技術用語 システムデザイン及び計算例 ここでは1つのシステムをデザインする手順を段階別に追っていきます。理論から実践への移行を明確に説明するため、典型的 なアプリケーションのシステムデザインを行います。 排気時間の計算 真空スイッチの選択 ソレノイドバルブの選択 真空発生器の選択 真空マニホールドの選択 真空ホースの選択 真空パッド用アクセサリの選択 真空パッドの選択 力の計算 この例は次のデータに基づいて計算が行われます。 ワークの定義 材質: 表面: スチールシート 滑らか、フラット、ドライ 寸法: 長さ: 最大2,500mm 幅 : 最大1,250mm 厚さ: 最大2.5mm 質量: 最大60kg 使用する ハンドリングシステム 圧縮エア 電圧 作動 最大加速度 サイクルタイム 計画タイム ポータルトランスファーユニット 0.8 MPa 24VDC 水平移動、ワークは水平 X, Y軸:5m/s2 Z軸 :5m/s2 30s ピックアップ < 1s リリース < 1s ホース配線デザインの手引き 例:D = 32のホースは内径 6mmのホース32本または内 ホースの流動抵抗 D= 32 mm D x 0.71 径16mmのホース4本と同じ 流動抵抗を有します。 9 技術情報 索引 D x 0.5 D x 0.35 D x 0.25 D x 0.18 167 技術用語 システムデザイン及び計算例 ワークの重さを測定するには? ケースⅡ: 水平に置かれ、水平に移動させるワークに真空パ 様々な計算を行うためには、取り扱うワークの質量mを知るこ とが必要です。ワークの質量は下記の計算式で算出します。 ッドをのせる。 真空パッド:水平、力:水平(水平̶水平) FTH 質量 m[kg] m L W H = = = = L×W×H×p 長さ[m] 幅 [m] 高さ(厚さ) [m] ρ = 密度[kg/m3] 例: m = 2.5×1.25×0.0025×7850 m = 61.33 kg 真空パッドはどの程度の力に耐えるか? 真空パッドの保持力を確定するには、上記で算出したワークの 質量に加え、真空パッドが加速力に耐えることが必須条件であ り、これらはフルオートメーションのハンドリングシステムで は決して無視できないものです。ここでは、計算を簡単にする ため、最も重要で最もよく使用されるケースを3つ例に挙げて 図解説明します。 Fa FG FTH = m×(g + a/μ)×S FTH = 理論保持力[N] m = 質量[kg] g = 重力による加速度[9.81m/s2] a = ハンドリングシステムの加速度[m/s2] (緊急時のワークリリースに注意) μ = 摩擦係数 = 0.1:油の付着した表面 = 0.2∼0.3:湿気を帯びた表面 = 0.5:木材、金属、ガラス、石材等 = 0.6:粗い表面 重 要: ケースⅠ: 下記図解Ⅰ・Ⅱ・Ⅲでは、必ず理論上の最大保持 力を用いた最も厳しいケースに基づいて計算 を行ってください。 水平に置かれ、垂直に持ち上げるワークに真空 パッドをのせる。 真空パッド: 水平、力:垂直(水平̶垂直) FTH 注: ここで示す摩擦係数は平均値ですので、実際は各ワーク の場合で値を決定してください。 S = 安全率(最低1.5。ワークが危険物、平らでないもの、通 気性のあるもの或いは表面が粗いものについては2.0以 上。 ) 例: F TH = 61.33×(9.81+ 5/0.5)×1.5 FTH = 1822 N ケースⅢ: 垂直に置かれ、垂直に移動させるワークに真空パ ッドを使用。 真空パッド:垂直、力:垂直(垂直̶垂直) FTH FG FTH = m×(g + a)×S 9 FTH = 理論保持力[N] m = 質量[kg] g = 重力による加速度[9.81m/s2] a = ハンドリングシステムの加速度[m/s2] 技術情報 索引 (緊急時のワークリリースに注意) S = 安全率(最低1.5。