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開催日: 2006年9月23日(土・祝日)
会場:東京外国語大学 府中キャンパス
10:00-10:10 開会挨拶:日本通訳学会会長
鳥飼 玖美子
10:10-11:50
[基調講演]
The Roles of Interpreters in Multilingual and Multicultural Societies
多言語・多文化社会における通訳者の役割
Etilvia Maria Arjona Chang
前・モントレー国際大学大学院通翻訳学研究科長/パナマ翻訳協会代表理事
[Bio] Etilvia Maria Arjona Chang obtained her Master's degree from the Rochester Institute of Technology, New York. She
holds post-graduate degrees from the School of Interpretation, Geneva, Switzerland, the State University of Mons,
Belgium. She obtained her Ph.D. at the School of Education of Stanford University, Stanford, California. Dr. Arjona served
as the Dean of Translation and Interpretation Department of the Monterey Institute of International Studies in Monterey,
California and held different positions at the State University of New York, Binghamton, Florida International University,
Montclair State College, New Jersey, Fu Jen Catholic University in China, and Hawaii University in Manoa, Hawaii and
many other international organizations. Dr. Arjona is an Authorized Public Interpreter in the Republic of Panama and a
Certified Federal Court Interpreter by the Administrative Office of US Courts, Washington, D.C. Her numerous publications
concern mainly Translator and Interpreter training and testing. Currently Dr. Arjona is serving as a private advisor and
consultant to the First Lady of the Republic of Panama, Ruby Moscoso de Young.
12:00-12:30 会員総会 (以下、主な項目のみ記載)
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活動報告
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会計報告
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理事・役員改選について
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次期活動計画および予算案について
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第8回総会・大会について
※ 総会に出席できない方は必ず事前に委任状を提出してくださるようお願いします。
12:30-1:30 昼食休憩
1:30 - 5:30 研究発表
第1会場
第2会場
第3会場
コミュニティ通訳関連テーマ
通訳翻訳の教育・実践・応用研究
多文化多言語社会関連テーマ他
1:30 - 2:00
コミュニティ通訳分科会招待講演:
ローカリゼーションにおける翻訳と翻訳理論 多文化社会における教会通訳者の役割―ニ
日本における医療通訳:専門職にするために 研究
ュージーランド、オークランドの教会通訳の現
必要なこと
状報告から
山田 優(翻訳者)
押味貴之(日本英語医療通訳協会理事、慶友
和久井由紀子(Unitec New Zealand)
会吉田病院健康相談センター医師)
2:10 - 2:40
コミュニティ通訳分科会シンポジウム
政府折衝における通訳者の役割
通訳者の役割―スポーツ大会選手村医務室
「司法通訳にとっての等価性とは―正確な通訳 天川由起子(千葉科学大学)
通訳の場合
の可能性と限界」
宮崎操(舞鶴高専)
[ 司会 ] 水野真木子(コミュニティー通訳分科会
2:50 - 3:20
代表)
字 幕 翻 訳 と 英 語 教 育 ― C o o p e r a t i v e 中国語から日本語への放送通訳における問
[発表者] 毛利雅子(英語)、吉田理加(スペイン Language Learning (CLL) の観点から
語)、津田守(フィリピノ語)
稲生衣代(青山学院大学)
題点の考察
陳蘇黔(放送通訳者・会議通訳者)
3:20 - 3:40
Coffee Break
3:40 - 4:10
韓国の法廷通訳人に関する例規についての一 名古屋地域の通訳市場の特徴と大学におけ 独日通訳と多言語主義
考察
る通訳教育の問題点、現場体験重視の通訳 吉村謙輔(中央大学商学部)
成川彩(大阪外国語大学大学院通訳翻訳学専 教育
修コース博士前期課程)
中村幸子(愛知淑徳大学)
浅野輝子(名古屋外国語大学)
4:20 - 4:50
大阪外国語大学大学院における医療通訳教 Simultaneous Interpreter Gestures: Do they 大学における聴覚障害がある学生への講義
育
change as the trainee acquires the skill of 通訳の支援―要約型文字通訳(ノートテイク)
堀 朋子(大阪外国語大学大学院通訳翻訳学 simultaneous interpretation?
