エイズ拠点病院における HIV/AIDS外来療養指導

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 11, No 2, pp 67─74, 2008
報告
エイズ拠点病院における
HIV / AIDS 外来療養指導体制の現状
─診療報酬加算をめぐって─
The Care System of Providing Self-care Education for Outpatients with HIV/AIDS
at AIDS Regional Hospitals as for the Additional Medical Fee
Based on the Viral Infectious Disease Management
徐 廷美 1) 西垣昌和 2) 池田和子 3)
畑中祐子 3) 数間恵子 2) 島田 恵 3)
Seo Jongmi Masakazu Nishigaki Kazuko Ikeda
Yuko Hatanaka Keiko Kazuma Megumi Shimada
Key words : HIV/AIDS, AIDS regional hospital, self-care education, outpatients, additional medical
fee
キーワード:HIV / AIDS,エイズ拠点病院,外来療養指導,診療報酬加算,外来患者
Abstract
The purpose of this study is to investigate the present situation of providing self-care education for outpatients with HIV/AIDS at AIDS Regional Hospitals in Japan and to clarify the problem of the care system for HIV/AIDS outpatients. We asked the hospitals whether they charged
the additional medical fee based on “the viral infectious disease management” which was legislated in 2006, and whether they met the criteria of institute for additional medical fee, as the indicator for the degree of fulfillment in the medical system for HIV/AIDS patients. Moreover we
aimed to identify the factors related to potential to charge it.
We mailed the self-administrated questionnaire to the 369 AIDS Regional Hospitals and
176(47.7%)hospitals responded it. Though they are AIDS Regional Hospitals, only 130 hospitals had experience for HIV/AIDS treatment and forty percents of 176 hospitals didnʼt have HIV/
AIDS physician specialists. Only 20(16.3%)hospitals charged additional medical fee for the
viral infectious disease management and 12 hospitals answered they had full-time nurses engaging only for HIV/AIDS care. This shows that the criterion for nurses is the most difficult criteria
of institution for additional medical fee to meet, and it suppress hospitals to charge it. The number of outpatients was significantly related to charging the additional medical fee(p < 0.001)
.
These results show that the patients partially concentrated in some specific hospitals, and
this concentration caused to the disparity of sufficiency in medical system for HIV/AIDS patients. Therefore this disparity may be improved when patientʼs concentration would be moderated by medical cooperation between AIDS Regional Hospitals.
受付日:2007 年 7 月 1 日 受理日:2008 年 1 月 7 日
1) 東京大学大学院博士前期課程 Masterʼs Course, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
2) 東京大学大学院 Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
3) 国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センター AIDS Clinical Center of International Medical Center of Japan
日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008 67
要 旨
本報告では,全国のエイズ拠点病院における HIV / AIDS 外来療養指導体制の実態と課題を
明らかにすることを目的として,診療報酬のウイルス疾患指導料加算の算定状況と施設基準の
充足状況を調べ,これに関連する要因を探索した.エイズ拠点病院 369 施設に調査票を郵送し,
加算算定の有無,各加算要件ごとの充足の有無,今後の加算算定計画を尋ねた.回答 176 施設
(回収率 47.7%)のうち,加算施設は 20 施設
(16.3%)であり,加算施設の少なさが示された.
HIV / AIDS 患者関係の業務にのみ専従する看護師を配置する施設は,HIV / AIDS 診療経験のあ
る 130 施設中 12 か所で,他の施設基準に比べて最も充足率が低く,加算施設の増加には専従看
護師の確保が課題になることが示唆された.また,専任医師不在施設は未加算施設では 26 施
設(25.2%),HIV / AIDS 診療経験のない 44 施設を含めると回答施設全体の約 4 割にのぼった.
HIV / AIDS 外来患者数と加算算定の間に有意な関連がみられた(p < 0.001)ことから,医療連携
により一部施設への患者集中を緩和することによって,加算算定施設が増加し,HIV / AIDS 医
療体制が広く整備される可能性が示された.
