QIAGEN eyes

QIAGEN
eyes
2
News & Topics from QIAGEN
June 2012
Contents
Worldwide Research ̶ Hot News
再生医療:基礎と応用研究への新展開 2 ∼ 9
Biobanking Review
研究資源としてのヒト由来試料
ESCs/iPSCs Application
ES 細胞と iPS 細胞の可能性
Hot New Products ̶ 新製品ご案内 16 ∼ 17
10 ∼ 11
Pathway Application
システムバイオロジーと
ソフトウェア・プラットフォーム 12 ∼ 14
15
キャンペーン/モニターおよび学会情報
18
QIAGEN クイズ
19
ウェブ/カタログ紹介および次号予告
20
Sample & Assay Technologies
Worldwide Research ̶ Hot News
筋幹細胞の休止期をつかさどる miR-489
by Michael D. O’Neill
カルフォルニア州パロアルト市にあるスタンフォード大学医学部と退役軍人ヘルスケアシステムセンターの研究チームは、幹細胞の
休止期の維持に miRNA のパスウェイが必須であることを、生体マウスの筋幹細胞(サテライト細胞)を用いて実証した。miRNA の
パスウェイの主要な役割の実証に加え、一般的にこの休止期の維持において特に一つの miRNA、即ち microRNA-489(miR-489)が、
転写後にがん遺伝子である Dek を抑制するという重要な役割を担い、サテライト細胞の非対称分裂期にそのタンパク質産物がより分化
した娘細胞において局在化し、筋原性前駆細胞の細胞周期に移行するようにサポートするというのである。
これまで認識されていたのは、哺乳類成体由来の幹
筋原性前駆細胞を生存させることであると著者は指
細胞が長期間にわたり、休止期の状態を維持する特
摘する。
徴を有するということであった。しかし、この休止
期に潜在している分子パスウェイは、よく分かって
いない(2012 年 2 月 23 日号のネイチャーに発表
された[1]
)
。この研究の上級著者であるトーマス・
ランド M.D., Ph.D. は、スタンフォード大学医学部
の神経学と神経医科学教授、スタンフォード大学医
トーマス・ランド 博士
学部グレン老化生物学研究所長、そして、パロアル
ト・退役軍人ヘルスケアセンター研究所のリハビリ
テーション研究開発 COE プロジェクトの代表を務
めている。
クロアレイによって、高純度に精製した休止期サテ
ライト細胞(QSCs)と活動期サテライト細胞(AQCs)
とを解析し、サテライト細胞の活動期に様々な制御
様式を呈する 351 種の miRNA が見つかった。それ
らの 22 種の miRNA の内、2 つの理由で miR-489 が
注目された。1 つ目の注目の理由は、種間で進化的
は、カルシトニン受容体をコードする遺伝子(Calcr
としても知られる Ctr 遺伝子)のイントロン 4 に位
と述べられている。ランド博士等の現行の研究の第
置し、以前にサテライト細胞の休止期制御に関与す
1 ステップは、miRNA が有する成体幹細胞の休止期
ることが観察されたように、QSCs にて大量に発現
における転写後のコントロール活性が、どのような
することである。
処理する Dicer 酵素をマウスサテライト細胞に限っ
てノックアウトし、Dicer タンパク質と miRNA 類の
発現レベルを調べた。その結果、両方ともにノック
アウト細胞内では発現が堅調に抑制され、同時に
2
タイム定量 PCR(qRT-PCR)を用いた miRNA のマイ
増殖、そして分化に不可欠であることが実証された
ものかを調べることだ。研究チームは、miRNA を
1.Tom H. Cheung, Navaline
L. Quach, Gregory W.
Charville, Ling Liu, Lidia
Park, Abdolhossein Edalati,
Bryan Yoo, Phuong Hoang,
and Thomas A. Rando,
“Maintenance of Muscle
Stem-Cell Quiescence by
microRNA-489.” Nature
482(7386): 524–528
(February 23, 2012).
http://www.nature.com/
nature/journal/v482/
n7386/full/nature10834.
html
維持させるのかを特定する実験を行なった。リアル
に保存されたものであること。2 つ目の注目の理由
論文では、miRNA のパスウェイが、幹細胞の多能性、
参考文献
研究チームは次に、miRNA がどのように休止期を
ノックアウト細胞の休止期が終了し細胞周期へ移行
することが観察された。一方、コントロールマウス
において、サテライト細胞内に細胞増殖マーカー
Ki67 が観察されるケースは 1%以下であった。
著者らは、既報においてイントロン miRNA がホス
ト DNA と同時に発現し、ペアでパスウェイの制御
に関与すると示唆している点を指摘する。休止期
特異的な miR-489 と Ctr の発現は qRT-PCR にて確認
されている。さらに qRT-PCR によって、miR-489 が
筋肉内の多核筋線維細胞や単核細胞における発現量
と比較して、QSCs 内で大量に発現していることを
確認している。研究チームが次いで行なったのは、
miR-489 の継続する発現がサテライト細胞の活性を
これらの結果は、正常な miRNA のパスウェイは、
低減させることによって、筋肉の再生を妨げるかど
サテライト細胞の細胞周期の休止期を維持すること
うかの検討である。この実験は、マウスの後肢筋肉
を示唆する。さらには Dicer の欠損条件下における
に miR-489 プラスミドをエレクトロポレーション法
サテライト細胞の子孫細胞は、アポトーシスに導か
により遺伝子導入する in vivo で行なわれた。対照
れる。これらのことから、miRNA の重要な役割は、
筋肉サンプルの平常値に比べて、遺伝子導入サンプ
サテライト細胞の細胞周期休止期を維持し、増殖型
ルは 6 日後で miR-489 の高い発現が観察されたが、
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遺伝子導入を行なったサンプルでは、再生機能に多
次に、miR-489 が休止期を持続させるために、一つ
大な低下が観察された。
かそれ以上の主要な増殖調節因子を抑制しているの
次いで、サテライト細胞の休止状態の維持と細胞活
性の抑制によって、miR-489 が筋肉細胞の再生を抑
制しているという仮説の検証が実施された。線維細
胞に関与する QSCs 内の miR-489 や抗 miR-489 の
過剰発現が ex vivo で行なわれた。サテライト細胞
マーカーとしてシンデカン 4 を用い、遺伝子導入
3 日後の線維細胞上のサテライト細胞量を計測し
た。抗 miR-489 処理を行なったサテライト細胞で
は、対照サンプルと同じような細胞増殖の傾向が観
察された。一方、miR-489 処理を施したサテライト
細胞では顕著に増殖が抑制され、アポトーシスの確
認はできなかった。加えて、miR-489 処理を受けた
細胞の 50%以下に、実験期間中を通して 1 ラウン
ドの細胞周期が観察された。他のテストとしては、
かが検討された。研究チームは TargetScan という
バイオインフォマティクスツールを用いて、3’ 非翻
訳領域(3’-UTRs)に miR-489 の標的領域を有する
と予測される、miR-489 の標的遺伝子を探索した。
推定される 86 個の候補標的の中で最もスコアが
高かったのはがん遺伝子である Dek であった。この
遺伝子は腫瘍細胞内に誘発され、細胞増殖とメッセ
ンジャー RNA のスプライシングをコントロールす
ることが分っている。解析によると、QSCs 内には
Dek タンパクは観察されないが、ex vivo と in vivo
再生実験における線維細胞移植においては、サテラ
イト細胞が活性化した後は、非常に強く増加調節さ
れる。同じように mRNA レベルは ASCs 内の方が、
QSCs 内よりも高くなっている。
Myod-1 の発現をマーカーとし、miR-489 遺伝子導
入 48 時間後のサテライト細胞活性とサテライト細
胞発現定量が計測されたが、このテストにおいても
miR-489 は活性を低下させることが確認された。
研究チームはこれらの結果を統合して、
“これらの
実験結果が示唆するのは、miR-489 がサテライト細
胞の休止期を細胞自律的に制御し、休止期の維持・
延長と QSC 活性の遅延は単一の miRNA の過剰発現
で十分であり、結果として細胞再生を阻害すること
が in vivo で明らかにされた”と結論した。
次に検討されたのは、miR-489 の阻害が活性誘発刺
激が無ければ通常分裂しない QSCs を活性化させる
ことに繋がるかどうかである。特異的に miR-489 を
標的とする Antagomirs(内因性 miRNA を不活性化
させる機能を有する化学合成したオリゴヌクレオチ
ド)や対照の Antagomirs 混合物が、成体マウスに
全身投与された。1 種類の Antagomirs 投与 4 日後、
miR-489 レベルが急激に減少した。さらに、対照マ
ウス群と比較して、抗 miR-489 antagomirs を注射さ
れたマウス群には QSCs の自発的活性化が観察され
た。たった 1 種類の休止期特異的 miRNA(miR-489)
を阻害するだけで、QSCs が休止期を脱して損傷の
無い筋肉細胞で成長することは驚くべきことと言え
るであろう。
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Sample & Assay Technologies3
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QSCs や筋芽細胞に miR-489 を導入した場合、Dek
ランド博士が強調したのは、今回の研究結果は、
が抑制調節を受けることにより、Dek が miR-489 を
幹細胞による筋ジストロフィーの治療研究 ̶ これ
直接標的としていることが推定される。そのため
