住民監査請求 監査結果報告書 平成27年5月15日 富田林市監査委員 富田林市職員措置請求に係る監査結果 (平成27年3月16日付け請求分) 〈 市長交際費に係る住民監査請求 〉 目 次 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 1 1 請求人 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 1 2 監査請求書の提出 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 1 3 請求の内容 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 1 4 事実証明書について ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 2 5 請求の受理 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 2 第1 第2 監査の請求 監査の実施 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 3 1 請求人の証拠の提出及び陳述 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 3 2 監査対象事項 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 3 3 監査対象部局 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 3 4 監査対象部局の意見書の提出及び陳述等 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 3 監査の結果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 5 1 事実関係の確認 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 5 2 判断 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 6 3 結論 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 8 4 意見 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ P 8 第3 第1 富田林市職員措置請求(以下「本件請求」という。) 〔1〕請求人 住所 富田林市○○○○○○○ 氏名 ○○○ ○○○ 〔2〕富田林市職員措置請求書の提出 平成 27 年 3 月 16 日 〔3〕請求の内容 請求人から提出の住民監査請求書及び資料(以下「住民監査請求書等」という。 )によると、 主張事実の要旨及び措置要求は、次のとおりである。 (以下1.請求の要旨については、住民監査請求書等の原文のまま掲載している。 ) 1.請求の要旨 (1)富田林市のホームページにおいて公開されている市長交際費のうち、参加費の支出状況は、 平成25年度で合計23万1,000円、平成26年度で合計21万円である。 しかし、市長が参加した総会及び懇親会の開催の案内文書をみると、その殆どに於いて参加 費の金額が記載されていない。そこで、参加費が記載されている案内文書の金額を合計したと ころ、平成25年度が3万1,000円、平成26年度が2万円となる。そして、その実際の 支出額との差額は、平成25年度で20万円、平成26年度で19万円となり、合計39万円 は、交際費として支払う必要があったのかが問題となる。 (2)ⅰ交際費とは、地方自治法232条1項の「当該普通地方公共団体の事務を処理するために 必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費」 の一つであり、行政実例や判例などによると、地方公共団体の長又はその他の執行機関が、行 政執行上、あるいは当該団体の利益のために、当該団体を代表して外部との交渉上支出する経 費で、支出については地方公共団体の長に一定の裁量があると解されている。しかし、地方自 治法2条第14項で「地方公共団体は、その事務を処理するにあたっては、住民の福祉の増進 を務めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」とされ、か つ、地方財政法第4条1項で「地方公共団体の経費は、その目的を達成する為の必要且つ最小 の限度をこえて、これを支出してはならない」と規定されている。 