Ⅰ.緒言
患者の服薬の維持,二次感染の予防行動獲得を
目的とした療養生活指導は,疾患・治療の説明お
HIV
(human immunodeficiency virus)感 染 症 お
よび教育,アドバイス,情報提供を含めて,外来
よび AIDS
(acquired immunodeficiency syndrome,
を中心に行われている.HIV 感染症は患者の身体
以下,合わせて HIV / AIDS とする)は,抗 HIV 薬
面への影響のみならず,心理状態,社会生活にも
に よ る 多 剤 併 用 療 法(highly active antiretroviral
その影響が及ぶため,患者のサポートには,医師
therapy, 以 下,HAART と す る )の 登 場 を 機 に,
や看護師だけでなく,薬剤師,ソーシャルワー
医学的コントロールが可能な慢性疾患と位置づけ
カーなどの支援も必要である
(石原 , 2000)
.HIV /
られるようになった
(Hogg, et al., 1998).しかし
AIDS の外来医療では,患者のニーズに応じて,
この治療は一生涯の内服継続と,100%の内服率
さまざまな職種が参加するチーム医療体制を整え
維持が必要であること,また,多様な副作用,内
る必要性が大きい(白阪ら,2006)
.
服のしにくさ,高額な医療費など服薬継続を困難
こうした特徴を反映して,平成 18 年度診療報
にする因子が多い.そのため,患者がこれらの困
酬改定では,ウイルス疾患指導料に関し,一定の
難を十分に理解し,服薬を継続するための支援が
施設基準を満たした施設に加算が認められること
重要である
(Mannheimer, et al., 2005)
.
となった(社会保険研究所,2006)
.この施設基準
HIV 感 染 者 の 死 亡 率 が 飛 躍 的 に 低 下 し た
では,以下の 5 つの要件の充足が求められている.
(Krentz, et al., 2005;Palella, et al., 1998, 2006)一
① HIV / AIDS 患者の医療に従事した経験が 5 年以
方で,わが国の HIV 感染者は増加の一途をたど
上の専任医師が 1 名以上,② HIV / AIDS 患者の看
り,HIV 感染者数は 12,394 人
(血液製剤による感
護に従事した経験が 2 年以上の専従看護師が 1 名
染者をのぞく報告数:2006 年末の厚生労働省エ
以上,③ HIV / AIDS 患者への服薬指導を行う専
イズ動向委員会報告)に達している.こうした背
任薬剤師が 1 名以上,④社会福祉士または精神保
景から,HIV 感染拡大阻止のためには,二次感染
健福祉士の院内配置,⑤プライバシーの保護に配
の予防行動を実施できるようにすることが,服薬
慮した診察室・相談室の準備,である.これらは,
支援同様,HIV / AIDS 患者への重要な療養指導項
HIV / AIDS の外来医療におけるチームアプローチ
目となっている
(石原ら,2001)
.
の重要性を示している.この加算新設により,
68 日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008
HIV / AIDS 外来医療体制が整備・拡充されること
が期待される.
現在のわが国の HIV / AIDS 医療は,全国 369 か
2.調査内容
1)施設概要
(1)設置主体,(2)地域(北海道,東北,関東・
所のエイズ拠点病院とされる施設が担うことに
甲信越,東海,北陸,近畿,中・四国,九州),
(3)
なっている.そのうち,14 か所のブロック拠点
病床数,(4)
外来診療科数,(5)患者数を尋ねた.
病院と呼ばれる施設は,各地域で拠点病院を指
患 者数 は, 平成 17 年 4 月 ~ 18 年 3 月 に おけ る
導・統括している.また最先端の医療を行い,臨
HIV / AIDS 外来患者延べ数の月平均,同時期の
床研究,情報・研修提供によって全国の拠点病院
HIV / AIDS 入院患者延べ数の月平均,平成 18 年 6
の指導的立場にあるのは,国立国際医療センター
月までの HIV / AIDS 患者の累積登録数とした.
