環境のビジネスチャンス

2008.3
開発工学
特 集
環境のビジネスチャンス
柳下 和夫
The Chances of Environment Business
Kazuo Yanagishita
環境と省エネルギーの観点からいくつかのビジネス・
チャンスについて考えてみたい。
これで日本はロシア、カナダ、ドイツ、フランス、イ
ギリス、北欧諸国に対して優位に立てる。
1.太陽電池の普及
日本は先進国の中では太陽エネルギーに恵まれた国で
ある。年間の日照時間が 2,100 時間もある。これを利用
しない手はない。ところが太陽電池の設置面積は、ドイ
ツに首位を奪われてしまった。その原因は政府の補助金
がなくなったことや、電力会社が家庭の太陽光発電の余
剰電力を買う値段が安いなどである。また太陽電池メー
カーの発電効率向上や、原価低減の努力が足りないので
はなかろうか。2004 年の日本の総発電量は年間 10,710
億kW時である。
太陽定数とは地球の大気表面の単位面積に垂直に入射
する太陽のエネルギー量で、1,366W/m2 である。日本の
37 万k㎡に降り注ぐ太陽光は、日本の中心を北緯 35 度
とすれば、コサイン 35 度(Cos35°)は 0.82 なのと、朝
日や夕日が斜めに入射するので、平均の日射は正午の半
分と仮定すると 435,000,000 億 kW 時である。
すなわち、
発電量の 40,616 倍である。
したがって日本の国土面積の 0.1%に発電効率が、た
とえば 10%の太陽電池を敷き詰めると、43,500 億 kW
時の太陽光発電ができる。これは日本の発電量の4倍以
上である。太陽電池を国土の 0.1%に設置するくらいなら
農林業、住宅、工場、学校、ビルなどにも影響は少ない
だろう。すなわち、日本はエネルギー輸入をしないでも
よくなり、エネルギー独立できる。自動車用エネルギー
は蓄電池を利用すれば良い。昼の鉄道用エネルギーは太
陽光発電で、夜は蓄電池所から供給すれば良い。ただし
プラスチックの原料や、航空機や船舶の燃料としての石
油は輸入しなければならない。将来の技術進歩で水素エ
ンジンと水素貯蔵装置が開発されれば、水を電気分解し
て水素を生産し、航空機や船舶の燃料として利用できる
かも知れない。
― ビジネス・チャンス 1 ―
太陽電池の効率を2倍にし、
十分の一に原価低減する。
生産量を現在の 100 倍の年間 300 万kWにする。国もド
イツのように太陽光発電に対して補助金を続けるべきで
ある。電力会社もドイツのように太陽光発電の電力を高
く買うべきである。
情報総合研究所 代表
-1-
2.太陽光の反射
地球温暖化の原因は、化石燃料の燃焼で発生した炭酸
ガスや、メタン発酵で生成されたメタンガスなどが、地
上の熱を地球の外に放散するのを妨げる“温室効果”に
よるとされている。地球温暖化によって南極と北極の氷
が解け、氷による太陽光の反射が減っているため地球温
暖化がさらに進んでいるという。
太陽光の直射がきつい地中海沿岸のギリシャやアフリ
カに白い家(カサ・ブランカ)が多いのも、白が光を反
射し夏は涼しいということを古くから経験的に知ってい
たのだろう。夏服は白が多いし、制服制帽の学校では、
夏は帽子に白いカバーを掛けて熱射病を予防したものだ。
1991 年にフィリピンのピナツボ火山が大噴火し、
大量
のエアロゾルが成層圏まで舞い上がって数ヶ月滞在し、
太陽光が遮られて地球の気温が 0.5℃下がったことがあ
る。
― ビジネス・チャンス 2 ―
家屋やビルの屋根や屋上に光反射板をのせて、太陽光
を反射しエネルギーを地球の外に追い返す。ガラス製の
鏡が重さや耐久性やコストの面で問題があれば、アルミ
板、アルミ箔、アルミ蒸着プラスチック・フィルムでも
よい。
南側の壁に光反射板を貼ることも、建物内の温度を下
げ、冷房負荷を減らすのには有効だろう。しかし反射光
が隣の建物や地面に入射したりすると、町の温暖化にな
