TOPICS GIFA 2011報告 −日本ダイカスト協会視察団の見学記− ㈳ 日本ダイカスト協会 西 直 美 1.はじめに 午後・・・ Hagen に移動(約 600 km) 2011 年 6 月 28 日∼ 7 月 2 日の会期 5 日間にわたっ 午前中・・・ Georg Fischer Auto-motive AG(世界的 てドイツの Düsseldorf で 4 年に 1 度開かれる世界最 大の国際鋳造機器・技術展 GIFA 2011 が開催された。 6 月 29 日(水): な自動車部品メーカー)見学。 ・鋳造∼トリミング∼ショットブラスト∼後加工 ㈳日本ダイカスト協会では、6 月 25 日成田発∼ 7 月 2 までのオートメーション生産。材料開発、製造 日成田着までの、6 泊 8 日の日程で視察団を派遣した。 開発、設計開発を一体とした提案型影響を実施。 München ∼ Uzwil( スイス)∼ Biberach ∼ München 午後・・・ GIFA 会場へ移動 ∼ Werdorl ∼ Düsseldorf ∼ Frankfurt まで合計約 1,000 ・夕方 Bühler Druckgus AG のブースでのパー km をバスで移動する強行軍であった。GIFA の視察 ティに全員参加。 に先駆けて ㈱ JSW & Buhler Machinery 様のコーディ 6 月 30 日(木):終日・・・ GIFA 見学 ネートにより 4 社の工場を視察した。 ・GIFA は、厳密には GIFA(国際鋳造機器・技 術展 WFO 技術フォーラム併催)、METEC(国 2.視察概略 際 金 属 製 造 機 材・ 技 術 展 コ ン グ レ ス 併 催 )、 ㈳ 日本ダイカスト協会の GIFA への視察団派遣は THERMPROCESS(国際工業炉・熱応用技術 展)、NEWCAST(国際精密鋳造品展)の 4 見 今回で連続 4 回目となる。視察団は、筑波ダイカスト 本市の同時開催である。出展者数は 1,958 団体 工業㈱会長の増渕茂麿氏を団長として総勢 22 人で構 で、83 か国から 79,000 人の来場者があった。今 成された。 回特に注目されたのは、NEWCAST で中国企 6 月 25 日(土):成田出発 業が出展会社の 2/3 近くを占めており、製品の 6 月 26 日(日): 展示というより商談が目的の小さなブースが多 終日・・・ヒース教会、ノイシュバンシュタイン城を いようであった。急激に成長している中国の底 見学(観光) 6 月 27 日(月): 午前中・・・ Bühler Druckguss AG を見学。 ・小麦の製粉機械やチョコレートの生産機械など グラインディング技術をベースとした機械が 力を感じた。 夕方・・・ドイツ鋳造協会の Mr.Klügge 氏と増渕団長、 事務局でミーティングを行う。 7 月 1 日(金):Frankfurt 空港に移動 7 月 2 日(土):成田着 60 % 以上の世界的なシェアを持っている会社、 ダイカストマシンは 20 % のシェア。 午後・・・個人会社としては欧州で No.1 のダイカスト メーカーである Handtmann 見学。 ・太陽光発電のDC/ACコンバータハウジング(16 kg)のダイカストやロストフォームプロセスを見学。 48 3. 工場見学 3.1 ビューラー社(Bühler Druckgus AG)見学 ビューラー社(Bühler AG)は、スイスの Uzwill の 田園地帯に立地している。同社は、1860 年創業で現 6 月 28 日(火):午前中・・・ BMW を見学 在の売上高は約 19 億スイスフラン(1,840 億円)、社員 ・アルミニウム合金及びマグネシウム合金の生産 数は約 8,000 人である。写真 1 にビューラー社前での ラインを見学し、大物の自動車ボディ部品やエ ビューラースタッフと視察団との集合写真を示す。 ンジンブロックなどの生産現場を見学。技術力 ビューラー社のダイカストマシンは、質実剛健なこ の高さを痛感。 とで知られ、また SSM(セミソリッド)ダイカストで SOKEIZAI Vol.52(2011)No.9 TOPICS TOPICS 社である。売上高は、5 億ユーロ(550 億円)、社員数 は 2,600 人 で あ る。 