/エイズ治療・研究開発センター
(AIDS Clinical
2)外来診療体制
Center,以下 ACC とする)である.このような体
(1)HIV / AIDS 患者の外来診療日(毎日・毎週特
制となってはいるが,拠点病院のうち HIV 感染症
定の曜日・隔週特定の曜日・毎月 1 回・不定期の
の診療実績がほとんどない施設,あるいは年間に
中から選択)
,
(2)
前述の診療報酬加算の施設基準
数例程度しかない施設が全体の 2 / 3 を占める.一
要件ごとに,それを満たすスタッフの有無と人
方で,特定の中心的な拠点病院に多数の患者が集
数,また,なしの場合は理由を自由記載しても
中して,診療能力が限界に達し,診療の質の低下
らった.
を招きかねない深刻な事態も発生している(木村,
3)診療報酬加算
島田,2006).わが国の HIV / AIDS 医療体制の整
診療報酬加算算定の有無と,なしの場合の算定
備拡充のためには,全国の拠点病院の診療の質を
予定の有無,および算定予定なしの場合の理由を
評価し,課題を明らかにすることが必要である.
尋ねた.
診療の質を評価することは容易ではないが,ウイ
ルス疾患指導料における診療報酬加算のための施
3.分析方法
設基準をその指標の一つとして用い,全国のエイ
診療報酬加算算定の有無別に,施設基準要件の
ズ拠点病院がそれをどの程度満たしており,何に
充足状況を記述した.加算算定の有無に関係する
ついて不足しているかを明らかにし,その要因を
要因を探索するために,病床数,外来診療科数,
探ることによって,HIV / AIDS 外来医療の現状を
HIV / AIDS 外来患者数・入院患者数・累積患者
把握することができるだろう.
数,1 か月あたりの外来診療日数を説明変数とし,
そこで本研究では,エイズ拠点病院における,
加算算定の有無を結果変数とし,ロジスティック
診療報酬加算算定状況と施設基準の充足状況を記
単 回 帰 分 析 を 行 っ た. 各 説 明 変 数 に つ い て は
述し,加算算定に関連する要因を探索することに
Pearson の相関係数を算出し,相関の高い変数は
よって,エイズ拠点病院における HIV / AIDS 外
除いた.すべての解析は,有意水準両側 5%とし
来療養指導体制の現状と課題を明らかにすること
た.上記の解析には統計パッケージ SAS Windows
を目的とした.
版 Version 9.1 を用いた.
Ⅱ.方法
1.調査対象と調査方法
全国のエイズ拠点病院 369 施設を対象とした.
2006 年 8 ~ 9 月に各施設の看護部宛に,質問紙に
よる郵送調査を実施し,回答を無記名で得た.
4.倫理的配慮
対象施設には,文書にて調査の趣旨,ならびに
医療機関が特定されることはないことを説明し
た.調査への回答をもって参加への同意とした.
倫理審査については,国立国際医療センターの
倫理委員会の判断により,審査不要とされた.
日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008 69
Ⅲ.結果
1.施設背景
「予定なし」の理由として,
「専従看護師が確保で
きない」,「プライバシーに配慮した診察室・相談
室がない」
,が約 8 割となった.
369 施設中,176 施設から回答が得られ,回収
率は 47.7%であった.施設背景は,国公立病院が
3.加算算定に関連する要因分析
61.4 % を 占 め て お り, 病 床 数 の 平 均 は 603.9 ±
病床数と外来診療科数,外来患者数と累積患者
267.7 床であった.平成 18 年 6 月までの累積患者
数の間に,各々強い相関がみられた
(それぞれ,r
数が 0 の施設 44 か所と,累積患者数が未記入でそ
= 0.66,r = 0.98)ため,外来診療科数と累積患者
れ以降の調査票記入がない 2 か所の 46 施設を HIV
数を除いた各変数について,加算算定の有無に関
/ AIDS 診療経験なしとみなした.また,累積患
してロジスティック単回帰分析を行い,その結果
者数が 10 人以下の施設は 51 か所であり,診療経
を 表 3 に 示 し た. 設 置 主 体(p = 0.70)と HIV /
験なしの施設と合わせると 97 施設(55.1%)
となっ
AIDS 入院患者数(p = 0.09)は加算算定とは関連が
た.一方で累積患者数が 100 人を越える施設は 11
な く, 病 床 数(OR = 1.002,95 % CI
[1.000 ~
か所,外来患者数が月 50 人を越える施設が 10 か
1.004]
,p = 0.03)
,HIV / AIDS 外来患者数(OR =
所であった.
