サッカーにおける得点につながるパスの本数 鮎川 1 郁哉 神田 聖悟 濱田 航洋 島﨑 嵐真 須﨑 拓海 はじめに (1) 研究の背景 私たちが所属する三好高校サッカー部は、130名を超える部員数で 「 全 国 大 会 出 場 」を 目 標 に 日 々 活 動 し て い る 。三 好 高 校 サ ッ カ ー 部 の 目 指 し て い る サ ッ カ ー は 、優 先 順 位 を 明 確 に し 、ボ ー ル ポ ゼ ッ シ ョ ン す る こ と が で き る チ ー ム で あ る 。ポ ゼ ッ シ ョ ン と は 相 手 に 奪 わ れ る 可 能 性 の 高 い ロ ン グ パ ス な ど を 多 用 せ ず 、奪 わ れ る 可 能 性 の 低 い シ ョ ー ト パ ス を 使 い ゴ ー ル に 向 か う 戦 術 の こ と で あ る 。そ の ほ か に も 戦 術 は い く つ か あ る 。カ ウ ン タ ー ア タ ッ ク 、サ イ ド ア タ ッ ク 、ポ ス ト プ レ ー な ど の 技 術 的 戦 術 の 他 、4 - 4 - 2 、4 - 2 - 3 - 1 、4 - 3 - 3 と い っ た フ ォ ー メ ー シ ョ ン に よ っ て も 戦 術 は 変 わ っ て く る 。ど の 戦 術 で も ほ と ん ど の 場 合 パ ス が 基 本 と な っ て く る 。パ ス の 中 で も シ ョ ー ト パ ス 、ロ ン グ パ ス な ど が あ り 、そ れ の 使 い 分 け に よ っ て ゴ ー ル ま で の 時 間 が 変 わ っ て く る 。シ ョ ー ト パ ス は 近 い 距 離 のパスであるため複雑なプレーができるがゴールまで時間がかかってし ま う 。そ の た め デ ィ フ ェ ン ス は し っ か り と し た 守 備 の ポ ジ シ ョ ン を と る こ と が で き る 。一 方 ロ ン グ パ ス は 単 純 な 攻 撃 で あ る た め デ ィ フ ェ ン ス は 対 応 し や す い が ゴ ー ル ま で 時 間 は か か ら な い 。そ の た め デ ィ フ ェ ン ス は し っ か り と し た 守 備 の ポ ジ シ ョ ン を と る こ と が で き な い 。こ の よ う な 点 か ら 得 点 力を上げるためにはパスの本数が大きく関わっていると考える。 (2) 動機・目的・仮説 三 好 高 校 サ ッ カ ー 部 は 週 末 に 公 式 戦 や 練 習 試 合 を 行 っ て い る 。そ の 中 で 、 負 け た 試 合 は シ ュ ー ト 数 が 少 な い と い う 課 題 が 残 っ て い る 。全 国 大 会 や プ ロの試合を見ている中で勝利につながる試合はシュート数が多い ことが わ か る 。私 た ち も シ ュ ー ト 数 を 増 や さ な け れ ば な ら な い と 分 か っ て い る が 、 そ の 方 法 に た ど り つ け ず に い た 。得 点 に つ な が る こ と が 多 い プ レ ー は セ ッ ト プ レ ー や カ ウ ン タ ー ア タ ッ ク な ど で あ る 。こ れ ら の プ レ ー は パ ス の 本 数 が 少 な い と い う 共 通 点 が あ る 。そ こ で 私 た ち は 得 点 率 を 向 上 さ せ る た め に は パ ス の 本 数 が 大 き く 関 係 し て い る の で は な い か と 考 え 、こ の 研 究 を 行 う ことにした。 世 界 屈 指 の 強 豪 チ ー ム で あ る F C バ ル セ ロ ナ は 、パ ス サ ッ カ ー と い う 形 で パ ス の 本 数 が 多 く て も 高 成 績 を 残 し て い る 。し か し そ れ は 相 当 な 技 術 や 選 手 間 の 信 頼 関 係 が な い と で き な い 。そ れ に パ ス の 本 数 が 多 く な る と い う こ と は ボ ー ル を 奪 わ れ る リ ス ク が 増 え 、ゴ ー ル ま で た ど り 着 け な い こ と が 多 い 。そ れ に 対 し て パ ス の 本 数 が 少 な け れ ば ボ ー ル を 奪 わ れ る リ ス ク が 減 り 比 較 的 簡 単 に ゴ ー ル ま で た ど り 着 く こ と が で き る 。