工 場 は、Biberach、Annaberg、 Kosice、Slovakia に合計で 6 箇所保有している。 ダイカストマシンは、250 t ∼ 4,000 t が 65 台あり、 1,000 t ク ラ ス が ほ と ん ど で あ る。 工 場 内 の 写 真 撮 影は禁止されていたので、写真 3 に同社のカタログ に掲載されている工場内の写真を示す。ダイカスト は、年間で 38,000 t の生産を行っている。主な得意先 は、BMW、Volkswagen & Audi、Mercedes Benz、 OPEL などである。生産しているダイカストは、シリ ンダーブロック、オイルパン、ミッションケースなど の自動車部品が中心であった。自動車以外には、写 写真 1 Bühler AG での視察団集合写真 真 4 に示す太陽光発電のコンバータハウジング(約 16 kg)を大量に生産していた。München から Uzwil(ス も先陣をきってきた技術力の優れた会社である。しか イス)に移動する際の道路沿いの多くの民家や牛小屋 し、同社の主力は食品関係設備で、小麦の製粉機(世 の屋根などには太陽光発電パネルが敷き詰められてお 界シェア 66 %)を始め、チョコレートを製造する機械 り、再生可能エネルギーへの取り組みが盛んに行われ (同 65 %)、ペットフード(同 60 %)やパスタ(同 50 %) ていた。ハンツマン社で生産されていたハウジングは を製造する機械などがある。ダイカストマシンの世界 これらに使用されるとのことであった。ハンツマン社 シェアは 20 % である。 は、ダイカスト、切削加工、組付けまでの一貫生産を ダ イ カ ス ト マ シ ン の 生 産 は、 ス イ ス の 本 社 を 含 フルサービスと呼び、その強みをアピールしていた。 めて世界で 6 拠点{本社、オーストリア、アメリカ また、鋳造シミュレーション、FEM 解析、塩水噴霧 ( 旧 Prince)、 中 国(2 箇 所 )、 日 本(JSW & Buhler テストなどの設備を保有し、品質保証を行っている。 Machinery)}で行っており、ダイカストマシンのサイ ズは型締め力 100 t ∼ 4,400 t で、本社工場で組立可能 なサイズは 1,400 t まで、それ以上のものはユーザー の工場に持ち込んでから組立と調整を行っている。同 社の生産台数は年間 150 台である。最近では、省スペー ス、省エネルギーを特徴とした写真 2 に示すような 2 プラテン(固定プレートと可動プレートのみ)の生産 に力を入れており、その比率は 1,000 t 以上のクラス では 70 % とのことであった。 写真 3 Handtmann 社の工場(同社カタログより) 写真 2 Bühler Druckgus AG の 2 プラテンダイカストマシン 3.2 ハンツマン社(Handtmann) ハンツマン社は、ドイツ南部の Biberach にあるダ イカストメーカーで、1880 年頃に創設された個人会 写真 4 太陽光発電のコンバータハウジング Vol.52(2011)No.9 SOKEIZAI 49 TOPICS 同 社 は ダ イ カ ス ト 以 外 に、 重 力 金 型 鋳 造( 年 間 後者は、写真 6 に示すような BMW で最も大きい 1,500 t)、砂型鋳造(年間 500 t)なども行っている。ま ダイカスト製品で、BMW 5−series“Gran Turismo” た、アルミニウム合金のロストフォームプロセスが 2 に搭載されているハッチバックサポートフレームであ ラインあり、年間約 1,600 t を生産している。 る。 サ イ ズ は L:1,230 mm、W:1,250 mm、H:390 mm で質量は 11.6 kg である。この製品は鋳造から仕 3.3 BMW 社 上げまでが自動ライン化されていた。製品は、鋳造後 BMW 社はドイツを代表する自動車メーカーの一つ ハンガーに吊られ CNC 加工場に移動し、専用冶具に であり、今回の見学は München の北東 50 km に位置 て歪みなどを検査、数台の CNC に順番にセットし加 する Landshut にある BMW Light Metal Foundry で、 工を行っていた。 鋳造のみで完成車の組み立ては行っていない。