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QIAGEN
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8
News & Topics from QIAGEN
December 2013
Contents
Worldwide Research ̶ Hot News
ヒト・マイクロバイオーム:
最近の成果と将来の展望
遺伝子検査教室
トランスレーショナルリサーチを
始めよう
Pathway Application
生物学者のためのシステムサイエンス入門
2〜5
6〜7
Biobanking Review
東北に 15 万人のバイオバンクを作る 8 〜 9
14 〜 16
Hot New Products ̶ 新製品ご案内
17
Letter from Technical Service
18
QIAGEN クイズ
19
Information ̶ ご案内および次号予告
20
Seminar Report
実例から学ぶクリニカル・バイオマーカー
時代の到来
10 〜 13
Sample & Assay Technologies
Worldwide Research ̶ Hot News
ヒト・マイクロバイオーム:最近の成果と将来の展望
by Michael D. O’Neill
2007 年 12 月 NIH が立上げたヒト・マイクロバイオーム・プロジェクト(HMP)は、大変ユニークなものであった。この 8 ヵ年プロジェ
クトは、正常で健康な人体表面と体内に存在する微生物の多様性をカタログ化し、所在を突き止め、定量化することを目的としている。
それだけでなく、特定疾患の微生物の評価も行ない、マイクロバイオーム(MB)の生物学的特性の解析が第二段階となる。NIH 関連各所
から合計 4 億 1,000 万ドルの研究費出資があり、80 近い大学と研究機関の 300 人ほどの研究者が参加して行なわれている。
このプロジェクトの主要目標は、①ヒトの健常な
なボランティアが参加し、男性 129 人、女性 113 人
状態における各微生物の個体数を確定することに
の口腔、鼻腔、皮膚、腸(便)
、膣など主な身体部
より、正常な個体数を変化させる様々な疾患をより
位から 5,000 を超える組織試料が採取、
分析された。
正確に理解し、微生物個体数を調整することで疾患
その成果は、
を治療する可能性を探ること、②人体表面と体内の
微生物が種類により如何なる機能を果たしている
が、健康であれば他の HMB と共存しており、
かを理解すること、③人体表面と体内に生息しなが
疾患を引き起こすことはない。
らこれまで知られていなかった病原体を見つける
ことだ。
場合には総数で 1 万種を超えると考えられる。
著名な核酸科学者である Gerald Zon 博士がインター
ネットに掲載したヒト・マイクロバイオーム(HMB)
に関するブログ(1)によると、基本的に HMP は、
2002 年のスタンフォード大学教授の David Relman
博士の論文で既に予期されており(2)
、Zon 博士は
同教授の結論を引用し、短期間で MB 研究が長足の
進歩を遂げたことに感嘆している。
次世代シークエンシングが重要な前進の
カギに
HMP の第一段階は、特に次世代シークエンシング
の急速な発展により可能になった。HMP を管理す
る NIH の NHGRI 所長、Eric Green 博士は、
「最近
開発されたゲノム配列解析法は、HMB を観察する
強力なレンズの役割を果たしてくれる」と述べてい
る。さらに、
「DNA 塩基配列解析のコストが極端に
2
(b) 健康な成人には約 1,000 種の細菌種が見つか
るが、米国内の健康な成人全体を通じてみた
HMP の見通し
ヒ ト・ マ イ ク ロ バ イ オ ー ム・
プ ロ ジ ェ ク ト(HMP:Human
Microbiome Project)のシンボル
画像提供:ヒト・マイクロバイ
オーム・プロジェクト
(a) ほとんど全ての人が体に病原菌を持っている
(c) 人の生存に関わっている HMB には 800 万個の
タンパク質コーディング遺伝子が含まれてお
り、人の遺伝子の 360 倍にもなる。
(d) 微生物の代謝活動 ̶ 例えば、脂肪の消化 ̶
は必ずしも各人同じ細菌種が行なうわけではな
い。それぞれ異なる細菌グループが棲んでおり、
それが同じ役割を果たしているようである。
(e) HMB の構成は常に変化しており、患者の健康
状態、疾患症状や投薬、あるいは食事の変化等
の影響を受ける。しかし、健康状態では MB は
最終的に平衡状態に戻る。
(f) 消化器官に棲む細菌は、人が食べ物を消化し栄
養分を吸収することを助けており、細菌がいな
ければ不可能である。また MB は、有益な細菌
と病原菌の区別を助け、免疫系にも重要な役割
を果たす。
下がったことで、膨大な調査が可能になった」 と述
HMP の研究結果を踏まえて、Relman 博士は当初の
べている(3)
。
見方を変え次のように書いている(7)
。
「プロジェ
クト開始当時、健康な MB の標準データを作成でき
HMP の成果
ると予想したが、実際はもっと複雑であることを知
HMP の第一段階は 2012 年に終了し、一連の論文が
り、その期待を捨てた。健康な MB とは何かという
Nature(4、5)や PLOS(6)に掲載された。HMP
問いには決して答えられないだろう」と。
の健康なコホートに関する研究には、242 人の健康
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Issue 8/2013
Worldwide Research ̶ Hot News
左写真(提供:Stanford University School of Medicine)
David A. Relman 博士:Stanford University School of Medicine の教授、Infectious Diseases Society of America の会長、HMP の研究員。
中央写真(提供:NIH)
左:Eric D. Green 博士:NIH で HMP を運営する National Human Genome Research Institute の所長。
右:Francis Collins 博士:NIH の所長。
右写真(提供:Washington University)
George Weinstock 博士:Washington University, The Genome Institute の副所長であり、HMP の研究責任者の一人。
Zon 博士は、自分のブログの中で、PLOS Biology(8)
HMP リーダーのコメント
に掲載された Dirk Gevers 博士の MB 概観を評して
HMP のリーダー達は、プロジェクト第一段階の終わ
「健康的な MB は、恒常的な機能と代謝のバランス
を取ると考えられ、健康な限りその状態が維持され
るが、細部では個々人で少しずつ違いが考えられる」
と書いている。
りに様々な際だったコメントを述べている(3)
。
NIH Planning and Strategic Initiatives の部長、James
Anderson 博士は、
「私達は人体内の微生物変化の正
常幅を定義した。健康な西洋人の正常値については
Rob Knight 博士らは Nature 誌のレビュー(9)で
明確な見方が確立し、今後は人体の生理や疾患に対
この問題を取り上げた。同氏は現在 American Gut
応して MB の変化の様相を研究することになる」と
Project と名付けられた新プロジェクトでリーダー
を務め、世界中の 1 万人の成人から採集した便試
料中に見つかる微生物のゲノム配列解析を目的と
している。
述べる。
NIH の所長である Francis Collins 博士は、
「HMP は
次世代シークエンス技術を用いて基準的データベー
スを創り上げた。これまでこのような情報資源がな
インタビューで Knight 博士は、
「HMP は比較的狭
かったため、不可能だった感染症の研究を加速する
い地域の、健康で比較的小さな同年齢者グループの
基礎ができあがった」と述べている。
MB の特徴を記録するという面では優れた研究をし
たが、他の研究結果から、異なる年齢層、異なる地
域の人々はまた違った MB を持っていることが明ら
かになっている。そういう HMB の特徴を記録する
ことも重要だ。そこで、American Gut プロジェクト
が意味を持つ。HMP のデータセットを基礎にして、
同じ文脈で他の人間集団の MB を解明することがで
きる」と述べている。
HMP 第一段階でのいくつかの研究とその後の研究
から、HMB のもっと幅広い特徴を疾患診断、観察、
治療法と関連付けようとする試みが続けられてい
る。そのような試みを次の節で取り上げる。
HMP 研究の臨床現場への影響
NIH は 2 つの臨床研究に資金を出した。その一つ
が、Baylor 医科大による、妊娠女性 24 人と妊娠し
Caparaso 博士らは「静的な構図から動的に捉える
ていない女性 60 人の膣 MB の比較研究だった
(11)
。
ことを目的とする時間的な変動性の研究が進めば、
妊娠女性の膣では微生物の多様性が急激に減少する
体内のどういう状態が『正常』なのかという考えを
ことが判明し、健康な妊娠をサポートする観点から