1.042,95% CI
[1.017 ~ 1.067]
,p = 0.0009),1 か
外来診療日は,毎日が 24 施設
(13.6%)
,週 1 回
月あたりの外来診療日数
(OR = 1.099,95 % CI
が 23 施設(13.1%)
,不定期が 44 施設
(25.0%)
,外
[1.034 ~ 1.168]
,p = 0.002)が多い施設では加算
来診療なしが 46 施設
(26.1%)
であった.外来診療
が算定されていた.
日が不定期である理由として,
「患者数が少ない」
,
「専門医がいない」
,をあげる施設が多かった.診
療経験なしとみなした 46 施設を除き,この後の
解析対象施設を表 1 に示した.
Ⅳ.考察
1.エイズ拠点病院と診療報酬加算
全国エイズ拠点病院の半数以上が国公立病院で
2.診療報酬加算算定状況と施設基準充足状況
あり,平均 600 床の大規模病院であることは,エ
HIV / AIDS 診療経験のある 130 施設のうち,回
イズ医療の大きな特徴と言える.これは,拠点病
答に欠損があった 7 施設を除き,診療報酬加算を
院がエイズ政策医療の一体制として位置づけられ
算定していたのは 20(16.3%)
施設であった.
ていることが一つの要因である.しかし,その
診療報酬加算の施設基準要件ごとに,加算施設
1 / 4 で HIV / AIDS 患者の診療経験がなく,1 / 4 強
と未加算施設を比較して,充足状況を表 2 に示し
で累積患者が 10 人以下である一方で,毎月 50 人
た.施設基準の各要件については,加算施設,未
以上の患者を診療する病院が 10 施設あることは,
加算施設を問わず,看護師
(HIV / AIDS 患者の看
診療経験のうえで大きな差があることを示してい
護に従事した経験が 2 年以上の専従看護師)の充
る.また,外来診療日についても,1 / 4 に外来診
足率が最も低く,加算施設でも 12 か所
(60.0%)
で
療がなく,1 / 4 が不定期に診療していると答えて
あった.また,専任医師がいないと答えたのは未
おり,現実の医療体制には大きな診療格差がある
加算施設では 26 施設
(25.2%)あり,HIV / AIDS 診
とした木村ら
(2006)の指摘が再確認された.
療経験のない 44 施設を含めると,回答施設全体
の約 4 割で専任医師がいなかった.
診療報酬加算の算定は 20 施設にとどまってお
り,加算施設の少なさが示された.エイズ拠点病
また,未加算施設に今後の加算算定予定を尋ね
院の大半が大規模病院であっても,加算のための
たところ,103 施設中,
「予定あり」と答えたのは
5 つの施設基準をすべて満たすことは困難である
16(15.5%),「予定なし」は 71(68.9%)であった.
