妊婦に対する抗甲状腺薬治療 についての最近の考え方 すみれ病院 すみれクリニック Sumire Thyroid Group バセドウ病と妊娠に関する問題点 妊娠可能年齢の女性に多い疾患 わが国では治療の第一選択は抗甲状腺薬 妊娠を予定している患者に対する抗甲状腺 薬治療はどうすればよいか 抗甲状腺薬治療中の患者が妊娠した場合ど うすればよいか Sumire Thyroid Group バセドウ病妊婦における 種々の物質の胎盤移行性 母体 胎盤 胎児 TRH TSH T3 T4 ヨード 抗甲状腺薬 TSH受容体抗体 Sumire Thyroid Group 甲状腺ホルモン過剰が 妊娠経過あるいは母体に及ぼす影響 妊娠初期 • 流産 20週以降 • 流早産 • 妊娠高血圧症(妊娠後半) 周産期 • 甲状腺クリーゼ(極端にコントロールが悪い例) 甲状腺機能のコントロールで避けられる Sumire Thyroid Group 母体のバセドウ病が 胎児・新生児に及ぼす影響 母体のTSHレセプター抗体(胎盤通過) • • 胎児の甲状腺機能亢進(妊娠後半) 新生児の一過性甲状腺機能亢進 母体の甲状腺ホルモン過剰 • 奇形の発生は否定的 • 新生児の一過性中枢性甲状腺機能低下症 母体への抗甲状腺薬投与で避けられる (胎児の治療を兼ねている) Sumire Thyroid Group これまでの考え方 抗甲状腺薬で甲状腺機能がよい状態にコン トロールされていれば、妊娠・出産に問題は ない 産後の授乳を考えるとプロパジール、チウラ ジール(PTU)を選択 確実な効果を考えるとメルカゾール(MMI)を 選択 どちらを選んでも、一般の奇形発生率と差は ない Sumire Thyroid Group メルカゾールの添付文書 1999年7月改訂 奇形について • MMI: 妊娠中の投与により、新生児に頭皮皮膚 欠損症、臍帯ヘルニア、臍腸管の完全または部 分的な遺残(臍腸管瘻、メッケル憩室等)、気管 食道瘻を伴う食道閉鎖症、後鼻孔閉鎖症等があ らわれたとの報告がある。 • PTU: 奇形の記載無し Sumire Thyroid Group バセドウ病妊婦における 妊娠初期の抗甲状腺薬治療 と奇形発生頻度について 伊藤病院 すみれ病院 Sumire Thyroid Group 対 象と方 法 1990年から2003年までにバセドウ病妊婦 から生まれた新生児5,437名における、奇形 発生の有無と、母親の妊娠初期 (4~12週) の治療との関係を検討(伊藤病院症例) Sumire Thyroid Group 妊娠初期の治療内容と奇形発生頻度 (伊藤病院) 治療内容 治療無し チラーヂンS 抗甲状腺薬 MMI PTU MMI→PTU その他 ヨード n 2,437 353 2,584 1,936 608 32 8 63 奇形発生数 頻度(%) 43 8 92 73 18 1 0 0 1.76 2.27 3.56 3.77 2.96 3.12 0.00 0.00 Sumire Thyroid Group 抗甲状腺薬服用例における奇形 (伊藤病院) 一般の頻度 0.02% 一般の頻度 0.03~0.004% MMI PTU (n=1936) n % (n=608) n % 治療無し (n=2437) n % 臍帯ヘルニア 11 0.55 0 0.00 2 0.08 頭皮欠損症 10 0.50 0 0.00 0 0.00 心室中隔欠損症 7 0.35 6 0.97 13 0.53 臍腸管瘻 5 0.25 0 0.00 1 0.04 動脈管開存症 4 0.20 1 0.16 2 0.08 Sumire Thyroid Group 臍帯ヘルニア 臍帯内に腹腔内臓器(主に腸管や肝臓)が脱 出したもの 約20%は子宮内や分娩時に脱出した部分が 破れて死亡 胎生3~4週の腹壁形成障害と、胎生8週こ ろの中腸の腹腔内への還納障害の2つの説 がある Sumire Thyroid Group 先天性頭皮欠損症 Aplasia cutis congenita (ACC) 出生時から表皮、真皮、 皮下組織、時には筋肉、 骨にまで達する欠損 70%が頭頂、単発、 3cm程度が大部分 Sumire Thyroid Group 臍腸管瘻 胎生早期(7週頃まで)に卵黄嚢と中腸をつな いでいる卵黄嚢管(臍腸管)が消失せずに 残ったもの。 