1989 年 その他、4,000 t ダイカストマシンを用いてストラッ の創業で 2001 年よりマグネシウム合金ダイカストも トタワー(約 16 kg)の 2 個取りや、サイドフレームの 生産を行っている。社員は 1,280 人、面積 320,000 m で、 一体化など大型で、高精度、高品質のダイカストを行っ 生産量は年間 45,000 t で、売上高は 2 億 380 万ユーロ(約 ていた。いずれも高真空ダイカストによる生産である。 262 億円)である。 先のハンツマン社もそうであったが、比較的大型の 同社では、シリンダーブロック、サスペンション、 ダイカストマシンが多かったこともあり、ダイカスト 車体フレームなどを生産している。 マシンへの給湯はラドルを用いた給湯は皆無で、全て 見学した生産ラインは、マグネシウム合金製シリン エア加圧式と思われる給湯装置が用いられていた。ま ダーブロックとアルミニウム合金製のハッチバックサ た、BMW では合金は溶湯購入が行われており、工場 ポートフレームであった。前者は、2007 年の GIFA で 内には溶湯搬送のための容器がおいてあった。事実、 も展示されていた写真 5 に示す製品である。エンジン BMW 社に移動する高速道路でその搬送車を見かけた。 2 ブロックのシリンダー部分は過共晶 Al−17 % Si 合金を 用いて低圧鋳造し、それに表面処理を施してダイカス 3.4 ジョージフィッシャーオートモーティブ社 トマシンに設置し、マグネシウム合金で鋳ぐるんで一 (Georg Fisher Automotive AG) 体化してシリンダーブロックを生産している。 ジョージフィッシャーオートモーティブ社は、スイ スに本部があるジョージフィッシャーグループに属し ている。ジョージフィッシャーグループは配管、精 密加工機、鋳造の事業部で構成されている。その中 で、今回訪問したジョージフィッシャーオートモー ティブ社は鋳造を担当している企業である。同社の 売上高は年間 11.2 億ユーロ(1,232 億円)、社員は 5,500 人で、ダイカスト(アルミニウム合金、マグネシウム 合金)だけでなく、アルミニウム合金の砂型鋳造、金 型鋳造(重力、低圧)、鋳鉄の製造を行っている。ダ イカスト製品は、自動車製品が多く、ステアリング ナックル、ドアフレーム、トランスミッションケー ス、エンジンブロック、サスペンションアーム、ギ 写真 5 マグネシウム合金製シリンダーブロック ヤボックスなどを生産している。生産拠点は、ドイ ツ、 オ ー ス ト リ ア、 中 国 に 12 箇 所 あ り、 研 究 所 を 3 箇所に保有する世界トップクラスの総合鋳造メー カーである。同社のダイカスト製品は、Volkswagen、 BMW、Mercedes、Renault S.A.S.、VOLVO、Ford、 PEUGEOT、MAZDA、Citroen、PORSCHE など多くの 自動車メーカーに納入されている。 今回訪問した工場は、GIFA 会場のある Düsseldorf から東に 100 km ほど離れた Werdorl にある。写真 7 に同社前でのジョージフィッシャーオートモーティブ スタッフと視察団との集合写真を示す。同工場は従業 写真 6 ハッチバックサポートフレーム 50 SOKEIZAI Vol.52(2011)No.9 員 381 人、ダイカストマシン 21 台、マシニングセンター TOPICS ため、ダイカストとしての品質の作り込みがしやすい。 特に、同社では、材料開発、設計開発、プロセス開発 に取り組み、自動車メーカーに提案しているとのこと であった。 4.GIFA & NEW CAST GIFA は、 ド イ ツ の Düsseldorf で 4 年 に 1 度 開 か れる世界最大の国際鋳造機器・技術展で、厳密には GIFA(国際鋳造機器・技術展 WFO 技術フォーラム 併催)、METEC(国際金属製造機材・技術展 コング レス併催)、THERMPROCESS(国際工業炉・熱応用 写真 7 Georg Fischer Automotive AG 前での 視察団の集合写真 技術展)、NEWCAST(国際精密鋳造品展)の 4 見本 市の同時開催である。今回で 12 回目になる。