ロシア乗用車市場における明と暗

ロシア乗用車市場における明と暗
ロシア東欧経済研究所 調査部次長
坂口 泉
はじめに
1.ロシア乗用車市場の特性と市場規模
2.国産中古車市場
3.国産新車市場
4.輸入中古車市場
5.輸入新車市場
6.国内メーカーの動き
7.外国メーカーによる国内生産の動き
まとめにかえて
はじめに
最近、ロシアの乗用車市場が非常に好調だという話をよく耳にする。実際、日本車の売行き
は極めて好調で、2003年1~3月期のトヨタのロシアにおける新車販売台数は前年同期比で実
に136%も伸びた。また、三菱自動車の販売台数も前年同期比で83%増加している。
さらに、2002年夏以降、フォードが現地生産を開始し、非常に好調な指標を示しているとい
う事実も好景気感をあおる格好となっている。
しかし、一方で、2002年秋から2003年2月にかけAvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場)をはじめ
とする純国産メーカーの生産量が激減したという事実や、2003年に入り欧州メーカーの新車販
売台数が伸び悩む傾向にあるという事実も存在する。現在のロシアの乗用車市場が全般的に明
るいトーンに彩られているという認識で間違いないが、暗の部分も明確に存在するのである。
本稿では、明の部分のみならず暗の部分にもスポットをあて、ロシアの乗用車市場の現状を
多面的に紹介することを試みる。
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
1
1.ロシア乗用車市場の特性と市場規模
(1)普及台数
最新の数字は入手できなかったが、2000年末時点のロシアの乗用車登録台数は2,040万台であ
った(商用車も含めると2,539万台であった)
。2,040万台のうち、国産車が約1,600万台、輸入車
が約440万台となっている。メーカー別に見るとAvtoVAZのシェアが圧倒的に高く、全体の約半
分を占めている。
製造年別でみると、非常に古い車が多いのが目立つ。製造後10年以上経過した車が全体の約
48%を占める。以下、5~10年が22%、5年未満が30%となっている(RG, 2002.9.10)
。この数
字は、ロシアでは車はまだ貴重品であり買い替えが容易ではないということや、ロシアにおけ
る車検制度が形骸化している可能性が存在することを示唆しているように思われる。
(2)市場規模
ロシアの乗用車市場の規模については諸説が存在するが、ここでは、2003年3月19日付けの
『イズベスチヤ』紙に掲載された台数ベースの数字を紹介しておく(第1表)
。
この数字からは、順調に市場規模が拡大していること、ならびに、市場規模拡大に輸入中古
車が最も大きな貢献を行ったことがわかる。
2001年より中古車の販売台数が急激に増加したのは、主として、2000年末ごろより中古車の
輸入関税が近いうちに引き上げられるとの噂が出始め、その噂に引っ張られる形で中古車輸入
量が急増したためだと推測される。ちなみに、一部中古車(7年おちの中古車)の関税引き上
げが実際に実施されたのは2002年10月のことであった。
輸入新車の販売台数も伸びてはいるが、輸入中古車のそれと比較すると、それほど急激な伸
びではない。ロシア経済の好調さを勘案するともっと伸びてしかるべきだと思うが、比較的年
齢の若い中古車(製造後3~7年の中古車)に市場の一部を侵食された可能性も否定できない
ような気がする。
国産新車はトップシェアを維持してはいるものの、販売台数はここ3年間停滞気味で、2000
年には約80%だった市場シェア(台数ベース)が、2002年には64%にまで急落している。その
理由としては、①2001~2002年に中古車が大量に輸入された、②1998年8月のルーブル切り下
げ効果が希薄化し国産新車の割安感がなくなってきた(国産車のドル建ての価格がジリジリと
上昇してきている)
、③国産車に質の向上が全くみられない、④既存車のモデルチャンジや新型
車の投入が行われなかった等を挙げることができる。
2
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(第1表)ロシアの自動車市場の規模(台数ベース)
(単位 台)
2000
2001
2002
乗用車
国産
輸入新車
輸入中古車
合計
967,000
1,024,000
981,000
72,000
94,000
106,000
179,000
381,000
448,000
1,218,000
1,499,000
1,535,000
189,000
176,000
173,000
10,300
19,400
5,000
トラック
国産
輸入新車
輸入中古車
合計
200
1,000
25,000
199,500
196,400
203,000
バ ス
国産
54,000
57,000
66,000
輸入新車
1,000
800
1,500
輸入中古車
2,200
4,900
6,000
73,500
62,700
57,200
合計
(注) Pr(2002.8.19)によれば、2001年のトラックの市場規模は
約19億ドル、バスのそれは約8億ドルとされている。
(出所)
『イズベスチヤ』紙(2003.3.19).
一方、金額ベースの市場規模であるが、2002年1~9月期のそれは約80億ドルと評価されて
いる。さらに、金額ベースでみた乗用車タイプ別のシェアは、輸入中古車が約40%(平均価格
は9,000ドル)
、国産新車が約37%(平均価格は4,200ドル)
、輸入新車が約22%(平均価格は約2
万ドル)
、ロシア国内で組み立てられた外国車が1.1%(平均価格は約2万ドル)とされている
(KD, 2002.12.4:原データはASMホールディング)
。
次に、以下では、乗用車市場を、国産中古車部門、国産新車部門、輸入中古車部門、輸入新
車部門の4つに分類し、それぞれの部門の現状、特徴、今後の展望等を紹介する。
2.国産中古車市場
最近の国産中古車市場における最大のニュースは、VAZ-2110およびその関連車種(-2111、
-2112)が大量に出回りはじめたことであろう。VAZ-2110は、1997年末ごろより量産が開始さ
れたAvtoVAZの最新型セダン(1,500cc)で、2001年末までに40万台以上生産されている。その
他、関連車種(同じプラットフォームのワゴンとハッチバック)も、合計で約30万台生産され
ている。
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
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(第2表)VAZ-2110およびその関連車種の中古車価格(於:モスクワ)
(単位 ドル)
2002年製
2001年製
2000年製
1999年製
1998年製
1997年製
-
4,800
4,300
3,900
3,500
3,300
VAZ-21102
5,400
4,900
4,400
3,900
3,600
…
VAZ-21103
5,800
5,200
4,500
4,200
3,700
-
VAZ-2111
5,500
5,100
4,600
4,200
3,900
-
VAZ-2110
…
4,800
5,100
5,700
VAZ-2112
(注) 2110、21102、21103はセダンで、搭載エンジンのタイプにより分類される。2111はワゴン、
2112はハッチバック。
(出所)
『ザルリョム』誌(2003.1)
。
VAZ-2110は国産車としては高級車の部類に入る車で、
発売当初の1997年頃は8,000ドル以上で
販売されていた。中古車市場での評価も比較的高く、製造年により価格は異なるが、大体、3,500
~5,500ドルの範囲内で取引されている(第2表)
。
VAZ-2110を中古車市場で売却しているユーザーは比較的裕福な人たちが多く、3~7年もの
の輸入中古車あるいは低価格の輸入新車市場へその一部が流出している可能性も否定できない。
3.国産新車市場
2002年の国産新車の販売台数は約98万台であるが(第1表)
、そのうちの約7割をAvtoVAZ
製の乗用車が占める。その他、ZMA(軽自動車生産工場)
、SeAZ(セルプホフ自動車工場)
、
Roslada(スィズランに所在する組立て工場)
、IzhMash-Avto(イジェフスク自動車工場)等で組
み立てられているVAZ車(オカと呼ばれる軽乗用車VAZ-1111、根強い人気を誇る乗用車
VAZ-2106等)を含めると、そのシェアは8割を軽く超える。そして、GAZ(ゴーリキー自動車
工場)のヴォルガ、UAZ(ウリヤノフスク自動車工場)の4輪駆動車等が残りの2割弱を占め
ている。
ロシア国産新車の販売価格は第3表のとおりであるが、ごく一部の例外を除き、国産新車の
小売価格は大体6,000ドル未満となっている。価格の安さが、国産新車の最大の魅力であるとい
えよう。ただ、ここで注意しなければいけないのは、最も安いオカ(2,300ドル)と、最も高い
価格帯に位置するVAZ-2110(約6,000ドル)との間には価格差が4,000ドル近くも存在するとい
