コンピューターによるデータ解析・グラフ作成マニュアル

物理化学学生実験
1−2. コンピューターによるデータ解析・グラフ作成
瓜田
幸幾
1. はじめに
これから始まる物化実験のみならず、今後、研究室に配属されてからも PC を用いたデータ解析が必
要となる。PC のソフトウェアは、使用方法を知っていれば非常に便利なツールとなるが、インターネ
ットの普及により検索が容易になったとは言え、使用方法が分からなければ多大な時間と労力を費や
すこととなる。そこで、ここでは多くの学生が使用している MS-Excel を用いたデータ解析の手順を説
明する。なお、Mac の Numbers や Office 類似のフリーソフトである OpenOffice など、他のソフト
を使用している場合もほぼ同様の操作となる。
(実際、MS-Excel は表計算ソフトであるためデータ数が多い場合は不向きである。専用の計算ソフト
(Igor, Origin など)を使用すると良いが、学生ライセンスで購入しても数万してしまう。)
2.
内容
・データ(炭素材料の窒素吸着等温線)を用い、BET プロットを作成する。(説明は省略)
3.
操作
(1) エクセルの起動
- Windows の場合
[スタート]ボタンから[全てのプログラム]-[Microsoft Excel]を選択。
- Macintosh (OS-X)の場合
画面下 Dock より Excel ボタンを選択。
もしくは、[アプリケーション]-[Microoffice xxxx]-[Microsoft Excel]を選択。
(2) データの入力
ここでは、下記 WEB サイトからウンロードした窒素吸着等温線のデータ
(N2_Adiso.xls)を用いる。
http://www.ch.nagasaki-u.ac.jp/phy/Bukka/Lec_URITA.html
[開き方]
- Excel-[ファイル]-[開く]で開くファイルを選択。
- ファイルを Excel のアイコンにドラッグ&ドロップ。
- 開くファイルを右クリックでプログラムを選択。
[Tips]
- 数値は右寄せ、文字列は左寄せで表示される。
- 数値を文字列にする時は、先頭に
(アポストロフィ)を入れる。
(入力後アポストロフィは表示されない)
- 日本語-英語の入力変換
Windows: [半角/全角]ボタン
Macintosh: [command]+[スペース]、[英数]-[かな]。
(カタカナは[かな]入力後、[ctrl]+[i])
(3) コピー、カット、ペースト、計算式入力
(3-1) 蒸気圧の列の右に相対圧の列を作る。
(i) 列の一番上のセルに
相対圧
と入力。 (
(ダブルクォーテーション)は必要ない)
(ii) その下のセルを選択 (クリックでもダブルクリックでも良い)。
(iii) 選択されているセルに、圧力(Torr)から相対圧(P/P0) [圧力 (P) / 飽和蒸気圧 (P0)]への変換
式を入力する。ここでは、窒素の 77 K における飽和蒸気圧(P0 = 760 Torr)を用いる。
= A2 / 760
(式中の
A2
はセル A2 の中の数値を意味)
(iv) [Enter]を押し、計算結果を確認。
(v) 再びセル C2 に選択枠を移動。
(vi) C2 以下のセルにも同様の計算結果をコピーする。
(3-2) 相対圧の右隣の列に、BET 解析に必要な
P/[v(P0-P)]
の列をつくる。
(P: 圧力、P0: 飽和蒸気圧、v: 吸着量)
(3-3) 下図のようになっていることを確認。
[Tips]
- 有効数字: セルを選択して右クリック、[セルの書式設定]-[表示形式]で[数値]の桁数を指定する。
もしくは、[表示]-[ツールバー]-[書式設定]で表示させた桁数
変更のボタンを使用。
- 範囲指定: [Shift]を押しながらカーソルキーを操作。[Shift]+[ctrl]+[十字キー]で列もしくは行
の全選択
- コピー: [Ctrl]+c
同時押し
$マークを付けておくと、コピーしても指定セルの位置が移動しない。
$A1 -> コピーしても列は固定。
A$1 -> コピーしても行は固定。
$A$1 -> 両方固定。
- 参照を含んだコピー: 参照を含んだセルをコピーすると、参照位置が自動的に移動してコピーさ
れる。
- セルの右下角の■にカーソルを合わせると、カーソルが
+に変わるので、この状態でダブルクリックをすると、選
択セル以下のセルにも同様の計算結果がコピーされる。
- カット: [Ctrl]+x
同時押し
- ペースト: [Ctrl]+v
同時押し
- 計算式入力: セルの先頭に= (イコール)をつけると、そのセルは計算式として扱われる。
[使える記号] 計算式は全て半角文字でなくてはならない。
+, -, *, /; 四則演算�
(
); 括弧、 通常の計算と同じ優先順位で計算が行われる。いくつでも使えるが、セルの中
で左右の括弧の数が違っているとエラー�
^; ハット (累乗 2 の 3 乗 → =2^3)
�log(), ln(), exp(), sqrt(); 常用対数、自然対数、exp, ルート, (括弧の中に数値を入れる)
�pi(); 円周率(括弧の中には数字を入れない)
�sin(), cos(); 括弧の中には角度を入れる(ラジアン単位であることに注意)
�[メニュー中の[挿入]-[関数]で一覧が出てきます。]
�radians(); 度をラジアンに変換�
degrees(); ラジアンを度に変換
(4) グラフ作成
(4-1) グラフにする範囲の選択 (P/P0 (相対圧)と V(吸着量))。
マウスでドラッグ。or (3)の[Tips]範囲指定を参照。
(4-1) グラフの作成
グラフのアイコンをクリック。or [メニュー]-[挿入]-[グラフ]。
(4-2) グラフウィザードの設定(次ページ図参照)
・ グラフの種類:散布図、形式:点のみ(データ点間の線がないもの)
・ グラフ系列:Xの値を P/P0 の列とし、Y の値を V(吸着量)とする。
・ グラフタイトル、軸タイトル
・ データ点や軸など適宜見やすいように変更すること。
同様に、x 軸を P/P0、y 軸を P/[v(P-P0)]として、BET-plot を作成する。
[Tips]
- タイトルや軸の名前など:右クリック、[グラフのオプション]-[タイトルとラベル]から設定。最
近の ver.では、グラフオプションタブ内の[タイトル]でグラフタイトル、縦軸、横軸のタイトル
が入力出来る。
(!!注意!!
