次世代人材育成に向けての産業界の対応 のあり方に関する研究報告書 (第 3 年度) 平 成 1 9 年 3 月 財団法人 委 託 先 企業活力研究所 株式会社 東レ経営研究所 この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。 http://keirin.jp/ はしがき 本研究は、財団法人企業活力研究所が平成 16 年度に設置した「次世代人材育成研究 会」の第 3 年度の活動(平成 18 年度調査研究事業)として、「次世代人材育成に向け ての産業界の対応のあり方」をめぐって関係省庁や有識者の講演・ヒヤリングやアン ケート調査・文献調査等を実施し、それらに立脚した同研究会での議論をとりまとめ、 提言( 「日本における次世代人材の育成に向けて―若手企業人の「働きがい」の視点か ら」 )をとりまとめたものである。 この問題に関しては産業界としても積極的に対応していく必要があるため、昨年度 に引き続き対応のあり方を検討し、提言すべく調査研究を行ったものである。 今年度の調査研究は、概略次のように実施した。 ①雇用環境が改善する中、政府の若者対策をフォローした上で、産業界の次世代人材 育成の望ましいあり方を重点課題とする。 ②企業に働く若手人材の活力高揚に向けて、現在行われている多様な試みを検証し、 真に重要なポイントは何かを考察する。 ③若手企業人の「働きがい」の視点から、次世代人材育成のための問題の所在や原因 を追究し、解決の方向等につき意見をとりまとめる。 ④以上の研究活動結果を踏まえて提言をとりまとめる。 本報告書が、次世代人材問題の解決の一助になれば幸いである。 本調査事業の実施にあたって、小林いずみメリルリンチ日本証券(株)代表取締役 社長を委員長とする「次世代人材育成研究会」の各委員、講演やヒヤリングに対応い ただいた有識者の方々、 「働きがい」調査にご回答いただいた若手企業人の方々に心よ り御礼申し上げる次第である。 平成 19 年 3 月 財団法人 企業活力研究所 株式会社 東レ経営研究所 <要 約> 1.これまで日本の多くの企業は、企業人の活力を主として処遇・賃金や労働・環境条 件などの「満足度」の観点から、 「不満」を解消することに努力してきた。 しかしながら、これら処遇などの外発的動機付けによる満足度の向上だけでは、 企業人の活力を高めるには限界がある。仕事のやりがいや面白さという内発的動機 付けもあわせて行うことにより、 「働きがい」を感じるようにすることが重要である。 そこで、昨今の雇用状況の改善に伴い、経営にも変化が生じてきている今こそ、 人材が企業内における貴重な資源であることを再認識し、処遇・賃金などの外発的 動機付けとともに、仕事のやりがいや面白さという内発的動機付けもあわせて行う ことにより、各人が「働きがい」を感じて仕事に取り組めるようにする必要がある。 2.今回、独自開発した「働きがいのある会社」モデルに基づき、若手企業人 1,000 人 の「働きがい」調査を実施した。結果の要点は次のとおりである。 (1)20~30代の若手企業人の「働きがい」状況は、必ずしも良好と言える状況で はない。 ① 「働きがい」 を感じている人が全体の 3 割弱(27%)、 感じていない人は 4 割弱(39%) ② 仕事上の夢や希望を持っている人も 3 割弱(29%)、 持っていない人は 4 割強 (44%) ③ 今の会社で 10 年以上働くつもりの人は 3 割強(35%)、3 年以内に辞める可能性 がある人が 3 割(30%)いる。 (2)若手企業人の「働きがい」に影響を与える主要因として、次の8項目が特に重要 である。 <「働きがい」にとって重要と思われる要因> ① 責任ある仕事 ② 気軽に話せる上司 ③ 働きに見合う給与 ④ 能力開発の機会 ⑤ 楽しく働ける会社 ⑥ 誠実で倫理的な経営 ⑦ 明るい将来展望 ⑧ 仕事に対する誇り 4.前述の8要因を踏まえて、若手企業人の「働きがい」を向上させるために、以下の 4つの基本的視点にそって、具体的提言をとりまとめた。 i (1)信頼できる経営 ① 経営倫理に基づく信頼の経営 ② 社員を大切にする日本的経営精神の復権 (2)上司との信頼関係づくり ① 組織の小集団化 ② 「若手・中堅社員キャリア開発面談」の実施 ③ 責任ある仕事を与え、気軽に話せる「働きがいリーダー」の育成 (3)若手企業人の能力開発支援と挑戦機会の創出 ① マネジメントポジションの流動化促進 ② 昇進の節目ごとの必要な能力の明示(キャリアコンピテンシーマネジメント) ③ 斜めの支援 ④ CDGMの導入 (4) 「働きがい」の環境整備 ① 家庭や地域・学校における「人間教育の」推進 ② Personal Weak-Ties(パーソナル ウィークタイズ) ③ 就職・キャリア指導のあり方の改善(仕事観と仕事スキルの確立) ④ 「働きがい」調査の定期実施とフォロー ⑤ 企業の人材投資への税制支援 なお、巻末に若手企業人「働きがい」調査の質問表、集計データ、ソーシャルスキル トレーニングに関する資料を掲載し、企業人の活力向上策の参考資料とした。 ii 次世代人材育成に向けての産業界の対応の あり方に関する研究報告書(第 3 年度) <目 次> 頁 第1章 はじめに 第2章 若手企業人の「働きがい」の現状 Ⅰ.文献調査結果(既存調査結果など) Ⅱ.働きがいを感じない理由(推定) 第3章 独自調査による若手企業人の「働きがい」に関する検証 Ⅰ.回答者の構成 1 3 7 8 Ⅱ.調査の目的・特色・内容 10 Ⅲ.調査結果 14 (1) 「働きがい」の状況全般 (2) 会社の現状評価 (3) 「働きがい」プラス要因・マイナス要因 (4) その他「働きがい」を左右する要因 Ⅳ.調査結果の要約 第4章 26 若手企業人の「働きがい」向上策(提言) Ⅰ.基本的視点 28 Ⅱ.具体的方策 29 第5章 (1) 信頼できる経営 29 (2) 上司との関係づくり 31 (3) 若手企業人の能力開発支援と挑戦機会の創出 35 (4) 「働きがい」の環境整備 36 おわりに 日本にとっての「働きがい」元年 ~「働きやすい会社」から「働きがいのある」会社へ 資 料 1.若手企業人「働きがい」調査質問票 資 料 2.若手企業人「働きがい」調査結果データ 資 料 3.ソーシャルスキルトレーニングについて 39 第1章 はじめに Ⅰ.昨年の提言を踏まえて 本研究会の主目的は「次世代人材育成に向けての産業界の対応のあり方」を調査研 究し、産学官に向けて提言を行うことにある。 初年度(2004 年度)はニート、フリーター、若年失業者等を主対象とした。マク ロ的な経済環境、学校教育、家庭・地域社会の環境、企業行動等が複雑に絡まりあう 次世代人材育成問題の基本的な考え方を整理するとともに、産業界としての取り組み、 政府の若者対策及び教育改革について提言を行った。 2 年目(2005 年度)は、フリーター・ニート・引きこもり問題についての対応、 初等・中等・高等教育段階における課題と対応等に重点をおいた。産業内における次 世代人材育成の課題と対応についても部分的に検討を行い、提言をとりまとめた。 今年度は、若手失業者への就職支援活動の促進、企業の雇用状況の改善、および昨 年の提言等を踏まえて、主として社会・企業の活力の視点から、企業内で働く人々の 活力、次世代人材の育成を取り上げた。 Ⅱ.産業内における次世代人材育成の課題 これまで日本の多くの企業は、企業人の活力を主として処遇・賃金や労働・環境条 件などの「満足度」の観点から、 「不満」を解消することに努力してきた。 しかしながら、これら処遇などの外発的動機付けによる満足度の向上だけでは、企 業人の活力を高めるには限界がある。仕事のやりがいや面白さという内発的動機付け もあわせて行うことにより、「働きがい」を感じるようにすることが重要である。 そこで、最近の雇用状況の改善に伴い、経営が攻めに転じてきている今こそ、人材 が企業内の貴重な資源であることを再認識し、働く人々に対する満足度の向上だけで なく、内発的動機付けにも目を向けることで、各人が「働きがい」を感じて仕事に取 り組めるようにする必要がある。 現在、現場で働いている多くの若手企業人が「働きがい」をあまり感じていないと すれば、経営として無視できないことであり、若手企業人の「働きがい」を高めるこ とは重要な経営課題と考える。 1 Ⅲ.研究会の検討経緯 今期の研究会は、2006 年 9 月から計 7 回にわたり下記のとおり進めてきた。 第1回研究会(06 年 9 月 13 日) 「再チャレンジ推進対策と若者自立・挑戦プラン」の進捗状況について 第2回研究会(06 年 10 月 18 日) 「若手企業人の働きがい」文献調査報告について 「働きがいのある会社」について (Great Place to Work Institute チーフプロデューサー 第3回研究会(06 年 11 月 15 日) 「若手企業人の働きがい」についての事例紹介 外資系投資銀行、富士ゼロックス、海外事例 「若手企業人の働きがい」独自調査(案)の概要 第 4 回研究会(06 年 12 月 20 日) 「若手企業人と教育との関係について」 第 5 回研究会(07 年 1 月 17 日) 「恐怖心から楽しさを原動力とする働き方へ」について (有限会社光海カンパニー 代表取締役 山本潤一氏) 「若手企業人の活力・働きがい向上策」について 「若手企業人働きがい調査結果概要」について 第 6 回研究会(07 年 2 月 21 日) 研究報告書と提言案について 第 7 回研究会(07 年 3 月 23 日) 研究報告書と提言案について 2 斎藤智文氏) 第2章 若手企業人の「働きがい」の現状 いくつかの既存文献調査から若手社員の実像を調査した。若手企業人の活力向上策を考える上 で、注目に値する調査結果の要点は次のとおりである。 Ⅰ.文献調査結果(既存調査結果など) 1. 「仕事に対するモチベーションに関する調査」 (野村総合研究所、2005 年 10 月、上場企業の 20~30 代の正社員を対象、 1000 サンプル) (1) 現在の仕事に対して無気力を感じる人が 75.0%( 「よく無気力を感じる」16.1%、 「ときどき無気力を感じる」58.9%)にも達する。 (2)3 年前と比較して「あまり成長した実感がない」が 42.5%に達し、成長に対 する停滞感は特に 30 代で高くなっている。 (3)現在の仕事に「社会的使命感を感じない」 (「どちらかといえば」を含む)は 31.7%。 (4)今後の就業意向については、 「定年まで勤めたい」は 17.9%に過ぎず、 「あと 10 年以上は勤めたい」 (9.9%)と合わせても長期定着意向は 3 割にも達していない。 (5)この調査では、若手社員がやりがいを感じる仕事やお金以外の報酬として重視している ものについても具体的に訊いている。 <やりがいを感じる仕事> ①「報酬の高い仕事」 (29.0%) ②「自分だけにしかできない仕事」 (22.0%) 、 ③「新しいスキルやノウハウが身につく仕事」 (21.8%) 、 ④「自分の実績として誇れる仕事」 (21.5%) ⑤「お客様から感謝される仕事」 (21.0%) <給与以外の事項で重視しているもの> ①「仕事自体の面白さや刺激」 (44.5%) 、 ②「同僚や後輩から信頼されたり感謝されたりすること」 (35.0%) 、 ③「顧客から感謝されること」 (34.2%) 、 ④「上司から高い評価や承認が得られること」 (26.6%) ⑤「一緒に仕事をする仲間の質が高いこと、関係が刺激的であること」 (21.9%) (6)この調査の結論として、 「仕事での成長実感が薄く無気力を感じ、仕事に対 する社会的意義も感じられず、容易に転職を考えがちな若者の姿が浮き彫り」になった 3 としている。 また、 「凋落傾向にある若者の働くモチベーションを再生することが、2010 年以降の 企業の競争力アップにつながる。具体的な再生手段として、仕事の動機付けにつながる ミッションの樹立、挑戦機会の増設、周囲のモチベーションを生み出す人材の抜擢」の 三つを提案している。 「働くモチベーションをお金と地位だけに頼ることには限界がある。また、お金や地 位には資源の制約があるが、挑戦機会や人間関係から生み出されるやりがいは、使えば 使うほど豊かになり、強い組織文化を醸成する。人材の採用や引き留めにも効果が高い だろう。今後はお金以外の面で若者にやりがいを感じさせることが、企業の経営戦略に 効果的である」と結論づけている。 2.新入社員の意識調査 (社会経済生産性本部、2006 年3~4月に実施した新入社員研修の参加者等 1,961 人対象) 日本経済社会性本部が 1990 年以降、毎年実施している調査結果から、最近の新入社員 の意識傾向の特記事項は次のとおりである。 (1)「ニートになってしまう人の気持ちは理解できる」とする回答がほぼ4割。 (2)「人より多く賃金を得なくとも、食べていけるだけの収入があれば十分だ」と する回答が4割近い。 (3)「将来への自分のキャリアプランを考える上では、社内で出世するより、自分 で起業して独立したい」とする回答が3年連続で減少し、2割前半の低い水準。 (4)「上司から会社のためにはなるが、自分の良心に反する手段で仕事を進める ように指示された」場合に、「あまりやりたくないが、指示通りに行動する」とする回 答が減少し、2年ぶりに4割を下回る。 (5)担当したい仕事について、 「個人の成果が直接成果に結びつく職場」より、 「チームを組んで成果を分かち合える職場」を希望する回答が増加してほぼ8割 (調査開始以来、最も高い水準) 。 (6)「会社の運動会などの親睦行事は、できれば参加したくない」とする回答が 減少し、過去最低の水準(17.3%)。 (7)「先輩や上司の仕事のペースを崩さないためには、近くの席の相手であっても 電子メールでやり取りをした方が効率的で良い」とする回答は1割。 (8)同調査では次のように結論づけている。 ①ニートの受容、賃金へのこだわりや企業家精神などの上昇志向・意欲に乏しく、 現状肯定的な傾向。 ②昨今の企業の不祥事の影響を受けてか、コンプライアンスや倫理に対する感度 4 が高まる。 ③個人主義的な志向から、集団とのかかわりを持ち、ハイタッチなコミュニケーションを 求める傾向が強まる。 3.社員満足度調査 (日経BP社、2005 年全国 2,000 人インターネット調査) この調査結果(年代別は不明)を見ると、会社に不満を持っている人が48%に のぼる。その内訳とそれぞれの不満の理由はつぎのとおりである。 (1)「仕事に不満」40%:成長が実感できない、目的や目標が曖昧、権限や裁量がない (2)「上司に不満」45%:ビジョンが曖昧、人間的に尊敬できない、成果が評されない (3)「職場の人間関係に不満」38%:チームワークや一体感がない、上下関係が 曖昧、価値観を押し付けられる 4.メンタルヘルス調査 (社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所、2006 年上場企業 218 社、2005 年 543 労組 回答) メンタルヘルス研究所の 2006 年企業調査と 2005 年労組調査の結果は次のとおりである。 (1)ここ 3 年間で「心の病」 (うつや神経症)が増加傾向にあると回答した企業が 6 割を超 える。また、2005 年労組調査では、7 割弱の労組が増加傾向にあるとしている。 (2)年代で見ると、心の病の最多の年代が 30 代とする企業が 6 割ある。 2005 年労組調査でも、最多の年代が 30 代とする労組が 5 割ある。 (3) 「職場でのコミュニケーションが減ったか」→「そう思う」 「ややそう思う」企業が 6 割 「職場での助け合いが少なくなったか」→「そう思う」 「ややそう思う」企業がほほ半数 (4)2005 年労組調査で「心の病」の原因を訊いた結果は次のとおり。 ①職場の人間関係 30% ②仕事の問題 19% (5)職場のメンタルヘルスを低下させる要因(一つ選択)を訊いた結果は、次の とおり。 ①コミュニケーションの希薄化 ②仕事量の増加 49.9% 15.8% ③管理監督者の指導力不足 12.3% (6)同研究所では「職場でのつながりや信頼関係が薄れていることが背景にあると 考えられる」 「心の病の増加を抑えていくためには、職場内の横のつながりを いかに回復していくかが課題だ」としている。 5 5.働きがい調査 (㈳国際経済労働研究所、2001 年データ) (1)この調査結果(年代別は不明)によると、次のようになっている。 ①「今の仕事が楽しい」に対して「そう思う」人が 27%、 ②「今の仕事に生きがいを感じる」人は 38%、 ③「今の仕事を続けたい」人は 43%、 (2)また、この調査では働きがい向上という取り組みに向けて,働きがいとは一体 何なのか,どのようにすれば高まるのか,を追求している。 “働きがい”を「ワーク・モチベーション(仕事動機づけ) 」と位置づけ、 さらに,そのプロセスを仕事の面白さなどの「内発的働きがい」と金銭的報酬 などの「外発的働きがい」に区分けし、これらを取りまく要因を分析している のが注目される。 (注)㈳国際経済労働研究所は、1948 年に戦後結成された「関西労働調査会議」が前身で、1993 年「(㈳国際経済労働研究所」に改称して、学会・産業界・労働界及び公共団体が共同で参 加運営する労働組合専門のシンクタンクとして活動を行っている。 6 Ⅱ.「働きがい」を感じない理由(推定) 前述の既存文献調査と企業の現場の声を総合勘案すると、次のとおりである。 仮に、企業人の活力の中核である「働きがい」が業績回復と共に高まっていないとすれば、 これは一体なぜだろう? その原因と思われるものをここで列挙する。これらは、企業人の活力向上の観点からみた 次世代人材育成上の課題でもある。 1.連帯感、一体感、チームワークの弱まりと愛社精神や帰属意識の低下 格差を拡大した成果主義賃金や利益・株主価値優先の経営を背景に、日本的経営のよさ、 強みであったはずの一体感や連帯感、チームワーク、愛社精神、社員共同体といった日本 の企業文化の特質が崩れつつあるのではないか。さらに、パソコンや携帯電話など、IT ツ ールの急進展や精神的余裕のなさから、直接の対話や心の交流の機会や場が急減している。 現場の対話交流不足は孤立や疎外感につながる。 2.生きがい、働きがい(希望、夢)の喪失、将来に対する不安 40 歳代以上を中心に、経済的に豊かになっても戦後の追いつき追い越せの貧しい時代の 人生観や仕事観・余暇観を引きずっている人がまだ多い。 つまり、あくまで会社・仕事優先で、家庭や趣味を犠牲にする生き方である。日本人に とって豊かな成熟社会は歴史上始めての経験である。欧米に肩を並べた今、次の明快な人 生の目標や仕事の夢、ビジョンを見出せないまま、漠然とした不安や苛立ちを感じている 人は少なくない。これでは成熟社会への移行に適応できず、希望なき成熟社会になってし まう可能性がある。 3.終わりのない繁忙感や心身の余裕のなさ 90 年代以降、バブル経済立て直しと国際競争力回復のために、各企業は合理化やコスト ダウン、スピードを高める経営を進めてきた。その結果、企業体質は強化され、業績も回 復して株主価値も向上し、企業活力は見事に復活しつつあるように見える。 しかし一方、企業の現場では、山積する課題を抱えながら限られた少ない要員で必死に こなしている。終わりなき繁忙さ、ゴールなきマラソンレースを強いられているかもしれ ない。人によっては過重な仕事や長時間労働に耐えられず、心身の健康を害したり、体力 的・精神的にゆとりをなくして疲れ果てている企業人も少なからずいるようである。 7 第3章 独自調査による若手企業人の「働きがい」に関する検証 前章の問題意識を持ちながら若手企業人の実像を検証するため、次のとおり独自の調査を実施 した。 企業の若手正社員の「働きがい」に関するネットアンケート調査 調査目的:若手企業人の活力の現状を「働きがい」の視点で調査することにより、 「働きがい」要因を究明して「働きがい」向上策を探る。 調査対象:20~30 歳代の、民間企業で働く正社員 1000 人 実施時期:2006 年 12 月 <本調査対象者(1,000 名)の抽出方法> 製造企業(メーカー) 非製造企業 合計 (メーカー以外) 100 人以上 250 250 500 1,000 人以上 250 250 500 合計 500 500 1000 名 1,000 人未満 Ⅰ.