小児に対するアミオダロンの使用自験例 および小児

Prog.
Med.
suppl.
(
): ∼ 一般講演 1
3
小児に対するアミオダロンの使用自験例
および小児報告例の検討
松岡 優
山下 和子1)
伊勢 正夫
松浦 里
山上 貴司
中津 忠則
久保 賢倫
吉田 哲也2)
そのうち2回は痙攣を伴っていた.ジギタリス,ベラ
はじめに
パミル,プロカインアミド,リドカイン,ATP,フレ
今回われわれは,小児に対するアミオダロン投与の
カイニド,ニフェカラントの静注では効果がみられず,
自験例2例と,本邦における報告例5
8例を検討したの
DCで洞調律に復帰した.
で報告する.
アミオダロンは5mg/kg/日より導入し,効果がみ
られなかったため1
0 mg/kg/日に増量した.VTは減少
症例呈示
したものの,なお認められ,他院にて施行されたカ
1.症 例 1
テーテル・アブレーションも無効であった.
症 例:1歳2カ月,女児.
現在はアミオダロン75
. mg/kg/日とプロプラノロー
主 訴:嘔吐.
ル15 mg/日を併用しており,VTは消失している.アミ
既往歴:周産期異常なし,
心疾患・不整脈の既往なし.
オダロン投与は半年以上に及ぶが,甲状腺機能障害な
家族歴:特記すべき事項なし.
どの副作用はみられない.
現病歴:生後11カ月時より1日に5∼6回,嘔吐後
2.症 例 2
顔色不良となって近医で制吐剤を処方され,翌日に軽
症 例:13歳,男児.
快するというエピソードが認められた.
主 訴:意識消失.
1歳2カ月時にも嘔吐があり,近医受診後,顔色蒼
家族歴,既往歴:特記すべき事項なし.
白を伴う反復性嘔吐の精査目的で当院に紹介される.
現病歴:サッカーの試合中に約1分間の意識消失が
心拍数30
0回/分程度の上室性頻拍と考えられ,ジギタ
あり,救急車にて当科搬送となる.
リス,ベラパミル,プロカインアミドの静注とATP急
救急車でのモニターではVTを示し
(図3上)
,入院中
速静注が行われたが,無効であった.
のホルター心電図では多形性VTが認められた
(図3
心室頻拍(VT)との診断からリドカインの静注を行
.また,心エコーにより拡張型心筋症(DCM)と診
下)
い,心拍数は150回/分程度まで減少したものの,VTは
断された.
停止しなかった.その後,直流除細動
(DC)により洞調
経 過(図4)
:2回の入院中に3回の意識消失がみ
律に復帰している.
られ,心電図ではそのつどVTが示された.プロプラノ
図1は発作時の心電図で,右脚ブロックを示すVTが
ロール,メキシレチン,ピルジカイニドを投与したも
認められる.
のの,VT抑制効果はさほど認められなかったため,ア
経 過(図2)
:顔面蒼白を伴う数回の発作があり,
ミオダロンを使用したところ,VTは徐々に減少した.
現在は,アミオダロンのほかにカルベジロールとリシ
1)S. Matsuoka, M. Ise, T. Yamaue, K. Kubo, K. Yamashita:徳
島市民病院小児科 2)S. Matsuura, T. Nakatsu, T. Yoshida:徳
島赤十字病院小児科
0287―3648/05/¥500/論文/JCLS
ノ プ リ ル を 併 用 し て お り,単 発 の 心 室 性 期 外 収 縮
(PVC)が出現する程度で推移している.
まとめ:多形性のVTに対し,メキシレチン,ピルジ
―
(
1530)―
第9回アミオダロン研究会講演集
V1
¿
À
V2
Á
V3
VF
a
VR
a
V5
VL
a
V6
図1 発作時心電図(心拍数300回/分)
18 mç/kç/分
37 mç/kç/分
リドカイン
1 mç/kç/日
メトプロロール
メキシレチン
2.8 mç/kç/日
1.6 mç/kç/日
2.2 mç/kç/日
8.3 mç/kç/日
11 mç/kç/日
13.9 mç/kç/日
5.5 mç/kç/日
DC 5J
リドカイン
1.7 mç/kç
心拍数(回/分)
300
自
然
停
止
200
100
痙攣
9月20日
9月25日
9月30日
10月3日
図2 臨床経過(症例1)
カイニド,プロプラノロールの効果は認められなかっ
アミオダロンの副作用は,ごく軽度の角膜色素沈着
た.VTはアミオダロン5 mg/kg/日とβ遮断薬の併用
にとどまっている.なお,その後もDCMは改善せず,
によって消失した.現在は単形性PVCが散見されるの
むしろ軽度の心拡大を認めている.