専修コース博士前期課程)
の指導法の実証的検討
古山宣洋(国立情報学研究所)野邊修一・染 吉岡昌子(立命館大学院文学研究科博士後
谷泰正・鈴木美緒(青山学院大学)関根和生 期課程)
(白百合女子大学)
5:00 - 5:30
学生ボランティアグループ「アミーゴス」活動報 需要に応える通翻訳学研究科修士課程カリ オンライン表示に基づく通訳研究の可能性
告 ― 公立小学校の外国人児童への学習支援 キュラム
活動
奥出桂子・和田更沙・中村未央(東京外国語大 通翻訳学研究科)
学大学院地域文化研究科博士前期課程)
6:00 - 8:00
水野的(立教大学)
ウィンター良子(モントレー国際大学大学院 船山仲他(神戸市外国語大学)
懇親会
会場:学内特別食堂(会場まで別途ご案内します)
※ 発表=20分、質疑応答=10分
※ 懇親会費(1人 4,000 円)は当日、受付で(または懇親会場にて)お支払いください。
[大会実行委員長]
鶴田知佳子(東京外国語大学)
[発表会場担当理事]
第1会場:鳥飼・水野(真)、第2会場:田中・染谷、第3会場:西村・船山・永田
[close]
発表要旨
コミュニティ通訳分科会招待講演:「日本における医療通訳:専門職にするために必要なこと」
押味 貴之
日本英語医療通訳協会理事、慶友会吉田病院健康相談センター医師
国際化が進む日本には現在約200万人の外国人登録者が居住している。また少子高齢化社会の進行は海外の労働力への依存
を強め、日本国内の言語・文化の多様化は今後一層加速すると考えられる。ここでは医療における多言語・多文化対応の役割を
担う「医療通訳」について、その概要と課題、そして課題克服のための具体策を提示する。
1. 医療通訳の概要
医療通訳には「言葉を伝える役割」「患者の理解を確認する役割」「文化の説明をする役割」そして「患者に救いの手を差し伸べ
る役割」という4つの役割が求められる。このため医療通訳者には非常に高度な専門技術が必要とされる。
2. 医療通訳における課題
医療通訳先進国と比較した場合、日本では「スキル」「認知」「人材」そして「システム(財源)」という4つの不足が課題として挙げ
られる。
3. 課題克服のための具体策
上記4つの不足のうち、「スキル」の不足は医療通訳先進国の倫理規定や育成法を用いることで、そして「認知」と「人材」の不足
は医療通訳研修会などで充実可能と考える。最も充実困難な「システム(財源)」に関しては、医療通訳を「Medical
Communicator」(「医療」と「言語」の両分野にまたがった専門職)の一分野と捉え、多様な職業形態を選択することで充実可能と
考える。
4. 結論
医療通訳は患者の生命に関わる「医療行為」であり、高度な専門技術が求められる。このため「専門職」として確立する必要が
あるが、その実現のためには職業形態を「Medical Communicator」として多面的に捉える必要がある。
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コミュニティ通訳分科会シンポジウム:「司法通訳にとっての等価性とは―正確な通訳の可能性と限界」
[司会] 水野真木子(コミュニティー通訳分科会代表)
[発表者] 毛利雅子(英語)、吉田理加(スペイン語)、津田守(フィリピノ語)
昨年11月に、コミュニティー通訳分科会で司法通訳者の倫理原則についての試案を作成したが、これは、主にアメリカ、オーストラ
リアの倫理規定を参考にしたものであり、日本の現状にとってふさわしいかどうか検討する必要があった。この原則案に対して寄
せられたコメントの中で、通訳の正確性をどう定義するのかという問いかけがあったが、これは原則案の中の「通訳人は、原発言に
対する削除、省略、追加、編集などをせず、ありのままに伝えなければならない」「通訳人は、原発言のニュアンスやそのレジスタ
ー(言語使用域)にも忠実に訳さなければならない」という部分に関わるものである。これは通訳の本質を突く問題である。特に司
法の場においては「正確性の担保」が通訳人にとっての最も重要な使命であるとされている。
通訳人にとって「ありのままに伝える」などということは可能であろうか。さらに、原発言のニュアンスやレジスターに忠実に訳すと
いうことも、どの程度可能であろうか。今回のワークショップではこの問題を取り上げ、「通訳の等価性」というテーマのもとに、司法
の現場での通訳の正確性の可能性と限界について考える。構成は、英語、スペイン語、フィリピノ語の司法通訳経験者がそれぞれ
の言語に焦点を当てつつ、通訳の「等価性」についての考察を発表し、参加者全員でディスカッションを行う。
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韓国の法廷通訳人に関する例規についての一考察
成川 彩
大阪外国語大学大学院通訳翻訳学専修コース前期課程 (S)
韓国の裁判所における「通訳・翻訳及び外国人事件処理に関する例規」(全16条)を紹介するとともに、同例規が制定されるに至
った背景や刑事事件(公判)の状況について、韓国の裁判所や法廷通訳人から直接に得られたデータをもとに解説を加える。韓国
は日本と比較的近い司法制度を抱える国であり、司法通訳人資格認定制度を持たないまま年々増加する要通訳外国人事件を処
理してきているという点でも共通している。したがって、韓国における司法通訳翻訳の在り方を探ることは日本にとっても大いに参
考になると思われる。
この例規によると、法廷で通訳について被告人から異議が出された場合の対応方法や通訳及び翻訳料算定基準など、かなり細
部にわたって具体的に定められている。例えば、第7条においては裁判所が定期的に通訳人・翻訳人に対して訴訟手続きや専門
