その5 - So-net

熱設計と、その動向
熱設計と、その動向
内部損失が増えつづけ、これまで説明してき
た従来からの熱設計はターンニングポイントを
迎えている。どのように電力増に対応するかの
ヒントはいくつかの製品にすでに取り入れられ
ている。いずれも高い熱処理能力とともに動作
音を低く抑えている。速いが静かなのがポイン
トだ。
●メーカ製に学ぶ その1 PowerMac G5
Power Mac G5は米アップルコンピュータ社の
デスクトップPCである。これまでの話はDOS/VPC
とよばれ部品を買い集めて組み立てることもでく
るものだった。これに対してMacは完成品として
のみ売られており、非ウインドウズOS、独自ハード
ウェアとソフトウェアで動くPCである。ここで取り上
げる理由はデスクトップDOS/VPCに対して一歩
進んだ熱管理の考え方で設計されているから
だ。
3種類あるバリエーションのうち2GHzのCPU2個
を搭載したモデルを見ていきたい。
寸法は
511(H)×206(H)×475(D)mm(内容量約42l)
で筆者のメインPCより高さで50mmほど上回り、
DOS/VPCでいえばミドルタワーではなくフルタ
ワー並みの大きさとなっている。
CPUはIBM製64ビットのPowerPC G5である。
1.8GHz 品 の TDP が 42W な の で 2GHz2 個 で は
100W程度と推測される。
Power Mac G5の外観(アルミ製)
(前面および背面パネルは全面メッシュとなっている)
さてDOS/VデスクトップPCの熱管理(処理)上
の欠点は発熱体が同一空間に同居しており、熱
が干渉することである。例えばグラッフィクカード
の発熱がCPUの温度を押し上げ、逆にCPUがグ
ラフィックカードの温度を上げるといった具合で
ある。CPUは自身が暖めた空気を再度冷却に利
用している。DOS/Vデスクトップではケース内部
の温まった空気を外気と十分に入れ替えている
前面
背面
DVDマルチドライブ
ファン
HDD
PCI拡張カード
②
グラフィックカード
③
ファン メモリ
CPUヒート
シンク
廃熱
外気の取り入れ
ファン
①
CPUヒート
シンク
④ 電源
Power Mac G5 Dual CPUの内部 (4つの独立ブロックに分けて廃熱する)
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熱設計と、その動向
とはいえない。
もうひとつの欠点はファン回転数のコントロー
ルである。基準となるのが温度はCPUと、そのそ
ばの比較的温度の高い点である。これですべて
のファンをコントロールしているので、どうしても騒
音が大きめになる。騒音が気になるようであれば
回転数を個別に手動調整している。
TDP100Wで風冷となれば多分これと大同小異
の構造になるだろう。難点は寸法が少々大きい
点である。
写真はサイドパネルを開けたG5である。G5
マークのある巨大なCPUヒートシンクが目に付く。
この写真はデュアルCPUのもので、シングルのも
のは下側の1個のみである。
内部は4つの独立したゾーンに分かれている。
①DVDマルチドライブ、ハードディスク
②グラフィックカード、PCI-X拡張カード
③CPU、チップセット、メモリ
④電源
の4つで、各々大口径低速回転のファンを持って
いる。各ゾーンで前面から取り入れられた外気は
背面から排出される。ファン回転はゾーンそれぞ
れの温度をもとにコントロールされる。このように
内部発熱は干渉することなく処理されている。
ATXPCの欠点を素直に取り除き、静かで信頼
性の高くしようとすれば、こうなりますという見本で
ある。ATXフォームファクタは内部損失が合計数
10W の 時 代 に 策 定 さ れ た も の で あ り、も し、
Power Mac G5の前面と背面
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熱設計と、その動向
●メーカ製に学ぶ その2 デルコンピュータ
Power Mac G5は優れた考え方で熱処理がお
こなわれている。しかし、フルタワーの外形は大き
