配布資料③ 大学における新たな資金調達に 関する研究会報告について 国立大学法人等の財産管理に 関する研究協議会 平成19年5月28日 報告書の主な内容 1.国立大学法人の借入・債券発行による資金調達制度の概要 ( 1) ( 2) 制度概要 制度利用上の留意点 2.資金調達手段としての債券発行の意味 ( 1) ( 2) 債券とは何か 債券発行の実際 3.債券発行に関わる学内の意思決定プロセス ( 1) ( 2) (3) 大学全体の予算・資金の運用調達計画の策定 学内組織の立ち上げ 起債に関する外部企業の選定と契約 4.債券発行に伴う手続き ( 1) ( 2) (3) 手続き全体 学内手続 学外との手続き 5.債券発行後の管理 ( 1) ( 2) 償還計画の管理 デフォルト防止への対応 資料編 (1) 民間における資金調達手法 (2) 私立大学(学校法人)における学校債等の資金調達手法の紹介 (3) 米国の大学の債券発行動向 (4) 地方債等の発行手法の紹介(共同債、レベニュー債等) (5) 格付けの説明 (6) 独立行政法人国立大学財務・経営センターが行った財投機関債 での資金調達 1.国立大学法人の借入・債券発行による資金調達制度の概要 (1)制度概要 ① 長期借入金及び債券による資金調達の目的 法人化による自主的・自律的な大学運営が可能となり、各大学自らのイニシアチブによる施設 整備の取り組みへの機運が高まったことを受け、平成17年12月に国立大学法人の長期借入金及 び債券(以下「長期借入金等」という。)による資金調達の目的を拡大する国立大学法人法施行 令の改正が行われた。 【借入等を行うことが出来る対象について】 1 一定の収入が見込まれる施設の用に供される土地の取得、施設の設置若しくは設備の設置(以 下「土地の取得等」という。)であって、当該土地、施設又は設備を用いて行われる業務に係る 収入をもって、当該土地の取得等に係る長期借入金等を償還できる見込みがある以下のもの。 イ 入居者からの寄宿料を償還財源とした学生寄宿舎の整備 ロ 入居者からの宿舎料を償還財源とした職員宿舎や外国人研究者の宿泊施設等の整備 ハ 診療報酬を償還財源とした動物病院の整備 ニ 施設使用料を償還財源とした産学連携施設(インキュベーション施設、ベンチャービジネ スラボラトリー等)の整備 2 業務の実施に必要な土地の取得であって長期借入金等により一括して取得することが、国の補 助金等により段階的に取得する場合に比して相当程度有利と認められるもの。 (筑波大学、奈良先端科学技術大学院大学、高エネルギー加速器研究機構) ② 償還原資と認められるもの - 長期借入金等をする国立大学法人等は、毎事業年度、長期借入金等の償還計画を立てて、文部科学大臣の認可 を受けなくてはならない(法人法第34 条)。 を受けなくてはならない(法人法第34条)。 - 償還原資は、調達した資金によって取得・整備する、土地・施設・設備を用いて行われる業務に係る収入で なくてはならない。 - 当該土地、施設、設備を用いて行われる業務は、当然に国立大学法人法第22条第1項に規定する業務の範 囲内であることが必要である。その意味でたとえば、学生寮としての賃貸のほか、マンションとして売買するこ とも予定している場合には、マンション売買は国立大学法人の業務の範囲外であるため、認められない。 ③ 償還原資で償還できない場合の処理 - 認可対象業務の収入が不足する等の要因により、当該業務の収入によっては償還が計画どおり行うことができなくなった場合における 償還の財源については、国立大学法人において確保する必要がある。 - 本制度で借入や債券発行を行った大学法人は金融機関や投資家に対しては債務者あるいは債券発行者として、債務を返済する義務を 負っている。 (2)制度利用上の留意点 業務に係る収入をもって償還すべき額には、合理的に考えて当該業務に必要と思われる経費も含まれる。