バスケットボールのより効果的な練習方法

バスケットボールのより効果的な練習方法
― 低身長チームの為に ― Ⅲ.基礎体力
永 保 司
奈良文化女子短期大学
Effective Training Methods
for a Not So Tall Basketball Team:Ⅲ.Physical Fitness
Tsukasa Nagayasu
Narabunka Women’s College
バスケットボールにおける低身長チーム(スモールチーム)及び初心者プレイヤーが多くいるチーム
のための練習方法をテーマとしたテキストを作成する。スモールチームが優位に立つためには、
「常に
走る、人数で優位に立つ、連続した攻撃を仕掛ける」
「洗練されたチームワーク」が基本である。
「低身
長チームの為に 攻撃Ⅰ」ではオールコートでの攻撃バランス、
「低身長チームの為に 攻撃Ⅱ」では
鍛錬を積み洗練されたチームを作る事をテーマに書いたが、今回は身長差(体格差)が体力差として表
れて勝敗を左右することが多く見られる事に注目して、
「基礎体力つくり」のより効果的トレー二ング
についてまとめてみる。
キーワード:バスケットボール、低身長、トレー二ング法
1.はじめに、現在の高校女子のバスケットボールにおける現状と対策Ⅲ
昨年度の高校女子バスケットボール競技における全国大会を見ても特に目につくことは、各地区ごと
で特別に突出したチームがあり、その他のチームとのチーム間格差が大きくなってきていることである。
その多くの原因が少子化の影響により、競技選手の減少が起こり、特に優れた体力面の能力を持った選
手が、固定されたチームのみに存在し、より多くのチームには体力的に特出した選手が在籍していない
事がこの格差を生んでいるように思われる。その中でチームを預かる指導者は何とかしてこの体力面や
身長面の不利を解消しようと工夫している。そこで対等に戦うにはどの様にすればよいか、スピードを
生かす事、洗練された攻撃と守りをする事、この点は多くのチーム指導者が考えて実践する事である。
しかしそれは基本的にベースが出来たうえでの話であるが、現状では毎日の学校における練習時間が少
なく、各選手の基本的な身体能力を鍛え上げることは非常に困難な状況がある。そこで、日本の高校バ
スケットボール界に於いては、基本的な身体能力を向上させる手段として、専門のトレーニングジムに
出かけ、器具を有料で借りてトレーニングをさせている場合が多くみられる。有料で体を鍛える事の出
永保 司 〒631―8523 奈良市中登美ヶ丘3−15−1 奈良文化女子短期大学
− 71 −
来る高校生は多くはいない。多くの高校生は課外活動(部活動)の範囲内でトレーニングをしていると
考えられる。そのような多くの高校生が器具を使用せずに手軽に学校内で体を鍛える事の出来るトレー
ニングが出来れば、経済的に助かり、その結果競技成績も上がり、競技に参加する生徒の人数も増して
くると思われる。また、指導者が時間的に追われずに、選手が各個人の空き時間を利用してトレー二ン
グをすることのできる方法をここに記載したい。異なる課題を持つ選手でも、このトレーニングにより
身体能力の向上を図ることが出来る。
2.トレーニング方法と種類
個々のトレーニングは従来からあるものだが、ここで工夫したのは、特に簡単に出来るものを選んで
上半身から体幹部分にまで発展させたことである。さらに対人で負荷をかけるトレーニングにした。ト
レーニング開始当初は各人の差があるために軽度な負荷をかける事から始めた。
2.1 トレーニング計画
1W7日間の中で、3日は上半身を中心に3日間は下半身を中心に、約1回2時間程度のトレーニン
グを12週間実施した。日曜日には練習は休みにして休息を取るようにした。
最初の1週間はトレーニングメニューを1セットのみにする。その後はシュートを放る練習メニュー
にした。
2週間目にはセット数は最初の週と同じであるが、負荷を加えるものに対しては負荷の度数を上げる
ようにする。
3週目~4週目には、セット数を2セットにして負荷度数は各選手で調整をさせる様にした。
5週目~6週目にはセット数を3セットにした。負荷度数は各個人差に合わせる様にして、7週目~
12週まではセット数は3セットとし、ランニングトレーニングも週に2回入れた。
2.2 トレーニングの種類
ここでトレーニングの内容を写真入りで紹介していこうと思う。
まずは各個人が、ストレッチ等を十分にして体を動かす準備を完了した後にトレーニングに入ってい