みである.なお,右室心尖部におけるPVC2連発法で
は,8連発前後のVTが誘発された.
―
(
1531)―
Progress in Medicine Vol. suppl. 救急搬送時の心電図(2004年4月2日)
(心拍数200回/分)
ホルター心電図(2004年4月14日)
図3 救急搬送時の心電図および入院中のホルター心電図
救急外来受診
いったん帰宅
入院
再入院
意識消失発作
¿c 群
ピルジカイニド
75 mç
(4 / 30 ∼ 5 / 6)
¿b 群
200 mç
(5 / 7 ∼)
メキシレチン 200 mç
(4 / 13 ∼ 5 / 6)
À群,β遮断
200 mç
(4 / 2 ∼)
ホルター
心電図所見
4 /6
PVC 10,466 / d
PVC runs 70 / d
Á群
アミオダロン 100 mç
(5 / 19 ∼)
プロプラノロール
300 mç
(4 / 12 ∼ 6 / 1)
カルベジロール
(6 / 15 ∼)
5 mç
(6 / 1 ∼ 6 / 15) 10 mç
5 / 11
PVC
21,195 / d
PVC runs 150 / d
4 / 20
PVC 12,591 / d
PVC runs 13 / d
4 / 12
PVC
7,758 / d
PVC runs 50 / d
2.5 mç
(7 / 9 ∼)
リシノプリル
5 mç
(8 / 3 ∼)
8 /3
PVC 1,081 / d
PVC runs 3 / d
6 /1
PVC 4,945 / d
PVC runs 3 / d
VT
LVDd
(mm)
QT / QTc(sec)
NYHA
3 / 28
4 /2
52
53
58
58
59
0.42 / 0.54
0.46 / 0.51
0.44 / 0.50
0.45 / 0.52
0.48 / 0.51
Â度
Á度
Á度
(症状なし) Á度
(運動禁,症状なし)
5 /2
6 /1
Á度
(運動禁,症状なし)
7 /9
8 /3
図4 臨床経過(症例2)
際,先天性心疾患の術後であることや,心拡大の有無
小児に対するアミオダロン投与の報告例
などは,有効率に有意な影響を及ぼしていない.また,
小児58例についてアミオダロン投与が報告され,そ
機序としての自動能亢進とリエントリーの間にも有意
のうち42例
(72%)
において有効性が示されている.基
差は認められなかった.ただし,心筋症,不整脈源性
礎心疾患を有する症例や,VTなどの重篤な不整脈を
右室異形成症,多形性VTに対する有効率は約40%で
伴う症例を除外すると,有効率は9
0%を超える.その
あった.
―
(
1532)―
第9回アミオダロン研究会講演集
表1 小児へのアミオダロン投与による副作用
例 数
副作用例数
頻度(%)
1歳未満
2
1
1
5
1歳∼3歳未満
9
0
0
3歳∼10歳未満
1
6
2
13
甲状腺機能低下(1),角膜異常(2)
10歳∼2
0歳未満
2
6
9
35
甲状腺機能異常(4),角膜色素沈着(2),
皮膚異常(2),肝機能異常(1)
疾患別の有効性をみると,心房細動
(AF)に対して
5/6(有効率83%),無秩序型および異所性の心房頻
拍に対して5/5(同1
0
0%),房室回帰性頻拍
(AVRT)
に 対 し て13/16
(同8
1%)
,房 室 接 合 部 頻 拍 に 対 し て
1
2/18
(同67%),単形性VTに対して4/7
(同5
7%)
,多
形性VTに対して3/6
(同5
0%)
という結果であった.
また,副作用は経年的に増加する傾向にある
(表1)
.
おわりに
突然死や心不全を来し得る重篤な心室頻拍を認め,
さらに多くの抗不整脈薬に抵抗性であった小児例2例
を報告した.2例ともアミオダロンの投与が有効であ
り,中止すべき副作用は認められなかった.
また,58例のアミオダロン投与小児例を集計した結
果,アミオダロンは72%に有効であり,副作用は低年
齢ほど低頻度であった.