はランド博士の研究室が第 1 の目標としている課
筆者らは Dek の 3’-UTR の野生型と変異型を直接使
題でもある ̶ を含むヒト疾患の治療研究の発展に、
用した実証実験を行なった。その結果、野生型では
大変大きな意味を持つということである。現在、幹
明らかに miR-489 によって抑制制御されることが
細胞による治療アプローチの問題の一つは、通例、
分った。
必要な組織を培養する大変な工程を必須としている
次いで、Dek をノックダウンすることによってサテ
ライト細胞の増殖が抑制され、miR-489 が過剰発現
した場合と同じ程度の強さでサテライト細胞の活性
が阻害されることが明らかにされた。この結果は、
サテライト細胞が休止期から脱するために、Dek が
中心的な役割を果たしていることが示唆されると
研究チームは指摘している。
ことである。残念なことに、筋肉細胞は培養が難
しく、培養途中で機能を失してしまうことも多い。
ランド博士が期待するのは、幹細胞の休止期が正常
に維持されるメカニズムの解明ができて、それに
よって in vitro 系による幹細胞の操作を、例えば薬
剤や miRNA を使って細胞機能が失われないように
上手く行なう方法を開発し、組織の再生が実際にで
きるようにすることなのである。
次に、miR-489 の過剰発現が、Dek 発現の調節によ
る増殖傾向を抑制しているか否かの検証が行なわれ
た。miR-489 か miR-489 変異体を、筋芽細胞増殖に
関与する 3’-UTR を欠損した Dek 相補的 DNA と一緒
に過剰発現させた。その結果、miR-489 の過剰発現
だけで細胞増殖は抑制され、miR-489 や miR-489 変
異体の発現とは独立して、Dek の過剰発現は実質的
に増殖を促進させた。これは、Dek がサテライト細
胞の休止期維持と活性化に関与している miR-489 の
重要な標的となることを示唆している。さらなる
研究によって、Dek は活性化されたサテライト細胞
が、非対称分化して増殖性前駆細胞になり、自己更
新したサテライト細胞となることが明らかになっ
た。スタンフォード大チームの研究が示唆するのは、
Myod-1 陽性細胞が筋原性細胞株に応じた増殖に関
与し、Myod-1 陰性細胞がサテライト細胞株の更新
に関与するように、Dek 陽性細胞は、増殖、発展、
分化の方向へ進み、Dek 陰性細胞は、自己更新の方
向へ進むということである。
細胞休止期の持続において、Dek が miR-489 の主要
な標的であるという発見は、休止期の調節に関与す
るパスウェイの分子生物学的研究と理解に多大なる
進歩をもたらしたと研究チームは結論付けている。
彼らは、
“細胞休止期の分子調節が、特定の miRNA
の発現に依存しており、それによるシグナリング
ネットワークが、非対称細胞分化を通して幹細胞の
【発散的な運命】を取り決めているのです”と説明
する。
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遂に歩みだした幹細胞研究による AMD などの難治性網膜疾患治療
by Michael D. O’Neill
近年、様々な疾患の移植治療を目的とした成人体細胞多能性幹細胞への再プログラミングが現実のものとなり、自家移植片へと分化で
きるようになったことで、疾患の治療と回復への展望が急速に開けてきた。人工多能性幹細胞(iPS 細胞)による移植治療は、胚性幹
細胞(ES 細胞)を使用した大規模臨床開発に付いて回る倫理的問題や各種の運用上の問題を回避し、iPS 細胞の自家移植を受ける患者
には、移植拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤の服用が短期間で済むといった様々な恩恵をもたらす。
米国と日本の 2 つの研究グループによる最近の成果
フリードランダー博士は、従来使用されてきた再
によれば、加齢黄斑変性症(AMD)のような網膜
プログラミング因子(転写因子)の 4 つの内 3 つ
疾患を、iPS 細胞由来の組織片を用いた網膜色素上
の再プログラミング機能を特異的な低分子化合物の
皮細胞(RPE 細胞)移植によって治療する方法に、
セットによって代替できることを実証できた点につ
格段の進歩があったことが報告されている。RPE 細
いて特に言及した。従来使用されてきた再プログラ
胞とは、色素性立方上皮細胞とその下方にあって、
ミング因子のセットは、発ガン遺伝子として知られ
色素性立方上皮細胞の生命維持を司る脈絡膜毛細
る c-Myc を含んでいるため、腫瘍が形成されるリス
血管との間をつなぐ一層の細胞層である。この RPE
クがあったためだ。
細胞が失われると、AMD を含む治療不可能な失明
フリードランダー博士の研究グループがこれまでに
に至る疾患を引き起こし、先進国における 65 歳以上
達成した注目すべき成果は、骨髄や臍帯血由来の前
がこうむる法的盲の代表的な原因となっている。
駆細胞を用いて、眼球の血管形成異常や網膜変性箇
米国の研究グループは、現在のペースで研究が進め
所を修復する研究である(2、3、4、5)
。フリード
ば、AMD 治療を目的とした iPS 細胞由来の RPE 細
ランダー教授が前職のロックフェラー大学で共同
胞(iPS-RPE 細胞)移植治療法は、
“早ければ 3 ∼
4 年のうちに”臨床試験を開始できるであろうと
予測している。
カルフォルニア/ラ・ホーヤのスクリプス研究所・
細胞生物学部教授で、スクリプスクリニックの外科
部網膜医療科チーフであるマーチン・フリードラン
ダー M.D., Ph.D. が率いる米国の研究グループは、
RPE 細胞の運命を握ると言われる 4 つの因子の代わ
りに、1 つの再プログラミング因子(Oct4)と幾つ
かの低分子成分を用いて iPS 細胞を作製した(1)
。
高橋 政代 博士
研究したのは、タンパク質が細胞内での輸送と局
在化を支配する信号を内在していることを発見し、
1999 年にノーベル生理学・医学賞を受賞したギュ
ンター・ブローベル教授であった。
日本の研究グループ(神戸の理化学研究所、発生・
再生科学総合研究センター、網膜再生医療研究チー
ムのチームリーダー高橋政代 M.D., Ph.D.、コレス
ポンディングオーサー、岡本理志が第 1 著者)は、
サル由来の iPS 細胞セルラインを作製し、iPS 細胞
から RPE 細胞を誘導する実証を報告している(6)
。
著者らが指摘するのは、この研究の重要な点は、再
再プログラミング工程から、発ガン性を誘発する因
生医学において特に免疫応答を研究するために、自
子を低減若しくは除去するこの方法は、iPS-PRE 細
家移植と同種移植の機構についての研究は必須であ
胞移植に起因する、腫瘍の形成リスクを低減させ
るからだ。サルについて、自家移植と同種移植の研
る大変重要な意味がある。そして、ヒト胎児性 RPE
究を執り行なうことは、進化上極めてヒトに近いこ
(hfRPE)に極めて近いヒト型 iPS-RPE 細胞の作製を
とが重要である。サル由来 iPS-RPE 細胞を活用すれ
現実化させるのである。彼らは、この方法により、
ば、炎症や拒絶反応のような免疫応答についての
臨床試験に耐えられる品質の細胞組織を作製できる
in vivo 解析を行なうことができるのだ。この研究は
と信じている。
iPS-RPE 細胞移植の臨床試験を行なうための基礎研
究を確立するために、大変役に立つものである。
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幹細胞と網膜移植の研究で高橋博士が以前から最前
米国の研究グループは、RPE 移植には時間が掛かる
線にいることは注目すべきであろう。1998 年に同
ことも含めて様々な理由で、AMD のような疾患に
博士は、網膜移植に神経幹細胞を使用するアイデア
対する iPS-RPE 細胞の治療戦略を立てる場合、患者
を発表している(7)
。2002 年には、笹井芳樹 M.D.,
や医療保険に対して経済的に大きな負担が掛かるこ
Ph.D. とその研究チームと共同で、RPE 細胞が霊長
とも指摘している。それゆえ、求められる細胞の誘
類の ES 細胞から誘導できることを示し、2004 年
導その安全性を担保できる 1 つか 2 つの特別な再プ
に霊長類の ES 細胞由来 RPE 細胞が治療に使えるこ
ログラミング・プロトコルの確立と最適化が必要と
とを実証している(8、9)
。2008 年には笹井博士と
なるであろう、と彼らは強調する。更には、移植を
その研究チームと共同で、世界で初めてヒト ES 細胞
行なった実験動物については、観察期間をできる限
から視細胞を誘導した(10)
。
り延長して、腫瘍の形成が無いことを確認しなけれ
米国の研究グループの研究成果の背景
本論文の中で、米国の研究グループが成果の背景と
ばならない。
米国の研究グループの研究内容の詳細
して指摘しているのは、AMD 患者を RPE 細胞の自
現 行 の 研 究 で は、 通 常 の 4 因 子 由 来 の iPS 細 胞
家移植で治療する外科手術を実験的に施行し、その
(4F-iPS 細胞)だけでなく、2 因子由来の iPS 細胞
実現可能性と有効性について、既に実証済みであっ
(2F-iPS 細胞)と 1 因子由来の iPS 細胞(1F-iPS 細胞)
たということである。しかしながら、これらのアプ
も作製している。4F-iPS 細胞の 1 セットは、ヒト胎
ローチは、余りにも侵襲的であり実際的では無かっ
児性肺線維芽細胞セルラインから、4 つの外因性転
たと著者はコメントしている。ES 細胞由来 RPE 細胞
写因子 Oct4、Sox2、Nanog そして Lin28 を用いて
は、RPE が介在する網膜変性の動物モデルでは、確
作製され、低分子成分は使用しなかった。2F-iPS の
かに一時的な助けにはなった。しかしながら、それ
4 セットは、新生児表皮性角化細胞のプライマリー
らの方法では、時間が経過した後の、宿主側の拒絶
細胞から、2 つの外因性転写因子 Oct4 と Klf4 に 2 つ
反応の可能性が問題として残った。
の異なる低分子の組み合わせを用いて作製された。
一方で著者は、iPS 細胞は患者由来の上皮細胞から
1F-iPS 細胞の 4 セットは、新生児表皮性角化細胞の
作製することができ、RPE 細胞の自家移植に容易に
適用できる点について特に言及した。ヒト iPS 細胞
は RPE 細胞に誘導でき、RPE ジストロフィーラット