う点である。この数字をみる限り、国産新車の購入者を一括して論じることは不適切な気がす
る。具体的にいえば、5,000ドル未満の国産新車を購入する層と、5,000ドル以上の国産新車を購
入する層に大別して市場分析を行う必要があるのではないかと考える。
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ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(第3表)主な国産新車のモスクワでの小売販売価格の例
モデル名
車体タイプ
エンジン総排気量
販売価格
(cc)
(ドル)
VAZ-21043
ワゴン
1,452
3,800
VAZ-21053
セダン
1,452
3,300
VAZ-2106
セダン
1,569
3,200
VAZ-2107
セダン
1,452
3,500
VAZ-210831
ハッチバック
1,499
4,400
VAZ-21093
ハッチバック
1,499
4,500
VAZ-21099
セダン
1,499
4,700
VAZ-21102
セダン
1,499
5,800
VAZ-21213(NIVA)
ワゴン(オフロード車)
1,690
4,300
GAZ-3110-101
セダン
2,286
5,000
オカ
ハッチバック
750
2,300
2,445
3,500
ワゴン(オフロード車)
UAZ-31512
(出所)
『ザルリョム』誌(2003.1)
。
前者に属するのは、オカ、VAZ-21043、-2105、-2106、-2107、-2108、UAZ-31512等を購入す
る人々で、年間で60万~70万人強に達するのではないかと推測される。これらの人々の場合、
その購買力から判断して、輸入新車はもちろんのこと、状態の良い輸入中古車を購入すること
も困難だと思われる。すなわち、この層の人々が、国産車市場から「逃げ出す」可能性は比較
的低いと判断される。
後者に属するのはVAZ-21099、VAZ-2110、GAZ-3110等を購入する人々で、その総数は年間で
30万~40万人に達するものと推測される。この層の人々は、少し無理をすれば比較的状態の良
い輸入中古車や低価格の輸入新車を購入しうる可能性を秘めている。換言すれば、国産車市場
から「逃げ出す」可能性を秘めた購買層だといえる。
その可能性が現実のものとなることを阻止するためには、国産メーカーは製品のコストパフ
ォーマンスの向上を達成する必要があるが、現実的に見た場合、品質の改善は見受けられない
のに価格が上昇するという形で国産車のコストパフォーマンスが低下する可能性のほうが高い
(実際、最近、その傾向が顕著となりつつある)
。このため、国産メーカーは政府に働きかけ、
市場における主要なライバルである7年おち輸入中古車の関税引き上げという措置をとらせた
わけである。つまり、国産車のユーザーとしては比較的富裕な層に属する人々の「逃げ道」の
ひとつを関税障壁により塞いでしまったのである。主要な逃げ道を塞がれたユーザーたちが、
今後、どのような動きを示すのか予測するのは困難であるが、一部の人々は、輸入新車市場に
逃げ込もうとするのではなかろうか。
その意味で、
今後の動きが注目される購買層だといえる。
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
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4.輸入中古車市場
(1)2001年以降に中古車の輸入が急増した理由
先にも述べたとおり、2001年から中古車の輸入台数が急増したのは、輸入関税率の引上げ懸
念が業者および需要家の間で広まり、駆け込み需要が急増したからである。では、何故、当該
の懸念が広まったのであろうか。
それは、2000年秋にGAZを買収したロシア有数の新興財閥「シベリア・アルミニウム」
、な
らびに、やはり同時期にUAZを買収したロシア最大の鉄鋼メーカー「セヴェルスターリ」が、
2000年末ごろより、国産新車の市場での主要ライバルである外国製中古車の輸入関税を引き上
げるよう政府に対し積極的に働きかけだしたからである。より具体的にいえば、彼らの積極的
な動きがマスコミを通し流布され、関係者およびユーザーの間に中古車の輸入が困難になると
の憶測が広がり、駆け込み需要が高まったのである。結果的にいえば、この駆け込み需要は約
2年間も続いたことになる
(特に輸入量が多かったのは2002年3~9月だったといわれている)
。
(2)中古車輸入の状況
2001年の中古車輸入台数は約47万台で、うち約11万台が法人、約36万台が自然人(個人)に
よるものであった。また、2002年の輸入量は約50万台で、うち約6万台が法人、約44万台が自
然人によるものであった(Ve, 2003.1.17等より)
。自然人による輸入の割合が極端に多いのは、
自然人による中古車輸入においては、付加価値税(20%)
、物品税が事実上免除されるからであ
る1)。もっとも、この特典は個人使用を目的とする輸入にのみ適用されるはずなのだが、現実
的には自然人により輸入された中古車はほとんどすべて転売されているようである。つまり、
市場で販売されている中古輸入車の大半は、自然人が輸入したものだと考えてよい。
地域別に見た場合、極東税関経由の輸入が最も多く、製造後3~7年の中古車の場合は同税
関経由のものが全体の47%を占める。以下、北西税関経由が19.6%、中央税関経由が18.2%を占
める。また、7年おちの中古車に関しても、やはり極東税関経由の輸入が最も多く、全体の37.2%
を占める。以下、北西税関―28.4%、中央税関―20.3%と続く(ロシア関税国家委員会の2003
年3月5日付けプレスリリースより)
。
ちなみに、極東税関経由で輸入される中古車のほぼ100%が日本車となっている。全体で見て
も日本車のシェアが最も高く、2002年に自然人により輸入された中古車の51.6%は日本車だっ
たといわれている。その次に多いのはドイツ車で、2002年に自然人により輸入された中古車の
39.6%を占めたといわれている(ロシア関税国家委員会発表の数字)
。
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ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(3)中古車の販売価格
第4表でモスクワ市場における主要な輸入中古車の販売価格を紹介しておく。この表からも
わかるとおり、モスクワで販売されている中古車は、5,000~1万ドルの範囲のものが非常に多
い。この価格帯の中古車を購入する層は、先に紹介した5,000ドル以上の国産新車を購入する層
や低価格の輸入新車を購入する層と重複するものと推測される。その他、小売価格1万ドル以
上の中古車も相当数市場に出回っており、一説によると(RBC Daily, 2003.3.6)
、昨年、ロシア
ではそのクラスの中古車が約5万台程度売れたとのことである。
(第4表)モスクワ市場における輸入中古車の販売価格の例
(単位 ドル)
車種
アウディ80
2000
年製
1999
年製
1998
年製
1997
年製
1996
年製
1995
年製
1994
年製
1993
年製
1992
年製
5,800
-
-
-
-
-
7,600
7,000
アウディA6
21,900
19,500
17,900
15,500
11,900
10,800
9,700
-
-
BMW3シリーズ
21,200
17,100
14,200
11,000
9,400
9,100
7,600
6,400
5,900
ボルボ440
大宇ネクシア
マツダ323
6,300
-
-
-
-
6,700
5,900
4,800
…
2,800
5,700
5,100
4,100
4,000
3,600
3,300
-
-
-
12,000
8,700
8,300
7,700
6,500
5,800
4,900
4,400
3,900
ベンツCシリーズ
…
16,600
15,700
13,700
12,600
10,300
9,700
8,800
-
ベンツSシリーズ
54,400
52,500
39,700
33,100
24,200
20,200
16,400
12,700
10,800
三菱ギャラン
18,400
14,500
12,700
10,500
7,600
7,300
6,000
5,900
4,000
三菱ランサー
9,900
8,600
7,000
6,600
5,900
5,200
4,400
4,300
3,500
日産マキシマ
22,400
16,100
13,800
11,900
10,800
9,600
6,600
5,500
4,900
日産プリメーラ
12,100
11,100
9,600
8,300
7,500
6,500
5,700
5,000
4,500
オペル・アストラ
11,100
9,600
8,600
6,900
6,200
5,800
4,700
4,300
3,900
オペル・ベクトル
12,600
11,600
9,600
8,600
7,900
6,300
