時 の 話 題 ~平成25年度 第7号(H25.6.14調査情報課)~ 平成 25 年5月 24 日、「行政手続における特定の個人を識別す るための番号の利用等に関する法律」(以下「番号法」という。) が可決成立した。番号の活用により、これまで制度ごとに分かれ ていた番号を、共通の番号で結び付けて処理することが可能とな るため、行政手続きや行政事務の効率化などが期待されている。 番号の今後の活用等を中心にまとめる。 社会保障・ 税番号制度 1 (※ 時の話題 平成 24 年度 第 21 号「マイナンバー制度」参照) 番号法の成立までの国会の動き いわゆるマイナンバー法案と呼ばれている番号法案は、平成 24 年2月、第 180 回通常国 会に提出され、民主・自民・公明の3会派の修正合意によって成立する見通しとなってい たが、与野党対立の影響を受けて継続審議扱いとなり、その後、衆議院が解散し廃案とな った。 改選後の第二次安倍内閣は、平成 25 年3月、改めて番号法案を第 183 回通常国会に提出 した。第二次安倍内閣で新たに提出された法案では、①「マイナンバー」という呼称※につ いては、公的な文書では今後は使用しないことを申し合わせ、 「社会保障・税番号」に統一 することとした。また、②国や地方公共団体の責務及び制度上運用されるシステムなどの 具体的な名称を条文の中に新たに追加した(表1)。 なお、番号法案は、平成 25 年5月9日に衆議院本会議、5月 24 日に参議院本会議にお いてそれぞれ賛成多数で可決され同日成立した(公布から3年以内に施行)。 ※ “マイナンバー”の呼称は、国民に番号制度について親しみをもってもらうため、平成 23 年6月に一般公募によって決定され た。現在、法案などの公的な文書では記述がなくなったものの、国会における委員会答弁や、新聞等の報道では日常的に使用さ れている。 表1 第二次安倍内閣において新たに追加・修正が行われた番号法案の事項(抜粋) 具 体 的 事 項 成 立 し た 番 号 法 案 廃案になった番号法案 1 自己の番号に関する個人 情報等の確認の仕組み 情報提供等記録開示システム 記載なし 2 国・地方公共団体の責務 明文化される 記載なし 3 第三者機関の名称 特定個人情報保護委員会 個人番号情報保護委員会 出典:「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」より作成 年金・税を一元管理 マイナンバー法成立 16 年開始 国民一人一人に固有の番号を割り振り、年金や納税の情報を一元的に管理するマイナンバー法が 24 日の 参院本会議で成立し、2015 年秋施行、16 年1月から運用が始まる。 政府は番号制度導入で、国や市町村が管理している国民の所得や年金受給の状況などを正確に把握し、公 平で効率的な社会保障給付の実現を目指す。ただ情報漏えいの懸念もあり、防止策の徹底が課題となる。 菅義偉官房長官は 24 日の記者会見で「番号制度は公平な社会保障制度や税制の基盤として、行政の効率 化に資するものだ」と強調。情報漏えいなどの課題については「国民の懸念を解消するため、制度とシステ ムの両面で万全を尽くす。国民生活に定着した制度になるよう政府一丸で取り組む」と述べた。 (中略)24 日の参院本会議では、自民党、公明党、民主党、日本維新の会、みんなの党などが法案に賛 成し、共産、社民両党と生活の党などが反対した。 (平成 25 年5月 24 日付 北海道新聞より抜粋) 2 番号制度の導入 (1)背景 現在、個人に関わる社会保障や税に関する情報は、年金は基礎年金番号、医療保険は保 険者番号など、それぞれに番号が付与され、各番号間には関連性は無く、例えば年金の基 礎年金番号から医療保険の情報は取れない等の課題があった。 こうした社会保障や税に関する情報を一元化し、効率的な運用を図る目的で昭和 40 年代 から「各省庁統一コード」や、「納税者番号制度」等の導入が検討されてきた。 平成 14 年には、国民に個別の番号を付与する住民基本台帳ネットワークシステムが導入 され、パスポートの申請手続など一部の行政手続が簡素化されたが、利用範囲が住民票に 関する事務などに限定され、社会保障や税に関する情報の一元化には至らなかった。 