法律用語に関する教育を実施しなければならない旨、定められている。(ちなみに日本ではこのような事項は公にされた規定として
は存在していない。)こういった内容がどの程度、またいかなる形で実施されているのか、裁判所と法廷通訳人の双方の視点から
考察をしてみたい。
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大阪外国語大学大学院における医療通訳教育
堀 朋子
大阪外国語大学大学院通訳翻訳学専修コース前期課程 (S)
日本において外国人登録をしている者や来日外国人観光客の数はともに近年増加してきており、それに伴い国内で日本語を母語
としない外国人が何らかの医療サービスを受ける機会が多くなっている。日本語によるコミュニケーション能力が不十分な外国人
は医療従事者との間で的確な意思疎通が行えないという問題があり、そのような場面での医療通訳のニーズが急速に高まってい
る。この社会的需要に対応するために、大阪外国語大学大学院では2004年度より「医療通訳翻訳の実務論」と題する科目が、博
士前期課程に在籍する大学院生に向けて開講されている。本科目を受講する学生の運用可能言語は多言語にわたる。本科目が
このように多言語を対象とする理由は、医療の現場で通訳サービスが必要とされる言語が多種にわたるからである。
本発表では、大学・大学院レベルにおける医療通訳教育の具体例のひとつとして本科目を取り上げ、内容と特徴を検討する。発
表者自身が本科目の2005年度受講生であったことを生かし、シラバス(授業内容計画書)からは読み取れない実際の講義内容
や、授業中に実施された通訳実技に関連するトレーニングなども紹介する。また最終講義日に、全受講生を対象にアンケート調査
を行った。その結果をもとに、受講生の本科目に対する評価をまとめる。以上の考察に加え、地方自治体などが開催している他講
座との比較により、本科目の問題点や将来に向けた課題を探りたい。
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学生ボランティアグループ「アミーゴス」活動報告―公立小学校の外国人児童への学習支援活動
奥出桂子・和田更沙・中村未央 (S)
東京外国語大学大学院地域文化研究科博士前期課程
同外国語学部ポルトガル語専攻
「自分たちが学んでいる外国語を生かして草の根レベルでの活動をやりたい」というポルトガル語専攻の学生20名ほどが中心にな
って始まった学生ボランティアグループ「東京外大在日外国人交流ネットワーク∼Amigos」は今年で4年目をむかえた。同グループ
はこれまで川崎市や新宿区の小学校でおもにブラジル人児童への学習支援ボランティア活動を行ってきた。東京外国語大学で
は、この学生の活動を受けて2004年10月に「多文化コミュニティ教育支援室」を開設し、「アミーゴス」の活動支援だけでなく、同支
援室主催の各国語専攻学生や留学生による公立小中学校の国際理解教育ボランティア、府中国際交流サロンでの日本語学習支
援ボランティアなど活動の幅を広げている。また、同支援室は研修プログラムや調査研究の実施、多言語多文化社会論講座の開
催等を通じて、多言語多文化共生推進活動を行い、さらに本年6月には「多言語・多文化教育研究センター」を発足させた。
今回は公立小学校における外国人児童への学習支援としてのボランティア通訳活動を実践者が報告し、多言語多文化社会にお
ける通訳者の役割の一例を提示したい。
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ローカリゼーションにおける翻訳と翻訳理論研究
山田 優
翻訳者
Localization of software and websites makes up the largest share of business in the language industries of our time. Its
uniqueness in discourse and use of technologies such as computer-aided translation distinguishes localization from other
translation work. The business requirements of localization means that large volumes of text must be translated in a short
period of time, and therefore requires multiple translators working as a team. Under these circumstances, Translation
Memory technology has become the de facto standard. It works not only as a text recycling tool but also as a bridge
among translators to maintain quality levels. While there are pros and cons, discussions on these topics seem of interest
to only professional translators. Very little academic research on localization discourse has been conducted in terms of
linguistics and translation theories, perhaps because localization is new to translation studies, and vice versa. Thus, the