5,300
4,700
4,000
ルノー・メガーヌ
9,100
8,500
7,700
7,200
6,200
-
-
-
-
スバル・レガシー
19,300
18,000
14,500
11,700
8,800
7,500
6,200
5,000
4,700
スズキ・ビターラ
…
13,700
12,400
10,600
9,700
9,000
6,300
6,000
5,700
トヨタ・コロナ
…
8,700
8,000
6,200
5,400
4,800
4,200
3,900
3,200
40,700
33,800
30,400
21,800
19,100
18,600
13,400
12,900
9,700
ホンダ・アコード
…
13,600
11,300
9,700
8,900
7,200
6,600
5,700
4,700
ホンダ・シビック
12,600
10,700
8,400
7,700
6,700
5,900
5,000
4,400
3,800
…
6,400
5,700
5,500
4,900
4,400
3,700
3,600
3,100
ランドクルーザー
フォード・エスコート
(出所)
『ザルリョム』誌(2003.1)
。
一方、極東の市場で販売されている中古車は全般的に価格が低いようで、製造後3~7年の
中古車で、平均小売価格が4,000~6,000ドル程度だといわれている(上掲RBC Daily)
。なお、ロ
シア最大の乗用車メーカーであるAvtoVAZが、これまで極東向けの新車の卸売り価格を非常に
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
7
高く設定していたこともあり2)、極東地方では全般的に国産車のプレゼンスは低く、日本から
の輸入中古車が同地方の乗用車市場の核を形成している。
(4)2002年秋の中古車関税率の引き上げについて
2000年末ごろより開始された、市場での主要なライバルである輸入中古車の関税引き上げを
主目的とする国産メーカーのロビー活動は2年近くの年月を経てようやく結実し、2002年8月
30日付けの政府決定第642号に従い、
2002年10月1日から7年おちの中古車の輸入関税が大幅に
引き上げられることとなった(第5表)
。自然人が1,600ccの7年おちの中古車を輸入した場合
を想定すると、それまで1,360ユーロだった輸入関税が、2002年10月1日以降は3,200ユーロにな
ったわけで、輸入業者が致命的な打撃を受けたのは確実である。
実際、2002年10月より7年おちの中古車の輸入量が毎月40~50%のテンポで減少していると
のことである(関税国家委員会のプレスリリースより)
。
(第5表)7年おち中古車の輸入関税の改定(2002年10月1日より実施)
(1)法人向け輸入関税
エンジン総排気量
(cc)
2002年9月30日まで
(ユーロ/cc)
2002年10月1日以降
(ユーロ/cc)
0.45
1.4
1,000~1,500未満
0.5
1.5
1,500~1,800未満
0.45
1.6
1,800~3,000未満
0.55
2.2
1.0
3.2
1,500未満(ディーゼル)
0.4
1.5
1,500~2,500未満(同上)
0.55
2.2
3.2
1.0
1,000未満
3,000以上
2,500以上(同上)
(2)自然人向け輸入関税
エンジン総排気量
(cc)
2,500未満
2002年9月30日まで
(ユーロ/cc)
0.85
2002年10月1日以降
(ユーロ/cc)
2.0
2,500以上
1.4
3.0
(注) 法人向けの輸入関税には、付加価値税、物品税は含まれない。一方、
自然人向けの輸入関税は付加価値税、物品税を含めた数字。
(出所)
『エクスペルト』誌(2002.9.9)
。
8
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(第6表)3~7年中古車の個人向け輸入関税の改訂後の税率
(予定)
エンジン総排気量
(cc)
1,000未満
1,000~1,500
1,500~1,800
1,800~2,300
2,300~3,000
3,000以上
改訂後の輸入関税
(ユーロ/cc)
0.85
1
1.5
1.75
2
2.25
(出所)
『コメルサント』紙(2003.4.13)
。
(5)輸入中古車市場の今後(さらなる輸入規制の動き)
現在、工業科学技術省、経済発展貿易省、関税国家委員会等を中心に、製造後3~7年の中
古車に関しても、輸入関税の引き上げが検討されている。先にも述べたとおり、ロシアでは中
古車の輸入の際には、自然人に対し事実上特典が供与される形となっているのだが、工業科学
技術省等はこの点を問題視しており、3~7年ものの中古車の自然人向け輸入関税を20~60%
引き上げる提案を2003年4月初めに、ロシア政府内に設置されている「外国貿易における保護
措置に関する」委員会に提出した。そして、同年4月19日、同委員会はこの提案を承認した。
もし、カシヤノフ首相が当該の提案に早期に署名すれば、年内中に3~7年ものの中古車につ
いても、自然人向けの輸入関税が大幅に引き上げられる可能性が高くなる。
各マスコミ情報によれば、製造後3~7年の中古車の自然人向け輸入関税は第6表に示すよ
うな形で改訂されることが検討されているようである(現行の税率は、総排気量が2,500cc未満
の場合は0.85ユーロ/cc、2,500cc以上の場合は1.4ユーロ/ccとなっている)
。
この新関税率が採択されれば、中古車の輸入台数はさらに大幅に減少することになるであろ
う。
5.輸入新車市場
(1)輸入新車の販売台数の推移(並行輸入分除く)
2003年4月3日付けの『コメルサント』紙によれば、2002年のオフィシャル・ディストリビ
ューター経由の輸入新車販売台数は10万8,000台で、前年比で約40%増加したとされている。
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
9
(第7表)主要メーカー別新車販売台数(順不同)
メーカー名
大宇
1998
1999
2000
2001
(単位 台)
2002
16,315
15,092
13,600
9,950
12,418
シュコダ
6,737
1,897
2,924
8,391
9,407
トヨタ
5,979
4,093
2,307
4,461
8,630
三菱
2,883
4,183
3,836
6,004
8,167
日産
7,292
4,098
2,536
5,286
8,029
ルノー
3,162
1,146
3,002
5,606
8,337
VW
4,536
3,479
3,473
7,254
7,972
メルセデス・ベンツ
1,361
1,650
2,292
3,806
2,441
949
700
1,301
2,636
3,790
プジョー
1,337
604
1,428
4,246
6,984
フォード
5,070
1,175
1,357
4,142
6,669
ボルボ
1,296
826
917
2,402
2,929
ホンダ
1,550
1,100
615
837
1,340
スズキ
…
…
…
1,220
1,912
BMW
現代
合計
(出所)各種資料より。
…
…
…
2,205
5,575
約7万
約5万
約5万
約8万
約11万
2002年に販売量が急増した理由としては、①ロシア経済が好調で、国民の可処分所得が増加
したこと、②2002年に入り割賦販売システムがさらに利用し易くなったこと(この点について
は後で詳しく紹介する)
、③1998年8月のルーブルの大幅切り下げ効果が薄れ、国産新車の市場
での競争力が低下したこと(特にVAZ-2110のユーザーが輸入新車市場に流れた可能性が高い)
等を挙げることができる。
主要メーカー別の販売台数は第7表のとおりである。各メーカーとも全般的に販売量を伸ば
しているが、特に日本メーカーの販売台数の伸びが大きいことがわかる。一方、VWおよびベ
ンツのドイツ勢は、やや不振であった。VWの場合は既存の車種が市場に飽きられてきたこと3)
が、ベンツの場合は2001年の数字が良すぎたことやBMWをはじめとするライバル他社の高級
車に市場の一部を奪われたことが、それぞれの不振の原因であると推測される。その他、シュ
コダも販売台数の伸びが鈍化したが、これは、同メーカーの購買層と比較的状態の良い輸入中
古車の購買層とが重複する関係で、輸入中古車市場に客を奪われたためではないかと推測され
る。
(2)売れ筋の車種について
2002年に販売された輸入新車のうちで最も売行きのよかった上位20車種を第8表で紹介して
10
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(第8表)2002年に最も売れた車種
(単位 台)
車種
販売台数
1.大宇ネクシア
6,945
1)
8,000~
*
価格1)
車種
販売台数
11.プジョー307
2,596
14,000~
12.日産アルメーラ
2,475
15,000*~
13.トヨタ・カローラ
2,319
13,000~
価格
2.シュコダ・オクタビア
5,129