これらのことを考慮すると、市から補助金の交付を受けている団体や組織が、市長に対し、 参加費の金額を記載せずに総会及び懇親会の案内文書を差出しているにも拘わらず、市長が参 加費をその団体や組織に対して支払う行為は、寄附(公職選挙法199条の2第1項)にあた る。つまり、身内から参加するよう頼まれ、身内が無料で構わないと意思表示しているにも拘 わらず、市長が支払っているという行為は、寄附に該当する。 そして、その寄附を受けた団体や組織の関係者が、市長の当選のために選挙活動を手伝って いることを鑑みれば、これは法が最も規制する地元選挙民への金で票を買うことにあたり、公 職選挙法に違反する。ましては、それが公金で行われているのであるから悪質極まりない。そ れゆえ、市長交際費からこのような支出をすることは違法不当である。 ⅱ仮に百歩譲って、市長以外の参加者が総会及び懇親会に参加した額が実費分として認められ -1- るとしても、その差額分の金額は寄附以外の何ものでもない。 具体的に、平成25年度富田林市観光協会総会及び懇親会の開催を一例にあげて説明すると、 一般の会員の参加費が4,000円(甲47)であるのにも拘わらず、市長が1万円(甲48) を支払っているため、少なくとも、その差額の金額分6,000円は、寄附の金額となる。 なお、付言ではあるが、市長への案内文書には。「懇親会よりご出席をお願いいたします。」 と記載されていることから、総会には参加せずに懇親会から参加したと思われるが、富田林市 のホームページにおいて公開されている市長交際費のうち、平成25年度6月分の交際費執行 明細の件名欄には「富田林市観光協会総会」と記載されており、およそ懇親会からの出席であ ることを考えれば、この記載は市民を欺いていると思われる。正直に、正しく「富田林観光協 会懇親会」と記載すべきである。 (3)措置要求 損害を市長に返還させるよう求める。 [4]事実証明書について 添付された事実証明書は以下のとおりである。 1. 甲1号証乃至第46号証 市長を宛名とする案内文書 各1通 2. 甲47号証 富田林観光協会作成の会員を宛名とする文書 1通 3. 甲48号証 富田林市観光協会作成の領収書(控) 1通 (事実証明書の内容は省略) [5]請求の受理 (1)請求人の資格について 地方自治法(以下「法」という。 )第 242 条第 1 項の規定において住民監査請求を行なうこ とが出来る請求人とは、当該普通地方公共団体の住民と規定されている。 本件請求人は住民監査請求の資格を有している。 (2)請求の対象職員等 法第 242 条第 1 項の規定により、措置請求の対象は当該普通地方公共団体の長若しくは委員 会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員とされており、本件請求は富田林市長に対し 措置を請求している。 (3)請求期間について 請求人は「市長交際費」のうち参加費の支出で平成 25 年度の合計 23 万 1000 円と平成 26 年 度の 4 月から 1 月分の合計 21 万円に関して監査の対象としている。 しかし、住民監査請求の請求期間は、法第 242 条第 2 項の規定により当該行為のあった日 又は終わった日から 1 年以内とされており、平成 25 年度の参加費については、最終精算日が 平成 26 年 3 月 13 日であることから、1 年を経過しているため対象外とする。 なお、平成 26 年については期間内の請求と認められる。 (4)要件審査及び請求の受理 以上により、本件請求は法第 242 条の要件を具備しているものと認め、平成 27 年 3 月 25 日 にこれを受理した。 -2- 第2 監査の実施 〔1〕 請求人の証拠の提出及び陳述 法第242条第6項の規定に基づき、請求人に対して、平成27年5月7日に陳述の機会を与えた。 請求人の陳述は、職員措置請求書内容の補足として次の意見書他の提出があった。 1.他市との比較 堺市長及び吹田市長は、財政難という理由で、市長自ら市長交際費を廃止した。富田林 市においても、総額596億円(連結ベース)の負債を抱える財政難である。そして、そ の市長交際費を支出した際の相手方らは、トップセールス先ではなく、市から補助金の交 付を受けている団体や組織であるため、支出に見合う効果や成果を得ることができない。 市民の血税であり公金でもあることを考えれば、富田林市長も、市長交際費を廃止すべき である。 2.