プライマリー細胞から、1 つの外因性転写因子 Oct4
に 特別な 低分 子成分の カク テルを用 いて作製 さ
れた。
に移植したモデル実験では、一時的に症状の改善が
研究グループは、1F-iPS 細胞が分化して、分極した
観察されることは既に報告されている。しかし、ヒ
単層構造を持ち完全な機能を有する立方型色素細胞
ト ES-RPE 細胞と通常のヒト iPS-RPE 細胞とヒト胎児
を形成することを、
RPE 特異的マーカーの発現によっ
性 RPE(hfRPE)とを総合的にトランスクリプトーム
て実証した(図 1)
。
解析した結果、ヒト iPS-RPE 細胞は hfRPE と比較し
て明らかに異なるトランスクリプトームの様相が観
察され、それは多分、iPS 細胞が誘導される通常の
再プログラミング機構によるものと考えられる。
更には上記で議論しているように、通常の iPS 細胞
の再プログラミング法を用いた場合、発ガンのリス
クを考慮しなければならない。それは、発ガンの可
能性を有する 4 つの再プログラミング転写因子であ
り、しばしば発ガン遺伝子である c-Myc が含まれる。
6
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図 1. 1F-iPS-RPE 細胞の電子顕微鏡写真
網膜上腔に 7 ヶ月前に懸濁液を注入。図の上部には脈絡毛細管枝
とブルッフ膜が観察される。この図では 1F-iPS-RPE は正しく単層に
分極している。基底陥入がブルッフ膜に沿って観察される。図の
下部に沿って先端突起が観察される(図はフリードランダー研究
室のピーター・ウエステンスコウ博士からご提供)
。
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同グループが、最新のプロテオミクス解析と非標
ジストロフィー動物モデルの網膜変性に対して iPS-
的メタボロミクス解析を用いて明らかにしたのは、
RPE 細胞を用いる試みは、これが最初の報告ではな
1F-iPS-RPE 細胞が非常によく hfRPE と類似している
いことを研究グループは断ってはいるが、最新の外
ことであった。網膜電図グラフと合わせて最新の
科的検討、メタボロミクス、画像処理技術、電気生
in vivo イメージング技術を用いて解析した結果、
理学技術などを駆使して、修復組織と幹細胞由来細
RPE 介在網膜変性モデルラットに移植術を施した後、
胞の解析を行なったのは世界初である。ジストロ
1F-iPS-RPE 細胞によって光受容体が解剖学的かつ機
フィー動物モデルにおいて、1F-iPS-RPE 細胞が hfRPE
能的に修復されたことが確認された。特に、モデル
により近い性質を持っており、解剖学的にも機能的
ラットの網膜下腔への 1F-iPS-RPE 細胞の移植によっ
にも光受容体をより良く修復した事実は、AMD 患
て、6 ヶ月の期間、腫瘍の発生も無く、網膜と光受
者に対して、傷害した RPE 細胞の移植が可能になる
容体が退縮する症状が抑えられた(図 2)
。
ということなのである。
この技術を臨床試験まで持っていくには、まだ幾つ
か乗り越えるべき課題がある。例えば分化に要す
る時間の短縮や効率の改善、そして iPS-RPE 細胞を
網膜下腔に上手に移植する技術の向上などである。
そうであってもこの研究によって“iPS-RPE 細胞の
移植が実現し、失明が不可避な疾病の治療法が可能
になる”ことは間違いないであろう。
フリードランダー博士によれば、次のステップは
iPS-RPE 細胞の誘導を、老齢の AMD 初期ステージ患
者の体細胞から行なうことである。現在の研究は、
体細胞の採取を若く健康なボランティアから行なっ
ている。
図 2. 遺伝子の変異によって RPE 介在網膜変性を発症した遺伝性盲
ラット(RCS ラット)の眼球
6 週間前に 1F-iPS-RPE 細胞を眼球に注入。図の上部には緑色の光受
容体外部領域が観察され、真下の細胞の列(細胞核青く DAPI 染色
されている)は細胞が高密度で詰まっている状態。一方、1F-iPSRPE 細胞の注入がなされていない眼球は光受容体がたったの一列し
か観察されない(図はフリードランダー研究室のピーター・ウエ
ステンスコウ博士からご提供)
。
現在、研究プロジェクトを動かしているキーパー
ソンはピーター・ウエステンスコウ Ph.D. と栗原俊
秀 M.D., Ph.D. であり、栗原博士は東京の慶應義塾
大学に修学していた。フリードランダー博士はグラ
ントを供給している組織にも言及し“我々の研究に
グラントを供給しサポートして頂いている各機関
フリードランダー博士は、最新の技術を駆使して、
に感謝します。再生医学カルフォルニア研究所、
これほど iPS-RPE 細胞の移植の機構と機能を注意深
NIH 国立眼科研究所、ドイツ研究財団、鈴木万平糖
く検討した例は過去には無いと強調する。
尿病財団、そしてバンダービルト大学医学部強化プ
更に 1F-iPS-RPE 細胞は、事前に予測されていたよう
ログラムからの支援のおかげです”と語る。
に、単に光受容体に有利に働くだけでなく、光受
フリードランダー研究グループでは様々な QIAGEN
容体の外部領域を貪食し視覚サイクルを維持させ
製 品 を 研 究 に 使 用 し て い る。 例 え ば、 ト ー タ ル
る(通常の RPE の機能)ことが in vivo で確認され
RNA を単離するキットである QIAshredder および
た。そして同研究グループは、1F-iPS-RPE 細胞の方
RNeasy® Plus kits や、逆転写に使用するキットであ
が hfRPE により近い性質を持っており、解剖学的に
QuantiTect® Reverse Transcription Kit 等である。
も機能的にも光受容体をより良く修復し、発ガン因
子の数も少ないので、通常の iPS-RPE 細胞よりも臨
床に応用するには優れているとの結論に達した。
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Sample & Assay Technologies7
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日本の研究グループの研究成果の背景
自身の研究チームの成果について、高橋博士は進化
的に人間に非常に近いサルを用いた移植臨床研究は、
ヒトの臨床研究にもその経験を活かせることを強調
する。例えばサルの眼球はヒトの眼球と極めて似て
いる。つまり、移植に関連する免疫応答や他の反応
の情報は、iPS-RPE 細胞をヒトに移植する臨床試験の
実施の現実性を評価するのに非常に重要なのである。
興味深いことに、
ヒトとサルだけが網膜にくぼみ(中
心窩)を持っており、これが哺乳類の視覚の識別能
力が高い理由なのだ。中心窩は網膜の黄斑部の真ん
図 3. iPS 細胞由来の RPE 細胞の作製
網膜色素外皮細胞は iPS 細胞から作製されて、色素沈着した細胞ク
ラスターとなる。これらのクラスターを用いて、精製された網膜
外皮細胞シートを作製した(図は高橋博士からご提供)
。
中に位置しており、ヒトが明確な中心視力、例えば
本を読んだり、物を見つめたり、運転で周りを注視
同研究グループは研究で得た iPS-RPE 細胞を用いて、
したりするために必要な機能を提供しているのだ。
サルの自家移植と同種移植の研究を続けている。臨
更には視覚の敏感さや、他の哺乳類に対して非常に
床試験に使用するドナー細胞の作製方法とは全く異
勝っている色覚の獲得にも、大変役に立っている。
なるとはいえ、ヒトのように中心窩を有する哺乳類
日本の研究グループの研究内容の詳細
日 本 の 研究 グ ルー プ が線 維 芽細胞 から 誘導し た
サル iPS 細胞は、4 つの再プログラミング因子遺伝
子(Oct3/4、Sox2、Klf4 と c-Myc) を レ ト ロ ウ イ
ルスに乗せる通常の方法で行なわれた。誘導された
iPS 細胞は PA6 細胞と共培養され、RPE 細胞が作製
を使った移植研究であり、この移植に関連する安全
性の試験は、ヒトの臨床試験を開始する前に徹底し
て調べることができるので大変重要な研究であると
同グループは指摘する。確かにサルに対する自家移
植の実験手法は、本質的にはヒトに対する臨床的な
移植方法と同様であるのだ。
された(図 3)
。サルの iPS 細胞の誘導効率は人間
結論
に比べておよそ 2 桁程度低いレベルであるが、サル
フリードランダー博士らと高橋博士らによる研究の
iPS 細胞から作製した細胞は、様々な評価基準から
進展と、世界の他の研究勢力の努力により AMD の
RPE であることが実証された。その細胞は特徴的な
治療に iPS-RPE 細胞の移植を適用するアイデアは、
多角形の形状と色素を有しており、RPE 特異的マー
研究段階から臨床試験の段階へと進展しつつあり、
カー類(RPE65、CRALBP、Bestrophin 1 と MERTK)
この失明に至る疾病の克服には、5 年を待たずして
を発現した。そして in vivo 試験で RPE 特異的な貪
大きな期待が寄せられるようになった。
食作用も確認された。
高橋研究室の研究員
写真は高橋博士からご提供
8
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Issue 2/2012
Worldwide Research ̶ Hot News
参考文献
1. Tim U. Krohne, Peter D. Westenskow, Toshihide Kurihara, David F. Friedlander, Mandy Lehmann, Alison L. Dorsey, Wenlin Li, Saiyong Zhu,
Andrew Schultz, Junhua Wang, Gary Siuzdak, Sheng Ding, and Martin Friedlander. “Generation of Retinal Pigment Epithelial Cells from
Small Molecules and OCT4 Reprogrammed Human Induced Pluripotent Stem Cells.” Stem Cells Translational Medicine 1(2): 96-109 (February
1, 2012).
