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技術紹介
トルク性能と触媒浄化性能を両立させたエキマニの開発
Development of Exhaust Manifold Which Achieves Both Torque Performance
and Catalyst Purification Performance.
伴 邦和 *
森次 俊介 *
Kunikazu Ban
Shunsuke Moritsugu
要 旨
エキゾーストマニホールド(以下エキマニ)に求められる性能は,トルク性能,触媒浄化性能,省スペー
ス化である.しかし,トルク性能と触媒浄化性能は相反する性質である.法規規制である触媒浄化性能
を満足させるために Branch 長は短くし触媒部の温度低下を抑える必要がある.結果トルク性能が犠牲
となるが本開発では従来型よりも Branch 長を短くしたが,エキマニの Branch 集合部形状の最適化に
てこの二つの性能を両立させるエキマニの開発について説明する.
Abstract
Required in an exhaust manifold are torque performance, catalytic purification performance and
space-saving. However, torque performance and catalytic purification performance are contradicting
properties. To satisfy mandatory catalyst purification performances, it is necessary to shorten the
branch length and to avoid the reduction of the catalyst's temperature. The study hereinafter explains
the development of an exhaust manifold which unites torque and emission performances by optimizing
the branch shape design. It has enabled us to develop a compact and low cost design using shorter
branches than those in the old model with minimal torque performance losses.
Key Word : Gasoline Engine/Exhaust Manifold/Engine Power/Emission Requirement/Gas Flow
1. は じ め に
エンジンに装着されるエキマニはエンジンの各ポート
対応)②トルク性能(対現行比 -2% 以内)③低コスト④
軽量化として開発を行った.
から排出される排気ガスを集合させ下流側へ流す機能を
持っている.近年排気規制の強化や燃費規制からトルク
2.1.2 開発コンセプト
性能は犠牲となるが,Branch の長さを短くし,高温の
触媒浄化性能を達成させる為,エキマニ低ヒートマス
排気ガスを触媒担体に誘導することで,触媒浄化性能を
化,且つ,トルク低下を最小限とする排気ガス流路形状
重視したエキマニの採用が多い.また,触媒浄化性能が
を高次元で両立させる事を基本コンセプトとした.
未達の場合は下流の触媒貴金属量増量で対応しコスト高
となる.ここでは触媒浄化性能とトルク性能とを両立し
2.1.3 触媒浄化性能
且つ低コスト,コンパクト化出来るエキマニを開発した
近年,エミッション規制が厳しくなるなかで,触媒浄
のでその内容について紹介する.
化性能を向上させる為にはエンジン始動から触媒が浄化
し始めるまでの時間を短くする必要がある.このために
2. 開発の概要
2.1.1 開発目標
はエキマニの Branch 長を短くしガス経路内断面積の縮
小や低ヒートマス化すれば触媒部のガス温度の低下を抑
新たにV6型エンジン用エキマニを開発するにあたり
える事が出来る.
開発目標の優先順位を①触媒浄化性能(排気規制 JC08
Fig.1 にエキマニの Branch 長と触媒温度,NMHC(非
メタン炭化水素)の排出量の関係を示す.
* 排気事業本部 排気システム開発グループ
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トルク性能と触媒浄化性能を両立させたエキマニの開発
Branch 長が短く排気ガスの温度低下を抑える為に触
Fig.3 に V6 エ ン ジ ン の ト ル ク 特 性 を 示 す.Short
媒が早期活性し NMHC の排出量を抑える事が出来る.
Branch エ キ マ ニ は Long Branch エ キ マ ニ に 対 し て
3,200rpm から 4,000rpm で 5.8%のトルク低下がみられ
商品性が低下する為トルク特性の改善が必要である.
2.1.4 トルク性能
エンジンのトルク性能を向上させる手法は二つあり一
つはエンジンシリンダの体積効率(η V)を上げる.こ
の為にはエキマニ各気筒の Branch 長を長くし等長化さ
せ慣性掃気を誘発させる.
従来製品の Long Branch エキマニはトルク特性に重点
Fig.1 Catalyst Temperature and NMHC Emission
versus Exhaust Manifold Branch Length
Fig.2 に触媒温度差に因る触媒活性(排気浄化)のイ
メージを示す.触媒温度差でコールドスタート時の触媒
活性時間に差が発生する.
を置き,Branch 長の最適化,各 Branch 長を等長化し
Fig.3 に示すトルクを発生している.
もう一つは圧力損失を低減させる方法がある.エキマ
ニの圧力損失を低減させるとエンジンシリンダの体積効
率(η V)が上がりトルク性能の向上が図れる.
2.1.5 合流部の感度
Branch 長を短くし,且つ限られたスペースでは等長
化する事が出来なく慣性掃気によるトルク性能向上が見
込めない.
従って圧力損失を低減させトルク性能の向上が必要に
なる.
エキマニ全体の中で合流部は圧力損失を発生させる大
きな要因となっている為,合流部形状で圧力損失を抑え
Fig.2 Catalyst Activation Image
新エミッション規制(JC08)対応に向け触媒活性を早め
る必要がある.このためエンジン始動後 20 秒の触媒入口
温度を高める必要があり,方策は Branch 長 Total を短く
る事をコンセプトに合流部の角度感度,併せて管路内の
断面積変化に因る圧力損失の感度がある為,各々の感度
調査を行った.