こ れ ら の こ と か ら パ ス の 本 数 が 少 な い 方 が 得 点 に つ な が る と 仮 説 を 立 て た 。そ し て 、そ れ ら の データをもとに三好高校サッカー部の得点率の向上に役立てることを目 的とする。 2 研究方法 (1) 目的 プ ロ の 試 合 の 動 画 を 分 析 し 、ゴ ー ル に つ な が っ た パ ス の 本 数 を 調 べ る 。 (2) 手順 ア FIFAワールドカップ2014とUEFA 欧州選手権 EURO2012 コンフェデレーションズカップ2013 AFC アジ アカップ2011の動画を分析し、ゴールにつながったパスの本数を 記録する。 イ ボールを奪った選手がパスをつながず得点した場合、PKやフリー キックなどのセットプレーで直接得点した場合は、パスの本数を0本 とする。 ウ スローインは1本とする。 エ オウンゴールなど、相手に当たって得点した場合その時点までのパ スの本数をカウントする。 3 結果 (1) 2014年FIFAワールドカップ ワ ー ル ド カ ッ プ 全 6 4 試 合( 表 1 )を 分 析 し た と こ ろ 、以 下 の こ と が わ かった。0本から3本までで108本得点が入っている。これは(図1) を見てわかるとおり半分以上を占めている。 表1 パスの本数 得点数 FIFAワールドカップ2014 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 以上 22 33 32 21 14 10 8 5 7 4 3 6 10本, 3 11本 11本 以上, 6 9本, 4 0本, 22 8本, 7 7本, 5 6本, 8 1本, 33 5本, 10 4本, 14 2本, 32 3本, 21 図1 (2) UEFA 得点数の割合 EURO欧州選手権2012 全 3 1 試 合( 表 2 )を 分 析 し た と こ ろ 、以 下 の こ と が わ か っ た 。こ の 大 会 は 3 本 ま で で 4 4 本 得 点 が 入 っ て い る 。こ ち ら も か な り の 割 合 を 占 め て いることが(図2)からわかる。 表2 パスの本数 得点数 UEFA EURO欧州選手権2012 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 以上 3 17 11 13 14 2 8 1 1 2 2 1 8本, 1 10本, 2 11本 以上, 1 9本, 2 11本 0本, 3 7本, 1 6本, 8 1本, 17 5本, 2 4本, 14 2本, 11 3本, 13 図2 (3) 得点数の割合 FIFAコンフェデレーションズカップ2013 全 1 6 試 合( 表 3 )で 分 析 し た と こ ろ 、以 下 の こ と が わ か っ た 。こ の 大 会 は 試 合 数 が 少 な か っ た 。 し か し ( 表 1 )( 表 2 ) と 同 様 に 0 本 か ら 3 本 ま で で 4 4 本 得 点 し て い る 。こ ち ら も( 図 3 )か ら ほ と ん ど の 割 合 を 占 め ていることがわかる。 表3 パスの本数 得点数 FIFAコンフェデレーションズカップ2013 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 以上 12 14 11 7 11 3 3 0 0 2 1 4 8本, 0 9本, 2 7本, 0 10 本, 1 11本 11本 以上, 4 0本, 12 6本, 3 5本, 3 1本, 14 4本, 11 3本, 7 2本, 11 図3 (4) AFC 得点数の割合 アジアカップ2011 全28試合(表4)で分析したところ、以下のことがわかった。 この大会 も ( 表 1 )( 表 2 )( 表 3 ) と 同 様 に 0 本 ~ 3 本 ま で に 5 2 得 点 し て い る 。 こ れもまた、ほとんどの割合を占めていることがわかる。 表4 パスの本数 得点数 AFC アジアカップ2011 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 以上 14 11 14 13 5 4 2 0 2 0 0 1 7本, 8本, 2 0 6本, 2 9本, 0 10本, 0 11本 以上, 1 5本, 4 0本, 14 4本, 5 1本, 11 3本, 13 2本, 14 図4 4 得点数の割合 考察・まとめ (1) 2014年FIFAワールドカップについて この大会では、前回王者のスペイン代表がグループステージで敗退 すると いう波乱が起きた。