ダウンロード - 特定領域研究「タンパク質の社会

分子シャペロン研究の今をお届けする最新情報紙
2000 No.
特定領域研究「分子シャペロンによる細胞機能制御」領域ニュース
CHAPERONE
NEWSLETTER
CONTENTS
発行日 :2000年2月
6
シャペロン研究の成果,
シンポジウム等で反響をよぶ
シャペロン研究の成果,
シンポジ
ウム等で反響を呼ぶ
…………………………………………………………………… 1
…………………………………………………………………… 2
「細胞生物学会シンポジウム」
佐藤 健
「ESF Symposium/Protein
Targeting Mechanisms and・
・」
永森収志/中井正人
「生化学会シンポジウム」
水島 徹
「分子生物学会シンポジウム」
南 康文
「班会議リポート」
河野憲二/中井正人
「公開シンポジウム」
稲熊 裕
「臨床ストレス蛋白質研究会」
樋口京一
…………………………………………………………………… 3
「Midwest Stress Response
and Chaperone Meeting」
秋田 充
…………………………………………………………………… 19
HSP47:Maze and Enigma
永田和宏
界的に見ても,シャペロン関連の研究はますます過熱して
世
いるが,本特定領域研究とその周辺からも重要な成果が
続々と登場,論文,各種シンポジウムでの報告が相次いでいる。
まず8月27日には,東京大学本郷キャンパスにて日本細胞生
物学会大会のシンポジウムとして「分子シャペロン研究の新展
開−シャペロンの新しい機能,シャペロン研究の新しいアプ
ローチに焦点を当てる人工分子シャペロンの設計と機能」が
あった。シャペロン研究においては,新しい方法論やアプロー
チの開発がブレークスルーとして常に待望されている。夏休み
の終わりというタイミング,狭い会場という悪条件が重なった
が,タンパク質を全く使わずに人工シャペロンをつくってしま
う話や,一分子観察技術のシャペロニンへの適用など,これま
でなかった新しい話題が提供され,関心を集めた。
1
0月9日には,横浜で日本生化学会大会が開催された。これ
ジスルフィ
ド結合の形成に働く細胞機能
までは分子レベル,細胞レベルでのシャペロン機能の研究がシ
伊藤維昭
ンポジウムで採り上げられることが多かったが,今年は視点を
枯草菌におけるポストゲノム研究
山根國男
変えて「分子シャペロンと病態」と題するシンポジウムが,水
…………………………………………………………………… 21
島,六反両氏のお世話で行われた。内容はシャペロンと病態と
の関係,さらにはシャペロンをターゲットとした臨床への応用
にまで広がった。会場には4
0
0人もの聴衆が集まり,さらにマス
…………………………………………………………………… 31
…………………………………………………………………… 32
…………………………………………………………………… 32
コミの取材が入るなど,シャペロンと病気との接点への関心の
予想以上の高まりを認識させるものとなった。
この流れは,さらに班会議,公開シンポジウムへとつながる。
すなわち今年の班会議は,初めての試みとして臨床ストレス蛋
白質研究会(1
2月19日)と密接な関係を持って行われたのであ
まった老齢マウスと若いマウスを同じケージで飼育するとアミ
る(これは,永田代表がたまたま今年は臨床ストレス蛋白質研
ロイド沈着が感染するというショッキングな結果の発表があっ
究会のお世話もされることになっていたため実現したものであ
た。感染のメカニズム解明が急務であるとともに,結果の解釈
るのだが)。まず本特定領域研究の班会議が,12月1
6, 1
7日の二
には十全な慎重さが求められるところであろう。シンポジウム
日にわたって,永田代表のお世話で京都ガーデンパレス(京都
終了後,班会議と臨床ストレス蛋白質研究会の合同懇親会がも
御所の目の前というロケーション)で行われた。参加者数は約
たれ,翌2
1日の臨床ストレス蛋白質研究会へとつながる。
1
00名。4
0演題の報告を一日半でこなすという過密スケジュール
班会議に先立つ1
2月7日には,福岡ドームで開催された日本
であったが,会議場は明るく広さも十分,疲労がたまることも
分子生物学会年会においてシンポジウム「分子シャペロンによ
なく議論には熱が入った。冒頭には,永田さんの再生研を訪れ
る細胞機能制御」が行われた。海外からは若いながらもこの分
ていた Rick Morimoto 博士の特別講演というプレゼントも用意さ
野の草分けである Hartl を招いて,この分野の現状の総括と最新
れていた。続いて20日には,公開シンポジウム「ストレス蛋白
の結果の発表が続いた。シャペロニンから DnaJ, 品質管理,UPR,
質と病態」が平安会館で行われた。こちらは本特定領域研究と
Hsp47と,動きの激しかったこの1年のシャペロン研究を締めく
臨床ストレス蛋白質研究会の共催。非公開だった班会議と異な
くるのに相応しい内容だった。関連するシンポジウム「プロテ
り,班員以外の参加者も多く,生化学会のシンポジウムと同様, インキネシス」には,ミトコンドリアの大御所,そして Hartl の
このテーマへの一般の関心の高さがうかがわれた。構成は,マ
古巣の研究室を主宰する Neupert が招待されていた。彼は,この
クロなレベルにおけるストレス蛋白質の役割を中心にした「ス
分野最大の問題の一つ,Hsp7
0によるタンパク質膜透過駆動の二
トレス蛋白質と病態」と,分泌タンパク質の品質管理に焦点を
つのモデル,「Brownian ratchet 対 Power stroke」に関する興味深
当てた「小胞体分子シャペロンと品質管理機構」の二本立て。
い発表を行った。トラフィックとシャペロンのクロスロードは
興味深い発表が相次いだが,特に第一部では,アミロイドの溜
目が離せないことを再認識させるものとなったといえよう。
特定領域研究総括班会議の報告
(班員5
8名(1名のみ不参加)
+同伴者約4
0名+森和俊(班友))
。
9/2
4
(木)
∼25
(金) 京都にて若手ワークショップ開催。
総括班会議
(第4回)議事録
約10
0名参加。
(2)今年度班会議について。
日 時:平成11年9月21日
(火)
午後3時∼
12/1
6
(木)
∼17
(金) 京都・ガーデンパレスにて開催予定。
場 所:京都大学 芝蘭会館
発表者は,
分子生物学会シンポ,
公開シンポ発表者を除く40名。
出席者:永田和宏(議長),吉田賢右,森 正敬,矢原一郎,石
16日13時からは,Dr. Morimoto の特別講演を予定。
川 統,伊藤維昭,三原勝芳,名取俊二,遠藤斗志也,
細川暢子(議事記録者)
議 事:以下の通り。
12/1
8
(土)
は京都・平安会館にて臨床ストレス蛋白質研
究会との合同シンポジウムを開催予定。
12/1
9
(日)
は同平安会館にて第4回臨床ストレス蛋白質
研究会(大会長 永田和宏)開催予定。
1)最終年度の計画班員決定について
研究会代表世話人の矢原一郎先生が特別講演の予定。現在
公募はしないため,公募研究及びそれ以外の研究者から一部
までに届いている班員からの出欠回答をみると,班会議出席
を計画班へ組み込む。そのために,現在の計画班員の研究費を
者の多くが,合同シンポジウムおよび第4回臨床ストレス蛋
大幅に減額する。
白質研究会へも出席する予定となっており,当初の目的が達
2)次年度公開シンポジウムについて
矢原一郎先生の記念シンポジウムを兼ね,班会議とは別に開
催する。平成12年7月に一日間で行うことを考えている。海外
からも2, 3人招聘する。
成されると期待される。
(3)次の特定領域研究申請の件については,次回・総括班会議
で議論する。
(4)次回・総括班会議は,1
2月の班会議時に行う。
3)次年度班会議について
以上 敬称略
遠藤が担当。平成13年1月に名古屋地区にて,
2日間でゆっく
(記録者:京大・再生研 細川暢子)
り討論できるよう日程を組む。
4)終了報告について
総括班会議(第5回)議事録
以下の3本立てで行う予定とする。成果論文リストを報告書
として作成。総説集をまとめる。書籍として出版する。
日 時:平成1
1年1
2月17日(金)
午後6時∼
5)まとめのシンポジウム(平成1
2年度開催)について
場 所:京都ガーデンパレス 桜の間
次回・総括班会議で議論する。
6)その他
(1)平成10年度の報告事項。
1
1/11
(水)∼13
(金)
熊本にて班会議開催。10
0名強参加
2
出席者:永田和宏(議長)
,吉田賢右,森 正敬,矢原一郎,石
川 統,伊藤維昭,三原勝芳,名取俊二,遠藤斗志也,
細川暢子(議事記録者)
議 事:以下の通り。
1)報告
今年度班会議は,班員89名+班員外の参加希望者数名+京大・
Chaperones 2
0
0
0:A symposium dedicated to Ichiro
Yahara”
永田研教室員の参加があった。1
2/1
8
(土)
の合同シンポジウム
は,班員約9
0名出席予定。同夕方からの懇親会は,班員約6
0名
場 所:東京ガーデンパレス(文京区)
出席予定。12/19
(日)の臨床ストレス蛋白質研究会(会長・矢
オーガナイザー:
永田和宏,森 正敬,吉田賢右,瀬原淳子,小安重夫
原先生)は,特定領域の班員約3
0名も出席予定。
次号ニュースレターは,2
0
0
0年1月に発行予定。
主 催:文部省特定領域研究 A「分子シャペロンによる細胞機
能制御」
次年度は,公募研究がないので,計画班員 A0
1班は+2名,A0
2
班は+5名の計27名とする。ちなみに本班は,
1年目の計画班員
予定講演者:Ulrich Hartl, Arthur Horwich, Joseph Schlessinger,
Richard Morimoto, Susan Lindquist, Ichiro Yahara
1
4名でスタートし,年々計画班員を増やしてきた。
来年度,生化学会で分子シャペロンのシンポジウムが開かれ
る。永田・吉田がオーガナイズし,タイトルは「Protein flux と
これまで日本のシャペロン研究を引っ張って来られた矢原先
分子シャペロン」を予定している。
生が,本年6月をもって東京都臨床医学総合研究所を退職され
2)次年度班会議について
ます。そこで,矢原先生と親交のある研究者を招待してシンポ
2
00
0年12月∼(20
0
1年1月)に名古屋近辺(下呂温泉あたり)
ジウムを企画しました。きわめてアクティブで魅力的なスピー
カーに来ていただけることになりましたので,是非,多くの方
(担当:遠藤)で開催する。
3)次年度公開シンポジウムについて
のご出席をお願いいたします。また,夜には懇親会も準備いた
矢原先生の退任記念シンポジウムを兼ねる。森正敬,吉田,
永田,小安,瀬原でオーガナイズ,日時は,
6月2
1日
(水)
13:0
0
しております。出席御希望の方や詳細についてお知りになりた
い方は,FAX または E- メールで下記まで御連絡下さい。
∼1
7:00とし,場所は「東京ガーデンパレス」
。海外からは,S.
58
2 東京都新宿区信濃町3
5
小安重夫:〒1
6
0−8
Lindquist, R. Morimoto, U. Hartl, J. Schlessinger を招聘し,
講演して
慶應義塾大学医学部微生物学教室
いただく予定。J. Schlessinger に関しては,講演もしくは矢原先
FAX:0
3−53
61−7
65
8
生との対談形式を予定している。矢原先生にも講演していただ
E-mail:chaperon@microb. med. keio. ac. jp
く。費用に関しては,いずれかの財団へ応募することを考えて
本特定領域研究の
ホームページについて
いる。1
99
9年12月29日に全体のプログラム作成を予定している。
次回総括班会議は,この時に予定。
4)終了報告について
単行本を発行する。森,吉田,永田が編者となる。詳細は1
9
99
年12月29日に相談する予定。出版元は,Springer Verlag 東京社を
考えている。内容は日本語とし,同様のものを文部省へ提出する。
Publication list や業績などのまとめは平成1
4年1月に班員に依
本特定領域研究は公式ホームページを開設しています。URL
は以下の通りです。
http://biochem. chem. nagoya-u. ac. jp/chaperone/index. html
このサイトには,本特定領域研究の活動記録,代表からのメッ
頼し,
3月に提出する。
セージ,班会議のお知らせなどのほか,ワークショップ,関連
5)まとめのシンポジウムについて
シンポジウム,国際学会などの最新情報,わが国のシャペロン
平成13年度(平成14年3月まで)も総括班は継続されるので,
研究者の名簿,関係サイトへのリンク集など,有用な情報が満
載されています。アクセス件数は97年6月から通算7000件以上
まとめのシンポジウムを平成1
3年度に行う。
以上 敬称略
(記録者:京大・再生研 細川暢子)
に上っています。アップデートも頻繁に行っておりますので,
ぜひブラウザのブックマークに登録しておいて下さい。
2000. 6. 21 13:00-17:30
Symposium“Molecular
細胞生物学会シンポジウム
のお世話で,分子シャペロンのシンポジウムが開かれた。
『分子
シャペロン研究の新展開−シャペロンの新しい機能,シャペロ
ン研究の新しいアプローチに焦点を当てる人工分子シャペロン
佐藤 健
の設計と機能』と題されたこの会では,シャペロン研究が始まっ
(理化学研究所生体膜研究室)
て以来,確実に広がりつつあるその研究領域のなかで,特に方
法論とシャペロン機能の新たな側面について発表され,非常に
9
99年8月27日から8月29日にかけて,東京大学本郷キャ
1 ンパスにて日本細胞生物学会大会が開催された。その初日
に,名古屋大学の遠藤斗志也先生と大分医科大学の南康文先生
活発な議論がなされた。以下,それらの発表を順をおって紹介
したい。
最初の2演題は新たな方法論についての発表であった。まず,
3
京都大学の秋吉(以下敬称略)が,いかにして人工系で高分子
次に,船津(早大)らが,
『シャペロニン機能の1分子イメー
の会合現象を制御できるかという視点から人工分子シャペロン
ジング』という題目で発表した。彼等は,シャペロニン GroEL
系の開発を行い,その実用性について報告した。疎水化プルラ
と GroES によるタンパク質のフォールディングの過程が ATP 加
ンナノ微粒子と呼ばれるこの人工物質は,水溶性多糖とコレス
水分解サイクルとどのようにして共役しているのかという問い
テロール等からなる両親媒性高分子が4つほど会合することに
に対し,エバネッセント蛍光顕微鏡を利用した1分子イメージ
よって形成される2
0∼30ほどの微粒子である。この微粒子は
ング技術を駆使することによって,その1つの答えを明確に示
疎水性のポケットに変性したタンパク質を取り込むことが可能
した(詳しくはシャペロンニュース5号の Technique を参照)
。
で,BSA なら1個,インシュリンならば9個といった具合にそ
まず,GroEL の方に D4
90C の変異を導入し,そこに蛍光色素 IC5
のタンパク質の大きさによって選択的に相互作用する。また,
のマレイミド基を反応させ,その後ビオチン化する。これを,
疎水基を変えることによって,タンパク質を捕えるホスト側の
ビオチン化した BSA でコートしたガラス上にストレプトアビジ
性質をいろいろ変えることが出来るので,微粒子を様々なバリ
ンを介して結合させ,
そこに Cy5標識した GroES が結合するのを
エーションをもって作ることができる。さらに,β- シクロデキ
観察した。この細工を施した GroEL は見事に活性を保持してい
ストランを加えることによって微粒子構造を壊すと,捕えられ
た。その結果,GroES は結合速度定数107/ M / sec でスライドガ
たタンパク質が放出されて活性を回復することから,人工の分
ラス上の GroEL と結合,解離を繰り返した。この結合時間の解
子シャペロンとして期待される。そこで,Carbonic anhydrase B
析から,GroES は結合後直ちに解離するのではなく,ある中間
(CAB)を基質として用い,熱変性やリフォールディングの過程
体を経てから解離することが明らかとなった。一方で,ATP の
におけるこのプルランナノ微粒子の効果を解析した。CAB は55
加水分解速度の非常に遅い GroEL(D3
98A D4
90C)変異体を用
で変性し凝集するが,プルランナノ微粒子を添加することに
いて解析したところ,
GroES は一度この GroEL 変異体に結合する
よって凝集が抑制され,そこにさらにβ- シクロデキストランを
となかなか解離できないことが判明した。次に,
リフォールディ
加えてやると24時間後にはほぼ10
0%にまで CAB 活性が回復し
ングにおける ATP 加水分解の意義を,酸変性した GFP を基質と
た。この過程をサイズ排除クロマトグラフ法,円2色性スペク
して解析した。この場合,
リフォールディングが完成すれば GFP
トル法によってさらに詳細に解析したところ,プルランナノ微
の蛍光が観察されるようになるのだが,興味深いことに GroEL
粒子と CAB が7
0において1対1で会合していること,熱処理
(D3
9
8A D490C)変異体を用いても通常の GroEL と同様の速度で
によって CAB のβ-sheet が減少しα-helix が増加していることが
蛍光が観察された。このことは GFP のリフォールディングが
判明した。また,CAB の相転移の段階で急速にプルランナノ微
ATP の加水分解と無関係に起きていることを示唆している。ま
粒子との相互作用が始まることから,CAB の変性後直ちプルラ
た,このリフォールディングの過程も GroES の解離と同様に二
ンナノ微粒子が結合していることが明らかとなった。一方,5M
段階反応であった。これらのことから,GroEL と GroES はもと
塩酸グアニジン処理した unfolded CAB のリフォールディングに
もと非常に強い結合能力を持っており,ATP の加水分解はこの
おける効果を解析したところ,コレステロールプルランでは効
複合体を解離させるための構造変化に必要で,そうすることで
果はみられなかったが,疎水性部分を C1
6P(アルキル鎖)に変
タイマーのようにタンパク質の巻戻る時間を確保しているので
え,β- クロデキストリンを加えてやることによって7
0%にまで
はないかと推測される。
この1分子系の反応は,
多分子系と違い,
活性が回復した。さらに,この微粒子とβ- シクロデキストラン
視覚にダイレクトに情報が入ってくるので,非常にインパクト
が平衡状態で存在できるような系の構築に成功し,この系も変
があった。今後,蛍光標識された ATP アナログをこの系に導入
性 CAB の活性をほぼ完全に回復させることが明らかとなった。
することによって,タンパク質のリフォールディングにおける
この人工的分子シャペロン系は9
0℃ で熱処理された CAB の活性
それぞれの役割をさらに明確に位置付けることも可能になると
さえもほぼ完全に回復させることが可能らしく,実用性の面か
期待される。
らみても非常に期待される。現在,実際に oncogene タンパク質
等を凝集させずにカプセルすることに成功しているらしい。
後半の3演題はシャペロンの新たな機能についての発表で
あった。大分医科大学の南らはタンパク質のリフォールディン
グの際に,Hsp9
0が20S プロテアソーム系の PA28(Proteasome
activater 28)と協調して働いていることを見い出した。Hsp9
0は,
高温条件下においてフォールディングが損なわれたタンパク質
に結合し,
リフォールディング可能な状態に保持する。ルシフェ
ラーゼは高温で変性させると不可逆な凝集体を形成してしまう。
しかし,Hsp9
0を予め加えておくと活性は消失するがリフォール
ディング可能な状態に保たれ,その後 Hsc7
0 / Hsp4
0とウサギ網
状赤血球ライセートを加えることによって活性が回復する。
Hsc70 / Hsp4
0を加えるだけではルシフェラーゼ活性が回復しな
いことから,このウサギ網状赤血球ライセート中に第三のコン
ポーネントが存在すると予想された。そこで,精製を試みたと
ころ,PA2
8a と PA2
8b であることが判明した。この PA28は2
0S
プロテアソームに結合し,ユビキチンや ATP に依存しないペプ
チダーゼ活性を促進するものとして分離されている。Hsp90存在
秋吉博士の発表から
4
下で熱変性されたルシフェラーゼは,Hsc7
0 / Hsp40と精製 PA28
のみで ATP 依存的に活性を回復し,PA2
8はリフォールディング
このタンパク質は普遍的に発現している Calnexin と同様に N 結
に必須な新たな因子であることが証明された。また,グアニジ
合糖鎖上のモノグルコースを認識しており,精細胞ライセート
ン塩酸処理されたルシフェラーゼのリフォールディングの際に
から免疫沈降すると多くのタンパク質と共沈され,この相互作
も,Hsc70 / Hsp4
0と PA2
8が働くことが明らかとなった。さらに,
用はグルコシダーゼ阻害剤のカスタノスペルミンによって阻害
フォトクロスリンカー Sulfo-SBED を用いてこの過程を詳細に解
される。そこで,生体内における Calmegin の機能を解析するた
析したところ,熱変性されたルシフェラーゼが,まず Hsp90から
めに,ノックアウトマウスを構築した。予想に反して,このマ
PA28に受け渡され,その後 Hsc7
0 / Hsp4
0によって ATP 依存的に
ウスの精子形成能には全く異常は観察されなかったが,興味深
リフォールディングされることが判明した。また,
ルシフェラー
いことに精子が卵子と結合できないため不妊になってしまうこ
ゼとクロスリンクされた PA2
8が,20S プロテアソームと複合体
とが明らかとなった。このことから,受精タンパク質の成熟に
を形成することがわかった。このルシフェラーゼが分解にまで
Calmegin が関与している可能性が示唆された。また,このノッ
至るかどうかは現在解析中だそうだが,これらの結果は Hsp9
0か
クアウトマウスのもう一つの表現型として,精子の遊走性に欠
ら PA28へと引き継がれた変性タンパク質が Hsc7
0/ Hsp40によっ
損が見られた。そこで,受精タンパク質以外に遊走性に関わる
て素早くリフォールディングされないと,
20S プロテアソームに
因子の発現にも Calmegin が働いているのではないかと考え,最
引きずりこまれてしまう可能性を強く示唆している。今後,タ
近嗅覚系だけではなく精子における発現も確認された嗅覚レセ
ンパク質の再生と分解という相反する反応においてこの PA28が
プターに注目し,解析を行った。その結果,ノックアウトマウ
どのようにして絶妙な振り分けを行っているのかという点,ま
スの精子には嗅覚レセプターがまったく発現していないことが
た,PA28の生体内における機能についてのさらなる解析が待ち
明らかとなった。一方,Calmegin の発現も精巣だけではなく,
どおしい所である。
嗅 覚 系 の ニ ュ ー ロ ン 全 域 に 認 め ら れ た。こ れ ら の 結 果 は,
続 い て,名 古 屋 大 学 の 西 川 ら が,出 芽 酵 母 Saccharomyces
Calmegin が嗅覚レセプターの発現に寄与していることを予感さ
cerevisiae の小胞体に局在する DnaK ホモログ Kar2p と DnaJ ホモ
せる。しかし,ノックアウトマウスの嗅覚系には異常が観察さ
ログ Jem1p, Sec6
3p, Scj1p の接合の際の核膜融合過程やタンパク
れておらず,嗅覚系における Calmegin の機能については現在の
質の品質管理における役割について発表した。まず,Jem1p に注
ところ不明である。今後,免疫沈降で Calmegin と共沈してくる
目し,
核膜融合における機能解析を行った。
接合時の核膜融合は,
分子をさらに詳細に解析することによって,嗅覚レセプターや
