人生の妙味

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「 人生の妙味 」
月刊『致知』1998 年 5 月号より
ニューヨークのある病院に運ばれてきたナンシーは、
3歳なのに1歳半ほどの大きさしかなく、干からびた猿のようだった。
調べたが病気ではないし、器質異常も見当たらない。
主治医は一度も姿を見せない両親を訪ねた。
ハーバード・ビジネス・スクールで学ぶ若い両親はパソコンに向かい、
論文の仕上げに没頭していた。
そして言ったものである。
「あの子は必要なかった」。
主治医はナンシーをベッドごと人が行き交う廊下に移した。
「私に〝ナンシー〟と声をかけてください。
抱き上げて頬ずりをしてください。」と書いた貼り紙をして。
多くの人がそうした。
3ヶ月後ナンシーは3歳の体重を取り戻し、
バラ色の頬に可愛い笑いを浮かべるようになった――。
釈迦は「生老病死」を四苦、この世でどうにもならないもの、といった。
だが、四苦は人間の関わり合いによってまた新たな彩りをそえることを、
この実話は示している。そこに人生の妙味がある。その妙味を発揮し、
堪能する人生を生きたいものである。
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