会場は、 図 1 に示すように 17 ホールに分かれており、GIFA 19 台でエンジンブロック、ギヤボックス、トランス が 5、7、9 ∼ 13、15 ∼ 17 の 10 ホール、NEW CAST が ミッションケースなどを製造している。この工場のダ 13、14 の 2 ホールであった。 イカストマシンはビューラー社の 2,800 t ・ 2 プラテン マシンなどほとんどが大型マシンである。生産量は年 間 22,000 t である。 ダイカストの製造ラインは、鋳造∼トリミング∼ ショットブラストまで完全自動化されており、ロボッ ト、コンベアにより無人で搬送される。エンジンブロッ クは、荒加工、耐圧検査まで無人で行われている。また、 鋳造条件などの 15 項目が常にオンラインで管理され、 トレーサビリティも徹底されていた。 ダイカストマシンの横にはオイル循環式の金型温調 機(2 系統制御)が 4 ∼ 5 台配置され、金型の場所に もよるが 90 ∼ 220℃で温度制御していた。ヨーロッパ の水は硬度が高いため、冷却回路の水垢の堆積に対す る対応としてオイル循環式の温調機を用いて、冷却や 加熱を行っていると考えられる。プランジャーチップ 図 1 GIFA 会場見取り図 は、Cu−Be 製が多く、スリーブは日本のものに比較 主催者側の発表では、今回の出展は 1,958 団体で、 してかなり太く、肉厚であった。同様に金型も堅牢で、 来場者は 83 か国から 79,000 人であったそうだ。ちな 可動の母型がスペーサーまで一体となっており、ダブ みに日本からの来場者は 480 人であった。前回に比較 ルシリンダーによる引抜中子が用いられていた。金型 して海外出展者や来場者の占める比率が高く、特に中 寿命は、エンジンブロックで 15 万ショット(ウオー 国の出展者数は 2007 年の 25 社から 301 社へと 10 倍以 タージャケットは 2 ∼ 3 万ショット)、ミッションケー 上、インドは同 15 社から 80 社へと 5 倍以上増加した。 スで 10 ∼ 11 万ショット程度だそうである。 また、海外からの来場者の割合は 54 % と、2007 年を ダイカストの不良率は、エンジンブロックを例にす 上回り、特にインド、イタリア、フランス、オースト ると、工場内で 5 ∼ 6 %、ユーザーでの最終気密不良 リア及びアメリカらの来場者が多かった。 が約 1 % と少ない。高速射出速度は、4 ∼ 5 m/s で非 そもそも GIFA は「商談の場」としての位置づけで 常に速く(そのために金型が堅牢になっていると思わ あり、事実、今回の最高額の商談は、5,400 万米ドル れる)、充填時間が短くなることが不良率の低い要因 の取引で、ドイツの鋳造機械メーカーとウズベク鉄道 の一つと考えられる。 会社の間で成立したそうである。また、ドルトムント ジョージフィッシャーオートモーティブ社に限らず に拠点を置く誘導電気炉生産者も、世界で最も大きな ヨーロッパでは、自動車メーカーからの要求に応じて、 溶解炉をインドの鉄鋼会社との間で契約したそうだ。 部品メーカーやダイカスターが製品設計から取り組む 以下にダイカスト関連の主な展示状況を示す。 Vol.52(2011)No.9 SOKEIZAI 51 TOPICS 4.1 ダイカストマシン 2 t の小型ホットチャンバーダイカストマシンを展示し 今回の視察でお世話になった Bühler Druckguss ていた。一般的なホットチャンバーマシンとは異なり、 AG は、写真 8 に示すように 2 プラテンダイカストマ 大変コンパクトな設計になっており、ショットサイク シン CARAT 130 Lean をドライ運転していた。同マシ ルは 2 s 程度で小さく複雑な形状のねじや小型のホイー ンは、高精度の射出動作と鋳ばり発生の少ない高速射 ルバランスウェイトなどが生産できる。 出を特長としている。このダイカストマシンは、高真 日本からは、宇部興産機械(写真 10)、ヒシヌママ 空ダイカスト仕様(Vacu 2)になっており、排気量の シナリー(写真 11)が、ブースを設けていた。ダイカ 約 80 % はスリーブ上部から行い、補助的にキャビティ ストマシンの展示はしてないが、パネルやカタログな 上部のチルベントから排気する方式である。 どでそれぞれの技術をアピールしていた。 