大きく書き替える可能性がある」
と述べている
(10)
。
研究が進められている。
Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies3
Worldwide Research ̶ Hot News
もう一つの HMP 研究では、Washington University
糖尿病:Fredrik Karlsson 氏らは、健常、障害、糖尿
医学部が、3 歳未満の幼児によく見られる原因不明
病血糖管理中などのヨーロッパ人女性 145 人から
の発熱患者の鼻腔内 MB を調べている。患者試料か
採取した便試料のメタゲノムの特徴を調べるため、
らは健康な幼児に比べて 5 倍のウイルス DNA が検
ショットガン・シークエンス法を用いて高い精度で
出されたが(3)
、体内ウイルス量を迅速に検査でき
2 型糖尿病を判定することができた(16)
。Mayo
れば、健康な MB を損なう抗生物質を無意味に投与
Clinic の研究チームは、個々人の遺伝子構成と食餌
せずに済む(第三の研究は食道腺がんの研究で、胃
の間で相互作用があり、宿主の腸にどの微生物が
食道逆流症[GERD]が因子となる場合もあり、健
棲み着き、どのような働きをするかが決まること
常な患者の咽喉 MB は患者の MB とは違っていた。
を実証している。この研究成果は、PNAS オンライ
事実、患者の MB は発症以前から異なり、発がんに
ン版に掲載されている(17)
。Mayo Clinic の Purna
何らかの役割を果たすと思われる)
。
Kashyap 氏は、
「腸内の炭水化物に影響する宿主の
遺伝子の構成と食べた食物タイプとの間の組み合わ
HMB と健康に関する最近の研究
せが、腸に棲み着いている微生物の構成と機能を決
便移植:医学界で再び話題になっている治療法の一
つが 便移植
だが、健康な人の 正常な
便の物
質を消化器系統の致命的な疾患を有する患者の腸内
に植付ける方法である。2012 年に Christopher Kelly
博士らが、繰り返し再発する Clostridium difficile
感染症に対してこの治療法を実施している(12)
。
2012 年 6 月には、US FDA が報告書を発表し(13)
、
同 7 月には更新版が発表されている(14)
。Elaine
Petrof 氏らは「ただし便移植には病原体の伝播の可
能性、患者の拒否反応、治療計画を作りにくい等の
懸念もある」と報告し(15)
、
「HMB の高度な同定
と解析の手法として次世代シークエンシングを利用
4
定する」と述べている(18)
。
クワシオルコール症候群:HHMI Bulletin 掲載の記事
(7)によると、腸内微生物の構成を見るだけでそ
の人が痩せ型か肥満型かを 90%の精度で判別でき
ることを実証している。Science 誌の記事によると、
Knight 博士らは、317 組の双生児の MB を分析し、
双生児の間でも MB が異なり、タンパク質欠乏型の
栄養失調症であるクワシオルコール症候群にかかっ
ている子供を示すことができ(19)
、肝臓肥大や皮
膚疾患を特定のタンパク質サプリメントで改善でき
ることも予測した(20)
。
して便代替製剤を創り出す」ことを詳しく論じてい
MB 中の情報伝達:最後に、同じ HHMI Bulletin に
る。例えば 1 人の健康ドナー由来の 33 種の腸内細
Sarah Williams 氏が、ヒト腸内の微生物と宿主との
菌を純粋培養し、カプセル化した便代替製剤を 2 人
間の情報伝達の重要性を述べており(7)
、必要でな
の C. difficile 感染症患者の治療に用いている。この
い時には免疫反応を低減させ、必要時には免疫反応
2 人の患者は、標準治療薬では快方に向かわなかっ
を亢進させるという免疫反応の調節で特に重要とな
たが、代替製剤投与治療後は 2、3 日以内に正常な腸
る。Flavell 博士らが Cell 誌に「インフラマソーム・
の状態に戻り、その後半年過ぎて症状は出ていない。
タンパク NLRP6 が欠けると、腸 MB の構成に大き
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Worldwide Research ̶ Hot News
な変化が起きる」と報告している。マウス・モデル
将来性
の研究では、この変化で宿主は、炎症性腸疾患(IBD)
HMP 第一段階の成果と第二段階の目標は、HMB や
にかかりやすくなることが突き止められた(21)
。
人間の健康に対する新たな知見と、American Gut
Nature 誌には、同じ変化で宿主は、肥満、2 型糖尿
病、脂肪肝などになり易いと報告されている(22)
。
Project のように、さらに詳細な臨床応用であろう。
Weinstock 博士は、
「MB 研究の未来は非常に期待が
HMP の次の段階は、特定疾患コホート研究結果から
持てる。この大規模なプロジェクトは、医学の様々
MB と宿主のトランスクリプトーム、プロテオーム、
な分野の扉を開くものになり、健康や疾患の治療や
メタボロームのデータセットを編成し、この種の情
予防に対する理解をさらに深めてくれるだろう」と
報伝達の測定を行なうことが主眼になっている。
述べている(3)
。
参考文献
1. Gerald Zon, “Meet Your Microbiome—the Other Part of You.” Zone in with Zon blog (August 26, 2013) http://zon.trilinkbiotech.com/
2. J Infect Dis. 2002 Dec 1;186 Suppl 2:S254-8 (PMID: 12424706)
3.
NIH Human Microbiome Project Defines Normal Bacterial Makeup of the Body. NIH Press Release (June 13, 2012)
4. Nature 486, 207-214 (June 14, 2012) (PMID: 22699609)
5. Nature 486, 215-221 (June 14, 2012) (PMID: 22699610)
6. The PLOS Collection of Human Microbiome Project Articles (2010-2013)
7. Sarah C.P. Williams, The Din Within. Howard Hughes Medical Institute Bulletin 26(3):12-17 (Fall 2013) http://www.hhmi.org/
8. PLoS Biol. 2012;10(8):e1001377 (PMID: 22904687)
9. Nature 489, 220-230 (September 13, 2012) (PMID: 22972295)
10. Genome Biology. May 2011, 12:R50 (PMID: 21624126)
11. PLoS One. 2012;7(6):e36466 (PMID: 22719832)
12. J Clin Gastroenterol. 2012 Feb;46(2):145-9 (PMID: 22157239)
13. June 18, 2012 FDA Press Release̶Fecal Transplants
14. July 2013, FDA Press Release Update̶Fecal Transplants
15. Microbiome 2013, 1:3, DOI 10.1186/2049-2618-1-3
16. Nature 498, 99-103 (June 6, 2013) (PMID: 23719380)
17. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Oct 15;110(42):17059-64 (PMID: 24062455)
18. Genetic Makeup and Diet Interact with the Microbiome to Impact Health. Mayo Clinic Press Release (September 25, 2013)
19. Science 339, 548-554 (February 1, 2013) (PMID: 23363771)
20. Science 339, 530-532 (February 1, 2013) (PMID: 23363770)
21. Cell 145(5):745-757 (May 12, 2011) (PMID: 21565393)
22. Nature 482, 179-185 (9 February 2012) (PMID: 22297845)
BioQuick ニュース 日本語版 のご紹介
WORLDWIDE RESEARCH ̶ HOT NEWS は、サイエンスライターとして 30 年以上
の豊富な経験を有するマイケル D. オニール氏によって取材編集されています。
株式会社キアゲンは同氏が編集長を務める独立系科学メディア BioQuick ニュース
日本語版 に協賛しています。
注目のストーリー(記事は週 3 回更新)
■■「Urzyme」新発見、生命の起源「RNA 世界」説に挑戦