く。準備運動は各個人の責任において必ず十分にした後にトレー二ングに入るように選手には指導をし
ておくことが大切である。
2.2.1 ウォームアップ体操
ウォームアップ開始当初は負荷をかけないが、慣れるにしたがってダンベルを持って行う。
肩甲骨を大きく動かす事を意識して運動を行う。
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① 腕を前に出し肩の位置で保ち手首を
② 腕を横に広げ肩の位置で保ち手首を
上下する。
上下する。
末梢部分の運動から入る。肘を真直
ぐに伸ばす。
肘肘を肩の位置に水平に保つ。
真直ぐ前を直視する。
③ 腕を前に出し肩の位置で保ち腕を X
④ 肘を肩の位置で保ち肘から先を曲げ
になるようにする。
伸ばし。
肘肘を伸ばして上下交互にクロスする。
肘の位置までクロスする。
肘肘を、交互に曲げ伸ばしする。肘の
位置が、下がらない様に注意する。
⑤ 肘を肩の位置で保ち左右の腕を曲げ伸ばし。
腕を伸ばした時は真上に伸ばす。肩の
位置がぶれないように注意する。
⑥ 肘を肩の位置で横に曲げ伸ばし。
頭頭を固定した感
じで運動をする。
肘が下がらないよ
うに注意する。
⑦ 肘を肩の位置で保ち上下に同時に動かす。
肘と手首は90度(直角)を意識する。
肩の位置まで肘を上げる。
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⑧ 肘を肩の位置で保ち交互に動かす。
⑨ 肘から先を首の後ろで曲げ伸ばし。
反動を使わないようにする。
下を向かないで
(首を前に出さな
い)
、肩甲骨を意
識して動かす。
⑩ 腕を伸ばして体側を上下させる。フル
⑪ 腕を伸ばして上から肩まで体側を上
アップする。
下する。肩を中心に上にハーフアッ
プする。
肩の稼働範囲を広げるつもりで上下
する。肩の位置を通過する時にリラッ
クスする事(可動範囲を広げるため)
。
頭頭の上で肘を伸ばして手を合わせる。
耳を二の腕で挟むようにする。
⑫ 体側を下から肩まで上下する。下から
⑬ 肩の位置を保ち腕を伸ばして前横に
フアハーップする
開閉
体側から真直ぐに上にあげるように
する。腕、肘は曲げないように注意
する。
肩甲骨を大きく
動かして運動を
する。
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⑭ 腕を伸ばして前を通って前後。
⑮ 腕を伸ばして前を通り交互に前後。
頭の上で腕を合わせる。肘は曲げな
いで体側でそろえる。
⑯ 腕を伸ばして前を通り肩の前まで前後。
⑰ 腕を伸ばして前を通り肩の前まで下
から上に上げ下げをする。
スキップが入る
時は反動を使わ
な い。 腕 は 水 平
の位置で止める。
真直ぐ前に腕を
おろす。上にあ
げる際は真上に
あげる。
⑱ 腕を肩の位置に保ち交互にひねる
⑲ 腕を肩の位置に保ち同時にひねる(同
じ方向にひねる)
手首の回旋をする。
左右は逆回転にする。腕が持ち上
がらないように注意する。
⑱と同じ注意
⑳ 肩甲骨を動かすように肩をまわす
肩甲骨の可動範囲を大きくする。
大きくゆっくりと回旋する。
意識は肩甲骨において運動をする。
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㉑ 右・左・同時の順に肩をあげる。
肩の動きをはっきりとさせる。
㉒ 肩甲骨を張る。
背中に「水」の字が出来る様に
肩を動かす。
㉓ 肩甲骨を入れる。
「猫背」になるよう背を丸くする。
㉔ 肘を肩の位置に保ち前・横・上の順で動かす
シュート筋のトレーニングである。ボースハンドでシュートをする感じで運動をする。肩関節を十
分に使いなるべく後ろに肘を持ってくる。下におろすときは体側に沿っておろすようにする。
㉕ 腕を肩の位置に保ちひねる。
最初のうちは、歩かないでひねることを
十分にする。肘が下がりやすいので位置
の確保が大切である。
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2.2.2 筋力トレーニング(徒手抵抗トレーニング)
2人1組で行い、コンセントリック動作、エキセントリック動作において、抵抗を加え、全ての関
節角度において全力でする。
★上半身トレーニング
① プッシュアップ(大胸筋)
4秒下げて2秒で上げる。
•運動中に臀筋を叩いてみるとより