写真 8 Bühler Druckgus AG のブース 写真 10 宇部興産機械のブース 2 プラテンマシンは先に紹介したように省スペース、 省エネルギーを特徴としている。型締め力が大きいほ どそのメリットは大きい。同社以外にもイタリアの Italpress Industrie S. p. A や Idra s. r. l でも 2 プラテン ダイカストマシンを展示していた。 亜 鉛 合 金 用 の ダ イ カ ス ト マ シ ン で は、 ド イ ツ の Oskar Frech GmbH+Co.KG が Frech gating system を 展示していた。詳細は不明であるが、可動型から製品 が押出される時点で製品がランナー部と切り離されて いた。製品を見るとゲート部は仕上げの必要がないほ どきれいであった。また、スロバキアの Titus Group, 写真 11 ヒシヌママシナリーのブース Lama Avtomatizacija d. o. o では、写真 9 に示すよう な 4 方向のマルチスライド金型を取り付けた型締め力 4.2 合金材料 ダイカスト用の合金では、自動車の足回り部品や ボディ部品などの重要保安部品に適用が拡大している RHEINFERDEN ALLOYS GmbH & Co.KG のブース が注目を集めていた。同社は、ドイツにある会社で、 「Silafont−36」、「Magsimal−59」、「Castasil−37」な どのアルミニウム合金が著名である。特に Silafont− 36 は靱性、延性を阻害する Fe 含有量を 0.12 % 以下に して、Mn を 0.5 ∼ 0.6 % 加えることで耐焼付き、耐型 侵食性を向上させた合金で、T 6 や T 7 などの熱処理 によって機械的特性を調整でき、溶接性にも優れてい る。高真空ダイカストと組み合わせることで、BMW、 写真 9 Titus Group, Lama Avtomatizacija d. o. o の マルチスライド亜鉛合金用ダイカストマシン 52 SOKEIZAI Vol.52(2011)No.9 Volkswagen & Audi、Mercedes Benz などのエンジン クレードルやスペースフレームの結合部に使用される。 TOPICS 今回の GIFA で展示されていた写真 12 の AUDI A8 の 展示されていたことであった。日本では、金型にはノ サイドメンバーや写真 6 に示した BMW のバックドア ウハウが詰まっているため展示することはほとんどな などは最近の用途例である。また、Magsimal−59 は い。写真 14 は、その一例で自動車の足回り部品の高 Mg 5.5 %、Si 2.2 % を含有する合金で、鋳造のままで熱 真空ダイカスト金型の可動型である。金型にはガイド 処理しなくても高強度、高延性が得られ、写真 13 に示 ピンは設置されておらず、おも型の三箇所に四角柱状 した Porsche G1“Panamera”のドアインナーやリヤク の溝が掘られており、ここに固定側からの四角柱の突 ロスメンバーなどに使用されている。また、Castasil− 起が侵入して金型を合わせる方式で、さらに固定型と 37 は Mg の含有量を 0.06 % 程度に大幅に減らした合金 可動型がインローになっている。工場見学でも多くの で、強度は犠牲にしても熱処理なしで延性、鋳造性に 金型がこのような構造をしていた。また、この金型は 優れ、高温使用下でも時効による寸法変化しない特徴 通常の入れ子型とは異なり、直彫型である。注目され があり、自動車の A ピラーやドアのインナーフレーム るのはランナー形状で、ビスケットから扇形にいくつ などに使用される。日本では、伊藤忠非鉄マテリアル ものランナーが彫られ、製品部にファンゲートでつな が代理店として輸入・販売を行っている。 がっている。鋳造の湯流れの基本である「スムーズな 流れ」を文字通り実践している方案である。 写真 12 Silafont−36 を使用した AUDI A8 のサイドメンバー 写真 14 自動車の足回り部品の高真空ダイカスト金型の可動型 ヨーロッパでは金型の温度調節にオイル循環装置を 用いることが多い。日本では金型の予熱は捨打ちによ る場合が多いが、ヨーロッパでは温調機により金型を 予熱して、鋳造し始めからの品質確保が行われている。 