■■ 欠損ニューロンの信号が「品質管理」系によって抑制されるメカニズム解明
■■ メクラデバネズミ、発がん物質にも抵抗力
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Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies5
遺伝子検査教室
第1回
トランスレーショナルリサーチを始めよう
佐々木政人(株式会社キアゲン MDx マーケティング部 部長)
トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)という言葉が聞かれるよう
になって、もう 10 年以上が経過しています。
ここでは 3 回にわたり、遺伝子検査を主体とした体外診断薬の開発を考え
たトランスレーショナルリサーチについて解説していきたいと思います。
はじめに
皆さんは何を目的に日々の研究を続けていますでしょうか?きっとそれぞれが違った回答をされるでしょう。ある人は生命現象の未知
な分部に惹かれて、ある人は博士号を取ることを目的として、またある人は病気で大切な人を失い、そのことがきっかけとなってその
病気の解明を目指しているかもしれません。どのような目的にせよ、自分が打ち込んでいる研究の成果が直接、実際に医療の現場で
役に立つことができればどんなに素晴らしいことでしょう。トランスレーショナルリサーチ(TR)とは基礎研究で得られた成果を基に、
医療技術・医薬品などを開発し医療の実践に役立てていくことと定義されています。今号から基礎研究をどうやって TR としていける
のか具体的に説明をしていきたいと思います。
治療薬や診断薬はそもそもトランスレー
ショナルリサーチの結果
このように、製薬・診断薬企業が日々実施している
1980 年代、米国では抗体医療という今では花盛り
ら、基礎研究の成果をマウスや論文のみで終わらせ
の技術のまだ極初期の臨床開発が行なわれていま
ることなく、ヒトの医療現場に届けることの大切さ
した。基礎研究者と製薬ベンチャーがタッグを組み
が見て取れます。
いわゆる TR が実施されていました。今まで治療で
広まりつつある TR 教育について
きなかった患者さんの血液のがんが治るのです。患
者さんの家族から感謝の手紙が送られてくる。まる
で夢のようなことが現実に起きていました。ここで
ブレイクスルーとなったのは抗体の大量生産技術
の開発でした。これまでの合成化学医薬品とは異な
り、mg という単位で投与される抗体製剤が大量に
必要となり、これを可能とするには培養細胞を使っ
た抗体の大量生産とその精製の技術が必須でした。
これらの技術が可能となり、今日の抗体医療が現実
化されていったのです。
6
研究開発は TR そのものです。これら TR の具体例か
2000 年代になり、国が「橋渡し研究」と言う言葉
を用いて、大学における TR の推進を始めています。
近年、日本が力を入れている再生医療のおかげもあ
り、幾つかの限られた大学や研究機関において TR
センターが開設され、まずは医学部・薬学部の大学
院生などを対象とした医療関連製品開発の教育プロ
グラムが始まっています。プログラムでは治療薬・
ワクチン・診断薬などの医薬品開発の工程について
実際に企業の開発経験者が講師となり、学生に講義
します。学生はその過程を包括的に学習することが
診断薬企業では、PCR という遺伝子増幅の基本技術
できます。一方、
既に大学の職員となられている方々
を日常の遺伝子検査に応用し、感染症治療や診断の
や、これから TR を目指そうとする多くの人々には、
現場を次々に刷新していきました。また、国内 600
まだそのプロセスについての講義を受ける機会が
万人の献血血液から、リアルタイム PCR によりエイ
少なく、TR の過程や最終的なゴール、即ち全体像を
ズ・肝炎ウイルス感染血液を排除するプロジェクト
イメージすることが難しいようです。TR 教育の更な
は医師、検査技師、日米の企業の電気・工学・バイ
る普及により、より多くの研究者が基礎研究を臨床
オ研究者が一体となって進められ、その成果として
応用に繋げることをイメージできるようにすること
輸血後肝炎をほぼゼロにすることに成功しました。
が大切だと考えています。
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Issue 8/2013
遺伝子検査教室
TR の出口としての診断薬の開発
を証明します。薬事申請後、承認審査が行なわれ、
日本において遺伝子検査に用いられる体外診断薬
厚生労働省の承認が得られた後に、保険が適用され
は医薬品として規定されます。従って、大学の基
て広く医療現場に普及していきます。この過程はお
礎研究成果は医薬品の開発・製造工程へと適用さ
よそ 6 年もかかる長い道のりです。このような長い
せる必要があります(図 1)
。そのためには企業の
過程を経て、製品の品質と性能を担保した後、製品
サポートが重要です。これまでにも診断薬につい
を販売します。その結果、利益を得て、その利益を
て多くの基礎研究成果が学会発表されてきました
次の開発に投資することが企業の継続的活動になり
が、その殆どが診断薬の開発プロセスへの適用の
ます。製品販売後も性能の担保のため、製造ごとに
中で、再現性や頑健性の問題から開発中止となっ
品質管理が成され、市場導入後に品質問題が発生し
てしまいます。その主たる原因は、標準化されて
た場合は製品回収と改善の義務が課せられます。
いない系を用いていることです。このような系で
は複数の試薬メーカーの製品を組み合わせている
ことで、試薬のロット間差 x 機器間差により、多
施設評価での再現性が難しくなります。診断薬開
発のプロセスは、可能な限り患者さんの健康に影
響を与えるリスクを減らし、決められた性能を維
持した安全な製品を迅速に市場導入できるように、
繰り返し繰り返し評価を実施するようにデザイン
おわりに
TR とは「医療に役立てたいという一つの情熱を、複
数の技術を融合することで医療現場にいち早く届け
る過程」と言えます。一人では到底成し得ることは
できず、パートナーと共同し、プロジェクトチーム
を作り、年月をかけて課題を乗り越えていくことが
必要です。
されています。まず始めに顧客のニーズを確認し、
十分に市場を分析した後、実現可能性をプロトタイ
次回は 製薬会社と連携して開発するコンパニオン
プ作成により試します。その後、製品の本開発、本
診断薬:そこから見える TR の可能性
製造を実施していきます。製品が完成すると、ヒト
説明する予定です(変更する場合があります)
。
についてご
検体を用いた臨床試験を実施し、その臨床的有用性
TR の部分
■ 大学
基礎研究
■ 診断薬
企業
2014 年
市場
分析
2017 年
製品実現可能性
検証
製品開発
1~3 年目
製品製造
先進医療または
臨床試験
2020 年
薬事申請~
承認
保険申請~
適用
検査体制準備
販売
3~6 年目
図 1. 診断薬企業と共に歩む TR の実践パターン例
診断薬企業は、大学での基礎研究を共同研究などにより支援し、その後の製品開発、薬事申請など、販売までのステップを実践する。
Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies7
Biobanking Review
東北に 15 万人のバイオバンクを作る
東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)
東北メディカル・メガバンク事業は、岩手県、宮城県の 15 万人の地域住民の協力を
得て開始された大規模バイオバンクプロジェクトで、研究者だけではなく、地域住民
の関心も高い事業です。今回は、
今年本格的に稼働したこの事業をご紹介いただきます。
右写真:2013 年 4 月の新任者オリエンテーションにて
コホート調査やバイオバンク、ゲノム解析、ICT 等の職務を担う教職員が集まった。
バイオバンクを震災復興の核に
大規模健常人バイオバンク
現在、ゲノム情報に基づいた新しい治療法の開発や予防法の検討
欧米には多数のバイオバンクがあり、社会の中でありふれた存在
が世界中で行なわれており、ゲノムが世界の医療を変える時代
になっていますが、日本ではその整備が遅れており、
「バイオバ
がもう始まっています。そんな時代において、バイオバンクは、
ンク」という言葉を知らない人も多いのが現状です。当事業では、
これからの医療を進歩させるインフラと言われています。一人の
15 万人規模の参加者を募って健常人バイオバンクを整備し、国
研究者では集めることができない大量の生体試料や健康情報が
内の他のバイオバンクとも力を合わせて、日本発の大規模ゲノム
バイオバンクに集まり、生体試料と医療情報を、そのゲノム情報
解析・ゲノム医療の研究を推進します。
と共に多くの研究者が研究に使うことによって、遺伝子と疾患の
当事業のバイオバンクでは、被災者の健康問題などの現時点での
関係が明らかになり、疾患発生機序に基づいた新たな医療が生ま
横断的な解析にとどまらず、コホート研究に連動した長期間の
れるからです。
縦断的な研究をサポートします。さらに、将来開発される新技術
震災復興事業である東北メディカル・メガバンク事業は、東北に
や新しい研究テーマへの利用も想定しています。そのため、検体
巨大バイオバンクを作り、被災地域の健康支援に役立てるととも
処理をできる限り自動化するなど、良質の試料を調製して保存す