13,000 ~
3.三菱カリスマ
4,493
14,000~
4.大宇マティス
4,354
6,000~
14.プジョー206
2,208
11,000~
5.ルノー・クリオ/シンボル
4,417
9,000~
15.日産プリメーラ
2,041
19,000*~
6.シュコダ・ファビア
3,851
9,000*~
16.トヨタ・カムリ
1,956
28,000~
17.起亜リオ
1,766
11,000~
7.VWパサート
3,603
*
22,000 ~
*
8.フォード・フォーカス
3,572
11,000 ~
17.プジョー406
1,766
18,000~
9.現代アクセント
3,174
11,000~
19.オペラ・アストラ
1,722
11,000~
10.ルノー・メガーヌ
2,904
14,000~
20.フォード・モンデオ
1,698
19,000~
(注) 1)価格については、各メーカーのロシア語サイト、zr.ru、autonews.ru、automir.ru等からの情報を
参考とし、最も低価格タイプのモスクワ市場での価格を100の単位を四捨五入した上で表示。価格
は原則ドル建てであるが、*印のついたものはユーロ建てとなっている。
(出所)各種資料より。
おく。この表からもわかるとおり、一部の例外を除き売れ筋の車種は8,000~1万5,000ドルの価
格帯に集中していることがわかる。購買力で見ると、状態の良い輸入中古車を購入する層と重
複していると考えてよいであろう。このコンテキストで考えると、もし3~7年ものの中古車
の輸入関税が予定通りに大幅に引き上げられれば、いずれ、中古車市場から相当数のユーザー
が輸入新車市場に流入してくる可能性が高いといえる。
(3)2002年の主要メーカーの主要車種別の販売状況
(順不同:販売台数の数字はautonews.ruより引用した)
1)大宇
かつてはロシア国内でも大宇車のアセンブリーが行われていたが、現在ロシアで販売されて
いる大宇車の大半はウズベキスタンのUzDaewoo製のものである。主力車種は、1,500ccクラス
のセダン「ネクシア」で、その安さを武器に(モスクワでの小売販売価格は8,000~1万ドル)
、
ここ数年、新車販売台数トップの位置を占めている(第8表)
。ただ、原型が1983年~1991年に
ドイツで生産されていたオペル・カデットで、しかも、モデルチェンジがほとんど行われてい
ないということもあり4)、市場に飽きられはじめた感も否めず、その売行きにはかつてほどの
勢いが見受けられない。ネクシアに次ぐ売行きを示しているのは、マティスという800ccクラス
の小型ハッチバックである。同車は、かつてロシアでも人気の高かった小型車「チコ」の後継
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
11
車で、2001年ごろに市場に登場した。価格の安さ(6,000~7,000ドル)と目新しさを武器に、2002
年には4,000台以上の販売台数を記録した(第8表)
。しかし、2003年に入ってからは売行きが
鈍化しており、2003年1~3月期の販売台数は300台程度にとどまった(ネクシアの方は1,700
台程度売れたといわれている)
。
2)シュコダ
大宇同様に低価格の乗用車を主力製品とするが、大宇と比較すると価格帯はやや高くなって
いる。主力車は、オクタビア(価格13,000ドル~、排気量1,600cc~)とファビア(価格9,000ド
ル~、排気量1,400cc)で、2002年には、それぞれ、4,389台と3,851台販売された。2003年に入
り、他の多くのメーカーが販売量を大幅に伸ばしている中、シュコダ車の販売台数は伸び悩ん
でおり、2003年1~3月期の販売実績はほぼ前年同期並みの1,653台にとどまった。
3)VW(フォルクスワーゲン)
同社は、元々、ロシア市場で非常に安定した人気を有していたが、積極的な広告戦略が効を
奏し、
2001年には販売台数を倍増させることに成功する。
2002年には販売の伸びは鈍化したが、
商用車をあわせて7,972台の新車を販売することに成功した。同社のロシア市場における主力車
は、モスクワでの小売価格2万2,000~3万ユーロのセダン・タイプのパサート(排気量は1,800cc
~2,300cc)で2002年に3,315台が販売された。ただ、ワゴン・タイプ(パサート・バリアント)
の販売台数は228台にとどまった。この数字からもわかるとおり、ロシアの中大型輸入新車市場
では全般的にセダンの人気が圧倒的に高く、ワゴンやハッチバックは売行きが芳しくないとい
う傾向が顕著となっている。
その他、小売価格1万9,000~2万2,000ユーロのボーラ(1,600cc)が1,308台、小売価格1万
5,000~2万ユーロのゴルフ(1,400cc~1,600cc)が1,195台売れた。また、商用車ではキャディ
ー(475台)とトランスポーター(290台)の売行きが好調であった。
ただ、2003年に入ってからは、VW車の売行きは低迷しており、1~3月期の販売実績は1,391
台と前年同期の1,692台を大きく下回った。
4)トヨタ
2002年の同社のロシア市場での新車販売台数は非常に好調で、前年のほぼ倍の売上を記録し
た。特に販売が好調だったのはカムリと、2002年4月より販売が開始された新型カローラで、
それぞれ1,956台と2,319台販売された。また、輸入オフロード車の中で常に人気トップの座を占
めているランドクルーザー100の売行きも安定しており、1,635台が販売された。また、高級車
のレクサス・ブランドのモデルも328台販売された。
12
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
2003年に入ってからもトヨタ車の売行きは極めて好調で、1~3月期の販売台数は前年同期
比136%増の3,264台に達した。車種別内訳は、カローラ990台、カムリ985台、ランドクルーザ
ー100が629台等となっている。
5)三菱
同社も2002年は好調で、前年比36%増の8,167台を販売した。主力車種はカリスマで、4,493
台が売れた。以下、パジェロ(885台)
、パジェロ・スポート(746台)と続いた。さらに、2003
年に入ってからは好調さが加速しており、前年同期比83%増の2,990台の販売台数を記録した。
車種別に見るとやはりカリスマが圧倒的に多く1,595台となっている。以下、パジェロ・スポー
ト(315台)
、スペース・スター(303台)と続いた。
6)日産
2002年の販売台数は8,029台で、前年比で51.8%増となった。最も販売台数が多かったのはア
ルメーラで、2,475台に達した。さらに、プリメーラの販売台数も前年と比べて8倍も増加して、
2,041台に達した。その他、高級車のマキシマOXが1,588台、四輪駆動車のX-Traiが1,122台、そ
れぞれ売れた。2003年1~3月期の販売台数は1,897台(前年同期比で26.1%増)で、車種別の
内訳はプリメーラ―247台、アルメーラ―175台、X-Trail―152台、マキシマQX―90台等となっ
ている。
7)フォード
同社の2002年の新車販売台数は、前年比61.7%増の6,669台であった。最も人気が高かった車
種はフォーカスで、
3,572台が販売された
(うち1,670台がロシアで組み立てられたものだった)
。
以下、モンデオ(1,698台)
、トランジット(519台)
、四輪駆動車のエスケープ(419台)となっ
ていた。ロシアでアセンブリーされたフォーカスが好評ということもあり、2003年に入ってか
らもフォード車の売行きは全般的に好調で、1~3月期には、前年同期比180%増の3,073台が
販売された。やはり、フォーカスの人気が圧倒的に高く、そのうちの約75%(2,323台)を占め
た。以下、モンデオ(501台)
、トランジット(70台)
、エスケープ(70台)と続いた。
8)現代
1,500ccクラスのセダン「アクセント」が、その価格の安さ(11,000ドル~)を武器に大幅に
販売台数を伸ばし、3,174台が販売された。その他の車種の売行きも比較的好調で、2002年のロ
シア市場における現代車の販売台数は、前年比150%増の5,575台に達した。
2003年に入ってからも好調な状態が続いており、1~3月期の販売台数は、前年同期の約5
倍の水準の1,998台に達した。やはり、最も売行きが良いのはアクセントで、販売台数は716台
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
13
に達した。
9)ホンダ
2002年は前年比60%増の1,340台の販売を記録した。そのうちの約60%は、四輪駆動車のCR-V
であった。2003年に入ってから、さらに売行きが伸びており、1~3月期の販売台数は前年同
期比167%増の496台に達した。
10)プジョー
同社の2002年の販売台数は、前年比64.5%増の6,984台に達した。車種別内訳は、307が2,597
台、206が2,208台、406が1,766台となっていた。ただ、2003年に入ってからは、他の欧州メーカ