まず微小管により核膜が互いに接近し,その後,外膜,続いて
受精タンパク質との直接的な相互作用や Calmegin の新たな基質
内膜が融合することによって完結する。この JEM1遺伝子を破壊
が明らかとなってくるだろう。また,各組織細胞内における
した株同士では,外膜の融合は起こるが,内膜融合が起きず,
Calmegin のオルガネラ局在性についても詳しい解析が待たれる。
結果として接合不全の表現型を示すことが,電子顕微鏡観察等
このシンポジウムのテーマは,シャペロン研究における新し
によって明らかとなった。これまでにも外膜の融合に関する因
い方法論と機能であったが,広がりつつあるシャペロン研究の
子は Mark Rose や Peter Walter らのグループによって報告がなさ
最前線をピックアップし,活発に議論することは非常に有意義
れていたが,内膜の融合に関する因子の同定はこれが世界で初
で,タイムリーであったと思う。すぐには無理かも知れないが,
めてで,小胞体内腔側での膜融合という現象は膜のダイナミク
ここで得られた知見を各々の研究に生かすことができれば,
スを考える上でも非常に興味深い。さらに,彼等は Two-hybrid
シャペロン機能がさらに広く深く解明されていくであろうと期
法 に よ っ て Jem1p と 相 互 作 用 す る 因 子 の 同 定 に 成 功 し た。
待される。最後に,このような会を開いてくださったオーガナ
Nep98p と名付けられたこのタンパク質は,
6
82アミノ酸からなる
イザーの先生方に深く感謝致します。
98kDa の核膜タンパク質で,
生育に必須であった。
Nep9
8p は1ヶ
所の膜貫通領域と2ヶ所の Coiled-coil ドメインを持ち,Jem1p と
8の温度感受
は C 末端領域で相互作用するらしい。現在,NEP9
性変異株を構築し,このタンパク質が核膜融合に直接的に作用
しているかどうかを解析しているそうである。次に,Jem1p と
Scj1p の小胞体品質管理における働きを解析した。まず,小胞体
「Protein Targeting Mechanisms and
Components of Protein Sorting to
Subcellular compartments」
Part 1
からサイトゾルへと逆輸送され分解されるカルボキシペプチ
ダーゼ Y 変異タンパク質(CPY *)の分解が,Jem1p と Scj1p の
永森 収志
二重遺伝子破壊株では抑圧されることを示した。一方,Wolf ら
(東京大学分子細胞生物学研究所)
のグループによってこの過程に関与すると報告されていた
Sec63p の温度感受性変異株ではほとんど分解が阻害されないこ
る12月7日から1
0日まで,福岡にて日本分子生物学会年会
とが明らかとなった。また,Jem1p と Scj1p が,還元型 CPY や
去 が行われた。ポスター会場は,福岡ドーム。今年日本一に
CPY *の高次構造形成に必要であることを示した。これらのこと
なったホークスの本拠地である。会場は,さながら日本シリー
から,西川らは,Kar2p は Sec6
3p ではなく Jem1p / Scj1p と協調
ズのように熱気に包まれていた,はずだ。ドラゴンズの本拠地
して分解されるべきタンパク質の凝集を抑え,逆向き輸送され
名古屋からいらっしゃっていた遠藤先生につかまった(失礼)
やすい状態に保っているのではないかというモデルを提唱した。 のは,ちょうどホームベースとバックネットの間ぐらいだろう
最後に,大阪大学の蓬田らが,組織特異的に発現している
か。
「君,Protein Targeting 行ったんだって?見聞録書いてくれな
Calnexin ホモログ Calmegin について発表を行った。Calmegin は
いかなあ。中井君には,班会議のを頼んじゃってて,君しかい
当初精巣特異的な発現を示す分子シャペロンとして分離された。 ないんだよ…。
」もう二ヶ月前,はるか遠い昔の話だったという
5
のに。
もっとも,
ちゃんであった(実際,マイク等のトラブルがあると彼が率先
仮に分子生物
して働いていた)
。そして非常にアットホームな雰囲気で会議が
学会のを書け
始まった。まずは,「Protein insertion into and translocation across
といわれても,
the plasma membrane of bacteria」。午後からは,「Protein insertion
もうあまり覚
into and translocation across the ER membrane」。三日目の昼からが
えていないの
葉緑体,四日目の昼からがミトコンドリア,最終日が「Assembly
だが。
of peroxisomes」
といった構成。途中,
ポスターや Short Talk session
をはさみながら(もちろんワイン街道への遠足も)行われた。
筆者(永森)
さて,本題に
さて,あまり覚えていないのだが,発表されたことに関して
移ろう。フラン
いくつか書かなければならないだろう。もっともすでに論文に
スの小さい村
なっているものがたくさんあるのだが。
Obernai で10月1日 か ら6日 ま で ESF 主 催 の“Protein Targeting
Arnold Drissen(Kerklaan)は電子顕微鏡の逆染色した大腸菌の
Mechanisms and Components of Protein Sorting to Subcellular
SecYEG 複合体のスライドを出した。それは,他の参加者から,
compartments”が開催された。開催地は,『最後の授業』でも有
『どうしてそんなにきれいなんだ』と質問が出るほどであった。
名な,フランスでありながら,ドイツに侵略された過去を持つ
その写真は,SecYEG 複合体は,一量体,二量体もしくは四量体
アルザス・ロレーヌ地方にある。おいしい白ワインの産地とし
の構造を持ち,四量体は直径1
05
. で5の開口部を持っている
ても有名であろう。最近では,EU の本会議場がアルザス地方随
ことを示しているという。また,前駆体蛋白質 proOmpA の膜透
一の都市であるストラスブールにあることで,少しは知られて
過中間体 I31と相互作用している SecA と SecY の比は1:2で,
いるだろうか。会場は,夏のバカンスの間に家族連れが利用す
こ の と き の SecYEG 複 合 体 は 四 量 体 に な っ て い る と 言 う。
る(らしい)休暇村といったところ。いわゆるホテルではなく, Scanning transmission microscope での計測の結果,SecYEG のみの
コテージ風の建物がいくつか並び,参加者はキッチン付きの1
場合は一量体と二量体がほぼ1:1, SecA と ATP の非加水分解ア
bed room ないし2 bed room から構成されるフロアを二人で利用
ナログ AMP-PNP のみを加えた場合は二量体が優勢となること
した。参加者は120名ほどであり,ほとんどがヨーロッパ各国か
から,SecYEG 複合体は通常一量体で存在し,SecA 二量体の接
らの参加であった。アメリカからは数人。日本からは,生化学
近によって SecYEG も二量体に,さらに膜透過開始時に SecYEG
会と日程が重なるためか,阪大・蛋白研の中井先生と私の二人
は四量体を形成して膜透過反応を進めるというモデルを提唱し
だけだった。ヨーロッパからの参加者には学生やポスドクが比
ていた。さらに,SecE の Cysteine scaning mutagenesis の話もして
較的多かった。助手の西山先生にふられ,初めての国際会議に
いたが,これはすでに Biochemistry に載っていた話であったので
単独で参加する私にとって,同じ年代の人間がいるというのは
詳細は割愛する。Cys-SecE の二量体が,SecA が膜に深く挿入し
それだけで数少ない安心材料であった。私のルームメイトはス
ていると思われる条件で見られることも,前述のモデルで説明
ウェーデンから来た大学院生だったが,中井先生のルームメイ
できると言いたいのだろう。
トは寝室が別だったものの Neupert であったらしいから,開催者
Irmi Sinning(Heidelberg)は SRP レセプターαサブユニットの
も多少は考えて組み合わせたらしい。正直,すこしほっとした。 ホモローグである E. coli FtsY の結晶構造を示した。すでに論文
初日は各々夕方頃に到着。
夕食後 Get together drinks ということ
が出ているらしいので詳細はいいだろう。その他には,脂質と
で親睦を深めた。会場のあちこちでワイン片手に顔見知り同士
直接結合して GTPase の制御がされるというデーターを出してい
が研究の話をしている。そうかと思うと,アルザスワイン談義
た。大腸菌では SR βホモローグが見つかっていないが,膜と
に花をさかせているグループも。東京の街中で芸能人を見かけ
FtsY が結合しているだけなのかもしれないという。Anthony
てもあまりうれしくないのだが,有名な科学者たちを目の当た
Pugsley(Paris)は Klebsiella oxytoca の Pululanase 分泌系 PulD の
りにして興奮してしまった。
立体構造を示した。PulD は PulS と1
2量体の複合体(高さ1
8 ,
会議は二日目の朝から始まり,まず Chairman の von Heijne が
直径2
5)を形成して外膜を貫通する。N 末側の N ドメインを
会議の開始を宣言し,今後の予定を簡単に説明した。はじめて
ペリプラズムに大きく露出していた。この N ドメインは基質認
みる von Heijne は想像を裏切るフットワークの軽そうなおっ
識に関与すると思われていたが,Erwinia chrysanthemi の OutD の
N ドメインと置換できることから,
多量体形成への関与が考えら
れるという。Ben Berks
(Norwich)は E. coli の twin arginine transfer
peptide-dependent protein translocation system(Tat system)につい
ておもに総説的な話をした。Tat system は,葉緑体のΔ pH 依存
経路の構成因子である Hcf1
06ホモローグの TatA, TatB, TatE と
TatC な ど で 構 成 さ れ て い る。基 質 で あ る N 末 端 に(S / T)
RRXFLK のペプチドを持つ蛋白質が,高次構造を保持した状態
で細胞質膜を透過することで,
とくに興味を持たれている。Tat に
関 し て は,三 日 目 の short talk session で 話 を し た Tracy Palmer
(Norwich)の方が最近は研究を引っ張っているようで,生き生
きとしていた。彼女は,大腸菌にある三つの Hcf10
6ホモローグ
宿舎からの風景。キャンピングカーが見える。
6
のうち TatB がもっとも重要であるという話をしていたが,どう
や ら こ れ も JBC に す
でに出ているようだ。
このセッションは,みんな疲れているのか席もちらほら空い
それ以外で印象に
ている。
途中,
トイレの帰りにラウンジを覗くと Neil Hoffmann や
残っているのは,可溶
Colin Robinson がビールを飲んでいた。顔見知りのポスドクもい
性蛋白質の TatD が必
たので声をかけると,ごきげんそうな Colin がビールをご馳走し
要でないといってい
てくれた。とても良い人だ。Niel もずいぶん親切だった。
(そん
たことだろうか。それ
なことがペルオキシソームの時に限らず,ちょくちょくあった
にしても,この学会で
ので,残念ながら聞けなかった演題もあるわけです。
)
は,ほとんどが Palmer
ストラスブール郊外
せていただく。
さて,すべての演題が終了した最終日の晩御飯は普段より
のグループなのだが,
ちょっと豪華であった。通常,一種類しか出ていないワインも
Tat に関する発表がた
二種類並んでいる。食事のほうも決してすごく美味とは言えな
くさんあった。バクテ
いが,悪くは無い。短い期間であったが,毎日顔を付き合わせ
リ ア 最 後 は Ross
ていた参加者たちと別れを惜しむ。非常に良い勉強,体験が出
Dalbey(Columbus)。E.
来たと思う。
coli Signal peptidase の
無い記憶をずりずりと引き出しても無理があったようだ。そ
可溶性部分の結晶構
れにしてもこんな大役を仰せつかるのなら,ランチからワイン
造解析。Nature で見た
を飲むんじゃなかった。ほんの少しだけ反省中である。
ことある絵だ。もっとも研究はさらに進んでいるようだった。
その他に,飛び入りで Joen Luirink(Amsterdam)が大腸菌膜蛋
では,そろそろ引っ込みます。最後になりましたが,駄文を
白質の膜挿入に関与すると思われる新因子に関して話をした。
読んでくださった皆様にはもちろん,書く機会を与えてくだ
化学架橋実験によって同定された約6
0kDa の蛋白質は,ミトコン
さった遠藤先生と快く手助けをしてくださった中井先生に感謝
ドリア Oxa1p ホモローグ YidC であった。基質のシグナルアン
いたします。そして,渡欧の機会を下さった徳田教授をはじめ,
カー(SA)配列と架橋されるという。Dodecylmaltoside で膜を可
たくさんの方にも感謝したいのですが,謝辞が長いと怒られそ
溶化すると SecY と複合体を形成しているそうだ。もっとも,大
うなのでやめておきます。
量発現や遺伝子破壊を行っても,今のところ膜透過活性には影
響が見られてないらしい。
ER に移ろう。ランチ後,ほろ酔い状態で聞いていたために,
と て も 自 信 が 無 い の で さ ら っ と。Tom Rapoport(Boston)は
ribosome と Sec complex の立体構造の変化を示した。基質があま
り挿入されてない場合,分泌蛋白質と膜蛋白質の場合でのそれ
「Protein Targeting Mechanisms and
Components of Protein Sorting to
Subcellular compartments」
Part 2
ぞれの構造変化を示した。Enno Hartmann(G
ttingen)は Sec 因
子の stoichiometry について話した。Art Johnson(Texas)は,BiP
中井 正人
が translocon の蓋の役目をしていることを話した。また,一残基
(大阪大学蛋白質研究所)
刻みの光反応化学架橋実験により translocon と SA 配列の相互作
用を詳細に示した。膜透過装置内における基質の微細な動きが
示されていた。
(詳細は,CHAPERON NEWSLETTER 1
9
9
9 No. 5
緑体関係では,最初に Neil Hoffman(アメリカ・スタン
葉
フォード大)が,葉緑体チラコイドへのシグナル認識粒子
で遠藤先生がすでにレポートなさっている。
)Bernald Dobberstein
(cpSRP)依存性経路の話をした。既に論文として発表された研
(Heidelberg)は,リボゾームによって SRP レセプターβサブユ
究が中心だったが,目新しいところでは,cpSRP の基質である
ニットの GTPase が制御されること報告した。
LHCP(集光性クロロフィル結合蛋白質)上の cpSRP 結合部位に
葉緑体とミトコンドリアのセッションに関しては,中井先生
ついて融合蛋白質を用いた in vitro の解析を報告していた。cpSRP
に泣きついて書いていただいたものがあるので,安心してそち
を構成するサブユニットのうち,cpSRP5
4(いわゆるシグナル配
らを読んでいただきたい。
列を認識するサブユニットに相当)が,
3番目の疎水性膜貫通領
最後は,ペルオキシソーム。Wolf Kunau(Bochum)は,AAA
域に結合し,cpSRP43のほうはその直前の親水性領域に結合する
family である Pex1p と Pex6p に関して話をした。
Pex1p と Pex6p は, という。また,ある種の葉緑体ゲノムには SRP RNA 様の配列が
それぞれ二つ持つ AAA カセット(D1, D2)のうちあまり保存
残っているが,これが cpSRP を構成するかどうか調べたが否定
されていない AAA カセット(D1)で相互作用し,さらに Pex6p
的な結果しか得られなかったとも話していた。ちなみに,われ
は N 末端で Pex15p の N 末と相互作用していた。Pex1p と Pex6p
われのグループと競争になっていた cpSRP のリセプターである
の 相 互 作 用 に は,Pex1p の D2に あ る nucleotide binding motif
cpFtsY 蛋白質の話題では,日本の中井らのグループでも同様な
(Walker motif B)が必須であった。Henk Tabak(Amsterdam)は,
報告が為されているとの言及があり,内心ホッとした。cpSRP
Peroxisome Targeting Signal 1(PTS1)のレセプターである Pex5p
の研究を展開してきた Neil Hoffman はスタンフォード大を離れ,
の七つある TPR ドメインのうち,TPR2と TPR3が PTS1の認識に
現在は Paradigm Genetics(アメリカ)というところへ移っている。
重要であることを示した。William Snyder は Pex1
9p と Pex1
7p に
ついて話をしていたが,これも最近論文がでたようなので省か
次に,J
rgen Soll(ドイツ)の精力的な発表があった。まず,
葉緑体行きのシグナル配列中のセリン残基がリン酸化を受ける
7
ことを以前見いだし
Klaas J. van Wijk(スウェーデン)
,Alexandra Mant(イギリス)
ていたが,このリン酸
らは,チラコイド膜への膜蛋白質の挿入メカニズムについて報
化部位付近のアミノ
告した。続いて,Ralf Kl
sgen(ドイツ)は,チラコイド膜透過
酸配列が1
4-3-3蛋白
において Tat ホモログが関与するΔ pH 経路を通る前駆体として,
質の認識配列のモ
OEC16蛋白質のシグナル配列と OEC23蛋白質の成熟体部分から
チーフに似ているこ
なるキメラ蛋白質を使うことで,低温において安定な膜透過中
とから,そして,勿論,
間体が形成できることを報告した。アルカリ耐性を示す,成熟
三原先生(九大)らの
体部分がストロマ側にある中間体と内腔側まで輸送された中間
ミトコンドリアへの
体の両方を検出できたという。また,やはりチラコイド内腔に
蛋白質輸送における
Δ pH 経路で輸送される Rieske 鉄硫黄蛋白質の輸送が,葉緑体へ
MSF(ミトコンドリア
取り込まれてからチラコイドへ輸送されるまでの間に,ストロ
前駆体蛋白質輸送促
マでラグが生じることを報告した。彼らは,このラグが鉄硫黄
進因子,14-3-3蛋白
クラスター形成のための時間と考えているようである。ストロ
質ホモログ)の研究か
マでの中間体はシャペロニンホモログ Cpn60と相互作用してい
ら ヒ ン ト を 得 て,14-
るとも話していた。
3-3蛋 白 質 と 葉 緑 体
ミトコンドリア関係では,Nikolaus Pfanner(ドイツ)が,Tom22
蛋白質前駆体との相
はミトコンドリア外膜での前駆体蛋白質の膜透過において
互作用を解析を進めていた。その結果,小麦胚芽抽出液で合成
multifunctional な organizer であるとの発表を行った。この研究結
ストラスブールの大聖堂
した葉緑体蛋白質前駆体は,1
4-3-3蛋白質,Hsp7
0蛋白質,い
01, 485-489, 1999)
果は,ご存じのように既に Nature 誌(Nature 4
ずれの蛋白質に対する抗体でも共沈してくるが,この時,シグ
に発表されているので省略させていただく。彼は,さらに外膜
ナル配列中のリン酸化部位に変異を入れると14-3-3蛋白質に
のリセプター蛋白質のひとつ Tom7
0が複数の前駆体結合サイト
対する抗体では共沈しなくなる。同様の実験を,ミトコンドリ
を有し,同時に複数の前駆体を結合しうること,また Tom70を
ア行きのシグナル配列を持つ蛋白質で行っても,1
4-3-3蛋白質
Trypsin で処理すると,高濃度の Trypsin にも抵抗性を示す2
5kDa
に対する抗体では共沈しないという。一方,ウサギ網状赤血球
のコアドメインが得られることを報告した。Carla Koehler(スイ
抽出物で合成したものではまったく逆で,ミトコンドリア行き
ス),Kostas Tokatlidis(イギリス)は,ミトコンドリア膜間ス
のシグナル配列を持つ蛋白質でのみ,1
4-3-3蛋白質に対する抗
ペースにおける Tim8, 9,10,1
2,1
3,2
2の機能解析について報告
体で共沈が観察されるという。植物細胞内でのミトコンドリア,
した。Trevor Lithgow(オーストラリア)は,Tom2
2のミトコン
葉緑体間での蛋白質の仕分けに1
4-3-3蛋白質が関与している
ドリア外膜局在化には C 末付近の膜貫通ドメインとその直前の
のであろうか。ますます目を離せない蛋白質となってきた。今
配列が必須であると報告した。また,このような tail-anchored
正しく標的膜にターゲットされるために必要とされる
後の解析が待たれる。(尚,この1
4-3-3蛋白質に関する研究は, protein が,
3(20
0
0)に 掲 載 さ れ て い る。ま た,最 近,
Plant Cell 12:53-6
蛋白質因子を検索する目的で,低塩濃度で精製したリボソーム
葉緑体内にも14-3-3蛋白質のホモログが存在するという報告
から,高塩濃度(リボソーム自身は安定)で遊離される蛋白質
2:235が,別のグループから発表されたが(Plant Physiology 12
について調べていた。非常に多くの蛋白質が遊離されてくるが
242(2
000),こちらは随分怪しいデータであった。
)Soll は,ま
メ ジ ャ ー な 蛋 白 質1
0個 の う ち の ひ と つ が NAC(Nascent
た,葉緑体外包膜の膜透過装置の新規なコンポーネントとして
polypeptide assiciated complex)
であったという。
実際,酵母の NAC
Toc6
4を同定していた。興味深いことに Toc6
4は TPR モチーフ
の変異株では,ミトコンドリア外膜に結合しているリボソーム
(tetratrico peptide repeat motif)を有する蛋白質で前述の14-3-3
が1
0分 の1程 度 に
蛋白質と結合するという。in vitro の再構成実験によると,
14-3-
なっており,Tom22の
3蛋白質と Hsp70を結合した葉緑体蛋白質前駆体は,1
4-3-3蛋
局在化シグナルを融
白質を介して Toc64に結合するらしい。
ここで ATP が供給される
合させた GFP も,かな
と前駆体と Hsp70がリリースされ,膜透過の次のステップに移る
りの量が細胞質ゾル
という。この実験結果は,ATP 濃度を低く保つことで形成され
に残って観察される
る初期膜透過中間体が Toc6
4とクロスリンクされることとよく
らしい。ミトコンドリ
対応していると報告していた。ますます,三原らのミトコンド
ア 関 係 で は,最 後 に
リアでの実験結果とよく似ていて面白い。さらに,Soll は,1
99
4
Walter Neupert(ド イ
年に Keegstra らが見いだしていた葉緑体内包膜とチラコイド膜
ツ)が,ミトコンドリ
両方に局在する I3
0と呼ばれる蛋白質に関しても報告した。この
ア外膜の膜透過装置
蛋白質に関するアラビドプシスの変異株,および葉緑体の進化
の構造についての発
的起源と考えられるシアノバクテリアの変異株では,チラコイ
表をおこなったが,昨
ド膜の形成に異常がみられるという。どうやらこの蛋白質は,
年末の分子生物学会
内包膜からチラコイド膜への小胞輸送(脂質を供給するため?)