Sumire Thyroid Group 頭皮欠損症・臍腸管瘻児の 母の妊娠初期MMIの服用量 MMI服用量 (mg/日) 30 20 15 12.5 10 5 2.5 頭皮欠損症 (n) 1 1 1 1 4 1 臍腸管瘻 (n) 2 1 1 1 Sumire Thyroid Group 本検討のまとめ 母体へのMMI投与が、新生児の臍帯ヘルニ ア、頭皮欠損症、臍腸管瘻などの発生に関与 している可能性が示唆される 服用量との関係は無い 大半の患者では発生をみない 遺伝子など他の因子の関与がないと 起こらないものと考えられる Sumire Thyroid Group 妊娠可能年齢の女性に 対する抗甲状腺薬治療 実際にどうするか Sumire Thyroid Group 近い将来妊娠の予定がない場合 甲状腺機能抑制効果がより確実で、かつ副 作用の少ないMMIを選択する。 妊娠予定となった時点で、甲状腺機能のコン トロールが安定していればPTUにあらかじめ 変更し、妊娠を許可する。 Sumire Thyroid Group 近い将来妊娠を予定している場合 PTUで治療開始する。 重症の機能亢進症の場合、あるいはPTUで コントロール困難な場合は、妊娠を待ってもら い、MMIで治療を開始する。 • 甲状腺機能がある程度コントロールされ、落ち着 いた段階で、PTUに変更し、さらに安定していれ ば妊娠を許可する。 Sumire Thyroid Group MMI内服中に妊娠してしまった場合 (1)妊娠8週以前 PTUに変更する。 少量のMMIでコントロールできている場合は、 無機ヨードでもよい。あるいは一時的に投与 を中止して、経過観察する Sumire Thyroid Group MMI内服中に妊娠してしまった場合 (2)妊娠8週を過ぎている MMIを継続する 患者への説明は • 妊娠初期にメルカゾールを服用した場合に、子ど もが特殊な奇形をもって生まれるとの報告がある が、ほかになんらかの素因がなければ起きない と考えられている。まれであるために現在どのぐ らいの確率で発生するか分かっていない • 中絶には全く危険がないとはいえない • この先必ず妊娠するという保証はない Sumire Thyroid Group 妊娠後にバセドウ病であることが わかった場合 妊娠8週以前の場合は、PTUで開始する • 軽症の場合は、無機ヨードで経過をみてもよい 妊娠8週を過ぎている場合 • 亢進の程度が中等度以上の場合は、効果の確 実なMMIで治療開始する • 亢進の程度が軽度の場合は、MMI・PTUどちら でもよいが、授乳を考えPTUを優先してもよい • さらに軽症の場合は、無機ヨードでもよい Sumire Thyroid Group 妊娠中の投与量 妊娠20週まで • 胎児の甲状腺機能への影響はないので、FT4を 基準値に保つ 20週以降 • 胎児の甲状腺機能の方がやや強く抑制されるの で、母体のFT4を基準値上限付近に維持する • ただし、母体に機能亢進と関連した合併症が生じ た場合は、基準値内に維持する。その結果、児 に一過性の低下症を生じても、生後の回復は早く、 まずは問題ない。 Sumire Thyroid Group 授乳について PTU 6錠/日以下、MMI 2錠/日以下であれ ば、授乳を行っても乳児の甲状腺機能に影 響はない。 Sumire Thyroid Group
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