ワークが危険物、平らでないもの、 通気性のあるもの或いは表面が粗いものについては 2.0以上。 ) 例: FTH = 61.33×(9.81 + 5)×1.5 FTH = 1363 N 168 FTH FTH =(m/μ)×(g + a)×S FTH = 理論保持力[N] m = 質量[kg] g = 重力による加速度[9.81m/s2] 技術用語 システムデザイン及び計算例 a = ハンドリングシステムの加速度[m/s2] (緊急時のワークリリースに注意) μ = 摩擦係数 = 0.1:油の付着した表面 = 0.2∼0.3:湿気を帯びた表面 = 0.5:木材、金属、ガラス、石材等 = 0.6:粗い表面 S = 安全率(最低2.0。ワークが危険物、平らでないもの、通気 性のあるもの或いは表面が粗いものについては2.0以上。) 例: FTH =(61.33/0.5)×(9.81 + 5)×2 FTH = 3633 N スチールシートは水平状態でのみ取り扱われるので、この例の 吸着力Fs[N]の算出 FS = FTH/n FS = 吸着力 FTH = 理論保持力 n = 真空パッドの個数 例:中形(2,500×1,250mm) スチールシートには通常6 ∼8個の真空パッドが使用されます。この例で真空パッド の数を決める最も重要な基準は、搬送時にスチールシート が曲がらないことです。 FS = 1363/6 FS = 227N 真空パッドQN/Qの「テクニカ 中でケースⅢは無視できます。 ルデータ」 (セクション2参照) では吸着力260N/個のNBR製 真空パッドQN80を6個必要で あることを示しています。 比較:ケースⅠとⅡの結果を比較すると、ケースⅠでは最大値 F TH=1363Nです。この値は現在システムコンポーネントの 選定に使用されています。 真空パッドの選択 真空パッドは通常次の方 法に基づいて選択さ れます。 アプリケーション:真空 パッドの選択にあたって 重要となるのは、シング ルシフト/マルティプル シフト作動、推定寿命、 化学的活性環境、温度等 の使用条件です。 FS = 1363/8 FS = 170N 真空パッドQN/Qの「テクニカ ルデータ」 (セクション2参照) では吸着力260N/個のNBR製 真空パッドQN80を8個必要で あることを示しています。 この例では、NBR製真空パッドQN80 6個の方が低コストで 十分対応できるので、こちらを選択します。 重要:セクション2の「テクニカルデータ」で各タイプの真空 パッドの搬送能力を確認してください。 重要:真空パッドの搬送能力は計算値よりも高くなけ ればなりません。 材質:必要に応じて様々な真空パッド材質が選べます。パッド 真空パッド用アクセサリの選択 材質は、例えば滑らかな表面、粗い表面、油の付着したワーク、 通常、真空パッドのマウンティングについてはお客様 損傷しやすいワーク、電子コンポーネント(静電気防止) 、高 温ガラスコンポーネント(フェルトコーティング加工)等に特 に適しています。144∼145ページの表を参照に各ワークに 最適の真空パッドを選択できます。 のご要望に応じて取り決めますが、特別なアクセサリ タイプが必要不可欠となる場合もあります。 平らでないワーク表面:真空パッドを傾斜面に吸着さ せる→ボールジョイントを使用 表面:ワークの表面仕上げによって、フラットタイプやベロー ズタイプなど様々な形状の真空パッドが選べます。特殊なシー ルリップ・シーリングエッジの真空パッドも各種形状・サイズ 高さ・厚さの違うワーク:真空パッドを様々な高さに合わせる →スプリングプランジャーを使用 を取り揃えています。 例:スチールシートはパレット上に積み重ねられている状態と します。これは、シートの端が下方にたわむ可能性があること を意味します。従って、真空パッドは様々な高さ・傾斜に対応 しなければなりません。 で最も低コストのソリューションです。