に、東日本大震災後の復興の核とすることを目的としています。
る方法を採用し、匿名化された参加者の健康情報に紐づけられた
当事業の対象地域は宮城県と岩手県。このうち、宮城県での実施
試料を長期安定的に管理するシステムを運用しています。来春完
を担当する機関として、2012 年 2 月に東北大学東北メディカル・
成する施設では、試料の質を長期間安定的に保持できる保管シス
メガバンク機構(以下、ToMMo)が生まれました。岩手県では、
テムを導入する予定です。また、
液体窒素保存、
バックアップ電源、
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構が事業を
分散保存など、災害などの非常時の被害を最小限とする体制も構
実施しています。
築しています。
ToMMo では、ゲノム解析、生命情報科学、ICT、コホート調査、
医療などを専門とする約 200 人の人材が活動しています。私たち
地域住民コホート調査と三世代コホート調査
は、バイオバンクを構築し、ゲノム解析を進めることにより、東
ToMMo では、
「被災地の健康作りに役立ち、そして未来の医療を
北を医療の先進地に変え、震災や津波の影響に苦しんでいる地域
作るコホート調査を」という主旨に基づいて、
『地域住民コホート
の住民に真っ先にゲノム情報に基づいた個別化医療・個別化予防
調査』と『三世代コホート調査』を実施しています。当事業のバ
を実現することを目指しています。
イオバンクは、これらのコホート調査によって得られる生体試料
私たちが目指すものは、山本雅之機構長(ToMMo)の言葉にも表
れています。
「震災後の東北には、復興の『核』となるものが必
要です。当事業は被災地を中心に健康調査を行ないながらバイオ
と情報を収集・保管するものです。参加者は研究に協力すること
を希望するボランティアですが、調査をメディカル・チェックと
して利用して、健康作りのアドバイスを受けられるというメリッ
バンクを構築して、先端産業を呼び込む起爆剤にします。そして
トもあります。
産学連携による研究開発を盛んにして、東北へ医療人を呼び込み、
2013 年 5 月に開始した『地域住民コホート調査』は、宮城県
ゲノム医療に必要な人材を育てたいと考えています。これが成功
と岩手県の 20 才以上の住民が対象です。これまでの住民の反
すれば、東北はライフイノベーションの最先進地域となり、創造
応は好意的なものが多く、宮城県においては、開始後 5 ヶ月で
的に発展するでしょう」
。
10,000 人以上の方々から調査へのご協力をいただきました。
8
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Issue 8/2013
Biobanking Review
一方の『三世代コホート調査』は、宮城県の妊婦を中心に、生ま
れてくる子ども、その兄弟姉妹と父、祖父母の三世代の家族が対
日本人の全ゲノム配列を明らかにする
私たちが目指すのは、英国サンガーセンターの解析機能と UK バ
象です。三世代のコホート調査である点、胎内環境の影響も解析
イオバンクの公的バンク機能を合わせ持ったバイオバンクです。
する点で独自性の高い調査となっています。
既に、バイオバンクに収納された試料を用いて全ゲノム解析を始
2 つの調査を支えるのが GMRC(ゲノム・メディカルリサーチコー
めています。
ディネーター)と呼ばれる人々です。GMRC は遺伝子やゲノム解
2013 年現在、日本人の標準ゲノムはわかっていません。私たち
析研究について教育を受けていて、コホート調査のインフォーム
ド・コンセント履行補助者としての役割を担っています。
は『日本人の体質に合った医療』を作り出すことを目指していま
すが、これでは研究が進みません。そこで私たちは、コホート調
査参加者の一部の全ゲノム配列を解読して、結果を『日本人標準
ゲノムリファレンスパネル』として公表することを計画していま
す。これは医学研究において、標準となる日本人集団の全ゲノム
配列を決定する試みで、ドラフト版の完成は今年度中を目指して
います。
研究内容が違えば、
「標準」となるゲノムも少しずつ異なります。
稀な DNA の変異と希少疾患の関連を探るような研究では、多数
の健常な日本人のゲノム情報を「標準」とします。一方で、臨床
研究などで収集した患者検体の集団としての偏りを調べるには、
地域住民コホート調査で働く GMRC(ゲノム・メディカルリサーチコーディネーター)
調査内容を市民に説明し、インフォームド・コンセントを取っている。
日本人の人口構成を反映した集団のゲノム情報(患者も含みうる)
を「標準」とします。これらの様々に異なる研究者からの需要に
応えられるデータベースとしての「標準」を私たちは作成しよう
データと試料
当事業によるバイオバンクには尿と血液の他、生理検査データや
アンケート調査データ、ゲノム解析データ、診療記録から得られ
る医療情報が集まります。これらの情報は、
協力者のプライバシー
と考えています。こうした目標を達成するには、
少なくとも 8,000
人の血縁関係のないゲノム情報が必要と考えられています。
さて、大量のゲノムを高い精度で速く解読するためには、綿密な
を守るため、個人を特定できる情報が除かれ、提供される生体試
計画が欠かせません。そこでコホート調査開始の前年、ToMMo
料と共に匿名化された状態で保存されます。血液からは、血漿や
は米国へスタッフを派遣しました。シークエンサー開発が盛んな
血清の他、細胞成分(単核球)
、DNA も分離して保存されます。
米国西海岸で技術開発の動向を探るためです。今年になって実行
この生体試料と健康情報の結びつきが、日本人に合うゲノム医療
に移した全ゲノム解析は、次世代型シークエンサーによる読み取
を発展させる源になることが期待されます。
りを 30 回繰り返すことでデータの信頼性を高めています。まさ
また、日本では、医療情報のデータベース化が進んでおらず、
医療情報入手には膨大な手間と人手を割かなくてはならないた
め、バイオバンクやコホート追跡調査のハードルとなることが
に、世界最高水準の精度を誇っており、一台が、2 人分の全ゲノ
ムを 2 日間のペースで解析しています。ここから得られるデータ
から、病気と関係する遺伝子が数多く判明するでしょう。
指摘されていました。みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会
東日本大震災で研究機関が受けた被害は大きく、東北大学でも
(MMWIN)は、津波でカルテが流された医療機関の多い石巻や
シークエンサーなどが破壊されました。さらに、電力供給が絶た
気仙沼をはじめとして、宮城県の医療機関や介護機関の電子カル
れて凍結サンプルの大部分が融解し破棄せざるを得なくなり、研
テ化やネットワーク化を進める事業であり、そのデータベースが
究がストップしました。しかし、
その 2 年後、
被害を受けた建物で、
私たちのコホート調査に利用できるようになれば、大きな朗報と
私たちの次世代型シークエンサーが稼働を始めました。
なるでしょう。
東北が医療で発展する未来 ̶̶̶̶ 私たち、ToMMo はこの夢に
なお、当事業のバイオバンクでは、希望する研究者に試料・情報
向かって着実に歩み始めています。
を分譲する体制の準備も進めています。開始時期は未定ですが、
希望する研究者は、研究計画を試料・情報分譲審査委員会に提出
して審査を受け承認された後に、試料・情報の分譲を受けること
ができるようになる予定です。
Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies9
Seminar Report
日経バイオテク/日経バイオテク ONLINE プロフェッショナルセミナー
実例から学ぶクリニカル・バイオマーカー時代の到来
2013 年 10 月 2 日、品川・コクヨホールにおいて、近年開発が進んでいるクリニカル・バイオマーカーに関するセミナーが開催
された。クリニカル・バイオマーカーは疾患の発症や進行だけでなく、治療効果の判定や薬剤の効果・副作用の予測などにも
応用が広がり、特にがん領域では治療薬の承認や保険適応にクリニカル・バイオマーカーが組み込まれる例も増えてきた。今回
のセミナーでは、注目を集めるクリニカル・バイオマーカー研究の現状と将来像が研究者の体験した実例を通して語られた。
最初にモデレーターの宮田満氏(日経 BP 社 医療局 特命編集委員)が「バイオマーカーの最大の課題は臨
床で本当に価値があるのかのバリデーションであり、それには疾患コホートとともに住民コホートが役立
つ。また、今後のバイオマーカーは遺伝子変異の組み合わせが必要になりそうで、その解析にはシステム
バイオロジーやバイオインフォマティックスが有用」と今回のセミナーの意義を説明した。
宮田 満 氏
コホート研究によるバイオマーカーの開発
の人たちは研究に参加してくれる。良いコホート
一圓 剛 氏
研究は産官学民連携によってできる」と強調した。
ヒュービットジェノミクス株式会社 代表取締役社長
エーザイからスピンアウトで起業したヒュービット
ゲノム解析を用いた
薬剤関連バイオマーカーの同定とその応用
ジェノミクス社は、現在、糖尿病腎症のバイオマー
久保 充明 氏
カー候補としてリン酸化 Smad1(pSmad1)を開発
独立行政法人理化学研究所
中で、福岡県久山町をはじめ、佐賀有田、山形など
統合生命医科学研究センター 副センター長
のコホート研究の臨床試験にも参画している。