での彼の発表をご覧
に関与しているらしい。新しいデータを自信たっぷりに話す Soll
になった方も多いの
の姿が印象的であった。
ではなかろうか。ここ
8
ストラスブールの大聖堂の彫刻
では省略させていただく。
者が集まりやすく,また分子シャペロン基礎研究者の多くが集
まる生化学会でこのようなシンポジウムを行うのが最適と考え,
今回のミーティングでは,Tat の系に関する研究が多かったこ
大会組織委員の先生方,及び永田和宏先生を初め分子シャペロ
と,構造に関する報告が多かったこと,そして Colin Robinson が
ンの専門家の先生方との協議の上,本シンポジウムの開催と
オーガナイズしていることもあるが,葉緑体関係の発表が多
なった。尚,徳島大学医学部の六反一仁先生には,オーガナイ
かったこと,この三点が印象に残った。最後の閉会の辞では,
ザーとして,シンポジウム開催に関してご指導,ご協力頂いた。
Colin Robinson が2年後(?)に予定されている次回のミーティ
全体的に本シンポジウムは充分にその目的を達したと私は考
ング開催について,早速動き出すことを述べた。次回のミーティ
えている。最終日の朝9時からのシンポジウムという悪条件に
ングのプログラムが,初日も二日目も,三日目も葉緑体のセッ
も関わらず,多くの方に最初から最後まで熱心に討論に参加し
ションになっているという,準備されていた「おち」の OHP が,
ていただき,大変熱気のあるシンポジウムになった。多くのシ
まじめな顔で話をしている Colin Robinson の後ろで,隠していた
ンポジウムが同時並行的に行われる生化学会では,500人以上入
覆いが偶然にも取れてしまい露わになるという,笑いを誘う一
る部屋が8割方埋まったことは珍しいことである。またシンポ
幕もあった。次回がどんなミーティングになるかと今からわく
ジウム終了後,
多くの先生方から
「面白いシンポジウムであった。
わくしてしまうのは,私だけではないのではなかろうか。楽し
分子シャペロンがこんなに病態に関与しているとは驚いた」な
みである。
どと励ましのお言葉を頂いた。当日ご参加頂いた先生方にこの
場を借りてお礼を申し上げたい。
では以下にシンポジウムの内容について簡単に報告する。簡
日本生化学会シンポジウム
「分子シャペロンと病態」
単にというのは二つの理由がある。一つにはこの分野の駆け出
しの研究者である筆者に先生方の発表を正確に読者の皆様に伝
えることは不可能であるため,もう一つは,本シンポジウムに
興味を持った,Medical Tribune 社が,本シンポジウムの内容を
水島 徹
特集記事として同社の新聞に掲載することが決まっているため
(岡山大学薬学部)
である(新聞が必要な方は水島までおっしゃって頂けたら出来
るだけお送りするように致します)
。
成1
1年度日本生化学会シンポジウム「分子シャペロンと病
私から本シンポジウムの目的等を簡単に説明した後,京都大
平 態」(平成11年10月9日,横浜開催)のオーガナイザーの
学再生医科学研究所の永田和宏先生が発表された(演題,分子
一人として,本シンポジウムの目的(企画立案の経緯)
,及び成
シャペロンの基礎と病態:HSP47を一例として)
。永田先生にオー
果(当日の講演内容)を読者の先生方に報告する。
ガナイザーから分子シャペロンに関する Review をお願いしてい
オーガナイザーのお二人(左,水島;右,六反)
分子シャペ
たところ,簡潔かつ的確に分子シャペロンの基礎と病態との関
ロンは現在最
連性についてお話下さった。特に,分子シャペロンと病態との
も注目されて
関連性では,ストレス時の防御機能に注目しがちだが,非スト
いる研究分野
レス時の Protein Folding の異常による病態(プリオン病,ポリグ
の一つである。
ルタミン病等)にも注目すべきであるというお話は,前者に関
そのため,多く
する演題ばかりを集めてしまったオーガナイザーには耳の痛い
の研究者がこ
話しであった。さらに,HSP4
7に関する研究に関し,発表を続け
の分野に参画
られた。HSP47のノックアウトマウスがコラーゲンの分子構造の
し,多くの成果
異常を示すという結果を示し,HSP47がコラーゲンに対する分子
が生まれてき
シャペロンであると結論づけられた。一方,肝硬変モデルでは,
た。
その中には, HSP47がコラーゲンの蓄積を促進するという結果を示された。こ
病態との関連性を示唆するものも少なくない。そこで我々薬学
れらの結果から,永田先生は,分子シャペロンは病態進行にお
研究者は分子シャペロンが2
1世紀に画期的な新薬のターゲット
になることを期待している。
分子シャペロンと病態との関連性は多岐に渡っている。その
ため分子シャペロンと病態との関連性を研究している研究者
(臨床医も含めて)が一つの学会に集まり討論することはこれま
で頻繁ではなかった。また分子シャペロン研究者の中には病態
との関連性を余り意識せずに基礎研究を行っている方も少なく
ない。そこで,分子シャペロンと病態の関連性に着目している
研究者を招待し,お互いの情報交換の場を提供するだけでなく,
多くの分子シャペロン研究者に病態との関連性を強く意識して
いただくことにより,分子シャペロンの医療への応用研究がよ
りいっそう進むことを期待して,私は分子シャペロンと病態に
関するシンポジウムの開催を模索してきた。多くの分野の研究
メディカルトリビューン紙にも採り上げられた
9
いて,両刃の剣であると提言された。
はないという印象を強く与えた。
分子シャペロンが様々な免疫反応に関わっていることはよく
金沢大学医学部の小川智先生は,虚血性神経細胞死に関する
知られており,分子シャペロンをターゲットとした免疫機能調
研究を,ストレス蛋白 ORP1
5
0は虚血による神経細胞死を抑制す
節薬は新しいタイプの薬になりうると注目されている。札幌医
ると題して発表された。虚血に抵抗性を示すアストログリアか
科大学医学部の佐藤昇志先生は,分子シャペロンと免疫という
ら新規ストレス蛋白質 ORP15
0を単離し,ORP15
0が小胞体局在
演題で発表された。発表の中心は MHC 分子により提示される抗
性の分子シャペロンであり,虚血時に誘導されることを示され
原ペプチドの細胞内輸送に分子シャペロンが関与するという内
た。また ORP1
50の多量発現が神経細胞に低酸素抵抗性を獲得さ
容であった。ヒト胃癌の CD8 T 細胞エピトープとなっている抗
せるという興味深いデータを示された。また小川先生は,体内
原ペプチドを材料に,抗原提示されるされやすいペプチドとさ
で低酸素状態にあるガンと ORP15
0の関連性に関しても言及さ
れにくいペプチドの比較から,分子シャペロンの一つである
れた。
Hsc7
3が抗原ペプチドと小胞体に存在する TAP の両者に結合し,
小川先生の講
抗原ペプチドの小胞体への移行(結果として抗原提示能)を制
演後,永田先生
御しているというデータを発表された。このことは例えば,癌
から総括を頂き,
の免疫ではエスケープ機構の一つを説明するものと考えられた。
分子シャペロン
胃粘膜細胞も分子シャペロンと病態という観点から盛んに研
と病態に関する
究されている材料である。本シンポジウムでは,私と,六反先
研 究 が,分 子
生が胃粘膜細胞に関して発表を行った。私は,胃粘膜細胞にお
シャペロンに関
ける,HSP とアポトーシスというタイトルで発表した。大腸菌
する基礎研究と
での遺伝学的,生化学的研究から,分子シャペロンは DNA 高次
ともに発展して
構造維持に関与しているというモデルを提唱した。さらに,こ
いくことが重要
のモデルを胃粘膜細胞に応用し,胃粘膜細胞に対する様々なス
であるというこ
トレス(エタノール,活性酸素,酸,ピロリ菌,抗炎症剤)は
とを再認識し,本シンポジウムは閉会となった。
小川博士(金沢大・医)の講演
胃粘膜細胞にアポトーシスを誘導する,及びあらかじめ細胞に
最後に私のような若輩者,分子シャペロンの素人が本シンポ
HSP を誘導することにより,
このアポトーシスを抑制することが
ジウムを執り行うことになったことを,読者の皆様にお詫びす
出来るという仮説を提唱し,それを支持するデータを紹介した。
るとともに,分子シャペロンの専門家の先生方に少しでも病態
そして胃粘膜保護薬である Geranylgeranylacetone(GGA, 一般名
との関連性に注目していただくことをお願いしたい。また,
「こ
テプレノン,商品名セルベックス)
(六反先生により HSP 誘導能
のような分子シャペロンと病態との関連もある」あるいは,
「自
があることが報告されている)が,種々のストレスによるアポ
分はこのような観点からこの問題に取り組んでいる」などの情
トーシスを抑制するという結果から,分子シャペロン誘導剤が
報をお持ちの方は,私にお教えいただくこともお願いしたい。
胃粘膜保護薬として有望であるという六反先生と同じ結論を導
いた。
水島 徹
徳島大学医学部の六反一仁先生は,胃のストレス反応と HSP:
〒7
00−8
53
0 岡山県岡山市津島中1−1−1
シャペロン誘導剤の臨床応用と題して講演された。六反先生は
電話& FAX 0
86−25
1−7
958
ストレスが胃潰瘍を導くことを阪神淡路大震災の例を使って示
E-mail:mizushima@pheasant. pharm. okayama-u. ac. jp
しながら,講演を始められた。水浸拘束ストレスモデル
注)
を用
いて,急性ストレス時には,生体のストレス反応と連動して HSP
が胃粘膜に誘導され,急性胃粘膜傷害を抑制する重要な反応で
注)水浸拘束ストレスモデル:ストレスの動物実験モデルで,マウス,ラットを金網にいれて動けない
ようにしたあと,水につけて溺れる寸前にする。これでマウス,ラットはストレスを感じ,胃潰瘍
等を起こす。
あること,及びこの誘導がエピネフリンのα1A 受容体を介する
作用であることを示された。さらに,同氏がはじめて見いだし
たシャペロン誘導剤,GGA は転写因子の活性化を介して HSP を
誘導すること,最後に,より強力で有望な non-toxic な HSP 誘導
剤を発見したことを報告された。
日本分子生物学会年会
シンポジウム
「分子シャペロンによ
る細胞機能制御」
虚血再灌流障害を軽減する分子シャペロンの機能も最近注目
を集めている。虚血再灌流障害を軽減する分子シャペロンの機
能も最近注目を集めている。京都大学医学部の山本雄造先生は,
南 康文
(大分医科大学)
ストレス応答誘発による肝の虚血耐性獲得という演題で発表さ
れた。最初に,肝臓手術,肝臓移植時に虚血再灌流障害が起こ
会初日の12月7日の午後4時から7時(実際には盛んな討
ることを素人にもわかりやすく説明された。そして,Heat-shock
学 論のため7時半過ぎまで延びた)に開催された上記シンポ
によりあらかじめ肝臓で HSP を誘導しておくと,虚血再灌流障
ジウムに参加したので,その内容について報告したい。実を言
害が顕著に抑制されることを示した。さらに,GGA 処理により
えば,
「したい」訳ではなく,拠ん所ない理由から「せざるを得
HSP 誘導能を高めてやると,
短時間の Heat-shock 前処置でも虚血
なく」なったのだが。本シンポジウムは森正敬さん(熊本大)
再灌流障害が抑制できるようになることを示した。臨床の医師
と永田和宏さん(京都大)がオーガナイズされ,招待講演の Hartl
からのこのような発表は分子シャペロンの臨床応用が夢物語で
さん(Max-Planck-Inst.)
に続き,
4人の方々が講演した。シーホー
10
クホテルの会
という小胞体と ERGIC の間をリサイクルするマンノース結合レ
議室二つ分(一
クチンが関与している可能性について検討した結果を発表した。
つ分もかなり
α1− ア ン チ ト リ プ シ ン を モ デ ル 基 質 に し た 実 験 の 結 果,
広いのだが)を
ERGIC5
3は小胞体でのフォールディングには関わっておらず,
使ったとても
基質との直接の結合も認められなかったが,基質のゴルジ体へ
広 い 会 場 で
の移行速度には確かに影響するという。従って,ERGIC53はこ
あったが,開始
れまで言われているようなカーゴリセプターではなく,他の機
前から殆どの
構により分泌タンパク質の輸送に関わっていることが示唆され
席が埋まる盛
た。
況ぶりであっ
オーガナイザーのお二人(左,森;右,永田)
た。
まず,森さんの紹介に続いて Hartl さんの講演があった。基調
小出さん(京都大)の発表は,基質認識メカニズムとノック
アウトマウスの解析という二つのアプローチで Hsp4
7のシャペ
ロン機能の解明に迫るものであった。前者については既に論文
74, 34523-34526, (1999))になっているので詳
講演ということで他の演者の倍の1時間が割り当てられていた。 (J. Biol. Chem. 2
ところが,最初のイントロと思って聞いていた部分がかなり長
細は省くが,コラーゲンのモデルペプチドを使い,Hsp47が(Pro-
く,30分を過ぎても何だか古いスライドが次々と続き,これは
Pro-Gly)という繰り返し配列が8個以上の場合にそれを認識し
もしかして単なるレクチャーに終わるのではないかと危惧する
結合するが,
X-Y-Gly の Y 位がプロリル4−ハイドロキシレース
ほどであった。尤も,基調講演ということで敢えてそのように
により水酸化されると親和性がなくなることを示し,Hsp47のコ
したのかもしれないが。さて,かなりの時間を割いたイントロ
ラーゲン結合能が水酸化により制御されている可能性を述べた。
7, 755-765, 1999;Nature 402, 147-154,
の後,最近の論文(Cell 9
Hsp4
7のノックアウトマウスは胎生致死であったという。コラー
1
999)にも触れながら全体として演題の「Protein folding in the
ゲンがきちんとプロセスされずに細胞外に放出され,そのため
cell:the role of molecular chaperones」について話した。専ら大腸
基底膜の構造が壊れており,血管内皮からの血液の漏出などの
菌の分子シャペロンに関する話であった。
従来のモデル,
つまり, 障害が見られた。このことから,Hsp4
7はコラーゲンが正しい構
新生ポリペプチド鎖のフォールディングにおいては,まず DnaK
造を取るまで小胞体内に止めておく,正しくコラーゲン特異的
/ DnaJ / GrpE が働き,(必要に応じて)その後 GroEL / GroES が
分子シャペロンであることが証明された訳である。
フォールディングを手助けするという基本は変わらないが,更
最後は森さん(京都大)の哺乳類 Unfolded Protein Response に
に trigger factor が DnaK とオーバーラップするように機能してい
ついての発表であった。転写誘導に必要なシス配列を決めた後,
るというモデルを提出していた(ニュースレター5号の龍田さ
酵母 one-hybrid 法を利用した検索により,ベーシックロイシン
んと友安さんの記事にあるように Bukau も同様のモデルを提出
ジッパー因子 ATF6を同定した。シス配列には CCAAT 配列があ
している)
。また,GroEL の in vivo での基質を同定する目的で,
り,そこにはもう一つの転写因子 NF-Y が結合し,しかも ATF6
抗体で GroEL と共沈してくるタンパク質を二次元電気泳動上に
の結合にはその結合が不可欠であるという。実はこの点は非常
展開し,それぞれのスポットを解析した結果,二つ以上のαβ
に重要であり,シス配列を用いたゲルシフトアッセイでは転写
ドメイン(α- ヘリックスと分子内に埋もれたβ- シートから成
因子は見つからなかったであろうし,更には,one-hybrid 法で見
る構造)を持つという共通の特徴があり,そのうちのβ- シート
つかったことも,酵母にも NF-Y があり,しかもそれが哺乳類の
のフォールディングが GroEL を必要としている可能性を述べた。 シス配列に結合できたという幸運が重なったのだそうだ。森さ
続く寺田さん(熊本大)は,哺乳類のサイトゾルにある三つ
んは講演最後にこれらの点に言及し,
万雷の拍手を浴びた。Hartl
の DnaJ ホモログ(それぞれを dj1∼3と呼ぶ)の機能的異同につ
さん以外の日本人の講演では森さんの時だけ拍手があったのは
いての検討結果を発表した。dj2と dj3は構造的に似ており共に
面白かったと,後日,矢原さん(都臨床研)が言っていたが,
ファルネシル化され,ミトコンドリアへのタンパク質輸送や化
確かに自然発生的に沸き起こったものであった。さて本題に
学変性させたルシフェラーゼのリフォールディングにおいて
戻って,最も興味深かったのは ATF6が分子量9
0kDa のタイプⅡ
Hsc7
0と共に働く。一方,dj1
の小胞体膜結合タンパク質であり,小胞体ストレスを感知する
にはそれらの機能はないが,
と(この点は今後,解明すべき課題ということであった),細胞
熱ショックにより細胞質か
質側でプロセスされて6
0kDa の可溶性タンパク質となって核に
ら核へと移行する点で前二
移行するという機構である。酵母の転写誘導機構とは全く異な
者と異なるという。また,3
り,更なる展開がとても楽しみだという印象を受けた。
種類の DnaJ ホモログの総量
は Hsc7
0の量に見合うもので
あるという報告は非常に興
味深く,かつ重要であると思
われた。
和田さん(札幌医大)は,
フォールディングした分泌
タンパク質が小胞体から送
Hartl 博士(マックスプランク研究所)の講演
り出される機構に,ERGIC5
3
11
成し細胞で発現し,熱ショック時の HSF1の動きを real time で調
平成1
1年度班会議に参加して
Part1
べたところ,熱ショック後に核内数カ所に HSF1が集まりドット
状に蛍光を発することを見いだした(HSF1 stress granules)。こ
の顆粒は Hsp90や Hsp70等が転写されている場所とは異なるそ
うであり,HSF1
3量体は核内でこの顆粒と転写活性場所とをシャ
河野 憲二
トルしている可能性があることを示唆するデータを示した。次
(奈良先端科学技術大学院大学・遺伝子教育研究センター)
に Bag1の話をした。蛋白質の folding や変成蛋白質の refolding に
は Hsp90 / Hsp7
0 / Hsp40のシャペロン系が重要な働きをしてい
成1
1年 度
るが,
Hsp7
0の機能調節をしているものとして Hip のほかに Bag1
平 の特定領
があることを見いだした。Bag1は抗アポトシス作用をもつもの
域 研 究「分 子
として報告されているが,Hsp70の ATPase domain に結合しその
シャペロンによ
機能を抑制する働きがある。Bag1はその他にも細胞内の情報伝
る細胞機能制
達系に様々な影響を及ぼしている。最後に,遺伝病との関連で
御」の班会議が,
ポリグルタミンの細胞に及ぼす影響について,
GFP を利用した新
1
2月1
6, 1
7日 の
しいアプローチについて話した。種々の鎖長をもつポリグルタ
両日,京大永田
ミンと GFP とのキメラ蛋白質を線虫や培養細胞に発現させ細胞
領域代表のお世
内でどういうことが起きるかを蛍光顕微鏡により観察した。8
2
話で京都ガーデ
個のグルタミンをもつキメラ蛋白質は線虫でも培養細胞でも細
ンパレスで開催
班員の報告(河野)
胞内に凝集塊を作ることが観察された。面白いことに基本転写
された。班会議の前に遠藤さんからメールが来たので,ちょっ
因子の TBP(TATA binding protein)もポリグルタミン残基をも
といやな予感がしながらメールを開くと,予想通り「班会議の
つ蛋白質で,細胞質での局在の一部が Q82-CFP と一致した。こ
報告を阪大の中井さんと2人でやって欲しい」というもので
のことから,細胞内にポリグルタミンの凝集ができると他の蛋
あった(どうしてこういう時は予想がよくあたるのだろう)
。も
白質のフォールディングにも影響を与えること,仮に TBP のよ
ちろん喜んで(?)引き受けた次第で,Part1として16日分を私
うな蛋白質もまきこんで凝集塊をつくったりすると,細胞の転
が,Part2として1
7日分を中井さんが報告することになった。今
写レベルにも大きな影響を与える可能性があるのではないか,
回は全員(40人)について簡単に触れることにしたのだけれど, というような話であった。調べなくてはならないことがまだ
とても範囲が広く我々2人ではカバーしきれないので,まち
多々ある段階だが,転写レベルでの分子生物学的な仕事をして
がっている所や不十分なところがあると思うけれど何卒お許し
きた Morimoto が,今回は線虫等を用いた細胞生物学のアプロー
を。
チをとっており,やはり個体レベルでのストレス応答に,それ
も遺伝病をターゲットに入れて進めていこうとする姿勢が強く
1
2月1
6日 Part 1
感じられた。彼の講演を聴くといつも思うのであるが,話が非
まず,永田代表の挨拶があったあと,初日のトップは,京大
常に簡潔に要領よくまとめられており,presen-tation がうまいの
再生研の外部評価委員として来日していた R. Morimoto(以下敬
に感心させられる。一度我々のところでセミナーをしてもらっ
称 略)が,帰 米 直 前 の 時 間 を さ い て「The stress of misfolded
たことがあるが,セミナー終了後の雑談の時に,部屋の学生達
proteins」というタイトルで特別講演をした。日本語で簡単な挨
に研究自体はもちろん大事であるが,研究成果の presentation が
拶をしたのち,HSF1が熱ショックにより活性化されそののち不
いかに大切であるかということ,自分も大学院時代にポスター
活性化される HSF サイクルの話をした。この HSF1の熱ショック
発表するときには,ものすごく練習していったという話をして
後の attenuation 過程で,HSF1の疎水領域に結合活性をもつアミ
いってくれたことがある。
ノ酸7
0残基程度の HSBP1(heat shock factor binding protein 1)と
そのあと実際の班会議の発表に移った。和田(京大ウィルス
名付けた蛋白質が,HSF1の負の調節を担っていることを示した。 研)は,
大腸菌のミニ F プラスミドの複製開始蛋白質である RepE
この蛋白質は分裂酵母から動物まで保存されているそうで(出
の結晶構造を,モノマーとして安定な点突然変異体を利用する
芽酵母にはないそうであるが),線虫でこの遺伝子を過剰発現さ
(野生型モノマーは凝集しやすい)ことにより決定した。その3
せると個体レ
次構造解析結果から,C 末側が DNA との相互作用に重要である
ベルでも熱や
ことを示した。養王田(東京農工大)は,超高熱性古細菌のシャ
化学ストレス
ペロニンαとβを大腸菌で作らせそのシャペロン機能について
に対し高感受
解析した。変性蛋白質を refold させる活性は,βのホモオリゴ
性を示すよう
マーでは認められたがαでは非常に弱いことがわかった。細胞
になり生存率
を9
0から95の高温で培養するとβ遺伝子の発現が上昇するこ
が落ちること
とは,βが細胞内で熱ショックによる蛋白変性の refolding に関
を示した。また
わっていることを想像させる。αは8
0∼85位でよく発現して
細胞レベルで
いるそうであるが,そうすると細胞内のシャペロニンのαとβ
の話であるが,
の構成比は温度に依存して変化することになる。このことは,
HSF1-GFP を 作
細胞内でαとβのヘテロオリゴマーの成分比によりシャペロニ
冒頭,Rick Morimoto 博士の特別講演
12
ン活性が制御されていることを意味しているのだろうか。そも
薬
そもこのような高温で生活する超高熱細菌が hsp70遺伝子を
Hsp1
0
5のα,β
もっていないというのは不思議である。hsp7
0を必要としないの
亜 系 は alterna-
は,この温度では hsp7
0があまり有効に機能しないのか,それと
tive splicing に
ももっと有効な他のシステムがあるということなのだろうか。
より生じること,
科
大)は
吉田(東工大)は,酵母プリオン様因子を用い繊維伸長に方
さらにリン酸化
向性が観られるかどうかを,赤と緑の蛍光基質で標識した Sup3
5
を受けることな
を利用し可視的に調べたところ,一方向性に伸びるという結論
どを報告した。
を得た。また,変性蛋白質を DnaK / J-ClpB で処理すると蛋白質
橋本(統計数
生理活性の回復が認められるが,さらにシャペロニンを加える
理研,長谷川代
と活性がほぼ完璧に回復することを示し,細胞内でのシャペロ
理)は,生物間
ンネットワークの働きが蛋白質の生理活性維持に重要であるこ
でよく保存されている蛋白合成関連因子やシャペロン関連分子
とを報告した。吉川(東京農大)はシアノバクテリアにある3
種の遺伝子系統樹を作製することにより,生物の多様化と進化
懇親会にて(左,矢原;右,佐藤)
種の DnaK に関し DnaK2, 3が細胞の増殖に関し必須であること, の過程についての解析結果を述べた。我々の教科書的知識では
DnaK2は細胞質にある Hsp7
0に相当し,DnaK3はチラコイドに存
生物界は,原核生物,真核生物,また真核生物へ移行する前に
在すること,さらに複数存在する DnaJ ホモログとのパートナー
分かれた古細菌(始原菌)に分類されると思っていたが,この
関係についての報告をした。山本(杏林大)は,H. pylori の表層
辺の事情は急速にかわっているようである。ミトコンドリアを
に存在する Hsp6
0に関して抗体でその機能を抑えると細胞への
もたない原生動物(アーケゾア)が CPN6
0の遺伝子配列の比較
接着が阻害されることを報告した。
GroEL がどういう仕組みで表
からミトコンドリアを失ったものであるという解釈に代わって
層に運ばれ,どういう機構で表層にトラップされているのか,
きているのは,やはりゲノム配列のデータの蓄積から導かれる
また接着に関しどのような機能をになっているのかは謎である。 のだろう。彼らが行った valyl-tRNA synthetase 遺伝子の解析結果
山本(金沢大)は,免疫抑制剤 FK50
6による I κ B αの分解
もその考えを支持するそうである。
(あとになって気がついたの
に関しリン酸化との関わりについて報告した。加藤(愛知コロ
であるが,この辺のことは Chaperone News Letter #5に詳しく書
ニー研)はリン酸化によりα B クリスタリンの細胞内局在や複合
かれている)
。
体形成能が異なること,Ser59部位がリン酸化を受けたクリスタ
根本(長崎大)は,Hsp9
0のダイマー形成には,B と C ドメイ
リンは,M 期に中心体や分裂溝に局在することを示した。三原
ンが相互作用が重要であることを示した。中井(阪大)は,シ
(九大)は,アポトシスに伴うミトコンドリアからのシトクロム
アノバクテリアの鉄硫黄クラスター形成に関与する nifU ホモロ
c の放出がどのような機構により起こるのかを検討した。まず in
グ(窒素固定細菌のニトロゲナーゼの生合成に関わる nif 遺伝子
vitro の系を構築し,シトクロム c の放出には細胞質,ATP, スタ
群の一つ)の機能解析について報告した。徳田(東大)は大腸
ウロスポリンが必要であることを明らかにした。さらにこの放
菌膜透過に関与する膜蛋白質 SecG と他の膜透過装置を構成する
出はラクタシスチンによりブロックされることからこの反応に
蛋白質との相互作用を検討した。彼らは膜透過の際に SecG が反
プロテアソームが関与している可能性を示した。南(大分医大)
転することを見いだしているが,反転した SecG も膜透過装置に
は hsp9
0と協調して働く PA2
8の機能について,
熱変性させたルシ
組み込まれていること,また反転すると他の因子との相互関係
フェラーゼや DHFR の refolding 系,FITC-casein との結合活性系
が大きく変化することを報告した。また外膜リポ蛋白質の局在
などを用いて得た結果について報告した。本間(東大)は,セ
化に関与するシャペロン LolA の機能についても遺伝学を駆使し
ンチニクバエの抗菌ペプチドを改良して得られた L5が,好中球
たきれいな解析結果を報告した。
を活性化する機構について報告した。好中球の細胞表層には
calreticurin(CR)が存在しておりそれが L5のレセプターになっ
以上1
6日は,午後9時頃まで熱心な発表と討論がなされた。
1
7日は Part2で。
ている。この CR を通して活性酸素放出のシグナルが伝わるので
はないかという話であった。U93
7細胞を抗 CR 抗体で処理すると
活性酸素が産生するそうである。CR はどのように膜に結合して
いるのだろうか?
