▶▶▶▶▶▶ 労 ◆ 働 ◆ 法 ◆ 務 ◆ 採用について JC総研 経営相談部 本誌が発行されるのは 3 月。春の明るく穏やかな気 労働基準法第1条では「労働条件は、労働者が人た 候のうちで、卒業、新入学、就職のシーズンの真った るに値する生活を営むための必要を充たすべきもので だなかです。 なければならない」と定め、他の条文では、契約期間 JC総研の経営相談部にも、採用に関する質問が寄 を定める場合の制限、労働契約の不履行についての せられてきます。 違約金の定めの禁止、労働者の前借金と賃金の相殺 そこで、 「就職する」つまり「採用」とは、どういう の禁止など、労働者を保護する規定がされています。 ことなのか考えてみます。 また、労働契約法第1条では「労働者及び使用者の 自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、 1 又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関 .採用するとは する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条 「採用」とは、使用者と労働者が雇用契約を締結す 件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを ることとされています。民法第 623 条では「当事者の 通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の 一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相 安定に資することを目的とする」とされています。 手方がこれに対してその報酬を与えることを約すること つまり、これらの趣旨に沿って考えると、使用者は によって、その効力を生ずる」と規定しており、この関 労働者を採用する時には、労働者の保護の観点に立っ 係を雇用契約と呼んでいます。 て契約を締結することが大切であると思われます。 一方、労働契約法第6条では、 「労働者が使用者に うことについて、労働者及び使用者が合意することに 2 よって成立する」と規定しています。 一方、使用者が労働者の採用を行う場合、公共の 民法では「約することによって、その効力を生ず 福祉、労働者保護、人権などの原理に基づく法律に反 る」、労働契約法では「合意することによって成立 しない限り、自由とされています。 する」となっており、 「働きたい」と申し込み、 「働い よく引用されるのが、三菱樹脂事件大法廷判決(最 てください」と承諾すれば、契約は成立することになり 大判昭 48.12.12)で、 「憲法は ・・・(略)・・・ 第 22 条、 ます。 第 29 条等において、財産権の行使、営業その他広く しかしながら、昔から労働者の方が使用者側より立 経済活動の自由をも基本的人権として保障している。 場が弱い場合が多く、そのため、使用者が不利な条 それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環として 件を労働者に押し付けることがないよう、法律でもい する契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働 ろいろな配慮がなされています。 者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、 使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払 58 労働法務チーム JC総研レポート/2014年 春/VOL.29 【労働法務】採用について .採用の自由 ◆◆◆◆ いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他に まな要請により、法律上の制約が増えており、使用者 よる特別の制限がない限り、原則として自由にこれを としては、それらに留意しながら、採用活動を行って 決定することができる」 (下線、筆者挿入)とされました。 いくことが必要と思われます。 ▶▶▶▶▶ 労 働 法 務 昭和から平成に移り、現在は、この判決文のなかの 「法律その他による特別の制限」が増加し、強化され る流れにあります。 【参考資料】菅野和夫『労働法 第 10 版(法律学講座双書)』弘文堂、 2012 年、など 以下に、 「法律その他による特別な制限」にどのよう なものがあるか簡単に記載します(表)。 これらの判例・法律などから、採用については、何 人採用するか、どのような人を採用するかは本来的に は使用者の自由です。しかしながら、男女の雇用機会 均等や、障害者保護、派遣労働者の保護などさまざ 【労働法務】採用について JC総研レポート/2014年 春/VOL.29 59
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