ー同様売行きが伸び悩んでおり、1~3月期の販売実績は前年同期比2.9%増の1,378台にとどま
った。車種別に見ると、307の販売台数は6.8%増加したものの、206の販売台数は14.5%も減少
した。
11)ルノー
同社の2002年の販売台数は前年比48.7%増の8,337台であった。最も人気の高い車種はクリオ
/シンボルで、4,417台売れた(シンボルが3,912台、クリオが505台)
。以下、メガーヌ(2,904
台)
、セニック(1,193台)
、ラグナ(627台)
、カングー(358台)と続いた。
他の多くの欧州メーカーが2003年に入り売行き不振に苦しむ中、ルノーだけは、大幅に売上
を伸ばし、1~3月期の販売台数は前年同期比76%増の2,355台に達した。車種別に見ると、ミ
ニバン・タイプのメガーヌ(セニック)が売行きを大幅に伸ばし、主力のシンボルに急追する
勢いを見せた。その他、クリオ(ハッチバック)やラグナも大幅に売行きを伸ばした。
(4)2003年に入ってからの顕著な傾向
2003年に入ってからの輸入新車市場における顕著な傾向として、欧州車の売行き不振を挙げ
ることができる。上で紹介したVW、シュコダ、プジョーの他、アウディ、BMW、メルセデス・
ベンツ等も2003年に入り、ロシア市場での新車販売台数を減少させている。その主因は、これ
ら欧州メーカーが、2003年に入り新車の販売価格をユーロ建てに変更した結果、レート(ユー
ロ高)の関係で、消費者の間に割高感が広がったことにあるとされている(Ve, 2003.3.14)
。
一方、ドル建てで新車の輸入・販売を行っている日本メーカーや韓国メーカーは、2003年に
入り大幅に販売台数を伸ばしている。
これらの数字から判断する限りにおいては、ユーロ高の結果生じた数%もしくは10%前後の
価格差が、市場の動向に大きな影響を及ぼした可能性が高い。輸入新車市場の購買者の大多数
14
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
も、国産新車の購買者同様、価格の変動に非常にセンシティブな側面を有していると考えてよ
いのではなかろうか。
(5)割賦販売の状況
先にも述べたが、2002年に入り自動車の割賦販売システムが急速に普及し、輸入新車の販売
台数の拡大に貢献をしたといわれている(一説によると、大都市部の大手輸入新車販売店の中
には、割賦販売の割合が全体の20%を超えているところが珍しくないといわれている:Iz,
2003.3.26)
。割賦販売の普及は、輸入新車市場の安定化、あるいは、さらなる拡大を考える上で
非常に重要なファクターなので、以下で、その現状を紹介しておく。
数年前から、割賦販売システムそのものは存在したが、資格審査基準のハードルの高さ、手
続の煩雑さ、金利の高さ、銀行側の消極性等が主要な阻害要因となり、実際には、当該システ
ムはほとんど利用されていなかった。特に、経済危機直後は、有名無実の存在となっていた。
そのような状況の中、投資銀行会社(IBK)という銀行が、2000年前半頃より、自動車購入
希望者に対する融資を積極的に行うようになった。この銀行は、結局、2002年4月に破綻する
が、その時点で、自動車購買者に対し1,200件合計1,700万ドルの融資を行っていた。
自動車購買者用融資市場でトップの位置を占めていた同行の破綻は、結果として、当該市場
への新規参入者の急増と競争激化による貸出条件の緩和という状況を創出し、割賦販売の普及
に貢献することになった。たとえば、2002年春以降、融資審査期間の全般的な短縮化、金利の
引き下げ、必要書類の簡素化、融資限度額の引き上げ等の傾向が顕著となった。
現在、モスクワでは、Raiffeisenbank、MDM銀行、ルーシ・バンク、IMB、第一OBK、ソビ
ンバンク、メジュプロムバンク、エヴロトラスト、モスクワ市営銀行、ルースキー・スタンダ
ルト等をはじめとする数十行が、自動車購買者用の融資を行っているが、主要銀行の融資条件
はあまり大差なく、横並びの傾向が強い(第9表)
。主要な共通項としては、①頭金として総額
の30%以上が要求される、②様々な自動車保険への加入が義務付けられる、③融資期間は最大
3年間、④一括返済や繰上げ返済が認められない、⑤外貨建て融資の場合、年利は大体10~15%
程度等を挙げることができる。
融資の大半は、1万5,000ドル~3万ドル程度の輸入新車を購入する人々を対象に実施されて
おり、平均の融資額は約1万ドル程度といわれている(Ve, 2002.9.30)
。高級車には割賦販売シ
ステムは、ほとんど適用されていないようである。その理由としては、①高級車の購買者には、
一括支払いが可能な富裕層の人々が多いこと、②割賦販売では対象の車は融資の担保となるの
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
15
だが、高級車の場合は売却して換金することが困難なので、銀行側が貸し出しを躊躇するケー
スが多い等が考えられる。
国産車の購入者に融資を行う銀行は少ないが、ルースキー・スタンダルトという銀行は、非
常に積極的に当該購買者への融資を行っている。同行の平均融資額は2,700ドルだが(融資はル
ーブル建てで行われる)
、実質金利は55%/年にも達する(名目金利は約30%)
。その他、やは
り少数ではあるが、輸入中古車の購入者に融資を行う銀行も存在する。
(第9表)主要銀行の自動車購入者への融資条件
銀行名
融資額(ドル)
融資期間
金利(%)
頭金(%)
審査期間
対象の車
Raiffeisenbank
5,500~5万
36カ月まで
12、14
総額の30
最大3日
輸入新車
MDM
4,000~8万
12~36カ月
12~14
20~30
1~3日
輸入新車・中古車
IMB
7,000~5万
36カ月まで
12~14
30
3~5日
輸入新車
第一OBK
2,000~4万
6~24カ月
14
30
2日
輸入車・国産車
ソビンバンク
2,000~3万
30カ月
15
30
最大5日
輸入新車
メジュプロム
最大10万
12~36カ月
14、16
20
最大5日
輸入新車
エヴロトラスト
3,000より
24~36カ月
14
30
3~5日
輸入新車・中古車
ルースキー・スタンダルト
5,000~15万
6~12カ月
29
15~50
15~20分
すべての車
(ルーブル)
(出所)
『コメルサント』紙(2003.4.3)
。
6.国内メーカーの動き
(1)国内生産量の推移
ロシアの国産乗用車は全般的に型が古く、新型車の投入はもちろんのこと、既存車のモデル
チェンジもほとんど行われない。たとえば、ロシア最大の乗用車メーカー「AvtoVAZ」を例に
とると、未だに根強い人気を誇るVAZ-2106やVAZ-2107は、1980年代前半に量産が開始された
乗用車である。また、最新車種であるVAZ-2110は1997年末ごろに量産が開始された乗用車であ
る。さらに、その後継車種と目されているVAZ-1118(Kalina)の量産の目処は全くたっていな
い。ロシア第2位の乗用車メーカーであるGAZにおいても似たような状況が生じている。その
他、部品の品質やアセンブリーの技術も低く、製品の信頼性や快適性等の点で外国メーカーに
致命的な遅れをとっているというのが現実である。
16
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(第10表)ロシアの主要メーカー別乗用車生産台数の推移
(単位 1,000台)
1997
1998
1999
2000
2001
2002
AvtoVAZ
740.5
595.3
673.5
708.4
767.3
703.0
GAZ
124.8
125.4
125.5
116.0
81.0
65.6
UAZ
51.4
31.9
36.7
40.2
35.3
33.6
Moskvich
20.6
40.0
30.1
5.5
0.81
0
IzhMash-Avto
5.5
10.6
15.0
27.0
47.8
65.8
SeAZ
8.3
11.0
14.0
17.0
18.7
19.4
17.9
19.1
28.0
33.0
37.8
38.7
-
5.1
9.4
0.3
1.5
2.2
…
1.5
…
3.2
4.9
5.7
Avtoframos
-
-
1.3
0.6
…
0.2
フォード・ロシア
-
-
-
-
-
1.67
GM-AvtoVAZ
-
-
-
-
-
0.456
986
836
954
969
1,022
985
ZMA(KAMAZ)
TagAZ
AvtoTOR
ロシア全体
(出所)各種資料より。
そのような状況にもかかわらず、国内メーカーが年間100万台前後の生産・販売実績を残せて
いるのは、小売価格3,000~4,000ドルという破格の安値の車を主力としているからであろう。輸
入中古車といえども、少なくともロシア中央部では、この価格帯で比較的状態の良いものを探
し出すことは困難である。換言すれば、ロシアのユーザーの購買力の低さが国内メーカーを支
えていると言えなくもない。実際、2002年に中古車の輸入圧力が強まり、国産メーカーの苦戦