2. Atsushi Otani, Karen Kinder, Karla Ewalt, Francella J. Otero, Paul Schimmel, and Martin Friedlander. “Bone Marrow–Derived Stem Cells
Target Retinal Astrocytes and Can Promote or Inhibit Retinal Angiogenesis.” Nature Medicine 8(9): 1004-1010 (September 2002).
3. Atsushi Otani, Michael Ian Dorrell, Karen Kinder, Stacey K. Moreno, Steven Nusinowitz, Eyal Banin, John Heckenlively, and Martin
Friedlander. “Rescue of retinal degeneration by intravitreally injected adult bone marrow–derived lineage-negative hematopoietic stem cells.”
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4. Matthew R. Ritter, Eyal Banin, Stacey K. Moreno, Edith Aguilar, Michael I. Dorrell, and Martin Friedlander. “Myeloid Progenitors
Differentiate into Microglia and Promote Vascular Repair in a Model of Ischemic Retinopathy.” Journal of Clinical Investigation 116(12):
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5. Valentina Marchetti, Oscar Yanes, Edith Aguilar, Matthew Wang, David Friedlander, Stacey Moreno, Kathleen Storm, Min Zhan, Samia
Naccache, Glen Nemerow, Gary Siuzdak, and Martin Friedlander. “Differential Macrophage Polarization Promotes Tissue Remodeling and
Repair in a Model of Ischemic Retinopathy.” Scientific Reports 1:Article 76 (August 30, 2011).
6. Satoshi Okamoto and Masayo Takahashi. “Induction of Retinal Pigment Epithelial Cells from Monkey iPS Cells.” Investigative Ophthalmology
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8. Hiroshi Kawasaki, Hirofumi Suemori, Kenji Mizuseki, Kiichi Watanabe, Fumi Urano, Hiroshi Ichinose, Masatoshi Haruta, Masayo
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pigmented epithelia from primate ES cells by stromal cell-derived inducing activity.” PNAS 99(3): 1580-1585 (February 5, 2002).
9. Masatoshi Haruta, Yoshiki Sasai, Hiroshi Kawasaki, Kaori Amemiya, Sotaro Ooto, Masaaki Kitada, Hirofumi Suemori, Norio Nakatsuji,
Chizuka Ide, Yoshihito Honda, and Masayo Takahashi. “In Vitro and In Vivo Characterization of Pigment Epithelial Cells Differentiated from
Primate Embryonic Stem Cells.” Investigative Ophthalmology & Visual Science 45(3): 1020-1025 (March 2004).
10. Fumitaka Osakada, Hanako Ikeda, Michiko Mandai, Takafumi Wataya, Kiichi Watanabe, Nagahisa Yoshimura, Akinori Akaike, Yoshiki
Sasai, and Masayo Takahashi. “Toward the Generation of Rod and Cone Photoreceptors from Mouse, Monkey, and Human Embryonic
Stem Cells.” Nature Biotechnology 26(2): 215-224 (February 2008).
“BioQuick ニュース 日本語版”のご紹介
“WORLDWIDE RESEARCH ̶ HOT NEWS”は、サイエンスライターとして 30 年以上
の豊富な経験を有するマイケル D. オニール氏によって取材編集されています。
株式会社キアゲンは同氏が編集長を務める独立系科学メディア“BioQuick ニュース
日本語版”に協賛しています。
注目のストーリー(記事は週 3 回更新)
■■ たった一つの遺伝子変異で肥満になる
■■ がん治療薬が糖尿病リスクを増加?
■■ ヒト腸内ウィルスの遺伝的変異が進化の元であった
■■ エピジェネティック・マーカーの安定に必須である卵子タンパクがみつかる
■■ 遺伝子導入法による鎌状赤血球症の治療が、現実性を帯びてきた
“BioQuick ニュース 日本語版”は、下記ウェブサイトより無料で購読できます。
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Issue 2/2012
Sample & Assay Technologies9
ESCs/iPSCs Application
ES 細胞と iPS 細胞の可能性
阿久津 英憲 博士(
(独)国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター生殖・細胞医療研究部)
体外受精技術の開発で 2010 年にノーベル医学生理学賞を受賞した Robert G. Edwards 博士は、当初(1960 年代)
、ヒト初期胚から培養
そこから分化させた細胞を移植することで治療法のない病気を治せるのでは、
ディッシュ内で“何にでも分化できる”細胞を作り出せて、
と考えていた。当時まだマウス胚性幹(ES)細胞の存在すらない頃に“ヒト ES 細胞による再生医療”の概念を念頭においていたのである。
そして、Edwards 博士のノーベル賞受賞が決まった 6 日後、世界で初めてのヒト ES 細胞を用いた再生医療がまさしく始まったのである。
現在(2012 年 4 月)
、ヒト ES 細胞を用いた臨床試験はバイオベンチャー企業が先導し米国と英国で計 10 症例が行なわれている。
多能性幹細胞;マウスからヒトへ
ES 細胞は着床直前の胚から樹立できる分化多能性
の幹細胞である。1981 年にマウスで初めて ES 細
胞が報告されている(ちなみに、その論文の著者で
ある Evans MJ と Kaufman MH は EK 細胞と名付け
ていた)
。ES 細胞は、通常生体内には存在しない幹
細胞である。初期発生からスピンオフしてできる人
工的な細胞株であるのだが、in vivo レベルでは明ら
阿久津 英憲 博士
かに個体のあらゆる細胞へ分化する能力(分化多能
性:Pluripotency)が示されている。分化多能性を持
ちつつ、
無限に細胞増殖を繰り返すことができる(自
己複製能:Self Renewal)
。マウス ES 細胞では、特
定の遺伝子の構造を自由自在に改変するジーンター
ゲティング法が可能であり、1987 年に Evans MJ、
Capecchi MR そして Smithies O の 3 人がそれぞれ
Hypoxantine phosphoribosyltransferase(HPRT) の
遺伝子ノックアウトマウス作製を報告した。in vitro
で遺伝子改変操作が可能で Pluripotent な性質を活か
の応用が進むとともに、Self Renewal と Pluripotency
を持つ分子機構を明らかにする研究も盛んに進めら
れてきた。マウス ES 細胞は確かに in vitro の培養環
境下で存在するものではあるが、in vivo では生殖細
胞も含めあらゆる細胞へと分化し、さらに最も厳し
い分化多能性評価基準法であるテトラプロイド凝集
胚形成法では 100% ES 細胞由来の個体を作り出す
ことができる。つまり、in vitro で解明する分子機
構が in vivo での発生、特に胎児期の臓器・器官発
生(Organogenesis)の理解へ応用可能であり、逆に
Organogenesis の知見が ES 細胞の分化誘導研究へ展
開できる。実験動物マウスでは、ES 細胞レベルでの
遺伝子改変操作や個体レベルでの分化多能性解析が
可能で、ES 細胞特異的な分子機構の解明が大きく進
んで行く中、1998 年にようやくヒト ES 細胞の樹立
が Thomson JA らにより報告された。ヒト ES 細胞も
in vitro で着床前期胚からスピンオフしてきた細胞株
であり(図 1)
、Self Renewal と Pluripotency を持つ