効果がある。
•臀部・腹部は必ず力を入れた状態
でする。
② 拍手腕立て伏せ10回×2セット(1で筋肉がついてきたら)
•通常の腕立て伏せから拍手をする。
③ ロウイング(広背筋)2秒で曲げて4秒耐えながら伸ばす。
•上腕に力を入れ
すぎない。
•座位の選手の広背筋トレーニングである。
④ フルオーバー(広背筋)2秒で引いて4秒耐えながら伸ばす。 10回×2セット
•仰向きに寝ている選手のトレーニング。
⑤ アームカール(上腕二頭筋)2秒で曲げて4秒耐えながら伸ばす。
•仰向きに寝てい
る選手のトレー
ニング。
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⑥ トライセプスエクステンション(上腕三頭筋)2秒で曲げて4秒耐えながら伸ばす。
•わきをしめた状態で行う。
•立位の選手がトレーニングする。
⑦ アップライトロウ(三角筋)2秒で曲げ
て4秒耐えながら伸ばす。
•立位の選手がトレーニングする。
⑧ リアデルト(三角筋後部)2秒で曲げて4秒耐えながら伸ばす。
•立位の選手のトレーニング
•腕の力のみでトレーニングをする。下半身の反動は使用しない。
⑨ ダンベルプレス(体幹+三角筋)100回スピードをつけて
•体幹のブレが起きないように素早く
挙上する。
•腕をまっすぐになるまで伸ばすよう
にする。
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⑩ アームカール(体感+上腕二頭筋)100回スピードつけて
※6・7・8・9・10の立位姿勢を伴ったトレーニングに関しては
パワーポジションを意識しながら行なう様に注意する。
★下半身トレーニング
① スクワット(大腿四頭筋)4秒で下げて2秒で上げる。
《負荷のかけ方》
•最初はしゃがむ角度は浅く行う。
•慣れてきたらフルスクワットに
移行。
② レックカール(ハムストリングス)
③ シザーズジャンプ
2秒で曲げ4秒耐えながら伸ばす。
ジャンプして足をかえて20回×2セット
•スピードはできるだけ速く行う
− 79 −
④ アブダクション(外転筋群)2秒で上げて4秒耐えながら降ろす。
•ひざの角度はスタート時に
固定する。
⑤ トゥーレイズ(前脛骨筋)2秒で曲げて4秒耐えながら伸ばす。
足の甲に負荷をかける。
足首を固定する。
•エキセントリック動作を
特に意識して行う。
⑥ ニーレイズ(腸腰筋)2秒で曲げて4秒で耐えながら伸ばす。
•体幹を固めて行う。
《負荷のかけ方》
•体幹が崩れない範囲で行う。
2.2.3 体幹トレーニング
① ホバー 20秒×1セット(左右)
•臀部と腹部に力を入れる
•肩甲骨を寄せる
(上記2つの点は以下の
2・3・4・5でも同様に意識する)
② サイドブランク 20秒×1セット(左右)
•体のラインが崩れない
ようにする。
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③ ヒップリフト 20秒×1セット
•臀部・腹部・腰背部に力を入れる。
両手を頭から膝まで同時に動かす事に
より胸筋も鍛えることが出来る。
4 両ひざ立ちでの体幹トレーニング 20秒×1セット(左右)
•腰背部が反りすぎないようにする。
5 ランポジションでの体幹トレーニング 20秒×1セット(左右)
•前方の足部に重心を乗せる。
3.選手個人の課題と成果(監督による所見)
各個人の選手の特徴や課題(監督目線で)を挙げたのちに、その選手がトレーニングをしてどのよう
な身体的な結果が出たかを表示する。
3.1 選手 F
選手 F は現在4回生のガードポジッションであり、もっとも運動量が必要とされるポジッションで
ある。特に体格的に優位にあるわけではない。2回生まではスピードはあるが、体力的に4回生を相手
にして戦う時非常に厳しく、パワーの差が、試合中に何回となく表れて、自分のキープするべきボール
保持を失うことがあり、そのためにプレータイムを制限しなければならなくなった事がある。また体力
の差がスタミナに影響して1試合継続して戦うことが出来ない状態であった。さらに選手 F は高校生
時に右肩の亜脱臼を経験しており肩の可動範囲が制限されていた。2回生終了時に肩の手術を行い、現
− 81 −
在は正常範囲にまで回復している。以上の点から選手 F に関してはトレーニングを実施しスタミナ・
パワーを改善する事が必要であった。
この選手Fは、前述したように肩を故障しておりその手術を2年の11月のインカレ出場後にした。そ
