リビング・ライブラリーの取り組みと公共図書館

リビング・ライブラリーの取り組みと公共図書館
ュニティの「場としての図書館」の視点から―
―コミ
小林優佳 1
1 節.リビング・ライブラリーとは
2 節.発祥から各国への普及
3 節.テーマの設定
4 節.日本におけるリビング・ライブラリー
5 節.リビング・ライブラリーと公共図書館
6 節.多様な関係性を持つ場
7節.「第3の場」としての効果
8 節.おわりに
参照文献
要約
ネットワークの発達、電子書籍の普及といった変化を前にして、図書館の存在意義が問われ
ている。社会のニーズ、職員、情報・資料、資料媒体、媒体、空間設備など、あらゆる角度か
ら図書館サービスが見直される中で、
「場としての図書館」の研究も活発になっている。
「市民
の日常的な利用にサービスすべき、社会教育を主目的とする機関 2 」である図書館は、情報提
供の場であると同時に、人と人が集まる場でもある。
そうした図書館の機能は、様々な形で発揮されてきたが、その中の 1 つとして、図書館と「リ
ビング・ライブラリー」活動の関係性に注目した。約 10 年前に誕生したばかりのこの取り組み
は、お話会や市民グループの集会、各種講座など、すでに図書館を開催場所とすることが一般
的となった行事と比べて認知度は低い。しかし、その目的や効果の普遍性、図書館を開催場所
とした場合の相互作用を考えると、両者を組み合わせる意義は十分にあると思われる。
この論の展開として、まずリビング・ライブラリー 3 の概要と沿革を述べた後、日本におけ
る実例と、主催者たちの研究報告を紹介する。その中で浮き上がった「場としての図書館」の
機能について考察し、図書館がリビング・ライブラリーの開催地になる場合の両者の相互関係
と今後の課題を検討する。
1
富山市立図書館 司書
参照文献 1、p79
3 デンマークの Living Library 本部は、2010 年 1 月に名称を Human Library に変更した。日
本の事務局であるリビング・ライブラリージャパンは現在では Human Library とは別団体と
して活動していることから、本稿では名称を「リビング・ライブラリー」に統一して論ずる。
2
1
1 節.リビング・ライブラリーとは
「生きている本」を貸し出す図書館 4 。誤解や偏見を受けやすかったり、差別的な扱いや迫
害にさらされやすい人々を「生きている本(Living Books)」または「本(Books)」として「読者」
に貸し出す。「読者」は一定時間、語り部である「本」と対話をすることができる。通常の貸
し出しと異なるのは、言うまでもなく本が生きている人間であること、「読者」もある一定の
ルールに基づいて、「本」に質問をできることだ。「読者」は、「本」の経験や考えを聞き、ま
た自らも問いかけることで、「本」との違いや共通点、自分の中の偏見や先入観に気づく。ま
た、「本」も「読者」との対話や控室での「本」同士の対話において、自己や他者に対して新
たな気付きを得る。リビング・ライブラリーは、日頃接点のない「本」との対話の場を設け、
「多様な文化を認める社会を目指す試み 5 」なのだ。その効果に関しては、多様なコミュニテ
ィのメンバー同士の関係を良好にする、さまざまな人の人生経験を聞くことができる機会とな
る、「本」が理解される場となった、などが開催者らの調査によって報告されている 6 。
2 節.発祥から各国への普及
リビング・ライブラリーは、2000 年にデンマークで開催されたロックフェスティバルのイベ
ントの 1 つとして誕生した。イベントを企画した地元の NGO 団体「Foreningen Stop
Volden(Stop the Violence)」は、ロックフェスティバル主催者の協力と基金の経済援助を得て、
この試みを実行した。結果として、予想以上の発展性を示し、関係者の注目を集めたリビング・
ライブラリーは、2001 年のハンガリーでの開催を始めとして、ヨーロッパ、そして世界各国へ
と広がっていった。
2002 年にはノルウェーのオスロで会場を実際の図書館として開催された。2004 年にポルト
ガルのリスボンで開催された際は、それまでのリビング・ライブラリーに比べ運営費が少なく、
「本」の参加数だけを見ても、デンマークの時は 75 人、ハンガリーは 50 人、ポルトガルでは