市長の報酬等 平成24年4月以降、富田林市長の月額給料が93万9,300円に減額されたとはい え、まだまだ高額である。また、退職金においても、1期において約2,000万円の支 給額は、非常に高額である(富田林市特別職の職員の退職手当に関する条例、参照) 。 市が財政難であるにも拘わらず、市長に対し、高額の報酬が支給されている。少なくと も、市長交際費においては、市長報酬で賄うべきであろう。 〔2〕 監査対象事項 平成 26 年度の 4 月から 1 月分の市長交際費(参加費)21 万円の支出うち 19 万円の支出が、 違法・不当な公金の支出にあたるのかについて監査の対象とした。 〔3〕 監査対象部局 本件について、市長公室秘書課を監査対象とし、行政当局(市長)に対して意見書の提出を 求めるとともに、平成 27 年 5 月 7 日に市長公室長、担当職員より陳述を聴取し、また、詳細 については説明を求めた。 〔4〕 監査対象部局の意見書の提出及び陳述等 (1) 監査対象部局の意見の要旨 監査対象部局の陳述として、次の意見書他の提出があった。 1.交際費についての一般論 交際費は、一般に地方公共団体の長などが、行政執行上あるいは当該団体の利益のために、 当該団体を代表して外部との接遇、折衝等を行うための経費とされ、地方自治法施行規則第 15 条第 2 項に定める予算科目の交際費の節から支出されています。これは、地方公共団体も 社会の一構成員として活動している以上、外部との交際を行う必要があり、それに要する経 費を交際費として公金を充てることは許容されるとの考えに基づいています。 このように交際費の支出については、地方公共団体の長に一定の裁量権があるものとされ ておりますが、当然のことながら、その執行に際しては、社会通念上の範囲を逸脱してはな らず、交際費支出の適否に関する判断基準については、 「職務との関連性の有無、支出先団体 等の性格、支出対象となる行事等の性格などを総合的に判断すべきである。」(横浜地裁平成 -3- 15 年 3 月 19 日判決)とされています。 2.本市における交際費の執行 本市においては、交際費を支出するにあたり、職務執行上の交際に伴うものであること、当 該地方公共団体の利益のために使用されること、社会通念上の儀礼の範囲内の妥当な経費や 程度であることを、その適否の判断基準として、 「富田林市交際費の執行及び公開に関する基 準」を内規で定めております。そして、この基準に基づき、交際費の執行を合理的かつ必要 最小限に留めるよう努めるとともに、その執行状況を市ウェブサイトで公開するなど公平性、 透明性の確保に留意しつつ、交際費が市政関係者との円滑な交際に資するよう事務執行を行 っております。 3.交際費における参加費 交際費の中の支出項目の一つに参加費があります。参加費については、市長が市を代表者 である公人として各種団体の総会や懇親会等に出席をする場合、必要に応じて会費等を交際 費から支出しています。 具体的には、市長宛の総会や懇談会等の案内を秘書課で受け、市長もしくは代理の者が出 席する場合は、 「富田林市交際費の執行及び公開に関する基準」に照らし、交際費の予算から 参加費を支出し、支払調書に支出日、支出内容、金額等を記載し、領収書を添付しています。 4.参加費の額 交際費から執行する参加費の額については、招待状等に会費等が記載されている場合は、そ の金額とし、記載の無いものについては、社会通念上妥当な範囲を勘案し1万円を限度に支出 しています。 各会合はそれぞれ市政に関わりのある各種団体に係るもので、いずれも富田林市の市長職と して案内を受けて、公的立場で参加したものであり、これは市を代表する市長が市政の円滑な 運営を図るため、各種団体等との交際上必要な経費と考えております。 また、案内文に参加費の記載が明記されていないという記載形式のみから、参加費が不要と 判断するのは社会通念上も妥当でないと思われます。 5.参加費と寄附の関係 この度の監査請求書の内容を見ますと、「市長が参加した総会及び懇親会の内、案内文書に 参加費の金額が記載されていないものについては、参加費を支払う必要がなく、支払われた参 加費は寄附に該当し、公職選挙法に違反する。 」とありますが、そもそも公職選挙法 199 条の 2 が禁止しているのは、公職の候補者等(公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、公職 にある者)が行う寄附であり、参加費は、市長が公務を遂行する際に要する費用として、内規 に従って市が支出するもので、市長が個人的に費用を払ったものではなく、公職選挙法に言う 「寄附」には当たらないと考えます。 