船津(早大)は,GroEL を固定しこれへの標識 GroES 1分子
平成1
1年度班会議に参加して
Part 2
の結合解離を蛍光顕微鏡を用いて解析した。この結果 GroES は
結合後すぐに解離するわけではなく,秒オーダーの2段階反応
中井 正人
を起こしていることがわかった。さらに上記の系で酸変成させ
(大阪大学蛋白質研究所)
た GFP を基質とすることで,GFP 1分子が GroEL / ES 1分子内
でフォールディングする様子を観察した。9秒間で約3割の
日の発表については河野先生が紹介してくださっている
GroEL で蛍光が観察され蛋白質1分子のフォールディングをリ
1
6ので,私は17日の発表に関して以下に簡単に紹介したい。
アルタイムで観察できることを示した。藤田(京大)は,Hsp1
10
今回は班会議のリポートの依頼を受けていたので,いつになく
ファミリーに属し精巣に高発現している APG1, APG2の機能
気合いを入れて聴いた(はずであった)が,頼りないメモを元
を明らかにする目的で,ノックアウトマウスを作製した。今の
に振り返ってみると理解不足を嘆くばかりである。十分に紹介
ところ大きな影響はみられないということである。畑山(京都
できていない発表も多々あるかと思うがお許し願いたい。
13
1
2月1
7日 Part 2
班員の報告(中井)
suppressor として単離されたとのことである。菊池(代理:清水,
鈴木(以下敬
名大)は,出芽酵母の生育に必須な Nap1結合蛋白質 NBP1が
称 略,横 浜 市
spindle pole body に局在し,その温度感受性変異が非許容温度に
大)は,筋特異
おいて微小管の正常な伸長を阻害することを報告した。河田
(鳥
的に発現する
取大)は,シャペロニンの構成蛋白質である GroES 自身の変性
低 分 子 量 熱
過程に関して,サブユニット間の界面にトリプトファン残基を
ショック蛋白
導入することで,グアニジン塩酸の濃度を高くしていくとまず
質,MKBP につ
モノマーになり,それから変性が進むことを示した。グアニジ
いてその機能
ン塩酸16
. M 程度ではまだβ構造がかなり残っており,その状態
ドメインの解
で蛋白質濃度を濃くして数十時間放置するとアミロイド繊維状
析などを報告
の凝集体が形成されるという。
した。佐藤(理研)は,出芽酵母の小胞体膜蛋白質の局在化に
加藤(山口大)は,S-S を形成されないよう,かつ糖鎖が付加
働く Rer1蛋白質が ER とゴルジ体の間を移動する様子を,GFP
されるように改変した不安定型 lysozyme を,野生型およびカル
との融合蛋白質を用いたエレガントな解析で示した。後藤(阪
ネキシン欠損の出芽酵母で発現させ,小胞体における品質管理
大)は,蛍光発色団などの化学修飾を施した GroE や基質蛋白質
機構の解析を行った。このような不安定型 lysozyme を発現させ
を用いた一分子解析等,相互作用の解析結果について報告した。
ると unfolded protein response が出るが,
カルネキシン欠損株では
ダイマーを形成するベータラクトグロブリンの遊離の− SH 基
多量の分泌が起こるのに対し,カルネキシンが存在していると
を化学修飾すると,モノマーとなると同時に GroE と相互作用し
分解系へと優先的に導かれることを報告した。甲斐(熊本大)
やすくなるという。河野(奈良先端大)は,小胞体ストレス応
は,分子中央部分の膜貫通領域を持たないカルネキシンのスプ
答に関与するヒトの IRE αと IRE βについて,培養細胞の転写
ライシングアイソフォームを,嚢胞性繊維症の治療に利用する
誘導系を用いた解析を報告した。IRE αの過剰発現は小胞体スト
可能性を示した。これらの患者の細胞ではクロライドチャネル
レス応答を引き起こすが,IRE βの過剰発現は細胞にとってダ
構成蛋白質が細胞膜表層に輸送されずに分解されることが知ら
メージが大きく,細胞は核の分断などアポトーシスへと向かう
れている。カルネキシンのアイソフォームを患者由来の細胞内
という。IRE αと IRE βは,小胞体ストレス応答において異な
で発現させたところ,クロライドチャネルが細胞膜表層に形成
る役割を演じているらしい。桑島(東大)は,適定型熱量計を
されたことが確認できたいう。小椋(熊本大)は,AAA ファミ
用いた解析により,ヌクレオチド結合時における GroEL リング
リーに属する蛋白質に存在する,Walker 型モチーフ以外に見い
内の正の協同性は観察されないことを示した。また,GroEL 上
だされている AAA ファミリーに特異的な相同領域,SRH(second
には,結合解離定数が1
0倍程異なる弱いヌクレオチド結合部位
region of homology の略)について報告した。SRH は,ホモオリ
と強い結合部位が存在することを報告した。
ゴメリックなリング構造をとる AAA 蛋白質において,隣接する
久野(神大)は,カルシニューリン欠損を多コピーで相補す
る遺伝子として見いだされた分裂酵母の Pek1蛋白質が,リン酸
サブユニットの ATPase ドメインに近接するらしい。遠藤(代
理:西川,名大)は,出芽酵母の小胞体での品質管理および,
化型,非リン酸化型で,MAP kinase カスケードに位置する Pmk1
接合時の核膜(内膜)の融合に関与する DnaJ ホモログ,Jem1蛋
蛋白質の働きを促進したり,抑制したりする分子スイッチとし
白質と相互作用する新規な蛋白質の two-hybrid system を用いた
て機能していることを示した。木村(臨床研)は,kinase に特異
8と命名されたこの蛋白
同定を報告した。興味深いことに NEP9
的なシャペロンである Cdc3
7の機能を v-Src(tyrosine-kinase)を
質は,外膜,内膜,両方の核膜に存在し核分裂にも必要である
酵母細胞内で発現させることで解析した。また,様々な長さの
とのことである。伊藤英(秋田大)は,ブタ肝臓のサイトゾル
ポリグルタミンの配列をやはり酵母細胞内で発現させると凝集
には,ミトコンドリアに局在する hsp60が前駆体として多量に蓄
体を形成すること,また凝集体を形成すると細胞の増殖が遅く
積しており,それがミトコンドリア局在化能を保持しているこ
なることを報告した。木野内(自治医大)は,蛋白質内のアス
とを報告した。
パラギン酸残基のラセミ化を行う酵素の精製について報告した。
伊藤維昭(代理:森,京大)は,大腸菌細胞質膜における蛋
加齢に伴うこのようなラセミ化は,高次構造の変化から凝集を
白質膜透過装置に関して,secY 遺伝子上の単一の変異に対する
引き起こすことがあり,実際,白内障の患者のαクリスタリン
SecA 上のサプレッサー変異の中に見いだされた superactive SecA
では最大1
0%のアスパラギン酸残基のラセミ化が起こっている
についての解析を報告した。この superactive SecA は,最初のサ
という。木戸(徳島大)は,2
0S プロテアソームに存在するシャ
プレッサーの単離に用いた secY 変異だけでなく,他のさまざま
ペロンタイプの NDP-kinase 活性および,その活性を担うサブユ
な secY 変異も抑制することができるという。市川(代理:田中,
ニットの同定について報告した。吉川(神大)は,蛋白質リン
京大)は,典型的なシグナル配列を持たないにもかかわらず,
酸化酵素 PKB に Hsp27がストレス依存的に結合することを示し
小胞体内腔へと輸送される哺乳類のヒスチジン脱炭酸酵素が,C
た。
末1
0kDa 部分に小胞体への移行シグナルを有することを報告し
菊池(東大)は,出芽酵母のユビキチンライゲースである Tom1
た。この領域には疎水性領域はないが,in vitro において,ヒス
の温度感受性変異の extragenic suppressor について報告した。その
チジン脱炭酸酵素は,post-translational に,Hsp70依存的に小胞体
ひとつ Zuo1蛋白質は J-domain を有する DnaJ ホモログ蛋白質で
へと移行することが示された。石川(東大)は,アブラムシに
ある。興味深いことに Zuo1のパートナーとして働くと考えられ
共生する細菌 Buchnera の GroEL ホモログ,シンビオニンの自己
ている hsp70ファミリーの Ssb1, Ssb2蛋白質のほうも,multi-copy
リン酸基(ヒスチジン残基が自己触媒的にリン酸化される)の
14
転移を受ける蛋
にもアクセス願
白 質 と し て
い た い。以 下,
HistonH1ホモロ
各発表を順を
グが得られたこ
追って報告する。
とを報 告 し た。
樋口(信州大
興味深いことに, 加齢研,以下敬
懇親会にて(左,大石;右,永田)
最近明らかにさ
称略)はアミロ
れ た Buchnera
イド蛋白質と病
の全ゲノム中に
態について報告
は,この Histon
した。イントロ
H1ホモログを
としてやや混乱
樋口博士(信州大・加齢研)の講演
コードする遺伝子は存在していないとの事である。有坂(東工
しているアミロイド蛋白質の知識の現状を整理した。すなわち
大)は,T4ファージの尾繊維形成に関与する分子シャペロン
アミロイド線維に共通な性質として,
5項目(電顕像,コンゴー
gp57A などについて報告した。gp5
7A は,
7
9アミノ酸残基のポリ
レッド,β- シート構造,Nucleation dependent polymerization, チ
ペプチド鎖が4本集まった9
0%以上がαヘリックスという細長
オフラビン T)を確認。アミロイド線維沈着による細胞障害機序
い構造を持つ。山根(筑波大)は,枯草菌では Sec 系と SRP 系
として,
(1)アミロイド線維の構造自体が毒性をもつ,
(2)本
の共同作業で蛋白質が分泌されていくというモデルを示した。
来生理的機能をもつ蛋白質がアミロイド線維あるいは
ゲノム解析が終了した枯草菌のゲノム情報と,分泌される蛋白
aggregation を形成することによって機能を失う,
(3)細胞間隙に
質の二次元ゲル電気泳動を用いたプロテオーム的解析により,
蓄積する,
(4)Protein modi-fication をあげた。
secA 変異株では90%以上,SRP を構成する ffh の変異株では8
0%
以上の分泌蛋白質が分泌されなくなるという。
マウスのアミロイド蛋白質である ApoAII(7
7残基)は HDL の
ひとつで,5番目の Pro が Glu に変化した C 型 ApoAII をもった
以上,駆け足で班会議を振り返ったが,こうしてみると分子
マウスではアミロイドが蓄積しやすく,B 型 ApoAII ではほとん
シャペロンのもと,実に多岐にわたる研究が盛り沢山に集まっ
ど発症しない。アミロイド線維の形成機序として Nucleation
ていると思う。合同シンポジウム全体を通じて,私が最も感じ
dependent polymerization モデルがある。マウス ApoAII でも,最
たことは,アミロイド形成の話に代表されるように,基礎的な
初に核を形成して恐らく fibril の小さいものができ,次の蛋白質
蛋白質のフォールディング・アセンブリーそして分解の話が人
の構造変化を引き起こして fibril の伸長が起きる可能性がある。
様の病態の話にまで繋がってひとつの場で議論されるという,
そこで,アミロイド fibril が外から入ると感染が成立するのでは
これからの研究を象徴するような会議であったということであ
ないかという考えに基づいて実験を行った。まず in vitro で,
る。基礎研究の分野に身を置いている筆者にとって,様々な研
ApoAII amyloid fibril を sonicate することによって線維の末端を
究手法や思考方法など勉強することができたのと同時に,これ
活性化して伸長反応を起こり易くし,これを核としてモノマー
からの研究の方向性についても色々と考えさせられるよい機会
の ApoAII と3
7でインキュベートするとアミロイドの伸長が起
となった。今後も何らかの形でこのような会議が毎年開催され
こった。次にマウス肝から ApoAII amyloid fibril を調製し,別の
ることを願うものである。最後に,本会議を運営された永田先
マウスに接種すると,やはりアミロイドーシスの誘導がみられ
生はじめスタッフの皆さんに感謝致します。
た。アミロイド fibril をマウスの胃の中に投与しても,
数カ月後,
舌・腸などの粘膜下にアミロイドの沈着が認められた。
それでは,
マウスからマウスへの感染も起こるのだろうか。驚くべきこと
臨床ストレス蛋白質研究会・特定領域研究
合同班会議共催公開シンポジウム
「ストレス蛋白質と病態」
に,アミロイドの溜まった老齢のマウスと若いマウスを同じ
ケージ内で飼育しておくとやはり感染が成立した。感染のメカ
ニズムは不明だが,糞中にアミロイド線維が確認されたので排
泄物を介して起こっているのかもしれない。
続いて臨床的意義を考えるため,ドミノ肝移植の例を示した。
稲熊 裕
(愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所)
海外では移植後も改善しない患者がいることが報告されている。
特に心臓にアミロイド沈着がある場合には,むしろアミロイド
沈着が増大して心肥大で亡くなる。信州大でも,心筋アミロイ
9
99年12月18日京都・平安会館にて「ストレス蛋白質と病
1 態」と題して臨床ストレス蛋白質研究会・特定領域研究合
ドの Leu3
0に変異がある患者で術後数年で心肥大が起こり死亡
同班会議共催の公開シンポジウムが催され,基礎と臨床の研究
ミロイドを二次元で精製し構造を決めたところ,
術前には variant
者が一同に会し討議が行われた。プログラムは第1部(5題)
が6
0%,normal が40%であったが,術後はすべて normal に変わっ
が「ストレス蛋白質と病態」
,第2部(5題)が「小胞体分子
ていた。Variant のアミロイド線維核があるところに normal がき
シャペロンと品質管理機構」として行われた。また,午後のセッ
て構造変化を起こし,線維が伸長したことが考えられた。した
ションに先立って,由良 隆先生(Hsp 研)から Cell Stress Society
がって,既に心筋などにアミロイドが蓄積している場合,移植
International(国際細胞ストレス学会)とその学会誌 Cell Stress
する価値があるかどうか再度考え直す必要があると提起した。
and Chaperones の紹介が行われた。是非この学会のホームページ
講演は臨床的でアミロイドの伝搬様式など興味の尽きない講演
した患者があり,この症例のアミロイド沈着を調べた。心筋ア
15
であった。
ン化されてプロテアソームによってペプチドとなり,TAP を
大石(北里大理学部)は甲状腺機能不全症ラットにおける持
通って ER に入る。このプロセスにおいてペプチドにシャペロン
続的小胞体ストレスについて報告した。
「rdw ラット」は当初,
が結合することが考えられる。そこで Hsc7
3の関与について詳細
下垂体性侏儒症の疾患モデルとされたが,実は原発性の甲状腺
に調べ,抗原ペプチドはサイトゾルで Hsc7
3と結合し,次いで
機能低下症であり侏儒症は二次的であることがわかってきた。
Hsc73が TAP と相互作用することが ER への feeding に重要である
そこで甲状腺機能に焦点を絞り,チオグロブリンの性状を超遠
ことを示した。したがって Hsc73等のシャペロンとの相互作用が
心法等で検討したところ,正常チオグロブリンは dimer を形成す
うまくいかず,ペプチドが細胞表面に提示され難いと癌の免疫
るのに対し,rdw ではアモルファスな分子となることが分かった。 治療に使えない可能性がある。言い換えれば,Hsc7
3に結合しや
rdw チオグロブリンのペプチドマップを行ったところ,正常チオ
すいペプチドをデザインすることが重要なわけであり,今後,
グロブリンとの間に違いが認められたが,最近,rdw のチオグロ
腫瘍のエスケープ機構の解明のためにもシャペロンと相互作用
ブリン遺伝子には点突然変異があることが報告された。さらに
するペプチド間の競合性のルールを明らかにする必要性がある
rdw の甲状腺ではいくつかの蛋白質の発現が増加しており,それ
との考えを述べた。
らのうち Hsp70を除く8種は全て小胞体内の分子シャペロンで
姫野(徳島大医学部)は原虫感染症を宿主側の防御と病原体
あり,特に BiP と GRP9
4が大量に蓄積していた。rdw ではチオ
側のエスケープ機構の両面から追っていくことによってワクチ
グロブリンの異常のため甲状腺濾胞細胞の小胞体内に分子シャ
ンの開発などに活用しようと考えている。その足がかりとして
ペロンが蓄積したものと考えられた。下垂体に甲状腺ホルモン
各種シャペロンの発現パターンを追跡している。細胞内に寄生
がいかないために成長ホルモン,プロラクチンの低下がおこり,
する原虫には三種類のエスケープパターンがある。トキソプラ
侏儒症になるのであろう。
ズマは妊婦が感染すると子どもに先天異常を起こすことがあり
蓬 田(西 宗)
蓬田博士(阪大・微研)の講演
エイズでは脳炎を誘発することがある。トキソプラズマは感染
ら(大 阪 大 微
すると Hsp70を発現しマクロファージのファゴソームとリソ
研)の研究は精
ソームの融合を阻止してリソソームのエンザイムによる消化を
子細胞に特異
受けないようにして最終的には細胞を破って次の細胞に感染す
的 な モ ノ ク
る。二番目のタイプはリーシュマニアで中近東に多い感染症で
ローナル抗体
30
0-40
0万人の患者がいる。鞭毛のあるタイプで感染しマクロ
を作製し,その
ファージに入って Hsp70を発現すると形態変化を起こして鞭毛
遺伝子を単離
のないタイプになる。これはファゴソームの中に入ってもリソ
するところか
ソームのエンザイムに耐えファゴソームの中で増殖して細胞を
ら calmegin をみ
殺す。三番目はトリパノソーマで中南米のシャーガス病の原因
つ け,今 回
で4
00-50
0万人の患者がいて年間3
0万人くらい死亡する。これは
calmegin ノックアウト(KO)マウスと不妊について報告した。
感染したとき鞭毛を持つタイプだがファゴソームに入ると同時
詳細は細胞生物学会のシンポジウムのレポート(佐藤氏による)
に Hsp70を発現しファゴソームから細胞質に逃げる。さらに,こ
と重複するので省略するが,話は意外かつ実に興味深い方向に
こで Hsp90を発現し鞭毛のないタイプに変わり細胞質中で増え
展開している。
る。マラリアが細胞の中でどのようなエスケープの経路をとる
calmegin KO マウスは不妊になるが,その理由として精子の化
学走性に関わる受容体の異常が考えられる。この受容体の候補
かは不明だが,Hsp90がエスケープのための機能を果たしている
可能性を提示した。
の一つが odorant receptor で,
哺乳類では約1
0
0
0種類の独立した遺
宿主側では,トキソプラズマ,リーシュマニア,トリパノソー
伝子が知られるが,精子ではその全てのユニットが発現されて
マ,マラリア感染のいずれの場合もマクロファージが Hsp65を発
いる。
そこで今度は各組織における calmegin の発現を調べたとこ
現することが防御免疫成立のために必要である。ここでの Hsp6
5
ろ,嗅覚系(たとえばフェロモンを感知する鋤鼻器官)で発現
の機能はトキソプラズマとトリパノソーマの場合には宿主細胞
していることがわかり,嗅覚系でも calmegin が何らかの機能をも
のアポトーシスの阻止にある可能性を示した。マラリアの場合
つ可能性が浮上した。最初は calmegin は嗅覚 receptor の発現に関
は,Hsp65を発現することが防御免疫の initiation に,Hsp65の発
連 す る と 考 え た が,上 位 ニ ュ ー ロ ン と シ ナ プ ス 形 成 す る
現には CD4が重要であることを示唆する結果を示した。ウィル
glomerulus の末端まで存在していたので,投射までを含めて機能
ス,細菌,寄生虫と宿主との相互作用を知る上で重要な研究で
していることも考えられる。しかし,KO マウスでは嗅覚系の関
あると思われた。
与する行動(sucking, snooping, mounting, mating)に全く異常は
和 田(札 幌 医 科 大 医 学 部)は,小 胞 体 内 の 新 生 蛋 白 質 の
見られないという。分子シャペロンの機能を考える上で非常に
maturation に関して,HepG2細胞のトランスフェリンに着目した。
興味深い研究であり,臨床的にも不妊治療,避妊との関連で重
トランスフェリンには40個の Cys から成る20個の S-S 結合があ
要な報告であった。
る。トランスフェリンの細胞内での S-S 結合形成をモニターした
佐藤(札幌医科大医学部)は,抗原ペプチドの産生・転送機
ところ,驚くべきことにパルスラベル後チェイス0分の時点で
構の中で Hsp7
0がどのように関わるかについて報告した。癌免疫
すでにフリーの SH がなくなっていることが分かった。すなわち
治療に関連して,HLA が結合するモチーフを参考にペプチドを
こ れ ま で は,酸 化 は 徐 々 に 行 わ れ,そ の 間 に S-S 結 合 の
合成すると,キラー T 細胞を誘導できるが癌細胞を殺せないとい
rearrangement も起こると信じられてきたが,ER 内腔に入ると直
うペプチドが多くみつかる。一般に細胞中の蛋白質はユビキチ
ちに酸化が完了することになる。しかし一方,還元型グルタチ
16
オンが小胞体内に入ることがトランスフェリンのフォールディ
あると考えられる。したがって Hsp4
7がないと,十分に水酸化さ
ングに必須であるが,一般に還元型グルタチオンは PDI によって
れていないプロコラーゲンも細胞外に分泌されてしまうことに
しか使われないので,トランスフェリンのフォールディングに
なる。これらの未成熟プロコラーゲンは3本鎖ヘリックス構造
は PDI による S-S 結合のかけ替え反応が関与することが強く示
が不安定であり,プロテアーゼで分解されたり,プロペプチド
唆される。この一見つじつまが合わない結果はどのように解釈
が切断されないため線維形成能を失い,KO マウスのような発生
で き る の で あ ろ う か? 最 近 PDI に も membrane bound form
途中の死に至るのであろう。疾患との関連では Hsp4
7が原因でお
(Eps1)が見つかり,構造的にはそっくりだが膜貫通領域があり,
こる疾患はこれまでに知られていないが,osteogenesis imperfecta
可溶性 PDI と膜結合型 PDI が calreticulin / calnexin のような関係
の中にコラーゲンに異常がない例が知られているので,それに
で働いている可能性もあるという。
Hsp47が関連している可能性があり興味深い。
青江博士(千葉大・医)の講演
青江(千葉大
徳永(姫路工業大理学部)は血液凝固制御因子プロテイン C
医学部)は小胞
(PC)の小胞体内品質管理機構について報告した。PC は Gla ド
体−ゴルジ間
メイン・EGF 様ドメイン等をもつ軽鎖 とセリン・プロテアー
輸送を介した
ゼ前駆体である重鎖の2本鎖からなり,Ⅴ因子,Ⅷ因子を分解
品質管理につ
することによって凝固系を制御している。PC の遺伝的欠損症は
いて報告した。
常染色体の優性遺伝で,深部静脈血栓症や電撃性紫斑病の原因
T cell receptor は
となる。PC は小胞体内で Vitamin K(VK)依存性γ−カルボキ
不完全な形で
シラーゼでγ−カルボキシル化され,ゴルジを経由して血中に
発現されると
放出される。抗血栓薬ワルファリンは VK のリサイクル過程で働
小胞体に残留
く Epoxide Reductase と Quinone Reductase を阻害することにより
し,小胞体から
ハイドロキノン型 VK を減少させ,結果的に Gla の生成を抑制す
サイトゾルへ移って小胞体関連分解されることがわかっている。
る。ワルファリン存在下でγ- カルボキシル化を受けないと PC
たとえば COS 細胞に発現させた TCR α鎖は小胞体に分布し,か
は misfold 状態となり小胞体関連分解を受ける。各種糖鎖プロセ
なり早期に分解される。しかしこの蛋白質は,本当に小胞体で
シング阻害剤を用いた解析から,misfold した PC は,小胞体マ
分解されるだけなのだろうか。misfold した蛋白質が一旦ゴルジ
ンノシダーゼⅠによるマンノーストリミングが引き金となって
側に出てまた小胞体へ戻るというリサイクリングの過程を含ん
分解系へ運ばれることが示唆された。
だ形の分解は起こらないのであろうか。
PC の小胞体分子シャペロンによる品質管理を調べるため,
COP I 依存性のゴルジ→小胞体輸送を変異 ARF1の共発現また
BiP, ERp72, PDI をそれぞれ高発現させた細胞(各々のシャペロ
はブレフェルジン A により阻害すると,TCR αはゴルジ体周辺
ンは約3倍高発現)に PC を発現させ,VK 存在下での PC の分
に観察された。変異 KDEL receptor を用いた解析結果と合わせる
泌とワルファリン存在下での小胞体分解について解析した。
と,
TCR αがたとえば BiP と会合し,
この複合体が KDEL receptor
ERp7
2高発現細胞ではワルファリン下では分泌がなくなり細胞
に認識されて小胞体に戻る可能性が考えられた。それでは,こ
内分解が促進していること,BiP や PDI を高発現した細胞では細
の部分的リサイクリング経路の意義は何だろうか。未熟な T cell
胞内分解はむしろ遅くなり,分子シャペロンにより小胞体内関
(double negative stage)では T 細胞 complex が不完全で,CD3γε
連分解に対する影響が異なるという結果であった。また GFP キ
, CD3δε の よ う な 不 完 全 な receptor が calnexin(お よ び BiP,
メラを用いて細胞内局在の変化を解析したところ,意外なこと
calreticulin, GRP94等の分子シャペロン)