このタイプに関するデ ータについてはセクション2の該当ページをご覧ください。 169 9 技術情報 索引 例:このアプリケーション例では、スチールシートを扱う場合 ニトリルゴム NBR製のフラット真空パッドQN/Qタイプを使 用します。これはフラットで滑らかなワークの取り扱いに最適 技術用語 システムデザイン及び計算例 従って、次の真空パッド用アクセサリを選びます。 真空発生器のタイプ及びサイズの選択 スプリングプランジャー パレット上のワークのたわみを補正 できる最大ストローク、1/4"ネジで FSTE1/4-75 選択した真空パッドQN/Qに接続 ストローク: 真空発生器のタイプ選択 使用する真空発生器(エジェクタ、ポンプ、ブロア)を選ぶに はいくつかのポイントがあります。 ボールジョイント フレックショリンク 最適な傾斜で真空パッドをシートの 傾斜面に合わせます FLK 1/4 - 1/4F: 注:真空パッド用アクセサリ選択時には、アクセサリを真空パ ッドにネジ接続できること、つまりパッドとアクセサリのネジ サイズが同じであることを確認してください。各種真空パッド 用アクセサリ及びテクニカルデータについてはセクション3を ご覧ください。 ・ ワークのタイプ:通気性または気密性 ・ 供給動力源:電気または圧縮エア ・ サイズまたは質量の制限 ・ サイクルタイムとの一致: 短いサイクルタイム:エジェクタ 搬送路が長い場合:ポンプ或いはブロア 下記の表は様々なアプリケーションに最適のソリューションと なる真空発生器を表しています 真空ホースの選択 ワーク材質 気密性 通気性 真空ホースの内径は使用す る真空パッドのサイズと一 致していなければなりませ ん。各真空パッドに適した ホース直径についてはセク ション2該当ページの「テ クニカルデータ」をご覧く ださい。 例:上記で述べた「テクニカルデータ」では、内径6mmの真 空ホースVSL 8/6が推奨されています。 (中間のシート用)ク ロスビームの長さを考えると、ホースの長さは1,500mm必 要です。 真空マニホールドの選択 ホース直径と真空パッドの個数によって使用する真空マニホー ルドが異なります。 エジェクタ ポンプ ブロア ○ ○ サイクルタイム 非常に 短い 短い (< 1 sec.) (< 1 sec.) ○ ○ ○ ○ 供給動力源 エア 電気 ○ 搬送路 短い 長い ○ ○ ○ (○)* ○ ○ *自動エアセーバー(SMP...RE/RD)付及び通気性の無いワークの場合のみ 例:ワークの材質が気密性なので、求められる最短ピックアッ プ・リリース時間を達成するにはエジェクタを使用して真 空圧を発生させます。 真空発生器のサイズ選択 下記の表は真空パッドの直径別の推奨吸込量を表しています。 この値は全てのタイプの真空発生器に当てはまります。 真空パッド径 0 ∼ 60 mm 61 ∼ 120 mm 121 ∼ 215 mm 216 ∼ 450 mm 吸込量 Vs 0.5 m3/h 1.0 m3/h 2.0 m3/h 4.0 m3/h 8 l/min 17 l/min 33 l/min 67 l/min 例:この例では次のコンポーネントを使用します。 注:推奨される吸込量は真空パッド1個あたりの値であり、ワ ーク表面が滑らかな気密性のものである場合に限ります。通気 性のあるワークについては真空発生器を選択する前に実際にテ ストを行うことを推奨します。 9 技術情報 索引 ・ホースVSL 8/6(内径6mm、1/8ネジ)用ホースノズル ST-1/8-6 ・マニホールドVTR6-1/8 (1/8ネジ、IN:6、OUT:1) ※ホースVSL8/6及びマニホールドVTRは本書に記載してい ません。 170 吸込量V[m3/h, L/min]の計算 V = n×Vs n = 真空パッドの個数 Vs =真空パッド1個あたりに必要な吸込量[m3/h, L/min] 技術用語 システムデザイン及び計算例 各真空発生器の吸込量についてはセクション4該当ページの 「テクニカルデータ」をご覧ください。 