6.富田林市観光協会総会について 本件監査請求書では、平成25年度富田林市観光協会総会を例にあげて、一般会員の参加費 が 4 千円で、市が市長の参加費として 1 万円を払ったことを問題視していますが、前述のよう に市長の参加費は社会通念上妥当な範囲を勘案したものであるとともに、会員は、当日の参加 費以外にも会費を納めており、単純に当日の参加費だけで比較するのは妥当性を欠いていると 思われます。 また、市のホームページで公開されている平成25年度6月分の交際費執行明細の件名欄に -4- 「富田林市観光協会総会」と記載されていることは偽りであると言っていますが、一般的に総 会の案内では、総会という大きな括りの中に講演や意見交換、懇親会等が組み入れられている などの場合があり、市長交際費の件名については、案内文の表題をもって記載するよう統一し ています。 以上、これまで述べましたように、本市におきましては、交際費の執行を合理的かつ必要最 小限に留めるよう努めるとともに、その執行状況を市ウェブサイトで公開するなど、公平性、 透明性の確保に留意し事務を行っております。 なお、参考資料として、 「富田林市交際費の執行及び公開に関する基準」を添付致します。 第3 監査の結果 〔1〕 事実関係の確認 請求について監査した結果、次の事実が確認できた。 (1)交際費について 交際費は、地方公共団体の長その他の執行機関が、行政執行のために必要な外部との交渉上 要する経費であると一般的に解されている(行政実例昭和 28 年7月1日) 。交際費の支出につ いては、地方公共団体の長等に一定の裁量があると解されているが、支出の可否、支出の金額 について慎重な検討を要するものであり、交際費の「目的を達成するための必要且つ最小の限 度を超えて、これを支出してはならない」 (地方財政法 4 条 1 項)ことはいうまでもないこと である。 (2) 交際費の取扱いについて ア 自治省通知(昭和 40 年 5 月 26 日)により、次の留意事項が示されている。 ①交際費の支出については、地方自治法 232 条の 3、第 232 条の 4 及び第 232 条の 5 の規定の 適用がある。したがって、一般経費と同様、支出負担行為に基づき、正当債権者に支払いをす ることが建前であること。 ②交際費を、一定金額を定めて定例的に資金前渡する支出の方法は①の建前から適当でないが、 もし、あらかじめ現金を前渡する必要がある場合には、所定の手続きにより資金前渡の方法に よるべきであること。 ③交際費といえども正当債権者の領収書を受けておくことが建前であるが、ただ、その経費の 性質にかんがみ、たとえば香典等社会通念上相手から領収書を徴することができにくいものは、 支出額、相手方等の収支の経理を明らかにする方法によることも、やむをえないものであるこ と。 ④交際費については、他の費用の流用又は予備費の充当は適当でないので、交際費を増額する 必要がる場合は、所定の予算措置により行うものとすること。 イ 富田林市交際費の執行及び公開に関する基準 市交際費の執行に関して、合理的かつ必要最小限に留めるとともに、執行状況の透明性を高 めること及び市政関係者との円滑な交際を資するとともに、市民の市交際費に対する理解と信 頼を深めてもらうことを目的として平成 15 年 9 月 1 日に富田林市交際費の執行及び公開に関 する基準が施行されている。 (3)交際費の支出について ア 資金前渡の要件 -5- 富田林市においては、富田林市財務規則(以下「財務規則」という。)第 43 条で資金前渡の 範囲を次のように規定している。 地方自治法施行令第 161 条第 1 項第 1 号から第 13 号までに掲げる経費のほか、次の各号 に掲げる経費については、職員及び他の地方公共団体の職員をして現金支払をさせるため、 その資金を前渡することができる。 ⅰ.土地収用法(昭和26年法律第219号)に基づく損失の補償金の支払に要する経費 ⅱ.有料道路、橋梁、駐車場、フエリーボート等の利用に要する経費 ⅲ.賃金の支払に要する経費 ⅳ.国民健康保険法(昭和33年法律第192号)による療養費、出産育児一時金、葬祭費 及び高額療養費 ⅴ.集会、儀式その他行事に際し直接支払を必要とする経費 ⅵ.その他、市長において経費性質上現金支払をしなければ事務の取扱に支障を及ぼすと認 めた経費 イ 支出事務 市長交際費の支出は、経費の性格上即時現金払いの必要があることからアの要件をみたし、 資金前渡により支出されている。 