と一緒に細胞表面に出て
にプロテアソーム阻害剤存在下で核内に凝集体が観察された。
おり,それを刺激してやるとシグナルが伝わり分化が起こるこ
したがって,新生 PC は各種の小胞体分子シャペロンと会合して
とが知られている。次の double positive stage では TCR の各構成
γ- カルボキシル化などの翻訳後修飾を受け,ゴルジ体を通る分
因子が発現してくるが,TCR αの細胞表面への発現は mature の
泌経路に乗る。しかし,ワルファリン存在下でγ- カルボキシル
1/1
0程度である。この場合 message レベルだけでは説明できず, 化を受けずに misfold すると,マンノーストリミングを引き金と
蛋白質ができた後の分解が亢進していることが考えられる。こ
してサイトゾルに送りだされ,プロテアソームで分解される。
のような分子の大部分が分解されている状況では,一部の TCR
ここでプロテアソーム活性を抑制するとサイトゾルに送りださ
αフラクションがリサイクリングに廻り,シグナル伝達や分化
れた PC は凝集体を形成する。PC に核移行シグナルはないので,
に影響を与えている可能性が考えられる。
凝集体形成や核
永井(京都大再生医科学研)は,Hsp4
7 KO マウスの表現型と
内移行メカニズ
KO 細胞の樹立について報告した。Hsp4
7はコラーゲン特異的な
ム は 興 味 深 く,
シャペロンで各種コラーゲンの発現との相関がみられる。KO マ
各種神経変性疾
ウスは95
. ∼1
05
. 日以降で胎生致死となる。小胞体内で Hsp4
7は,
患の病因と関連
コラーゲンの(Pro-Pro-Gly)n の立体構造を認識し結合するが,
するかもしれな
prolyl-4-hydroxylase によって2番目のプロリンが水酸化される
い。
と解離する。水酸化されたコラーゲンは3本鎖ヘリックス構造
小亀(国立循
をとり安定化する。Hsp47は水酸化の度合いが足りない未成熟プ
環器病センター
ロコラーゲンに結合して小胞体内に留めておき,十分に水酸化
研)は高ホモシ
が行われたプロコラーゲンのみを細胞外に分泌するのが使命で
ステイン血症と
小亀博士(循環器病セ)の講演
17
再生研の永田和宏先生を会長として臨床ストレス蛋白質研究会
が開催されたわけである。開催場所の平安会館は広大な京都御
所の向かいに位置するこじんまりとした会場である。私はもと
もとが京都の出身なのでホームグランドにいるような気持ちで
参加していたが,他の地域からの参加者はどういう感想をもっ
たのであろうか。
開催に先立ち前日の夜に懇親会が開催され,美味しい料理と
飲み物に誘発され,班会議やシンポジウムでの話題に花が咲い
たようである。私は3年間シャペロンの研究班に加えていただ
いたが,アミロイド線維形成というアウトサイダー的な研究
テーマなので,まだまだ本道の? 分子シャペロンやストレス
懇親会にて(左から森,吉久,梅本,佐藤,永井)
蛋白質に関しては無知な点が多すぎる。分子シャペロン班会議
小胞体ストレス応答について報告した。この病気は心血管系疾
で頭がぱんぱんにふくれ,シンポジウムの発表で疲れ,さらに
患の危険因子のひとつで,重度の高ホモシステイン血症では血
懇親会を途中で抜け出して京都の友達と木屋町へと繰り出して
管系障害の他にも全身性の様々な障害を誘引する。そこで高ホ
しまいさすがに四日目ともなると疲れた。そうゆう訳で,少々
モシステインが細胞の遺伝子発現に対してどのような影響を与
ピントがぼけた紹介記事になってしまうかも知れぬ,と恐れつ
えるのかを HUVEC(臍帯静脈内皮細胞)を用いて Differential
つ書いている次第である。
Display 法によって調べた。そして発現が増加した遺伝子として,
例年より増えた演題2
8題(口演18, ポスター1
0)と矢原一郎先
小胞体分子シャペロン GRP7
8をはじめとするいくつかの遺伝子
生の特別講演が行われた。午前最初のセッションは各種ストレ
が 同 定 さ れ た ほ か,Herp(Homocysteine-responsive ER-resident
ス蛋白質で,根元(長崎大)は HSP90の大腸菌ホモログ HtpG の
protein)という新規の遺伝子が見つかった。Herp は39
1残基,5
4
ドメイン構造(A, B, C)を解析し,B と C ドメインでダイマー
kDa の小胞体膜蛋白質である。高ホモシステイン血症時には,他
を形成し,
A ドメインが分子シャペロンのターゲットペプチド結
の分子シャペロンよりもかなり高レベルの発現が見られるが,
合部位であることを示した。野々口(京都大)はマウス Apg-1,
Herp の誘導が小胞体ストレス応答の下流にあることは,小胞体
Apg-2の cDNA 配列をもとにしてヒト Apg-1, Apg-2の単離を行い
ストレスを誘導する薬剤(メルカプトエタノール,ツニカマイ
それぞれの組織分布や温度感受性を検討した。横田(HSP 研)
2+
シン,Ca
イオノフォア,thapsigargin)に鋭敏に応答したこと
らは細胞質シャペロン CCT の腸及び肝細胞癌での発現亢進や,
で確かめられた。ホモシステインは細胞の小胞体から核への
慢性関節リュウマチや全身性エリトマトーデスなどの自己免疫
UPR(Unfolded Protein Response)経路を選択的に活性化するも
疾患での抗 CCT 自己抗体価の増加を報告した。越知(愛知身障
のと考えられる。通常血管内皮細胞は血液凝固を防ぐため細胞
者コロニー)
らはアレキサンダー病におけるα B クリスタリンの
表面で抗凝固蛋白質を発現して血液の流動性を保っているが,
3ヵ所のセリンのリン酸化と発症との関連を調べ,Ser-59のリン
高ホモシステイン血症のような小胞体ストレス下ではこの機構
酸化が主であることを報告したが病理的意義についてはまだ不
に障害が出るのであろう。Herp 遺伝子の上流の二つの ERSE(ER
明のようである。鳥越(札幌医大)らはプロテアソームによる
response element)モチーフの詳しい解析も報告された。
分解で生じた抗原ペプチドが TAP 依存性に小胞体へ転送され
以上,シンポジウムは前日までの特定領域研究合同班会議に
MHC classI 分子と会合し細胞表面に提示される際に,HSC73との
引き続きタイトなスケジュールで行われた。長時間の会であっ
結合が重要であることを MeDSG(HSC 結合性ポリアミン)や合
たが会場からは熱心な討議が続いた。今後とも分子シャペロン
成ペプチド等を用いて非常にあざやかに示した。伊藤(秋田大)
研究の基礎と臨床がともに発展することを期待したい。
らはゲンタマイシン(GM)カラム等を用いて,GM が HSP70,
HSP90と ATP 結合部位で特異的に結合し,シャペロン活性をほ
ぼ完全に消滅させることを明らかにし,GM による腎毒性の機構
「第4回 臨床ストレス蛋白質
研究会」
に参加して
が提示された。森(熊本大)らはマクロファージ系 RAW2
647
. 細
胞におけるアルギナーゼⅠ , Ⅱの過剰発現が NO 依存性アポトー
シスを抑制する事を示し,さらに熱処理により誘導される Hsc7
0
と dj1, dj2が,
NO 依存性アポトーシスを抑制する事を明確に示し,
樋口 京一
(信州大学医学部)
第一セッションが終了した。
第二セッションは虚血・再還流に関する演題で,木内(秋田
大)らがラット脳動脈閉塞後の再灌流における hsp6
0と hsp1
0遺
成1
1年の12月19日,京都市の平安会館で第4回臨床ストレ
平 ス蛋白質研究会が開催された。16,17日と文部省特定研究
伝子の発現を in situ hybridization を用いて解析し,
hsp70と同様だ
が時間的に遅れて発現してくることを示した。玉置(医療法人
「分子シャペロン」の合同班会議が京都ガーデンパレスで行われ, 北楡会)らは長期絶食による肝細胞の虚血再灌流への耐性獲得
翌1
8日には開催場所をすぐ北に位置する平安会館へ移動して,
には hemo oxygenase-1(HO-1)と bcl-2の過剰発現が重要である
公開シンポジウム「ストレス蛋白質と病態」が班会議と臨床ス
と報告した。赤松(大阪大)らは血管平滑筋細胞(RASMC)の
トレス蛋白質研究会との共催で開催された。さらにその翌日,
酸化的ストレス(無酸素ム再酸素下培養)への耐性が Mn-SOD
シャペロンシリーズ第四日目の朝9時より夕方まで,京都大学
の発現誘導で増加することを示した。
18
昼食後,由良隆先生(HSP 研)の座長で矢原先生の「HSP9
0の
示し,打波(京大)らは熱前処置による肝虚血再還流障害保護
分子シャペロン機能」と題した特別講演が行われた。私にとっ
機構の一つとしてⅠ-B 増強による NF-B の活性化抑制を,米沢
ては矢原先生のお仕事の最初から最近までを通してお聞きする
(京大)は TNF- α産生抑制を示した。大塚(愛知がんセンター)
初めての機会だったので非常に興味深い講演であった。生命史
は HSP40
(DnaJ)の J ドメインのアミノ酸配列を基にマウス EST
的にストレス蛋白質を中心としたストレス応答が細胞のあらゆ
より1
1の新規 cDNA を単離した。さらに Dna J 相同体の統一的命
る刺激への反応の根本にあるのだという導入に始まり,第1部
名法として動物名/ Dj /グループ名/登録順による命名を提案
は HSP9
0の構造について概説し,特に N, C 末端特異的抗体を用
した。内田(医療法人北楡会)は hemin 投与後の Kupper cell で
いた電子顕微鏡による解析で C 末端ドメインでダイマーを形成
の HO-1発現誘導が肝虚血再潅流障害を抑制することを示した。
することを明らかにし,さらに熱処理や ATP との結合で N 末端
「治療への指針」の口演セッションでは山田(慶大)らが HSP9
0
が結合したリング状に変化し,基質との結合能が増加すること
導入 NIH3 T3細胞で geldanamycin, cisplatine, doxirubicine の抗が
を示唆した。第2部は平常時におけるシグナル伝達に関わるプ
ん剤による細胞死が抑制され,HSP9
0とこれらの抗がん剤との会
ロテインカイネースや転写調節因子などの key 蛋白質構造の安
合を示した。田中(名大)らはラットアジュバント関節炎モデ
定化と機能発現に重要な役割をはたすという機能とストレス時
ルでは HSP7
0前投与で IL-10産生 T 細胞が増加し,γ INF 産生を
に蛋白質の変性を防ぐという HSP9
0の2種類のシャペロン機能
抑制することにより症状がが顕著に抑制されることを示した。
について最近の知見を中心とした講演であった。特にカルシ
塚原(東女医大)はペプチド結合ドメインと variable ドメインが
ニューリンのキャタリティックサブユニット CNa-2との結合に
欠失した HSC7
0のアイソフォーム HSC5
4が HSC70のシャペロン
2+
よる安定化と不活性化,ストレス時の Ca -calmodulin による
活性を阻害することを示したが,その生理的意義は不明である。
HSP90からの解離による活性化機構を示した。ストレス時におけ
小林(名大)らはポリグルタメイト病である球脊髄性筋委縮病
る Hsp90の役割はルシフェラーゼの refolding 系を用いて示され, における変異アンドロゲン受容体の Neuro2a 細胞への導入実験
変性蛋白質が Hsp90と結合し,プロテアソーム活性化因子 PA28
で Hsp7
0 / 40を共導入すると aggregate 形成が抑制されることを
へ受け渡され,他のシャペロン系(Hsp7
0と Hsp4
0)への移行に
示した。
よって refolding を完成させるか,
あるいはプロテアソームへの移
ここまで聞いたところで残念ながら信州松本へ帰らねばなら
行による分解を受けるかの選別が起こることを示唆した。活発
ない時間が来てしまった。何せ,名古屋7時発が最終電車のた
な質疑の後,ポスターセッションへと移行した。
め会場を後にし,地下鉄に飛び乗った訳であるが,この後,
4題
発表者は3分間のスライド発表の後,ポスター前での討論と
(小石;京都市立病院:KNK463による腫瘍の HSP70誘導阻害と
なった。薛(京都大)は低温ショック蛋白質 crip の虚血大脳海
温熱耐性獲得阻害,阿部;産業医大:メタロチオネインノック
馬での発現の減少を,海野(静岡県立大)らは加齢に伴うマウ
アウトマウス線維芽細胞のカドミウムに対するストレス応答,
ス大脳での Hsc70と熱不安定性蛋白質の増加を報告した。海津
石川;京大:Doxorubicin の前投与による肝臓の虚血耐性獲得と
(医療法人北楡会)は腎虚血再潅流障害における HO-1阻害剤の保
熱ショック蛋白の関与,河合;徳島大:低蛋白質栄養状態ラッ
護効果,碓氷(名大)らは熱前処理虚血再潅流心筋におけるα
ト胃粘膜における熱ショック応答とそれに及ぼすシャペロン誘
B-crystalline のリン酸化の様相をリン酸化特異抗体を用いて解析
導剤,geranylgeranylaceton の効果)が報告されたはずである。
し,田村(札幌医大)はマウス自家骨髄移植後の MRD に対して
前日までの班会議とは異なった参加者,テーマ,視点が登場
HSP70−抗原ペプチド複合体の免疫による特異的抗腫瘍免疫誘
して興味深かったが,永田会長が言われたように基礎研究と臨
導を行った。田辺(岐阜大)は血管平滑筋細胞(A1
0)における
床応用は車の両輪であり,互いに補いながらストレス蛋白質へ
バソプレシンの PKC, MAPK 活性化による HSP2
7の発現誘導を
の理解が深まっていくと改めて思った次第である。
「5th Midwest Stress
Respons and Chaperone
Meeting」
れるものであった。(実はこの寒波は,これを執筆している今
(1月末)になってもまだ居座っている。
)
タイトルに「Midwest」とついているのを反映して,参加者約
9
0名 は 全 て
Midwest か ら 集
秋田 充
(ミシガン大学・MSU-DOR 植物研究所)
まっていたよ
う で あ っ た
(Midwest の 大
上
記 タ イ ト ル の ミ ー テ ィ ン グ が,
1月1
5日,Chicago 郊 外
学のリーグで
Evanston にある Northwestern 大学にて開催された。この時
あ る Big Ten
期の Chicago になど行こうという気は普段はおきないのだが,案
Conference に
の定,ミーティング前日より,この冬初の寒波襲来となった。
Penn State 大 学
暖冬にスポイルされていた参加者達は,一様に cold shock にさら
も加盟してい
される羽目になったが,ミーティングそのものは,活気にあふ
ることもあり,
Northwestern 大学
19
Pittsburgh からの参加者も Midwest からということにしても問題
Michigan に戻っ
無かろう?)。ミーティングは,口頭発表(15題),ポスター発
てきてから,カ
表(22題)の二本立てで,大部分の発表は,ポスドク及び,大
ゼインのアミ
学院生によってなされた。さて,それらの発表の中から,いく
ノ酸配列を調
つかを紹介させて頂きたい。
べてみたが,特
まず,Lindquist(Chicago 大)らは,酵母の ClpB 蛋白質であ
に,リジン残基
る Hsp104の基質に関する発表を行なった。Hsp1
0
4の機能の一つ
に富む領域を
として thermotolerance が挙げられる。しかし,酵母が heat shock
見い出すこと
にさらされた際に,特定の基質が存在するのか,ということを
はできなかっ
含め,何が基質になっているのかについては,これまで未解明
た。
このことは,
であった。野生株と hsp1
0
4欠損株を heat shock にさらした後,そ
酵母での観察
れぞれの株の可溶性抽出画分を2次元電気泳動で解析すること
結果と相違している。また,Lidquist らは,C 末端に相互作用部
により,いくつかの蛋白質が野性株に特異的に観察された。そ
位が存在するとみており,この点からも両者には,相違がみら
の中の一つは,酵母の elongation factor(YEF3)であった。YEF3
れた。
ポスター発表風景
の特徴の一つは,C 末端56アミノ酸残基中,3
3個が荷電アミノ酸
酵母細胞質中に存在する DnaK(hsc70)をコードする遺伝子
から成っており,その中でも1
7個がリジンである。この特徴と
。Brodsky(Pittsburgh 大)らは,
は4つ判明している(SSA1-4)
ポリリジンが鎖長に依存して、Hsp1
0
4の ATPase 活性を促進する
これらの遺伝子の一つである SSA1を欠損した変異株を解析す
ことから,これらのリジン残基が Hsp1
0
4との相互作用に関わっ
ることによって,Ssa1と Ydj1の相互作用が ER への蛋白質の膜透
ていることを推測していた。現実問題として,翻訳に関わる因
過に必要であることを示した。
子 の 凝 集 を Hsp10
4が 阻 止 し て い る と い う 現 象 は,細 胞 の
一方,Craig(Wisconsin 大)らは,ミトコンドリアのマトリク
thermotolerance を考える上で,非常に興味深い。また,Hsp1
04に
スに存在する Hsp7
0, Ssc1及び,Ssq1について発表した。Ssq1は,
限らず,Hsp1
00ファミリーに属する蛋白質は,荷電アミノ酸(特
最 近 同 定 さ れ た Hsp7
0で,酵 母 の frataxin homolog(Yfh1)
に酸性アミノ酸)に富んでおり,私はこのことが Hsp1
04の機能
の成熟化に関わっていることが報告されている。ssq1欠損株は,
を考慮する上で,何らかの意味があるのでは,と以前より考え
低温感受性であるが,この株の解析によって,Ssc1と Ssq1とが
ていたが,その予想が満更検討違いでは無かったようだ。更に,
それぞれの機能を部分的に相補し得ることを示した。
彼らは,基質と成り得るために凝集の状態が,
「制御されている」
ミトコンドリアに関しては,Matouschek(Northwestern 大)ら
のか,あるいは,
「ランダムである」のかについても考察を加え
も非常に興味深い発表をしていた。一つは,ミトコンドリア外
ていた。Hsp1
04の他の機能として,常温において,酵母の表現
膜のリン脂質は蛋白質移入の際,前駆体蛋白質の unfold には関
型である[PSI+]から[psi-]の変換に関わっていることが報告
わっていないという発表であった。私は,かねてより,ミトコ
されている。このあたりの話については,本レター第2号にて
ンドリアに限らず,いろいろな蛋白質局在化の過程で脂質の役
木村さんが,第4号にて西川さんが報告しているので,多少重
割について興味があり,前駆体蛋白質の膜透過能の維持に脂質
+
複になってしまうがお許しいただきたい。Lindquist らは,
[PSI ]
が関与していることを期待していたのだが,その期待には添わ
5に関して以下の
と[psi-]の表現型原因遺伝子産物である Sup3
なかったようである。また,彼らは,前駆体蛋白質に様々な径
ような発表を行なっていた。Sup3
5のグルタミンに富む N 及び荷
のゴールドパーティクルを付けることにより,膜透過のチャン
電アミノ酸に富む M ドメインのシステイン残基を他のアミノ酸
ネルの大きさを計っていた。
残基に置き換えた変異型 Sup3
5に,種々の蛍光プローブを共有結
日本では,どのように報道されたのかは,全く知らないが,
合させ,CD を計測した。このリコンビナントの変異型 Sup3
5の
アメリカでは,Kansas の公立校において進化論を教えないこと
NM ドメインは,大部分が,ランダムコイルをとっていたが,
にすることが決まり,そのことが結構波紋を呼んでいた。Kansas
β- シート構造に徐々に変換すると同時に,
fiber を形成し始めた。 大の Fiscer らは,GroEL と GroES の機能について発表したが,
一度,fiber が形成されるや,可溶性の NM ドメインの fiber 形成
進化論のことと,分子も進化する,それが故に,例外も起こり
を促進することとなった。
得るということを絡ませて,面白い話を繰り広げていた。
大腸菌の ClpB 蛋白質に関しても Zolkiewski(Kansas 州立大)
最後に,このミーティングに関して一言感想を。前述したと
らによって,発表がなされていた。大腸菌の ClpB 蛋白質を大量
おり,ミーティング自体は,活気のあるものであった。しかし,
発現させると完全体と N 末端15kDa を欠失した ClpB の二つの産
口 頭 発 表 に 関 し て は,オ ー ガ ナ イ ザ ー(Matouschek, Gaber,
物が観察された。両者とも,ATPase 活性,ATP による6量体化
Morimoto, いずれも Northwestern 大)の一人でも,彼らの主宰研
には差はみられなかったが,ATPase 活性のカゼインによる促進, 究室における研究結果を総括して話をしてくれればもっと有意
変性したルシフェラーゼの DnaK / DnaJ / GrpE 存在下における再
義であったであろう。もし,このミーティングに興味を持たれ
活性化は,N 末端欠失 ClpB では,5分の1程であった。これら
た方は,ホームページ(htpp://pubweb. nwu. edu/
kav3
20/mwsm/)
のことから,彼らは,欠失している N 末端1
5kDa の中にシャペ
を御覧になられたい。尚,来年は,Chicago 大学にて行なわれる
ロンとしての活性に重要な部位が存在すると結論していた。
そうである。
20
HSP47
:Maze and Enigma
れ,こ の 水 酸 化 に よ っ て,3本 鎖 が 安 定 化 さ れ,melting
temparature が上昇する。この長い分子においては,C 末端まで合
成され終るまでは,分子間の会合や分子内の folding が起こって
永田 和宏
(京都大学再生医学研究所)
はならない訳である。
最初,HSP4
7は一本鎖コラーゲンに結合すると考えていた。大
学院生の佐藤衛君がパルスチェイスに,クロスリンク,免疫沈
SP4
7は最初,198
6年に私が見つけた熱ショック蛋白質であ
降などを組み合わせてエレガントな仕事をしてくれて,
抗 HSP4
7
H り,それからもう10数年にもわたって仕事を続けてきたこ
抗体で免疫沈降すると,一本鎖プロコラーゲンが共沈降してく
とになる。最初はコラーゲン受容体を見つけたいと考えて始め
ることを示した3。違ったアプローチからリボソーム結合型の新
た仕事であるが,最近になってようやくコラーゲンに特異的な
生蛋白質を抗 HSP4
7抗体で免疫沈降するとスメアー状に多くの
分子シャペロンであると大手を振って言えるようになったと
蛋白質が沈降してくることからも,
この知見はサポートされる4。
思っている。考えてみると,どうも私は自分で見つけたもので
HSP4
7は,一本鎖α鎖に結合して,翻訳が終了するまで,その分
ないと気が済まない性格であるらしい。オリジナリティと言え
子内 folding や分子間の会合などを妨げていると考えれば,分子
ば聞こえがいいが,仕事の進行という点から見るとまさに牛歩
シャペロンのこれまでの概念とうまくフィットする。
もいいところである。
コラーゲンに結合する蛋白質として最初に47kDa の蛋白質を
単離したが,残念ながらコラーゲン受容体ではなく,細胞内の
蛋白質であった。最初,細胞のトランスフォーメイションによっ
ところが最近になって,
どうも HSP4
7は3本鎖コラーゲンをよ
り良い基質とするらしいという,いくつかの証拠が見つかって
きた。
ポスドクの小出隆規君は,彼のバックグラウンドを生かして,
て down regulation されることが分かり,
それではということでラ
コラーゲンモデルペプチドを合成することによって HSP47に
ウス肉腫ウイルスの ts mutant を用いたのだが,
驚いたことにウイ
よって認識されるコラーゲン側の配列に関する知識を得ようと
ルスをかけなくても温度を高温側へシフトするだけでこの蛋白
考えた。小出君は Gly-Pro-Pro(以下,GPP)の異なったリピー
質の合成が上がった。はて,何故だろう,というのが熱ショッ
トをもつこのモデルペプチドを合成し,それをビーズに固定し
ク蛋白質としての HSP4
7の誕生である1, 2。
て,rHSP47との結合を pull down assay によって調べた5。その結
コラーゲンに結合すること,熱ショックで誘導されること,
果はクリアーであり,
GPP の繰り返しが7回以上あれば HSP4
7が
これだけの情報から HSP4
7の研究は始まった。
もとより誰もやっ
結合した。類似の Gly と Pro からなるペプチドでも,たとえば
ていないのであるから,機能についての情報はゼロ。さらにシャ
poly proline, poly glycine, GP repeat, GGP repeat, GPPP repeat な ど
ペロンとしては,基質に特異性を持つという概念自体もなかっ
とは結合しなかった。
3残基ごとに Gly が来ることが必要であっ
た頃であり,最初は(本当はごく最近まで)これが本当に分子
た。他のグループから N-propeptide のある部分に結合するという
シャペロンであるのだろうかと,本心を明かせば半信半疑と
あまりにもデータがきたないことと,
結果が報告されている4が,
いった具合であった。
ようやく最近になって HSP4
7は,本当にコラーゲンが正しい分
子構造をとるために必須のシャペロンであるらしいということ
我々が同じ方法で追試しても確認できないことから,HSP4
7は3
本鎖領域に結合するものと考えている。HSP4
7がコラーゲン様リ
ピートを認識しているという初めての報告となった。
が,in vitro でも in vivo でも明らかになってきてほっとしていると
ころであるが,今回は,レビューということでなく,ここまで
明らかになってきた HSP47について,なお分からないという点,
2 HSP47は1本鎖プロコラーゲンに結合するか,
3本鎖に結
合するか?