challenge here is to make closer connections between the two. In this regard, this top provides a brief survey of the
localization industry from perspectives of business workflow, people associated, and technological support (such as
Translation Memory). Attempts are also made to look at particular problems with localization in terms of current translation
studies, such as Skopos theorie and Pym's (2005) Interlingua architecture.
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政府折衝における通訳者の役割
天川 由起子
千葉科学大学
私は6年前に森内閣が発足したときに総理の press secretary になり、小泉内閣発足と同時に内閣官房長官の専属通訳兼外交
担当アシスタントになった。以前よりも官邸外交を今日かさせることを実施してきたため、外務大臣よりも官房長官に外交の責任が
シフトした結果、官房長官にも通訳が必要になったためである。私が過去5年間通訳を行った結果から、高度な外交通訳における
通訳の役割、特に難しい外交駆け引きを必要とする場合のことばの選択について、できる限り、この発表において検証していきた
い。
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字幕翻訳と英語教育―Cooperative Language Learning (CLL) の観点から
稲生 衣代
青山学院大学
本発表では Communicative Approach の一つであるペアや少人数のグループが協同作業を通じ学習する Cooperative
Language Learning (CLL) を導入した CALL教室で行う字幕翻訳クラスについて考察する。字幕翻訳とは本来、翻訳者が映像に
合わせ推敲を重ね、字幕を完成させるという孤独な作業である。大学の字幕翻訳のクラスの場合は個別に字幕を作成することもあ
るが、グループ毎に映像翻訳プロジェクトに取り組むこが多い。英語教育の指導法の一つである Cooperative Language
Learning の手法をとることで、学生の学習意欲を高め、訳出の際のストレスを減らし、競争ではなく協調姿勢を習得させることが可
能である。また Content-Based Approach と組み合わせることにより、ある特定のテーマについてグループごとに理解を深めるこ
とが可能になる。ただし、グループ分けやタスクに関して事前に教師側が入念に検討することが不可欠である。
以上、本発表では本来一人で行うことが多い字幕翻訳の作業をペア・グループで行わせる上で問題になる点や英語教育上の効
果について、実際に担当しているクラスの考察を踏まえて発表する。
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名古屋地域の通訳市場の特徴と大学における通訳教育の問題点
中村 幸子(愛知淑徳大学)
名古屋周辺の中部地域では製造業を中心とする企業の通訳需要が多いという特徴がある。こうした企業等での通訳現場ではいわ
ゆる技術・産業・ビジネス通訳と会議通訳との間の明確な線引きは存在しない。同通業務も規模の差はあれブース、パナガイドを
問わず多々発生しており、この地域では従来のビジネス通訳や技術通訳を越えた新たなカテゴリーが生まれているといってよい。
メーカーが同通付きの国際会議を主催する時代となり、最近では英語コミュニケーション力がありかつ技術用語も分かる人材が必
要とされている。しかし名古屋地域の大学の通訳教育においては、このような傾向を反映する教育内容とはなっておらず、市場ニ
ーズにほとんど応えられていないのが現状である。本発表では名古屋地域の通訳市場の特徴を概観し、大学・大学院での通訳教
育の実態と問題点を指摘し、解決策を模索したい。
現場体験重視の通訳教育
浅野 輝子(名古屋外国語大学)
現在、大学教育では、実際の通訳現場に対応できる人材を育成する為の教育が求められています。私が所属する大学では、全国
でもまれな同時通訳室の施設を使って通訳技術の向上を目指す教育を行っています。通訳入門、初級クラスでは、通訳の仕事へ
の理解を深めると共に、将来の職業選択の幅を広げようとしています。通訳中級、同時通訳入門クラスでは、通訳に興味のある学
生や、才能のある学生を対象として、より専門的な同時通訳の技術を教えようとしています。また、現場の体験をさせる為に、以下
のような試みを行っております。万博の語学ボランティア、臓器移植全国スポーツ大会での医療語学ボランティア、海上保安庁取
調べ官との交流、法廷通訳傍聴など。そのような教育についてご報告したいと思います。
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Simultaneous Interpreter Gestures: Do they change as the trainee acquires the skill of
simultaneous interpretation?