すぎる。サウンド、LANからIEEE1394機能なで以
前なら拡張ボードで利用した機能がマザーボー
ド載せられるようになった。そうしてみると5から6あ
る拡張スロットはそんなにはいらないのが実情で
ある。この数を減らせばマザーボードはずっと小
さくなる。この意味で内容量10リットルとG5の1/4
の容量で、家庭用として必要にして十分な機能
をもつDimension4600Cを取り上げてみたい。(本
体寸法:巾95×高さ323×奥行き356mm) ペンティ
アム4 3.2GHzまで搭載可能なうえに音が静かな
なのである。
ここに注目
デルDimension4600C外観
デルコンピュータのウェブ
http://www.dell.com/jp/jp/dhs/products/
model_dimen_2_dimen_4600c.htm
にある3Dサイバーツアで内部を見せてもらい、な
ぜ静かで速いのかを確かめてみよう。
このデスクトップPCが小さいにもかかわらず速
くて静かなわけは、そのCPUファンに秘密がある。
このファンはシロッコファン、または、ブロワーファ
ンとよばれるものである。
排気
ケース内部で上向きに取り付けられている。この
ファンで内部発熱を吸い込み、ケース背面から
外部に逃がしている。肝心なのは、効果的に働い
ているのがCPUファンとして使われているシロッ
コファンである。プロペラファンとシロッコファンの
特徴は(オリエンタルモータのウェブより)
*プロペラファン
プロペラを使用し、その回転軸方向に風を発
生させるファン。大きな風量が得られるため、機器
内部を全体的に冷却する換気冷却に適してい
る。
*シロッコファン
円筒状に羽根を配したランナーを回転させ、そ
れにより得られる遠心力で風を送り出す。吐出口
を絞り一定方向に風を集中するため、局部冷却
に用いられる。また静圧が大きいので、風の通り
にくい装置の冷却やダクトを用いた送風にも適し
ている。
CPUファンに使われたシロッコファン
CPUヒートシンクと組み合わされるファンのほと
んどがプロペラファンである。かつ、風はヒートシ
ンクに当てられている。ところが、このPCでは逆に
吸い出している。そして、一定方向に高い圧力で
送風できる特徴を生かしてCPU発熱を背面パネ
ルに設けられたスリットを通して外部に排出して
いる。このファンは大変静かに回転する。
シロッコファンを使って熱を直接外部に押し出
すというこのやり方は一見地味だが、簡単で賢い
やり方である。このPCは熱管理以外でも、使いや
すく、メンテナンスがしやすく優れた設計がなされ
ている。
シロッコファン
デルDimension4600C内部
外気は前面から取り入れらる。ケース内最下部
に電源があり、これには通常のプロペラファンが
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熱設計と、その動向
●メーカ製に学ぶ その3 NEC水冷PC
大型コンピュータの世界では水冷は当たり前
である。熱量が大きいので風冷では間に合わな
いからだ。NECはこれをデスクトップPCに取り入
れた。図のように冷却液は水冷ジャケット、ラジ
エータ、リーザブタンク、ポンプ間に銅パイプを通
して毎分0.3リットルで循環する。CPU発熱はケー
ス背面のラジエータに導かれ、低速回転の12cm
ファンで外気に放熱される。CPU発熱は冷却液
を媒体として外部に逃がされる仕組みである。
水冷は高度の技術がないとできない。アマチュ
ア用として水冷キットが売られている。冷却能力
は高いが重大な欠点がある。それは例えば予め
冷却液を循環させてからPC本体の電源を入れ
なければいけないといった点である。もしもうっか
りしていて水冷ポンプのスイッチを入れ忘れた
ら?結果はCPU接触部近くに残った冷却液が沸
騰してしまう恐れがある。ただ水冷するだけであ
れば熱帯魚用セットでも動かせる。しかし、モータ
が止まったら、温度が0℃に下がったら、パイプが
詰まったら、などなどいろいろなことを考えて、そ
れぞれ不具合が起きないようにしなければいけ
ないのである。これが相当難しいことで、失敗を重
ねつつ改良する過程で必ずケース内が水浸し
になったりするものである。水冷PCは実績のある