が伝えられる中でも、IzhMash-Avto、Roslada、SeAZ、ZMA5)といった小売価格3,000ドル前後
の低価格乗用車を専門に生産する工場は、順調に生産量を伸ばした(第10表)
。
一方、国産車としては高価格の乗用車を主力とするGAZや、生産量に占める高価格帯乗用車
の割合が最近高まりつつあるAvtoVAZは、2002年に入り慢性的な売行き不振に苦しんだ。たと
えば、AvtoVAZでは、2002年にはいり小売価格が5,000ドルを超えるVAZ-2110を中心に売行きが
落ち込み、大量の在庫を抱えることとなった。その結果、同社は2002年秋から2003年2月にか
け生産調整を行うことを余儀なくされた。その影響を受け、2002年11月から2003年2月までの
4カ月連続でロシアの乗用車の月間生産量は同年前月比30%前後の大幅減産を記録した。
2002年10月に市場での主要なライバルである7年おちの輸入中古車の輸入関税が大幅に引き
上げられたので、今後、VAZ-2110の売行きは回復するかもしれない。しかし、GAZの主力であ
るGAZ-3110の場合は、マーケットでの人気が急落しており状況が大幅に改善される可能性は低
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
17
い。さらに、VAZ-2110にしても、今後、割賦販売の普及や市民の購買力の向上が加速するよう
なことがあれば、低価格の輸入新車もしくは3~7年ものの輸入中古車に市場を奪われる可能
性が高い。
各メーカーの現状から判断して、近い将来に画期的な国産新型車が市場に登場する可能性は
ほとんどないので、当面、各メーカーは低価格を武器に市場でのプレゼンスを確保するしかな
いであろう。
(2)主要国内メーカーの生産・販売の状況
1)AvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場)
同社はロシア最大の乗用車メーカーで、
ロシアの乗用車生産量の7割以上を占めている
(2002
年実績)
。その他、同社はIzhMash-Avto(イジェフスク自動車工場:以下、IzhMash)
、Roslada
(ロスラーダ)等にもアセンブリー用部品を供給しており、ロシアの乗用車生産部門の代名詞
的存在であるといえる。
同社の2002年の車種別の生産量は第11表のとおりであるが、最も生産量が多いのは、2110シ
リーズの乗用車(セダン・タイプの21102、21103、ワゴン・タイプの2111、ハッチバック・タ
イプの2112)と、サマラ・シリーズと呼ばれるVAZ-2108のプラットフォームを使用する一連の
モデル(VAZ-2108、-2109、-21099、-2114、-2115)で、それぞれ、AvtoVAZの2002年の生産量
の約30%ずつを占めた。以下、クラシック・シリーズと呼ばれるVAZ-2105のプラットフォーム
を使用した一連のモデル(VAZ-21043、-21053、-2107)が約28%、NIVAシリーズと呼ばれる四
輪駆動車(VAZ-21213、VAZ-2131)が約10%強を、それぞれ占めた。
価格帯でいうと、4,000ドル未満の車が全体の29%、5,000ドル未満が31%、5,000ドル以上が
40%となっている。
18
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
(第11表)2002年のAvtoVAZの車種別生産量
モデル名/車体タイプ
量産開始年
2002年の
生産台数
モスクワ市場で
の価格(ドル)
1984
44,691
3,800
-21053/セダン
1980
23,487
3,300
-2107/セダン
1982
131,196
3,500
-2108/ハッチバック
1984
10,069
4,400
-2109/ハッチバック
1987
68,988
4,400
-21099/セダン
1990
74,326
4,900
…
3,104
5,400
-2115/セダン
2000
50,174
6,200
-21102/セダン
1997
81,346
5,800
-21103/セダン
1997
36,657
6,000
-2111/ワゴン
1998
38,584
6,000
-2112/ハッチバック
2000
58,371
6,100
-21213/RV
1977
65,261
4,300
-2131/RV
1995
9,269
5,800
VAZ-21043/ワゴン
-2114/ハッチバック
(出所)
『ザルリョム』誌等。
2)IzhMash(イジェフスク自動車工場)とRoslada(ロスラーダ):SOKグループ
2社ともSOKという企業グループの傘下に入っている。SOKの資本関係は謎とされているが、
AvtoVAZの複数の幹部が事実上のオーナーとなっているという説が有力である。
恐らくそのためだと推測されるが、この2社ともAvtoVAZからアセンブリー用の部品の供給
を受け、VAZ-2106をはじめとする型は古いものの、その安価さ故にロシア市場で根強い人気を
誇るVAZ車のアセンブリーを積極的に行っている。
IzhMashでは、2001年よりVAZ車のアセンブリーが開始された。2002年にVAZ-2106を中心に
約3万8,000台のVAZ車のアセンブリーが行われた(うち約3万7,000台が2106であった)
。ちな
みに、2002年よりVAZ-2106はIzhMashでのみ生産されている。2106は1,600ccクラスのセダン・
タイプの乗用車であるが、モスクワ市場での小売価格が約3,200ドルと破格に安いこともあり、
市場での人気は非常に根強い。IzhMashでは、VAZ車の他、オダとよばれる自社ブランドの乗用
車(小売価格は3,000ドル程度)や商用車も生産されており、2002年の自社ブランド車の生産量
は合計で約4万台に達した(オダが約2万8,000台、商用車が約1万2,000台)
。
Roslada(サマラ州スィズラン)では、1998年よりVAZ車の生産が開始されている。当初は、
2106だけが生産されていたが、その後、21093、2104、2107も生産されるようになった。さらに、
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
19
2002年からは2106の生産が中止され、現在は、21093、2104、2107の3車種が生産されている。
車種別生産量に関する情報は入手できなかったが、2002年に同社では合計で約4万2,000台の
VAZ車が生産された。このように2002年には、2社合計で実に8万台以上ものVAZ車が生産さ
れたわけで、このことが同年のAvtoVAZ本体の販売不振の一因を形成したと指摘する声も少な
くない。見方によっては、利益をSOKグループに移転するために、IzhMashとRosladaで無計画
な増産が行われたと言えなくもない。
3)GAZ(ゴーリキー自動車工場)
同工場は2000年末に、ロシア有数の新興財閥「シベリア・アルミニウム」
(現「バーザブィ・
エレメント」
)およびアブラモビッチ・グループの傘下に入った。その際、それまでの同社のず
さんな生産の実態が明らかになった。
シベリア・アルミニウム等の傘下に入るまで同工場は三交代制を採用し、フル稼働で年間12
万台前後の乗用車(ヴォルガ)を生産していた(第10表)
。外部から見る限り、生産は絶好調で
財務状況も健全であるかのように見えていた。
しかし、シベリア・アルミニウム等が同工場の買収プロセスを進める中で、徐々にGAZの内
情が明らかにされていった。たとえば、2000年秋ごろには、GAZの債務総額が約140億ルーブ
ルに達しており、1998年頃にEBRDから獲得した約6,500万ドルの融資についても返済不能状態
に陥っていることが判明した。
三交代制を導入するほど生産が好調であったGAZが、何故このような状況に陥っていたので
あろうか。その元凶は、かつてのAvtoVAZがそうであったように、バーター取引にあった。具
体的に言えば、同社の幹部もしくはその親族が設立した企業が、バーター取引を利用して(ヴ
ォルガと物々交換される物品の価格を異常に高く設定することにより)
「ヴォルガ」を二束三文
で手に入れ、正規の工場出荷価格よりも遥かに安い価格で売りさばき、私腹を肥やすことが慣
例化していたのである。ちなみに、2000年時点で、GAZの売上の約8割がバーターによるもの
であった。つまり、バーター取引のスキームを利用して、大半の車を生産原価よりも安い価格
で売っていたわけであるから、増産すればするほど赤字が膨らんでいたことになる。
さらに、
「三交代制」の中身もお粗末なものだったことが判明した。それは、生産能力を超え
た無理な増産と同義のものであり、あるGAZの関係者によれば、三交代目の班においては不良
品率が90%を超えていたとのことである(Ve, 2002.2.20)
。
2000年末にGAZの経営権を握ったシベリア・アルミニウム等は、バーター取引システムを即
刻全廃した。換言すれば、ヴォルガの市場価格を適正なものとする努力が開始されたわけであ
20
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