一圓 剛 氏
久保 充明 氏
たオーダーメイド医療実現化プロジェクトについ
微量アルブミンは組織病変との相関がなく、健常人
て解説した。2003 年に始まった同プロジェクトの
でも出ており、病気が進んでから量が急に増えるた
バイオバンクには既に約 20 万人分の約 33 万 6000
め、疾患の進行を詳細に見るのには向かない。しか
症例の DNA や血清、臨床情報がストックされてい
し、尿中に出る pSmad1 は尿中微量アルブミンで
る。現在、疾患の予後や重症化に関連する、あるい
は診断できない 30 mg/g クレアチニン以下の軽症
は薬剤の効果・副作用に影響する遺伝子や遺伝子変
例でも検出できる」と pSmad1 のメリットを述べ
異の解析が進み、SNP 解析を中心に成果が出ている。
た。糖尿病腎症の発症は糖尿病と診断されてから
例えば、前立腺がんのゲノムワイド解析(GWAS)
約 13 年で確認される。今のところ、コホート研究
によって 16 の前立腺がん関連遺伝子多型の日本人
では開始から 8 年目までのサンプルが収集されてお
リスクモデルを構築。
「PSA が 10 以下(前立腺がん
り、最終的には約 3 万 9000 サンプルの解析によっ
のグレーゾーンにあたる)の集団においても再現性
て Smad1 のバイオマーカーとしての有用性を確認
があり、さらに予測精度も高く PSA 値とは独立した
する予定だ。
リスクモデルとして、発症リスクの高い人の前立腺
「生体試料と臨床情報の組み合わせだけでは誤診が
あると精度が落ち、健康な人のデータを得られない。
10
続いて登壇した久保氏は、11 年目、第 3 期に入っ
一圓氏は「糖尿病腎症の診断に用いられている尿中
がん発症にも相関があった。健康診断での導入に意
義があると考えている」と話した。
また、環境因子の影響が大きいため、バイオマーカー
また、てんかんの第一選択薬であるカルバマゼピ
の開発にはコホート研究が欠かせない。目的や利用
ン で 薬 疹 が 重 症 化 す る HLA-A*31:01 な ど の 遺 伝
方法が明確で信頼関係が保てれば、患者さんや一般
子多型に関して 2011 年から臨床介入研究を開始。
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Issue 8/2013
Seminar Report
「HLA-A*31:01 の多型を持った人は薬疹が約 10 倍
起こりやすく、薬疹が出た人の約 6 割がこの遺伝子
システムバイオロジーを活用した
バイオマーカー評価
多型を持っていた。この遺伝子多型を持つ人はカル
バマゼピンを使わず、他の薬を選ぶという選択がで
きる」と、GWAS などゲノム情報を用いて発見さ
れるバイオマーカーの有用性を語った。
北野 宏明 氏
特定非営利活動法人 システム・バイオロジー研究機構 会長
北野氏は「システムバイオロジーでは、
今コンピュー
ターモデルを作って、セルラインでの実験結果を広
汎に正確に再現できるのが最先端」であり、
「創薬
バイオインフォマティクスによる
バイオマーカー探索
プロセスではシステムバイオロジーによってター
宮野 悟 氏
東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 教授
宮野氏は確率変数のネットワークを見るベイジアン
宮野 悟 氏
ゲットの発見、シミュレーション、創薬、臨床試験
のターゲット決定、上市後の薬物治療のコンビネー
ションのシミュレーションが行なわれている」と話
した。
ネットワークに、分布の仮定を置かないノンパラメ
トリック法を組み合わせて、遺伝子間の制御の因果
同機構では、治療によるがん組織の性質の変化を調
関係をネットワークとして抽出してきた。研究の一
べ、がん組織内のがん細胞の不均一性に対応して選
例として、2005 年のケンブリッジ大学などとの共
択薬を変えるための研究が、この 9 月からシンガ
同研究を紹介。ヒトの臍帯から採った血管内皮細胞
ポールで始まった。また、アルツハイマーやパーキ
HUVEC に脂質異常症の治療薬フェノフィブラート
ンソン病では重要なネットワークを簡略化して抜き
を投与し、血管内皮細胞の転写制御分子のもとにな
出したり、ネットワークの制御可能性の分析をした
る遺伝子を取り出せるかを 270 種類の遺伝子をノッ
りできるプラットフォームを構築している。さらに、
クダウンして調べたもので、フェノフィブラートが
「大規模データからネットワークを推測する方法も
標的とする PPARa を頂点に 1000 を超える遺伝子
重要」として、プロテオミクスなどのデータベース
のネットワークが解析できた。その後、遺伝子転写
につなぎ、データの確信度を変えて検討できるツー
産物の因果関係を時系列で捉え、遺伝子 4 個までの
ルを開発。アカデミアに散在し、埋もれていく個々
繋がりを見られるようにしている。
のツールの統合のためのアライアンス GARUDA を
最近では、状態空間モデルを用いて遺伝子制御ネッ
トワークを推定する方法を構築。
「肺腺がんの分子
標的薬ゲフィチニブを入れた肺の正常細胞と入れて
北野 宏明 氏
組織し、ここで来年以降にデータベースやツール、
文献検索のワンストップサービスを開始することも
報告した。
いない肺の正常細胞の遺伝子ネットワークを 48 時
日本学術振興会の HD-Physiology Project では、全身
間観察し、ゲフィチニブによって遺伝子制御予測が
代謝循環と心臓の垂直統合の臓器モデルについて、
外れる遺伝子群を 139 個同定した。これらの遺伝子
薬の循環代謝から細胞内構造まで幅広く研究中で、
群が肺腺がんの予防予測に使えることがわかった」
将来的には医療用画像やクラウド、モバイルの対応
として、このような解析から新しい薬剤標的やバイ
をも予定しており、
「サイエンスを支えるエンジニ
オマーカーの候補が見つかる可能性を示唆した。
アリングとして最高レベルのプラットフォームを作
りたい」と締めくくった。
Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies11
Seminar Report
特別講演 Virtualised drug development
for an individualised medicine
Hans Lehrach 博士
Hans Lehrach 博士
辻 省次 氏
イムに立脚する GWAS では 5%以下と頻度の低い
バリアントは引っかかりにくいため、孤発性疾患の
重要な遺伝子が見つからない」と指摘した。
Max Planck Institute for Molecular Genetics, Dahlem Center
そして、最近報告した国際共同研究による多系統萎
for Genome Research and Medical Systems Biology
縮症の重要な遺伝子変異の発見の方法を解説。辻氏
欧 州 の シ ス テ ム バ イ オ ロ ジ ーの第一人者である
らは非常に稀な多系統萎縮症の多発家系 6 家系の患
Hans Lehrach 博士は「新車のデザインや気象予報、
者の遺伝子解析を行ない、共有するゲノム領域を絞
フライトシミュレーションのように、複雑で危険を
り込んだ上で、患者 1 人の全ゲノム解析の結果と照
伴う課題において個別のケースに最適な戦略を決め
らし合わせたところ、
「コエンザイム Q10 の合成酵
るにはコンピューターモデルが用いられる。それに
素遺伝子 COQ2 の変異が見つかった」
。その後、日
対して、医療では未だに 150 年前の気象予報と同
米欧で孤発性患者と健常者の COQ2 の塩基配列を
様の統計的な相関関係がもっぱら使われている」と
解析し、日本人患者に多い変異を抽出し、他にも健
指摘。疾患に関する科学的知見が増え、コンピュー
常者との比較によって患者群に有意な低頻度の遺伝
ターの計算能力が向上し、ヒトゲノムの解析も高速
子変異 10 個を発見した。
化しているからこそ、医療の個別化にそれらを使う
辻氏は疾患の病因解明に向け、パーソナルゲノム研
べき、と強調した。
究は疾患の特性に応じて研究パラダイムを変えるこ
そして、ドイツの ALACRiS Theranostics 社で作成し
とが必要だと提案した。
「遺伝性疾患は家系に基づ
ている Virtual Patient System (ModCellTM)を解
くポジションクローニング、難病で多発家系があれ
説した。これは患者のがんの組織などのサンプルと
ば見出した遺伝子を孤発例の関連解析に応用し、難
ゲノムやトランスクリプトーム解析の情報からコン
病の孤発例を対象にしたエクソーム解析は中規模の
ピューター上に患者固有のがんモデルを作製し、遺
サンプルサイズで行なう。生活習慣病のように頻度
伝子変異のデータベースから作られた標準的ながん
の大きい疾患はさらに大規模なサンプルサイズが必
のモデルと比較して、薬剤データベースや薬剤応答
要。大規模ゲノム解析研究は、創薬実現の様々なス
モデルから最適な薬物療法を導き出すもの。このシ
テップに貢献する」と締めくくった。
ステムは薬剤開発にも利用可能で、
「バーチャルな
患者を用いてバーチャルに薬剤開発を行なうことで
パネルディスカッション
コスト削減と効率向上の両方を狙える」とし、
「上
パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン で は、 冒 頭 に 宮 田 氏 が