し、キメラマウス(生殖細胞へ分化)を経て遺伝子
ヒト分化多能性幹細胞である。ヒトでは、各組織・
ノックアウトマウスを作製することができ、マウ
器官の初期発生機序を分子レベルで詳細に解析し、
図 1. 幹細胞開発における階層別の可能性(引用文献 1)
10
どの遺伝子機能解析のツールとしてマウス ES 細胞
スの個体レベルで遺伝
さらに特定遺伝子機能を発生の中で検証することが
子機能の解析が可能と
事実上極めて困難なことから、ヒト分化多能性幹細
なり、哺乳動物での遺
胞を用いた Organogenesis を細胞・組織レベルでも
伝子機能解析は格段に
in vitro で再現できるシステムを構築することは極
進歩してきた。この成
めて重要である。ただし、ヒト ES 細胞を作り出し、
果 に よ り、 こ の“ ジ ー
in vitro でその性質を維持する仕組みは、マウス ES
ンターゲティング法の
細胞のそれと異なる点が多い。マウスとヒトの ES
ゴッドファーザートリ
細胞では、未分化性を維持するために必須となる転
オ”の 3 人は、2007 年
写因子回路(Oct3/4、Sox2 や Nanog)は共通であ
にノーベル医学生理学
るものの、そこへ応答する外来シグナル因子が異な
賞を受賞している。ノッ
り、分化誘導方法もマウスでの系がヒト ES 細胞で
クアウトマウス作製な
は適用できないことも多い。培養方法に関しても、
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ESCs/iPSCs Application
ヒト ES 細胞は単離すると細胞死が引き起こされや
しないことからも世界中へ爆発的に拡がっていっ
すく、よりよく細胞を育てるということに関してマ
た。単に、技術的な簡便さだけではない。幹細胞生
ウス ES 細胞と大きく異なる判断と技術が必要とさ
物学領域以外のあらゆる分野で iPS 細胞を応用する
れる。しかし、ヒト ES 細胞培養での特殊な細胞培
ことで、これまでの研究が促進できる可能性とこれ
養手技の獲得が必要ということが、ES 細胞を用い
までにない側面からも研究を展開できる可能性が大
た研究を促進しさらにその先の実用化を進める上
きな魅力だと考えられる。例えば、疾患研究の新た
で限界因子にならないようにする必要がある。この
な研究システムとして、患者自身の組織から多能性
極めてユニークな性質を持つ細胞を in vitro で維持
幹細胞を作製でき、分化誘導系を基盤とすることで
できるシステムを作り出す培養技術の発展は、それ
in vitro で疾患が再現できることは大きな魅力であ
が特殊技術ではなく万人が扱えるようなコンビニ
る。iPS 細胞の出現は、異なる研究領域間の連携を
エントな方法を確立することが必須である。
加速してきているように思える。
ヒト ES 細胞を用いた研究の応用では、その分化多
おわりに
能性を制御し細胞治療などの再生医療や in vitro 分
化誘導系を利用した創薬開発や毒性試験などへの応
用やさらに大規模スクリーニング開発への期待も大
きい。ES 細胞からの分化誘導を行なう上でその基
盤となる考え方は、遺伝子発現が発生を制御すると
いう考え方である。各発生段階への変化は特定の遺
伝子(組織特異的遺伝子)発現の ON/OFF 制御に
よるという考え方から(図 2)
、ヒト ES 細胞の分化
誘導系でも成熟分化細胞を得るためにその方法が応
用される。その究極的な発展応用では、発生特異的
な遺伝子群を体細胞へ直接導入し、強制誘導させる
ことで目的の分化細胞を生み出すことが可能となっ
ている(ダイレクト・コンバージョン)
。
引用文献
1."Investigating cellular identity
and manipulating cell fate
using induced pluripotent
stem cells." Sugawara et
al. Stem Cell Research &
Therapy 2012, 3:8
ヒト幹細胞研究の発展は多角的に進められるだろ
う。自己複製能や分化多能性をもつヒト多能性幹細
胞の性質を知り尽くすことの研究とともに、幹細胞
の実用化へも大いに期待される。ヒト ES 細胞によ
る細胞治療は First in Human 試験として米国を中心
に進んでいる。ヒト ES/iPS 細胞の創薬初期開発ス
テップでの応用が現実味をおびている。ヒト多能性
幹細胞を用いた創薬スクリーニング系では、システ
ムの自動化も含め産業化へ向けた取り組みも始まっ
ている。
幹細胞生物学の発展とともに様々な分野が融合して
多くのブレイクスルーを可能にすることを切望す
る。ES/iPS 細胞のようなヒト多能性幹細胞は、幹細
iPS 細胞の誕生
胞生物学領域のみならず異なる分野との“融合”に
1997 年に体細胞から分化全能性を獲得できること
よる学際的な研究推進が今後の大きなテーマであろ
が、クローン羊 Dolly の誕生で証明された。そのこ
う。これまで医・理・工連携の重要性がうたわれ
とは、発生過程で運命決定(プログラム)された
てきたが、成功する大きな要素は“継続”である。
状態を卵細胞を用いることで別の細胞へと細胞機
ES/iPS 細胞の他分野との融合により成果を上げてい
能的・分子機能的に変化させることが可能であり、
くのも最初から成果としておいしい果実を手に入れ
体細胞から発生時計を逆戻りするような再プログラ
るのは難しいだろうが、継続していくことが重要で
ム化により分化多能性を獲得することが可能である
はないかと思う。
ことが示された。
そして、2006 年には、Takahashi K と Yamanaka S
により 4 つの転写因子を体細胞に導入することで卵
細胞を用いずとも分化多能性を獲得でき、その分化
多能性幹細胞(iPS 細胞)は ES 細胞と同等の性質を
持つことが示された(図 1)
。2007 年には、ヒトで
も iPS 細胞樹立が報告されている。iPS 細胞は、胚
を用いることなく多能性幹細胞の獲得が可能であ
り、体細胞クローン法のような職人的な技を必要と
Issue 2/2012
図 2. 胚 盤 胞 の 内 部 細 胞 塊
(ICM)が全ての体細胞の元に
なる。膵臓の b 細胞分化を例
に、ICM 細胞から組織幹細胞、
前駆細胞へと段階的に分化し
ていくが、各ステップには特
異的な遺伝子発現の ON/OFF
により制御されている。
ハーバード大学 Douglas Melton
教授のご厚意でご提供
Sample & Assay Technologies11
Pathway Application
システムバイオロジーとソフトウェア・プラットフォーム(第 2 回)
北野 宏明 博士(特定非営利活動法人 システム・バイオロジー研究機構 代表)
システムバイオロジー的な考えを使って生命科学研究を行なう、さらに創薬などに応用することに対する関心は、日増しに高まってい
る。同時にシステムバイオロジー的な方法論を、どのように具体的な研究に導入するのかが良くわからないという声も多い。出版され
ている論文を見ても、大規模なハイスループット実験を行ない、そこからのデータ解析をしたものをシステムバイオロジーと呼んでい
る例もあれば、非常に精密な小規模な計算モデルとそれに対応する検証実験を行なったものをシステムバイオロジーと呼んでいるもの
までさまざまである。さらに、計算モデルやデータ解析なども、どのような道具立てがあるのかも分からないという声も多い。
精密モデルの構築
得ようとするので、作成されるモデル自体が極めて
創薬パイプラインなどで、実用に供することができ
北野 宏明 博士
詳細であることも重要である。
る高いレベルの精度を達成するには、計算モデルを
我々は、既に出版される論文やデータベースなどか
構築する研究者の生命現象に関する造詣の深さと計
らの情報を統合する手法と、大規模データを用いた
算モデルに対する理解度、そしてプロジェクトの目
相互作用の推定などの方法を、目的に応じて組み合
的が明確であることが重要である。モデルができた
わせて利用している。特に、我々がディープ・キュー
後であるならば、数理解析の部分に限定して、生物
レション(Deep curation)と呼んでいる手法は、対
現象にそれほど造詣が深くない研究者が担当するこ
象となるパスウェイに関する論文やデータベースな
とは可能であるが、その場合でも、解析結果の解釈
どを徹底的に調べ、可能な限り詳細な分子相互作用
は生命現象に対する深い理解を持った研究者が関与
マップを構築するというものであり大規模知識統合
する必要がある。また、モデルの構築自体が、対象
である。ここでは、分子間相互作用などの知識を統
とする生命現象の解釈ともいえる性格をもっている
合して記述したものを“マップ”と呼び、それにさ
ため、その部分に深い理解をしていない研究者の
らに動的シミュレーションなどを可能にするパラ
開発したモデルは、その妥当性に欠ける危険があ
メータなどが付加されたものを“モデル”と呼ぶこ
る。またモデルは、何を知りたいのかの目的に依存
とにする。
して作られるものであり、一般的に精度の高いモデ
各々のタンパク質のリン酸化状態など、分子間相
ルという漠然としたアプローチでは、目的を果たせ
互作用機構に関するディテールが記述される。我々
ない可能性が高い。多くの場合、分子間相互作用の
が構築した EGFR や TLR、mTOR パスウェイのマッ
メカニズムにまで踏み込んで、化合物の影響や対象
プ(1、2、3)は、各々数百から千数百本の論文を
とする生物学的プロセスの動態などに関する知見を
読み込むことで構築された。これは、アブストラク
トなどから拾ってくるのではなく、Materials and
Methods なども詳細に読み込み、その論文の根拠と
なっている実験の妥当性までも評価しながら進め
る、途方も無い作業となる。
なぜこのレベルの詳細なマップが必要なのかは、
具体例を見るとよく分かる。図 1 には、AKT の活
性化に関する相互作用の一部が描かれている。例え
ば、AKT の活性阻害をする化合物を探索しようとす
る。この図からは、まず AKT の T308 のリン酸化で
AKT の活性が起きることが理解できる。それなら
ば、このプロセスを阻害する化合物が候補となる。
