1 プロジェクト名 複合プラズマ装置によるμリアクターシステム製造技術の研究開発

プロジェクト名
研究背景
研究目的
及び目標
複合プラズマ装置によるμリアクターシステム製造技術の研究開発
(研究背景)
従来、バイオテクノロジーや医薬品、ファインケミカル分野等においては、化学的な反応や物理
化学的な分離操作を行うために、研究開発の段階では試験管やフラスコなどの実験器具
を使い、大量生産に移行する際は、プラントを立ち上げて対応してきた。しかしなが
ら、このスキームでは、物質生産のターンアラウンドが遅い、大量の副生成物や廃棄物が排出
される、莫大な経費を要するなど、様々な問題があった。このため、種々の化学的
操作をマイクロチップ上の微小空間で行うμリアクターシステムの実現が強く期待されている。現
在、研究開発されているマイクロチップは、チップ基材と加工寸法、精度に限界があり、所
望のチップを安価で大量に生産できる技術が求められていた。
(研究目的及び目標)
このため、本プロジェクトでは、地域で富山県工業技術センター、立山科学グループ及び㈱
斉藤製作所が取り組んでいる技術と(独)物質・材料研究機構及び大阪府立大学の
本テーマに関連する研究ポテンシャルを融合し、次の研究目的のもとに共同で研究開発を実
施した。
①研究目的
ポリマー材料に対するプラズマエッチング法による高精度微細加工技術を開発する。さら
に、プラズマエッチング、ポリマー材料の表面改質並びにメタライジングを同一チャンバーで合理的に
実現するのに適した複合プラズマ装置の開発を行う。また、この装置を応用して微細
流体回路の製作を行うとともに、作製した微細流体回路に対する評価をマイクロ切削加
工法により作製した微小流体回路と比較対照しながら行い、合わせてμリアクターシステム
の製造技術を総合的に開発する。
②研究目標
・ポリマー材料の高精密加工技術の確立
ポリマー材料
PMMA、PC など エッチングレート 1.0μm/min 以上
加工精度
0.1μm
加工表面粗さ 0.1μm(Ra)
アスペクト比
10 以上
リッジ角
88°以上
・複合プラズマ装置の開発
機能 反応性イオンエッチング、マグネトロンスパッタリング、プラズマ CVD を
同一チャンバーで実現
プラズマ生成方式 永久磁石使用のμ波の電子サイクロトロン共鳴(ECR)方式
プラズマ密度
1011/cm3 以上
ステージ制御温度
-40∼100℃
・微細流体回路の試作・評価
複合プラズマ装置で開発したプラズマプロセス技術を用いて、従来技術では困難で
あった微細流体回路の設計から試作を行う。また、流体素子を用いてサンプル液
滴の作製・反応、反応計測などの評価を行う。
成果概要
本研究開発により、次の成果を得ることができた。
[Ⅰ]ポリマー材料の高精密加工技術の確立
①深堀加工技術の確立
9 種類の熱可塑性ポリマー材料(PMMA、PC、POM、PMP、PP、PE、PA66、TOPAS、APEL)
について、酸素プラズマにおけるエッチング速さのプロセス圧力依存性と高周波電
力依存性を明らかにした。次に、透明な 4 種類のポリマー材料(PMMA、PC、PMP、
APEL)に対する反応ガス種及び組成に関する微細加工特性を評価し、O2-CF4 、
O2-CCl4、あるいは O2 を PMMA に対して用いたとき、エッチング速さ、エッチングの
表面平坦性において最も優れていることが分かった。さらに、本プロジェクトで超
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鏡面加工を行ったポリマー材料 5 種類(PMMA、PMP、PP、POM、PC)に対して、チタ
ンをマスクとしたエッチングサンプルを作製したところ、UV フォトリソグラフィ
や湿式エッチングの条件を最適化することにより、最小線幅 1μm の溝パターンを
形成することが可能になった。このエッチングサンプルに対して、酸素プラズマで
反応性イオンエッチングを行ったところ、PMMA、PMP、PP、POM において、研究目
標値であるアスペクト比 10 の深堀加工を実現した。特に PMMA に対して、溝幅 7μ
m、深さ 90μm、アスペクト比 13 の深堀加工が可能であることを示した。
②超鏡面加工技術の確立
8 種類の熱可塑性ポリマー(PMMA、PC、POM、PMP、PP、PE、PA66、APEL)について、
化学的機械研磨法を検討した。すなわち、各種ポリマーと有機溶剤の溶解度パラメ
ータ等から、化学的機械研磨法で用いる溶剤を絞り込み、それらポリマーに対して、
実際に化学的機械研磨を行い、PA66、PE を除く 6 種類のポリマーについて、表面
粗さ(Ra)が 10nm 以下の平滑表面を実現することが可能になった。
③表面改質技術の確立と接合技術の検討