25 人と差が大きい。それでも、この活動が、開催の規模や予算水準の違いに融通の利くもので
あるということが、イベントの成功を持って証明されている。場所や規模を限定しないその柔
軟性が示すように、リビング・ライブラリーは、早い段階から世界への広がりと、各地での発
展が期待され 7 、それは実際のものとなった。
4
5
6
7
参照文献 2
参照文献 3、p205
参照文献 4、p1
参照文献5発行 (2005 年)時点での執筆者による所見。
2
3 節.テーマの設定
リビング・ライブラリーは、「自分の中の偏見に気づく」ことを 1 つのテーマとしている。国
際化・情報化が進んだ現代においては、同じコミュニティの中でも多種多様な人間がいるし、
異なる文化・思想を持つグループについての認識も広まっているだろう。しかし、「認識があ
る」程度では、気付かずとも「偏見」を抱いている可能性は否定できず、それは私たちの誰に
でもあり得る。
これまでのリビング・ライブラリーの「本」を見ていくと、そのことが垣間見える。
「本」を務めた人々(一例、順不同)
・セクシュアルマイノリティ 8
・動物愛護家
・元受刑者
・障碍者
・元政治家
・スケートボーダー
・失業者
・難民
・キリスト教徒
・フェミニスト
・黒色人種
・難読症者
・ソーシャルワーカー
・教師
・公務員
・金髪の女性
・菜食主義者
・警察官
・官僚
・僧侶
・活弁士
・アーティスト
・シングルファーザー
・自衛官
・自死遺族
・(スポーツの)サポーターや元フーリガン
「本」のタイトルは身体的特徴、人種、信仰や信条、職業、経験の他に、「スケートボーダ
ー」のように、大衆文化や若者文化から選ばれることもある。ここに挙げた例はあくまで一例
であり、
「このような特徴の本を選ばなければいけない」という決まりはない。第4項で紹介す
る、日本で開催されたリビング・ライブラリーでは、大学の主催する活動において様々なテー
マ設定がされている。駒澤大学のリビング・ライブラリーは、テーマを「多様な人々が生活し
ていることへの気づき、それらの人々との対話・交流を通じて寛容な心を育て、多文化共生の
開かれた社会を目指す試み」とし、何らかの「生きづらさ」を抱えているという特徴に基づい
て本を選んでいる。一方、獨協大学は「日頃気付かない自分に気付こう」というテーマのもと
に開催され、「必ずしも生きづらさを抱えた人ではなく、専業主夫や自衛官など比較的身近な
存在を本としていた 9 」。
4 節.日本におけるリビング・ライブラリー
リビング・ライブラリーは、2008 年に初めて日本で開催されて以降、確認されているだけで
31 回実施されている 10 。
生物学的性(sex)、性自認(gender identity)、性指向(sexual orientation)の 3 つの局面からな
る性の場面において少数派となる人々。
9 参照文献 6、p68
10 2011 年 12 月 20 日現在、参照文献 2 及び参照文献 7、p46 による。この他にも各地で非公
式に開催されていると思われる。
8
3
表:日本で開催されたリビング・ライブラリー 11
開催日
場所
主催
08.12.6-7
京都国際会館
リビング・ライブラリージャパン
09.1.14
都内 A 高校(※)
09.5.29-30
東京大学先端科学技術
京都大学
09.8.1
大阪市ドーンセンター
09.12.5-6
京都国際会館
09.12.13
明治大学
10.07.06
10.08.08
学生有志
NPO 法人暴力防止情報スペース APIS
リビング・ライブラリージャパン
ンター(※)
札幌市手稲ハイランド
10.06.04-05
京都大学
東京大学先端科学技術研究セ
09.8.29-30
学生有志
リビング・ライブラリージャパン
研究センター
09.6.27
09.8.2
青山学院大学
札幌市立大学
学生有志
リビング・ライブラリージャパン
明治大学
東京大学先端科学技術
横田ゼミ
リビング・ライブラリージャパン
研究センター
六本木ライブラリー
六本木ヒルズ(※)
(協力:リビング・ライブラリージャパン)
東京大学先端科学技術
リビング・ライブラリージャパン
研究センター(※)
10.10.10
駒澤大学
駒澤大学
坪井研究室
10.10.31
獨協大学
獨協大学
工藤研究室
10.11.28
明治大学
10.12.11-12
京都国際会館
11.1.12
六本木ヒルズ(※)