古山宣洋(国立情報学研究所)、野邊修一・染谷泰正(青山学院大学文学部英米文学科)
関根和生(白百合女子大学大学院)、鈴木美緒(青山学院大学大学院文学研究科)
Recent studies on speech and gestures show that they are an integral part of utterance production. In a typical formal
training setting of simultaneous interpreters, trainees are encouraged not to depend on gestures when engaged in
simultaneous interpretation. Despite this anti-gestural policy, anecdotal evidence shows that some, if not all, simultaneous
interpreters and trainees do produce gestures during their interpretation. To understand the role of gestures in
simultaneous interpretation, we are building a corpus of videotaped data of simultaneous interpretations. Last year, using
the corpus, we reported our earlier study on gestures by trainees engaged in simultaneous interpretation from Japanese
into English and it showed that, although there were individual differences, when gestures were used, their quantity and
quality changed as the strategy of interpretation changed. The present study describes whether the same holds true for
the trainee's simultaneous interpretation from English into Japanese. The results suggest that studies of interpreter speech
and gestures will shed light on the process of interpretation from a new and unique perspective and provide new indices of
the skill level of simultaneous interpretation and, hopefully, ideas for new methods of training simultaneous interpreters.
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需要に応える通翻訳学研究科修士課程カリキュラム
ウィンター良子
モントレー国際大学大学院通翻訳学研究科
モントレー国際大学大学院通翻訳学研究科修士課程に日英語プログラムが併設されほぼ20年になるのを機会に、卒業生を対象
にアンケートを行なった。その回答を中心に需要に応える通翻訳者教育修士課程のカリキュラムの在り方を考えたい。始めに当大
学院通翻訳学研究科入学時の適性試験、専攻別履修課目とその履修順序、教育内容,各試験と進路の決定、当大学院の特徴で
もある4大学院参加の多言語合同実習コースについて説明する。次に卒業生について、学部での専攻科目および入学前の仕事
経験の有無、修士号習得後の就職状況、仕事の内容、在学中に習得した課目で役に立ったもの、役に立たなかったもの、授業の
内容、テーマ、教授の資格、教え方などを含めた全体的な授業評価、今後強化すべきだと考える既存課目、新設すべきだと考える
課目、最近のアメリカの通翻訳者市場の変化を考察し、最後に専門職としての翻訳者通訳者の日米における社会的地位について
私見を述べてみたい。
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多文化社会における教会通訳者の役割―ニュージーランド、オークランドの教会通訳の現状報告から