の後のリハビリ後の資料は2回目測定結果であり、体全体の筋肉量は入学時より2.3㎏減少している。明
らかに筋力が落ちていることを示していると考えられる。
手術後のリハビリを徐々に行い平常の活動の出来る状態(肩の可動範囲を広げる事を中心)になるの
に約3か月かけた。選手 F については、3か月間のリハビリ期間中はチームのメディカルトレーナが
マンツーマン(週2回)で選手 F 指導の指導補助を実施した。そこからは通常の練習を実施して特別
なトレーニングは行っていない。通常の練習メニューには以前と変わりなく参加し、無事にこなすこと
が出来ていた。肩の故障や痛みについて訴えてくることはなかった。リハビリ後の筋力測定の記録が表
1の3回目測定値である。術後の筋力アップを図るトレーニングを計画的にしたわけではない。その為に
入学時の測定値と手術後の測定値を上げてあげて比べてみた。
表1 選手F(ガード、身長158㎝、体重53.6㎏)
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選手Fは高校時代体育科の選手であったので、授業内容にも一般生徒とは異なったカリュキュラムの
授業が多くあり、身体活動を多くしていたようである。したがって筋力も十分に作られた状況で入学し
− 82 −
てきたと考えられる(表1の1回目測定値)
。しかし、
手術後はかなりの部分で筋力の低下がみられる(表
1の2回目測定値)
。体にメスを入れることは、
その後の筋力トレーニングがいかに大切かがよくわかる。
アスリートとして活躍するには術後のトレーニング計画をしっかりと立てる必要性がこの表からも見て
取れる。
表1から見るとトレーニング開始(3回目測定値)から3か月で選手Fの体は「筋肉型スリム」から
「筋肉型」に変化した。
表1の4回目のトレーニングでは明らかに上腕部のトレーニングが効果を上げていることが分かっ
た。逆に脚力は入学時よりも落ちている、この原因は、走ることを中心に練習をこなしていた時(高校
生後半から1回生)から、上半身特に上腕の筋力とインナーマッスルを中心に鍛えた結果左右の脚力は
落ちていると考えられる。殆どの部分で発達がみられるが、身体発達点数(~80普通~90強い)が3ポ
イント上がって、81ポイントから84ポイントに上がっているのは強い体になってきた事であり、体幹が
しっかりしたと考えられる。また、体重が減っているにもかかわらず、筋肉量が減っていないのは余分
な脂肪分が取れてより強靭な体になったことを示している。
参考 身体発達点数
現在の体成分状態をわかりやすく点数化したもの。BMI(体重 /(身長×身長)
)を22標準に割り出したもので
標準を80点とする。筋肉量が1kg増えると+1ポイント加点する。また、体脂肪率で1㎏増えると−1ポイン
ト減点する。
3.2 選手 T
選手 T は現在3回生のフォワードポジッションであり、攻撃の切掛けを作る中心選手で身体有ると
共に接触が非常に多くなるポジッションである。体格的にあまりすぐれている選手ではないが、体力面
では非常に良いものを持っている。高校生時代にはトレーニングを専門の指導者により強制的に遣らさ
れてきた、典型的な強豪と言われるチームの選手である。現在の日本では、日本独自の考え方で「選手
の自主性ではなく監督からの指示により強制的にトレーナーがついてやらせる」トレーニングが広く行
われている。選手Tはその様なタイプの高等学校から来た選手であり、トレーニングは身体的改良より
も、自主的に行う「たのしい」ものである事を理解してほしい選手である。選手Tの課題は相手 Def を
切り崩すために、ドライブがより強くなる事、ドリブルがより低くできる事である。高いドリブルでは
カットインができにくいと思われる。選手Tは表2から分かるように入学してきたときにはまだ体幹が
弱く、筋力も他の選手に比べて特出するほどではなかった。
しかし、筋力量増加・パワーの向上を目指して真面目に何事にも取り組む性格の持ち主である。この
3か月のトレーニングも真面目に取り組んだと思われる。体脂肪率がマイナス0.1なのに腹囲が+3と
なって表れている
(表2)
。これは体幹の強化に今回実施したトレーニングが効果的であると考えられる。
バスケットボールにおいては「球際の強い」選手がいるが、まさに選手Tはそのタイプに変身してくれ
ている。上腕を持ち上げる力が少しずつ増えていることの結果は3P の確率が上がってきたことを客観