文 献
1)松浦 里ほか:突発性心室頻拍の1歳女児例.日小児
会誌 1
08
(8):1066,2004
2)小 泉 博 彦 ほ か:難 治 性 房 室 リ エ ン ト リ ー 性 頻 拍
(AVRT)の小児に対するアミオダロンの有効性につい
001
て.Prog. Med. 21
(Suppl. 1):1165―1170,2
3)西村真二ほか:難治性不整脈症例に対するアミオダロ
ンの使用経験.第4
12回日本小児科学会福岡地方会抄
録集,20
0
0年12月9日
4)石戸博隆ほか:3番染色体小腕末端欠損{46, XX, del
(3)
(q27―ter)}に合併した拡張型心筋症.第11回関東小
児心筋疾患研究会抄録集,2002年11月9日
5)上勢敬一郎ほか:Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia の1例.日小児循環器会誌 13
(2)
:3
05,1
997
6)興水祟鏡ほか:当院におけるアミオダロン使用経験.
山梨医学 28
(10):73―75,2000
7)井上義明ほか:難治性致死性心室性不整脈を生じた若
年 者 の 催 不 整 脈 性 右 室 異 形 成 症 の 1 例.心 臓 29
(Suppl. 5)
:103―108,1997
8)奥田浩史ほか:不整脈源性右室異形成症に対するアミ
内訳(重複あり)
甲状腺機能亢進(1)
オダロンの使用経験.日小児会誌 1
0
1
(9)
:14
4
5,
19
9
7
9)稲村 昇ほか:難治性持続性心房および心室頻拍にア
ミオダロンが極めて有効であった先天性心疾患術後小
85,1
9
97
児例.Prog. Med. 1
7
(Suppl. 1)
:1
0
81―10
1
0)稲村 昇ほか:アミオダロンを長期間投与している先
天性心疾患術後小児例.Prog. Med. 1
9
(Suppl. 1):
9,19
99
7
15―71
11)山菅正郎ほか:難治性心室頻拍を合併した拡張型心筋
症に対するamiodaroneの有用性.日小児循環器会誌 99
9
15
(1):6
9―70,1
12)川田康介ほか:著明な心不全で発見されたtachycardia―induced cardiomyopathyの1治験例.日小児循環
1,20
01
器会誌 17
(5,
6):7
26―73
13)藤野英俊ほか:小児におけるAmiodaroneの使用経験
と電気生理学的特性の検討.日小児会誌 91:48
5,
19
87
1
4)川合昭彦ほか:難治性不整脈を合併したDCMに対す
るcatheter ablationと心尖脱血LVAD植え込み術.日本
心臓血管外科学会雑誌 2
9
(Suppl.):5
6,20
00
1
5)瀧聞浄宏ほか:先天性心疾患術後の難治性上室性頻拍
に対する塩酸ニフェカラントの使用経験.日小児循環
器会誌 17
(3)
:49
8,200
1
1
6)羽田野為夫ほか:頻脈のコントロールに難渋している
Congenital Junctional Ectopic Tachycardiaの1例.日
小児循環器会誌 1
6
(2)
:21
2,20
00
1
7)大塚祐一ほか:アミオダロンが有効であった難治性心
室頻拍の1幼児例.日小児循環器会誌 1
5
(2):35
6,
19
99
1
8)小竹文秋ほか:発作性上室性頻拍と僧帽弁閉鎖不全を
伴い治療に難渋した心筋炎の乳児例.日小児循環器会
誌 15
(1):8
6,19
99
1
9)谷平由布子ほか:多形性心室頻拍を認めたLQT1 の母
子例.日小児循環器会誌 1
5
(1)
:84,1
99
9
2
0)岩本真理ほか:若年期の心室性頻拍の臨床像.第14回
日本心電図学会抄録集,p.5
90,1
99
7
2
1)栗崎博司ほか:amiodaroneによるReye症候群様症状,
小脳症状,ニューロパシー.神経内科治療 6
(5):
427,1
98
9
2
2)澤田浩武ほか:低用量アミオダロン療法中に甲状腺剤
の投与を必要とした術後心房粗動の小児例.Prog.
2,20
02
Med. 22
(Suppl. 1):6
78―68
(
―
1533)―
Progress in Medicine Vol. suppl. 質疑応答
(新潟大学医学部第一内科教授)
座長/相澤 義房
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学教授)
矢野 捷介
(徳島市民病院小児科)
演者/松岡 優
矢野(座長) どうもありがとうございました.ただ
うことですね.
いまの演題に対してご質問はありますか.
松岡 そうです.
栗田(国立循環器病センター) DCMのみられた13
栗田 重篤なAVRTなど,発作が頻回に繰り返され
歳の男児では,電気生理学的な薬効評価もされていて,
る症例に限って使用されているということでしょうか.
