紫外線によって生じる 皮膚疾患の診断と治療

Cu rre nt Topics in Der m atolog y
紫外線によって生じる
皮膚疾患の診断と治療
監 修
近畿大学医学部 皮膚科学教室 教授
川田 暁 先生
春先から夏にかけては、日光皮膚炎に代表される紫外線を原因とした
肌のトラブルが急増する。
皮膚の紫外線感受性は人により異なることから、
サンスクリーン剤は使用目的だけでなく個人の感受性をふまえて選択
できるよう指導することが欠かせない。
また、
薬剤性光線過敏症のように
原因薬剤の除去が必要となる疾患の鑑別も重要となる。これら紫外線に
よって生じる代表的な皮膚疾患の診断と治療のポイントについて、近畿
大学医学部皮膚科学教室教授の川田 暁先生にうかがった。
Dermatology
in
この急性期の反応が消失した後に、3〜5日たって
紫外線が皮膚に及ぼす影響
起こる褐色の色素沈着反応がサンタン(写真1-b)と
なります。
我々の研究により、日本人の皮膚はサンバーンと
太陽光線は、波長により紫外線、可視光線、赤外線
サンタンの反応性が異なる3タイプに分かれること
に分類されています。紫外線領域は生物学的な作用
が明らかになりました。真夏の正午前後に1時間、直射
の違いにより、さらにUVC(短波長紫外線、200〜
日光に当たった際
〔約3MED(Minimal Erythema
290nm)
、UVB( 中 波 長 紫外 線、290〜320nm)、
Dose;最少紅斑量)に相当〕に、紅斑と色素沈着が
UVA(長波長紫外線、
320〜400nm)と分類されて
ともに平均的に起こる皮膚をタイプⅡとし、それよりも
います
(図1)。この中で、UVCとUVBの一部、波長
紅斑が強く出るが色素沈着は弱いものをタイプⅠ、
でいうと300nmよりも短い紫外線はオゾン層で
紅斑をほとんど起こさず色素沈着が強く起こるもの
吸収されるため地上まで到達しません。したがって、
をタイプⅢと分類しています(表1)。
日常診療で問題となる紫外線はUVAとUVBという
最も多く平均的なスキンタイプはタイプⅡで、紫外線
ことになります。
感受性はタイプⅠが最も高く、タイプⅢに比べタイプⅠ
具体的な作用をみると、UVBには強い紅斑(サン
では約2倍になっています。紫外線感受性が高いと
バーン)に加え褐色の色素沈着
(サンタン)を起こす
いうことは紫外線による皮膚障害を起こしやすく
作用と発癌作用、
UVAは紅斑、色素沈着の作用ともに
なり、長期的には光老化を進行させ皮膚癌のリスク
弱いですが、
UVBの作用に協調して反応を増強する
も高まることから、タイプⅠの人は他の人よりも厳重
作用、および弱い発癌作用があります。
な紫外線防御策が必要になります。
紫外線による生体反応には、誰にでも起こる皮膚
防御策の基本は、衣服などによる遮蔽とサンスク
障害と一部の人のみに起こる皮膚障害に分けること
リーン剤の使用です。近年、サンスクリーン剤は様々
Current
Topics
ができます。前者は、さらに急性障害と慢性障害に
な種類のものが市販されていますが、
UVBに対する
分類されますが、急性障害の代表的なものが日焼
防御能はSPF値(数値が高いほど効果が高い)で、
け反応(サンバーン、サンタン)です。慢性障害として
UVAに対する防御能はPA分類(+が多いほど効果
は長年にわたって紫外線を浴び続けることによって
が高い)
で表示されています。その選択にあたっては、
起こる光老化
(シミ、シワなど)
や皮膚癌などが知られ
日常的な外出時に使うのか、紫外線の多い屋外で
ています。一方、後者は、光線過敏症が該当し、遺伝
長時間スポーツするときに使うのかといった使用目的
性のものや光アレルギー性のものなど様々な疾患
とともに、上述したスキンタイプの違いも考慮して患者
が知られています。
さんにアドバイスすることも重要です(表2)。
そこで次項では、紫外線によって生じる皮膚疾患
治療としては、皮膚症状のうち浮腫やかゆみが強い
として代表的な日光皮膚炎、薬剤性光線過敏症、多形
場合は皮膚の冷却を指示するとともに、ステロイド
日光疹などについて紹介します。
外用薬を処方します。使用期間が限られるので、顔面
以外ならverystrongないしはstrongといった比較
日光皮膚炎