しかし、同時に AKT は、PI(3,4,5)P3 によって、膜
図 1. 一部 mTOR Singaling map の一部
12
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Issue 2/2012
Pathway Application
周辺にリクルートされ、活性化された PDK1 によっ
論文やデータベースを検索し、マップを記述してい
て S473 のリン酸化を受けることも分かる。とい
くことができると考えられる。逆に、このタスクを
うことは、PI(3,4,5)P3 と AKT の相互作用の阻害、
大人数で分割した場合、各々のメンバーが十分な
PDK1 と AKT の相互作用の阻害による S473 リン酸
メンタルモデルの形成や知識の蓄積ができず、その
化の阻止なども、AKT の活性阻害へと結びつくこと
結果、記述されたマップの品質が十分な水準に到達
が分かる。これらのことは、AKT などを研究してき
し得ないということが考えられる。
た研究者にとっては既に知っていることであろう。
しかし、他の分子を中心に研究してきた研究者が、
何かの理由で AKT の活性抑制を行ないたいときに
は、このような情報が統合的に構築されていること
は非常に有意義である。また、単にある分子の活性
相互作用マップの精度は、モデルを使った研究の精
度に多くの影響を与える。目的を明確にし、それに
対応した精度を想定し、十分品質の高いマップの構
築を行なうことが重要である。
を抑制するといっても実際には、いろいろな選択肢
動的モデルへの展開
があることも明示的になる。いわゆる動的なシミュ
網羅的マップを解析するだけでもいろいろなことが
レーションを行なう以前の段階で、このような使い
分かってくるが、やはり動的なシミュレーションを
道があるのである。
行なって、ネットワークの動的な振る舞いを見てみ
このような図などいくらでもあるではないかと思
われる読者は、Google® などの検索ポータルサイト
で AKT、PI3K などと入れて検索していただけると、
多くのパスウェイの図を探すことができるが、殆ど
が抽象的なポンチ絵で、ここで議論しているレベル
の詳細と精度を持ったものでないことが分かると
思う。
では、このようなマップはどのように作ることが
可能であろうか?すぐに思いつくのが多くの大学
院生、ポスドク、研究者を動員して手分けして論
文を読み、データベースを検索し、相互作用の情
報を Excel® のシート等に記述して後で統合しよう
という方法である。それとは逆の方法は、少数の
人間が大量の論文を読み、データベースを検索し、
CellDesigner などのツールを利用して直接マップを
作り上げていく方法である。我々の経験からは、少
人数で集中してマップを記載する方法の方が、品質
的に遥かに優れている。
たいと思うであろう。実際、
簡単と思われるパスウェ
イでも状況によっては直感と反する挙動を示すこと
1. EGFR signaling Map: (Oda,
et al., A comprehensive
pathway map of epidermal
growth factor receptor
signaling, Molecular Systems
Biology, 2005):
http://www.nature.com/
msb/journal/v1/n1/full/
msb4100014.html
2. TLR Signaling Map (Oda and
Kitano, A comprehensive
map of the toll-like receptor
signaling network, Molecular
Systems Biology, 2006):
http://www.nature.com/
msb/journal/v2/n1/full/
msb4100057.html
3. mTOR Signaling Map
(Caron, et al., A comprehensive map of the mTOR
signaling network, Molecular
Systems Biology, 6(453)
2010):
http://www.nature.com/
msb/journal/v6/n1/full/
msb2010108.html
もあり、動的解析は非常に有用である。動的なシ
ミュレーションを行なうには、各々の相互作用に適
切なパラメータを付加するとともに、初期値として
各々のタンパク質や小分子などの量/濃度を設定す
る必要がある。大規模マップからスタートする場合、
その全てに対してこれらの数値を設定して、整合的
にシミュレーションを動作させることは、現状にお
いては困難である。そこで、マップの構造の解析
と実験データなどから中核部分と思われる部分に
フォーカスをあて、動的シミュレーションを構築す
ることになる。加えて更に重要なことは、どのよう
な実験データがモデルの検証に使うことができるの
かと、モデルを使って何を理解し、それはどのよ
うに検証されるのかである。ここで重要なことは、
シミュレーションの目的に対して適切な計算結果が
提供されることである。また、製薬企業などの場合、
その結果が、ステージゲートなどの創薬プロセスの
一つの理由は、少人数でマップを記述する場合、各々
マネージメント上の意思決定のサポートデータとな
のメンバーが幅広い相互作用を扱うと同時に、各々
ることも想定する必要がある。ここでは、多くの学
の相互作用に関しても一定の理解をする必要があ
術的研究においてみられるような、一般化されたシ
り、これによって各々のメンバーが、対象のパスウェ
グナル伝達系モデルなどでは役には立たない。例え
イに関するメンタルモデルを形成しているという点
ば、抗がん剤の開発の場合に必要なのは、製薬会社
がある。このメンタルモデルの形成によって、新た
が当面のスクリーニングに利用しているセルライン
な相互作用や論文を扱う際により正確な判断が可能
に対応したモデルである。つまり、各々のセルライ
となると同時に、そこに存在すると期待される、ま
ンに内在する遺伝子の変異による相互作用の違いを
たは期待されない相互作用などに気付き、積極的に
記述したモデルが必要である。もちろん各々の
Issue 2/2012
参考文献
Sample & Assay Technologies13
Pathway Application
セルラインの全ての変異を反映したモデルは不可能
そこで我々は、生物学的計算モデルの標準記述言語
であるが、いくつかの主要なシグナル伝達系などに
として Systems Biology Markup Language(SBML:
限定すれば、意味のあるレベルでモデルに反映する
http://www.sbml.org/)を提唱し、1998 年頃から
ことは実現されている。このようなモデルが構築さ
コンソーシアムを立ち上げた。これは急速に多く
れることによって、候補化合物が各々のセルライン
の研究グループやジャーナルに支持され、現在は
に対して、どのような影響を与えるかの計算予測と
デファクト標準となっており、200 以上のソフト
実験による検証が可能となり、そこから臨床段階で
ウェアが SBML に準拠している。しかし、表現言
どのような変異を有する患者集団を対象にするべき
語だけでは何もできない。そこで、我々は SBML コ
かなどの提案が可能となる。
ンソーシアムの発足に先駆けて、CellDesigner とい
動的モデルの構築方法や解析手法などは、それ自体
で数冊の書籍となるような問題であるので、ここで
はその入り口として、網羅的マップや動的モデルの
構築に関わるソフトウェアの紹介をしたいと思う。
う分子間相互作用などのモデルを構築するエディ
タ・ソフトウェアの開発に着手した。CellDesigner
に関しては別途紹介するが、結果から言うと、非
常に多くのユーザを獲得するに至り、2005 年に
Nature Biotechnology 誌 に 発 表 さ れ た 調 査 で は、
ソフトウェア・プラットフォーム
CellDesigner は、システムバイオロジー分野で最も
これまで書いてきたアプローチを可能とするために
よく使われている専用ソフトウェアであるとされて
は、強力なソフトウェア・プラットフォームが必要
となる。プラットフォームは、しっかりした前提
構想と技術的なアーキテクチュアのもとに構築され
る必要がある。そこで、各種のフォーマット標準と
ソフトウェアは、車の両輪である。幅広いソフト
ウェアに採用されない標準は普及しないと同時に、
デファクト標準に準拠しないソフトウェアが広範に
いる。この結果、システムバイオロジーや計算生物
学、バイオインフォマティックスに関係するソフト
ウェアの多くが、SBML を始めとする一連の標準に
準拠することとなった。この状況下では、これらの
国際標準に準拠していないソフトウェアの将来は、
非常に厳しいものになるであろう。
次回は、CellDesigner も含め、多階層モデルの構築
を可能とする PhsyioDesigner など一連のソフトウェ
使われることも難しい。
アを紹介しようと思う。
次号に続く
CellDesigner:CellDesigner は、標準化され曖昧
性の無い記法に基づいたネットワークの記述を
行ない、SBML 形式で保存したり、他のシミュレー
ション・パッケージや解析ツールと連動して使
うことができるソフトウェアとして開発された
(4)
(図 2)
。
CellDesigner 自体では、
シミュレーショ
ンなどの機能を持たない。その時に利用できる
最も優れたシミュレーション・パッケージやネッ
トワーク解析パッケージと連動を密にし、我々
は、ネットワーク中心のインターフェースに特
化するというのが設計思想である。CellDesigner
は、http://www.systems-biology.org/ からダウン
ロード可能である。
参考文献
4. Funahashi, A. and H. Kitano, CellDesigner: a process diagram editor for gene-regulatory and biochemical networks.
Biosilico, 2003. 1(5): p. 159-162.