その後、年金記録問題などを受けて、個人の社会保障や税に関する情報を正確に把握す る必要性が高まり、年金や医療保険等、制度ごとに存在する個人情報を1つの番号に紐付 けて情報共有が可能となる番号制度が導入されることとなった。 (2)概要 番号制度では、年金や所得に関する情報を一つの共通の番号(個人番号※1)に紐付け、 ネットワーク上で管理することとなる。その結果、各行政機関において情報共有が可能と なり、行政手続における証明書の申請や提出が省略されるなど、事務や手続の効率化・簡 ※1 個人番号は、住民基本台帳ネットワークシステムによって 素化が図られることとなる。 既に全国民に割り当てられている 11 桁の番号を変換して作成される。 なお、個人番号の利用範囲については、内閣官房に設置された「社会保障・税に関わる 番号制度に関する実務検討会」などで平成 22 年から検討が行われており、今回成立した番 号法では、利用範囲を①福祉や医療などの社会保障分野、②税分野、③災害対策分野など としている。 政府は、平成 28 年1月から番号制度が採用された分野から順次、個人番号の利用を開始 するとしている。個人番号は、住民票を有する全国民に付与され、住民票のある区市町村 長から個人番号や住所、氏名等が印字された通知カードが各人に送付されることになって ※2 通知カードには、本人の顔写真がないため、行政手続等で本人確認に利用 いる※2。 することは出来ない。そのため、希望者は、区市町村の窓口で通知カードと (3)個人番号の利用例と効果 引換えに顔写真入りの個人番号カードを発行することが出来る。 番号制度の導入によって、これまで必要とされた行政手続における証明書の添付が省略 されるほか、所得情報等も個人番号に紐付けられるため、脱税の調査への利用などが可能 となる (表2)。 表2 ①【 個人番号の利用例 年 金 】…年金事務所における老齢厚生年金の加給年金支給の手続に際し て、必要となる「住民票」や「所得証明書」等の添付省略 ②【 国 民 健 康 保 険 】…企業等を退職し、国民健康保険の資格を取得する際に必要と なる「(雇用保険)資格喪失証明書」の添付省略 ③【 生 活 保 護 制 度 】…保護を決定する際に実施する資産や収入の調査における、 所得や年金に関する情報の照会 ④【 税 金 】…税の賦課徴収に関する事務や、脱税の調査に関する事務 における収入の把握などへの活用 出典:厚生労働省「番号法案に係る厚生労働省関係の業務について」より作成 なお、「番号法」の附則では、法律の施行後3年を目途として個人番号の利用範囲拡大 について検討を加え、必要な場合は所要の措置を講じるとしている。 私に番号 利点と弱点 共通番号制度法は民間利用を禁じている。ただ、「法施行から3年後(2018 年ごろ)の見直し」を約束し た。これを見込んで「民間企業も共通番号を使ったサービスができるように範囲を拡大すべき」と求めるの が、経済界だ。民間企業にも利用を認めると、住民票を写した人の電気やガスなどの住所も自動的に変更で きる。欠陥商品が見つかった時も共通番号を使って購入した人の住所をたどり回収できる。関係業界はこう 主張する。経団連は「共通番号を使えば、年間3兆円の経済効果が期待できる」とはじく。 (平成 25 年5月 25 日付 朝日新聞より抜粋) (4)情報提供等記録開示システム 番号制度では、新たに付与される個人番号と、年金や医療保険など制度ごとに付与され ている番号が共有されるため、個人番号を介して年金など他の情報の確認が自宅のパソコ ンから出来るようになる。 「番号法」の附則では、 「情報提供等記録開示システム」を法律の施行後1年を目途とし て導入するとしている(図1)。 図1 社会保障等に関する情報の入手方法 【情報提供等記録開示システム導入後】 (各機関に照会し、確認する) 社会保障に 関する 自分の情報 が欲しい (自宅のパソコンから自分の個人番号で ログインし、自分の情報を確認できる) 個人番号で 情報が紐付け られている 医療費の状況 照会・回答 年金の納付状況 照会・回答 保険料の納付状況 個人番号 保険料などの 納付状況の確認 パソコン お知らせなどの情報提供 照会・回答 出典:厚生労働省「番号法案に係る厚生労働省関係の業務について」より作成 ≪ 参考 アメリカの番号制度 ≫ アメリカでは、全国民に対して出生と同時に、連邦社会保障局によって社会保障番号(Social Security Number)が交付され、納税・年金・医療保険・社会福祉など多くの制度で利用されている。