Fig.4 は Branch 長と合流角の関係を示す.Branch 長
を短くすると合流角は鈍角になる.
し排ガス温度低下を抑えることで目標達成を図った.
しかし,一般的にはエミッション性能を重視し Branch
長を短くした設計ではトルク性能への影響が大きい.
Fig.4 Relation between Branch Length and …
Unification Angle
Fig.3 Torque Performance Difference for Long and
Fig.5 にエキマニ合流部前後の理論上の圧力損失を示
Short Branch Length Exhaust Manifold
す.この図は合流角 0°時の圧力損失を 1 とした時の合流
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CALSONIC KANSEI TECHNICAL REVIEW vol.8 2011
角違いの圧力損失を表しており,前記 Long Branch の
大きくなるため触媒浄化性能は低下する.今回はパイプ
合流角 0°に対して Short Branch の合流角は 70°であり,
とプレス部品での構成を採用し軽量化を図る.車両制約
合流部の圧力損失は約 10 倍となる.この事からエキマ
がある中でパイプ端部の成形を工夫する事で開発品 #3
ニ合流部形状による圧損がトルク性能に与える影響があ
気筒の合流角度は 20°,合流断面積変化は 0.39 とし確認
る事が判る.そこで合流角の圧力損失は Short Branch
を行った.
の -50% を Target として開発する.
Fig.7 に開発品と Long Branch 合流側 #3 気筒の体積
効 率( η v) を 示 す.2,000rpm と 4,000rpm の 流 れ 解
析での 2,000rpm では慣性掃気を利用できている Long
Branch(等長)が優るが 4,000rpm では圧力損失が低減
できている開発品の方が優る結果が得られた.
Fig.5 Pressure Loss Magnification in Confluence Angle
Fig.6 に合流部の断面変化(A1/ A2)に対するにエ
キマニ合流部前後の圧力損失を示す.
式 -1 にボルダ・カルノーの公式を示す.
式 -1. ζ =(1 -A1/ A2)2 A1:合流前断面積,A2:合流後断面積
式 -1 から圧力損失の大きさは断面変化量に従い大きくな
る.
断面積変化が無い状態(A1/ A2=1)の圧力損失を
0とし,断面積変化が大きい Long Branch は断面積変
化の小さい Short Branch に対して圧力損失は約 7 倍で
ある.
Fig.7 Influence of Volumetric Efficiency(η v)
2.1.6 合流部構造
Branch 長は短くし,断面積変化が小さな合流構造を
満足させるために合流部は分割にする事とした.
Fig.8 の様な分割合流構造とした結果,#3 の合流角度
は 20°,#5 の合流角度は 30°を上限とすることで圧力損
失は抑えられ,圧力損失を低減出来た.また,合流部が
鋭角となることで端部成形時の材料伸び率の適正化が図
られ,プレス成形に因る量産が可能となった.
そこで合流部断面積変化の圧力損失は Long branch の
-50% を Target として開発する.
Fig.8 Shape of Acute Angle Confluence
2.1.7 相反する性能を達成したエキマニ
排気性能から Branch total 長は従来型の 75%以下,
圧力損失を軽減しトルク性能を従来型 Long Branch エ
キマニと同等となる合流部構造のエキマニを採用するこ
Fig.6 Pressure Loss Magnification in Section Area
Change
この様に Branch の合流角と合流部断面積変化の圧力
損失 Target 値を満足させる為に,各々を最適に設定す
る事で圧力損失を低減する事ができる.鋳物エキマニで
あれば容易に合流角と合流部断面変化をコントロールし
て設計する事が可能であるが,鋳物は肉厚が厚く質量が
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とで相反する性能の両立が図れた.
Fig.9 に Long Branch エキマニと開発エキマニのエンジ
ン体積効率(η v)を示す.Fig.9 では開発エキマニの
体積効率は Long Branch エキマニに対し全域で同等の
性能を持つため,Fig.10 に示すように,トルク性能で
は Short Branch エキマニでの 4,000rpm 付近でのトルク
の落ち込みは,合流構造(流線)を最適化することで中
間トルクの落ち込みを補い,高速域では圧力損失が低く
トルク性能と触媒浄化性能を両立させたエキマニの開発
Long Branch エキマニより出力を向上させる事が出来
た.
伴 邦和
森次 俊介
Fig.9 Comparison of Exhaust Manifold Volumetric
Efficiency ( η v) at Different Engine Rotation Speed
Fig.10 Torque Performance of Developed Exhaust
Manifold
又,エキマニの形状自体も Long Branch タイプに対
してコンパクトになり質量は 40% 程度の軽量化が可能
となった.
3. お わ り に
従来は触媒浄化性能を達成する為にトルク性能を犠牲
にしていたが,相反する触媒浄化性能とトルク性能とを
高次元で両立し且つ低コストでコンパクトなエキマニを
開発する事が出来た.
参 考 文 献
(1) 江面竹彦:基礎 流体力学,産業図書,1989
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