船舶運航システムの運用における海技者の役割と海 技

ローマ字表記
氏名 岩坂 直人
IWASAKA Naoto
連絡先:東京都越中島 2-1-6
東京海洋大学
越中島キャンパス
研
題
究
課
名
船舶運航システムの運用における海技者の役割と海
技者育成の研究
研
究
目
的
人、船、環境の 3 要素で構成される船舶運航システムは人間(海技者)が所定の役割を
果すことによってシステムの目的である安全運航を達成する。すなわち、海技者が存在し、
必要な機能の達成無くして、船舶の安全運航は考えられない。本課題研究の目的は船舶運
航システムを運用する海技者について、システム工学の観点から研究を行い、ヒューマン
ファクタ-としての海技者が発揮すべき技術を明確化すること。そして、海技者の持つ技
能を評価する方法を確立することにある。これにより、海技者の育成方法を確立するもの
である。
研
究
体
制
研究代表者名:海洋工学部長
岩坂直人
研究協力者名
プロジェクトリーダ:小林
石橋
弘明(応用環境システム学専攻
海洋利用システム学)
篤(海洋工学部
海事システム工学科)
内野明子(海洋工学部
海事システム工学科)
刑部真弘(海洋工学部
海洋電子機械工学科)
塚本達郎(海洋工学部
海洋電子機械工学科)
小嶋満夫(海洋工学部
海洋電子機械工学科)
堀木幸代(海洋工学部
海洋電子機械工学科)
研
究
概
要
本プロジェクトはプロジェクトリーダ小林弘明特任教授が行っている、船舶の安全運航を
達成するために必要となる海技者の機能に関する研究成果に基づき研究が進められてい
る。
航海系分野は IMO が 2010 年 6 月 STCW 条約改正によって強制化を決定したシミュレータを
用いたマネジメント訓練に関する教育訓練指針の検証を行った。改正 STCW 条約の内容につ
いて分析を行った結果、訓練対象技術及び評価方法の欠落事項を明らかにした。また、本
学部で運用されている訓練・評価システムは船舶運航のみならず、他のシステム運用者の
教育・訓練に対しても有効であることが確認された。さらに、航行環境の定量的な評価法
及び環境条件とヒューマンエラーの発生の関係について分析を行った。
機関系分野においては航海系分野の研究成果に基づき行動分析を行い、機関士が保有すべ
き海技技術の定義を行うと共に機関士を対象としたマネジメント訓練及び評価手法の検討
を行った。さらに、これらの基礎研究に基づき、「次世代型エンジンルーム リソースマネ
ジメント訓練のためのエンジンシミュレータ」(文部科学省施設整備費)の設計・開発を行
い、越中島キャンパス内に設置した。
研
究
状
況
航海系分野では、小林弘明特任教授が行っている海技技術に関する研究及び各種教育訓練
方法に関する研究成果を標準コースとして制定した。本年度は 2010 年 6 月 STCW 条約マニ
ラ改正によって国内外の海運会社及び教育訓練機関が重要視しているマネジメントに関す
る教育訓練、「BTM/BRM 教育訓練プログラム」について「標準コース」を開発し公表するこ
ととした。
機関系分野では航海科系の成果に基づき、船舶機関士の有すべき技術を体系的整理すると
ともに、ETM/ERM 教育・訓練を目的とした機関室シミュレータシステムを構築し、そのハー
ドウェアの中心となる機関室シミュレータとソフトウェアの中心となる教育・訓練のシナ
リオ・評価システムの検討を行った。
以下に航海系分野及び機関系分野の成果の概要を示す。
尚、両分野の研究成果は海外及び国内で開催された講演会において成果発表を行ってい
る。論文及び講演のリストを研究業績欄に示す。
1. BTM/BRM 標準コースの概要
1.1
BTM と BRM
「BRM (Bridge Resource Management)と BTM(Bridge Team Management)について、両
用語の定義は明確にはされていない。しかし、既に開催された海技に関わる国際会議
(International Marine Simulator Forum 及び International Conference on Maritime
Simulation and Ship Maneuverability)において、小林の研究成果に基き定義すること
が妥当であると確認されている。
「BTM と BRM における Management の目的は、共に、船橋における海技従事者の活動を高
め、船舶の安全運航を促進することである。BRM は人間と機器に代表される資源の有効
活用を促進することを目的とし、特に、人間資源の有効活用において組織されたチーム
のリーダが実施すべき管理機能を対象としている。しかし、安全運航の達成は、リーダ
のみの努力だけでは不十分であり、チームに所属する全ての人間による活動を高める必
要がある。リーダを含めチームに所属する全員の機能の向上が不可欠であり、これを達