たとえば寄宿舎の場合には、 管理人費用や共有部分の光水熱料など。 また、民間と国が資金を出し合う合築に類するものとして、たとえば民間の寄付と寄宿料とを財源として寄宿舎を整備することも考 えられる。ただしその場合には、国立大学法人の財務状況を健全に保つべく償還原資を限定した法の趣旨を没却しないように、双方を 明確に整理した償還計画を提出することが求められる。 2.資金調達手段としての債券発行の意味 (1)債券とは何か 債券発行の基本原則:私募債や縁故債を除いて公募債券は通常満期一括 償還であり、返済元本を満期までとどめて置く点が、分割返済が基本形で ある長期借入金との違いとしてあげられる。 公募債は多くの投資家に販売され、転売流通されることを前提としてお り、分割返済が付帯条件としてあると、元本の一部が償還されるリスクを 投資家に負わせることになり、金融商品として魅力がそがれるためと考え られる。 しかしながら債券には借入金と異なる下記のメリットが存在する。 ・長期(20年~25年等)安定的な資金調達 ・株式に近い安定的な調達手段 ・大規模(100億円以上)な発行の場合、長期借入金より利率、手 数料、事務処理コスト等勘案すると有利な場合が多い。 (2)債券発行の実際 債券発行のコスト ・ 金利(対投資家) ・ 引受販売手数料(証券会社) ・ 募集受託手数料(受託会社) ・ 元利金支払手数料 ・ 新規記録手数料(株式会社証券保管振替機構) ・ 格付け手数料(格付会社) ・ 債券内容説明書作成費用(印刷会社等) 3.債券発行に関わる学内の意思決定プロセス 重要な財務行為である債券発行に関しては、法人としての組織決定を行うことが必要であり、 その意思決定のプロセスが適正でかつ明確であることが求められる。 (1) 大学全体の予算・資金の運用調達計画の策定 大学全体の資金計画の必要性 一般企業≠大学 償還原資の確認、償還の可能性について企業よりも慎重な検証 調達手段の選択(長期借入金あるいは債券発行) …資金の使途や将来の償還負担、調達コスト等を勘案し、決定 検討ポイント ・調達資金の具体的使途 ・資金使途のプロジェクトの償還能力を勘案した償還期間・方法 ・金利、手数料等を含めた調達コスト ・手続きが簡易な借入金でなく債券発行を選択する理由 ・債券発行における発行金利水準の予想(格付け等) ・資金使途のプロジェクトの金利負担の能力・限界 債券発行の特徴 - 債券発行を用いる場合は、通常償還方法が満期一括になることから、一時的には手元資金 が潤沢になる一方で、満期となる将来の一時期には多額の返済が必要。 - 国立大学法人は、支払債務と各種収入受入時期の相違を管理し資金不足を回避し余剰資金 を運用する、いわゆる資金繰り業務自体の経験が少ない。 - 債券発行では相当な長期に亘って大学法人全体のキャッシュフローの予測管理が必要かつ 重要となるので、資金繰りや資金運用について、人材も含めた十分な体制が必要。 …これらの債券発行の前提条件及び概要については、経営協議会の議を経て役員会による 意思決定が必要と考えられ、その上で発行条件の細部や発行手続きに関して、学内にプロ ジェクトチーム的な組織が必要。 (2) 学内組織の立ち上げ - 実務的な条件や手続きを確定させていくための組織 学長・役員会 財務部門、調達資金の投入プロジェクトの関係者など学内関係者(債券発行に関わる情報 収集能力と知識を有する者が必要) アドバイザー(証券会社)…早期に選定が必要 (3) 起債に関する外部企業の選定と契約 幹事証券会社 幹事証券会社は債券発行に関わる諸手続き、債券発行、販売までの起債活動全般の運営管理を担っている。そ のため幹事証券会社の選定は、債券発行準備作業でも早期に決定すること、単に料金やコストだけでなく、大学 に対する支援体制、類似の発行体での幹事実績等を勘案して決定することが望まれる。 