しかも、温調用オイル回路は、入れ子だけでなくおも 型にも配置され、型温を安定させて入子の変形を防止 写真 13 Magsimal−59 を使用した Porsche G1 Panamera のドアインナー し、鋳ばりの発生や製品の変形などを防いでいる。また、 ヨーロッパの水は硬水であるため、冷却目的でもオイ ルを用いる。そのため、GIFA では多くの会社が金型 日本では、アルミニウム合金では約 95 % が ADC 12 温調機を展示していた。また、オイルによる温調は専 で、それ以外の材料の使用比率は低い。ヨーロッパに 用媒体が必要で、オイル漏れの発生や媒体の交換によ おいてもトランスミッションケースやシリンダーブ ロックなど多くの部品では日本の ADC 10 相当合金の 使用が多いが、鋳造が難しいとされる Magsimal−59 などの Al−Mg 系合金もかなりうまく鋳造できている。 残念ながら同合金は日本では鋳造するノウハウが蓄積 されておらず、今後研究する必要性があると考える。 4.3 金型 GIFA の会場で目についたのは、ダイカスト金型が 写真 15 スイスの Vakuum Druckguss Service 社の タイフーンチャンネル構造の真空バルブ Vol.52(2011)No.9 SOKEIZAI 53 TOPICS る廃液処理などの問題があるため、オイルの替わりに 0.6 MPa 程度の高圧水を 150℃前後まで加熱して、これ を熱媒体として循環させるシステムも展示されていた。 その他、ヨーロッパでは高真空ダイカストが以前か ら普及しており、GIFA でも数社が真空バルブ・真空 装置・チルベントなどを展示していた。写真 15 にス イスの Vakuum Druckguss Service 社のタイフーン チャンネル構造の真空バルブの例を示す。これは、台 風での空気の流れを参考にして開発された興味深い真 空バルブである。 4.4 ダイカスト製品 写真 17 Georg Fisher Automotive AG で生産された 自動車のドアフレーム 今世紀に入って日本でも高真空ダイカストが実用化 され、自動車の足回りやボディ部品への適用が進んで きており、ヨーロッパと同レベルの技術力が得られた と思いながら工場見学と GIFA に望んだが、実際はそ うではなかった。ヨーロッパの高品質ダイカストは、 日本に比較して大型で薄肉である。 写真 16 に示すストラットタワーは自動車の前輪の 上部にあるタイヤハウスで、日産自動車が 2007 年に GT−R に搭載したストラットハウジングと同様な製 品であるが、3. 3 で述べたように BMW ではこれを 4,000 t のダイカストマシンで 2 個取りしていた。また、 BMW に限らず、スイスの DGS Druckguss Systeme AG や 3. 4 で紹介した Georg Fisher Automotive AG 写真 18 第三世代の AUDI A8 のスペースフレーム などでも生産されている。 はダイカストであったものが、ハイテンのボルト締結 に替わっている。ダイカストでは自動車の側突強度が 不足していたため、ハイテンに置換された。ハイテン は、1,000 MPa 級の引張強さが得られ、アルミニウム 合金ダイカスト(300 MPa)の 3 倍以上である。もち ろん、コストの問題もあるものと考えられる。このよ うに、自動車の軽量化はダイカストにとって追い風と なっていたが、種々の材料を適材適所に使用するマル チマテリアル化が今後進行すると思われる。 写真 16 高真空ダイカストで生産された BMW のストラットタワー 写真 17 に示した自動車のドアフレームは Georg Fisher 日本からの NEW CAST へのダイカスターの出展 は、リョービ(写真 19(a))と本田金属技術&メッツ(写 真 20)であった。リョービでは、トランスミッション Automotive AG で生産されているもので、下部のイン ナーフレーム(サイズは L:1,110 mm、W:852 mm、H: 261 mm で、質量は 3.6 kg である)は Magsimal−59、上 部のフレームはマグネシウム合金ダイカストでボルト 締結されている。 その他、自動車のボティへのダイカストの適用はか なり進んでいるが、一方でアルミニウム合金ダイカス トからハイテンに材料置換された事例もある。