市される薬剤の数を 10 倍にし、臨床試験の規模を
「臨床で有用なクリニカル・バイオマーカーには
10 分の 1 から 100 分の 1 程度に減らし、開発期間
multidisciplinary な連携やビッグデータの正しい解釈
を約 3 分の 2 にするのが目標」と話した。
が必要になるのではないか」と登壇者にコメントを
求めた。一圓氏は「疫学調査では検体の採取方法や
遺伝学に基づくバイオマーカー探索
辻 省次 氏
技術を持つところとの連携が鍵」と答え、久保氏も
東京大学大学院医学系研究科 神経内科教授
「特に RNA やタンパクは変性しやすく、解析にかか
東京大学医学部附属病院 ゲノム医学センター長
る器具や時間も研究によって異なり、技術的な問題
神経内科医として遺伝学をベースに研究している辻
氏は、
「アルツハイマー病のアミロイド b タンパク
12
保存法の標準化が課題となることもあって、様々な
があるが、バイオマーカーの開発には大きなバイオ
バンクや集団の追跡データは欠かせない」と述べた。
の沈着やタウタンパクのリン酸化に代表されるよう
辻氏が「疾患の進行が遅くなったことを示す治験の
に神経変性疾患の病態は明らかになりつつあるが、
ために、疾患の進行のプロセスと治療効果を反映す
大多数は孤発性で、根本治療には至っていない」と
るバイオマーカーが欲しい」と話すと、Lehrach 氏
現状を述べ、
「従来からの分子遺伝学の研究パラダ
は「がんに関してはトランスクリプトームやプロテ
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Issue 8/2013
Seminar Report
オームの解析がバイオマーカーとして使える。ただ、
巨大なデータから闇雲にバイオマーカーを探すのは
難しく、特別な遺伝子のサブセットにフォーカスし
てコンピューターモデルを使うと良いだろう」と提
案した。
北野氏は「巨大なデータの解析はバイオインフォマ
ティクスの勝負になる。ただし、今は存在するデー
タを使って、あるいは少し新しいデータを追加して
計算しているのが現状。品質の良いデータが最初に
ないままデータを集めると、ノイズばかりが増える」
と話し、辻氏も「遺伝学のシステムを知らないで治
験をするのはギャンブル」と受け止めている。
宮田氏の「全ゲノム解析で信頼できるデータが取れ
るといえるか」という質問には、
「頻度の低いバリ
アントから機能的な意味があるものを見分けられな
いのが大変だが、大規模になれば克服できるだろう。
また、遺伝学の考え方を入れて、稀だけれど 2 人患
者がいる家系を集めるなどでクリアできる」と辻氏
が回答、北野氏は「大規模データで多因子疾患を見
る際には条件によっては頻度の低いバリアントが飛
ばされてしまい、統計的には正しいが間違ったデー
タになることもある。そういう矛盾を知って統計を
クリニカル・バイオマーカー実用化の社会的課題に
ついては、
「認知症では正確な診断、患者さんと研
究者との信頼関係、セルフログが取れる環境が重
要」と一圓氏が強調し、北野氏が「
(患者団体が被
験者を集める) PatientsLikeMe
のような仕組みや
写真を撮ると食事の総エネルギー量がわかるソフト
などビジネスモデルが繋がり始めている」と続けた。
Lehrach 氏は「今後ゲノムや代謝の情報は自分の携
帯端末に入ってどこでも使えるようになり、コン
ピューターで個別化し、組み合わせた医療ができる
だろう」と将来像を語った。
丁寧に扱わないと」と注意を呼びかけた。Lehrach
最後に各登壇者が研究に対する抱負を述べ、宮田
氏は「レアケースは統計を難しくするが、
もっとデー
氏が「研究は将来の子どもたちのために役に立つ。
タがあれば多くの病気のモデリングができるのでは
是非みんなで応援していきたい」と結んだ。
ないか」と示唆した。
Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies13
Pathway Application
生物学者のためのシステムサイエンス入門(第 3 回)
北野 宏明 博士(特定非営利活動法人 システム・バイオロジー研究機構 代表)
ここまで、生命システムの制御構造の一部を見てきた。これらの制御構造の理解を通じて、生命のシステムとしての特性をより深く
理解することができる。ロバスト性、可観測性、可制御性などが、制御工学において注目されるシステムの特性の例である。生命シス
テムにおいてもこれらの特性の理解は、現実的な生物学的プロセスの理解や創薬、バイオマーカーの同定などに有効な方法論となり得
る。今回は、最も広範に使われているロバスト性(ロバストネス、Robustness)に関して整理する。
北野 宏明 博士
前回までに紹介したシステム制御の手法は、基盤的
研究スタイルの中でも、このような詳細な機構の
なものであり、フィードフォワードやネガティブ・
理解を前提とした研究は、いわば詰め将棋的(End
フィードバック、ポジティブ・フィードバックを
Game)な研究である。
組み合わせることで、ほとんどのシステムの動作の
ここで、システムサイエンスからの視点に立ち戻っ
基本的な枠組みは実現可能である。実際に、工学シ
てみる。システムの特性をさらに理解するためには、
ステムでは随所にこれらの手法が見いだされる。生
幾つかの主要な性質を分析する必要がある。それら
物システムにおいてもこれらの手法を普遍的に見い
は、可観測性、可制御性、ロバスト性(ロバストネ
だすことができる。
ス)などである。可観測性や可制御性は、
バイオマー
環境変動に対応し、
連続的変化を中心とした応答(大
カーの同定と評価や創薬ターゲットの同定に関係が
腸菌走化性の制御や多くのシグナル伝達系など)に
ある。ここでは、一番なじみのあるロバストネスか
は、フィードフォワードかネガティブ・フィードバッ
ら議論を進めよう。
ク制御またはそれらの組み合わせが、細胞や生体
ロバストネスとは、システムが外乱や内乱に対して
の状態を大幅に変更することが多い。また、新しい
その機能を維持する能力のことを指す。多くの場合、
安定点で動作するような応答(細胞の分化やリプロ
システムが擾乱にも拘らずその状態を維持するか
グラミング、細胞周期など)においても、ポジティ
または、ある程度状態の逸脱が発生しても元の状
ブ・フィードバックかポジティブ・フィードバック
態に復帰することができる能力を意味する(図 1)
。
とネガティブ・フィードバックの組み合わせが利用
されることが多い。ただし、今まで紹介した形態は
その基本的な形態であり、そのままの形で見いだせ
ることは稀であり、多くの場合、それらの形態の変
形や複合型となっている。
このような制御機構などが理解できれば、単にどの
ような遺伝子やタンパク質が特定の生物現象に関与
しているのかという以上の知見を得ることができる
ことになる。しかし、単に直感的な理解で事足りる
のであれば、本格的なシステム的アプローチを投入
する必要も無い。わざわざ手間をかけて、システム
アプローチで研究を進めるには、従来には無い深い
理解を提供してくれることが動機付けとして必要で
ある。特に、ここで議論するレベルの制御機構など
が同定できるということは、対象となる現象に関す
る分子機構がかなり理解されているという状況であ
る。その意味では、幅広いシステムバイオロジーの
14
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図 1. システム状態の変化の概念図
ここでは、二つの変数によってシステムの状態を特徴づけることが
できると仮定する。その場合、システムの状態の変化は、2 次元上
の軌跡として表される。さらに、システムの安定状態をポテンシャ
ル場として表現すると、緑色の部分が、より安定な領域である。左
上の場合には、システムが安定状態から、擾乱によって変位しても
安定的な周期起動に戻っていく。しかし、
左下の場合にあるように、
擾乱による変化によって、別の安定状態へと遷移することもある。
Issue 8/2013
Pathway Application
この場合、ロバストネスは、ホメオスタシス(恒常
繁に変化する。この特質によって、免疫系の認識反
性)とほぼ同様な意味となる。しかし、大きな擾乱
応プロセスから逃れている。がんは、進行期には
に対してシステムの機能を維持するには、元の状態
染色体の不安定性が増大し、ひとつの固形がんの固
とは大きく異なる他の状態へとシステムを遷移させ
まりの中でも、多様な染色体異常を有する細胞群が
た方が良い場合や、一定の不安定さを内包させた方
混在する状況になっている。このため、例えば、抗
が良い場合などがある。ロバストネスは、このよう
がん剤で一部のがん細胞を排除したとしても、その
な能力も含み、ホメオスタシスよりも広い概念であ
抗がん剤に対応できる遺伝的特質を有するがん細胞
る。ホメオスタシス(homeostasis)は、ウォルター・
が生き残り、増殖を続ける。HIV もがんも染色体の
キャノン(Walter Cannon)の造語で、
Homo(同一)
不安定性がそのロバストネスの根源である。
の Stasis(状態)を意味している。キャノンは、以
ロバストネスを実現する機構には、システム制御以
下のように述べている。
「からだのなかに保たれて
外にも冗長性や多様性、モジュラー化、デカップリ
いる恒常的な状態は、平衡状態と呼んでよいかもし
ングなどがあり、実際にはこれらの機構が組み合わ
れない。しかしこの用語は、既知の力が平衡を保っ
