から本格的に肉用牛繁殖に経営転換。 耕作放棄地であった栗や松林約5haを放牧地と して開墾し、センチピードや野シバのシバ型草地 に更新をさせた。放牧地は斜度10〜30度もあるこ とから、繁殖牛は足腰が強く発情も明瞭で、繁殖 生成期は良好である。また、放牧地を有効利用で きることや、牛舎等の施設も酪農時代の施設を利 用できることもあり、低コストでの肉用牛繁殖経 営が実現できた。その活動が認められ、18年には 第10回全国草地畜産コンクールにおいて、日本草 地畜産種子協会長賞を受賞するなど、模範的な繁 殖農家である。 急峻地の牧場で 3 繁殖農家の現状 繁殖経営を営む 井関秀夫さん 現在西予市では、東宇和農協管轄の生産者組織 「東宇和繁殖和牛部会(会員66名)」が主体となり、 繁殖和牛の拡大のために増頭、優良繁殖素牛の導 入、先進地の市場視察や農場見学等による飼養管 理研修などに取り組んでいる。畜産振興センター 内の家畜市場において2カ月に1度臨時市場が開 催されているが、平成18年度は約240頭程度が出 荷され、市場平均価格も47万円を超えるなど、少 しずつその地位を確立しつつある。折しも畜産危 機が叫ばれている中、微増ながら増頭活動の中で がんばる当地域、特に旧野村町の繁殖和牛増頭に 向けた生産者の事例を紹介したい。 盪 乳・肉複合による繁殖和牛の増頭 典型的な中山間地において親子4人で乳・肉複 合経営を営む山本誠さんは、父親が昭和37年に始 めた酪農(30頭規模)を、昭和63年に引き継ぐか 繁殖和牛飼養動向(野村町) たちで就農。当時は親子3人で酪農中心に経営し ていたが、平成11年に黒毛和種のETに取り組み、 15年には町単独事業の農業振興基金により堆肥舎 を整備。乳量の計画生産による生乳生産の抑制等 酪農情勢が厳しさを増すなか、18年には、地域肉 用牛振興対策事業の採択を受け、牛舎1棟と繁殖 雌牛9頭を導入し、本格的な繁殖和牛経営に着手。 5年後に26頭程度の増頭を目指す。 32 蘯 定年退職後の新規就農 地方公務員を定年まで務めた藤原輝明さんは、 退職と同時に約15aの農地を購入し、繁殖和牛農 家に。飼料自給率を高めるためコーン等の飼料を 作付けし、その横に牛舎を建設。九州から繁殖和 牛を3頭導入し、繁殖和牛農家としてスタート。 先日、孕みで購入した1頭が念願の出産。現在4 頭で今後も増頭を進める。将来的には、周辺の山 林を購入し放牧地として開墾したい希望もあり、 新規就農者が頼もしい活力となっている。 鳥取全共に出場した「かほ号」と鈴木伸茂さん 5 今後の方向 国を挙げて和牛の増頭対策が進められる中では あるが、世界的な規模でのエネルギー事情の変革 より、飼料の高騰が畜産経営の意欲減退に拍車を かけている。微力ではあるが、市でも主要産業の 維持に生産者の負担を軽減するため、特別基金を 新規就農した藤原輝明さんの牛舎 設け、「西予市肉用牛産地強化支援事業」と「西 予市肥育肉用牛及び乳用牛産地強化支援事業」を 創設した。前事業は県の支援を受け、繁殖和牛85 4 元来の畜産地帯 頭分を無利子で貸付し、5年後に導入資金を返還。 後事業は、肥育牛・乳用牛の導入費用を貸付する。 このような3例が、当地域の繁殖和牛農家増の どちらも市財政が逼迫する中での苦肉の策である パターンである。一方酪農家は、飼料高騰のあお が、生産者の増頭意欲の復活に一助となってほし りを受けて、19年度に愛媛県全体で12%も離農し いと願っている。 ていることが判明。市の農業総販売額の2割弱を まだまだ明るい兆しの見えない畜産業におい 占める酪農が生産力を落とし関係者が衝撃を受け て、今後とも適正価格での飼料の確保が大きなウ ている状況の中で、肉用牛特に繁殖牛に転換する ェイトを占めると予想される。市においても、ワ 農家が増え、その人たちが、別の意味で畜産業の ラの確保や裏作利用で粗飼料増産対策について生 活力として一役買っている。「もともと牛が好き 産者との協議を開始した。耕種・畜産双方の利点 じゃけん。」そういいながら、肉用牛の飼育に汗 を生かした西予方式の耕畜連携対策を進めるた を流す姿を見る。昨年は、鳥取県で開催された第 め、耕畜が相互協力し合う体制づくりが不可欠で 9回全国和牛能力共進会にも県代表で第2区に出 あろう。西予市は、本州の気候が網羅される「本 展するなど、地域を挙げて繁殖牛の積極的な増頭 州すっぽりせいよ」をまちづくりのテーマとして や改良にも熱心に取り組む活動に、畜産地帯の伝 掲げている。耕種・畜産を含めた「愛媛の食糧基 統と誇りのようなものを感じる。 地」としての存在を確立し、その中核となる畜産 が、ますます地域のリーダー産業として確立され るよう、畜産の振興に努力していきたい。 (どい しんじ) 33
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