資金前渡職員である秘書課長は、予算の範囲内で毎月 70,000 円の支出予定額について支出 負担行為兼支出命令を行い、資金前渡を受けた時は、現金を手元に保管し、市長が交際上必要 と判断したときに、その都度保管中の現金から支払いを行っている。 交際費を支出したときは、相手から領収書を徴し、領収書を徴し難いときは、支払証明書を 作成している。さらに、交際費出納簿に支払年月日、内容、支出金額を記載している。 交際費の支出が終わったときには、財務規則第 45 条により秘書課長が精算・戻入を行って いる。 この場合資金前渡精算伝票に証拠書類を添えて事務処理が行われている。 なお、精算は財務規則により常時の費用にかかるものについては、毎月分のものを翌月 10 日までに行うこととなっているが、平成 26 年 10 月分の精算は 11 月 11 日となっている。 〔2〕 判断 (1)本監査請求において請求人は、①「交際費」は、地方公共団体の長又はその執行機関が、 行政執行上、あるいは当該団体の利益のために、当該団体を代表して外部との交渉上支出す る経費で、支出については地方公共団体の長に一定の裁量が認められているが、②地方自治 法や地方財政法は、その目的を達するため必要かつ最小の限度をこえて経費を支出すること を禁じている、③これらを考慮すると、市長に対して参加費を記載せずに総会及び懇親会の 案内文書が差し出されている場合には、参加費を支払うべきではないので交際費の支出は認 められず、無料での参加を要請されているにも関わらず、市長交際費からなされた支出は違 法不当である、と主張しているものと解される。このように請求人は、一般的には市長が総 会等に参加して参加費を交際費から支出して支払うことを認めた上で、案内文書に参加費の 記載が無いにも関わらず、交際費として支払われた参加費の支出を問題としているものであ る。このような請求に理由があるかどうかを判断するにあたっては、市長が総会等に参加し て、交際費から参加費を支出することが許容されている根拠を明らかにし、それとの関係で、 -6- 平成 26 年度に市長が、案内文書に参加費の記載がないにも関わらず、総会や懇親会に参加 して支払った交際費の支出が違法不当なものであるのかどうかを検討する必要がある。なお、 市長交際費については、経費の性格上、資金前渡により支出されているが、前渡により職員 に対して交付された資金は公金としての性格を有しており、また市長は、資金前渡を受けた 職員の行為につき責任を負っているという解釈を前提とする。 (2)「交際費」は、地方自治法施行規則第 15 条第 2 項に定める予算科目の交際費の節から支 出されているが、市長の行う交際のための経費の支出については、自治体の特定の事務を遂 行するために対外的折衝を行う過程で、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行う ためのものは、当該事務に随伴するものとして許容されるものと解される。ところが本監査 請求において問題とされている市長交際費の支出は、自治体の特定の事務を遂行するための 調整交渉的交際とは異なり、各種団体との一般的な友好や信頼関係を維持増進するためのも のと考えられる。このような、自治体の特定の事務との結びつきのない、一般的な友好、信 頼関係の維持増進自体を目的とする儀礼的な交際については、果たしてそのような交際が、 そもそも自治体の事務(地方自治法第 2 条 2 項)となり得るのかが問題となり、これが否定 されれば「交際費」を支出する根拠が無く、そのような支出は許容されないということにな る。 (3)この点につき判例は、「普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が、各種団体等の主 催する会合に列席するとともにその際に祝金を主催者に交付するなどの交際をすることは、 その交際が一般的な友好、信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであったとして も、住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施 するという普通地方公共団体の役割を果たすため相手方との友好、信頼関係の維持増進を図 ることを目的とすると客観的にみることができ、かつ、社会通念上儀礼の範囲にとどまる限 り、当該普通地方公共団体の事務に含まれるものとして許容されるが、右のことを目的とす ると客観的にみることができず、又は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、 当該普通地方公共団体の事務に含まれるとはいえず、その費用を支出することは許されない」 という判断を示している(最高裁平成 18 年 12 月 1 日判決)。