回答者の構成 1.性 別:男性が 726 名(72.6%)と多く約3/4を占める。 (図 1-1 参照) 2.年 齢:20 代前半が 58 人と少なく、20 代が約 4 割、30 代が 6 割を占める。 (図 1-2 参照) 男性 女性 合計 20~24 歳 24 34 58 25~29 歳 196 139 335 30~34 歳 198 55 253 35~39 歳 308 46 354 合計 726 274 1000 年齢 8 3.最終学歴:大卒者(大学院を含む)が全体の約 70%を占める。 (図 1-3 参照) 4.職 種:技術・研究系が 42%と多く、次いで企画・管理系 24%、営業系 21%と続く。 (図 1-4 参照) 5.企業規模:人員 500 人未満が 36%、500 以上 3000 人未満が 33%、3000 人以上 が 32%と三分することができる。 (図 1-5 参照) 6.転職経験:転職経験があるとした人は 37%いる。 7.結婚状況:未婚者が 53%と既婚者より若干多い。 図1-1 図1-2 回答者の年齢層 回答者の性 別 20~24歳 5.8% 女性 27.4% 35~39歳 35.4% 男性 72.6% 30~34歳 25.3% 図1-3 その他 0.2% 図1-4 回答者の最終学歴 その他 5.9% 大学院 13.4% 高等学校 15.0% 専門学校 8.1% 技術・ 研究系 41.7% 短期大学 5.4% 図1-5 100人以上 250人未満 19.3% 250人以上 500人未満 16.2% 1000人以上 3000人未満 18.0% 企画・ 管理系 23.5% 生産系 7.9% 勤務先企業の規模(人員) 3000人以上 32.0% 回答者の職種 営業系 21.0% 高等専門学 校 3.4% 四年制大学 54.5% 25~29歳 33.5% 500人以上 1000人未満 14.5% Ⅰ.文献調査結果(既存調査結果など) 9 Ⅱ.調査の目的・特色・内容 1.調査の目的 今回の調査の目的は、若手企業人の活力の現状を「働きがい」の視点で検証することに より、「働きがい」の要因を究明して「働きがい」向上策の方向を探ることである。 2.調査の特色 今回の「働きがい」調査の特色は次のとおりである。 (1)独自の「働きがいのある会社」モデルを開発 The Great Place to Work 社の「働きがいのある会社」モデル*をベースに、貢献実感 と将来展望の2つの要素を付加して、今回独自の「働きがいのある会社」モデルを開発 した。(このため、本研究会の委員でもある Great Place to Work Ins.の齋藤智文氏の 協力を得た。下図参照) (2) 「働きがい」に関連する 7 要素 21 項目の質問項目と「働きがい」プラス・マイナス要因 このモデルに基づき、 「働きがい」に影響を与えると思われる 7 要素 21 項目の質問項目 を中心に構成した。まず、最初に現在の「働きがい」状況を 5 段階評価で尋ね、あわせ て「働きがい」を高めるプラス要因と低めるマイナス要因についても複数回答を得た。 (3)7 要素 21 項目以外で「働きがい」に関連する要素を入れる 「働きがい」要因を多面的に分析するため、上記 7 要素 21 項目以外で「働きがい」に 関連する要素についても幅広く尋ねた。 (4)「働きがい」を感じているグループと感じていないグループに分けて分析 「働きがい」要因を掘り下げるため、「働きがい」を感じているグループと感じていな いグループに分けて、グループ別に「働きがい」の主要因を分析した。 (5)20~30 歳代で全国の民間企業で働く正社員 1000 人から回答 なお、調査対象は 20~30 歳代で全国の民間企業で働く正社員 1000 人に限定した。 10 「働きがいのある会社」モデル 社員が、 • 働いている会社や経営者・管理者 の人たちを信頼し、 • 自分の仕事にプライドを持ち、 • 一緒に働く仲間との連帯感や、 • 社会に役立っている実感があり、 • 将来の夢や希望が見通せる 会社 マネジメント 誇 ④ り 仕 事 信 頼 ①信用 ②尊敬 ③公正 個 人 (社員) ⑥貢献実感 ⑤ 連 帯 感 ⑦ 将 来 展 望 夢・希望 社 員 (仲間) 社会 (The Great Place To Workモデルに加筆) 15 3.調査の内容 上記 7 要素とは、 「マネジメント(会社や上司)に対する信頼(①信用②尊敬③公正) 、 ④仕事への誇り、⑤社員同士の連帯感、⑥貢献実感(お役立ち感)、⑦将来展望(夢や 希望)」の 7 つである。それぞれの要素を簡単に解説する。 (1)マネジメント(経営者、上司)に対する「信頼」 (①信用②尊敬③公正) まず、この「信頼」が仮にないとすれば、いくら仕事が面白くても「働きがい」は 半減するだろう。この「マネジメントに対する信頼」の中には、経営者や上司の信念 や考え方、つまり経営理念や事業ビジョン、運営方針などに対する共感や尊敬、社内 制度やシステムに対する信用度、さらに評価や処遇、能力開発の機会などの公正さな ども含まれる。 (2)仕事や会社に対する「誇り」④ 私たちが日常「働きがい」を実感する状況においては、「働きがい」を感じるのは、 まず仕事そのものにやりがいや意義、面白さを感じるときであろう。 (3)仲間との「連帯感」⑤ 職場で自分一人が「働きがい」を感じていても、周りの人たちが「仕事がつまらな い」と白けていたり愚痴をこぼしていたら、自分の「働きがい」は孤立してしまうか もしれない。やはり職場の仲間と協力・支援し合って目標を達成したときこそ、 「働き がい」や喜びは倍増するだろう。これが「仲間との連帯感」に通じる。 11 (4)貢献実感(お役立ち感)⑥ 自分のした仕事が実際誰かの役に立って感謝されたり、認められ賞賛されたとき こそ、「やって良かった」と「働きがい」を強く実感するであろう。 つまり、自己満足ではなく「他の役に立っている」という貢献実感や「自分には存在 価値がある」と実感できたときこそ、 「働きがい」を強く感じるのである。 (5)将来展望 (夢・希望) ⑦ これは将来や前途への見通し感とも言える。 「働きがい」を時間軸でとらえると、将 来に夢や希望があり、そのゴールに近づいているとか、成長実感があるときこそ「働 きがい」がより強化され、揺るぎないものとなろう。反対に将来の見通しや夢、希望 がない限り、成長実感もなく「働きがい」は長く持続しないとも言える。 (注)*The Great Place to Work 社の「働きがいのある会社」モデルは、80~90年代に多数の米国 企業インタビューによって開発され、このモデルによる調査が現在、世界29カ国で実施され ている。このモデルによると「働きがいのある会社」の基本要件は「信頼」 ・ 「誇り」 ・ 「連帯 感」の3つ(「信頼」を「信用・尊敬・公正」の3つに分解すると5つ)である。これら3つの 要件は、非常にシンプルで日本人にもわかりやすく、なじみやすい要件である。日本人にと って「働きがいのある会社」を考える上で示唆に富んでいる。このモデルによる調査結果は、 毎年『フォーチュン』誌で全米100社ランキングが発表され注目を浴びている。また、この 「働きがい」調査はようやく昨年から日本企業でも導入され始め、今春の『日経ビジネス』 2/19号で第1回の国内企業ランキングが発表されている。 「働きがい」要素 リーダーシップ プライド (自尊と承認) 信頼 信頼 ①信用 ①信用 ②尊敬 ②尊敬 ③公正 ③公正 ④誇り ④誇り ⑤連帯感 ⑤連帯感 コミュニケーション (帰属と愛) 働きがい 働きがい アイデンティティ ⑥貢献実感 ⑥貢献実感 ⑦将来展望 ⑦将来展望 12 ビジョン 4.「働きがい」度によるグループ分け 若手企業人の「働きがい」や活力の向上策を考えるに当たり、課題を明確にするため に、 「働きがい」要因をさらに掘り下げて検討する。そのために、 「働きがい」を感じて いるグループと「働きがい」を感じていないグループに分けて、さらに「働きがい」要 因を明らかにする。 (1)「働きがい」を感じているグループ(Aグループ) 今の会社での仕事に働きがいを「強く感じている」と「かなり感じている」と回答 したグループ (2)「働きがい」を感じていないグループ(Bグループ) 今の会社での仕事に働きがいを「あまり感じていない」と「全く感じていない」と 回答したグループ 13 Ⅲ.調査結果 1. 「働きがい」状況全般 (1)「働きがい」状況 現在、 「働きがい」を感じている人は全体の 3 割弱の 27%である。この中、強く感じ ている人は 3.5%(35 人)とごくわずかである。逆に、 「働きがい」を感じていない人は 4 割近くいる。 (図 2-1 参照) (2)仕事に関する夢や希望 「働きがい」の周辺を探るための質問を最初にいくつすると、夢や希望を持っている 人は全体の 3 割弱で、明確にもっている人はわずか 5%弱である。逆に、持っていな い人が 4 割強いる。 (図 2-2 参照) (3)勤務面でのストレス状態 「働きがい」にも影響を与えると思われるストレス状況をきくと、極めて高い人が2 割強いる。(図 2-3 参照) (4)勤続意思 「今の会社で今後何年ぐらい働くつもりか」を聞いたところ、定年まで働く人は 2 割 強(23%)、10 年以上働く人を合わせても 3 割強(35%)である。逆に、3 年以内に転 職する可能性のある人が 3 割(30%)いる。(図 2-4 参照) 図 2 -1 図2-2 現在、働きがいを感じているか 全く感じて いない 10.6% 強く感じて いる 3.5% 40 30 10 20 21.2 全く持っていない 25.2 22.6 16.2 11.9 20.0 20 13.8 10.3 10 10.4 10 1.6 わからない すぐにでも転職し たい 1~3年 4~9年 10年以上 14 定年まで 0 全く低い やや低い どちらとも言えな い やや高い 極めて高い 0 あまり持っていな い 30 40 30 どちらとも言えな い 図2-4 今の会社で今後何年くらい働くつもりか 勤務面でのストレス状態 46.8 % 明確ではないが 持っている どちらとも 言えない 34.2% 明確に持っている 0 13.6 4.6 図2-3 50 30.2 26.8 24.8 20 かなり感じ ている 23.6% あまり感じ ていない 28.1% 仕事に関する将来の夢・希望 % 2.