的強いものが使用可能です。炎症がある急性期は
軟膏基剤では塗布時に圧力がかかり痛みを伴うなど
使用しにくいので、クリームないしはローション基剤の
屋外で長時間直射日光にあたると、主にUVBの
薬剤を選択します。かゆみが強い場合は抗アレルギー
作用によりサンバーンが生じ、その後サンタンが起こ
薬を処方することもあります。さらに重症で発熱、
ります。この2段階の反応が日光皮膚炎の特徴です。
脱水を起こしているような場合は、入院の上ステロ
サンバーンは照射8時間後くらいから起こり、
24時間
イド点滴を行います。
後頃をピークとする、灼熱感を伴う皮膚の紅斑、腫脹
などの症状をさします
(写真1-a)
。紫外線曝露量が
多いと水疱形成に至るほか、重症の場合は発熱、
悪心といった全身症状を引き起こすこともあります。
1
紫外線によって生じる皮膚疾患の診断と治療
多形日光疹
(Polymorphous Light Eruption;PLE)
薬剤性光線過敏症(光線過敏型薬疹)
原因不明の疾患で、露光部に紅斑、丘疹、鱗屑、かゆみなど
薬剤を内服または注射した際に、顔面や前腕伸側、手背
が生じ慢性的な経過をたどります
(写真3)
。皮膚症状が湿疹
などの日光の当たる露光部にあわせて、かゆみを伴う紅斑と
反応であるということ、また症状が慢性化するという点で
丘疹が出現する疾患
(写真2)
で、反復曝露によって皮膚症状
日光皮膚炎とは明らかに異なります。若い女性や中年以降
は拡大し、浮腫や小水疱を伴うなど重症化します。原因薬剤
の男性に多くみられます。症例によって原因となる紫外線は
のなかで頻度が高いものはニューキノロン系抗菌薬とオキシ
UVAないしUVBと異なりますが、日本人はほとんどが
カム系の非ステロイド系抗炎症鎮痛薬
(NSAIDs)
です
(表3)
。
UVBによって発症しています。治療はステロイド薬の外用と
また、近年、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬とサイアザイド
抗アレルギー薬の内服、サンスクリーン剤による防御です。
系利尿薬の配合薬による薬剤性光線過敏症が増加して
います。ニューキノロン系抗菌薬の中では交叉性が知られて
おり、一度同系薬で起こした場合、特に構造が類似する薬剤
慢性光線過敏症
(Chronic Actinic Dermatitis;CAD)
の処方は避けた方がいいでしょう。
発症機序としては光毒性と光アレルギー性があり、光化学
症状としては前述の多形日光疹に類似しますがより重篤で、
反応だけで発症するものを光毒性、光化学反応を起こした
強いかゆみからしばしば掻破痕を伴います(写真4)。原因
結果抗原性が獲得され、宿主の免疫機序により発症するもの
としてはUVAがUVBよりも多く、光線過敏性も強いため、
を光アレルギー性と分類しています。光毒性の場合は大量
重症の患者さんの場合には室内の光にも反応してしまうので
に服用すれば必ず発症することから1回目から起こりうるの
真っ暗にしなくてはならないこともあります。治療は同様です
ですが、光アレルギー性の場合は感作が必要になるので通常
が、特に強力な紫外線防御が必要になります。
2回目以降の使用時に発症します。
診断で特徴的な所見は、顔、耳、首、手背など露光部に
あわせて症状が起こることで、特に夏は着ている服に合った
まとめ
Vネック状になります
(写真2)
。皮膚科専門医の診察では、
本症を疑った場合は確定診断のために光線テストや光パッチ
以上、紫外線によって生じる皮膚疾患の中で、日光皮膚炎
テストなど専門的な検査を行うこともありますが、一般的には
など代表的な疾患を紹介しました。ここに紹介しました疾患
服用薬剤や露光部位の症状などから臨床診断が可能です。
においては、治療法はステロイド外用薬が基本となりますが、
治療としては、疑わしい薬剤を中止するとともに、日光皮膚
疾患によってサンスクリーン剤の選択や原因薬剤の検索など
炎と同様にステロイド外用薬や抗アレルギー薬の内服で対応
異なったアプローチが要求されます。したがって、確実な診断
します。この疾患は主にUVAが原因なので、薬剤が完全に
が第一であることを念頭に診療にあたりたいと考えます。
代謝されるまではUVAに曝露しないよう指導します。外出時