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ってしまう。
― ビジネス・チャンス 3 ―
家屋やビルの屋根や屋上の総面積は地表全体からみる
と微々たるものである。南極と北極の氷の面積とは比較
にならない。そこで、太平洋、大西洋、インド洋のかな
り広い面積に光反射板を浮かべ、太陽光を反射するとい
うのは現実的ではないだろう。
逆に海面に黒い物質を浮かべ、太陽光を吸収させ、水
蒸気の発生を増やす。水蒸気は上昇し雲となる。雲は太
陽光を反射し地球温暖化にブレーキをかけるだろう。
3.大気熱吸収式温水機
日本人は風呂好きな国民である。温泉は旅行の人気ス
ポットである。日本の高温多湿な夏の気候が、毎日入浴
や行水をする習慣を培ったのかも知れない。しかし風呂
を沸かすのには大きなエネルギーが必要である。一時は
太陽熱温水器を屋根に乗っけている家も見られたが、あ
まり経済的メリットが少ないのか、
普及率は高くはない。
一方、エアコンは家庭にもかなり普及した。その多く
は夏の冷房だけでなく、冬の暖房の機能ももっている。
すなわち、冬は外気の持っている熱を室内に取り込んで
いるのである。これにより電気ストーブで暖房する場合
の約5分の1の電力で、家が暖房できるという省エネル
ギー効果がある。
これは風呂にも応用できる。
風呂専用の大気熱吸収式
温水機を設置しても良いし、炊事や洗濯用の温水器と共
用でも良い。新築の場合には、全室に冷媒を供給する大
型室外機から、風呂を沸かしたい時だけ冷媒を風呂に回
しても良いだろう。エアコンや家具つきのマンションで
は、夏のエアコンや冷蔵庫の廃熱を回収しても良いだろ
う。これはまさに家庭内の熱のリサイクルである。
― ビジネス・チャンス 4 ―
現在のガス風呂と共存可能な放熱器を開発し、
風呂に
投入する。あるいはガスと大気熱吸収式温水機共用の新
しい風呂桶を開発する。初期投資は割高であるが、長い
目で見れば省エネルギーがペイするだろう。温水器も共
用にすれば、気温の高い時間に大気から吸熱し温水器に
貯めておくこともできる。温水器用の夜間電力は半額に
なるとしても、電力が5分の1の大気熱吸収式温水機の
方が、省エネルギーでもあり、安くもある。
イプ中を高速で移動し低温側に到達し、そこで冷やされ
て液体に戻る。熱媒体は両端の温度差に応じて水、アン
モニア、などから選ばれる。熱は高温側で気体になる際
に潜熱を奪い、低温側でその潜熱を放出する。高温側よ
りも低温側が高い位置にある場合には、低温側で液体に
なった熱媒体はパイプの内壁を伝って落下する。高温側
よりも低温側が低い位置にある場合には、低温側で液体
になった熱媒体はパイプの内壁に貼ったウィックという
網状の金属を伝って毛細管現象で上昇する。ヒートパイ
プは元々原子炉の炉心から放射能を外部に出さずに、熱
だけ取り出すために考案されたアイデアである。
人工衛星は太陽光に当たる側は 250℃にもなるが、反
対の日陰側では宇宙温度の-50℃である。300℃も温度
差があると内部の電子機器にも悪い影響がある。そこで
ヒートパイプでこの温度差を少なくするようにしている。
アメリカは感謝祭などで七面鳥を食べる習慣がある。
鶏よりも大きい七面鳥は焼くのに時間がかかる。急ぐと
表面が焦げ、内部は生焼けになる。ここにヒートパイプ
を刺すと、早く均一に焼けるという。もちろん省エネル
ギーにもなる。
― ビジネス・チャンス 5 ―
冷房用ヒートパイプ: 日本では地中6m 以上の温度
は年間一定で、その土地の年間平均気温である 12~18℃
になるという。そこで家の庭に6m以上の穴を掘り、ヒ
ートパイプを埋める。ヒートパイプの上の端を室内に入
れる。上の端は熱交換面積を増やすために中空の板状に
してもよいだろう。
できれば下端も同様にしたいのだが、
6m以上の土を掘らねばならないので、円筒状の熱交換
部を長くするしかない。もしその深さで地下水が流れて
おれば、熱交換部を冷やしてくれるので好都合である。
暖房用ヒートパイプ: 地球の内部には高温のマグマ