成するための Management が BTM である。この両者の関係から、BTM のうち、リーダが達
成すべき機能は BRM に位置付けられる。そして、
リーダもチームの一員であることから、
チームの一員として実行すべき機能である BTM を達成する必要がある。
」
以上のことから、BTM はチームに所属する全ての人間が達成すべき機能であり、チー
ムのリーダは、特にリーダの達成すべき機能として BRM が要求されることとなる。従っ
て、BRM は BTM の一部であり、リーダにのみ要求される機能と位置付けられる。このコ
ースは、BTM と BRM の双方に関する全ての必要な技術の養成および向上を教育・訓練の
対象としている。また、本定義は機関室の活動についても適応されるものである。
1.2
教育訓練の目的
教育訓練の目的は、単一の海技従事者による航海当直では航行の安全を担保できない
輻輳する海域や狭水域内、悪天候下などの航行が困難な状況において、複数の海技従事
者で Bridge Team を組織して航海当直に当たる場合に、海技従事者が達成すべき必要な
技能の修得である。本コースを修了した者は、Bridge Team 活動の意義と必要技能を次
の通り修得することになる。
1) 複数の海技従事者により、安全な運航を共同して行うために必要な技能を修得す
る。
2) 複数の海技従事者が各々に分担された作業を確実に実行することの重要性を理解
し、実行する。
3) 複数の海技従事者が各自の行動について、共同して行動する協調性の必要性を理
解し、実行する。
4) 複数の海技従事者が共同して行動するために、各自に分担された作業の実行結果
を報告し、本船が置かれた状況に対する意識及び認識を共有するためにコミュニ
ケーションによる意思疎通を行うことの重要性を理解し、実行する。
5) 複数の海技従事者で構成されるチームのリーダ役を担当する海技従事者は、チー
ムのリーダが実施すべき、判断および行動の重要性とチーム活動を活性化するた
めに行うべき事項を理解し、実行する。
1.3
標準コースの構成概要
BTM/BRM 技能の養成及び向上のための標準コースは下記に示す 4 つの章から構成され
ている。
1) Part A:コースの概要
本コースの目的及び全体概要について
2) Part B:コースの時間割
訓練日程及び訓練方法と時間割について
3) Part C:教育・訓練の詳細
講義の内容及びシミュレータ訓練の実施方法について詳細に記述している
4) Part D:訓練の実施
シナリオ開発及び技能評価リスト開発の指針について詳細に記述している
2. エンジンルームシミュレータの概要
シ ミ ュ レ ー タ を 活 用 し 有 効 な ETM(Engine-room Team Management)/ERM (Engine-room
Resource Management)トレーニングを行うためには、操船シミュレータと同様にシミュレ
ータ内において実船における機関士の判断や行動を再現する必要があると共に訓練対象技
術を必要とする局面を再現するためのシナリオ及び合理的な評価システムが必要となる。
本プロジェクトにおいて開発を行ったエンジンルームミュレータシステムは本学部に設
置されている操船シミュレータシステムを参考に「操作再現性の高さ」、「環境再現性の
高さ」、「モニタリングシステムの充実」の 3 つの項目を重要な機能と定めた。
「操作再現性」は監視や操作の手法が実際の船舶と極力同様な状況を再現したものであ
り、「環境再現性」は状況の確認手法が実際の船舶の機器や計器などと極力同様に監視、
確認する方法で同じであることである。また、監視及び確認操作を評価者が確実に把握で
きる「モニタリングシステム」が必要となる。エンジンルームシミュレータシステムでは、
機関室と機関制御室はそれぞれ個別の部屋に設定し、機関室や機関制御室に備え付ける操
作卓などは実際に船舶に備え付けるものと同等のものを用い、機関室に大型のミミックパ
ネルを装備した。このミミックパネルには機関室内の各種流体の主要なデータと機器の運
転状況を示すことが可能で、機関プラント全体の状況把握を可能とするものである。また
タッチパネルを採用して主要な弁などの操作も可能なものとした。
エンジンルームシミュレータセンタ
機関制御室のコントロールコンソール
機関室のミミックパネル
平面図
機関制御室のメインスイッチボード
機関室の機側操作盤
インストラクタルームのシミュレータ操
ブリーフィングルームのエクササイズ
作・監視画面およびモニタリング画面
システム
「モニタリングシステム」は、機関制御室及び機関室内で当直を行う訓練者の行動や意思
決定を一切妨げる事の無いように配慮するものとした。すなわち、評価者は別室のインス