はPAが++++と最も強いサンスクリーン剤を使用するだけ
でなく、窓ガラスはUVAを透過させてしまうので、室内でも
ガラス越しの日光には当たらないよう指導することが大切
です。
また、外用薬による場合は光接触皮膚炎と呼ばれています。
これはケトプロフェンなどのNSAIDsの外用薬で多く報告
されており、外用薬使用時の日光曝露により、貼付していた
部位に紅斑や腫脹などの皮膚症状が出現します。発症機序
は内服や注射時の薬剤性光線過敏症と同様と考えられて
おり、主にUVAによって発症します。
2
太陽
200
290
短波長紫外線
UVC
320
中波長紫外線
UVB
400
長波長紫外線
UVA
760
可視光線
(nm)
赤外線
紫 外 線
※300nmよりも短い紫外線はオゾン層で吸収される。
図1
太陽光線の種類
表1
日本人のスキンタイプ(Japanese skin type:JST)
タイプⅠ
タイプⅡ
タイプⅢ
かなり赤くなる
赤くなる
あまり赤くならない
あまり色がつかない
色がつく
かなり色がつく
スキンタイプ
サンバーン
(紅斑)
サンタン
(色素沈着)
表2
使用目的とスキンタイプ別にみたサンスクリーン剤の適応
種 類
対 象
SPF値
PA分類
備 考
日常用サンスクリーン
(Daily-use sunscreen)
正常人
PA+
5∼20
スキンタイプⅠ
(10∼20)
スキンタイプⅡ
(10∼20)
スキンタイプⅢ
(5∼15)
低刺激、
吸収剤無配合
レジャー用サンスクリーン
(Occasional-use sunscreen)
正常人
PA+
15∼40
スキンタイプⅠ
(30∼40)
スキンタイプⅡ
(20∼40)
スキンタイプⅢ
(15∼25)
耐水性
光線過敏患者用サンスクリーン
(Sunscreen for photodermatosis)
光線過敏症患者
紫外線によって悪化する皮膚疾患患者
40以上
PA++++以上
作用波長に対応
色素性病変後療法用サンスクリーン
(Sunscreen for post-treatment)
色素性病変を治療した後の患者
15∼40
PA++以上
スキンタイプは佐藤と川田の日本人のスキンタイプ分類
(1986)
による。
※SPF:Sun Protection Factor, PA:Protection Grade of UVA
3
紫外線によって生じる皮膚疾患の診断と治療
表3
わが国における薬剤性光線過敏症の主な原因薬剤
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬・サイアザイド系利尿薬 配合薬
ニューキノロン系抗菌薬
ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド
カンデサルタンシレキセチル・ヒドロクロロチアジド
テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド
バルサルタン・ヒドロクロロチアジド
ロメフロキサシン塩酸塩、
ノルフロキサシン、
トスフロキサシントシル酸塩水和物
降圧利尿薬
非ステロイド系抗炎症鎮痛薬
(NSAIDs)
サイアザイド系利尿薬
ヒドロクロロチアジド、
トリクロルメチアジド
ループ利尿薬
フロセミド
ピロキシカム、
アンピロキシカム、
ケトプロフェン
(光接触皮膚炎の報告もあり)
抗悪性腫瘍治療薬
ダカルバジン、
フルタミド、
テガフール、
テガフール・ウラシル配合薬、
フルオロウラシル、
エルロチニブ塩酸塩、
イマチニブメシル酸塩
Ca拮抗薬
ジルチアゼム塩酸塩、
ニフェジピン、
ニカルジピン塩酸塩
その他の薬剤
抗ヒスタミン薬
抗結核薬
筋緊張治療薬
サルファ薬
ビタミンB6
抗てんかん薬
抗精神病薬
β遮断薬
チリソロール塩酸塩
高脂血症治療薬
シンバスタチン、
プラバスタチンナトリウム
a. サンバーン
(紅斑)
写真1
日光皮膚炎
写真2
薬剤性光線過敏症
写真3
メキタジン
イソニアジド
アフロクアロン
サラゾスルファピリジン
ピリドキシン塩酸塩
カルバマゼピン
クロルプロマジン塩酸塩
b. サンタン
(色素沈着)
多形日光疹(PLE)
4
写真4
慢性光線過敏症(CAD)
2014年3月作成
SG9−1403P
ANTTC006C