11.2.1
富士通株式会社(※)
富士通株式会社 12
11.5.8
サンライズプラザ会館
ブックオフ・りーふぐりーん
11.6.3-4
明治大学
リビング・ライブラリージャパン
六本木ライブラリー
(協力:リビング・ライブラリージャパン)
東京大学先端科学技術
リビング・ライブラリージャパン
研究センター
11.7.12
六本木ヒルズ(※)
11.7.15
大阪大学
横田ゼミ
六本木ライブラリー
(協力:リビング・ライブラリージャパン)
大阪大学工学研究科留学生相談部
参照文献 2 に掲載された表を参考にしている。事務局の平井氏が参照文献 7 に発表した際は、
この他に世田谷ボランティアセンター主催で行われた 3 回のリビング・ライブラリーが表に含
められていた。
12 参照文献 7 では、主催者はリビング・ライブラリージャパンとなっている。
11
4
11.9.11
駒澤大学高等学校
11.11.13
浜松市美術館
11.12.3
草加市中央図書館
11.12.10
川口総合文化センター・リリア
11.12.11
明治大学
11.12.17-18
京都国際会館
駒澤大学
坪井研究室
浜松市美術館・リビング・ライブラリージ
ャパン(共同企画)
獨協大学
工藤研究室
ブックオフ・りーふぐりーん
明治大学
横田ゼミ
リビング・ライブラリージャパン
(※)は限定された会員のみでの開催。
リビング・ライブラリーはすでに世界中で開催されており、その開催においては、リビング・
ライブラリー事務局本部や各国の事務局も積極的に各団体を支援し、普及に努めている。日本
におけるリビング・ライブラリーについては先行研究が少なく、その効果等についての詳細な
資料の出版は未だ確認できていない 13 。だがいくつかの大学が主催したリビング・ライブラリ
ーについて、主催者となった学生や教員による報告書がWeb上などに発表されている。獨協大
学工藤研究室の報告 14 は、デンマークのリビング・ライブラリー本部において、「日本で初めて
の、リビング・ライブラリーの効果についての系統的な論文」としてホームページ上で紹介さ
れている。各主催者のこうした成果は、今後のリビング・ライブラリー発展にとって貴重な資
料になると考えられる。
5 節.リビング・ライブラリーと公共図書館
ここで注目したいのが、公共図書館との関りだ。吉田は著書の中で、次のように述べている
15 。
これまでリビング・ライブラリーは、イベント会場、学校、図書館などといった場所で開催
されてきた。―
さまざまな選択肢が考えられる中で主催者側は、公共図書館がリビング・
ライブラリーにもっとも適した場所だと考えているようである。というのも、利用が無料で、
情報を求める人びとが自由にアクセスできるという図書館の大原則は、リビングブックの理
念とぴったり重なっているからである。
また、2010年にリビング・ライブラリーを開催した駒澤大学坪井研究室は、その成果報告書
13
2011年12月20日時点。現在、明治大学、駒澤大学、獨協大学の研究室が共同でリビング・
ライブラリーを扱った書籍刊行の準備を進めている。
14
15
参照文献 4 を指す。
参照文献 3、p207
5
16 において、リビング・ライブラリーの開催形態を5つ 17 に分類し、そのうちの一つである公
共図書館について、
「最もポピュラーな開催形態である」とし、
「地域コミュニティを活性化し、
結束を強める機能としての役割を発見することができる。また、世界中の図書館からの支援が
あったからこそ、リビング・ライブラリーは世界に広まっていくことができたといえる。」と
述べている。積極的にリビング・ライブラリーを支援している、またはその開催場所となった
公共図書館は、オーストラリアのリズモア図書館、ローンセストン図書館、カナダのカルガリ
ー中央図書館をはじめ、他にも多くの例が挙げられる。さらに坪井研究室では、開催後にまと
めとして開かれた座談会において、以下のようなやりとりがなされている 18 。
教員:(略)日本でもそういうようなフェスティバル的にやったほうが面白いかもしれないと
いうふうに思いますね。
学生A:「ちょっとお祭り来たついでにリビングライブラリーに参加してみようかな」という
人も出てくるかもしれないですしね。
学生B:…でも、個人的にはやっぱりお祭りよりも図書館でやるのがいいと思います。
教員:図書館のほうがいい?