ことが示された.加算のための施設基準のうち,
70 日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008
表 1 施設背景
N = 176
設置主体
地域
n
%
国公立
108
61.4
その他
55
31.3
(欠損)
13
北海道
13
7.4
東北
18
10.2
関東・甲信越
48
27.3
東海
23
13.1
北陸
7
4.0
近畿
18
10.2
中・四国
31
17.6
九州
15
8.5
(欠損)
病床数
外来診療日
毎日
3
24
13.6
1
0.6
週3回
4
2.3
週2回
17
9.7
週1回
23
13.1
隔週 1 回
5
2.8
毎月 1 回
10
5.7
不定期
44
25.0
2
1.1
外来なし
46
26.1
0
51
29.0
∼ 10
71
40.3
∼ 20
12
6.8
∼ 30
14
8.0
∼ 40
7
4.0
∼ 50
4
2.3
51 <
10
5.7
> 201
10
5.7
201 ∼ 300
10
5.7
301 ∼ 400
21
11.9
401 ∼ 500
23
13.1
501 ∼ 600
17
9.7
601 ∼ 700
39
22.2
701 ∼ 800
15
8.5
801 ∼ 900
9
5.1
0
91
51.7
901 ∼ 1,000
6
3.4
∼ 10
67
38.1
18
10.2
∼ 20
2
1.1
51 <
4
2.3
1,000 <
(欠損)
(欠損)
mean ± SD
(range)
入院患者数
b)
8
mean ± SD
(range) 603.9 ± 267.7(135 ∼ 1505)
外来診療科
%
週4回
(欠損)
外来患者数 a)
n
> 11
12
6.8
11 ∼ 20
74
42.0
21 ∼ 30
73
41.5
8
4.5
31 <
(欠損)
mean ± SD
(range)
9
20.1 ± 6.6(2 ∼ 41)
(欠損)
mean ± SD
(range)
累積患者数
c)
7
22.4 ± 80.7(0 ∼ 800)
12
7.6 ± 46.8(0 ∼ 411.9)
0
44
∼ 10
51
29
∼ 100
59
33.5
∼ 500
7
4.0
500 <
4
2.3
不明
9
5.1
(欠損)
mean ± SD
(range)
25
2
48.4 ± 182.4(0 ∼ 1920)
a)b)平成 17 年 4 月∼ 18 年 3 月の HIV / AIDS 患者延べ数の月平均
c)平成 18 年 6 月までの患者の HIV / AIDS 累積登録数
看護師に関して充足率が最も低いのは,他職種は
職者との調整・マネジメント機能を果たしている
専任でよいのに対して,看護師は専従が求められ
と し て い る. ま た, 加 藤 ら(2004)の 研 究 で も,
ていることが大きく関連していると考えられる.
ACC の看護師は患者の外来療養相談に,平均 30
この施設基準は,HIV / AIDS ケアにおける看護の
分以上の時間を費やしている.このように,円滑
重要性が示されたものと捉えることができる.
なチーム医療の推進のためには,看護師は専従と
HIV / AIDS ケアに関わる看護師の役割を 4 つのカ
して携わることで初めてその役割が果たせると言
テゴリで示した先行研究
(Misao, et al., 2000)で
える.しかし現状では,看護師についての基準を
も,看護師はチーム医療の中心として,他の医療
専従としていることで,かえってチーム医療の基
日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008 71
表 2 診 療報酬加算算定有無別の各施設基準要件充
足状況
N = 123
加算 (n = 20) 未加算 (n = 103)
施設
施設
いない
専従看護師
いない
の算定を最も困難にしている.
一方,看護師についての基準を満たしているの
20 (100.0)
77
(74.8)
設が 20 か所であるのは,一つには,実際には専
0
(0.0)
26
(25.2)
任看護師であってもその病院が専従であると判断
12
(60.0)
0
(0.0)
8
(40.0)
103
(100.0)
b)
いる
専従看護師が確保できないことが,診療報酬加算
が 12 施設しかないにもかかわらず,加算算定施
専任医師 a)
いる
準を満たすことが難しくなっているとも言える.