的に監督目線で見て感じられようになった。
− 83 −
表2 選手 T(フォワード、身長163㎝、体重54㎏)
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3.3 選手 M
選手 M は現在3回生のフォワードポジッションである。選手 T と同じポジッションであるが、この
選手は足が長いため高く、また X の脚体型をしており、瞬発力に賭ける特徴がある。1回生時にはあ
まり体の特徴が表れず、プレーの幅を広げる事に悩んできた選手である。
体重が少なく、体格・筋力も他の選手程発達していなかった。高校生時にトレーニングを殆どしてき
ておらず、しかし1回生時に自分の「プレーの幅」に気が付き、その年の冬場(OFF シーズン)に独
自にトレーニングを工夫して行い、体の改良をした選手である。その結果、春には見違えるように体型
が変化した。特に上半身が発達したことが見て取れた。結果として、それまでのシュート練習で3P
シュート成功率が65%前後であったのが、2回生の春休みの合宿では同じシュート確率が75%前後まで
− 84 −
上がったそしてこの事が本人の自信につながると同時に、それを知った他の選手がトレーニングを真剣
に取り組むきっかけを作った。また春以降に選手 M のパワープレーの割合が多くなったことを監督と
して感じた。それは体重が増え筋力が増したことにより、今までゴール下でボールを保持しても身体接
触によりバランスを崩すことが多かったが、トレーニングをした翌年から変化が表れて来た様に思われ
る。1回生当時は上腕を中心としたトレーニングであったが、今回の冬季トレーニングでは、体幹部分
のトレーニングも入れたのでさらに体のバランスが良くなったと考えられる。
表3 選手 M(フォワード、身長167㎝、体重64.8㎏)
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上記表3からも分かる様にこの選手 M は、今回のトレーニングで腹囲が+6ポイント増えている、
胴囲の筋肉量も3か月前に比べて1.2㎏増加している事が分かるが、これは体幹のトレーニング効果が
出てきたものだと考えられる。此れによって3回生のプレーの幅がさらに大きく広がって、監督が信頼
できる選手となってくれると確信する。選手 M の今回のトレーニング結果から見える、さらに大きな
特徴は、左右の腕の筋肉量が増えていることである。この数値から見てもこの身長でこの体格の選手に
− 85 −
しては高い数値だと思われる。上腕の筋力アップはシュート率の向上に影響するので、今シーズンの活
躍に期待が持てる。
3.4 選手 NU
NU は現在2回生のセンターである。この選手は父親がガーナ、母親が日本人であり、体型が日本人
離れしている。筋肉量が外見から見ても明らかに日本人よりも多いのがよくわかる。
「筋肉と脂肪の割合」
の筋肉量標準筋肉量が25~30.6㎏なのに対して選手 NU はトレーニング開始以前から34.2㎏(表4の1
回目測定)を示している。176㎝でセンタープレーヤーとしては小柄であるが、ゴール周辺のプレーは
力強く、接触(正規のポジッションの取り合い)の多いポジッションで常に関西学生リーグ等で優位に
戦ってくれた。通常1回生は体格的に不利で、トレーニングを積んで体造りを済ませないとセンタープ
レーは不利であるが、NU はそれを全く感じさせなかった。また1回生のリーグ戦において関西のリバ
ウンド王に輝いた、これも体の強さが示すプレーの成果だと考えられる。
表4 選手 NU(センター、身長176㎝、体重79.4㎏)
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ものがトレーニング後は「強い」に変化している。また、
「筋肉と脂肪の割合」の身体発達点数のポイ
ントがトレーニング開始前は89ポイントであったものが90ポイントになっている。
「部位別筋肉バラン
ス」では、上腕の筋肉もトレーニング後は右腕が3.11㎏・左腕が3.10㎏になっている。持ち合わせた身
体の強さに加え、更にトレーニングをすることで最強に近い強い体を作ることが出来た。今年度のリー
グ戦でのセンタープレーヤーとして活躍が期待できる。今回のトレーニングではどの選手にも言えるが、
脚力の部分の発達が少ない事が、選手NUにも今後の課題だと考えられる。
3.