学生B:はい。しかも継続的に…例えば20 人くらい「本」の登録があって、今月はこの人、こ
の人ってローテーションで参加してもらうのです。読者の方も図書館の登録カードがあ
るから、それをずっと使えば毎回いちいち同意書 19 に書きこむ必要もないですし。オー
ストラリアの図書館に、そういう方法でリビングライブラリーを開催しているところが
あるそうです。
学生A:そういう方法でリビングライブラリーをやっていくのも良いね。
学生B:図書館には老若男女問わずたくさんの利用者がいますから。地域のコミュニティとし
てもちゃんと成立していますし。
教員:なるほど。図書館とタイアップして図書館に「リビングライブラリーを開催する上での
ノウハウはあるし、開催の手伝いもしますから、図書館でリビングライブラリーをやり
ませんか」って持ちかけていくのも一つの方法ですね。
学生B:ただ大学生だけで開催するよりも、図書館の職員の方々と共同で開催できればリビン
グライブラリー自体の信用性も更に高まると思うんです。大学生だけだと危なっかしい
ように感じられたりもしますし。
参照文献 6 を指す。
1.カンファレンス(デンマークやリトアニアの全国青年協議会、日本の ATAK カンファレン
スなど)、2.公共図書館、3.フェスティバル(音楽祭や映画祭など)、4.学校、5.その他(バ
スツアー、オンラインでの貸出など)。開催日を大学祭の期間に、開催地を公共図書館に設定し
た獨協大学の例など、いくつかの形態が融合する場合もある。
18 参照文献 6、p91-93
19 参加者のトラブル防止のための運営方法の 1 つ。参加する際の注意点やルール(意図的に「本」を傷つけ
ない、撮影、録音は許可を得ておこなう、スタッフの指示には従うなど)を事前に明文化し、それに同意し
た者でないと貸出を行わない。
16
17
6
学生C:ああ、それは確かにそうだね。
学生D:それに、大学って何かステレオタイプがあって、今回、駒澤大学で開催したリビング
ライブラリーも大学でやるってことを聞いただけで「学生しか来ちゃいけないの」って
言われたりもしたし…。
学生E:「ああ、学生のイベントか」みたいに受け取られてしまうこともね。
学生D:うん。だから図書館に場所を貸してもらって、リビングライブラリーに協力してもら
うっていうのは良い方法だと思うよ。
学生F:でも図書館に協力してもらえるかな。職員の方にも自分の仕事があるし…。
学生G:まず図書館の人に何のメリットがあるかっていうのをハッキリさせないと駄目だね。
学生B:図書館自体にメリットは無くてもいいでしょ。地域住民にメリットがあればいいんだ
から。
学生C:そうだね。メリットよりも、リビングライブラリーを開催する上で、どれだけリスク
を低く出来るかを見せたほうがいいと思う。図書館としても、メリットがないから開催
しませんっていうよりは、リスクが高いから開催出来ませんっていうほうが多分大きい
かもね。マニュアルをちゃんと作って「こういうふうにすればリスクは減らせるんです」
ということを伝えられれば、図書館だって動いてくれると思います。
教員:そうですね。リビングライブラリーがこれから先もっと普及していくためには、やはり
図書館による定期開催等の協力が必要だということですかね。
主催者のこうした実感の一方、日本においては、2011年12月に初めて公共図書館でリビン
グ・ライブラリーが開催されている 20 。学生Bの発言したとおり、図書館のメリットとは、す
なわち地域住民のメリットでなければならない。開催の「場」を求める利用者に対して、場の
提供という形で協力をするのは、図書館のサービスの1つであり、図書館員の職務として認識
されるはずなのだ。
ユネスコの公共図書館宣言では、公共図書館のサービスについて、「年齢、性別、宗教、国
籍、言語、あるいは社会的地位に関らず、全ての人が平等に利用できるという原則に基づいて
提供されるものである。特殊なサービスや図書は、理由いかんによらず、通常のサービスや図
書を利用できない人々、例えば、言語的マイノリティ、障害者、入院患者、服役中の人々に提