メーカだからこそ製品化できたと考える。
水冷は、といっても水そのものを使うとは限らな
いが、工業用大電力機器ではよく利用されてい
る。その意味でCPUの100Wや200Wの発熱は余
NECの水冷パソコンバリュースターTXシリーズ
裕をもって処理できる。現状での水冷PCの持ち
味は静かなことである。純粋空冷のPower Mac
G5はファンを7つ使っているところ、水冷PCは1つ
である。
ケース背面の放熱用ラジエータ
TXシリーズの水冷システム
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熱設計と、その動向
●仰天のグラフィックチップGeForce 5800 Ultra
これは前出の3例とは違い、騒音などお構いな
しで、とにかく膨大な発熱を処理しなければいけ
ない例である。NVidea製 GeForce5800 Ultarとい
うグラフィックチップは高速化を目指したあまり、
損失は75Wに達するといわれている。この損失は
CPUのそれをも上回るものすごいものである。熱
処理のためにヒートシンクが巨大なったために通
常の1スロットでは収まりきらず隣接するスロットの
計2スロットを占領するのである。
こ の チ ッ プ を 使 っ た 製 品 の ひ と つ ASUS 製
V9900 Ultraを見てみたい。
この基板は熱処理という観点で興味深いもの
である。写真の左下に外気の取り入れ口があり出
口は左上である。この間に風洞が形成されてい
る。風洞内の熱はシロッコファンによって排出さ
れる。グラフィックチップ発熱のほとんどは外部に
逃がされることになる。このカードはメモリでの損
失を除く50Wをこえる損失を、この程度の簡単道
具立てで処理できる実例である。ただし、ファンは
回転数をコントロールされてはいるものの、3D表
示では高速回転するのですさまじい騒音を発生
する。
NVdea の こ の グ ラ フ ィ ッ ク チ ッ プ を 短 期 間 で
引っ込めた。後継チップ使用カードの損失は2/3
の50Wほどである。
わ ず か 3 ヶ月 で 後 継 にバ ト ン タ ッ チ し た グ ラ
フィックカードではあるが、熱処理の見本としてみ
ればおもしろいものがある。
ASUS V9900 Ultraビデオカード
ASUS V9900 Ultraビデオカード(同裏面)
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熱設計と、その動向
●ノートPCの熱設計
熱処理が難しいのがノートPCである。デスクトッ
プPCは極端にいえば熱はケース内でかき回し
て、出口近くの空気が成り行きで吐き出されてい
る。冷却に有利な気流をケース内で作れといって
も実際には特別な制御板とかフードを作っても
はかばかしくないのが実情である。これに対して
ノートPCでは容積が小さいので内部の隙間も少
ないのから熱がこもりやすい。ケース=キーボー
ドやパームレストなので、これらが不快な熱さだっ
たりするのも具合が悪い。従ってデスクトップPCよ
り格段に熱設計に力が入れられてきた。前出の
ビデオカードはこのような技術の応用といえない
こともない。
ノートPCもデスクトップPCと同様に速いほうが
いい。一方で、軽い、薄い、そして、バッテリーが長
持ちするのがいい。これらは相反する要求であ
り、使用実態を踏まえて、ノートPCは次のような3
つのカテゴリーに分かれることになった。
①ほとんどデスクトップCPUそのもので(価格が
安い)TDPは当面70Wまで
②ペンティアムM、30W程度まで
③低電圧、極超低電圧版CPU、5∼7W程度
であり、③については発熱量が小さいのでファン
を使わなくてすむ。筐体に熱を分散させて人間
ファンだけを使った放熱
Intel Mobile Cooling Technology Provides Higher Performance
in Thinner and Cooler Notebooksより
①ほとんど持ち歩かず、もっぱら机の上で使う。
②職場と自宅との両方で使う。
③もっぱら持ち歩いて場所を選ばずに使う。
これは
①は重さが3kgもある、いわゆるフルサイズノート