この判例に従うと、特定の事 務を前提とする調整交渉的交際と異なる儀礼的交際として交際費の支出が許容されるために は、①公共団体が担っている、住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政 を自主的かつ総合的に実施するという役割を果たすため、相手方との友好、信頼関係の維持 増進を図ることを目的としていることが客観的に認められること、②交際の態様、程度等が 社会通念上儀礼の範囲にとどまること、が必要であると解される。 (4)本監査請求において、市長交際費の支出が問題とされているのは、請求期間内のものと認 められる平成 26 年度については、①東条地区 10 町連合会、②富田林商工会女性部、③自衛 隊父兄会河内地区協議会、④富田林防火協会、⑤富田林商工会青年部、⑥富田林駅前大通り 商店会、⑦富田林南ロータリークラブ、⑧富田林西口商店会、⑨富田林商工会、⑩エコール・ ロゼ店舗会、⑪富田林市身体障がい者福祉協会、⑫富田林商業連合会、⑬喜志駅前通り商店 会、⑭富田林料飲宿組合、⑮富田林河内音頭保存会、⑯富田林工業団地四組合協議会、⑰富 21 富 田林市消防団、⑱富田林市自主防災組織連合会、⑲富田林市町総代会、⑳富田林商工会、○ 22 部落解放同盟大阪府連合会富田林支部、○ 23 富田林市観光協会の各総会等 田林商業連合会、○ への参加費である。これらの各種団体は、いずれも本市において自主的に公的な活動を行っ -7- ており、本市が担っている住民の福祉の増進を図ることを基本とする行政を自主的かつ総合 的に実施していく上で、これらの団体との友好、信頼関係を維持増進することは、一般的に 見て、重要な意味を有しているものと考えられる。また、交際の態様は、これらの団体が年 に一度開催する総会やその後の懇親会へ、団体からの招待に応じて市長が参加をし、飲食を 伴うものについて、招待状に記載された参加費や、記載がない場合は 1 万円を限度に参加費 を支払うというものであり、社会通念上儀礼の範囲に止まるものと解することが出来る。請 求人は、総会等への参加案内状に参加費の記載が無い場合は、参加費を支払わなくても、市 長が総会等へ列席することによりその目的を達成することが出来るのであるから、このよう な場合には参加費を支払うべきではなく、交際費の支出として認められないと主張するもの と考えられる。しかし、市長等の来賓に対して、この種の会合への列席を要請する場合に、 参加費の記載をせずに招待状を送付することや、それにも関わらず一定の参加費が支払われ ることは、通常行われていることであり、案内状に参加費の記載が無かったとしても、1万 円を限度として参加費を支払うことは、なお社会通念上儀礼の範囲に止まるものというべき である。 (5)以上により、本監査請求において問題とされている市長交際費の支出は、前記最高裁判決 に照らしても、違法不当なものとは考えられず、本監査請求には理由がない。 なお、請求人は、各種団体から参加費の金額を記載せずに、総会等への案内がなされてい るにもかかわらず、市長が各種団体に参加費を支払う行為は、公職選挙法上禁止されている 寄付にあたるとも主張しているが、そもそも公職選挙法が禁じているのは公職の候補者等が 行う寄付であり、前述のとおり、本件における市長の各種団体の総会等へ参加して参加費を 支払った行為は、公共団体の事務として行ったものと認められるから、公職選挙法上の問題 は生じない。 〔3〕結論 請求人の本監査請求は、理由がないので棄却する。 〔4〕意見 以上のとおり、本監査請求で問題とされている市長の交際費の支出は違法でも不当でもない と考えられる。しかし、各種団体との友好や信頼関係を維持増進することの重要性は、住民の 福祉を向上させる観点から今後も変わらないとしても、そのために何よりも重要なことは市長 が総会等へ列席することである。現状では、各種団体の総会等に参加するに際し、飲食を伴う 以上、一定の参加費を支払う行為が社会通念上儀礼の範囲と認められるとしても、支払われる 参加費は公金である以上、市のあり方として、市長が、各種団体の総会等に列席する場合には、 公金である参加費は支出しないという慣習を、今後、各種団体の理解を得ながら形成していく 努力をすることも必要であると考える。 -8-
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