供されなければならない。」と述べている。また、公共図書館サービスの核とするべき基本的
使命については、「個人の創造的発展のための機会を提供する」
「異文化間の交流を助長し、多
様な文化が存立できるようにする 21 。」としている。
理念が一致し、開催場所としての価値が認識されているが、実際、図書館がリビング・ライ
ブラリーの開催地となることで、両者にどのような効果が得られるのだろうか。5節で例とし
て挙げたカルガリー中央図書館の館長は、
「(リビング・ライブラリーとの活動は)利用者に相互
20
21
2011 年 12 月 20 日現在、筆者の確認による。
参照文献8
7
理解の文化をもたらす」と述べている 22 。以降、「場」としての図書館に関する研究をもとに、
公共図書館とリビング・ライブラリーの相互関係について述べていきたい。
6 節.多様な関係性を持つ場
近年、図書館利用者とその情報関係の行動については多くの研究がされてきたが、社会的活
動スペースの1つの型としての図書館に注目する研究は比較的少なかった 23 。図書館のような
公共スペース 24 の最も重要な特徴の1つとして、マッケンジーらは、見知らぬ者同士の世界、
もしくは「個人的な知り合いでない」人で構成される点を挙げ、さらに次のように述べている
25 。
伝統的に社会学者は、あたたかさと親密さを有する「第 1 次的」関係と、相対的な匿名性と
無関心を特徴とする「第 2 次的」関係に区別してきた。そして第 1 次的関係を充足的で不可
欠、第 2 次的関係を皮相的で取るにたらないと価値づけてきた。ロフランド("Public” 61-63)
は「第 1 次的」関係と「第 2 次的」関係の区別に挑戦し、両者の境界が曖昧な 2 つのタイプの
関係を確認した 26 。つまり、個人は互いにカテゴリー上の知識しかなく、短時間の関係かも
しれないが、2 つのタイプの関係が支援的で、情緒的なあたたかさと思いやりに満ちている
場合である。
2 つのタイプとはつまり、
「擬似第1次的関係」と「親密な第 2 次的関係」である。擬似第 1
次的関係は、「初対面もしくは互いにカテゴリー上の知識でしか知らないもの同士の比較的に
短い出会い(数分から数時間)によって創出される」。親密な第 2 次的関係は、「集会以外の交流
を持たないが常連さんという比較的長期の継続的関係を持つ 27 」と定義されている。マッケンジ
ーらは、親密な第 2 次的関係の概念をさらに発展させたワイアマンの報告について、次のよう
にまとめている。
あたたかさ、親しい人間関係、親密さは、一般的には第 1 次的関係に結びつく特徴であるが、
第 2 次的な舞台でも発生し、いくつかの第 2 次的関係の様相も併せ持つ。特徴は以下にある。
密接な結びつき、あたたかさ、親密さ、帰属感、親しい人間関係。性格の相互理解。最低限
の個人情報の共有。最小限の交際。家族ではなく個人の関与。時間と範囲に限りがある関与、
参照文献 9
参照文献 10、p372
24 参照文献 11 によれば「コミュニティの全構成員が利用できるもの、もしくは目にできるも
の」
25 参照文献 12、p186
26 参照文献 13)
27 参照文献 13
22
23
8
少ない代償での退却。多様な目的ではなく特定の目的への集中。私的よりも公共的な事柄へ
の関心。公共の集会の場への好み。
マッケンジー達は、2003 年秋、セント・スティーブンズ・グリーン図書館において 5 週間
にわたって行われたお話会と、2004 年の秋にその分館で行われた編み物グループの集会を観
察・録音して、図書館の集会が参加者の社会的スペースとしてどのように機能しているかを調
査した。彼女らの数週間にわたる調査では、初め、プログラム室においては、第 1 次的関係と
第 2 次的関係の両者、さらに、「初対面もしくは互いにカテゴリー上の知識でしか知らないも
の同士の比較的に短い出会いによって創出される」擬似第 1 次的関係がすぐさま確認された。
そして、時の経過とともに人間関係が変化し、親密な第 2 次的関係が生まれたことも確認して