例:V = 6×16.6 V = 99.6 L/min 従って吸込量116L/minのコンパクトエジェクタSMP20を選 択します。 ソレノイドバルブの選択 真空回路を完成するには真空圧ON/OFF機能をもつソレノイド バルブが必要です。バルブは次の基準をもとに選択してくださ い。 ・真空発生器の吸込量 ・M5メネジ、M8オネジ又はフランジで真空接続 ・ケーブル又はM8プラグコネクタで電圧供給及び信号送信 各種スイッチ及びテクニカルデータについてはセクション6を ご覧ください。 例:切換ポイント及びヒステリシスの調 整が可能な真空スイッチVS-V-D-NPN (コンパクトエジェクタは既にこのスイッ チを内蔵)とゲージVAM63/1Uの選択 が適切です。 排気時間の計算 計算をすすめるには、まず総排気量VGを決定する必要がありま す。 ・制御電圧 ・ソレノイドバルブの機能(NO/NC) ソレノイドバルブの定格流量 は決して真空発生器の吸込量 を下回ることはありません。 ソレノイドバルブの余備サイ ズ計算[m3/h, L/min] VV = VVE VV =ソレノイドバルブの定格流量[m3/h, L/min] VVE =選択した真空発生器の吸込量[m3/h, L/min] 各バルブの定格流量についてはセクション5の「テクニカルデ ータ」をご覧ください。各真空発生器の吸込量についてはセク ション4該当ページの「テクニカルデータ」をご覧ください。 例:VV = 116 L/min = 7 m3/h ここでは定格流量7m3/h以上のソレノイドバルブが使用でき ます。 注:例ではソレノイドバルブ一体型のコンパクトエジェクタ SMP20を選択したので、別途ソレノイドバルブは不要です。 真空スイッチ及びゲージの選択 真空スイッチ及びゲージは通常、求められる機能と切換頻度を 満たすものを選択します。 次の機能を満たすことができます。 可能 ・デジタル/アナログ信号出力 ・LED表示 ・ディスプレイ V1 =真空パッド容積[m3] V2 =真空パッド用アクセサリ容積[m3] V3 =真空ホース容積[m3] V4 =マニホールド容積[m3] V5 =フィルター容積[m3] (オプション) V6 =ソレノイドバルブ容積[m3] (オプション) 例:VG = 6×32 + 6×9.5 + 6×43 + 1×38.5 VG = 546 cm3 = 0.000546 m3 排気時間t[h]の計算 t =(VG×In(Pa/Pe)×1.3)/V VG =排気量[m3] In =自然対数 Pa =初期の絶対圧[1,013hPa] Pe =最終絶対圧[hPa] V =真空発生器の吸込量[m3/h] 60 % = 400 hPa absolute 例: t =(0.000546×In(1,013/400)×1.3)/6.95 t = 0.000546×1.208/6.95 t = 0.0000949 h = 0.34 sec 計算結果では、シュマルツの真空コンポーネントを用いて1つ のシステムを低コストで構成できることが分かります。シュマ ルツの製品群には優れたデザインで信頼性の高いシステムを構 成するために必要な全てのコンポーネントが揃っています。必 要であれば排気時間を約0.02秒程度に抑えることもできます。 まとめ ■計算値の評価には注意してください。計算値で全てを決定で きるように思われますが、実際のテストは不可欠です。 ■全ての仕様データを必ず確認してください。 171 9 技術情報 索引 ・切換ポイントが調節可能 ・ヒステリシスが固定又は調節 VG = V1 + V2 + V3 + V4 + V5 +…
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