会社の現状評価 (1)全体 「自分の会社に当てはまる状況」を 5 段階評価で回答してもらった単純集計結果は次 の通りである。 当てはまる状況で高いのは「気軽に話せる上司、責任ある仕事、会社や社会への貢 献」がベスト 3 である。いずれも 40%以上の高得点を示している。このほか「会社へ の誇り」や「能力開発の機会」が比較的高い。 反対に、当てはまる状況で低い方においては「夢に近づく機会、将来展望・見通し、 上司のえこひいき」がワースト3になっている。 この他、 「誠実で倫理的な経営陣」 「仕事への誇り」が比較的低い。これら 5 項目は いずれも全体の 2 割前後しか「自分の会社に当てはまる状況」と認めていないことに なる。(下表参照および図 3-1 参照) <自分の会社に当てはまる状況> 上位項目 下位項目 1 管理職は近づきやすく気軽に話せる 52.2 仕事が自分の夢に近づいている機会になっている 15.5 2 責任ある仕事を任せてもらっている 47.3 将来に対して明るい展望、見通しを持っている 18.2 3 自分は会社や社会に貢献している 43.3 管理者はえこひいきすることはない 19.8 4 今の会社で働いていることを胸を張って 37.3 経営陣は誠実で倫理的に事業遂行している 20.4 35.5 自分たちの仕事を誇りに思う 21.7 人に言える 5 能力開発の機会が与えられている (注)5 段階で回答したもの(全くその通り、ややその通り、どちらとも言えない、やや違う、全く違う) 数字は「全くその通り、ややその通り」の合計比率%。丸数字は上記 7 要素に対応する。 (例えば①なら「信用」 ) 15 図3-1 要素 質 問 現状の 会社評価 ①信用 ②尊敬 あなたの会社の管理職は、近づきやすく、気軽に話せる 52.2 あなたは、責任ある仕事を任せてもらっている 47.3 あなたの会社の経営陣は、誠実で倫理的に事業を遂行している 20.4 あなたは、専門性を高めるための研修や能力開発の機会が与えられている 35.5 あなたの会社では、良い仕事や特別な努力を認めてくれる 28.3 あなたの会社では、単なる従業員としてではなく、1人の人として大切に扱ってくれる 22.6 ③公正 ④誇り あなたの会社では、働きに見合った給与が支払われている 21.9 あなたの会社では、地位や立場に関わらず、組織の一員として公平に扱われている 27.3 あなたの会社の管理者はえこひいきすることはない 19.8 自分たちの仕事を誇りに思う 21.7 あなたの仕事には特別な意味があり、「単なる職務」というものではない 28.3 今の会社で働いていることを胸を張って人に言える 37.3 ⑤連帯感 会社の仲間は皆、お互いに思いやりを持っている 35.2 楽しく働ける会社である 34.8 会社で自分らしくいることができる 32.2 ・あなたは、会社や社会に貢献していると思う 43.3 ・職場では、相互に感謝の言葉を交わすことが多い 35.0 ・仕事上でほめられること、認められることがよくある 28.4 ⑦展望 ・あなたは、将来に対して明るい展望、見通しを持っている 18.2 (夢、 ・仕事を通じて成長している実感がある 34.5 ⑥貢献 希望) ・仕事が、自分の夢に近づいている機会となっている 16 15.5 (2)「働きがい」度グループ別 グループ別に「会社の当てはまる状況」(7要素21項目)を見てみると、図 4-2 が示 すとおり、明らかに差異がある。 まず、Aグループの回答状況を見ると、対比するBグループより全21項目とも「その 通り」と回答した比率が上位にある。 21の「働きがい」質問項目の中でも、特に「会社の当てはまる状況」の高い項目に注 目すると、上位5項目はいずれも70%前後の高い比率であり、現状の「働きがい」を高 めている要因になっているようだ。つまり、「責任ある仕事、気軽に話せる管理者、成長 している実感、今の会社への誇り、会社や社会への貢献」の5つである。下位 5 項目も 4 割前後となっており、Bグループを含めた全体の単純集計結果より 2 割ほど高くなってい る。 <Aグループの「自分の会社にあてはまる状況」> 上位5項目 下位5項目 1 責任ある仕事を任せてもらっている 79.0 管理者はえこひいきすることはない 36.2 2 管理職は近づきやすく気軽に話せる 71.2 仕事が自分の夢に近づいて機会になっている 38.7 3 仕事を通じて成長している実感がある 67.9 将来に対して明るい展望、見通しを持っている 39.9 4 今の会社で働いていることを胸を張って 67.2 経営陣は誠実で倫理的に事業遂行している 41.0 65.7 働きに見合った給与が支払われている 43.2 言える 5 自分は会社や社会に貢献している (注)数字は「全くその通り、ややその通り」の合計比率%。 <Bグループの自分の会社にあてはまる状況」> 上位5項目 下位5項目 1 管理職は近づきやすく気軽に話せる 39.3 仕事が自分の夢に近づいて機会になっている 3.6 2 責任ある仕事を任せてもらっている 30.7 将来に対して明るい展望、見通しを持っている 7.0 3 自分は会社や社会に貢献している 29.5 自分たちの仕事に誇りを持っている 8.0 4 お互いに思いやりを持っている 26.6 経営陣は誠実で倫理的に事業遂行している 10.1 5 研修や能力開発の機会を与えられている 24.8 働きに見合った給与が支払われている 10..9 〃 感謝の言葉を交わすことが多い 24.8 (注)数字は「全くその通り、ややその通り」の合計比率%。 17 図4-1 「働きがい」グループ別回答結果(ともに「その通り」の回答を集計) 90% 79.0% 80% 71.2% 67.9% 70% 67.2% 働きがいを「感じている」グループ 働きがいを「感じていない」グループ 65.7% 61.3% 59.4% 60% 50% 40% 57.2% 56.1% 55.0% 54.2% 53.1% 51.3% 49.8% 47.2% 44.3% 43.2% 39.3% 30.7% 29.5% 24.8% 30% 18.9% 20% 16.8% 15.2% 12.9% 15.8% 14.0% 11.9% 8.0% 10.9% 10.1% 10% 38.7% 36.2% 10.6% 7.0% 3.6% 管理者はえこひいきすることはな いか 仕事が、自分の夢に近づく機会と なっているか 将来に明るい展望、見通しを持っ ているか 経営陣は誠実で倫理的に事業を遂 行しているか 働きに見合った給与が支払われて いるか 単なる従業員でなく、1人の人と して大切に扱ってくれるか 自分たちの仕事を誇りに思ってい るか 地位や立場に関わらず、組織の一 員として公平に扱われているか 自分の仕事には特別な意味があ り、「単なる職務」ではないと考 えているか 互いに思いやりを持っているか 仕事上でほめられること、認めら れることがよくあるか 職場で相互に感謝の言葉を交わす ことは多いか 専門性を高めるための研修や能力 開発の機会が与えられているか よい仕事や特別な努力を認めてく れるか 会社で自分らしくいることができ るか 会社は楽しく働ける場所か 自分は会社や社会に貢献している と思うか 今の会社で働いていることを胸を 張って人に言えるか 仕事を通じて成長している実感が あるか 管理職は近づきやすく、気軽に話 せるか 責任ある仕事を委せられているか 0% 39.9% 26.6% 24.8% 18.9% 12.9% 41.0% (注)縦軸は各質問項目に対して「全くその通り」と「ややその通り」と回答した人を「その 通り」として括った合計比率である。 (3)「働きがい」プラス要因・マイナス要因 ①全体 次に、上記 21 項目の中で回答者本人の「働きがい」にプラスの影響を与えている 項目(プラス要因)とマイナスの影響を与えている項目(マイナス要因)を 3 つずつ 選んでもらった。結果として、上記の会社に当てはまる状況の上位項目との相関が 高いことがわかった。 つまり、プラス要因では「気軽に話せる上司、責任ある仕事、能力開発の機会」な どが上位にある。 マイナス要因では「働きに見合った給与」が断トツだが、他の項目では「将来に対 する展望、能力開発の機会、えこひいきしない上司」などが上位にある。 18 <全体の「働きがい」プラス要因、マイナス要因> 17.8 17.9 プラス要因 マイナス要因 1 管理職は近づきやすく気軽に話せる 26.0 働きに見合った給与が支払われている 41.6 2 責任ある仕事を任せてもらっている 24.5 将来に対して明るい展望、見通しを持っている 20.4 3 能力開発の機会が与えられている 19.2 能力開発の機会が与えられている 16.3 4 楽しく働ける会社である 17.9 管理者はえこひいきすることはない 15.5 5 働きに見合った給与が支払われている 17.8 経営陣は誠実で倫理的に事業遂行している 13.3 15.5 16.3 あなたの会社の管理者は、えこひいきすることはない あなたの会社の経営陣は、誠実で倫理的に事業を遂行している あなたの会社では皆、地位や立場に関わらず、組織の一員とし て公平に扱われている あなたは、将来に対して明るい展望、見通しを持っている 仕事が、自分の夢に近づいている機会となっている あなたの会社では、単なる従業員としてではなく、1人の人と して大切に扱ってくれる 職場では、相互に感謝の言葉を交わすことが多い あなたの会社では、良い仕事や特別な努力を認めてくれる あなたや周りの人々は、自分たちの仕事を誇りに思っている あなたの仕事には特別な意味があり、「単なる職務」というも のではない 仕事上でほめられること、認められることがよくある 会社で自分らしくいることができる 今の会社で働いていることを胸を張って人に言える 仕事を通じて成長している実感がある 会社の仲間は皆、お互いに思いやりを持っている あなたは、会社や社会に貢献していると思う あなたの会社では、働きに見合った給与が支払われている 