る。ただ、この努力は、当然ながら、ヴォルガの小売価格の高騰という結果を生んだ(第12表)
。
そのことに加え、それまでの無理な増産の結果、市場においてヴォルガは品質が悪いとの評判
が定着してしまったこともあり、2001年以降GAZの乗用車生産量は大幅減産傾向にある(第10
表)
。
同社の乗用車部門の主力は1982年に量産を開始したGAZ-3102と、1997年に量産を開始した
GAZ-3110(外見は異なるが中身はGAZ-3102とほぼ同じだといわれている)であるが6)、いず
れも市場に飽きられてきており、業績の改善には、大幅なモデルチェンジもしくは新車の投入
が必要であると判断される。しかし、今のところ、既存車の大幅なモデルチェンジも新車投入
の予定もないようで、今後しばらくは、GAZの乗用車部門の苦戦は続くものと予測される。
(第12表)ヴォルガのモスクワ市場での小売価格の推移
モデル名
2000年夏
GAZ-3102-101
5,930
7,200
GAZ-3102-411
4,180
4,900
GAZ-3110-101
4,100
5,000
GAZ-3110-311
4,010
-
GAZ-311-411
4,030
4,900
VAZ-21083
3,940
4,400
VAZ-21099
4,220
4,700
2003年初め
(参考)
(出所)
『ザルリョム』誌(2000.7, 2003.1)
。
4)TagAZ(タガンログ自動車工場)
ロストフ州を拠点とする新興財閥「ドンインベスト」が約3億ドルを投下して1998年に完成
させた工場で、塗装ライン、溶接ライン、組立てライン等で構成される。生産能力は12万台/
年といわれている。1998年より、韓国の大宇車(Lanos、Nubria、Leganza)のライセンス製造
を開始したが、ロシアの経済危機や大宇の経営破綻問題があり、2000年には生産量が300台/年
にまで落ち込んだ。
その後、ドンインベストは大宇車の生産を完全停止し、2001年5月より現代のアクセントの
アセンブリーを開始した。その他、同工場では、シトロエンのベルランゴという車(ドンイン
ベスト・オリオンという名称で販売されている)も生産されている。2001年の生産量はアクセ
ントが約1,200台、ベルランゴ(ドンインベスト・オリオン)が約300台であった。現在は、こ
の2車種しか生産されていないが、将来的には、現代のソナタやH100を生産することも検討さ
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
21
れているようである。
5)AVTOTOR
ロシアのAVTOTOR社は、カリニングラード州に2つのアセンブリー工場(ヤンターリとカ
リニングラードブムマシ)を保有している。現在、ヤンターリではBMW車が、カリニングラ
ードブムマシでは起亜車が、それぞれ生産されている。
ヤンターリでは1999年末ごろより、BMWの第3シリーズと第5シリーズが生産されている。
同工場で生産されるBMWは品質管理が非常にしっかりしていることもあり、市場での人気が
高く、2000年以降、毎年2,000台以上が生産されている。
2002年には、2,241台のBMW車が生産されたがその内訳は、3シリーズが1,231台、5シリー
ズが1,010台となっている。あくまで私見であるが、このBMW生産プロジェクトは、ロシアに
おける外国車生産プロジェクトの中で最も安定感のあるもののように思われる。
カリニングラードブムマシでは1997年より起亜車の生産が行われている(当初は、ヤンター
リでも起亜車の生産が行われていた)
。現在、同工場で生産されている車種と生産量は第13表の
とおりである。
(第13表)AVTOTORによる起亜車の生産量(主要車種別)
(単位 台)
モデル名
クラルス(商用車)
価格帯
(ドル)
2000
2001
2002
…
539
560
169
スポーテージ(四駆)
16,000~
274
1,108
1,467
リオ
11,000~
33
648
1,766
Magentis
20,000~
-
194
607
16
73
112
カーニバル(ワゴン)
(出所)AVTOTORのHP等。
…
6)その他
UAZ(ウリヤノフスク自動車工場)は、2000年秋に、ロシア最大の鉄鋼メーカーであるセヴ
ェルスターリを核とする企業グループの傘下に入った。大手企業グループの傘下に入ったこと
により、設備の近代化が推進されることが期待されたが、今のところ、型は古いが価格が非常
に安い四輪駆動車(最も安い価格帯のもので約3,500ドル)を生産し続けるという状況に変化は
見られない。このあたりの状況は、前述のGAZのそれと似通っている。
全盛時には年間約20万台近い乗用車を生産していたモスクワの名門乗用車メーカー
「Moskvich(旧AZLK)
」は、数年前より極度の不振に陥っていたが、2001年には電力料金未払
22
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
いのため給電を停止されるという事態が頻発し、生産台数は800台にとどまった。そして、つい
に2002年初頭からは完全に操業を停止している。同社に広義の破産措置が適用されるのはほぼ
確実だと思われるが、具体的にどのような措置が下されるかは、現時点でははっきりしていな
い。
7.外国メーカーによる国内生産の動き
(1)フォード
フォードは、約1億5,000万ドルを投下して、レニングラード州のフセヴォロジスク地区に溶
接ライン、塗装ライン、プレス設備等を装備した設計生産能力2万5,000台/年の工場を建設し
2002年7月より生産を開始した。生産されているのは1,600ccクラスのフォーカスという車種で、
2002年中に1,670台が生産され、2003年には約1万5,000台の生産が予定されている。
このプロジェクトの場合、1999年7月にロシア政府との間に締結した投資協定に基づき、製
造開始5年後にローカルコンテンツを50%以上にすることなどを条件として、税制上および関
税上の特典が与えられている。フォードが締結した投資協定では、どうもローカルコンテンツ
に現地雇用の労働者の人件費や電力料金等も含められているようなので7)、現時点で、ローカ
ルコンテンツは20%に達しているといわれている(Ve, 2003.3.11等)
。ただ、部品だけに限定す
ると3~5%にすぎないといわれており8)、残りの30%を達成するのはかなり骨がおれそうで
ある。
ロシア工場で生産されるフォーカスの売行きは非常に好調で、2003年10月ごろまでバックオ
ーダーがかかっているといわれている(KD, 2003.4.3)
。つまり、予約が一杯で、今フォーカス
を注文しても入手できるのは2003年10月以降になるといわれている。その人気の秘密は価格の
安さであろう。輸入車のフォーカスの価格は約1万5,000ドル前後するのだが、ロシア・アセン
ブリーのフォーカスは1万900ドルで販売が開始されたのである9)。ロシア・アセンブリーとは
言え、実質的に全く同じ車が、それまでより4,000ドル前後も安く買えるのであるから、購買意
欲が高まるのは当然だといえる。また、フォード側が割賦販売システムを積極的に導入し、輸
入新車の購買層としては底辺に属する人々も吸収できたのも成功の原因のひとつであると推測
される。
今後も現在の低価格を維持できるのか、ローカルコンテンツの問題をクリアできるのか、あ
るいは、設計生産能力が2万5,000台/年と小さく、しかも生産対象が利幅の小さい大衆車とい
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
23
う状況下で採算がとれるのか、といった不確定要素が存在し、このプロジェクトの今後を長期
的に予測することは困難であるが、とりあえず滑り出しは大成功であるといえよう。
(2)GM
GM、ロシアのAvtoVAZ、EBRDの3者が設立した合弁企業「GM-AvtoVAZ」10)は、2002年9
月より、トリヤッチのAvtoVAZに隣接する新工場で、四輪駆動車「Chevy Niva」の生産を開始
した。
Chevy Nivaは、AvtoVAZが開発したVAZ-2131をベースにGMの技術支援を受け完成されたオ
リジナル車で、国内仕様車の部品の90%以上はロシア製となっている。生産開始から2003年3
月末までの間に1,673台のChevy Nivaが生産されたが、合弁企業側はAvtoVAZ経由で供給される
部品の品質に不満を抱いているようで11)、2003年後半より部品の調達を直接行うと同時に、サ
プライヤーへの指導強化あるいはサプライヤーの見直しを行う意向を最近発表した(KD,
2003.4.15)
。この情報から判断する限り、GMとAvtoVAZとの間には、部品の品質に関し、かな
り大きな見解の相違が存在する可能性が高い。
現在の計画では、2003年中に3万6,000台のChevy Nivaが生産され、翌年の2004年には年産6
万台の達成と輸出の拡大が予定されている(一部には、すでにメキシコへの輸出が決まったと
の情報が存在する)
。そして、2005年に設計生産量の7万5,000台/年が達成される見込みとな