5 選手 NG
NGは現在2回生のセンターである。NG は長身の為に幼少時から多少引っ込みがちな性格であるが、
中学時代に身長が高いので教員の勧めによりバスケット部に入部した選手である。高校時代は県でベス
ト8位ぐらいのチームで過ごしたが、長身選手に合ったプレースタイルを学ぶ機会が少なく、センター
表5 選手 NG(センター、身長183㎝、体重80㎏)
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ポジッションでありながらフォワード的に走るプレーが多かった、その分1回生の時の脚力は平均的に
あったが、反面上腕や体幹が大変弱かった。表5の「筋肉発達程度の胴体」の筋力のポイントが105.6
で標準であり、選手 NG の身体的な特徴から見るとかなりバランスのとれた身体をしている。しかし体
重に比べて左右の腕力が少なく、1年目は1年間かけて少しずつ補強運動を繰り返して腕立て伏せが5
回まで出来る様になり2回生になった。今年の OFF シーズンでさらに本格的にトレーニングをやれば
プレーの成功率はさらに上がることが予想できる。2回生の春に合宿をした頃からセンタープレーの確
率や、シュート率が、上向きに成って来ているので今年度の活躍が楽しみである。
選手NGは上腕の筋力が弱い選手であり、通常の腕立て伏せが出来ない選手であった、トレーニング
終了時点では以前に比べて3~5倍の回数をこなすことが可能になった選手である。センタープレー
ヤーとして体重も増したことはパワープレーができやすくなったと考えられる。インナーマッスルは外
観的には解りにくいが確実に発達しているように思える。たとえば、フリースローの確率が1回生当時
試合中に65%程度であったものが80%に春の大会で伸びていた。次回のトレーニングでは選手 NG は下
半身の回転技術をサポートするような筋力を強化する課題が残った。
4.まとめ
トレーニングを上腕部・下肢・体幹と3か月行なってきた結果を各選手の個人資料として現したが、
確実に選手の体幹部分が強くなってきたことを監督として感じている。数値の上に於いてもとトレーニ
ングの効果が表れて来たが、特に筋力トレーニング(上腕の筋力増加)の効果はシュート率に表れてき
ていると思える。チームの練習時(毎朝シュート練習を実施、各6か所からシュート練習)のシュート
率が10%近くアップした。これはシュートのもとになるパスを見てもわかる。トレーニング終了後の各
選手のパスの強さが以前より増していることを、練習中パスをする選手を見ていて感じていた。シュー
トはリングへのパスと考えられるので、平素のパス練習の時のパススピード・強さが増した事、此れは
シュート率が上がることの必要条件であると思われる。そのほかにはセンター陣によるゴール下での体
のブレから来るシュートミスが激減したこともトレーニングの成果と考えられる。
(得点率のアップ)
個人として選手Mの場合身体つくりのおおきな成功例であり、シュート率の大幅なアップとパワープ
レーの上達を練習時よりあらわしてくれている。選手Mはこの結果一軍選手として試合に出場する機会
が大幅に増えた。このような控え選手が基礎体力の増強により、プレータイムの大幅な上昇によりチー
ムの底上げにつながっている。
今回のトレーニングでは器械を使用しないで、対人で負荷をかけて行う方法を取ったことがよかっ
たと思われる。よかった点についてあげてみると
1・器械でかける負荷とは違い各個人でその時の状態に応じて強度を変化できる。
2・2名いるだけで経費が掛からずにトレーニングが出来る。
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3・2名という最小単位でできる。何時でもできる。何処でもできる。
4・トレーニングをする相手(負荷をかける相手)と話しながらでき人間関係(チームワークが良くなっ
た。
5・ペアのチームが10チームぐらいになると同時に同じ種目のトレー二ングをするので競争心が出来て、
楽しく頑張って出来る。
6・体重の同じ位の選手同士で行うために、必然的に同じポジッションになってくる為に競い合う気持
ちが出てきた。また、共通の問題点が出てくることも多く解決をするのに協力する事が多くあった。
以上のような良かった点があげられる。今後改良するべき点は3か月のトレーニングに於いて、体幹
を強くすることと上腕を鍛える事を中心としたために、脚部の筋肉の発達が遅れたように思われる。此
れに関してはトレーニングメニューに改良を加えてランニングメニューの量を増やせば解決できると考
える。
参考文献
•ジョン・フィルピン監修 大川達也訳(2009)ハイテンション・トレーニング.アスベスト発行所.
•鈴木一行(2003)トレーニング指導者テキスト 実践編.大修館書店.
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