専任薬剤師 c)
して診療報酬加算を申請した場合,社会保険事務
所によってはそれで受け付けている場合があるた
めである.HIV / AIDS 患者が来院したときは必ず
17
(85.0)
57
(55.3)
その看護師が担当しているという体制であれば,
いない
2
(10.0)
46
(44.7)
(不明)
1
(5.0)
専従と同じという考えは成立しうる.患者が月に
両方
8
(40.0)
35
(34.0)
社会のみ
9
(45.0)
29
(28.2)
そうした施設は,たとえ充実したチーム医療を実
精神のみ
1
(5.0)
6
(5.8)
2
(10.0)
32
(31.1)
践していたとしても,加算が算定できないことに
いる
十数人という施設であれば,HIV / AIDS 患者だけ
福祉職 d)
いる
いない
(不明)
1
なる.つまり,今回の診療報酬加算の施設基準は,
ある程度の患者数があり,スタッフや施設の整備
部屋 e)
あり
に対応する看護師を置くことは現実的ではなく,
16
(80.0)
47
(45.6)
が可能な規模の施設を前提とする点では,問題が
診療室のみ
3
(15.0)
16
(15.5)
相談室のみ
1
(5.0)
26
(25.2)
残るかもしれない.
0
(0.0)
11
(10.7)
両方
なし
(不明)
3
また,未加算施設の 7 割弱で今後の加算につい
て「予定がない」と答えていることから,現状では
背景のグレーは基準を満たしていることを示す。
加算施設が増加していくことは期待しにくいと言
a)HIV / AIDS 患者の医療に従事した経験が 5 年以上の専任
える.また,
「予定なし」の理由を尋ねたところ,
医師
b)HIV / AIDS 患者の看護に従事した経験が 2 年以上の専従
看護師
c)HIV / AIDS 患者への服薬指導を行う専任薬剤師
約 8 割が専従看護師や診察室・相談室に関するも
のであったことからも,加算算定に向けた早急な
対処は望めないことが予想される.
d)社会福祉士または精神保健福祉士
加算は病床数,HIV / AIDS 外来患者数,1 か月
e)プライバシーの保護に配慮した診察室・相談室
表 3 診療報酬加算算定に対する関連要因の単回帰分析結果
加算算定
(n = 20)
未算定(n = 103)
% or mean ± SD (range)
% or mean ± SD (range)
設置主体(国公立)#
57.9
病床数
加算算定に関する
オッズ比(OR)
[95% CI]
1.002[0.992 ∼ 1.011]
64.2
798.0 ± 217.8 (336 ∼ 1,154)
659.1 ± 246.3 (135 ∼ 1,505)
1.002[1.000 ∼ 1.004]*
HIV / AIDS 外来患者数
a)
127.4 ± 301.8 (
2∼
800)
12.5 ± 20.5 (
0∼
120)
1.042[1.017 ∼ 1.067]**
HIV / AIDS 入院患者数
b)
33.9 ± 100.3 (
0∼
412)
6.1 ± 40.0 (
0∼
373)
1.006[0.999 ∼ 1.013]
12.4 ± 12.4 (
4∼
20)
8.7 ±
1∼
20)
1.099[1.034 ∼ 1.168]*
外来診療日数 c)
Logistic 回帰分析 * p < 0.05,** p < 0.001
#:オッズ比は国公立以外に対する値
a)b)平成 17 年 4 月∼ 18 年 3 月の患者延べ数の 1 か月の平均
c)1 か月あたりの外来診療日数
72 日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008
6.5 (
あたりの外来診療日数の多い病院で算定されてい
含めて,医療者への感染症教育・研修を充実さ
た.病床数や 1 か月あたりの外来診療日数は,患
せ,HIV 医療に携わる医師・看護師を育てること
者数によって左右されることが考えられるため,
が,診療格差是正の一対策となるであろう.
外来患者数の多いことが,加算算定に大きく関連
すると言える.結果に示したオッズ比から,1 か
3.看護管理への示唆
月あたりの外来患者数が約 15 人増えると,加算
今回の平成 18 年度診療報酬改定におけるウイ
は約 2 倍算定しやすくなると言える.このことか
ルス疾患指導料加算の新設は,看護師を始めとし
ら,現状で患者が集中していると思われるブロッ
たさまざまな医療職者が,数年間にわたって診療
ク拠点病院が,地域の拠点病院へ積極的に患者を
報酬設定化に向けた要望を行ってきた末に実現さ
紹介していく体制がとられることが重要だと考え
れたものである.
られる.