和久井由紀子
Unitec New Zealand
ニュージーランドは移民を多く受け入れる国の代表的な国でもあり、最も大きな都市である人口 130 万人のオークランドには 250
もの人種が共存している。いわば多文化社会である。そして多くの外国人は、宗教を持つ持たないにかかわらず、コミュニティに属
するために・会に足を運ぶ。教会は、これら他国からの人々が地域社会の一員としてニュージーランド社会に軟着陸できるよう、さ
まざまな形で援助を試みようとし、その結果、ここ 10 年の間にインターナショナル的要素を掲げる教会が増え続けている。教会に
よっては 20 カ国以上の国籍の人が集い、簡単な英語で礼拝を持つところもあるが、通訳を介して説教を行う教会も外国人増加に
伴って増えてきた。教会通訳に関して、手話通訳の先行研究は多々行われているが、その他の教会通訳の研究、調査は 皆無に
等しく、その実態や特性は把握されていないのが現状である。しかし、このように多文化社会化が進む中、今後教会通訳の需要も
高まると考えられ、明確な教会通訳者の役割提示が為されることが望まれる。
本発表は、教会通訳者の役割を明確にするためのガイドラインを作成するにあたっての予備調査の報告を目的とし、教会通訳
の本質について述べた上で、ニュージーランドにおける教会通訳の現状を報告する。調査にあたり、オークランド在住の教会通訳
者(英語、中国語、広東語、韓国語、日本語への通訳者15名)、教会責任者(4名)、および通訳を介して説教を行う説教者(6名)
を対象に自由回答形式の質問を行い、回答してもらうという形式のインタビューを実施し、その結果をもとにそれぞれの見解を分
析、考察した。
back
通訳者の役割―スポーツ大会選手村医務室通訳の場合
宮崎 操
舞鶴高専
1994年のアジア大会広島 94と、1995年のユニバーシアード福岡大会で、筆者は選手村医務室で通訳者として勤務した。病院で
の通常の医務室勤務を筆者は経験していないので、比較しようがないのだが、通常の病院での医療通訳と共通している部分もあ
り、異なる部分もあるようである。スポーツ大会医務室通訳の特徴で、病院での通常の医療通訳と異なっていると思われるのは主
に以下の点である。
1. 比較的経済的に余裕のある国、大選手団を派遣している国は自国の医療団・医療器具を持ち込んでいる。そのため英語を母
国語とする患者は比較的少ない。ユニバーシアードではアイルランドおよびニュージーランドの患者が来訪したが、アメリカ、イギリ
スの患者は筆者の勤務時間中はゼロ、カナダは1度来訪した。
2. アジア大会での公用語は、英語以外では、ロシア語・フランス語・中国語であった。1年後のユニバーシアード福岡は広島に多
くを学んで不要な経費を削減し、公用語は英語・フランス語であった。
3. 直接医師と患者との間の通訳そのものよりもその周辺とも言うべきさまざまなできごと、トラブルが連日起こった。本年7月30日
に医療通訳ワークショップが大阪で開かれ、非常に学ぶところ大であったが、その中のルール「通訳の意見やアドバイスを入れな
い」は黒子たる通訳者の基本的態度としてそうあるべきではあるが、忠実に実行していれば業務に差支えが出たり、トラブルが大
きくなったりしたのではないかと思われるようなことが多々あった。また事務方(広島市・福岡市から交代で派遣される市職員)・医
師からアドバイスを求められること、患者が医療以外の要求を出すことも多々あった。このためいろいろなケースを多くの方と共有
して議論の土台を提供する必要があると考えて、いささか古いことではあるが、本発表をすることにした。
back
独日通訳と多言語主義
吉村 謙輔
中央大学商学部
日本では普通、同時通訳と言えば日英・英日を連想する。しかし世界的には国際会議での「英語以外の言語」のウェイトはかなり
大きい。多言語主義の重要性についての認識も、「多様性のなかの統一性」を明確に打ち出す EU の言語政策などに刺激され、
今後は徐々に深まるに違いない。例えばドイツ語は国連の専門機関の一つである ILO の公用語になっていて、ジュネーブの本部
では、ほとんど全ての会議室にドイツ語常設ブースが設けられている。日本語は ILO の公用語ではないが、実際にはいくつかの
ホールに日本語ブースも常設されている。
G8 サミットでも、なるべくリレー避けて「正確な訳を」との配慮から、独日・英日混合ブースが採用されたケースがある。会議通訳
者のギルド的な組織である国際会議通訳者協会(AIIC)は現在、世界80カ国に約2700名の会員を有しているが、会員の言語構成