冷房
暖房
熱交換器
熱交換器
液
体
液
体
気
流
バルブ
気
流
バルブ
拡大図
ヒートパイプ (~10m)
ウィック
4.ヒートパイプ
地下水流
ヒートパイプ (>100m)
熱媒体
ヒートパイプは円筒形のパイプの中に熱媒体の液体を
入れて両端を密封したものである。少なくとも両端は熱
伝達率の高い金属で作られている。これを温度差のある
ところに置くと高温側から低温側に熱が移動する。その
速度は金属棒の中の熱伝達よりも速い。その理由は高温
側でヒートパイプの中の液体が気化し、気体となってパ
図1 ヒートパイプ式冷暖房
があり、火山の噴火で流出することがある。地表から
100m深くなるごとに地温は約6℃高くなる。
地表が0℃
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の冬に部屋を 25℃にするには、500mも掘らないといけ
ないので経済的ではない。そこで夏の間に熱を貯めてお
けないだろうか。
(図1参照)
だと考える 25℃にするには 100℃の熱水を使った場合に
必要な水量に比して、0℃の水では温度差が小さいため
に水量が数倍多く必要と思われるためである。しかしこ
れもその地方の夏と冬の気温や家の断熱度や換気回数に
よって差があるので一概に論ずるのは難しいだろう。同
じ盆地で夏と冬の兼用はしない方が良いだろう。どうし
ても余熱が残るので、そこに逆の温度の水を入れると熱
ロスが大きい。
(図2参照)
5.季節蓄熱
日本の夏は暑すぎ、冬は寒すぎる。そこで夏の高温お
よび冬の低温を6か月間蓄熱できれば、画期的な省エネ
ルギーが実現できるだろう。
私は 1970 年代に関西新空港を作る場合には、そこで
働く職員とその家族の6万人のために省エネルギー都市
を作ろうという大阪科学技術センターの「省エネルギー
都市」研究会に参加した。その後 1980 年に欧米の省エ
ネルギー技術調査団に参加した。
デンマークでゴミ焼却場の廃熱を付近の住民に供給し
ているのを見た。このゴミ焼却場は月~金はゴミを焼却
するが土日は停止する。そこでは廃熱を近くのアパート
の給湯と冬の暖房用に供給していた。
問題は土日である。
月~金にボイラーから出る 100℃の熱湯の一部を地中に
掘った穴から地中に注入する。その穴の周りに掘った4
本の穴から地下水を汲み上げて、ボイラーで加熱する。
すると5日間で地下水とその周りの砂利が熱せられる。
土日に中央の穴から水を吸引すると 94℃の熱水が2日
間出てくるというのである。
6.在宅勤務
1980 年代に(社)日本電子工業振興協会(現在は(社)
電子情報技術産業協会)に在宅勤務調査委員会という6
年プロジェクトがあり私もメンバーとして、在宅勤務を
いかに日本で普及させるかを研究した。アメリカとヨー
ロッパにも2回調査に行った。
日本電子工業振興協会では、オフィス・オートメーシ
ョン(OA)とファクトリー・オートメーション(FA)
は成功したが、在宅勤務と植物工場は時期尚早だった。
しかしそれから 20 年で環境が大変化を遂げた。①パソ
コンが高性能で安くなった。②インターネットが普及し
た。③少子化で人手不足になった。④女性で結婚後も働
きたい人が増えた。⑤生産拠点の海外移転やビジネスの
ソフト化が進み、オフィス・ワークが増えた。⑥企業が
人件費の負担を減らすために、正社員ではなく契約社員
を採用するようになった。⑦オフィスのテナント料が高
くなった。⑧そしてエネルギーの高騰である。
このような環境変化により、在宅勤務が実現する機運
が高まった。社員は往復3~4時間も満員電車に立った
まま通勤するという通勤地獄から開放される。9 時~5
時の拘束がなくなり、
自分の好きな時間に仕事ができる。
夜型の人は朝まで仕事をして、午後に起きるという生活
も可能である。オフィスでバリバリ仕事をすると、チン
タラチンタラ仕事をする社員の分まで仕事を押し付けら
― ビジネス・チャンス 6 ―