図には必ずタイトルをつけなくてはならない。エクセルは図の上にタイトルを付けて
しまうが、自然科学分野では図のタイトルは、図の「下」につける。位置を修正する。グラフの
軸には必ず物理量と、単位を付けなくてはならない。)
- グラフの中の横線: 右クリック、[グラフのオプション]-[目盛り線]から設定。
不必要なものは削除。
- 線や点の有無、色、種類: 凡例(はんれい)をクリック。
データ点は必ず示す。
データ点を折れ線でつないではいけない。
点は得られた実験結果を、線はその解釈を示す。
直線でない解釈をする場合、線は印刷した後、手で書き加えても良い。
色は背景色(白)と似た色を用いない。蛍光色は厳禁。
- 表示範囲: [軸の書式設定]-[目盛り]の最大値、最小値を設定。見せたいが部分が大きくなるよう
に工夫。
(4-3) BET-plot の相対圧が 0.01
0.05 の範囲で近似曲線(今回は直線)を引き、近似式、R2 値を表
示。
(i) 相対圧が 0.01
0.05 の範囲の相対圧と P/[v(P-P0)]を選択して、作成した BET-plot にグラ
フを加える。
(ii) データ点をクリックし、選択
(iii) 全点が選択された状態で、右クリックから「近似曲線の追加」を実行
(iv) 種類:線形近似
オプション:グラフに数式を表示する
グラフに R-2 乗値を表示する
(v) 数式の傾き、切片等の有効数字の桁数が足りな
い場合:数式を選択→右クリックから「データ
ラベルの書式設定」→タブ「表示形式」→「数
値」または「指数」を選び、有効数字に適切な
表示桁数を選択する。
(4-4) グラフエリアを選択し、コピー、Word ファイ
ルなどに貼り付けてレポートに挿入する。
[課題]
与えられた 77 K における窒素吸着測定データ(活性炭素繊維、カーボンナノチューブ、やしがら炭)
より窒素吸着等温線と BET-plot を作成し、c 値、vm 値(下記参照)を求め、使用した炭素材料の比表面
積を求めよ。レポートには窒素吸着等温線、BET-plot のグラフと c 値、vm 値及び比表面積を記載する
こと。
窒素吸着測定データ: http://www.ch.nagasaki-u.ac.jp/phy/Bukka/Lec_URITA.html
BET 理論:表面には分子が吸着するサイトがあり、それらのサイトに分子が多分子層吸着しているモ
デル(物質の表面にガス分子が数層吸着している状態)を考える。吸着平衡において吸着速度と脱着速
度が等しいという仮定から、等温吸着式として次式が得られる。
v=
v m cp
( p0 − p)[1+ (c −1)( p p0 )]
… (1)
ここで、v:吸着量、vm:単分子層吸着量、c:吸着熱に関する定数(吸着熱は発熱なので必ず+になる)、
p:圧力、p0:飽和蒸気圧を示す。
€
式(1)を BET 解析のために次式に変形する。
⎛ 1 ⎞ ⎡ (c −1) ⎤
p
= ⎜
⎟ + ⎢
⎥( p p )
[v( p0 − p)] ⎝ v mc ⎠ ⎣ v mc ⎦ 0
(2)
この直線の切片(1/vmc)と傾き[(c-1)/vmc]から定数 c,vm が求められる。
式の導出方などの詳細は、「吸着の科学(丸善)」を参考にすると良い。
€
比表面積(specific surface area)の計算方法:比表面積(m2/g)とは吸着分子(今回は窒素分子)の占有
面積と比べた場合の吸着媒(炭素材料)の表面積を意味する。単分子層吸着量(vm)から比表面積(As)を次
式により計算することが出来る。
⎛ v Na ⎞
As = ⎜ m m ⎟ × 10 −18
⎝ M ⎠
[m g]
2
…(3)
ここで、vm の単位は吸着媒単位質量当たりの吸着質(窒素分子)の質量(g/g)、N:アボガドロ数 (6.022
x 1023)、am:吸着質分子が試料表面で占める面積 [分子占有断面積(nm2)]、M:吸着質の分子量を示す。
€
BET-plot より求めた vm(単位に注意!!) と、今回は吸着質分子として窒素分子を 77 K で用いているの
で am を 0.162 nm2 として用いる。