を見ると、1位は英語(2634名)、2位はフランス語(2226名)、そしてドイツ語が3位(1066名)に位置している。ドイツ語圏では多く
の大学に通訳・翻訳科が設置されていて、そこでは理論・実技・職業倫理の三位一体の体系的な教育が行われている。「英語が国
際共通語として普及すると国際会議が通訳を介さずに英語だけで行われるようになるから通訳者は不要になる。」という悲観論は
もはや聴かれない。むしろ英語が「あたりまえ」になるにつれて、英語以外の言語の重要性への認識が深まる。そして、専門知識と
語学力を融合した「会議通訳」という「若い」職業は将来有望な専門職として注目されている。
back
中国語から日本語への放送通訳における問題点の考察
陳 蘇黔 (ちんそけん)
放送通訳者・会議通訳者
中国語ネイティブが日本語へアウトプットするときの問題や経験について検討する。NHK衛星放送において中国発信のニュース
の通訳は89年からの字幕スーパーが始まりで、現在は夜の CCTV ニュース、朝の国際チャンネルニュース、夕方の香港フェニッ
クス TV の討論番組など、主に3つの定時時差通訳がある。日本語ネイティブの方と中国人通訳がシフト制で作業に当たってい
る。中国という異なる文化において放送されている番組を、日本語に放送通訳をして日本の視聴者に理解してもらうために、用語
の選択、情報の編集、アイデンティティの問題、あるいは中国語の環境の変化、中国語ネイティブにありがちな問題、限界、あるい
は強みについて、自身の経験を踏まえ検証の対象にして、提起したい。
back
大学における聴覚障害がある学生への講義通訳の支援∼要約型文字通訳(ノートテイク)の指導法の実
証的検討
吉岡 昌子
立命館大学院文学研究科博士後期課程 (S)
近年、大学など高等教育機関に進学する聴覚障害がある学生の数は増加の一途を辿っている。彼らがインクルージョンされた環
境の中で学ぶには、ノートテイク(要約型文字通訳)の提供は不可欠である。しかし、現状では通訳サービスは十分な知識や経験
をもたない一般の学生によって担われて、本格的な指導はなされていない。また、現場では経験則的に様々な技法が用いられ、個
別の技法がどの程度効果をもつのか、学習者の動機づけを高めるにはどのような方法が有効か、といった問題が明らかにされて
いない。
そこで、本研究ではその足がかりとして、通訳の最も基本となるスピードと正確さの改善を目的に2つの指導法の効果を比較・検
討した。その2つとは、毎回の通訳後に (1) 他者(実験者)が所定の基準に基づき通訳内容を評定し、その得点をフィードバックす
る条件 (2) 学習者自らチェックリストを用いて通訳内容を評定し、自己採点をする条件である。その結果、(1) よりも (2) の条件に
おいて通訳の正確さとスピードには大きな改善が見られた。また、事後の内省報告から (1) のチェックリストを用いた自己評定は学
習への動機づけを高め、学習を促す自己ルールの精緻化にも効果的であることが示唆された。これは、永田(1998)が逐次通訳
のノートテイキング指導において指摘した「技能を身につけるには『指摘される』という行為よりも『自覚する』という能動的な行為が
より有効」であるという示唆にも合致するものであった。考察では、本研究の結果から得られるノートテイク指導への示唆と今後の
課題を検討した。
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オンライン表示に基づく通訳研究の可能性
水野 的(立教大学)
船山 仲他(神戸市外国語大学)
通訳についての理解を深めるためにはどのような研究が求められるのであろうか。本発表ではまず認知語用論、関連性理論、フレ
ーム意味論、メンタルモデル理論などにもとづき、同時に通訳研究分野主要理論との関連を探りながら、原発話の理解のオンライ
ン表示に基づく通訳プロセスの研究手法を提案する。また、通訳データの扱い方にも論究する(船山)。この提案を受けて、今度は
この通訳プロセスの研究を、interdiscipline といわれる広大な通訳研究全体の中に位置付けながら、そこに現れる主要な概念や
方法を、情報処理パラダイムやワーキングメモリ研究などによる通訳研究と関連づける形で批判的に検討する(水野)。こうした吟
味を踏まえて、提案された研究方法をさらに精緻化する方向性を示し、特に「同時」通訳プロセスのオンライン記述を論じる(船
山)。
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(c) 2006 Japan Association for Interpretation Studies (JAIS)