図 2. CellDeisgner のスクリーン・ショット
14
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Issue 2/2012
Biobanking Review
研究資源としてのヒト由来試料(第 1 回)
増井 徹 博士(独立行政法人 医薬基盤研究所 難病・疾患資源研究部 部長 政策・倫理研究室 研究リーダー)
技術革新で、ヒトゲノム解析が 1000 ドルで解読できるような時代の到来も近く、個別化医療の可能性が高まっています。それを背景
として遺伝子資源、情報物質としての個人レベルの DNA の重要性も増し、バイオバンク活動が各国で活発になっています。しかしバイオ
バンクでは採取された検体の個人情報の取り扱いなど、DNA 研究の難しさとは違う倫理的な配慮が必須となっています。バイオバンク
の重要性とその課題について難病研究資源バンクの増井先生に 2 回に分けてご紹介いただきます。
情報物質としてのヒト由来試料
“ヒト”という生物について考えると、
“人”には尊
厳と基本的人権があり、他の生物と同等に考えるこ
とはできない注 1。そのために、ヒトの身体(心体)
を研究対象とするためには、多くの制限が存在する。
血清、血漿、尿を 2006 年から 2010 年に亘って
収集し、長期の追跡期間に入った。バイオバンク
ジャパンは、20 万人 30 万症例 47 疾患の患者由来
DNA、血清、血漿の収集を 2003 年から 2008 年に
行ない、自らも研究に利用し、分譲も行なっている。
人体実験を避け、ヒトの身体を理解し、その不調と
ヒトを理解するに、これだけの力が費やされるの
しての疾患を理解するために、実験動物モデルが開
は、ヒトが自らの健康や病に多大の関心を寄せ、そ
発され、多くの知識を生み出している。例えば、薬
の分野は経済活動として膨大なものだからだ。テレ
の開発では、膨大な実験動物での研究から安全性と
ビをひねれば健康番組があり、健康法、健康食品に
有効性が示されて、初めて“まるのまま”の生きた
始まり、医薬品、医療技術などが取り扱われ、人々
人間に試される。ある薬理学の重鎮が、
“われわれは、
の関心の高さを示している。また、例えばヒトのタ
マウスに安全で有効な薬を開発している”と表現を
ンパク質に対する抗体の数は、実験動物として膨大
していた。
な利用実績があるマウスと比べてさえ、多様である。
近年、まるのままの生き物を用いる方向性とは異な
り、まるのままの人間の代わりとして、ヒト由来の
試料と情報を用いて研究を行なうための知識と技術
が整備され、例えば一滴の血液から多くのことが分
これは、ヒトを対象とした試薬の開発のインセン
ティブが企業に働くからである。このように、ヒト
を生物として理解するために多くの資源が動員され
ている。
かるようになった。そして、ヒトに由来する情報物
世界医師会の人間を対象とした医学研究の倫理原
質としての個人の DNA は、その解析方法の進歩と
則であるヘルシンキ宣言も、
“医学の進歩は、最終
ともに注目されている。
“バイオバンク”という言
的に人間を対象とする研究を要するものである”
葉が用いられる場合に、ヒトの DNA の収集が重視
されている。最近の動きでいうなら、英国バイオバ
ンクは 50 万人の英国市民(40 ∼ 69 才)の DNA、
(2008 年 WMA ソウル総会修正)と述べている現
実を理解することができる。
次号に続く
注 1:“ヒト”は生物種として
の人間を示し、“人”は尊厳と
基本的権利を持つ存在しての
人間を示す。この違いは、人
間を研究対象とするときに重
要な視点である。興味深いの
は最近一般的な書き物の中で
“ヒト”が生物種の表記という
限定なしに使われていること
を見つけた。このような表記
の一般的な書き物への侵入は
何を示すのだろうか。
1981 年に東京大学理学部で博士課程修了後、財団法人癌研究会癌研究所細胞生物部勤務。1983 年米国国立癌研究
所ヒト発ガン研究室 客員研究員、1986 年同研究室 米国国家公務員。1988 年財団法人癌研究会癌研究所細胞生物部
嘱託研究員、1991 年同ウイルス腫瘍部 研究員。1994 年京都大学医学部分子腫瘍研究室 助手。1995 年国立医薬品食
品衛生研究所変異遺伝部第三室 主任研究官。2005 年独立行政法人医薬基盤研究所生物資源研究部 主任研究員、2009
年同部 部長、2010 年同研究所難病・疾患資源研究部 部長、政策・倫理研究室リーダー、難病資源研究室リーダー。
厚生科学審議会科学技術部会
専門委員、厚生労働省薬事・食品衛生審議会 臨時委員(2011 年より)、文部科学省 科
学技術・学術審議会 専門委員(2009 年より)を務める。
Issue 2/2012
Sample & Assay Technologies15
Hot New Products ̶ 新製品ご案内
ゲノムコピー数変異解析キット
PCR を用いたジェノタイピング用 Type-it シリーズ
10
9
8
近年の急速なゲノムの網羅的解析の発達により、CNV(Copy Number Variation)
7
は患者だけではなく一般健常者集団にも広く存在することが明らかになってき
6
ました。臨床的にも、臨床症状に関与する CNV と一般健常者集団で観察された
5
ものとを識別することが重要です。また、CNV は民族集団によって出現の頻度
4
が異なることが報告されているため、ゲノム解析により検出された CNV が病
3
態と関わるかどうかを判断することが必要とされています。QIAGEN ではジェ
2
ノタイピングの研究に特化した解析用試薬、Type-it ™シリーズをご提供していま
1
0
20
40
60
す。その Type-it シリーズから CNV 解析用に Type-it CNV PCR +qC Kits(SYBR®
80 100 120 140 160 180 200
Green および Probe)をご用意しました。
~200 DNA samples from different populations
信頼性の高い多コピー定量コントロールアッセイ
Type-it CNV Reference Assay は、異なるヒト集団間でコピー数
が一貫した多コピー因子を基準としており、汎用性のある定量
コントロールアッセイとして最適である。Type-it CNV Reference
Assay の多コピー因子は、192 人の健常者のヒトゲノムを用いて
定量および検証されており、それらは性別およびその他の集団間
でも一貫した結果を示した。
多コピー因子をリファレンスとして使用した確実な CNV 定量
qPCR を用いた 18 コピーあるいは単一コピー因子をリファレンス
とする仮定上の CNV 定量実験で、多コピー因子をリファレンス
として使用する優位性を図式化した。 A グラフおよび B 表では、
CNV リファレンス遺伝子のコピー数変動(1 コピー喪失または
獲得)がもたらす、CT 値および対象遺伝子(GOI)のコピー数測
定への影響が示されている。GOI のコピー数測定の際に生じる偽
喪失と偽獲得は、単一コピーのリファレンス遺伝子が 1 コピー変
動することによって引き起こされる。これに対し、多コピー遺伝
子をリファレンスとして用いた場合には、リファレンス遺伝子の
1 コピー変動による GOI のコピー数測定への影響はなく、高い精
度でコピー数の測定が可能である。(計算の前提:GOI はすべて
のテストサンプルにおいてコピー数が変動しない単一コピー遺伝
子である。CNV 定量のリファレンスには 18 コピーの因子または
一倍体ヒトゲノム上で単一コピーの因子(二倍体ヒトゲノム上で
36 または 2 コピー)。
A
Calculated GOI copy number
0
5
4
3
2
1
0
18-copy element
(Type-it CNV Reference)
False
gain
Single-copy gene;
not changed
False
loss
No change
Single-copy gene;
copy number +/–1
+1 copy
–1 copy
Copy number of CNV quantification reference
B
CNV reference
Copy number,
per diploid
human genome
Type-it CNV
Reference
Assay
CT change
(reference
assay)
GOI copy
number (real)
GOI copy
number
(calculated)
CNV calling
for GOI
36
0
2
2.00
NC: Correct
36+1
–0.04
2
1.94
NC: Correct
36–1
+0.04
2
2.06
NC: Correct
2
0
2
2.00
NC: Correct
2+1
–0.58
2
1.33
Loss: False
2–1
+1
2
4.00
Gain: False
Single-copy
gene
ジェノタイピングに関連する網羅的な情報はウェブサイト www.qiagen.com/goto/genotyping をご覧ください。
また、Type-it CNV SYBR Green PCR Kits に関する詳細は www.qiagen.com/products/type-itcnvsybrgreenpcrqckits.aspx、
Type-it CNV Probe PCR +qC Kit は www.qiagen.com/products/type-itcnvprobepcrqckit.aspx でご覧いただけます。
Cat. no.
製品名
内容
Type-it CNV SYBR Green PCR +qC Kit (100)
For 100 x 25 µl PCR reactions
206672
Type-it CNV SYBR Green PCR +qC Kit (400)
For 400 x 25 µl PCR reactions
206674
Type-it CNV SYBR Green PCR Core Kit (400)
For 400 x 25 µl PCR reactions
206624
Type-it CNV Probe PCR +qC Kit (100)
For 100 x 25 µl multiplex PCR reactions
206662
Type-it CNV Probe PCR +qC Kit (400)
For 400 x 25 µl multiplex PCR reactions
206664
16
www.qiagen.co.jp
Issue 2/2012
Hot New Products ̶ 新製品ご案内
血清および血漿からの miRNA の分離・精製用キット
miRNA 精製用 miRNeasy シリーズ
近年 miRNA 研究への関心がますます高まっており、がんや分化における生物学的プロセスの研究から
バイオマーカーとしての利用など、新しい結果が盛んに報告されています。特に血清、血漿や体液中
の Circulating miRNA は、がんなどの疾病と直接の因果関係が考えられ、非侵襲的バイオマーカーとして
注目を集めています。この度販売を開始した QIAGEN の miRNeasy Serum/Plasma Kit は 200 µl までの
血清または血漿から高純度な Circulating miRNA を迅速かつ簡便に精製することができます。
本キットで精製された RNA は、センシティブなダウンストリーム工程においても、高い感度での結果が得
られるよう高純度で得ることができます。また、分析・解析結果を考慮して、塩やフェノールなどの混入
が最小限となるプロトコールが組まれています。
QIAGEN では miRNA を含む RNA 研究のための包括的なサポートを展開しています。
Blood collection &
plasma/serum isolation
RNA prep
cDNA synthesis
miRNeasy Serum/Plasma Kit
and miRNeasy Serum/Plasma
Spike-In Control
miScript II RT Kit
Data analysis &
normalization
Real-time PCR
miScript SYBR Green PCR Kit
+ miScript Primer Assays
or
miScript miRNA
PCR Arrays
PCR Array Data Analysis
Software
1.E+001
Extract
White blood cells
and platelets (<1%)
AAAAAAA
Delta Rn
1.E-001
1.E-002
1.E-003
Red blood cells (45%)
0
4
8
12
16
20 24
28 32
36 40
Cycle number
AAAAAAA
10-3
10-2
10-1
-4
-3
-2
-1
23
01
4
1
10-1
Delta Rn
1.E-000
TTT
10-4
Fold change ratio [log2]
TTT
Bind and
wash
10-5
1
1.E+001
Normal breast
Plasma (55%)
p-Value for fold change
10-6
1.E-000
1.E-001
1.E-002
1.E-003
10-2
10-3
10-4
10-5
0
4
8
12
16
20 24
28 32
36 40
Cycle number
10-6
10-6
10-5
10-4
10-3
10-2
10-1
1
Breast tumor
Elute
血清と血漿サンプルにおける QIAGEN miRNA プロファイリングワークフロー
製品の詳細は弊社ウェブサイト www.qiagen.com/products/mirneasyserumplasmakit.aspx をご覧ください。
Cat. no.