幹事証券会社の選定手法としては、一般には債券発行に関わる支援体制や発行内容に係る条件等を盛り込んだ 提案書を証券会社に提出してもらい、その提案内容を大学側で吟味して決定することが考えられる。 なお参考として国立大学財務・経営センターでは以下のような項目を評価項目として選定し、各社の提案書に これらの項目についての記載を求め評価を行っている。 ・ 主幹事引受けの意思 ・ 主幹事及び引受けの実績(直近3 主幹事及び引受けの実績(直近3年) ・ 債券に関する販売戦略 ・ IR活動内容 ・ 発行業務全般のサポート体制 ・ 作業スケジュール ・ 発行コスト削減方策 ・ 発行手数料 受託会社 受託会社は債券発行に関する事務を受託する会社で、新たに導入された振替債制度で発行代理人、支払代理人 となる。 一般には取引銀行等を中心に受託実績等から受託会社が決定されている。 格付け会社 格付け会社は発行する債券及び債券の発行体に対する格付けを行う会社であり、金融庁が定めている指定格付 け機関の中から選定する。現在指定されている格付け機関は以下の5社である。 ムーディーズ 、スタンダード& )、フィッチレーティングス、格付投資情報センタ(R&I R&I) ) 日本 、スタンダード&プアーズ(S&P プアーズ(S&P)、フィッチレーティングス、格付投資情報センタ( 格付研究所 4.債券発行に伴う手続き (1) 作業項目 ・ 保振宛振替制度参加手続 ・ 起債関係者の選定 ・ 債券内容説明書作成 ・ 契約書作成 ・ 格付の取得 ・ 認可申請・取得手続 ・ その他(IR活動等) ・ 募集開始 ・ 需要予測 ・ プライシング ・ 募集開始~発行日 ・ 債券内容説明 ・ 償還計画の認可取得 ・ 元利払の履行 ・ その他必要な手続 (2) 学内手続 ① 学内の意思決定 - 資金の使途や将来の償還負担、調達コスト等を比較検討して決定 - 債券発行コスト、金利動向、物件の維持コスト等に関する検証を通じて、償還可能性を確認 - 償還シミュレーションの検討モデル 「前提条件」 ・ ・ ・ ・ 物件建設費:土地取得費用、建設資金 収入予想額:家賃・利用料・診療報酬等の設定単価及び将来変動、施設の規模 維持管理費:修繕費、管理費等 債券発行条件:発行額、償還期間、金利、返済方法等 「検討ポイント」 ・ 収入額の見積もり妥当性:現状の市場相場比較、将来的な相場変動、稼働率予測 ・ 施設の建設費:設備仕様、規模、工法等で大きく変動 ・ 維持管理費:施設運営体制、施設内容等で変化、大学の他の予算による負担可能性 ・ 債券条件:金利、手数料、償還期間、応募の可能性 ② プロジェクトチームの立ち上げ - 一般企業であれば、債券発行等は通常担当部署である経理部門で対応するが、国立大学法人は債券発行の経験 がなく、また債券発行に当たっては調達資金の使途に関する情報、大学全体の経営情報等幅広く情報提供が必要 になるため、組織横断的なプロジェクトチームの組成が必要となる。構成メンバーとしては、財務担当理事を リーダーとして財務部門、施設部門、取得または建設する施設の関係部局のメンバーなどが想定される。 - 学長が意思決定した後は、幹事証券会社等起債関係者との交渉・調整の直接の窓口は財務部門として、関連す る意思決定はプロジェクトチームで決定する。ただし最終的な発行条件決定等必要な場合は学長・役員会・経営 協議会の了承を得ることが適当である。そのため、適宜プロジェクトチームから学長・役員会・経営協議会等経 営層に進捗状況、課題事項等を説明し情報共有を図ることが望ましい。 (3) 学外との手続き ① 証券会社との手続き ・ ・ 引受け審査 債券の募集条件の決定 ② 格付け会社との手続き ・ ・ 格付けの申込み 格付け会社からの調査対応 ③ 受託会社との手続き(募集委託契約、振替債制度利用準備、元利金支払手数料決定) ・ 募集委託契約締結 ④ 文部科学省への手続き 国立大学法人は債券発行に関して、文部科学大臣の認可が必要条件となっている(国立大学法 人法33条)。