スペイン代表は無敵艦隊といわれるほどメンバーがそろ っていた。しかし、初戦のオランダ戦では1-5で大敗した。スペイン代表 は非常に多くのパスを回しゴールを目指していた。そのため支配率はスペイ ンの方が高かった。スペイン唯一の得点であるPKは、ファールをもらうま でに9本ものパスをつないでいる。オランダ代表は、パスを回されている間 にしっかりとした守備のポジションをとることができ、PKのみの失点に抑 えた。攻撃では、ボールを奪われないように回している時間もあったが、ゴ ールを目指す時は比較的少ないパスの本数でゴールに迫っていた。そのため 得点のほとんどが相手のボールを奪ってからカウンターであ る。このように この大会ではパスを多用するサッカーではなく、カウンターサッカーが多く 見られたため、全得点が1998年のフランス大会と並ぶ過去最多得点数と なった。この大会で優勝候補として有力視されていたスペイン代表の1得点 あたりの平均のパスの本数は、10.5本である。これに対してこの大会で 優勝したドイツ代表の1得点あたりの平均のパスの本数は、4.3本であっ た。これらのことから、この大会では少ないパスの本数で多くの得点が決ま ったため私たちの仮説は正しかったと考えられる。 (2) UEFA EURO欧州選手権2012について この大会では、カウンターサッカーというより全体的に大事にパスを回し ながら攻める攻撃サッカーが目立った。二年前の2010年ワールドカップ では守りを固めてカウンターをするサッカーが主流だったのだが、打って変 わってこの大会ではポゼッションサッカー(本文のはじめにを参考に)を中 心とする国がとても増えた。これは、前回王者のスペイン代表の影響が大き い と 思 う 。「 カ テ ナ チ オ 」( ほ と ん ど の 選 手 が 自 陣 に 引 い て し っ か り 守 る と い う堅い守備で、前線の数人だけで素早く得点を取るというイタリアのカウン ターサッカーの戦法)といわれるサッカーをしてきたイタリア代表でさえこ の大会はそれを脱却してパスをつなぐ攻撃サッカーで決勝まで進んだ。しか し、パスサッカーを否定するわけではないが、試合を見るかぎり 個人のポテ ンシャルが高いスペイン代表やイタリア代表だからできたことであり、他の 国ではパスを回すのが主流であるがラストパスのミスや簡単なパスミスが 目立った。これはパスの本数が多くなればなるほどパスミスがふえてしまっ ていることがわかる。それにパスを多用すれば、相手の守備陣を崩すことも できるが、その分守備をする陣形を整えさせてしまうこともある。素早い攻 撃でゴールにむかいシュートするのが得点するのにもっとも重要かつ有効 だとわかった。これらのことから、パスの本数が少ないほうが得点につなが るという私たちの仮説はこの大会を見ても感じることができた。 (3) コンフェデレーションズカップ2013について コンフェデレーションズカップは、FIFAが主催する6大陸の王者と開 催国とワールドカップ優勝国を加えた8カ国によって争われる国際大会で ある。この大会は開催国のブラジルが優勝を果たした。上記してある通り、 2012年EURO欧州選手権ではスペインが優勝していた。しかし決勝戦 では、ブラジルに3-0で完敗している。全68得点入っている中でパスの 本数が0本から2本までで37得点も入っている。ブラジルは14得点、ス ペインは15得点決めている。結果的にパスの本数が少ないほうが得点率は 高いがパスサッカーを主流とするスペイン代表がこの大会では多く得点を している。このことからパスサッカーでも通用していたことがわかる。よっ て、私たちが立てた仮説はこの大会では実証できた部分もあるが実証できな い部分もあった。 (4) AFC アジアカップ2011について この大会では、見事日本代表が優勝を果たした。 全体的に見て個人的なミ スや組織としてのミスが多いように感じた。優勝した日本はこの大会でのラ ストパスの成功率が高かった。しかし日本は 相手のボールを奪ってからより 早くボールをサイドに散らしながらセンタリングを入れて、中に空いたスペ ースに合わせるという戦術であった。他国では、簡単に相手にボールを渡し てしまい失点をする場面が多く見られた。