いる。ギブンとレッキーは、「静かなスペースとしての図書館」と対比して「相互作用の場とし
ての図書館」を認めることが重要であると考えた。マッケンジーらは、それをさらに発展させ
て、「図書館利用者の間、利用者と職員の間、利用者と図書館スペースとの間の関係に注目す
ることで、図書館利用と情報実践とをまったく新しい方法で再概念化できる」と提案している
28 。
公共図書館においては、前述してきた関係性があらゆる場面で垣間見える。ユネスコの公共
図書館宣言でも述べられているように、図書館は「全ての人が平等に利用できるという原則に
基づいて」あらゆる人にサービスを提供する。利用者は個人的な時間や学習のために、もしく
は交流や共同作業のために、豊富な資料や集会の場を持つ図書館を利用する。その目的が、伝
統的な社会学者が区分した「第 1 次的関係」であろうと「第 2 次的関係」であろうと、たいて
いの場合(程度は違っても)、その要求は満たされる。さらに、図書館において「第 2 次的関係」
であった利用者が、職員や地域社会の様々な人がいる場に出入りすることによって、本人の自
覚があるかどうかは別として、「親密な第 2 次的関係」の特徴を有する体験をすることも常にお
こり得る。それは、集会の場の利用者にも、1 人で本や新聞を読んでいる利用者にもあてはま
る。そうした特性は、「本」と「読者」の対話において望ましい「歓迎的で参加しやすいイメー
ジ」、「個々人の居場所的なリラックスした雰囲気」をもたらす。また、リビング・ライブラリ
ーが日常的に利用する場で行われることで、利用者(特に(親密な)第 2 次的関係の利用者)が、そ
の「多様性の実現」を目指す取り組みに刺激を受けることもあるのではないだろうか。
また、報告書を上げた大学での開催例を確認すると、リビング・ライブラリーの利用者は若
年層に偏りがちだったようである。それは、さきほど引用した駒澤大学の座談会において学生
が発言したように、大学生の活動だから大学という枠組みの中だけで行われるというステレオ
タイプが発生し、他の年代の関心をひきつけにくかった可能性が高い。しかし、年齢はもちろ
ん、社会的地位、思想などにおいて、あらゆるタイプの人が利用する図書館を開催地とするこ
とで、そうした問題は解消されると思われる。
28
参照文献 12、p193,194
9
7節.「第3の場」としての効果
コミュニティの安全と秩序と活気の創出に貢献している住民の日常生活における「たまり場、
お気に入りの場所」を、オールデンバーグは「第3の場」として定義し、その必要性を指摘し
た 29 。 久野は、オールデンバーグが説いた「第3の場」の様々な個人的効用および社会的機能・
役割についてまとめ、「その中でも特に人と人との出会いの場を作り出し、人と人とのつなが
りを育て、互酬性と信頼性にもとづいた「社会関係資本」の形成に貢献するという重要な働き
がある。 30 」と述べている。
図書館が「第3の場」としての効用・機能を持つとすれば、リビング・ライブラリーの実施
において、参加者の緊張を和らげるなどの効果が得られることや、他者への理解という目的達
成の手助けとなることが期待できる。
オールデンバーグは、
「第3の場」について、次の8つの特徴を有することを条件としている 31 。
① 「個人が思いのまま出入りでき、誰ももてなし役を要求されず、全員がくつろぎ、心地
よく感じる」中立地帯にある。
②
「一般住民がアクセス可能で、形式張った会員資格や排除の基準を設定しない」平等主
義にして包み込む場である。したがって、それほど身近でも親密でもない他者と交流しあ
える社会的ネットワークの拡大を促進する。
③
会話を主要な活動とする。
「第3の場を最も明示する特徴は、話が楽しいとか、活気があ
り、生気に満ち、華やかで魅力的ということである」。
④
アクセスしやすく、協調的である。つまり、ほとんどいつでも1人で行けるし、知り合
いが見つかると確信できる場。オールデンバーグは、これを最良の第3の場とした。
⑤
「常連」や「客仲間」を持つ。
「常連」や「客仲間」として人を引きつけるのは、
「座席