従来,診療報酬は,ある領域の診療や看護の必
要性を鑑み,これまでの活動を評価して国が設定
2.今後の HIV / AIDS 医療に必要なこと
するという流れであった.しかし,今後はこうし
厚生労働省は 2006 年 4 月より,患者集中の改善
た現場を支える医療者自身が,患者のニード把握
策の一つとして,中核拠点病院の創設を決定して
や必要な環境設定を実践している者として,自分
いる(川口,2006)
.中核拠点病院は,拠点病院の
たちのケアへの客観的な評価を行い,それに基づ
中から原則として都道府県内に 1 か所以上選定さ
いて蓄積されたさまざまなエビデンスを基に,活
れ,患者数の少ない地域においては,患者の集中
動の場や質の保証のために診療報酬を獲得してい
化により,スタッフの診療経験の向上が図られ,
くことも重要であろう.さらに,HIV / AIDS 医療
患者数の多い地域においては,大都市に集中して
においては,患者が安心して通院でき治療が継続
いる患者の分散化を図ることを狙いとしている.
されるために,病診連携の推進が不可欠であり,
また,渡辺ら(2003)は,HIV / AIDS 患者数への対
そのための新たな診療報酬の仕組みを検討するこ
応経験が少ない医療機関に対して,
「施設間情報
とも必要である(島田,岡,2007)
.
提供シート」の活用によって医療者間の連絡・相
本報告でも述べたように,施設が診療報酬を算
談関係を密にし,医療提供の安定化・効率化を図
定するためにはさまざまな要件があり,大規模病
ることが重要だと述べている.
院でも困難である場合が多い.この要件は,本質
今後,中核拠点病院が狙いどおり機能し,また
的には医療の質確保のために設けられたものであ
拠点病院間,さらには地域の診療所等と活発な医
る.しかし,今回の調査でも診療報酬加算に対す
療連携を推進し,治療・看護経験を共有すること
る感想を自由記載してもらったところ,「管理者
によって,患者の集中を緩和できれば,加算算定
の理解が得られない」と記入している施設が数件
施設は増加していくことが考えられる.それに
あったことからも推察されるように,これらの要
よって,患者には,チームによる充実した診療・
件が単に診療報酬への壁として捉えられている場
ケアを提供できる可能性が高まるであろう.
合もある.確かに設定された設備やスタッフを確
さらに,本報告でも示されたように,専任医師
保することは容易ではない.しかし,まず専門ス
を配置していない施設が 26 施設あり,これに診
タッフを配置することにより患者受け入れ体制が
療経験のない 44 施設を含め,回答の返却がなかっ
整備され,診療報酬として算定されれば,その結
た施設を含めると,エイズ拠点病院で専任医師の
果として,患者数の増加が期待でき,スタッフの
いない施設はさらに多いと予想される.医師のい
経験も豊富になり,病院間の連携促進につながり
ない施設には患者を紹介することができず,看護
うると考えることもできる.看護への評価を含ん
師を配置することも考えられない.HIV 感染症を
だ診療報酬は今後も増えることが予想されている
日看管会誌 Vol 11, No 2, 2008 73
ため,管理者によるこうした視点はますます必要
になってくると言える.
Ⅴ.結論
エイズ拠点病院において診療報酬加算を算定し
ている施設は,回答が得られた 176 施設中 20 施設
であり,加算施設の少なさが示された.また,加
算算定に有意な関連要因は,HIV / AIDS 外来患者
数であった.患者が集中する一部拠点病院と他の
拠点病院との医療連携・患者紹介の推進によっ
て,加算算定施設が増加する可能性があることが
示唆された.
謝辞:調査にご協力いただいた各施設長はじめ , ス
タッフの皆様に心より御礼申し上げます.
本研究は,日本看護協会委託研究
「HIV / AIDS 患者
に対する外来療養指導の効果に関する研究」
( 主任研
究者 国立国際医療センターエイズ治療・研究開発セ
ンター 島田恵)の一環として行ったものである.
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