最近、農業用水路を活用して水力発電を行なおうという 動きが活発になっている。水力発電は、水の持つエネルギ ーを電気エネルギーに変換するもので、発電出力は、流量 と落差から次の式で計算される。 157万円分が賄える計算となるが、総工費約3,000万円 を賄って利益を生むのは20年後となる。 黒磯市の例はまだコストが低い方だ。08年4月に富山県 企業局がNEDOの補助金を受けて建設を始めた県営の発電 所は農業用水を使った「小水力発電」で、立山町の常東用 発電出力(kW)=9.8×落差(m)×流量(K/秒)×効率 水土地改良区が管理する水路では24mの落差を利用し、年 間供給電力量350万kWhを見込んでいる。だが、事業費も 例えば、有効落差が2m、流量が2.5K/秒の用水で発電 効率を0.7とすると、約34kWの発電が可能となる。この 8億7,500万円と高く、利益を生むのは42年後という計 算だ。 出力の大きさがおおよそ2,000kW以下の水力発電を「小 このような中で、マイクロ水力発電、しかも落差の低い 水力発電」 、中でも100kW以下を「マイクロ水力発電」と 農業用水の発電に向く「らせん水車」が注目されている。 呼んでいる。 らせん水車は、鉄や木の軸の周りに鉄板をらせん状に張り 農水省では、これまでもかんがい排水事業や農村振興総 合わせて造った水車で、富山県内で1920年頃に発明され、 合整備事業の中で水利施設や公共施設向けの発電施設に補 ピーク時には全国で2万台程度が利用されていたという。 助を設けてきたが、今年4月1日から経済産業省が石油の 富山県立大学自然エネルギー農業利用研究会では、低落差、 代替エネルギー導入を促進する「新エネルギー利用法」の 低流量でいかに効率良く水車を回転させるかをテーマに研 対象に水力発電を地熱発電とともに追加したことで、発電 究を進め、08年度中には発電機も含めて100万円以内で に携わる事業者が(独)新エネルギー・産業技術総合開発機 購入できる発電システムを開発する予定。現段階の実験で 構(NEDO)などから金融面での支援措置を受けられるよ はまだ数百wの出力だが、目標は落差1m、0.2K/秒の農 うになった。 業用水で80%の効率、1.6kWの出力だ。これは1カ月に とはいえ、これまで「小水力発電」はコストが高く現実 に普及はなかなか……という捉えられ方が普通だった。 例えば、2004年に栃木県黒磯市の那須野ヶ原土地改良 換算すると1,152kWhで、一般家庭3〜4軒分の消費電力 を賄える量となる。 このような分散型の自然エネルギー利用の重要性は、 区に電源開発が手掛けて設置された水力発電では、落差 80年代後半から工学関係や経済関係の研究者が提唱して 2m、最大使用水量(流量)2.4K/秒の農業用水路から直 きたが、いよいよ実用段階間近になってきた。あと数年も 接取水し、30kWの水車を設置した。これを年間発電電力 すれば、ビニールハウスで暖房用として重油を焚く代わり 量(kwh)に換算すると、100%稼働したとして、30kW× に、マイクロ水力で発電した電気を使用することが現実に 24時間×365日=26万2,800kWhである。農事用電力 期待できる。実験の進捗に注目したい。 の購買単価6円/kWh分を自己消費したとすると、年間約 33 農業経営者 2008年 6月号 (松田恭子)
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