製品名
内容
miRNeasy Serum/Plasma Kit (50)*
Columns, plasticware, and reagents for 50 preps
217184
miRNeasy Serum/Plasma Spike-In Control
10 pmol C. elegans miR-39 miRNA mimic spike-in control for serum/plasma samples
219610
* miRNeasy Serum/Plasma Kit (50) にはコントロールが必要です。同時発売の miRNeasy Serum/Plasma Spike-In Control をご使用ください。
Issue 2/2012
Sample & Assay Technologies17
キャンペーン/モニターおよび学会情報
キャンペーンおよびモニター情報
Rediscover キャンペーン
QIAGEN 製品には、精製・アッセイ製品以外にも、様々な製品があります。期間内に対象キットをお買い
上げいただくと、日々の実験にすぐご活用いただける製品をプレゼント致します。プレゼント第 2 弾は、
DEPC のような添加物を使用せずに独自のプロセスでヌクレアーゼを取り除いた高純度精製水の NucleaseFree Water です。
第 2 弾プレゼント製品:Nuclease-Free Water(50 ml x 1 本)
キャンペーン実施期間:2012 年 7 月 3 日(火)∼ 9 月 28 日(金)
QIA キャンペーン
QIA キャンペーン対象製品に同梱されている“QIA キャンペーン抽選カード”で当たりカードが出たお客
様に 1,000 円分の QUO カードをプレゼント致します。カードをご確認いただき、QIAGEN ウェブサイト
からお申し込みください(お客様登録が必要となります)
。
キャンペーン対象製品:弊社ウェブサイトキャンペーンページをご覧ください。
キャンペーン応募期間:2013 年 5 月 31 日まで
Plasmid Plus Kit モニター募集
モニター対象製品:QIAGEN Plasmid Plus Midi Sample Kit (5)(Cat. no. 12941)x 1 キット
モニター募集期間:2012 年 4 月 3 日(火)∼ 6 月 29 日(金)
Transfection Reagent モニター募集
モニター対象製品:HiPerFect Transfection Reagent (0.1 ml)(Cat. no. 301702)
モニター募集期間:2012 年 4 月 3 日(火)∼ 6 月 29 日(金)
各キャンペーンおよびモニター情報の詳細はウェブサイト www.qiagen.com/CampaignJP をご覧ください。
学会情報
n 第 19 回日本遺伝子診療学会大会/共催ランチョンセミナー(2012 年 7 月 26 ∼ 28 日:三井ガーデンホテル千葉)
□ パイロシークエンス法の胃がん超早期診断および感染症遺伝子検査への応用の可能性
株式会社キアゲン アプリケーショングループ 嶋多涼子
□ 内視鏡検査時に発生する「廃液」を用いた環境にやさしい胃がん超早期診断法の開発
聖マリアンナ医科大学 消化器・肝臓内科 講師 渡邊嘉行先生
n 第 71 回日本癌学会学術総会(2012 年 9 月 19 ∼ 21 日:ロイトン札幌)
n 第 35 回日本分子生物学会年会(2012 年 12 月 11 ∼ 14 日:福岡国際会議場・マリンメッセ福岡)
学会の詳細および、その他の学会はウェブサイト www.qiagen.com/events/meetings.aspx をご覧ください。
18
www.qiagen.co.jp
Issue 2/2012
QIAGEN クイズ
QIAGEN クイズ
?
細胞 1 個に含まれるおおよその RNA 量は
どれだけでしょうか?
n 20 ng
n 2 ng
n 0.2 ng
n 0.02 ng
n 0.002 ng
ヒント:QuantiTect Whole Transcriptome Kit の英語版 Handbook 参照
(ウェブサイト www.qiagen.com/literature より検索可能)
応募方法:
クイズの解答と氏名、所属(施設名、学部、研究室名)
、住所、電話番号、
メールの件名に“QIAGEN クイズ応募”とご記入の上、電子メール
([email protected])にてご応募ください。抽選で 30 名様に
弊社から粗品を送付させていただきます。
応募期間:2012 年 7 月 13 日(金)まで
またご応募された方には、定期的に弊社の製品、アプリケーション
情報満載のメールマガジンを送付させていただきます。
注:ご当選者様へ賞品の発送をもって当選発表にかえさせていただきます。
関連アプリケーションのご紹介
Multiple Displacement Amplification(MDA)テクノロジー
貴重なサンプルから苦労して精製した DNA、RNA を色々な解
ポリメラーゼ(Phi29 DNA polymerase)を用いた等温反応に
析にもっと使いたいと思われたことはありませんか? DNA の
より、最高 1,000 倍、最大 70 ∼ 100 kb までの DNA を短時
増幅といえば、通常よく使われる技術は PCR ですが、PCR は
間で増幅でき、PCR 法を用いた増幅の際に生じる配列の偏り
増幅された DNA への変異が導入される割合も多く、増幅でき
も回避できます。QIAGEN には MDA テクノロジーを用いて、
る DNA 断片も最大数 kbp のサイズがほとんどです。
貴重な微量核酸サンプルを増幅する製品が数多くあり、目的
一方、MDA テクノロジーは、ユニークな全ゲノム増幅 DNA
の核酸、アプリケーションに対応可能です。
MDA テクノロジーによるゲノム増幅様式
Phi29 DNA polymerase が DNA テンプレート鎖上を移動し相補鎖を置換する。
置換した DNA 鎖が複製のテンプレートになり高分子 DNA が高収量で複製さ
れる。
目的別アプリケーション
製品名
全ゲノム増幅
REPLI-g® UltraFast Mini Kit
ホルマリン固定組織パラフィン包埋切片から DNA 精製せずに直接ゲノム増幅
REPLI-g FFPE Kit
REPLI-g Mini and Midi Kits
ヒトミトコンドリア全ゲノム増幅
REPLI-g Mitochondrial DNA Kit
Bisulfite 変換 DNA の全ゲノム増幅
EpiTect® Whole Bisulfitome Kit
リアルタイム PCR 用の全トランスクリプトーム増幅
QuantiTect Whole Transcriptome Kit
製品に関する詳細は www.qiagen.com/products/wholegenomeamplification/default.aspx をご覧ください。
Issue 2/2012
Sample & Assay Technologies19
News in Short
QIAGEN
eyes マガジンと E-Newsletter 配信登録のお知らせ
QIAGEN 情報配信にご登録いただいた皆様に、世界での新しい研究
事情や QIAGEN の新製品などの情報を、マガジンと E-Newsletter に
てお届けしております。この機会に是非ご登録ください。
ご登録方法:
QIAGEN ウェブサイトの“連絡先”のタブより“QIAGEN 情報
配信申し込み”を選択いただき、必要事項をご記入の上、お申し
込みください。
QIAGEN プロダクトガイド 2012 の公開のお知らせ
新しい PDF 版カタログ“QIAGEN プロダクトガイド 2012”が弊社
ウェブサイトにて公開されました。これまでの印刷版ではご紹介
しきれなかった製品も新たに掲載されています。
また、ご研究にお役立ていただける製品を簡単に検索できるほか、
各ページのリンクをクリックすることで、より詳細な情報と価格が
掲載されている製品ウェブページをすぐにご覧になれます。
この機会に是非ダウンロードしてご活用ください。
次号予告:9 月発行予定
がんは主要戦略研究対象疾病の一つです。昨今、miRNA、DNA メチル化が新規バイオマーカーとして
着目され、がん発生・分化の分子機構の新展開が進んでいます。次号ではがん研究の遺伝子的および
環境的な側面からの現状と、今後のがん研究への課題をお届けします。
記載の QIAGEN 製品は研究用です。疾病の診断、治療または予防の目的には使用することはできません。最新のライセンス情報および
製品ごとの否認声明に関しては www.qiagen.co.jp の“Trademarks and Disclaimers”をご覧ください。QIAGEN キットの Handbook お
よび User Manual は www.qiagen.co.jp から入手可能です。
Trademarks: QIAGEN®, EpiTect®, QuantiTect®, RNeasy®, REPLI-g®, Type-it ™ (QIAGEN Group); SYBR® (Life Technologies Corporation); Google® (Google Inc.);
Microsoft®, Excel® (Microsoft Corporation).
本文に記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。 2301994 05/2012
© 2012 QIAGEN, all rights reserved
www.qiagen.co.jp
株式会社 キアゲン n 〒 104-0054 n 東京都中央区勝どき 3-13-1 n Forefront Tower II
Tel:03-6890-7300 n Fax:03-5547-0818 n E-mail:[email protected]
Sample & Assay Technologies