写真 18 は、第三世代の AUDI A 8 のスペースフレームで、 中央の柱(センターピラー)は第二世代のフレームで 54 SOKEIZAI Vol.52(2011)No.9 写真 19 リョービのブースと崩壊性中子を使用した製品 TOPICS 写真 22 Gießerei-Institut der RWTH Aachen で開発中の VarioStruct 写真 20 本田金属技術とメッツのブース アルミニウム合金を充填して接合する、いわゆる「鋳 系の組み立て部品や EV、HV 関連部品などを展示し、 ぐるみ」によって薄肉のリブ構造部品を形成する技術 中でもタイミングギヤカバー(b)は同社の得意とする VarioStruct を開発中である。4.4 で述べたマルチマ 崩壊性砂中子(c)を使用しており世界的に優れた技術 テリアル化技術の一種として注目される。 で来場者から注目を集めていた。 日本では、産学連携が叫ばれて久しいがダイカスト 関連の研究を行っている大学が少ないこともあり、十 4.5 産学連携 分な共同研究開発体制が取られていないのは大変残念 ドイツでは大学と企業の共同研究が盛んに行われて である。日本のダイカスト技術が世界、特にヨーロッ おり、GIFA では 7.0 ホールに 21 の大学がブースを出展 パと互角に進展するためには、これらの共同研究体制 していた。ダイカスト関連では、Hochschule Aalen− を充実することが大切であることを痛感した。 Gie erei Technologie Aalen や Gie erei−Institut der RWTH Aachen などが注目された。 Hochschule Aalen では、写真 21 に示すようにキャ 5.おわりに ビティに溶湯を充填した後、製品が凝固する前に、ま 4 年に 1 度の鋳物関係の世界一の祭典である GIFA だ凝固していない製品中央部を高圧ガスで押出して中 はすっかり定着した感がある。世界中から多くの出展 空部を形成する GIT(gas injections technik)法を紹 者、来場者があった。日本も、震災で大変な時ではあ 介していた。本方法は現在も開発中であるが、射出成 るが 500 人近い人が参加した。残念ながら、日本企業 形においてはガスアシスト法として量産使用されてい が出展したのはわずかに 10 数社であった。それに引 る。また、排気溝の間隙を可変としたチルベントやゲー き替え、中国の GIFA への出展は 301 社(2007 年 25 社)、 ト部に移動ピストンを設置して、ゲート厚さを可変と インドが 80 社(前回 15 社)も出展しており、中国、イ して真空引き、溶湯射出、増圧、型開きの各段階に応 ンドの躍進が目立った GIFA であった。ただし、中国 じて適切な厚さにする可変ゲートシステムを開発して は国の支援があったので中小企業が多く出展できたと いる。いずれも、企業との共同研究である。 のことであった。 1000 年に一度と言われる大震災及び福島第一原発の 事故の収束への道のりは遠いが、今回の見学先の会社 及びドイツ鋳造協会の Mr. Klügge 氏からも励ましの 言葉をいただいた。日本のダイカストのレベルアップ をはかり、4 年後の GIFA 2015 には日本発の新技術を 持ってドイツに乗り込みたいものである。 最後に、社団法人日本ダイカスト協会の団長をお引 き受けいただいた筑波ダイカスト工業 ㈱ の増渕茂麿会 長に御礼を申し上げるとともに、GIFA 視察団に参加し 写真 21 Hochschule Aalen で開発中のガスインジェクション ていただいたメンバーの方々に感謝の意を表する。ま た、工場見学をコーディネートしていただいた㈱ JSW Gie erei−Institut der RWTH Aachen では、写真 & Buhler Machinery の北村和夫社長及び杉山正課長 22 に示すようにプレス鉄板とアルミニウム合金ダイ に感謝の意を表する。その他、レポートをまとめるに カストのコンポジットとして、鉄板の穴部や周囲溝に あたりご協力いただいた方々に感謝の意を表する。 Vol.52(2011)No.9 SOKEIZAI 55
© Copyright 2026 Paperzz