謎として残っている点を中心に書いてみたい。講演などでは触
小出君はさらに酵母の two hybrid system を用いたランダムラ
れなかったり,敢えて目をつぶったりしている問題点だが,総
イブラリーからの HSP47結合配列のスクリーニングを行うなど,
ざらいお示しして,ご教示なりご指摘なりをいただければうれ
HSP4
7の基質認識について精力的にデータを集めた。その結果を
しいと思うのである。
総合して考えると,どうも最初の思惑とは異なり,HSP4
7は3本
鎖プロコラーゲンをより良い基質とするらしいことが明らかに
1 HSP47はコラーゲン様リピートを認識するのか?
なってきた。その根拠は,
コラーゲンは実に不思議な蛋白質である。
N 末端から翻訳され
1.GPP リピートの長さが長くなればなるほど,HSP4
7はより
て co-translational に小胞体へ入るが,たとえばⅠ型コラーゲンの
強く結合するようになる。長さが長くなれば,GPP リピー
場合なら,1
0
00残基以上のアミノ酸からなる長いα鎖がすべて
トは3本鎖を作りやすくなる。
小胞体へ挿入されてから,C 末端で2本のα1鎖と1本のα2鎖
2.酵母の two hybrid 系に GPP リピートを乗せて HSP47との
が会合して3量体を形成する。プロコラーゲンの3本鎖領域に
結合を調べる場合,そのままでは GPP の7回リピートは
は Gly-X-Y のリピートが延々と続いており,X, Y の位置には典型
positive signal を与えないが,
GPP リピートの下流側に3量体
的には Pro がくることが多い。C-propeptide で会合したα鎖は,
形成に寄与する C1q ドメインを付加してやると,positive
C-propeptide 間で S-S 結合が作られた後,C 末端から N 末端側へ
signal が見られるようになる。
ジッパーのように3本鎖形成が進行する。このとき,Gly-X-Y の
3.ランダムライブラリーを用いた酵母 two hybrid 法で Gly-X-
Y 位の Pro は多くの場合 prolyl 4-hydroxylase によって水酸化さ
Y の X, Y の位置にくるアミノ酸を調べた。X の位置には Pro
21
しかこなかったが,Y 位のアミノ酸はさまざまのアミノ酸を
HSP47は,プロコラーゲンの maturation の過程で解離すると考え
許容した。Y 位のアミノ酸の出現頻度を調べると,コラー
ることができ,これは従来の分子シャペロンの概念と矛盾しな
ゲン3本鎖の安定化に寄与するアミノ酸のみが頻度高く現
い。
われることがわかった。
これまでに知られているシャペロンと基質との解離機構につ
などである。
いては,HSP7
0の場合は,ATP・ADP exchange が基質との解離
これらの結果を総合すると HSP4
7は,少なくともモデルペプチ
の trigger となり,calnexin / calreticulin の場合には,glucose triming
ドを用いて調べるかぎり,3本鎖をより好むようである。これは
が解離の引きがねになっていることが知られている。HSP47は水
先の1本鎖に結合するというデータを矛盾する。これが用いた
酸化が結合解離を制御しているという第3の新しい機構を提示
系による discrepancy なのかどうかまだ決定的な結論は得られて
することになった(図1)
。
いないが,我々は現在,HSP4
7は1本鎖の nascent peptide にも結
それでは pH による解離と水酸化による解離とはどう関係す
合するが,3本鎖をより強く認識すると考えている。そう考える
るのだろうか。これも決定的な結論はまだというほかないが,pH
と,今度は HSP47の機能は先に考えたような単純なものでは説明
による解離は一種のバックアップ機構ではないかと考えている。
できなくなる。すなわち,プロコラーゲンの C 末端が合成され
即ち,通常は小胞体の中で水酸化が十分に起こると解離するの
終るまで HSP47が結合して,その分子内 folding や,他の鎖との
だが,何らかの原因で,もし解離しないままにトランスゴルジ
会合や凝集を抑えているというモデルである。これについては
まで輸送されてしまった場合にも,そこでの pH 低下によって,
後でもう一度述べる。
完全に解離し,
HSP4
7は小胞体へ運び戻されると考えるのである。
この証明も今後考えなければならない。
3 HSP47はどのようにして基質から解離するのか?
以前,精製したコラーゲンとの結合から,コラーゲンカラム
に結合した HSP47は,中性 pH の時にはよく結合するが,pH を
6
4 細胞内で HSP47はプロコラーゲンに結合できないのではな
いか?
63
. 以下にすると完全に解離してしまうことを報告していた 。こ
ここで困った問題に直面する。コラーゲンの水酸化と3本鎖
の pH による解離は魅力的だが,細胞内輸送の経路で pH が低下
形成については古くから研究があり,水酸化は1本鎖の時に大
す る の は,こ れ ま で の 常 識 で は ト ラ ン ス ゴ ル ジ 以 降 の
部分が起こるというのである。水酸化酵素である P4-H は1本鎖
compartment であるとされている。ところが,HSP4
7は C 末端に
のα鎖をより好むという報告もある。もし1本鎖の時に水酸化
小胞体保持シグナル,RDEL 配列をもち,また前記佐藤君の実験
が終ってしまっていれば,HSP47は水酸化によって解離するとい
3
から , シスゴルジあるいはシスゴルジへ達する前に,プロコ
う我々の実験結果は,HSP4
7が結局プロコラーゲンに結合できな
ラーゲンは HSP4
7から解離することが示されていた。
そうなれば
いことを意味してしまうのである。
pH による制御は意味を持たないことになる。
一方,先の小出君の合成ペプチドを使った実験が,思わぬ興
このあたりがあまりにも古くから研究されてきたコラーゲン
のような研究分野の問題でもある。現在から見れば,あまりに
HSP4
7は(GPP)
味深い結果をひきだした5。
むしろあいまい
8にはよく結合するが, も primitive な機械と技術によってひきだされた,
そのなかの Y 位の Pro を水酸化 Pro(Hyp, hydroxyproline)に置
な結論がなんども繰り返されて引用されるうちにみんなが信じ
換すると,結合しなくなるのである。
8個の Pro のうち1個でも
てしまうということにもなるのである。現に我々の論文も,コ
Hyp に置換すると結合は半分以下になり,
4個も置換するとほと
ラーゲンのそのような教科書的知識からなかなか受け入れても
んど結合しなくなる。水酸化はプロコラーゲンの合成・分泌過
らえないので困っているところである。しかし,retrospective に
程で必須の post-translational modification である。水酸化されるこ
過去のデータを再検討してみれば,水酸化は1本鎖のα鎖にも
とによって3本鎖が安定化されることは先に述べた。つまり
起こるが,それは4
0%程度であり,その後翻訳が完了してから
残りの部分の水酸化が起こって,
3本鎖が安定化し,分泌
されるようになると考えて差し支えないと思われる。我々
のモデルで矛盾はないと思われるのである。
5 HSP4
7はいったい何をしているのか?
それが知りたいところである。最近,大学院生の永井尚
子さんが,HSP4
7のノックアウトマウスを作ることに成功
し た。そ の 結 果 か ら HSP47が コ ラ ー ゲ ン の 正 し い
conformation 形成に必須の蛋白質であることが明らかに
なった。ノックアウトマウスは1
05
. 日目で胎生致死になる
が,興味深いのはプロコラーゲンの分子形状に異常をきた
すことである。Ⅰ型コラーゲンの場合,hsp47+/+ および
7+/- の胎児では,N-propeptide と C-propeptide のプロセ
hsp4
スされた mature type のコラーゲンが組織に蓄積するが,
7-/- のホモでは,両者が切断されていない procollagen お
hsp4
よび C-propeptide がプロセスされていない pC-collagen が主
[図1]分子シャペロンの基質からの解離機構
22
に蓄積する。特に C-propeptide が切られていないと,
bundle
のどれも,現段階では完全には否定できない。
1.HSP47は1本鎖に結合して nascent chains の
folding や凝集を抑えている。
2.3本鎖形成を促進する。
これを示唆する実験
データはいまのところない。
3.プロコラーゲン3本鎖が細胞内で bundle を
形成するのを阻害する。コラーゲンは細胞内
では bundle を作らないことになっており,そ
れは C-propeptide の存在によるとされてきた。
しかし,
C-propeptide だけで bundle 形成が完全
に阻止できるか否かについての証拠はなく,
HSP4
7が結合することによって,分泌経路に
おいてプロコラーゲンが bundle を作るのを妨
げているのかも知れない。
[図2]プロコラーゲンの assembly / processing / secretion における HSP47の働き
4.3本鎖の凝集を防ぐ。最近の報告によれば,
を作ってコラーゲン繊維が作られないことが知られている。実
プロコラーゲンはゴルジ体において巨大な凝集を作ってお
際,組織を調べてみるとコラーゲン繊維はほとんど認められな
り,
これがゴルジの cisternal maturation model のよい証明とも
いのである。また,Ⅳ型コラーゲンについても同様にプロセシ
7が解離してしまうことに
考えられている7。ゴルジで HSP4
ングに異常が見られ,おそらくそのような分子異常を反映して,
よって,それ以後の分泌経路(ゴルジ体)において,凝集
基底膜がほとんど形成されなくなってしまう。
を作るようになるのかも知れない。
永井さんはさらにノックアウトマウスから細胞を樹立し,
5.HSP47によって P4-H による水酸化の速度が調節されてい
7をホモに欠損している細胞から分泌されるプロコラーゲ
hsp4
る。あまりにも過剰に水酸化が起こるとコラーゲン繊維径
ンは正しい3本鎖を作っていないことを,trypsin / chymotrypsin
などに異常が見られるという報告がある。また我々の最近
処理による分解の測定から明らかにした。この実験をさらに意
の知見でも,HSP47は P4-H と基質を競合することによって,
7を入れ戻す実
味のあるものにしたのは,そのような細胞に hsp4
その酵素活性を負に調節している可能性がある8。
験であり,hsp47を導入することによって,分泌されるコラーゲ
6.それ以外。HSP4
7が Serpin(serine protease inhibitor)family
ンのプロテアーゼ抵抗性が回復したのである。
これは HSP47が分
に属するということから,小胞体内でのコラーゲンの分解
子シャペロンとしてコラーゲンの conformation に関与する分子
を阻害するという報告もあるが,これは無いだろうと思っ
であることをはじめて直接示したものである。
ている。HSP47自体にはプロテアーゼの阻害活性はないから
HSP4
7がコラーゲンの生合成に必須の分子シャペロンであり,
である。
マウスの正常な発生にも必須であることは,このような遺伝子
破壊の実験からもはや疑う余地はないように思われる。しかし, 6 HSP47はすべてのコラーゲンに対するシャペロンか?
その作用機構はと問われると,なおはっきりしたモデルを提出
HSP47はこれまで調べたところではⅠ型からⅤ型までのコ
できないのが,残念ながら現実である。我々がもっとも可能性
ラーゲンに等しく結合する。また,HSP47を bait とした酵母 two
のありそうなものとして考えている機能は,次の二つである
hybrid screening によって,新規のコラーゲン様 Gly-X-Y repeat を
(図2)
。
持った遺伝子がクローニングされ,
このことからも HSP47はすべ
1.3本鎖に結合し,水酸化が完全に行われるまで分泌を遅ら
てのコラーゲンに結合することが考えられる。現在コラーゲン
せている。このモデルなら,水酸化によって HSP4
7が基質
は1
9型まで知られているが,しかし,HSP4
7がこれらすべてのコ
から解離する事実が生理的意味をもつ。
ラーゲンに対して分子シャペロンとして本当に機能しているか
2.小胞体におけるプロコラーゲンの quality control
に関与する。永井さんのノックアウト細胞の実験
からは,HSP47が無いと,異常なコラーゲンが分
泌されることがわかっている。何らかの原因で水
酸化ができなかったり,不十分であったりした分
子の分泌を抑えて,小胞体のなかに保持する可能
性がある。以前に報告したデータだが,
細胞を P4H 阻害剤であるα , α '-dipyridyl で処理すると,プ
ロコラーゲンの水酸化が阻害され,プロコラーゲ
ンは分泌されなくなる。この時,HSP4
7はそのよ
うなプロコラーゲンにいつまでも結合したままで
あることをパルスラベルの実験から確かめてい
る 3。
しかしながら,次のようにいくつか想定される機能
[図3]コラーゲンとの蒸発現にかかわる HSP47の転写制御
23
否かは今後確かめるべき問題である。
HSP4
7は single gene であることが致死性の大きな理由であるが,
そのように重要な遺伝子がなぜもっと進化の初期に出現しな
7 なぜ HSP47は小胞体の中で唯一の熱ショック蛋白質なの
か?
かったのか,この理由についてもいまのところ説明はできない
のだが,興味深いところだと思っている。
HSP4
7はほ乳類の小胞体に存在するストレス蛋白質のうちで,
唯一,熱ショック応答によって誘導されるストレス蛋白質であ
最後に
る。他の小胞体ストレス蛋白質のように,UPR 経路を通った誘
10数年もやってきて,まだ作用機構の本当のところはわから
導は起こらない。この意味は不明であるが,
コラーゲンの melting
ない。なんとのろい歩みよと思わざるを得ない。この頃はあち
temperature が体温より少し高い39-4
1程度であることが関係し
こちで HSP4
7をやってくれるラボが増えたが,むしろ応用的,
ているのかも知れない。コラーゲンが少しの熱でも変性してし
臨床的な側面を中心に進めるラボが多くて,なかなか分子機構
まうことから,それを保護するために熱ショック誘導性のスト
を本気でやってくれるところは少ない。孤軍奮闘というより,
レス蛋白質が必要とされるのかも知れない。
孤立無援といった状態で仕事を進めてきた。すっぱ抜かれるの
ではないかとびくびくしながら雑誌を開くスリルとはほど遠く,
8 なぜ HSP47の構成的発現はコラーゲンのそれと共役するの
か?
HSP47はプロモーター領域に,よく保存された HSE を持ち,
あちこちから出てくるデータを,息をつめるようにして読む醍
醐味を味わったこともあまりない。他の研究室と競い,
そのデー
タを参考にして,次の展開を考えるということがあれば,研究
ストレスによって誘導されるが,その構成的発現はほぼ例外な
のスピードは早いのだろうが,一研究室が一歩一歩試行錯誤し
くコラーゲンの発現と共役している。コラーゲンを発現してい
ながら歩いているというのが実感である。
る細胞や組織では HSP4
7を強く発現し,逆もまた真である。発
この頃は,機能がわからない蛋白質を一からやってみようと
生の過程でも,HSP47と各種コラーゲンは spatio-temporal に発現
いう若い研究者が少なくなったような気がする。優秀な学生は
の一致を見せる。コラーゲンの蓄積を主症状とする各種繊維化
多いのだが,先の読めないものには向いたがらない傾向を無し
疾患,肝硬変,肺や腎臓の繊維化などにおいてもコラーゲンの
としない。何をしているのか皆目わからないといったゼロ状態
劇的な発現ともに HSP47も強く誘導される9-11。
で,仕事をするというのは重圧である。問題を解く能力は十分
このような発現の共役は,今や HSP4
7がコラーゲンの正常な生
にあっても,問題を見つける意気込みと,解けない問題を抱え
合成に必須であるという事実と整合性を持っている。HSP47がな
込む能力はどうも別物であるらしい。何かわからないモノにい
ければコラーゲンを合成しても正しく分泌,蓄積されないと考
つまでもこだわり続ける,わからないというコトを楽しむ,こ
えられる。
れを能力というかどうかは別にして,ずいぶん長く一つの蛋白
大学院生の平田晋三(ひろみ)君がこのようなコラーゲンと
の共発現の機構を明らかにすべく,プロモーター解析を行った。
その結果,HSP47の組織特異的な発現には,プロモーター領域の
SP1結合部位とともに第1イントロン中のエレメントの両方が
必要であることが in vitro の細胞を用いたプロモーター解析,in
vivo のトランスジェニックマウスを作成した解析から明らかに
なった12(図3)。興味深いことに,基質であるコラーゲンの多
くのものでも,同様に基質特異的な発現にはプロモーター領域
と第1イントロン中のエレメントの両方を必要とすることが報
告されている。分子シャペロンとその基質が同じような発現調
節機構を持っていることが興味深いが,どのようなトランスの
因子が関与しているのかについては今後の課題である。
9 なぜ進化の後期に現われた HSP4
7が必須遺伝子なのか?
