MIDDLE MAN ANIEKY A GO GO!

MIDDLE MAN
ANIEKY A GO GO!
Yamaura Tomonari
力のあるヴォーカル。輝くメロディ。漲るビート。こんな素敵な日本語のロックがあったなんて!
ミキシング・スーパーバイザー&マスタリング BY オノ セイゲン
1
.流星メリーゴーランド
2
.I
'
veGo
tMus
i
c
3
.B
usS
t
o
p
p
e
dI
nTheRa
i
n
4.マジカルガラクタツアー
5
.Mi
ddl
eMa
n
6
.思い込みタイムマシーン
7
.ダイレクトドライブ − 安全日 −
8
.電波ミサイル
9
.S
unf
l
o
we
r
1
0
.
余韻
1
1
.
Gi
veMeS
a
t
i
s
f
a
c
t
i
o
n
1
2
.
強がり
(
B
o
nusTr
a
c
k)
1
3
.
夏の日射し
山浦智生(1
9
6
7
年川崎生まれ、育ち)の、大ファンだ。
最初に彼のことを知ったのは、DI
XI
ETANTASというバンド
を率いていたとき。法政大学の黒人音楽愛好サークルを出自と
する彼らはニューオーリンズのセカンド・ライン・ファンクへ
の共感をバネにメロディ性豊かなロックを作り出していたのだ
が、ずっと洋楽を聞いてきたぼくにとって、その表現は目から
鱗が落ちるような、肉感的かつ趣味のいい日本語のポップ・ロ
ックに聞こえたのだ。管セクションを含む編成(ライヴは、8
人編成でやっていた)のもと、山浦はそこで主ソングライター
にして、シンガーを務めていた。DI
XI
ETANTASはエイヴェッ
クス・トラックス/カッティング・エッジと契約し、2枚のオ
リジナル・アルバムと、何枚かのシングルやEPを残している。
その活動機関は、1
9
9
6∼2
0
03
年。90年代後半にはラジオ番
組を持ったり、ジェイムズ・ブラウンの98
年東京公演のオープ
ニング・アクトに抜擢されたりと、何かとぶいぶい言わせてい
た。ぼくは当然のことながら、天下を取るべきバンドであると
思っていたし、山浦はソングライターとしても売れっ子になると
考えていた。だが、音楽の女神は残念ながら太っ腹には微笑ま
なかった。
DI
XI
ETANTAS解散後、山浦はPONTI
ACBLUESというトリ
オを結成。そこで彼はそれまで触った事がないベースを手にし、
歌った。そんな最小編成バンドが送り出したのは、ジョン・ス
ペンサー・ブルース・イクスプロージョンを想起させるよう
な、ブルージィな情感も横たわる剥き出し感&圧縮度の高いロ
ック。彼らは何作かのミニ・アルバムをリリースしているが、そ
れを聞くと、運動能力の高いリアル・ロッカーとして、山浦は
疾走したかったことが判る。とともに、DI
XI
ETANTASの活動
/楽曲に一度きっちりと区切りをつけたかったということも。
だが、カラフルでメロディ性の高いソウルフルなロックこ
そが、山浦智生表現の本道とぼくは信じる。そして、彼もそう
感じたかどうかは知らないが、DI
XI
ETANTAS時代の延長にあ
るような持ち味を持つバンドが、2
00
6年から始めたBACK
SOULI
NVADERSだった。そこでは、山浦はキーボードを弾き
ながら、悠々と歌っている。ゆえに、ピアノ・ロック濃度が強
まったとは指摘できるか。かつ、それはより成熟したアダルト
濃度を引き出してもいる。
BACKSOULI
NVADERSは2
00
8年に『NEW FRONTI
ER』(自
身のレーベル、SPYから)というアルバムをリリースしたが、
それは、ソングライターとして、アレンジャーとして、シンガ
ーとして、より成長したことを伝えるアルバムとなっている。
勘所をつかんだ、珠玉の楽曲ぞろい。とくに、スロウの「星
の下」は歌詞といい、メロディといい、希代の名曲であると
信じる。あの曲は、ひょんなことから再びスポットライト
があたる曲だとぼくは思っている。
【PROFI
LE】
96年に大学時代の黒人音楽サークルの仲間と共にcutti
ng
adge(avex)よりDI
XI
ETANTASとしてデビュー。2枚のフ
ルアルバムを出し、98年にはジェームス・ブラウンのオープ
ニングアクトを務める。
2002年、PONTI
ACBLUES(現在活動休止中)を経て、
ANI
EKY&BACKSOULI
NVADERS、ANI
EKYAGOGO!に
て活動中。
その他の活動として、ギターパンダ アルバム「飛ばせロック」
「壁うちロックンロール」でベーシスト、鍵盤プレイヤーとし
て参加。その他アーティストに楽曲提供等も行っている。
Official Website: http://anieky.com/
現在、山浦はBACKSOULI
NVADERS名義ではなく、
ANI
EKY A GO GO!/アニーキーアゴーゴー!というプロジ
ェクト名で、ライヴ活動を鋭意おこなっている。アニーキーと
いうのは、彼の長年のニックネームだ。そこらあたりの名称の
変化/使い分けは第三者には判りにくいが、なんにせよ山浦智
生の胸を張ったプロジェクトということでは変わりがなく、方
向性やレパートリーも同じだ。そして、この『MI
DDLEMAN』
は、そんな山浦の20
11
年の現況報告集である。
で、やはり素晴らしい。ずっとファンであることが誇らしく
思える仕上がりを見せる。グルーヴィなのにメロディアス、ぶ
っきらぼうだけど温かく、実直骨っぽいのに洒脱で粋……そん
な複合的な魅力を持つ精気にあふれた楽曲が、これでもかと並
んでいる。レコーディングに参加しているミュージシャンは山浦
の知己たち。ギターの渡口貴利はDI
XI
ETANTAS、PONTI
AC
BLUESとずっと活動を共にしてきているプレイヤーだ。そし
て、今回は最終的な音の研き込みに大家オノ・セイゲンが関与
している。
それから、往年の名表現の断片がさりげなく散りばめられて
いて、興味ひかれ、クスっとなれちゃう聞き手も少なくない
だろう。ザ・ビートルズ(山浦の原点にあるのは、彼ら。小学
校4
年生から、ハマっている)、ザ・ローリング・ストーンズ、
ジミ・ヘンドリックスをはじめとする“素敵の記憶”が、ここ
にはいろいろと。そして、それは聞き手に幸せな何かを与えて
くれる。
だが、だからといって、ここにあるのは決してレトロなもの
でも、後ろ向きなものでも断じてない。それは、今を生きる山
浦智生の心の揺れ、言葉、リズムなんかがしっかり表出されて
いるから。そして、その結果、あるべきものが有機的に配置さ
れた各曲から浮び上がるのは、ポップ・ミュージックとして
欠かせない普遍的な輝きや高潔な風のようなもの。これは、
賢人のロックである。
今作について、本人はロックぽい曲が多いと感じている。
聞けば、曲はどんどんできており、すでに次作用の録音もす
すんでいる。なんでも、次のアルバムに入るだろう曲はメロ
ディアスなゆったり目の曲が多く、本作と次作は対のような
関係になる予定であるという。
あなたは、気持ちと知識と才が見事に綱弾きする、秀でた
ロックが本当に好きなのか。この『MI
DDLEMAN』は、そん
な問いかけに対する、踏み絵のようなもの。少し、言い方は
悪いが、ぼくは心底、そう思う。 (2011年4月 音楽ライター 佐藤英輔)