楽しく働ける会社である あなたは、専門性を高めるための研修や能力開発の機会が与え られている 19 2.7 2.8 4.0 4.3 4.6 4.7 4.1 4.6 4.8 4.8 9.3 8.1 8.0 7.1 7.9 8.1 8.9 5.9 6.5 7.2 7.0 9.7 9.7 10 11.2 11.2 11.8 13.3 12.8 11.3 11.5 13.3 15 20.4 19.2 20 5.2 4.8 5 あなたは、責任ある仕事を任せてもらっている あなたの会社の管理職は、近づきやすく、気軽に話せる 0 24.5 25 働きがいマイナス要因 働きがいプラス要因 図4-2 45 働きがいに影響している要因 40 41.6 35 30 26.0 図3-2 要素 ①信用 質 問 ③公正 ④誇り マイナス 要因 要因 あなたの会社の管理職は、近づきやすく、気軽に話せる 26.0 11.8 あなたは、責任ある仕事を任せてもらっている 24.5 あなたの会社の経営陣は、誠実で倫理的に事業を遂行している ②尊敬 プラス あなたは、専門性を高めるための研修や能力開発の機会が与えられている 4.8 2.8 13.3 19.2 16.3 あなたの会社では、良い仕事や特別な努力を認めてくれる 7.1 8.0 あなたの会社では、単なる従業員としてではなく、1人の人として大切に扱ってくれる 4.6 8.1 あなたの会社では、働きに見合った給与が支払われている 17.8 41.6 あなたの会社では、地位や立場に関わらず、組織の一員として公平に扱われている 4.0 あなたの会社の管理者はえこひいきすることはない 2.7 15.5 自分たちの仕事を誇りに思う 7.9 11.2 あなたの仕事には特別な意味があり、「単なる職務」というものではない 8.1 5.9 今の会社で働いていることを胸を張って人に言える 9.7 4.8 ⑤連帯感 会社の仲間は皆、お互いに思いやりを持っている 9.3 12.8 11.3 楽しく働ける会社である 17.9 7.0 9.7 8.5 13.3 5.2 ・職場では、相互に感謝の言葉を交わすことが多い 4.7 4.1 ・仕事上でほめられること、認められることがよくある 9.9 4.8 ⑦展望 ・あなたは、将来に対して明るい展望、見通しを持っている 4.3 20.4 (夢、 ・仕事を通じて成長している実感がある 会社で自分らしくいることができる ⑥貢献 ・あなたは、会社や社会に貢献していると思う 11.5 希望) ・仕事が、自分の夢に近づいている機会となっている 7.2 4.6 11.2 ②「働きがい」度グループ別 「働きがい」プラス要因でAグループは、 「責任ある仕事」が 38%と突出していて、 やる気(意欲)の高さを示している。この項目はBグループの第2位でもある。 また、Aグループの2番目は、 「気軽に話せる上司」であり、これは、Bグループ では第1位である。 両グループにおいて、「責任ある仕事」と「気軽に話せる上司」が特に重視されて いる。Aグループの3番目以降は「働きに見合った給与」、「能力開発の機会」「会社 は楽しく働ける場所」が上位にあり、これらはBグループにも共通している。 20 <Aグループの「働きがい」プラス要因上位ベスト 5> ・「責任ある仕事」 ・「気軽に話せる上司」 ・「働きに見合った給与」 ・「能力開発の機会」 ・「会社は楽しく働ける場所」 <Bグループの「働きがい」プラス要因上位ベスト 5> ・「気軽に話せる上司」 ・「責任ある仕事」 ・「能力開発の機会」 ・「会社は楽しく働ける場所」 ・「働きに見合った給与」 「働きがい」のマイナス要因については、Bブループにおいて「働きに見合った給与」 が 50%弱と突出しているのが顕著である。現状の給与や評価の低さに対する不満の表 明、あるいは金銭的報酬に代表される外発的動機付けへの依存とも読み取れる。両グ ループとも、 「働きに見合った給与」 、 「上司との関係」、 「明るい展望・見通し」 「能力 開発の機会」が共通であり、更にAグループでは「誠実で倫理的な経営」、Bグルー プでは「仕事への誇り」が上位にある。 <Aグループの「働きがい」マイナス要因上位 5> ・「働きに見合った給与」 ・「えこひいきしない管理者」 ・「誠実で倫理的な経営陣」 ・「能力開発の機会」 ・「明るい展望、見通し」 <Bグループの「働きがい」マイナス要因上位 5> ・「働きに見合った給与」 ・「明るい展望、見通し」 ・「能力開発の機会」 ・「気軽に話せる上司」 ・「仕事への誇り」 21 いずれにせよ、特にAグループの「働きがい」プラス要因、マイナス要因の上位項 目は、若手企業人の「働きがい」を左右する重要な要因として注目に値する。 <Aグループの「働きがい」プラス要因、マイナス要因> 「働きがい」プラス要因 「働きがい」マイナス要因 1 責任ある仕事を任せてもらっている 38.0 働きに見合った給与が支払われている 29.2 2 管理職は近づきやすく気軽に話せる 26.6 管理者はえこひいきすることはない 21.0 3 働きに見合った給与が支払われてい 24.4 経営陣は誠実で倫理的に事業遂行している 17.0 る 4 能力開発の機会が与えられている 24.4 能力開発の機会が与えられている 15.1 5 楽しく働ける会社である 19.6 将来に対し明るい展望、見通しを持っている 14.8 <Bグループの「働きがい」プラス要因、マイナス要因> 「働きがい」プラス要因 「働きがい」マイナス要因 1 管理職は近づきやすく気軽に話せる 23.3 働きに見合った給与が支払われている 49.4 2 責任ある仕事を任せてもらっている 17.3 将来に対して明るい展望、見通しを持ってい 23.5 る 3 能力開発の機会が与えられている 15.0 能力開発の機会が与えられている 19.9 4 楽しく働ける会社である 15.0 管理職は近づきやすく気軽に話せる 16.5 5 働きに見合った給与が支払われている 14.7 自分たちの仕事に誇りをもっている 14.2 22 図4-3-1 管 理 者は え こ ひ いきす るこ と は な い か 経 営 陣は 誠 実 で 倫 理的 に 事 業 を 遂行 し て い るか 職 場 で相 互 に 感 謝 の言 葉 を 交 わ すこ と は 多 いか 地 位 や立 場 に 関 わ らず 、 組 織 の一員 とし て 公平 に扱われて いるか 単 な る従 業 員で な く、 1 人 の 人 とし て 大 切 に扱ってくれるか 将 来 に明 る い 展 望 、見 通し を 持 って い る か 仕事 が、 自 分 の 夢 に近づ く 機 会 とな って い るか 今 の 会社 で 働 いて いるこ と を 胸 を張 っ て 人 に言えるか よ い 仕事 や 特 別 な 努力 を 認 めて くれ る か 49.4% 自 分 の仕事 には 特 別な 意 味 が あ り、 「 単 な る職務」で はないと考えて いるか 責任ある仕事を委せられているか 会社は楽しく働ける場所か 今の会社で働いていることを胸を張って 人に言えるか 自分たちの仕事を誇りに思っているか 仕事上でほめられること、認められるこ とがよくあるか 会社で自分らしくいることができるか 仕事を通じて成長している実感があるか 職場で相互に感謝の言葉を交わすことは 多いか よい仕事や特別な努力を認めてくれるか 自分は会社や社会に貢献していると思う か 単なる従業員でなく、1人の人として大 切に扱ってくれるか 自分の仕事には特別な意味があり、「単 なる職務」ではないと考えているか 管理職は近づきやすく、気軽に話せるか 仕事が、自分の夢に近づく機会となって いるか 地位や立場に関わらず、組織の一員とし て公平に扱われているか 互いに思いやりを持っているか 将来に明るい展望、見通しを持っている か 専門性を高めるための研修や能力開発の 機会が与えられているか 経営陣は誠実で倫理的に事業を遂行して いるか 管理者はえこひいきすることはないか 23 仕 事 上で ほ め ら れ るこ と 、 認 め られ る こ と が よ くあ る か 互いに思いやりを持っているか 自 分 は 会社 や 社 会 に貢 献 し て い ると 思う か 会社で自分らしくいるこ とができるか 自分たち の仕事を誇り に思って いるか 働きがいを「感じている」グループ 働きがいを「感じていない」グループ 50% 4.7% 4.4% 0.7% 5.7% 1.1% 3.6% 1.1% 1.8% 3.1% 5.2% 4.4% 5.9% 4.1% 7.8% 6.6% 5.7% 6.7% 8.8% 8.1% 9.6% 9.6% 10.3% 10.0% 8.3% 7.2% 10% 10.3% 10.7% 10.3% 14.5% 13.3% 14.2% 15.1% 15.0% 仕事を通じて 成長して い る実感 があ るか 会社は楽しく働ける場所か 専門性を高めるための研修や 能力開発の機 会が 与えられて い るか 10% 働き に見 合 っ た 給 与が 支 払 わ れ て い る か 管 理 職は 近 づ き や す く 、 気 軽 に 話せ る か 働きに見合った給与が支払われているか 0% 21.0% 16.5% 14.2% 17.0% 12.9% 11.4% 15.1% 10.9% 14.8% 10.9% 9.8% 9.6% 9.0% 9.0% 8.8% 11.1% 7.2%10.3%10.0% 5.9% 6.7% 5.4% 8.9% 7.4% 4.1% 3.9% 3.4% 6.6% 5.5% 5.5% 5.5% 5.5% 5.5% 5.5% 5.2% 4.8% 3.7% 3.3% 20% 24.4% 24.4% 23.3% 15.0% 14.7% 働きがいを 「感じていない 」グループ 26.6% 働きがいを 「感じている」 グループ 30% 23.5% 19.9% 29.2% 30% 責 任ある仕事を 委せられて いるか 0% 17.3% 20% 38.0% 40% 働きがいにプ ラスに影響して いる要因 19.6% 図4-3-2 60% 働きがいにマイナスに影響している要因 40% (4)その他「働きがい」を左右する要因 ①全体 若手企業人の「働きがい」状況を広く多面的に調査するため、前記の 7 要素 21 項目 とは別で、若手企業人の「働きがい」を左右する要因を 3 つ選んで回答してもらった。 