っている。
Chevy Nivaのベーシックモデルの当初の販売価格は8,000ドルであったが、その後2003年3月
に、それまでオプションであったフォグランプ等を標準装備とした上で8,500ドルに値上げされ
た。
(3)ルノー
ルノーは1998年夏にモスクワ市との間に合弁企業「Avtoframos」を設立し、1999年よりモス
クワ市の事実上の傘下にあるMosikvich社より借り受けた工場でメガーヌ、ルノー19といった車
種のアセンブリーを行っていたが、売行き不振で2000年8月に生産を中止した。その間の累積
生産量はわずか1,300~1,500台程度であった。
合弁企業は、仮工場でのアセンブリーと並行して、モスクワ市側から提供された未完成工場
をベースに新工場の建設に取り組んでいたが、設備の輸入関税の問題等がこじれ、作業は頓挫
した形となっていた。
24
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
しかし、ルノーは2002年に入り、再び動きを活発化させ同年秋にシンボルというモデルの現
地アセンブリーを、日産10台程度の規模ではあるが再開した。そして、2003年2月末には、建
設中の新工場に約2億5,000万ドルを投下し、本格的な現地生産に着手する意向を表明した。
計画では、コード・ネーム「X90」の名前で呼ばれるロシア市場向け新型車が生産されるこ
とになっており、2004年~2005年に生産開始後、2007年には設計生産量の12万台/年を達成す
るとされている。X90の詳細は不明であるが、ルノーと日産が共同開発したプラットフォーム
をベースとする乗用車で、ロシアの他、ルーマニアのDaciaでも生産される予定とのことである。
販売価格は未定であるが、VAZ-2110の購買層をターゲットとしているふしが見受けられるので、
1万ドルをかなり割り込む価格を目標としてくる可能性が高い。
まとめにかえて
ロシア乗用車市場における明と暗という題名で記述を進めてきたが、現在、差し込む日差し
が最も強くなってきているのは輸入新車部門であろう。2002年は、一部購買層が重複する輸入
中古車の大量流入という否定的ファクターが存在したにもかかわらず、各社とも概ね販売台数
を大幅に伸ばした。その原因としては、先にも述べたとおり、①購買力が全般的に上昇したこ
と、②割賦販売が普及したこと、③国産新車、特にVAZ-2110に代表される国産新車としては高
価格帯に属する車種の価格が徐々に上昇してきたこと等が考えられるが、個人的には、①のフ
ァクターよりも、むしろ、②と③のファクターが複合的に作用して国産新車市場から輸入新車
市場へ相当数のユーザーが移行してきたことが大きかったのではないかと考えている。
今後、市場での主要なライバルのひとつである3~7年ものの中古車の輸入関税が、予定ど
おりに大幅に引き上げられることになれば、輸入新車部門に差し込む日差しはさらに強いもの
となるであろう(もっとも、中古車の駆け込み輸入の急増で、一時的に市場が混乱する可能性
は否定できないが)
。
一方、暗雲が立ち込めているのは、輸入中古車部門である。2002年10月の7年おち中古車の
輸入関税引き上げに続き、もし、3~7年ものの中古車についても同様の措置が実施されるこ
とになれば、この部門は致命的な打撃を受けることになるであろう。
さらに、ロシアの純国産メーカーの前途も平坦であるとは言い難い。7年おちの中古車の輸
入関税引き上げの効果が間もなくでてくると思われるので、今後、一時的に状況は改善される
かもしれないが、①ルーブル・レートの高値安定と国産新車の価格の上昇傾向(輸入新車と国
産新車の価格差の縮小傾向)
、②割賦販売の普及、③市民の購買力の全般的上昇等の傾向がこの
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
25
まま続くようだと、比較的安価な輸入新車もしくは外国メーカーの現地生産車(フォーカス等)
に、相当数の客を奪われてしまうであろう。即刻、製品のコストパフォーマンスを大幅に上昇
させる具体的努力を開始しない限り、純国産メーカーは、いずれ、価格5,000ドル未満の旧式乗
用車の生産に特化せざるを得なくなるのではないだろうか。
フォード、GM、ルノー等によるロシア国内での現地生産の動きは、ロシアの自動車産業の
技術レベルの向上(特に部品の品質向上)の点からも重要な意味をもつが、現時点でその成否
について云々するのは時期尚早であると思われる。たとえば、フォードのプロジェクトを例に
とれば、滑り出しが非常に好調なのは事実であるが、同時に、今後克服しなければいけない課
題が多いのも事実で、先行きの不透明感は完全には払拭しきれていないとの印象を有する。現
地生産を実施している外国メーカーに関していえば、明と暗が複雑に交錯する状況の中、現時
点では、明の部分を強調した情報のほうが多く流れてきているというところであろうか。
【注】
1)法人の場合、中古車を輸入する際、輸入関税と関税手数料の他、物品税(1馬力につき10ルーブル~)
、
付加価値税(20%)を支払うことを義務付けられている。換言すれば、物品税、付加価値税は外税扱い
になっているといえる。一方、自然人が中古車を輸入する場合は、輸入関税の中に付加価値税と物品税
が含まれているという解釈になる。すなわち、付加価値税と物品税は内税扱いとなる。
2)AvtoVAZはロシアのサマラ州に所在するが、同社の新車の卸売り価格は、工場出荷価格に輸送費をプ
ラスするという形で設定されてきた。つまり、工場が所在するサマラでの卸売り価格が最も安く、サマ
ラから遠くなればなるほど、卸売り価格が高くなるというシステムが採用されていた。このため、極東
のウラジオストクでのAvtoVAZ車の卸売り価格は、
サマラと比較して14,000~32,000ルーブルも高かった
といわれている。たとえば、サマラでは3,000ドル程度で売られている車が、ウラジオでは最高で4,000
ドルもしたということになる。これでは、極東地方で国産車のプレゼンスが低いのも当然だといえる。
ただ、ようやく、2003年4月より、AvtoVAZは卸売り価格を全国均一にしたようなので、今後は、極東
での国産新車のプレゼンスが高まるかもしれない。
3)フロアパネルの種類を限定した上、モデルチェンジもあまり頻繁に行わないというVWの企業戦略が、
少なくとも今のロシアの輸入新車市場では受け入れられ難くなった可能性が考えられる。つまり、
「変
化の乏しさ」が市場に飽きられてきている可能性が存在するのである。
4)詳細は不明であるが、2003年1月末ごろより、マイナーチェンジしたネクシア(ネクシアGLE)の発
売が開始されたようである。マイナーチェンジ後、ネクシアの価格は平均で500ドル上昇したといわれ
ている。
5)SeAZ(セルプホフ自動車工場)とZMA(軽自動車生産工場)では、排気量750ccの軽乗用車「オカ」
(VAZ-1111)の生産が行われている。
26
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
6)その他、GAZ-3111というモデルが存在するが、試験車に近い存在で、量産はされていない。また、量
産の予定もないようである。
7)ロシアの経済専門誌『ルースキー・フォークス』誌(2003.3.10-16)によれば、このフォードの契約で
は、それまで曖昧であった「ローカル・コンテンツ」の定義が明確にされ、投資協定の付属文書である
ビシネスプランの中で、ローカル・コンテンツの中には、ロシアで生産される部品だけではなく、生産
のためにロシア国内で支出されるすべての費用が含まれると定義されているそうである。
8)現在、ロシアで生産されている部品は、サイド・ガラス、フェンダー、バッテリー・カバー、バッテ
リー金具、アンテナ、ウインド・ウオッシャー・コンテナー、ウインド・ウオッシャー液、エンジン用
フィルター、ゴム製カーペット、シートの布等である(KD, 2003.4.3)
。主要な納入業者としては、ボー
ル・ガラス工場、ツェントルスピルトプロムペレラボートカ、キーロフ工場、エラスト・テフノローギ、
インテルコスⅣ、PXR、JCI、コンチネンタル・プラストLLS等の名を挙げることができる。
9)現在は若干値上がりして1万2,000ドル近くに達しているが、それでも輸入車と比較すると2割以上安
い。
10)合弁企業の資本金は2億3,820万ドルで、出資比率はGMとAvtoVAZが各41.5%、EBRDが17%となって
いる。
11)契約に従い、生産開始後、累積生産量が2万台に至るまでは、AvtoVAZが部品のジェネラル・サプラ
イヤーになることが定められていた。その際、部品の約60%はAvtoVAZ製で、残り40%はAvtoVAZが他
の部品メーカーから調達する。
【文献略号】
Ex=『エクスペルト』誌、Iz=『イズベスチヤ』紙、KD=『コメルサント』紙、Pr=『プロフ
ィール』誌、RG=『ロシア新聞』
、Ve=『ヴェードモスチ』紙
ロシア東欧貿易調査月報2003年4月号
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