臨床経過は良好と思われますが,あのように血行動態
松岡 はい.ですからAVRT例は1
6例と少ないので
の悪い患者さんに対しては,ICD(植込み型除細動器)
す.
の適用も考えた方が良いのではないでしょうか.
栗田 わかりました.安心しました.
松岡(演者) ICDも検討していますが,まだ低年齢
では,ソタロールという選択肢についてはいかがで
であるため,もう少し先送りにしようと考えています.
しょうか.アミオダロンの長期投与では副作用の問題
ご家族に心臓外科医がいらして,ICDのことをよく理
が生じますが,ソタロール使用例のデータはないので
解しておられますので,その理解のもとに先送りして
しょうか.
いる状況です.
松岡 あります.ソタロール投与例も少ないのです
栗田 わかりました.
が,アミオダロンと同程度の症例で使われています.
それから,58例の統計をみて大変驚いたのですが,
栗田 先生はどちらを使っておられますか.
AFやAVRTなどに対して,アミオダロンはかなりよ
松岡 両方使ってみましたが,ソタロールが無効な
く使われているようですね.
症例もありましたので,今回はアミオダロンを使いま
副作用が少ないとはいえ,1歳から投与を開始して
した.
50∼60年も継続すれば,やはり副作用が出現するので
栗田 わかりました.どうもありがとうございまし
はないかと懸念されますし,小児でもカテーテル・ア
た.
ブレーションなどで根治できる頻拍はあると思うので
伊藤
(滋賀医科大)
1例目の心電図で二方向性VT
すが.
の よ う な 形 が 第 2 誘 導 に み ら れ ま し た が,あ れ は
松岡 大半の症例では他の抗不整脈薬が使用されて
CPVT(catecholaminergic polymorphic ventricular
いますし,カテーテル・アブレーションも施行されて
tachycardia)
のようなタイプのVTだからこそ,最終的
います.先ほどお示ししたのは,あらゆる手を尽くし
にβ遮断薬が効いたのではないかと思いました.その
ても効果がみられなかった症例であって,小児にアミ
点についてはいかがでしょうか.
オダロンを投与することはまれです.
松岡 CPVTではなかったと思いますが,1歳未満
小児における投与例は,徳島県では3例ほどあり,
の症例では自動能の亢進を認めることが多く,だから
日本全国ではおそらく30
0例以上の小児例があると思
β遮断薬の併用が効いたのではないかと思います.
われます.また,通常は途中で他剤に切り替えるか,
伊藤 泣いたときや哺乳時に発作がみられたので
あるいはカテーテル・アブレーション施行を試みます
しょうか.
ので,10年,2
0年と継続する例はないと思います.
松岡 それがきっかけになりました.
栗田 緊急手段として使用した症例が主であるとい
伊藤 そのようにカテコラミンの関与が非常に強く,
―
(
1534)―
第9回アミオダロン研究会講演集
そういう範疇に分類される疾患ではないかと思ったの
えています.先天性のQT間隔延長ではないと思って
です.家族歴などはないのですね.
います.
松岡 ありません.
矢野 58例の統計をみると,低年齢ほど副作用の出
伊藤 わかりました.
現が少ないという結果でしたが,この現象は用量など
相澤(座長) 運動負荷でPVCが出現することはな
で説明できるのでしょうか.
かったのですか.
松岡 小児でよく使用されるテオフィリンでも,副
松岡 両症例ともカテコラミンが関与している面は
作用は1歳未満に多く,1歳以降から再び加齢ととも
あると思います.
に増加するのですが,1歳未満,特に3カ月未満の小
相澤 DCMの2例目ではQT間隔の延長がみられま
児では,肝機能や腎機能の未熟が副作用の原因になっ
すが,そういう症例に対するⅢ群抗不整脈薬の投与に
ているのではないかと思います.それから,1歳未満
ついては,どのようにお考えですか.
を除くと低年齢ほど副作用が少ないのは,体内におけ
松岡 最初は慎重に使用しました.β遮断薬は2種
る水分量の分布,あるいは吸収の違いではないかと考
類使ったのですが,QT間隔の延長が特に悪影響を及
えています.
ぼしたという印象はありません.
矢野 時間になりましたので,このセッションを終
相澤 DCMを合併した先天性QT延長症候群症例と
わりにしたいと思います.どうもありがとうございま
考えておられるのでしょうか.
した.
松岡 このDCMは拡張型の心筋炎後心筋症かと考
―
(
1535)―