されてロバストなシステムを構成している。これら
ている比較的簡単な、物理化学的な状態、すなわち、
の詳細は、Kitano, Nature Reviews Genetics, 5, 826-
閉鎖系に用いられて、かなり正確な意味を持つよう
837, 2004 などに述べられているので、参照いただ
になっている。生体のなかで、安定した状態の主要
きたい。
な部分を保つ働きをしている、相互に関連した生理
学的な作用は、ひじょうに複雑であり、また独特な
ロバストネス・トレードオフ
ので ―― それらのなかには、脳とか神経とか心臓、
生物システム、特に疾病の理解と治療法の開発でよ
肺、腎臓、脾臓が含まれ、すべてが協同してその作
り重要なことは、ロバストネスにはトレードオフが
用を営んでいる ―― 私はこのような状態に対して
存在するということである。制御工学では、ロバ
恒常状態(ホメオステーシス homeostasis)という
スト性の向上は他の部分での脆弱性の増大につなが
特別の用語を用いることをと提案してきた。この用
り、全体でのロバストネスは一定であるというボー
語は、固定して動かないもの、停滞した状態を意味
デの定理が存在する。ボーデの定理では、ネガティ
するのではない。それは、ある状態 ―― 変化はす
ブ・フィードバックをかけることによって低周波領
るが相対的に定常的な状態 ―― を意味するもので
域でのひずみやノイズの低減を達成することができ
ある」
(著:W.B. キャノン、訳:館ちかし、館澄江、
「か
るが、高周波領域では、逆に不安定性が増大すると
らだの知恵」講談社学術文庫、日本語版出版 1981
いうことが示されている
(図 2)
。これは、
フィー
年)
。これに対して、ロバストネスは機能の維持を
基準にしており、状態の維持を基準にしているわけ
ではない。すなわち機能を維持するために、大きく
状態が遷移するという場合もロバストネスと考えら
れるが、これはホメオスタシス(キャノンの「体の
知恵」では、
「ホメオステーシス」と表記されてい
るが、現在では、
「ホメオスタシス」と表記される
ことが一般的である)や安定性とは言うことができ
ないのである。
そもそも、システムが不安定であるがゆえにロバス
トネスを維持しているケースもある。後天性免疫不
全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome:
AIDS)を引き起こすウイルスであるヒト免疫不全ウ
イルス(Human Immunodeficiency Virus:HIV)は、
非常に高い突然変異率をもち、その配列の一部が頻
Issue 8/2013
図 2. ボーデの定理の概念図
(A)ネガティブ・フィードバッ
クでは、ボーデの定理(Bode's
theorem)が適応され、低周波
領域で向上した安定性(黄色
の部分:A)は、高周波領域で
の不安定性(緑の部分:B)と
等量となる。
(B)ネガティブ・フィードバッ
クを強くすると、低周波領域
での安定性はより向上するが、
高周波領域の不安定性も増大
する。
Sample & Assay Technologies15
Pathway Application
てロバストになるように進化・最適化したシステム
は、想定していない擾乱に対して極めて脆弱にな
るということである。このようなシステムの特性
に関しては、カールソン(Jean Carlson)とドイル
(John Doyle)らの研究がある(Reynolds, Carlson,
and Doyle, Design degree of freedom and mechanisms for complexity, Physical Review E 66, 016108
(2002) など)
。さらに、このようなトレードオフは、
ロバストネスと脆弱性の間だけではなく、ロバスト
ネス、脆弱性、パフォーマンス、資源要求の間でも
観察される(図 3)
。つまり、システムをよりロバ
図 3. ロバストネス・トレードオフ
ストにするためには、パフォーマンスを犠牲にする
ドバックのプロセスにおいて時間遅れが発生するか
必要があるということであり、また、パフォーマン
らである。この時間遅れによって、高周波領域では
スも維持しながらロバストネスを向上させるには、
位相回転が発生し、ポジティブ・フィードバックに
より多くのリソースを投入する必要があるというこ
なってしまう状態が発生するのである。この不安定
とを示している。例えば、非常に早く生育する珊瑚
性は、振動という現象として発生するが、生物では
は、生育の遅い珊瑚より温度変化などの外乱に脆弱
これをむしろ利用することもある。つまり、工学シ
であることが知られている。これは、ロバストネス
ステムの観点からの脆弱性が、必ずしも生命システ
とパフォーマンス(この場合は、生育速度)のト
ムにおける脆弱性に直結しているとは限らない点に
レードオフである(図 4)
。気を付けるべきことは、
は注意が必要である。しかしながら、ロバストネス
このようなトレードオフは、幅広く観察されると同
に関わるトレードオフは、色々な局面で観察される
時に、常に顕在化しているわけではないということ
現象であり、その特性を理解することは重要である。
である(Kitano, Violations of Robustness Trade-offs,
ボーデの定理は周波数領域での議論であるが、この
Molecular Systems Biology, 6:384 2010)
。これら
ようなトレードオフは、周波数領域だけではなく
の概念は、疾病をシステムの脆弱性として捉える際
一般的な現象である。つまり、日常的な擾乱に対し
に重要なものになる。
図 4. ロバストネスとパフォーマンスのトレードオフの概念図
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Hot New Products ̶ 新製品ご案内
QuantiNova Probe PCR Kit
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プローブを用いた、感度と特異性の高い超高速リアルタイム
PCR
QIAGEN
B社
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QuantiNova Probe PCR Kit は、超高速サイクリング、高感度、長時間安定性を兼ね備えた高性能
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蛍光プローブ検出用 2 ステップ qPCR マスターミックスです。
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efficiency: 84%
CT
■■ 色つきバッファーでピペッティングエラーを回避
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efficiency: 103%
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■■ 変性 5 秒、アニーリング・伸長 5 秒の超高速サイクリング
■■ 1 反応で 2-plex まで可能
CT
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efficiency: 84%
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efficiency: 103%
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efficiency: 87%
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■■ 室温で最大 100 時間安定
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■■ シングルコピーも検出可能な高感度
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増幅困難なアッセイで卓越した結果
QuantiNova Probe PCR Kit の性能を、Bio-Rad® CFX Connect サイクラーで B 社のプローブを用いた PCR キット( A )、
あるいは
40 ViiA7 ™ サイクラーで L 社のプローブを用いた PCR キット( B )と比較した。プラスミド DNA の 10 倍希釈液
QIAGEN
(106 〜 102 コピー数/反応)と MGB(minor-groove binding)プローブを用いた 500 bp のアンプリコンを検出する
L社
35 ® アッセイを用いた PCR 反応を triplicate で行なった。QuantiNova Probe PCR Kit は、B 社、L 社のプローブ PCR キッ
TaqMan
トに比べて、明らかに低い CT 値、より高い再現性と PCR 効率を示した。
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CT
efficiency: 87%
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30%オフキャンペーン実施中!