トラクタルームに常駐して、機関室や機関制御室等に設けられたビデオカメラや音声シス
テムを用いて機関制御室及び機関室内の訓練者をモニタリングし評価することが可能なも
のとした。また、評価者はモニタリングシステムを用いてシナリオの進行およびシミュレ
ータシステム全体の作動状況を監視して常にトレーニングに最適な状況を維持することが
可能である。さらに、これらのモニタリングの映像や音声及び各種プラントの状態はリア
ルタイムに記録が可能である。また、記録データを用いて、訓練状況を再生することが可
能である。この時、映像、音声及び各種プラントの状態は全て同期して再生することが可
能である。本モニタリングシステムを訓練終了後に行われるブリーフィングの際に利用す
ることにより、改善が必要な事項を的確に訓練者に示すことが可能となると共に訓練者自
らの技能達成状況に自覚を促すことができる。
今
後
の
展
開
航海系分野では「BTM/BRM 教育訓練
標準コース」開発に引き続き海技技術に関する研究
及び各種教育訓練方法に関する研究成果を基に「シミュレータを活用した指導者のための
標準コース」、「実務経験年数に対応した航海士のための技能訓練標準コース」等の開発
を行うこととしている。
機関系分野では航海科系の成果に基づき、合理的な ETM/ERM 教育・訓練を実施するための
教育・訓練のシナリオ・評価システムの開発のためにチーム活動を行う機関士の行動分析
を継続する。
さらに船舶運航システム分野の研究成果を基に船舶以外の大規模システムの運用に関わ
るオペレータが発揮すべき技能を明確化しシステム運用技術者の持つ技能を評価する方法
を確立すると共に高度技術者の育成方法を確立することを目指す。
研
究
1. 12
th
業
績
ASIA CONFERENCE ON MARITIME SYSTEM AND SAFETY RESEARCH、 Philippines
1) ADVANCED BTM TRAINING BEYOND BRM IN REVISED STCW IN 2010
Hiroaki KOBAYASHI
2) WORKLOAD, OMISSION ERROR AND THE PRIORITIZATION OF NAVIGATIONAL TECHNIQUES
Akiko UCHINO, Hiroaki KOBAYASHI
3) ADVANCED ERM TRAINING and the FACILITIES
Mitsuo KOJIMA, Sachiyo HORIKI, Hiroaki KOBAYASHI
2. 日本マリンエンジニアリング学会
第 82 回マリンエンジニアリング学術講演会講演論文集、No.108 号
1) 次世代エンジンルームリソースマネージメント訓練に関する検討
小嶋 満夫 堀木 幸代 小林 弘明 石橋 篤 内野 明子
3. 13th ASIA CONFERENCE ON MARITIME SYSTEM AND SAFETY RESEARCH、 Daejeon、 KOREA
1) A study on the inexperienced mariner’s behavior characteristics based on the
analysis of maritime techniques regarding ship handling
Koji ITO, Hiroaki KOBAYASHI
2) A quantitative approach to estimating workload based on navigational
conditions
Akiko Uchino, Hiroaki KOBAYASHI
3) Analysis on the berthing maneuver by using tug boats
Atsushi ISHIBASHI, Hiroaki KOBAYASHI
4) A study of necessary elements for effective ETM training
Mitsuo KOJIMA, Sachiyo HORIKI, Hiroaki KOBAYASHI
5) Guideline for collision avoiding maneuver and proposal on simple estimation
method
Hiroaki KOBAYASHI, Takayuki SUZUKI
6) A study on information processing for collision avoiding maneuver
Feng Tiancheng, Hiroaki KOBAYASHI
4. 日本航海学会
日本航海学会講演予稿集 Vol.1(2013)No.2
1) 曳船を用いた着桟操船の解析と評価に関する研究 -風圧下における着桟操船石橋
篤、小林
弘明