これは債券発行の法的条件となっており、債券発行内容を確定次第、速やかに認 可を得ることが求められる。法令上は募集の日の20日前までに文部科学省に認可申請をするこ とが定められている(国立大学法人法施行令21条)。その際、申請書には発行理由等の記載や 資料の添付が要請されている。 ⑤ IR活動(資料作成、HP開示、アナリスト説明会、個別投資家訪問、セールスミーティング) ・ ・ ・ ・ 資料作成、HPでの開示 アナリスト説明会 個別投資家訪問活動 セールスミーティング 5.債券発行後の管理 (1) 償還計画の管理 - 債券発行は通常満期一括償還のため、一時期に多額の返済資金が必要となる。単年度の予算管理 と異なって、債券発行期間中長期に亘る償還計画の策定が求められる。 - 国立大学法人は、国立大学法人法により毎事業年度、債券の償還計画を立てて文部科学書の認可 を得ることが求められている(同法34条)。これまで単年度の資金交付を受けて年度内に予算 として費消する形態の資金繰りが主体であった国立大学にとって、毎年度の収益を原資として長 期に亘って資金計画を策定する作業は未経験の業務であり、十分な検討を重ねながら対応するこ とが求められる。 - 具体的には収益の増減動向と見通し、償還期限時点に向けてのキャッシュフロー管理法がポイン トになる。収益原資である家賃、利用料等の増減は償還可能性に直結するファクターであり、毎 年度稼働率、単価動向等を注視しておくことが必要である。キャッシュフロー管理は償還原資と して毎年度収益物件から獲得される利益を償還時点までに適切に運用して、償還時資金不足を回 避することである。長期の運用調達計画と比較的短期の資金繰計画が必要である。 - 一般の企業では社債の償還は、一般的な現預金・有価証券の取崩や、遊休資産や周辺事業分野の 売却で対応し、最近は保有資産の流動化等も行われている。また実質償還せずに、借換債を発行 したり、借入金や増資等で対応することも行われている。従って選択肢が多く、償還時期近くに なっても対応が可能なことが多い。 - 国立大学法人は収益物件の収入以外は資産売却が困難で一方借換も難しく、現預金・有価証券の 取崩での対応にほぼ限定される。したがってキャッシュフローの管理を確実にするためにも毎年 償還計画を見直し確認することが望まれる。 (2) デフォルト防止への対応 - 発行した債券の元本あるいは利息の償還ができなくなると、発行者は通常当該債券の債務に関し 期限の利益を喪失し、債権者から全額の償還を求められる。一般的には公募債券の支払不能にな れば、発行体は破綻したと見なされる。 - 国立大学法人法では法人が破綻した際の規定は特に定めていないが、発行した債券を保有する債 権者に対して、他の債権者に優先して弁済を受ける先取特権は認めている。(同法33条4項) - 実際上は支払い不能の情報が外部へ流出するだけで、当該発行体の全部の債権者が債権保全の行 動を起こすことにつながり、実際には資金不足や支払い不能でなくても、結果的に支払い不能に なってしまうことが想定される。そのため債券発行時には債券説明書では期限の利益喪失条項を 特約条項として限定記載し、記載事項以外の期限の利益喪失を認めていない。 - 一方で債券保有者に対して発行体である国立大学法人は、財務内容等を積極的に開示し、債券の 償還可能性に対する情報発信を償還期間中継続的に行うことが、信頼獲得のために望ましい。償 還計画の公表、資金使途である収益物件の収支状況等、適切な形式で公表していくことなどが想 定される。 - なお米国の有力私立大学は、債券発行による資金調達を積極的に行っており、そのためIRの一環 として債券の償還計画について公表している。
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