質にこだわり続けてきたものである。
1. Nagata, K., Saga, S. and Yamada, K. M.:J. Cell Biol. 103, 223-229(19
86)
2. Nagata, K. and Yamada, K. M.:J. Biol. Chem. 261, 531-7536(198
6)
3,
3. Satoh, M., Hirayoshi, K., Yokota, S., Hosokawa, N., and Nagata, K.:J. Cell Biol. 13
469-483(1996)
4. Hu, G., ura, T., Sabsay, B. et al.:J. Cell Biochem. 59, 350-367(1
9
95)
5. Koide, T., Asada, S., and Nagata, K.:J. Biol. Chem. 274, 34523-3
45
26(1999)
6. Saga, S., Nagata, K., Chen, W.-T., and Yamada, K. M.:J. Cell Biol. 105, 5
17-52
7
(1987)
93-1
003
7. Bonfanti, L., Mironov, A. A., Martinez-Menarguez, J. A. et al.:Cell 95, 9
(1998)
8. Asada, S., Koide, T., Yasui, H., and Nagata, K.:Cell Struct. Funct.2
4,187-196
(1999)
4
819. Masuda, H., Fukumoto, M., Hirayoshi, K., and Nagata, K.:J. Clin. Invest. 94, 2
2488(1
994)
10. Masuda, H., Hosokawa, N., and Nagata, K.:Cell Stress Chaperone 3, 2
56-2
64(199
8)
11. Nagata, K.:Trends Biochem. Sci. 21, 23-26(1996)
12. Hirata, H., Yamamura, I., Yasuda, K. et al.:J. Biol. Chem. 274, 570
3-357
10(199
9)
HSP47はコラーゲンを発現している細胞では常に発現してい
ることより,ほ乳類以外の下等動物で HSP4
7のホモローグを探す
ことにした。我々のところや他の研究室より,ニワトリや魚類
において HSP4
7が存在することは確認された。しかし,より下
等な動物で,しかもコラーゲン様の分子を持っているもの,た
ジスルフィ
ド結合の形成に働く
細胞機能:A personal account
とえばショウジョウバエ,線虫,ウニ,ホヤなどでは我々がやっ
たかぎりではついにホモローグは発見できなかった。
これらのコラーゲン様物質は HSP4
7を必要としないのであろ
伊藤 維昭
(京都大学ウィルス研究所)
うか。結論は出ていない。いずれにしても HSP47は進化のかな
り後期に現われた遺伝子であると言うことができる。
普通進化の後期に現われた遺伝子の場合,それを欠損させて
ンパク質フォールディングのステップの中で,化学結合の
タ 変化を伴うものにジスルフィド結合(S-S 結合)の形成が
も致死性にはならないことが多い。
しかし HSP4
7は致死であった。 ある。S-S 結合は,細胞表層タンパク質に特徴的に見られ,真核
24
細胞では ER 内
Beckwith(左)と伊藤(右)
DsbA の redox 状態
腔で,大腸菌で
DsbA の発見の後,生化学者が次々と参入し,X 線構造が決定
はペリプラズ
され,酵素化学的な研究が詳しくなされた。DsbA の活性中心
ムにおいて,膜
Cys3
0-His-Pro-Cys33のうち,Cys3
0は pKa が異常に低く反応性が
を越えて輸送
高い。DsbA は,この Cys ペアーが還元状態にある方が,熱力学
されたタンパ
的により安定である。すなわち DsbA は酸化力が強く自らは還元
ク質に対して
されやすい。それにも関わらず DsbA は細胞中で完全に酸化状態
導 入 さ れ る。
に保たれていることを我々は示した5。但し,DsbB 欠損変異株
Cys 残基ペアー
中では完全に還元型となる。細胞内での DsbA の redox state アッ
の酸化という
セイに関しては,混乱があった。Bardwell や Raina らは,細胞か
単純な化学反
らペリプラズム分画を調製し,DsbA の Cys 残基が SH 修飾試薬
応だから,Anfinsen の古典的実験を引き合いに出すまでもなく,
で修飾されるかどうかをアッセイした。我々は,DsbA は native
酸化還元環境次第で「ひとりでに」起こり得る。しかし,生体
な状態では,細胞破砕後(すなわち DsbB とのカップリング破壊
内で S-S 結合が有効に形成されるためには,「ひとりでの」反応
後)人工的に還元されてしまうため,彼らのアッセイは不適切
では全く不十分である。大腸菌の DsbA の発見を契機に明確に
であることを指摘した5。細胞内の状態を正確に調べるには,培
なったこの事実は,一般的なフォールディングにシャペロンが
養液に直接 TCA を加えて,細胞の全タンパク質を変性・沈殿さ
必要であることと似ていると言えなくもない。この分野は最近
せ,そ の 沈 殿 を SH 修 飾 試 薬 を 含 む SDS に 可 溶 化 す る
著しい進歩を遂げつつあり,筆者らの研究も,敢闘賞くらいに
(iodoacetoamide などによる修飾は,SDS 可溶化後の酸化反応防止
は値するかもしれないと思い,主観的紹介をする。
に必要である)
。この場合,ポリペプチド鎖拘束の有無による
SDS-PAGE での微妙な移動度の違いから,酸化還元状態がわかる。
DsbA の発見
その後,変性後の修飾を分子量が大きいアルキル化剤である
我々が大腸菌のペリプラズム酵素アルカリ性ホスファターゼ
AMS(4-acetoamido-4'-maleimidylstilbene-2, 2'-disulfonic acid)で行
(PhoA)の活性構造の形成を許さないような Tn5挿入変異を同定
うと,酸化型・還元型の分離が明瞭になることを利用して改善
して,その遺伝子の配列を決定したのは1
9
91年の夏であり,
9月
した6。現在やっと「TCA 法」が redox-active proteins の細胞内酸
にコンスタンスで開かれた「マルトースミーティング」にその
化還元状態を調べる最善の方法であることが理解され,酵母な
データを持って出かけた。当時 Jon Beckwith, Jim Bardwell らは,
どもでも標準的に使わるようになってきた(しかし,こういっ
膜タンパク質の膜への挿入を損なう変異を探していた。彼らは,
た単純なことがなかなか理解されない)
。
膜タンパク質のペリプラズム領域に細胞質酵素 LacZ が融合した
もの(MalF-LacZ)を用い,その酵素活性を上昇させる(LacZ を
DsbB による DsbA 酸化の機構
細胞質局在性に戻す)変異を探した。Jon との雑談中,彼らの得
我々は DsbB の同定で後れをとったが,DsbB による DsbA の
たものは,我々が見出したものと同じ遺伝子(我々は当初 ppfA
再酸化機構で挽回した。まず,DsbB の Cys の一つ(Cys104)が
と命名したが後に dsbA に統一)であり,Cell1に投稿済みとのこ
直接 DsbA の Cys30と中間状態の分子間 S-S 結合を作る。
これは,
とが判明。なお,MalF-LacZ の LacZ 部分の一部は,野生株中で
Cys3
3を欠く DsbA を用いると反応が途中で停止するため検出で
はペリプラズムへ移行して,その部位にたまたま存在する Cys 残
きる7。DsbA を直接酸化するのは DsbB の C 末端側ペリプラズ
基間に S-S 結合が架かり,ペリプラズム局在性が固定化する。し
ムドメインの Cys10
4-Cys1
3
0である。引き続いて DsbB の N 末端
かし,DsbA 欠損状態では,そのような SS 結合ができないため
側ペリプラズムドメインの Cys41-Cys44に電子が受け渡される。
LacZ 部分は最終的には細胞質に逆戻りして,活性構造をとると
以上が,我々が解明・提唱したメカニズムである8。
説明できる。会議終了後,直ちに列車の中,飛行機の中で
原稿書きを開始,9月末に EMBO J. に投稿したが出版は
19
92年1月号となった2。上記とは別に,Satish Raina らは,
大腸菌の DTT 感受性を指標にした変異株スクリーニング
で,DsbA, DsbB(下記参照)を同定した3。
DsbB
PhoA 活性をコロニーの色で判別する我々のスクリーン
ニングでは,残念ながら DsbA しか同定できなかったが,
Bardwell スクリーニングではその後,DsbB 変異株が分離さ
れ た4。Raina ら の 方 法 で も DsbB, DsbC, DsbD な ど
additional factors が見つかってきた。DsbB は4回膜貫通タ
ンパク質で,二つのペリプラズム領域に活性に必須の Cys
を2個ずつ持つ。その機能は DsbA の再酸化によるリサイ
クリングにあると提唱された。
細胞内ジスルフィド結合形成のモデル
25
DsbB-DsbA 系は呼吸鎖成分に連結している:上記のメカニズ
とが解明できた9。なお,上記
ムでも,S-S 結合形成に必要な酸化力がどこからくるのか(DsbB
実験結果から,DsbB には DTT
からどこに電子が受け渡されるのか)と言った根本問題が残る。 など低分子還元物質を呼吸鎖
呼吸鎖へ電子が流れると行った可能性は誰でもが考えるであろ
と酸素に依存して酸化する活
う。我々はこのことを初めて実験的に示した(最近読み直して
性があるものと考えられ,我々
4
認識したが,Bardwell の DsbB 同定の論文 でも呼吸鎖の関与の可
はこのような活性を in vitro で
能性は議論されている)。我々と同様な実験は Beckwith 研でも
観 察 し て い る。in vivo で も,
行った形跡があるが,彼らは成功していない。問題の実験とは,
DsbB を過剰生産すれば(DsbA
呼吸鎖欠損変異株での異常を見ることである6。我々は,岸上君
が欠失していても)細胞自体の
が観察したわずかな兆候を追っていた。ヘム合成初発反応欠損
DTT 抵抗性が増す。すなわち,
変異株 hemA で,中間体5−アミノレブリン酸(ALA)を培地
ペリプラズムが酸化的環境に
から除くことによって,ヘムを欠乏させる。増殖は一定の濁度
あると言われることがあるが,
で停止する。その時点で,ヘム欠乏の効果が出ているはずと考
「酸化的環境」の本体は DsbB が
えた。しかし,DsbA にも分泌タンパク質にもほとんど異常は見
インターフェイスになり,呼吸
られない。小林さんはこの状態の菌を新たな同一組成の培地(-
鎖・酸素によって与えられているのではないだろうか?
岸上
ALA)に植えたところ,また,1回目と同じ程度の濁度まで増殖
して止まった。この増殖パターンは繰り返すことができ,その
時徐々に DsbA の還元状態のものが生じていった。考えてみれば,
DsbB のキノンによる直接酸化?
Bardwell は独立研究室を持ち,最近も SH → S-S 変換で活性化
グルコースを加えてあるので,呼吸できなくても発酵でエネル
されるシャペロン(Hsp33)を発見する10など活躍している。彼
ギーが得られるはずである。上記の実験で見られた増殖停止は
らは,DsbB による DsbA 酸化反応を in vitro アッセイする系を確
ヘム欠乏のためではなく,培地の酸性化によることが明らかと
立してこの反応を解析した。第1報では,この反応が酸素除去
なった。これを防ぐためバッファーを添加した培地を用いると,
によって起こらなくなることから,酸素の直接関与を示唆して
増殖はゆっくりながら継続し,この時徐々にヘム欠乏の真の効
9
9年の Cell7月号の第2報12では,さらに DsbB の精製
いた11。19
果がでていった:まず DsbB が還元状態となり,次いで過剰にあ
標品を用いた。最初,精製標品でも活性があったが,混在する
る DsbA との分子間 S-S 結合複合体となった(DsbB 活性は失わ
何らかの成分の関与を疑って調べた。わずかに混在していた
れた)
。その結果,DsbA は還元状態に移行し,最終的には S-S
cytochrome oxidase が 実 際 に 関 わ っ て い た と い う。さ ら に,
結合を欠く分泌タンパク質が蓄積し始めた。おそらく他の研究
cytochrome oxidase に結合していたキノンがこの反応に必要であ
室では,同じ変異株を用いても培地の酸性化効果に気づかず,
ることを突き止めた。彼らの結論によれば,キノンが DsbB を直
増殖が停止したのは,ヘム欠乏のためでありその時効果が最も
接酸化する。cytochrome oxidase はキノンを再酸化してリサイク
よく現れていると考えたのだろう(私自身も,同じ培地での培
ルさせる。このように,Dsb システムからキノンを介して電子が
養の繰り返しと言った小林実験の発想は持たず,彼女なしには
流れることが,S-S 結合形成には必要である。最終的な電子受容
この発見はできなかったかもしれない)
。加えて,新たな分泌タ
体は酸素でなくてもよい(嫌気状態ではメナキノン,fumarate
ンパク質という DsbA の基質が供給されない増殖停止時には,元
reductase を介して fumarate に電子が受容される)。我々は,DsbB
来 DsbA は還元状態になりにくい(蛋白合成阻害剤を用いた実験
と呼吸鎖を繋ぐ何らかのタンパク性因子の介在を想定していた
で確認)
。ヘム欠乏時のみならず,ユビキノンとメナキノンを同
ので,彼らの報告はショックであった。キノンが直接働くとす
時に欠乏させた場合にも,全く同様に Dsb システムの機能不全が
れば,Cys4
1-Cys4
4が標的と言うことになるので,現在この方面
6
起こった 。
からの Bardwell 説の検証と,DsbB がキノンと直接反応できるの
は何故かの解明を目指している。また,我々は DTT 抵抗性の観
呼吸鎖のターゲットの同定
次に,DsbB の各 Cys 残基の redox state を決めた。正常細胞で
察から,効率よい反応には DsbB が膜に組み込まれていることが
必 要 で あ る と 考 え て い る が,
は両ペリプラズム領域とも酸化状態にある。N 末側ドメインの
Bardwell らは界面活性剤可溶化
Cys を欠く変異体では C 末側ドメインは還元状態となる
(上記の
状態のアッセイをしており,彼
我々のモデルと一致する)。一方,
N 末側ドメインの Cys41-Cys44
らの説と in vivo 状態との突き合
S-S 結合は,細胞中でも,膜標品中においても DTT で還元する
わせは今後必要であると思っ
ことができない。この還元剤抵抗性は,以下の場合に失われる:
ている。いずれにせよ,
Bardwell
()膜を可溶化したとき,
()キノンあるいはヘム欠乏状態
らが精製標品への微量成分混
の膜を使ったとき,
()膜サンプルを窒素置換したとき。以上
在を疑ったのは,我々のヘム,
のことから DsbB の Cys4
1-Cys4
4は,呼吸鎖成分を介して酸素に
キノンの必要性を報告した論
よって極めて強く酸化されていることが強く示唆される。DTT
文があったためとしか考えら
抵抗性は,たとえ DTT によって一瞬還元されても直ちに酸化さ
れないのだが,Nature の News
れるのだ,と説明可能である。以上によって,S-S 結合形成に伴
and Views13は,我々の最初の論
う電子は 新生分泌タンパク質→ DsbA → DsbB(Cys10
4-Cys13
0
文には触れず「精製標品にすら
→ Cys4
1-Cys44)→呼吸鎖成分→酸素 の経路で受け渡されるこ
疑いを持って解析したことの
26
小林
教訓」を垂れている。Nature から門前払いを喰った我々として
は憤慨を覚えたものである(遠藤さんにメールを出したり……
でも,今は遠藤さん期待の過激な文章はうまく書けません)
。
9. Kobayashi, T. and Ito, K.(1999)EMBO J. 18, 1192-1198
1
0. Jakob, U., Muse, W., Eser, M. and Bardwell, J. C. A.(1999)Cell 9
6, 341-352
3,
1
1. Bader, M., Muse, W., Zander, T. and Bardwell, J. C. A.(1
998)J. Biol. Chem. 27
10302-10
307
12. Bader, M., Muse, W., Ballou, D. P., Gassner C. and Bardwell, J. C. A.(19
99)Cell 98,
217-227
真核細胞では?
ER には Protein disulfide isomerase(PDI)が存在することが古
くから知られるが,その本当の役割が確立したとはいえない。
一方,ER には酸化型グルタチオンが優先的に輸送されて存在す
るために,これによって S-S 結合形成がドライブされるとの考え
が根強く存在してきた。Chris Kaiser らは,酵母を用いてこの1,
2年これらの問題の break through となる発見をした。彼らは
13. Glockshuber, R(1999)Nature 401, 30-31
14. Frand, A. R. and Kaiser, C. A.(1
998)Mol. Cell. 1, 161-170
5
15. Cuozzo, J. W. and Kaiser, C. A.(1998)Nature Cell Biol. 1, 130-13
16. Frand, A. R. and Kaiser, C. A.(1
999)Mol. Cell 4. 469-477
17. Suh, J. -K., Poulsen, L. L., Ziegler, D. M., and Robertus, J.(1999)Proc. Natl. Acad.
Sci. USA 96, 2687-2691
34
9-103
52
18. Sone, M., Akiyama, Y. and Ito, K.(1
997)J. Biol. Chem. 272, 10
19. Stewart, E. J., Katzen, F. and Beckwith, J.(1999)EMBO J. 18, 5
96
3-597
1
Ero1p を発見し,これが欠損すると S-S 結合が不全となる,逆に
グルタチオン欠損状態でも S-S 結合は形成されることを見出し
た14。ER に酸化型グルタチオンが多いのは,Ero1p がグルタチオ
ンを酸化するためであり,グルタチオン自体は分泌タンパク質
と Ero1p をめぐって競合状態にあるらしい(長年,結果が原因と
枯草菌におけるポストゲノム研究
:シャペロンと分泌蛋白質
Ero1p は PDI
思われていたことになる)15。さらに重要なことは,
を酸化状態に保つために必要であることである16。Ero1P は DsbB
山根 國男
に類似した機能を持ち,S-S 結合導入酵素(PDI あるいは他の因
(筑波大学・生物科学系)
子)に酸化力を供給しているものと思われる。なお,Ero1p がグ
ルタチオンを酸化するとすれば,
DsbB が DTT を酸化することと
ト・ゲノムの解析を頂点にイネ,シロイヌナズナ,各種微
もアナロジーが成立する。この分野の総説や論文でほとんど無
ヒ 生物等のゲノムの解析が盛んに行われて居り,次のポスト
視されているが,私はもう一つの論文に注目している。Robertus
ゲノムシークエンシング時代にどう突入するか論議されている。
らは yFMO(flavin-containing monooxygenase)欠損変異株では酸
枯草菌はグラム陽性細菌の代表として,また産業用酵素生産菌
化型グルタチオンの ER 内蓄積が見られず,S-S 結合形成が不全
の代表として,ゲノム解析が1
99
1年から日本-EU30研究室の共同
1
7
となることを報告した 。yFMO が Ero1p を酸化状態に保つ因子
研究として始められ,1
9
97年に4
6研究室151名の共同研究として
である可能性が考えられる。
,1
5 kb で4
10
0遺伝子が見
Nature に発表された1。染色体は全長42
出された。
日本で分担したのは全体の1/3に当る13
, 69kb であっ
S-S 結合形成因子の特異的レドックス制御
大腸菌に戻って,DsbC はイソメラーゼ活性が高い。我々は,
た。枯草菌は胞子を形成すること,蛋白質分泌能が高いこと,
外から与えた DNA を取り込んで形質転換すること等,大腸菌に
in vivo で DsbA はある種のタンパク質に対しては間違った組み合
見られない特性を持っているので,その分複雑で染色体のサイ
わせの SS 結合を作ってしまうが,DsbC はそれを正しいものに直
ズも大きく,遺伝子数も多いと思っていた。ところが大腸菌染
す活性を持つことから,DsbC が確かに isomerase として機能する
色体よりも約4
0
0 kb も短く,また遺伝子数も約200少ないことが
1
8
ことを示した 。Beckwith らによれば,DsbC は DsbA とは逆に, 分かった。これは枯草菌を研究しているものにとっては意外で
その Cys-X-X-Cys モチーフは還元状態に保たれる。この還元には, した。
膜タンパク質 DsbD, チオレドキシンなどの働きが必要である19。
明らかにされた4
10
0遺伝子のうち5
8%が機能既知あるいは,
したがって,還元力の源は NADH に帰す。以上紹介したように, 機能推定可能遺伝子である。また残りの42%,約1
700遺伝子が
複数の因子の役割分担によって正しい S-S 結合の形成が実現す
機能未知である。この中には現在約5
00個の遺伝子産物は他生物
る。そして,これらの因子は,それぞれ一見似かよった Cys-X-
の機能を推定不能遺伝子産物と類似性を示している。しかし約
X-Cys 等の酸化還元活性部位を持つものの,それらは,特異的な
12
0
0遺伝子の産物はいかなる蛋白質の既知配列とも有意な類似
レドックス状態に保たれるよう厳密な制御を受けている。この
性を示さない。これらの遺伝子産物の中には枯草菌の特性に直
制御はいずれも膜タンパク質を介して,細胞の基本メタボリズ
接関係するものが含まれる可能性は充分にある。そこで枯草菌
ムに連なるかたちでなされている。
の持っている形質転換能を利用した網羅的な遺伝子破壊株の作
1. Bardwell, J., McGovern, K. and Beckwith, J.(19
91)Cell 6
7, 581-589
2. Kamitani, S., Akiyama, Y., and Ito, K.(1992)EMBO J. 1
1, 57-62
3. Missiakas, Georgopoulos, C. and Raina, S.(1
9
9
3)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA90,7
0847
08
8
4. Bardwell, J. C. A., Lee, J. O., Jander, G., Martin, N., Belin, D., and Beckwith, J.
(1993)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 9
0, 1038-1042
5. Kishigami, S., Akiyama, Y. and Ito, K.(199
5)FEBS Lett. 3
64, 55-58
6. Kobayashi, T., Kishigami, S., Sone, M., Inokuchi, H., Mogi, T. and Ito, K.
(1997)Proc.