またすべてのチームに対していえ ることはディフェンスラインが低かったということ。結果的にはパスの本数 が少ないほうが得点率は上がってはいるのだが、試合を見る限り相手の陣形 が整っているときはいくらパスを回しても得点につながることが少なかっ た。このことから素早い攻撃で相手の陣形が整う前に空いたスペースをうま く使う攻撃が有効であると考えられる。そのため、この大会でも私たちが立 てた仮説が立証できたと考えられる。 (5) まとめ 上記してある4大会を統計したのが表5である。この表を見てもわかる よ うに、あからさまにパスの本数が0本から4本までに得点数が偏っている。 全139試合見てきた中で国によってさまざまな戦術の違いが見られた。同 じ国でも大会によって戦術が変わっていた。相手によってパスサッカーをす る時もあれば堅守速攻のカウンターサッカーにする時も見られた。近代のサ ッカーはカウンターサッカーが主流になってきている。 今回の論文の結果の 中で唯一実証出来なかったこともあったコンフェデレーションズカップ以 外はすべて得点につながったパスの本数が少ないほうが多くの得点を取る ことができていた。だが、例外のコンフェデレーションズカップや4本以上 のパスの本数で得点していた試合を見ていると絶対的に速攻が有効的とは 考えにくい得点もあった。アジアカップの日本代表のように素早い攻撃では あるがパスをまわしサイドにボールを散らしながらじっくり攻めていくの も相手の陣形を崩すという意味では有効であると感じた。また、フリーキッ クやPKなどで得点しているが、その中にはパスを多くつないでシュートを 打つ前にファウルをされたものもあり、もしプレーが続いていたとしたらパ スの本数が多い割合になっていたかもしれない。しかし、やはりこの4大会 の中でも半分以上の得点が少ないパスの本数で得点している。つまりパスミ スをするリスクやゴールまでたどり着くまでの時間などを考慮するとボー ルを奪ってから速攻で仕掛けパスの本数が少ないほうが得点率を上げるこ とができるという実証ができた。 表5 パスの本数 得点数 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 本 以上 51 75 68 54 44 19 21 6 10 8 6 12 図5 5 4大会のまとめ 得点数の割合 最後に この研究を通して私たちの立てたパスの本数が少ないほうが得点につながるので はないかという仮説は正しかったと考えられる。私たちが研究していく中で得点シ ーンだけではなく、支配率を調べてそれを関連付けた研究にしたほうがよかったの ではないかという反省が残った。たとえパスの本数が1本や2本で得点していたと してもそこにいたるまでの過程で多くパスを回して全体を押し上げることをして いたチームも少なくはない。そのため、多くのパスを丁寧につなぎゴールに結びつ けるという理想を追求し続けることも大切である。それと同時に常にゴールへの優 先順位を頭に入れシンプルにゴールに結びつけることも重要であると 、この研究を 通して知ることができた。また今回私たちはワールドクラスの試合だけのデータを 取ってきたが、私たちが所属している三好高校サッカー部や高校サッカー全体のデ ータと比較することでより明確な課題が見つけられたのではないかと思う。 私たち は三好高校の得点力を上げるにはどうすればいいかということを目 的として研究 を進めてきた。戦っているカテゴリー や環境は高校サッカーとは異なるが、得点を とるということには変わりないと思う。今回の研究で得た結果を三好高校サッカー 部の後輩たちへ伝え、その結果と後輩たちのゲームコンセプトをうまく混合させ、 よりアグレッシブなサッカーを展開していってもらいたい。そして私たちの最大の 目標である全国大会出場を成し遂げてほしい。そのためには、この他にも守備面の 強化やチームワークの構築など多くの課題があるが 、ひとつひとつ解決し、強いチ ームになってほしい。また、今回私たちが 研究した結果を今後の三好高校サッカー 部の活動に生かしてもらえれば幸いである。 参考文献 ○サッカー動画速報 http://soccer-douga.com/ ○ YouTube サ ッ カ ー 動 画 紹 介 ブ ロ グ http://footballingtube.blog93.fc2.com/
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