②B5サイズノート
③モバイルノート
に対応する。
ヒートパイプとファンを使った放熱
それぞれのCPUとTDPは
Intel Mobile Cooling Technology Provides Higher Performance in Thinner and Cooler Notebooksより
コラム ヒートパイプ
ヒートパイプは密閉容器内に少量の液体(作
動液)を真空封入し、内壁に毛細管構造(ウィッ
ク)を備えたものである。
ヒートパイプの一部が加熱されると、
*加熱部で作動液が蒸発する
*低温部に蒸気が移動する
*蒸気が低温部で凝縮する
*凝縮した作動液が毛細管現象で加熱部に
環流する
という一連の相変化が連続的に発生して大量
の熱を素早く移動できる。可動部をもたないた
めにメンテナンスフリーで運転動力不要であ
る。
1963年にアメリカで開発されて以降、人工衛
星の温度制御や電気機器の放熱、家電、灼熱
炉、融雪などに広く用いられている。
ヒートパイプの構造
http://www.heatpipe.jp/techinfo/tech_heatpipe.html
より
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熱設計と、その動向
RHE冷却系を組み込んだノートPC断面
Intel Mobile Cooling Technology Provides Higher Performance in Thinner and Cooler Notebooksより
に不快感を与えないように処理されている。
それでは、②と③の熱設計を見ていこう。
インテルの資料にある2つの例を較べてみよう。
ファンだけによる冷却は狭い筐体内に放散され
た熱の逃げどころがない。電力が小さければそ
れでも筐体表面などから逃げる分が発熱とバラ
ンスが取れる可能性がある。TDPが最大で30W
のペンティアムM用の放熱系にはヒートパイプが
使われている。CPUの発熱は筐体後部のヒートシ
ンクに導かれる。このヒートシンクに側面から取り
入れられた空気が当てられ、後部から排出され
る。こうすることによってCPUの発熱が内部温度
を上昇させることなく処理できる。この冷却系は
RHE (Remote Heat Exchanger)とよばれ、実物写
真のようなものである。
このRHEでどの程度の発熱を処理できるかだ
が、インテルは30Wくらいまでを想定していたよう
だ。ところが、台湾のメーカーがヒートパイプ、放熱
用ヒートシンク、ファンの容量を増やして数10Wク
ラスまでに対応可能としてしまった。フルサイズ
ノートは、このような生い立ちのようだ。なお、TDP
Pentium MのRHE
インテルのウェブ http://support.intel.co.jp/jp/support/
processors/mobile/pm/thermal.htmより
が30W程度のノートPCで必ずしもこのようなRHE
が組み込まれているわけではない。吸入ファンと
排出ファンとの2個で、風の流路を適切に設けれ
ばそれで熱を処理できるようだ。
ノートPCは小さな筐体にもかかわらず数10W
の熱を処理できている。今後他でも活かされてい
くと考えられる。例えばデスクトップのフォーフファ
クターは今後、現在とはかなり違うものとなるだろ
う。
ノートPCの大きさで現状の2倍、3倍の電力に対
応できるかといえば多分難しいだろう。空気に熱
を放散するのではなく、かつ、損失増を伴わない
新しい仕組みが取り入れられていくのだろう。
コラム 実際のノートPC内部
SONY Vaio U1内部
エプソンダイレクトEdi Cube R450H
(フルサイズノート)内部
PC Watch : http://ad.impress.co.jp/tie-up/
edi_cube0207/index.htmより
AKIBA PC Hotline! : http://pc.watch.impress.co.jp/
docs/2002/0430/hotrev157.htmより
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