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efficiency: 99%
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実施期間:2013 年 12 月 31 日(火)受注分まで
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QuantiNova シリーズは、テンプレートの入れ忘れを回避するピペッティングコント
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ロールが内蔵されたリアルタイム PCR 試薬です。
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QuantiNova Probe
PCR Kit の発売開始を記念して、30%オフにてご提供させていただく
キャンペーンを実施中です。是非この機会にお試しください!
n QuantiNova Probe PCR Kit (100) Cat. no. 208252
希望小売価格:¥13,000 → キャンペーン価格:¥9,100
n QuantiNova Probe PCR Kit (500) Cat. no. 208254
希望小売価格:¥54,500 → キャンペーン価格:¥38,150
n QuantiNova Probe PCR Kit (2500) Cat. no. 208256
希望小売価格:¥218,000 → キャンペーン価格:¥152,600
Issue 8/2013
Sample & Assay Technologies17
Letter from Technical Service
Spotlight on Expertise
疾病診断や予防のバイオマーカー探索 ̶ miRNA 研究のワークフローを提案
Q
臨床検体、特に血清、血漿を用いてバイオマーカー探索研究を行ないたい。miRNA をターゲットと
した最適なシステムはありますか?
A
はい、例えば miRNeasy Serum/Plasma Kit では、血清、血漿といった無細胞性の検体から、循環型やエキソ
ソーム由来の miRNA も含めたトータル RNA の精製が可能です *。また前駆体や成熟型の miRNA を選択的
に定量、検出するシステムがあり、アプリケーションに応じて、精製から定量、解析までの一連のワーク
フローをご提案しています。
まずはサンプル採取および安定化、精製、解析そして機能研究において必要な
製品群を、各ステップ毎に下記の方法でご確認ください。
n QIAGEN ウェブサイト www.qiagen.co.jp の 製品 タブから アプリケー
ション
をクリックし、 miRNA 研究
を選択。
miRNA はがんや感染症、様々な病態の新規バイオマーカーとして着目され、
臨床における有用性についての知見が蓄積されつつある研究ターゲットです。
また今後は次世代シークエンシングによる miRNA 解析もますます加速し、より臨床応用へ展開していくことが
予想されます。臨床研究ではワークフローの一元化が重要であるため、より最適な製品選択が必要とされます。
ご希望のアプリケーションに応じた製品、技術的な情報を提供していますので、是非ご相談ください。
* QIAcube ™ による自動化精製も対応。より多くの検体処理を実現します。
精製から定量、解析へ。miRNA 研究における一連のワークフローをお届けします。
Did you know?
オンライントラブルシューティングガイド ̶ 検索、利用方法について
Q RNA 収量または純度が低く、ダウンストリームのアプリケーションに進めません。
A
一般的なトラブルシュートは、オンライントラブルシューティングガイドで確認可能です。
精度の高い RNA 精製は、RT-PCR や次世代シークエンシングといった遺伝子発現解析、cDNA ライブラ
リー作製において要となります。収量や純度が低く、サンプル精製の段階で何か改善点はないか検討さ
れる場合、QIAGEN ウェブサイトでオンライントラブルシューティングガイドが利用できるのをご存知
でしょうか。
例えば RNeasy® Mini Kit を使用し、RNA の A260/A230 比が低い場合、下記の手順で検索し、各質問にお
答えいただくことで、一般的な改善点を確認することができます。ハンドブックのトラブルシュート項
目、FAQ そしてテクニカルサポートへのお問い合わせと組み合わせて、是非ご活用ください。
検索、利用方法
1. QIAGEN ウェブサイト www.qiagen.co.jp の 技術情報およびサポート タブから トラブルシュー
ト&サポート
を選択し、 トラブルシューティングガイド
へお進みください。
2. 一覧表から RNeasy Mini Kit を選択、Low 260/230 ratio をクリックし、各質問にお答えください。
ご不明な点、ご質問はテクニカルサポート(E-mail:[email protected])へお問い合わせください。
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QIAGEN クイズ
QIAGEN クイズ
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エピジェネティクスの代表的な現象として、遺伝子
発現が DNA の修飾でコントロールされることが知
られています。その DNA の修飾は次の番号のうち
のどれでしょうか。
1)DNA のリン酸化
2)DNA の酸化
3)DNA のメチル化
4)DNA のスルホン化
ヒント:弊社ウェブサイト(www.qiagen.co.jp)の検索ボックスに
EpiTect Fast Bisulfite Kit を入力後クリックし、技術情報のタブを
チェック!
応募方法:
クイズの解答と氏名、所属(施設名、学部、研究室名)
、住所、
電話番号、メールの件名に QIAGEN クイズ応募
とご記入の
上、電子メール([email protected])にてご応募ください。
抽選で 30 名様に弊社から粗品を送付させていただきます。
前号の QIAGEN クイズの正解:1 番(ヒト組織由来の DNA/RNA)
応募期間:2014 年 1 月 31 日(金)まで
またご応募された方には、定期的に弊社の製品、アプリケーション
情報満載のメールマガジンを送付させていただきます。
注:当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせて頂きます。
関連アプリケーションのご紹介
EpiTect® Fast Bisulfite Conversion Kit は、様々なスタートサンプルに対応する
Whole
blood
高い柔軟性を提供する一方、わずか 30 分で非メチル化シトシンをウラシル
Cultured cells
or tissues
FFPE
tissues
に高い効率で変換する統合的なシステムです。サンプル溶解ならびに全血/
培養細胞/組織サンプル/ゲノム DNA / FFPE 組織切片由来の DNA を直接
Bisulfite 処理する能率的な手法により、効率的な Bisulfite 変換を迅速かつ簡単
EpiTect Fast FFPE Bisulfite Kit
EpiTect Fast LyseAll Bisulfite Kit
に行なえます。
DNA
EpiTect Fast Bisulfite Kit の相互関係
サンプルタイプに応じて DNA の Bisulfite 変換は特化されたキットとプロトコールが必要。キット
には DNA 抽出に至適化済みのバッファーと DNA の Bisulfite 変換に必要な全試薬が含まれている。
Issue 8/2013
Bisulfite
converted DNA
Sample & Assay Technologies19
Information
パスウェイ研究支援キャンペーン
PCR アレイと専用試薬、QIAGEN RNA 精製キットをお得なセットとして販売いたします。さらに、セットを
お買い上げ頂いた方には、QIAprep や QIAquick® キットなどの QIAGEN 製品をプレゼント!
キャンペーン実施期間:2013 年 12 月 31 日(火)弊社受注分まで
QIAgility 特別価格プログラムキャンペーン
QIAGEN 機器をご使用いただいている皆様に、日頃の感謝の意を込めて PCR セットアップ用分注システム
QIAgility ™ を期間限定で特別価格にて提供させていただきます。是非この機会にご検討ください。
キャンペーン実施期間:2013 年 12 月 31 日(火)弊社受注分まで
先着 50 名様限定のマンスリーキャンペーン実施中!
2013 年 8 月より、毎月異なる製品を特別価格にてご提供するマンスリーキャンペーンを実施しておりま
す。キャンペーン情報はメールマガジンにて配信しております。最新情報をいち早くご入手できるよう、
是非この機会に QIAGEN メール配信にご登録ください!
登録方法: ウェブサイト www.qiagen.com/About-Us/Contact/Subscribe-to-e-news/ よりご登録ください。
キャンペーン情報の詳細はウェブサイト www.qiagen.com/products にある 各種キャンペーン一覧 より
ご覧になれます。
次号予告
最近のゲノム研究から、がんは遺伝的要因や環境的因子の作用により、ゲノムに変異が蓄積する
ことで浸潤や転移を起こすことがわかっています。このことから、がんはゲノムの疾患であると
言われています。次号では、各国が参加している国際がんゲノムコンソーシアムの最新情報、
およびゲノム情報を用いた臨床診断への応用例をご紹介します。
記載の QIAGEN 製品は研究用です。疾病の診断、治療または予防の目的には使用することはできません。最新のライセンス情報および製品ごとの否認声明に関してはウェブ
サイト www.qiagen.co.jp の Trademarks and Disclaimers をご覧ください。QIAGEN キットの Handbook および User Manual は www.qiagen.co.jp から入手可能です。
Trademarks: QIAGEN®, QIAquick®, QIAgility ™ , QIAcube ™ , EpiTect®, RNeasy® (QIAGEN Group); Bio-Rad® (Bio-Rad Laboratories, Inc.); TaqMan® (Roche Group);
ViiA7 ™ (Life Technologies Corporation).
本文に記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。 2302182 11/2013
© 2013 QIAGEN, all rights reserved
www.qiagen.co.jp
株式会社 キアゲン n 〒 104-0054 n 東京都中央区勝どき 3-13-1 n Forefront Tower II
Tel:03-6890-7300 n Fax:03-5547-0818 n E-mail:[email protected]
Sample & Assay Technologies