全体の結果は、金銭的報酬がダントツのトップ(64%)、続いて職場の人間関係(42%)や 事の将来性(23%)、労働時間(18%)などが比較的上位にある。 金銭的報酬などについては、これらは外発的動機付けや「働きがい」を取り巻く環 境(衛生)要因として満たされないと不満要因になるので軽視できない。また、人間 関係に悩む若手企業人の姿も浮かび上がっている。 図4-4 働きがいに影響しているその他の要因 70 63.8 60 50 42.0 40 30 23.3 17.5 20 15.3 14.5 12.7 12.6 12.112.1 10 8.5 8.4 4.7 4.1 2.9 1.3 その他 名声・名誉 学習機会 趣味 健康・体力 将来の生活設計 家族・家庭 役職・ポスト あなたの職務遂行能力 会社の経営理念や経営方針 将来の職歴(キャリア)設計 会社の業績 オフィス、作業場などの環境 雇用の安定 労働時間 事業の将来性 職場の人間関係 金銭的報酬 0 10.2 9.8 ②グループ別 Aグループ、Bグループとも同じ傾向を示し大差はない。それぞれの上位5項目は 以下のとおりである。 24 Aグループ Bグループ 1 金銭的報酬 59.0 金銭的報酬 66.1 2 職場の人間関係 41.0 職場の人間関係 44.7 3 事業の将来性 26.2 事業の将来性 21.4 4 あなたの職務遂行能力 17.7 労働時間 19.4 5 オフィス、作業場などの環境 15.5 雇用の安定 15.2 このほか特に注目されるのは、Aグループの中で「働きがい」を「強く感じている」 人たち(全体の 3.5%)は他グループと比べて特異な傾向を示していることである。 具体的には、役職・ポストや会社の経営理念・経営方針を相対的に重視しているこ とである。他グループと比べて上昇志向や経営志向が強いとも言える。 図4-5 働きがいに影響しているその他の要因 70 65 60 55 強く感じている かなり感じている どちらとも言えない あまり感じていない 全く感じていない 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 名 声 ・ 名 誉 役 職 ・ ポ ス ト そ の 他 学 習 機 会 趣 味 家 族 ・ 家 庭 将 来 の 生 活 設 計 健 康 ・ 体 力 会 社 の 業 績 25 オ フ ィ ス 、 作 業 場 な ど の 環 境 あ な た の 職 務 遂 行 能 力 将 来 の 職 歴 ( キ ャ リ ア ) 設 計 会 社 の 経 営 理 念 や 経 営 方 針 事 業 の 将 来 性 雇 用 の 安 定 労 働 時 間 職 場 の 人 間 関 係 金 銭 的 報 酬 0 Ⅳ.調査結果の要約 1.20~30代の若手企業人の「働きがい」状況は、必ずしも良好と言える状況ではないこ とが判明した。何らかの「働きがい」向上策を早急に講じる必要がある。 (1)「働きがい」を感じている人が全体の 3 割弱(27%)、感じていない人は 4 割弱(39%) (2)仕事上の夢や希望を持っている人も 3 割弱(29%)、持っていない人は 4 割強(44%) (3)ストレスが極めて高い人が 2 割強(21%) いる。 (4)今の会社で 10 年以上働くつもりの人は 3 割強(35%)、3 年以内に辞める可能性が ある人が 3 割(30%)いる。 2.調査結果からみて、「働きがい」を感じている若手企業人の「働きがい」を左右する主要 因としては、次の5項目が特に重要である。 「働きがい」プラス要因 「働きがい」マイナス要因 +責任ある仕事 -働きに見合わない給与 +気軽に話せる上司 -えこひいきする管理者 +働きに見合った給与 -誠実で倫理的でない経営陣 +能力開発の機会 -能力開発の機会がない +楽しく働ける会社 -明るい将来展望がない また、 「働きがい」を感じていない若手企業人の「働きがい」を左右する主要因としては、 次の5項目が特に重要である。 「働きがい」プラス要因 「働きがい」マイナス要因 +気軽に話せる上司 -働きに見合わない給与 +責任ある仕事 -明るい将来展望がない +能力開発の機会 -能力開発の機会がない +楽しく働ける会社 -気軽に話せる上司 +働きに見合った給与 -仕事に対する誇り 26 これらに共通する重要な要因は次の8項目である。 「働きがい」重要要因 責任ある仕事 気軽に話せる上司 働きに見合う給与 能力開発の機会 楽しく働ける会社 誠実で倫理的な経営 明るい将来展望 仕事に対する誇り (注)今回は独自の「働きがいのある会社」モデルに基づいて、30 代以下の若手企業人のみを 対象に調査した。 少し補足すれば、「責任ある仕事」や「気軽に話せる上司」の背景には、会社や上司 と本人の相互信頼関係があるだろう。つまり、自己に対する会社や上司の信頼・信用と、 誠実で倫理的な経営に対する本人の信頼である。 「働きに見合った給与」についても、単に高い金銭的報酬を求めているというより、働 きに見合った公正な評価や処遇を望んでいると理解できる。そのためにも、公正で信頼 できる経営と上司との信頼関係が重要と考えられる。 また、「能力開発の機会」は、将来の夢や希望に向かって「成長している実感」を 求めている裏返しの側面もあるであろう。「楽しく働ける会社」とは、決して仕事が楽 な会社ではなく、仕事が面白くてやりがいがあり、しかも人間関係が良くて連帯感があ る会社ということであろう。 27 第4章 若手企業人の「働きがい」向上策(提言) 1.基本的視点 今回の調査結果により抽出された、影響を与える主要因を捉えるならば、次の4つの基 本的視点に立って、若手企業人の「働きがい」向上策を行う必要がある。 (1)信頼できる経営 経営陣は「誠実で倫理的に事業遂行」を行うことが基本的に重要であり、そのように していることをもっとわかりやすく社員に示す必要がある。 (2)上司との信頼関係づくり 上司と若手企業人の間の良好なコミュニケーションを図り、身近な上司が、本人を信 頼し「責任ある仕事」を任せ、心の対話・交流によって「気軽に話せる上司」 「えこひい きのない上司」になる必要がある。 (3)若手企業人の能力開発支援と挑戦機会の創出 本人が仕事や職場の関係を通じて、自らの「能力開発」行うと共に、より高次の取り 組みに挑戦できる機会を提供していくことが必要である。 (4)「働きがい」の環境整備 これらのほか、 「働きがい」を感じられるようにするためには、企業を超えた社会的な 環境整備や企業の基礎的な取り組みも必要である。 28 2.具体的方策 (1)信頼できる経営 ①提案:経営倫理にもとづく信頼の経営 主旨:経営倫理を基本とした信頼(信用、尊敬、公正)の経営は、企業人の「働きがい」 向上策の基盤であり、前提とも言える。今回の「働きがい」調査でも、 「経営陣は 誠実で倫理的に事業遂行している」という「信用」に関する質問に対して「自分 の会社に当てはまる」とした回答が全体の 2 割しかなかった。この結果は社員の 「働きがい」を阻害する要因になりかねない。 概要:昨今、企業不祥事に関する事件が多発する中で、企業で働く人々が、 「自分の在籍 している企業の社員でいられることを誇れる」ことにより、 「働きがい」を高めて いくためには、経営者は事業活動において、単なる利益追求を求めるだけでなく、 法令遵守、社会規範に則した事業活動の実現に向けて努めていかなければならな い。また、誠実で透明度の高い事業遂行についてわかりやすく社員に伝える必要 がある。 ②提案:社員を大切にする日本的経営精神の復権 主旨:もともと日本企業は「社員共同体」と言われるように、何より社員を大切にして きたはずである。少なくとも 80 年代までは長期雇用を前提として、会社の発展 と社員個人の成長や「働きがい」は渾然一体としていた。 この「働きがい」を持った多くの企業人こそが、日本企業の発展を支え、世界 に冠たる技術力や製品を生み出し、国際競争力を高めてきたのである。社員を 大切にするこの日本的経営の良さや強みを今一度、社員の「働きがい」の視点 でとらえ直してみることは十分価値がある。企業経営にとって社員の「働きが い」は競争力の源泉につながる。まさに「企業の活力源は企業人の活力」であ り、企業人の活力の根幹に「働きがい」がある。 概要:社員は株主・取引先などと同様に重要なステークホルダーであるとともに、会 社運営にとって致命的に重要な財産とする考えに立ち戻る必要がある。特に若 手企業人は将来の会社の発展を担うものとして、会社をあげて大切に育てる精 神風土を再構築する必要がある。 29 事例紹介:外資系投資銀行の人材開発の公式に沿ったマネジメント 当社は外資系企業であり、年功序列制度はとっていない。 組織はピラミッド型であるが人間関係はフラットであり、だれでもトップに直接 ものが言える。 社内コミュニケーションを重視して、これまで基本的に 2 年に 1 回、 従業員意識調査を実施してきている。その結果、満足度と業績には相関があると 感じている。 調査項目の内訳は、①総体的満足度、②リーダーシップ(直属の上司、トップ マネジメント) 、③業務執行における社風(全体の利益へのコミットメント、顧 客と市場を重視した業務執行、高い期待と水準の設定、社員の成長と機会の提供、 多様性と包容性、創造性と革新性、チームワークと協調、率直でオープンな組織、 誠実さと良識)などである。 当社は 2002 年に大幅人員削減をしたが、業績が向上した後の調査結果では、 総合的に判断して満足度は向上しており、とくに「当社で働く事への誇り」が 大きく向上した。 一方上司に対する満足度は業績との関連性は低く、業績改善前、後にも共通 して問題点として残った。 当社においては、人材開発の公式として「意識と容認」が 50%、「気力と動機 付け」が 25%、 「技術・技能の習得」が 25%と考えている。 また、リーダーシップ開発のイニシアティブの焦点は「意識」と「動機付け」 にあり、人材成長の鍵は、得られるフィードバックの質と量による。 さらに本当の技術はオン・ザ・ジョブで得られると考えている。 