数、提供される飲み物の種類、駐車場の有無、値段など」ではなく、新参者と信頼を育み
ながら、「その場でくつろぎ、陽気な雰囲気をつくる」ことである。
⑥
建物は目立たない。「概して簡素で」印象に残らない外観をしている。そうした建物は
「集まる人々の気取りの除去に役立ち」、その利用者の日常にとけ込ませる。
⑦
陽気な遊び場的な雰囲気を持続している。つまり、
「真面目に1分以上話そうとする人は、
ほとんど確実に失敗する運命にある。 すべての話題において、どの話し手も、空中ブラ
ンコのように機知を披露し合い、練習しあっている」。
⑧
家を離れた時のもう一つの家である「家とは根本的に違う設定だが、第三の場は、心理
的な快適さや支援を与えるという点で、良い家庭と極めて似ている」。
29
30
31
参照文献 14、p111,112
参照文献 14、p115
参照文献 15
10
図書館の性質や、各スペースで提供されるあらゆる図書館サービスは、上記のほとんどすべ
ての条件にあてはまると考えられる。⑤と⑦の条件で出現する「陽気(playful 32 )」という概念
から図書館を連想することは難しいかもしれないが、「個人にとって居心地のよい状態」であ
ると解釈してしまえば、図書館には、きわめて多くの「第3の場」としての性質が見られるとい
えるだろう。
しかしながら、オールデンバーグが2002年に編纂した研究において、第3の場として紹介さ
れた19の例の中に、公立図書館は含まれていない。紹介されたのは、コーヒーショップや書店、
体育館、都会の街並みなどであった。その理由としては、川崎と久野の指摘するとおり、図書
館が、第3の場であるための条件のうち、オールデンバーグがもっとも重要な特徴として挙げ
ている「『会話を主要な活動にする』に合致しない 33 」ことが考えられる。
しかし、リビング・ライブラリーや、マッケンジーらが研究した集会など、交流を通じて多
様な関係性が生まれる活動が図書館で行われる場合、その「場」となる図書館も、一時的にせ
よ、「会話を主要な活動とする」という条件を満たすことになるのではないか。久野は、公立
図書館に設置される、学習室、閲覧室、ホールなどのスペースに注目し、「学習や研究活動が
主体とされる中央図書館においても、プログラム室や多目的スペースなどにおいては多様な活
動が行われており、社会的、私的スペースとして「第三の場」が生み出されている可能性は高
い 34 」と述べている。そういった「場」としての機能が社会に広く知れ渡れば、図書館は、
「第3
の場」としてより多くの住民をひきつけ、地域への貢献につながるだろう。
8 節.おわりに
図書館が 6・7 節で述べた「場」として機能するには、「人が集まる場・交流する場」として、
その機会の提供に積極性を持つことが求められる。その機会の 1 つとして、本稿ではリビング・
ライブラリーを取り上げたが、開催側がリビング・ライブラリーに対する専門的知識や経験、
熱意、もしくは少なくとも活動への理解を持っていなければ、参加者を集めることは難しい。
実際に、「本」となった方が参加を決めた理由として、依頼者の熱意を挙げることも多い。リビ
ング・ライブラリーの運営メンバーとして、読者登録や目録の更新・保存管理などの技能があ
ることから、(通常の)図書館員を加えることが望ましいと言われている 35 が、それだけでは開
催は難しいだろう。リビング・ライブラリーの開催にあたっては、主催者側・参加者側の両面
において、各団体や地域住民との連携が不可欠となる。図書館がそこに加わり、「場」として
の機能を活かしつつリビング・ライブラリー発展の手助けとなることは、結果として社会全体
の利益につながるのだ。
参照文献 16 より原文と思われる語を確認。 “playful”は、「ふざけた,陽気な」(ジーニアス
英和大辞典)、「funny and not serious」(CAMBRIDGE LEARNER’S DICTIONARY)
32
33
参照文献14、p113
34
参照文献 14、p117
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