しかし、社会 保障番号はクレジットカード情報や電子メールアドレスなどの個人情報に結びつけられており、番号を盗 むなどすれば、個人情報を容易に入手することが出来る。そのため、他人になりすまして社会保障給付を 二重に受けたり、他人にクレジットカードを作られるといった被害が増大している。司法省の報告による と、こうした番号に関する犯罪で、平成 18~20 年の3年間で約 1,170 万人が被害に遭い、被害総額は約 5兆円となっている。平成 24 年には国防総省が安全保障対策のため、社会保障番号から離脱し、独自の 番号制度への変更を実施している。 3 個人情報保護対策 番号制度の導入は、これからの超高齢社会にあって、年金、医療など社会保障制度での 活用等が期待されているが、一方、個人番号による個人情報漏洩の問題や、番号の盗用、 なりすまし等の犯罪に利用されるのではないか、との懸念の声も上がっている。 (1)情報漏洩等への懸念 平成 23 年2月、個人情報保護の仕組みを検討するため、内閣官房に「個人情報保護ワー キンググループ」(座長:堀部政男一橋大学名誉教授)を設置し、7回にわたって検討を 行い、平成 23 年6月に「報告書」をまとめた。 報告書では、番号制度に対する国民の懸念を、①国家管理への懸念、②個人情報の追跡・ 突合に対する懸念、③財産その他の被害への懸念の3点とし、第三者機関の設置や、罰則 の強化などを提言している。 一方、平成 23 年 11 月に内閣府が実施した番号制度に関する世論調査によると、番号制 度における個人情報に関することで、最も不安に思うことは何かを聞いたところ、個人情 報が漏洩することによるプライバシー侵害のおそれ(40.5%)や、番号や個人情報の不正 利用により被害にあうおそれ(32.2%)などが挙げられており、8割以上の人が個人情報 の取扱いについて懸念を抱いていることがわかった(図2)。 図2 番号制度に対する懸念 個人情報が漏洩することによ る、プライバシー侵害のおそれ 40.5% 番号や個人情報の不正利用に より被害にあうおそれ 国により個人情報が一元管理さ れ、監視、監督されるおそれ 32.2% 出典:内閣府「社会保障・税の番号制度に関する世論調査」より作成 (20歳以上の男女3,000人に面接調査し、1,890人から回答) その他 0.3% 13.0% 特にない 11.0% わからない 3.1% マイナンバー導入の各国、なりすまし被害に苦慮 日本のマイナンバーと類似の制度を既に導入した海外では、なりすまし被害の対応などに苦慮している。 1936 年から国民に9ケタの「社会保障番号」を割り振っている米国では、行政分野だけでなく、電気・ ガスの契約から銀行口座開設、住宅購入まで、本人確認の手段として広く使われているが、番号が盗まれて 勝手にローンを組まれたり、年金の受取口座を無断で開設されたりするトラブルが続出。連邦取引委員会に は 2012 年、37 万件の被害が届けられた。 「住民登録番号」を導入している韓国では、登録番号や個人名がインターネット上に流出。番号を使って 勝手に買い物をしたり、番号を通知することで公的機関の職員と信用させ、金をだまし取ったりする詐欺事 件が多発した。2012 年8月からネット上での登録番号の収集を禁じる法律が施行された。 (平成 25 年5月 18 日付 読売新聞) (2)特定個人情報保護委員会 こうした検討や世論調査の結果を踏まえ、「番号法」では内閣総理大臣の下に、個人情 報の適正な取扱いを確保するために「特定個人情報保護委員会」を設置するとしている(第 36 条)。国では、これを受けて、平成 26 年に委員会を設置し、個人情報の取扱いの監視・ 監督や、苦情の処理などを行うとしている。 4 今後の課題 都は、平成 25 年4月、庁内に局横断的な社会保障・税番号制度企画調整会議を設置し、 制度の導入に適切に対応するとともに、都独自に番号制度を活用するための検討を行って いくこととした(総務局・主税局・生活文化局・都市整備局・福祉保健局・教育庁) 。 今後、個人情報の保護に十分配慮しつつ、番号制度が都民サービスの向上や行政の効率 化に資する制度となるよう、都は、国や区市町村と連携して取り組んでいく必要がある。
© Copyright 2024 Paperzz