同じく当社の人事開発モデルでは「何が成長を促すか」を、①経験したことの ない何かに関与する、②成功からも失敗からも学ぶ可能性、③実績が真の違いを もたらす、④未知の、異なった人達との作業に参加する、⑤著しく多様で変化に 富んだ事や人との関与、⑥大きなプレッシャーを受ける、⑦身近で見守られている、 ⑧ゼロから何かを作り上げる、⑨大きな知的挑戦への関与、⑩尊敬 できる上司との交流をあげている。 30 海外事例:社員尊重とコミュニケーションの徹底 Great Place to Work Institute が行った、どのような会社が働きがいのある 会社かについての膨大な取材ワークの結果を整理したものであって、仮説検証型 の調査結果ではない。その後 20 年ほど検証作業を続けてきており、調査対象者は 今年だけでも 100 万人以上に上っている。アメリカでは、数年前に『フォーチュ ン』で発表している「働きがいのある会社」100 社の業績や株価がよいことが発 見、報道され、一気に有名になった。 この「働きがいのある会社」で印象深い事例を挙げると、SAS インスティテュ ートがある。非上場では世界最大のソフト会社である。同社の経営理念は「会社 の資産=知的資産=人的資産」ということで、従業員は実に生き生きと働いてい る。経営トップは社員が仕事をしやすいようにするのが仕事であると言い切る。 また、社員を尊重すれば社員もそれに応えるとのことである。給与水準は高いと は言えないが福利厚生水準は高い会社である。 また、フェデックス社も大事にしている価値観として、①People、②Service、 ③Innovation、④Integrity、⑤Responsibility、⑥Loyalty などを上げており、 人に関する要素が多いのが特徴と言える。 その他、少し古い情報だが、イギリスのダイソン社などはコミュニケーション の徹底さが働きがいを向上させている (2)上司との信頼関係づくり 若手社員の「働きがい」を高める上で、 「コミュニケーション」は必要不可欠なものであり、 社内コミュニケーションの希薄化が叫ばれる中において、上司は、部下と心の通い合う「直 接的な対話と交流」を大切にしていかなければならない。 ①提案:組織の小集団化 主旨:メンバーの専門性を高めると共に、情報の流れ、意思決定を円滑に行うため、組 織のフラット化が行われてきたが、これにより、1人のチームリーダーが多くの メンバーを対象にすることになり、若手マネジメントリーダーに過大な負担がか かり、リーダーとメンバーの絆が薄らいだり、十分なマネジメントができない状 態も見られる。すなわち、コミュニケーションが不十分となり、OJTも適切に 31 行われず、チームワークも悪くなったりしている。 このため、若手マネジメントを活性化することにより、職場力の向上を図る必 要がある。すなわち、チームリーダーの負担を軽減し、これにより、先輩・後輩 間の絆を強くし、連帯感・役立感を強化すると共に、チームリーダーがマネジメ ントに注力できるよう図り、併せて、チームリーダーの候補者(ポストチームリ ーダー)の育成にもつながり、上司(マネジメント)との信頼回復が期待できる。 概要:フラットな組織を小グループごとに小集団化し、小集団リーダーが少数のメンバ ーを監督・指導する体制に変更することを検討する。これにより、小集団ごとに 職場の先輩たるリーダーが仕事の内容や動機付け、本人の役割を含め、きめ細か く指導・助言することができ、メンバーたる後輩の日常業務のアドバイザーとし て、機能することが期待できる。 <フラット> グループリーダー ○メンバーの専門性向上 ○意思決定の迅速化 △OJT △コミュニケーション メンバー △チームワーク △グループリーダーのマネジメント <小集団化> 小集団リーダーの明確化 任命・動機付け・役割<職場先輩(日常業務のアドバイザー)> ②提案:「若手、中堅社員キャリア開発面談」の実施 主旨:各企業において、入社時以外は各社の個別事情により若手社員のフォロー アップ方法は様々であるが、一般的に自らの殻を破ってゆくことに対し躊 躇してしまう(恐れる)世代の一人一人に対し、企業組織が真剣に向かい 合い、個人の存在価値を相互に認知し、共有することにより、実体のない 不安感、焦燥感からの脱出を支援する。 32 概要:1.入社後 3 年、10 年の節目を迎える社員に対し、入社以降の自分を振り返り 将来の人生設計と、組織、社会等に対する計画を話し合い、 「思い」を確認 するとともに、組織としてそれを支援してゆく。(1次は上司面談、2次は 人事部面談) 2.節目の面談以外に人事組織とはオフラインのキャリア支援機能を設置し、 個別相談対応を行う。 *高残業者に対する、肉体的、精神的なダメージを予防する意味での産業医 による面談は義務図けられているが、それはむしろ対処療法であり、特に 若手社員に対する活力を向上させることにはつながらない。個人と組織(企 業)が継続的に相互に密なコミュニケーションを意識し、 「個人の存在価値」 を認め、活用することが、結果としての企業活力に大きな影響を及ぼすこ とになると考える。 ③提案:責任ある仕事を与え、気軽に話せる「働きがいリーダー」の育成 主旨:「働きがい」を高める主要因を的確にマネ-ジできる支援型上司モデルを「働き がいリーダー」(面白リーダー)と呼び、社内で計画的に育成する。若手企業人 が現場で日常接するのは、直属の上司である部課長である。今回の調査結果でも、 「働きがい」を大きく左右する「責任ある仕事」や「気軽に話せる上司」などを 求める若手企業人の声は大きい。8つの「働きがい」重要要因を重視して、責任 ある仕事を与え、気軽に話せる支援型の「働きがいリーダー」を早急に育て、現 場に配置する。このリーダーの下で若手は順調に成長する。 概要:「働きがいリーダー育成研修」を継続開催する。研修では、「働きがい」につい ての理解を深め、「働きがい」調査結果に基づいて職場の「働きがい」の現状(強 み、弱み)と原因分析、働きがいを高める方策を各自考えグループで議論して行 動計画をつくる。「働きがいのある会社」にするための社内推進役や「キャリア リーダー」としての期待も大きい。 33 事例紹介:富士ゼロックスの「Change Management Program」 当社富士ゼロックスは日経新聞の「働きやすい会社」の第 6 位に入っており、 働きやすさの面で、そこそこのポジションにいると思われる。当社では会社が 目指すものとして「ミッションステートメント」3 項目を、社員が大事にする こととして「シェアードバリュー」10 項目を決めている。 また、 「よい会社構想」 (経営ポリシー)として、 「おもしろい」人間性(面白 い仕事。創造性のある社員)、 「強い」経済性(株主・お客様への貢献)、 「やさ しい」社会性(環境にやさしい。地域社会や国際社会に対して貢献)の好サイ クルを構想している。 当社では今年 10 月に、人事制度を大きく変更し、給与は役割給に一本化した (基本給なし) 。その他にもドラスティックな革新を数年かけて実施してきて いる。 当社では、人材関連の問題意識を①年代と組織構成、②変革とマネジメント、 ③グループを支える経営者と機能、④グローバルの 4 象限で把握しているが、 中でも問題が大きいのは①の年代と組織構成であると認識している。 当社では 20 年以上前から従業員のモラルサーベイを実施してきているが、モラ ルは 20 歳代後半から 30 歳代に下がり、40 歳代から再び向上する傾向が続いてい る。 人材面での主な戦略施策は、①自律的成長、②マネジメント(人と風土)刷新、 ③グループガバナンスの深化、④グローバル組織能力の向上などであるが、一部 は調整中である。中でも、ミドル・マネージャーについては、その活力が企業力 で あ る と の 認 識 の も と 、 そ の 変 革 に 取 り 組 ん で お り 、 そ の た め の 「 Change Management Program」を 2004 年 7 月から実施中である。対象は部下持ちマネジ ャー(課長層)1,500 名で、ねらいは経営改革の実現に向けて、マネジメントのあ りようを変革することにある。 実施後の参加者の満足度については、ワークショップ直後のアンケートで把握 しており、マネジメント研修としては非常に高い満足度を得ていると認識してい るほか、①すべての調査項目において、参加前と参加後で改善が見られた、②「目 標の共有」 「部下への業務支援」の項目に顕著な改善が見られた、③特に上司から、 行動変容が多く観察されているなど、周囲からの評価でも高い効果が認められて いる。 34 (3)若手企業人の能力開発支援と挑戦機会の創出 ①提案:マネジメントポジションの流動化促進 主旨:若手社員の働きがい減退の原因の一つは、マネジメント職の閉塞感にある。 マネジメントポジションの若返りを図り、マネジメントを目指す意欲を高める。 これは「働きがい」要因である「責任ある仕事」の付与につながる。 概要:人事権限をより現場に移し、熟年社員の評価基準に若手育成義務を明確にする。 熟年社員には、優秀な若い部下を育て、自分の職責をスムースに委譲する事が最 終的に高い評価を得られるという意識を持たせる。 そのためには、マネジメント研修等で、若手育成の重要性、権限委譲の必要性 を教育する。一方、熟年社員に時間的自由と報酬のバランスが取れた働き方の選 択肢を与える。 ②提案:昇進の節目ごとの必要な能力の明示(キャリアコンピレンシーマネジメント) 主旨:意欲と具体的目標をもって自らの能力開発に努力できるようにすることによって、 効果的な能力開発への取り組みを推進する。 概要:入社後のキャリア目標を具体的な行動特性(コンピテンシー)まで落とし込み、 節目ごとの到達目標を明確にしながら本人の能力開発を支援して、きめ細かく育 成していく。 ③提案:「斜めの支援」 主旨:直属上司のタテ関係ではなく、「斜めの支援関係」も必要である。上司一人では 過大な負担や限界があり、若手企業人の指導や面倒は十分見きれない。 概要:同じ職場の先輩社員に相談役(メンター)をしてもらう他、直属ではない違う部 署の第三者が相談役(斜めの支援関係)を務める。このほうがホンネを言い出しや すいメリットもある。 ④提案:CDGMの導入(Joy of Work) 主旨:個々の構成員の能力や創造力を最大限に発展させることによって組織全体の目的 35 をより効率的に達成し、組織体の競争力をつけようとする経営手法を用いて、若 手企業人が主体的に・解決に取組むよう推進する。 概要:小グループで主体的に仕事上の議題について考え、解決方法を編み出し実行する CDGM(Creative Dynamic Group Method)を行うことにより、仕事のやりがい (Joy Of Work)を高め、仕事を通じて、自己実現させていくよう若手企業人を育 成していく。 (4)「働きがい」の環境整備 「働きがい」を向上策させるためには、 「働きがい」以前の、社会人や組織人としての規 律や作法、あるいは人生観や仕事観が重要である。これらは、家庭や学校をはじめ日本 社会の中で醸成されるものである。企業において「働きがい」向上策をを進めるために は、社会における環境整備を行うと共に、企業においても情報の整備を行うことも必要 である。 ①提案:家庭や地域・学校における「人間教育」の推進 主旨:上司を含めた他者との関係が「働きがい」に大きく影響すること。また、組織内 で他者と仕事を行う上で、わきまえていなければならない自己規律のありようが、 他者との関係、ひいては「働きがい」に影響することから、社会において、人間 としてなすべきこと、してはならないことなど、いわば、 「人間学」について、学 んでおくことが重要である。 概要:周囲の人との協働・連携の大切さや、社会におけるルール・秩序に沿った行動は、 一朝一夕で身につくものではなく、日頃の様々な教育の中で徐々に身につけてい くことが重要である。家庭・地域・学校など社会全体で「人間教育」を推進して いくことが必要である。 ②提案:Personal Weak-Ties(パーソナル ウィークタイズ) 主旨:仕事(労働)の活力の源を、個人の向上心にのみ求めるのではなく、社外や生活 地域、地元地域、サークル活動など、ゆるやかなつながりを持つ他者との連携の なかで、相互のコミュニケーションや情報交換、相互啓発、楽しみなどにも求め ることができるので、そのような取り組みを促進する。 36 企業人の観点から見た、他者とのパーソナルウィークタイズ(ゆるやかなつなが り)は社外で作られる。実際、離職をしなかったり、企業や組織で力を発揮する 若手の多くは、社外での活動や社外の人脈を多く持ち、その場から得たコミュニ ケーション力や情報を仕事に活かしたり、普段はあまり接することのない他者に 啓発され、仕事に力を発揮しやすい。 一方、 “なんとなく”離職をしたり、働くことで悩んだ場合に落ち込みやすい若者 は、個人的なことを相談し難い同一企業(組織)内のみの人間関係しか持たなか ったり、社会的にも孤立傾向が強い。 仕事の活力は普段の生活から発せられるものであり、仕事以外の生活基盤が整っ ていない、楽しみがないような若者が、企業人として「働きがい」を向上させる ことは難しい。さらに言えば、向上心を持って働く理由、それを語る人間関係を 持たないケースでは、働くことに向上心を持つことは難しいと考えられる。 概要:社外の活動を通じて若手企業人の活力を向上させるために以下のことを提案する。 ①広い意味での社会とのつながりを作る活動に対する経済的支援/時間的支援 ②社会とのコミュニケーションやつながりを作る活動に対する評価制度の導入 ③企業外活動によって得られた“何か”に対する評価制度の導入 このとき、 「ボランティア活動」や「異業種交流会」と言った、言葉でイメージが 作られやすく、かつ、その言葉(活動)に対して若者の好き嫌いがはっきりする ような活動に対象を限定しないことが重要である。 ③提案:就職・キャリア指導のあり方の改善(仕事観と仕事スキルの確立) 主旨:現在の在学中の就職・キャリア指導は不十分ではないか。若手企業人の「働きが い」を高めるには、その前提として在学中に「将来、どんな仕事をしたいのか」 という仕事観を確立しておく必要がある。外見上の人気企業ではなく、しっかり とした自分の職業観に基づいて就職先企業を選択することが必要である。ま「社 会人基礎力」 、特に対話力を高めておくことも、企業で「働きがい」を感じるには 重要である。 概要:学校における就職・キャリア教育を抜本的に改善する必要がある。具体的には, 例えば次のような改善策が考えられる。 ①就職間際の「就職セミナー」ではなく、1 年次から将来の職業を考える ための「学内キャリア講座」を開設して単位認定する。 ②実業界で活躍している企業人や職人プロをゲストとして招き、仕事の面白さと 厳しさの体験談を語ってもらい働くことの意義や喜びについて対話・交流する。 ③あわせて「社会人基礎力」、特に人間関係や対話力向上のためのスキルトレー 37 ニングも講座の中に組み込む。 ④提案:「働きがい」調査の定期実施とフォロー 主旨:現在、各企業で実施されている「社員満足度調査」を「働きがい度」調査に衣 替えして実施する。社内の「働きがい」に対する関心と感度を上げ、名実共に 「働きがいのある会社」を目指す。 概要:具体的には、主として「働きやすさ」を尺度にしている従来の「社員満足度調 査」を「働きがい」の視点を採り入れて質問項目を見直し、定期的に組織診断 する。具体的項目としては、 「働きがい」要素であるマネジメント(会社・上司) への信頼、会社への誇りと仕事のやりがい、チームワークや連帯感・帰属意識、 顧客や社会への貢献実感、将来の夢・希望への見通し・成長実感などの要素を 取り入れる。 調査結果から自社の強み、弱みを分析し、各社に合った「働きがい」向上策 を早急に実行する。調査結果は積極的に活用してこそ意味がある。 ⑤提案:企業の人材投資への税制支援 主旨:企業の人材育成について、税制支援により、企業の人材投資と競争力向上の自律 的な好循環を生み出す。 概要:団塊の世代の大量退職に伴う技能継承問題、技術サイクルの短期化に伴うOJT の困難化、非正規社員の増加に伴う研修の多様化、女性や高齢者等参加の職場の ダイバーシティ化に伴う管理者研修の必要性等、企業の人材育成への重要性は高 まっている。他方、人材の流動化は進む中、企業の人材投資は、公共財的な性格 を持つものとなりつつある。そのため、平成19年度末に期限切れを迎える企業 の人材投資に対する税制控除制度についてより利用しやすくするとともに内容を 拡充し、延長を行うことが望まれる。 38 第5章 おわりに 日本にとっての「働きがい」元年 ~「働きやすい会社」から「働きがいのある」会社へ 本研究会では「働きがい」が企業人の活力の根幹をなすものとして、様々な角度から検討 してきた。現在の日本企業の中で「働きやすい会社」は少なくないが、名実ともに「働きが いのある会社」はまだ少数かもしれない。 (別図参照) 「働きがい」は社員の意欲(モチベーション)や満足度とともに最近になってようやく日 本でも注目され出している。日本企業でも「働きがいのある会社」が企業競争力を高める新 しい指標として関心が高まっている。 しかし、日本では本格的な「働きがい」研究はまだ始まったばかりである。 今回、若手企業人の「働きがい」向上策を提案した。当面、 「働きがいのある会社」を目指 す様々な試行錯誤が企業内外でなされるであろう。今年を「働きがい」元年として、今回の 「働きがい」調査と私たちの提言が、特に若手企業人の「働きがい」を高めることに少しで もお役に立てば幸いである。 以 「働きやすい会社」から「働きがいのある会社」へ <会社4分類> 働きたい会社 働きがいのある会社 (志望する会社) (好きな会社) やる気度( 意欲) (素晴らしい会社) (誇りの持てる会社) (信頼できる会社) 働きにくい会社 働きやすい会社 (働かされている会社) (嫌いな会社) (いい会社) (働く環境や処遇のいい会社) (社員満足度の高い会社) 満足度(環境) 39 上 平成 18 年度 次世代人材育成研究会 委員名簿 敬称略 五十音順 <委員長> 小林 いずみ メリルリンチ日本証券㈱ 代表取締役社長 <顧 問> 加藤 丈夫 富士電機ホールディングス㈱ 相談役 高橋 首都大学東京 理事長 松崎 昭雄 森永製菓㈱ 相談役 吉田 耕作 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授 荻野 ㈱日本レストランエンタプライズ 代表取締役社長 加藤 真 富士通㈱ Fujitsuユニバーシティ所長代理 川本 裕康 ㈳日本経済団体連合会 労政第一本部長 北原 正敏 法政大学大学院 政策科学研究科 教授 小早川伊和夫 富士フィルムホールディングス㈱ 人事部担当部長 斎藤 智文 Great Place to Work Institute チーフ・プロデューサー 佐藤 ㈱コンセプトワークショップ コンセプトデザイナー 中澤 二朗 新日鉄ソリューションズ㈱ 人事部部長 中島 哲 トヨタ自動車㈱ 東京総務部 人事室長 根本 英明 自在㈱ 代表取締役 早坂 礼子 産経新聞 東京本社 編集局 編集委員 古田 英明 縄文アソシエイツ㈱ 代表取締役 前原 金一 昭和女子大学 副理事長 山中 旭化成不動産㈱ 代表取締役社長 湯川 雅弘 産業能率大学 経営開発本部 講師 工藤 NPO 法人「育て上げ」ネット 理事長 二神 能基 NPO法人ニュースタート事務局 代表 宮城 治男 NPO 法人エティック 代表理事 宮本 聡 キヤノン㈱ 企画本部 政策・経済調査部部長 石川 厚生労働省労働政策参事官室 室長補佐 守本 憲弘 経済産業省経済産業政策局 参事官 土居 征夫 ㈶企業活力研究所 理事長 沖 ㈶企業活力研究所 専務理事 星埜 由和 ㈶企業活力研究所 常務理事 事務局長 渕野 康一 ㈱東レ経営研究所 取締役 人材開発部門担当 古宮 達彦 ㈱東レ経営研究所 特別研究員 原 正紀 ジョブカフェサポートセンター 代表 勝岡 寛次 明星大学戦後教育史研究センター 教授 山本 潤一 (有)光海カンパニー 代表取締役 <委 員> <オブザーバー> <事務局> <講 師> 宏 洋 修 塁 啓 悟 茂 40 41
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