Natl. Acad. Sci. USA 9
4, 11857-11862
7. Kishigami, S., Kanaya, E., Kikuchi, M. and Ito, K.(19
95)J. Biol. Chem. 270, 1707217
07
4
8. Kishigami, S., and Ito, K.(1
9
96)Genes to Cell 1, 20
1-2
08
成が日本-EU の共同研究として進められ,現在約2
00
0遺伝子の破
壊株が作られている。今後さらなる機能未知遺伝子産物の解析,
遺伝子産物間の機能上の相互作用・ネットワーク等ゲノム解析
の結果を利用して解析可能となった問題が進められる予定であ
る。
Ⅰ)シグマ因子と分子シャペロン
枯草菌と大腸菌の大きな違いとして,シグマ因子と分子シャ
ペロンの差異がある。二成分シグナル伝達系,
ABC トランスポー
タ系,蛋白質合成系等の基本的なものはだいたい同じと考えて
27
ここに dnaK オペロンの最初の遺伝子の産物で
ある HrcA がリプレッサーとして結合している
と考えられている3。HrcA が何らかのストレス
で失活またははずれることによって dnaK や
groE 等の熱ショック遺伝子が発現し,蛋白質が
合成されると考えられている。
枯草菌の熱ショック蛋白質は誘導機構に
よって以下の四つのクラスに分けられている4。
1)CIRCE によるもの
DnaI, DnaK, GroEL, GroEs, GrpE, HrcA
2)σ B 因子によるもの
SigB, KatB, GroA, 多種類の GSP など30種
類以上
3)σ B 因子に依存しないで誘導される熱
ショック蛋白質(σ A によって転写される
がその誘導機構は不明)
Clp ファミリー蛋白質,HtrA(Do プロゲ
アーゼ)
,FtsH, LonA, SecA 等約20種類
4)シャペロン活性の推定されるもの1
2種類
いる。枯草菌ではゲノム解析以前σ A, σ B, σ C, σ D, σ E, σ F,
一方大腸菌の H-NS, FIS, SeqA, MakB, SfiA, FtsZ, SecB 等
0種類のσ因子が生化学的・遺伝学的に明
σ G, σ H, σ K, σ L, の1
のシャペロンに相当する蛋白質は枯草菌には見出されてい
らかにされていた。ゲノムの全塩基配列が明らかになった現在
全部で19個のσ因子が推定されている。上述の1
0種類のσ因子
ない。
枯草菌には多種類のσ因子が存在し,自然環境の変化,特に
のうちσ L を除いたものは大腸菌σ70に相同性を示す因子であり, 栄養状態の変化に対して,胞子を作って対応する性質がそな
またσ c の遺伝子は不明である。枯草菌は外的なストレス,栄養
わって居り,大腸菌における熱ショックやストレスに対する対
源の枯渇等,を感知して胞子を形成する。この目的のために細
応とは異なると予想されている。枯草菌が進化の過程で獲得し
胞の不等分裂を起し,母細胞と胞子の間に隔壁を作って,それ
てきた生存のためのシステムであると考えられる。
ぞれが別々のカスケードを通って発育していく。しかし,一方
では互いに情報を交換して,母細胞は胞子に栄養を与え,やが
Ⅱ)枯草菌菌体外蛋白質プロテオームの解析
て母細胞は溶けてしまい,胞子のみが残る。このカスケードを
枯草菌におけるポストゲノム時代としての研究として,熱
行うために,それぞれの細胞が別々の遺伝子群を発現させるた
ショック,酸素飢餓,グルコース飢餓,高塩濃度等で誘導され
めに多種類のσ因子を必要とした。σ E, σ F, σ G, σ H, σ K は胞
る蛋白質群やカタボライト抑制のかかる遺伝子群等の研究,お
子形成に特異的なσ因子である。
よびそれらのネットワークに関する研究が二次元ゲル電気泳動
A
一方σ はハウスキーピングな全ての遺伝子に関与し,大腸菌
法と TOF MASS を組み合わせて研究されてきている。我々はポ
7
0
B
σ に相同なものである。ところがσ はストレス応答に関係す
ストゲノム研究の一つとして,枯草菌菌体外酵素のプロテオー
るσ因子で熱ショック,高塩濃度,酸化,酸素欠乏,グルコー
ムを二次元電気泳動法と各スポットのアミノ酸配列の解析によ
ス飢餓など,さまざまなストレスに対応する遺伝子の発現を支
り,プロテオーム構成蛋白質の遺伝子を解析した。次にそれら
配しており,GSP(General stress protein)の誘導機構に係わって
のスポットが SecA または Ffh に依存しているか否かを比較する
2
D
L
いる 。σ はベン毛形成,σ は窒素代謝を制御するσ因子で
ことによって,蛋白質分泌経路が解析できると考えた。
大腸菌σ54に相当する。しかしその他9種類のσ因子はどんな目
枯草菌はα- アミラーゼやプロテアーゼ等の有用酵素の分泌
的のために遺伝子の発現・制御を行っているか全く分かってい
生産量が高いと言われてきているが,その他の分泌蛋白質の生
ない。
産はどのようになっているのだろうか?まず第一に4
10
0遺伝子
B
次に熱ショックなど一般的なストレスに対してσ 因子を発
産物のうちシグナルペプチドをその前駆体中に存在すると予想
現させて外界の変化に効応している枯草菌はどのような分子
される遺伝子産物をシグナルペプチド予想ソフト(BSORT ソフ
シャペロン系を持っているだろうか? もちろん分子シャペン
ト)によって抽出した。その結果約2
5
0種類の遺伝子産物が候補
を含んだストレス蛋白質全体のことである。枯草菌における分
として選択できた。個々の遺伝子産物の N- 末端付近のアミノ酸
子シャペロンの誘導機構は大腸菌の場合とは全く異なる。大腸
配列を確認し,選択したところ,1
38種類の遺伝子産物がシグナ
3
2
菌におけるストレス誘導機構は,まず熱ショックの因子(σ )
ルペプチドによって細胞膜を通過しうる蛋白質として推察され
が主として翻訳レベルで誘導され,引き続いて多くの熱ショッ
た。
ク遺伝子群の転写が誘導される。枯草菌では,このような熱
蛋白質成分としてはα- アミラーゼ,レバンシュークラーゼ,
ショックの因子は存在しない。その代わりに groE や dnaK のプ
β- グルコシダーゼ等糖質関連酵素が1
2種類と最も多く,次にア
ロモータの直下に CIRCE(controlling inverted repeat for chaperon
ルカリ性プロテアーゼ,中性プロテアーゼ,ペプチダーゼ等プ
expre-ssion)が存在し,オペレータとしての役目をもっている。
ロテアーゼ・ペプチターゼ類1
0種類等63種類が既知または他生
28
が欠損している条件下で培養した培地から蛋白質を回収し,二
次元ゲル電気泳動法で解析した。SecA 欠損では9
0%以上のス
ポットが,また Ffh 欠損では8
0%以上のスポットがなくなってい
ることが分かった。図1の3
8スポットでは3
1スポットが SecA 欠
損と Ffh 欠損の両方で全く見られなくなり,
5スポット(*を付
けた M2, E3, E:YfnI, E4:XkdG, M3)は SecA 欠損で全くなく
なり,Ffh 欠損で非常にうすくなった。すなわち,3
8スポット中
36スポットが SecA と Ffh の両者に依存していたことになる。残
る2スポットは SecA と Ffh に非依存の蛋白質であり,Hag と Gap
であった。Gap は細胞内蛋白質である。表1に示す SodA は Ffh
欠損の条件下で強く現れる Superoxide dismutase である。
一方前述の培養条件では C 源としてグルコースを用いたため
に,カタボライト抑制がかかっている分泌蛋白質が多数あると
考えて,C 源をセロビオース,マルトース,可溶性デンプン(各
04
. %)に置き換えたところ,新たに約2
0種類のスポットを得る
ことができた。部分的に N −末端のアミノ酸配列を解析したと
[図1] 二次元ゲル電気泳動による枯草菌菌体外蛋白質の解析。一次元目は Amersham
Immobiline Dry Strip pH 3-1
0L を利用した等電点電気泳動で,また2次元目は通常
の SDS ゲル電気泳動で展開した。図は20mg のサンプルを展開後,銀染色した。
ころ,α- アミラーゼ,Vpr セリンプロテアーゼ,1-3 β- グルコ
産物の酵素と相同性を示すものであった。また残りの7
4種類は
欠損と Ffh 欠損では現れていないものである。さらにα- アミ
全く機能が分からないものであった。
ラーゼ・プロテアーゼ高生産株やリン酸欠乏条件下での培養な
シダーゼ,
等が含まれていた。これらのスポットはいずれも SecA
次に枯草菌標準株(Bacillus subtilis 1
68株)を最小培地(04
. %
どを現在行っている。これらの結果を総合して,枯草菌では15
0
グルコース,50 / トリプトファンを含む)で培養し,対数増
∼18
0種類の蛋白質を培地中に生産していると考えている。この
殖期後期の培地にプロテアーゼ阻害剤 PMSF を加えた後,細胞を
結果はヨーロッパでコンピュータ解析で得られた結果と一致し
除き,培地中の蛋白質を回収した。得られた標品を二次元電気
ている。
泳動法で展開し,銀染色したものを図1に示した。1
00∼1
10個
のスポットを得ることができた。多くの分泌蛋白質は細胞増殖
Ⅲ)枯草菌における蛋白質分泌経路の解析
が停止した静止期前期に主に分泌生産されるが,この時期にな
枯草菌にはヒトやイヌの SRP の RNA 成分である SRP 7S RNA
ると部分的に溶菌が起って多種類の細胞内蛋白質が培地中に現
(300塩基)に類似した small cytoplasmic RNA(scRNA, 2
7
1)が存
れ,分泌蛋白質と区別することが非常に難しい。
在し,SRP 様粒子(82
. S)が存在することを明らかにしてきた。
図1中約10
0個のスポットの中からはっきり他のスポットと
一方枯草菌には大腸菌蛋白質分泌系でシャペロンとして機能す
区別できるものを38個選択した。
それらのスポットを PVDF 膜に
る SecB がないことから SRP 様粒子がシャペロンとして機能して
ブロットして N- 末端付近のアミノ酸配列を気層シークエンサー
いると考えている。
(アプライド バイオシステム社492型)で解析したところ,20
枯草菌 SRP 様粒子は scRNA 以外に蛋白質成分として少なくと
種類のスポットについて配列を得ることができた(表1)
。その
もヒト SRP54蛋白質相同因子,Ffh, およびヒストン様蛋白質
うちスポット C1と C2は同じ配列であり,
pel の産物でペクチン
HBsu(2糧体)から構成されている。Ffh 中の M- ドメインで分
酸分解酵素と推定された。またスポット C4と J は wprA の遺伝
泌蛋白質前駆体と結合する。また Ffh は SecA とも結合し,SecA
子産物がプロセシングを受けて生成された分解物で,スポット
と前駆体蛋白質の結合を増大させることを明らかにしてきた。
C4はプロペプチド CWBP2
4であり,スポット J はセリンプロテ
一方前駆体蛋白質の細胞膜通過には大腸菌 SecA, SecD, SecE,
アーゼである CWBP5
4であることが分かった。
その結果1
8種類の
遺伝子産物を解析したことになった。1
8種類のうち1
3種類がそ
の前駆体にシグナルペプチドを持つと推定されたものであった。
但し13種類のうち2種類は BSORT によっては候補に入ってい
なかった。残り5種類のうち2種類は膜蛋白質と推定された遺
伝 子 産 物 で あ り,他 は 鞭 毛 蛋 白 質,Hag;Glyceraldehyde-3phosphate dehydesgenase, Gap;枯草菌不完全ファージ PBSX に由
来する分泌蛋白質,XhdG であった。
次にこれら蛋白質分泌生産への SecA と SRP への依存性を調べ
41を,また
た。SecA については SecA 温度感受性変異,secA3
SRP の主要蛋白質成分,ffh の発現が IPTG によって制御可能な
0
5:ffh を B. subutilis
spac-1プロモータの下流に導入した pTUE9
168にそれぞれ導入した条件変異株を利用した。枯草菌α- アミ
ラーゼ,β- ラクタマーゼ等分泌蛋白質の生産は SecA と Ffh の
両者に依存することは既に調べられている。
そこで SecA 又は Ffh
[図2]
枯草菌における推定蛋白質分泌経路。A-D, 4種類の推定蛋白質分泌経路。
△,Signal peptideases による予想切断点。枯草菌には少なくとも5種類の Signal
peptidase がある。
29
SecF, SecG, SecY の相同蛋白質(SecD と SecF は融合蛋白質と
一方上述の枯草菌菌外蛋白質プロテオームの解析では大部分の
なっている)が関わっていることが明らかにされている。これ
枯草菌菌体外蛋白質の分泌生産は SRP と Sec 蛋白質群の共同作
らの結果から枯草菌蛋白質分泌経路においては翻訳された前駆
業によっていることは明らかであると考えている。
体蛋白質はシグナルペプチドによって Ffh に結合し,Ffh-SecA-
これらの解析とプロテオームの解析から枯草菌における蛋白
前駆体蛋白質のコンプレックスを形成する。次に FtsY が作用し
質分泌系は図2に示すように少なくとも3種類あると推定され
て,SecA- 前駆体となり,SecEYG translocase によって細胞膜を
通過すると予想している。これらの過程はまだ充分には証明さ
れて居らず,今後各ステップを明らかにしたいと考えている。
る。
(1)シグナルペプチドによって分泌される系:SRP と Sec 蛋白
質群の共通作業によって分泌される系。
て作った流行のスライドはきれいすぎて学生たちに誤った印
象を与えるから,と拒否。きれいに準備された医学部階段教
室の黒板と多色のチョークのみを使って始まった。テーマは,
遠藤斗志也
この分野の研究の歴史に自身の研究の轍を重ねて振り返り,
研究において何が大事かを若い研究者に伝えたいということ
今 回 は,永 田 さ ん は レ
らしい。
(1)
「研究を進めるにあたってはまず仮説を立てよ」。
ビ ュ ー を 書 か れ た た め, かつて,タンパク質合成の場所(サイトゾル)と機能の場(オ
「シャペロンの散歩道」は
ルガネラ内)が生体膜という障壁で隔てられている,細胞は
お休みです(期待されてい
この難問をどうやって解決するのだろうか,というのが大き
た方,ごめんなさい)
。そ
な問題であった。そこで,オルガネラの中でタンパク質が作
のかわりに,私がスペース
られれば問題が解決するだろう,ということでこれを作業仮
をもらうことにしました
説として実験が行われ,ミトコンドリア内にゲノムとタンパ
(今回は集まった原稿の量
ク質合成系があることが見いだされた。
(2)
「次にその仮説を
が過去最大で,そんな余裕
否定せよ」
。
ところがミトコンドリア内の DNA の絶対量はきち
はないはずなのですが)
。
んと定量すると,ミトコンドリア内のタンパク質のすべてを
3号 で 大 場 さ ん が
コードするには不十分であった。ということは,ミトコンド
Schatz 研 で の 思 い 出 を 書
リアのタンパク質の大部分はミトコンドリアの外で作られて
いておられたが,Neupert
から,ミトコンドリアの中に運ばれねばならない。インポー
とともにミトコンドリア
トのシステムの存在がここに次の仮説として浮上するわけで
生合成の研究をリードしてきた,Schatz が昨秋引退されたこと
ある。その後,彼自身ミトコンドリアタンパク質のインポー
はご存知の方も多いかと思う。その彼が12月,分子生物学会
トシステムを次々に解明した行ったのはご存知の通りである。
の直前に九大の三原さんの招待で,奥さんとともに日本に
また彼は,
(3)
「誰でも間違いの論文を書いてしまうことは
やってきた。主な目的は,全国に散らばる旧 Schatz 研関係者(ポ
ある。問題はそれについて誠実かつ正直に始末をつけること
スドクとして留学した人など)や友人たちと会うことであっ
だ。
」とも言った。彼の頭の中には,長年の Neupert との論争
たが,三原さんへのお礼もこめてであろうか,九大医学部で
の数々があったのであろうか。ミトコンドリア内で膜間部に
特別にレクチャーを行った。
9月にラボを閉じてからは,あら
タ ン パ ク 質 が 仕 分 け ら れ る 経 路 に つ い て,「stop transfer」
ゆる学会講演を断ってきていたので,これが本当の最後のサ (Schatz)か「conservative sorting」(Neupert)かという論争が
イエンスの講演になるということであった。
あった。Jeff がまず前者を提唱し,続いて Nuepert(と Hartl)
Jeff のキャラクターをご存知ならば想像できると思うが,彼
が後者をぶち上げ,Hartl の実験の数々によって後者が次第に
の講義の面白さには定評がある。私が彼の研究室にいた86-8
8 有利になってきた。Jeff のラボでも追試を行い後者が正しいよ
年当時は,バーゼル大学の学部学生向けの生化学の講義と大
う に 見 え た と き,Jeff は い っ た ん「The issue dserves further
学院生向けの「Membrane Biogenesis」の講義(こちらは数年
study, but current evidence favors the second model.」とレビュー
に1回)を持っていた。学部の講義では,たとえばエネルギー
の中に書いている。その後,Jeff のラボの新しいポスドクがこ
の通貨としての ATP の話のときは,こっそりと教室の後ろに
の問題の再検討を行い,結局前者が正しいらしいということ
ラボのテクニシャンを忍び込ませ,
Schatz 先生が ATP の大きな
になり,結論はもう一回ひっくりかえる。しかし Neupert はい
分子模型からリン酸基を一つはずすと,そのタイミングに合
まだにそれを認めていない。われわれも教訓とすべきであろ
わせておもちゃのピストルをパーンと鳴らすという仕掛けを
う。
用意していた。自由エネルギーの解放を,学生に実感させる
若い学生さんたちからも質問が色々出るなど,とても良い
わけである。また大学院の講義では,単に現在の知識を紹介
雰囲気のなかで講演は終了した。拍手もなかなか鳴りやまな
するのではなく,それらの知識が発見され,証明されるに至っ
かった。6
3才で引退というのは現役でバリバリの科学者とし
た過程に重きをおき,重要な実験についてそれを実際行った
てはちょっと早いし,この分野にとっても大きな損失である。
人たちの紹介付きで解説していた。世界中を飛び歩き,この
しかし一方で,これまで研究で犠牲にしてきた音楽を,これ
分野の人をほとんどすべて知っているだけあって,キャラク
からはたっぷりと楽しむということなのかもしれない。そう
ターの紹介の仕方は適切で,ラボのポスドクたちが毎回欠か
した思いきりの良さも,彼らしいといえば彼らしい。第二の
さずに聴きにいくほどの面白さであった。
人生が実り多いものとなることを祈りたい。
さて,その Schatz 先生の最終講義。コンピュータを駆使し
Jeff Schatz の最終講義
30
(2)膜蛋白質のプロセシングにより遊離させる系:表1中の YfnI
表1中の WprA, WapA のシグナルペプチドは twin-arginine
および YflE に見られるようにこれらの前駆体にはシグナル
motif を持っているが それらは Tat system にはよらず,SRP
ペ プ チ ド が 存 在 せ ず,N- 末 端 側5ヶ 所 に Transmembrane
/ Sec 系に依存して分泌されることが明らかにされている。
domain を持つ膜蛋白質と推定される。しかし Transmem-
枯草菌で推定されている18
0種類の菌体外酵素のうちまだ20
brane domain の下流に Ala-X-Ala 配列があってその直後に切
種類しか解析されていないが今後さらに種類を増やし,分泌系
断される。枯草菌ではこのような蛋白質が4種類見出され
全体を明らかにする必要があると考えている。今後のポスト
ており他にも多々あると予想される。また YflE, YfnI は機能
シークエンス時代としてバルクで蛋白質成分の解析が可能に
未知蛋白質であるが陰イオン結合蛋白質に類似している。
なった現在,枯草菌におけるシグナル伝達系の改変と分泌蛋白
2種類の蛋白質の生産は SecA, Ffh の両者に依存している。
質構成成分・膜蛋白質群の変化,膜蛋白質の局在化・細胞質膜
(3)鞭毛蛋白質生産系:大腸菌で示されているように鞭耗蛋白
形成と SRP/Sec 系の関連等細胞内にあるネットワークおよび形
質の生産は SecA にも SRP にも依存しない特異的な系と考え
る。
(4)第4の分泌系として Tat システムが提案されている:大腸菌
reductoxidase, nitrate reductase 等のように Co-factor を持つ蛋
白質の分泌に対して特殊な蛋白質分泌系 tat system(TatA, B,
C, D から構成)が報告されている。枯草菌にもこれらと相
同の蛋白質が存在することから同様の Tat system が存在す
ると考えられている。この系による分泌シグナルは twinarginine signal peptide を持っていることが報告されている。
態形成などの研究が始まると考えられる。
1. Kunst, F., Ogasawara, N., Moszer, I., and others(1997)Nature 390, 2
49-2
56
42-3
948
2. Volker, U., Maul, B., and Hecker, M.(1999)J. Bacteriol. 181, 39
3. Mogk, A., Homuth, G., Scholz, C., Kim, L., Schmid, F. X., and Schumann, W.(199
7)
EMBO J. 16, 4579-4590
4. Hecker, M., Schumann, W. and Volker, U.(1996)Mol. Microbiol. 19, 4
17-4
28
5. Bunai, K., Yamada, K., Hayashi, K., Nakamura, K. and Yamane, K.
(199
9)J. Biochem.
125, 151-159
6. Hirose, I., Sano, K., Shioda, I., Kumano, M., Nakamura, K., and Yamane, K.(20
00)
Microbiology 146, 65-75
「Molecular Chaperones and Folding
Catalysts Regulation, Cellular Function and
Mechanisms」ed. B. Bukau, Hawood
Academic Publishers.
御について詳しく解説されている。第三セクション(Cellular
大腸菌のラムダファージの増殖,ペリプラズム領域での蛋白の
Functions, 6章から1
8章)では,細胞内でのシャペロンの機能に
ついて生物学的研究により得られた成果が記載されている。新
生蛋白のフォールディング,高温下における蛋白質の凝集阻害,
フォールディング,
「ミトコンドリア,クロロプラスト,小包体
本書は総ページ数690ページ,2
8章から構成されており,真核
などへの」蛋白質輸送,ホルモンレセプター形成,初期発生な
生物と原核生物から得られた分子シャペロンの研究成果をバラ
どにおけるシャペロンの細胞内での多様な役割が説明されてい
ンス良く記載している。シャペロンは細胞内に多種類存在し多
る。最終セクション(Mechanisms, 19章から28章)では,Protein
様な働きをしていることが知られているが,これらの知見の殆
disulphide-isomerase や Peptidyl cis/trans isomerases の Folding
どを網羅している。また,第一線で活躍されている研究者によっ
catalysts に つ い て の 研 究 成 果 が 紹 介 さ れ た 後 に,Chaperonins
て得られた最新の成果が報告されおり非常に読みごたえのある
(GroEL, CCT)と Chaperones(Hsp70, DnaK, DnaJ, GrpE, PapD-like
一冊になっている。生物学的知見と生化学的知見の両方が記載
chaperones etc.)の生化学的研究(ATPase activity,フォールディ
されており,この一冊で細胞内でのシャペロンの機能の全体像
ング活性,基質蛋白の認識部位,X 線による高次構造解析 etc.)
をつかむ事が出来ると思われる。このように非常に広い領域を
の成果が主に記載されている。
カバーしているのであるが,他分野の研究者が読む場合も考慮
最後に,せっかく Editor の Bukau 教授が近くにいるので彼に
されており,各セクションに overview が設けらている。本書は
この本についてどう思うか(失礼な質問?)と聞いてみると,
新規にシャペロンの研究を始めようとする研究者ないしは大学
二人の研究者の反応を教えて頂けました。「一人目の研究者は,
院生の為の解説書として最適であろう。また,シャペロン研究
この本は非常に良くまとまっているので大学の講義に利用して
者の知識の整理や論文を書くにあたっての参考書として役立つ
いるという感想を送ってきている(P. Goloubinoff, ヘブライ大学
ものと思われる。ただし,基礎研究によって得られた成果を主
教授)
。二人目はこの本は非常に真剣に書かれており,シャペロ
に報告しており病気,病態に関する記載は殆どない。また,真
ンの研究分野のバイブルであると絶賛している(N. Pfanner,フ
核生物のウイルスの増殖にもシャペロンが関与していることが
ライブルグ大学教授)
。」ただし,問題が有るとすれば値段が高
明らかになっているが,大腸菌のラムダファージの記述しか見
い事かなと笑っておりました。
あたらない。
まず,最初に Introduction がありシャペロンについての概説が
述べられたあと次のセクション(Regulation, 2章から5章)で真
核生物と原核生物のシャペロン遺伝子の転写制御について書か
(PS) 本書では,Chaperone, Chaperonin, Folding catalysts を区別
して記載しているが,本文中では特にことわっていない
場合を除いてシャペロンと記した。
(友安俊文)
れている。初めに大腸菌などの原核生物の熱転写機構について
の知見が述べられた後,真核生物のシャペロン遺伝子の転写制
31
2
000. 5. 3-7
領域ニュース「シャペロン・ニュースレター」の第6号をお
CSHL Spring Meeting:
Molecular Chaperones and the Heat Shock
Response
届けします。公募班員,計画班員の2本立て構成での研究は今
年度で終了。来年度は限られた数の計画班員のみの研究となり
ます。班会議やシンポジウムでは,いつもたくさんの班員の方
が集まり,オープンで活気ある雰囲気だったわけですが,それ
場 所:Cold Spring Harbor, NY USA
が縮小かと思うと,ちょっと寂しい気もします。
主 催:Cold Spring Harbor Laboratory
一方では,シャペロン研究は,今まさにこれからという時期。
オーガナイザー:Elizabeth Craig, Carol Gross, Arthur Horwich
シャペロン特定の次を模索中でもあります。いろいろなアイデ
予 定 講 演 者:Susan Lindquist, Stanley Prusiner, Dennis Selkoe, Ari
アを持ち寄って,大きな流れを作り出せれば,とも思います。
Helenius, Randy Schekman, Ron Kopito, Richard Sifers,
次号は今年夏の予定です。これまで班員だった方には,1
2年
Ulrich Hartl, Jonathan King, Randall Kaufmann, Sheena
度の計画班員であるかどうかは関係なく,ニュースレターを今
Radford, Kazuhiro Nagata, Huda Zoghbi, Richard
まで通りお届けします。ご支援,ご協力をお願いいたします。
Morimoto, David Ron, Susan Gottesman, Tania Baker,
関連学会に関する情報,関連図書,雑誌に関する情報,その他,
David Agard, Laurence Pearl, Lila Gierasch, Helen Saibil
本通信に掲載ご希望の情報などをお持ちの方は,事務局までご
トピックス:Diseases of Protein Misfolding, Quality Control &
連絡下さい。また,班員の方で本通信を複数部ほしい方,班員
Protein Trafficking, Cellular Response to Stress, Chaperone
以外で本通信の購読(無料)をご希望の方は事務局までご連絡
Function in Disease and Development, Regulation of the
下さい。
Stress Response, Chaperones & Proteolysis, Chaperone
(遠藤)
Biochemistry and Protein Folding
www サイト:http://nucleus. cshl. org/meetings/
問い合わせ先:Cold Spring Harbor Laboratory Meetings & Courses
Office
Adress:PO Box 10
0, 1 Bungtown Road Cold Spring Harbor, NY
1
172
4-22
13
TEL:51
6−367−834
6 FAX:51
6−36
7−88
4
5
E-mail:meetings@cshl. org
(シャペロン・ニュースレター)
編 集 人 遠藤斗志也
第6号(2000年2月発行)
発 行 人 永田 和宏
「分子シャペロンによる細胞機能制御」研究連絡調整係
発 行 所 特定領域研究
〒464−8602 名古屋市千種区不老町
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻,遠藤斗志也 / 新田美子
Tel:052−789−2490 Fax:052−789−2947
ホームページ:http://chem3. chem. nagoya-u. ac. jp/chaperone/index. html
e-mail:endo@biochem. chem. nagoya-u. ac. jp
印刷 ㈱荒川印刷