マスクと水溶性ポリマーを用い、ポリマーに作り込んだ流路チャンネルに沿った
選択的部分表面改質法を考案し、その効果を確認した。このときの親水領域及び撥
水領域の接触角は、それぞれ 50°と 110°であった。接合技術については、今後に
残された課題とした。
④微細流体回路の試作
PMMA 基板と PC 基板を用いて、I、Y 及び十字形の基本流体素子の試作を行った。
次に、深堀加工技術を用いた 4 種類の新規デバイス(微量秤取、分級、ピラー、乳
化)を設計し、PMMA 及び PMP 基板を用いて作製した。また、乳化と分級の積層デ
バイスについても試作を完了した。
[Ⅱ]複合プラズマ装置の開発
⑤装置の基本特性評価
前年度試作した複合プラズマ装置の基本
的な特性を評価した。すなわち、流量対圧力
の関係、マイクロ波電力に対するプラズマ密
度とその分布の関係を明らかにした。
⑥エッチング特性の評価
前節Ⅰ
Ⅰ の研究結果を踏まえて選択した 2
種類のポリマー材料(PMMA,PC)についてエ
ッチング試験を行った。PMMA,及び PC に対
してエッチング速さはそれぞれ 1.2μm/
min,及び 0.6μm/min となり,実用的な水
準のエッチング特性が得られた。
⑦表面改質特性の評価
PMMA,並びに PC について酸素プラズマ処理によるそれらポリマーの表面親水化試
験、一方フッ化炭素(C4F8)プラズマ処理による表面疎水化試験を行った。その結果、
本複合プラズマ装置において、実用化に有効な表面改質がなされることが分かっ
た。また、複合装置の特性を活用したエッチングと表面改質の連続処理による
マイクロ流体素子構造の試作を行い、素子の目的に沿った性能の確認とマスク
を用いた連続処理の基礎技術を確立した。
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⑧スパッタリング特性の評価
高純度アルミニウムをスパッターターゲットとし、アルゴンガスによるアルミニ
ウムのスパッター薄膜の形成試験を行い、スパッタ−膜の付着レート、膜厚の均一
性及びスパッター膜の電気抵抗を測定した。その結果、本複合プラズマ装置はスパ
ッタリング装置として要求される基本的性能を満たしていることが分かった。
また、表面改質と同様にエッチングとスパッタリングの連続処理によるマイクロ
流体素子の試作を行うとともに、素子特性の評価を行い、連続処理の基礎技術を確
立した。
[Ⅲ]微細流体回路の試作・評価
⑨ 機械的切削法による微細流体回路の試作
微細切削加工装置による PMMA、PC の最適加工条件を求めた。この条件を用いて、
PMMA、PC の基本流体素子(I、Y、十字)を試作し、ポリマーの切削加工法を評価す
るとともに、ポリマーに対する微細切削加工法の基礎技術を確立した。
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微細流体回路の評価
反応性イオンエッチングにより加工した 3 つの基本流体素子(I、Y、十字)につい
て、微粒子を用いた流動抵抗評価試験を行った。
次に、反応性イオンエッチング技術を用いて作製した微量秤取、分級、ピラー、
乳化デバイスの評価を行った。微量秤取デバイスについては、2μL の液量を正確
かつ連続的に取り出すことに成功した。分級デバイスについては、2 種類のサイズ
の異なる微粒子を流し、それぞれが流速分布に従って別の軌道に進むことを確認し
た。ピラーデバイスについては、ピラー間隙以下のサイズの粒子が均一に流れるこ
ととを確認した。また、ピラーの間隙に対して大小 2 種類の微粒子を流したところ、
小さな微粒子のみが流れ、フィルターとしても利用できることを確認した。乳化デ
バイスについては、水―油の混合液体から、ミクロンサイズの油滴が均一に分散し
た水エマルジョンが形成されることを確認した。
本研究により、前述のような研究成果を得ることができたが、これについては、
今後、次のとおり市場展開を行う。
複合プラズマ装置については、平成 16 年に装置の詳細な評価を行い、平成 17 年
から商品化に向けた設計を計画している。これに併行して、マーケティング調査の実施や
展示会などの出展を行い、平成 18∼19 年に装置販売を計画している。
マイクロ流体システムについては、平成 16∼17 年に加工技術を確立し、18 年から流体素
子の開発を行い、19∼20 年にデバイス販売に向けた取り組みを行っていきたいと考
えている。
連絡窓口
財団法人富山県新世紀産業機構 (担当:長柄)
連絡先 tel 076-444-5607
fax 076-444-5630
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