まず盆地を選ぶ。そこでは地下水が熱を持ったまま流
れ去ることがない。夏の間に太陽炉や大気熱吸収式温水
機を設置して高温水を作り地中に圧入する。周辺で地下
の冷水を汲み上げ、太陽炉や大気熱吸収式温水機で加熱
する。これを夏の日中に2~4ヶ月続ける。すると地下
は巨大な熱貯蔵庫となる。冬には水を逆流させると、高
温水がでて来るので暖房や風呂用に使えるだろう。
これを夏の冷房用に利用するのは難しいかも知れない。
太
陽
光
太陽熱集熱器
バルブ
放熱器
ポンプ
野菜
地面
冷水吸出孔
冷
水
(夏
)
(冬
)冷
水
砂利層
放熱器
ビニールハウス
花
熱水注入孔
(夏
)熱
水
熱
水
(冬
)
図2 季節蓄熱
というのは水は 0~100℃で液体である。われわれが快適
冷
水
(夏
)
(冬
)冷
水
れるが、給料はそんなに変わらない。在宅勤務ならバリ
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開発工学
バリ仕事をすると、
余暇時間が増え好きなことができる。
行きたければ大学院にも行ける。
在宅勤務者が増えると、
朝の交通渋滞が減る。交通エネルギー消費が減る。マイ
カー通勤や新幹線通勤がいかにエネルギーのロスである
ことか。
7.海洋温度差発電
赤道、熱帯、亜熱帯の海水面の温度は 20 数℃になり、
1km くらいの深海の温度は数℃である。この温度差を利
用して、海洋温度差発電所を作ることができる。これを
最初に 1881 年に提案したのはフランスの物理学者のジ
ャック・アルセン・ダルソバルである。海洋温度差発電
の原理は沸点が低く低温でも蒸発するアンモニアで低圧
タービンを回転させ、それで発電機を回して発電する。
ただ温度差はせいぜい 20℃くらいなので、400℃以上あ
る最新の火力発電所や原子力発電所が 40%にもなるの
に対して、海洋温度差発電所の発電効率は 1~3%と非常
に低い。ところが燃料費はゼロでエネルギー賦存量はほ
ぼ無限である。海面の温度が高いのは太陽エネルギーが
蓄積されているからである。
太陽電池と違い、昼夜連続発電が可能である。ただ深
海の海水を海面まで移動させるポンプの動力が、発電し
た電力のかなり大きな割合を消費してしまうので正味発
電量は少なくなる。このためアメリカのハワイ島のコナ
市のハワイ州立自然エネルギー研究所の海洋温度差発電
所は 1980 年代に閉鎖されてしまった。ところが佐賀大
学の上原春男教授が発明した「ウエハラサイクル」では
アンモニアと水の混合物を熱媒体に利用し、純アンモニ
アの海洋温度差発電に比して 50~70%熱効率が向上す
るという。
海洋温度差発電には、公害を出すような廃棄物はなく
環境にやさしい発電所である。またいくつかのメリット
がある副産物ができる。深海の冷水にはプランクトンの
死骸であるマリン・スノウが含まれており、栄養豊富な
ので、これを利用して、スピルリナのような海藻類を栽
培することもできる。これは食品用着色剤、サプリメン
トに利用されている。海洋温度差発電所が広く建設され
ると、大量の深海の冷水が海面に出て来るので、海面の
温度が下がり、地球温暖化の防止に役立つだろう。
(図3参照)
― ビジネス・チャンス 7 ―
履歴書や業務経歴書だけでは能力が分からないため、
資格ビジネスが盛んになると思われる。学歴も、どの大
学のどの学部の博士、修士、学士か、どのビジネススク
ールの MBA かとか問われるようになるだろう。資格も医
師、看護師、理学療法士、弁護士、弁理士、公認会計士、
税理士、中小企業診断士、技術士、英検何級、TOIFL 何
点、TOEIC 何点、など重要な判断基準となるだろう。
― ビジネス・チャンス 8 ―
より有利な職業を求めて転職も増えると思われる。そ
のため、ハローワーク、人材紹介業、人材派遣業なども
利用者が増えるだろう。
― ビジネス・チャンス 9 ―
企業も優秀な社員に来て欲しいので、企業広告を増や
すに違いない。すると広告業も繁盛するだろう。
― ビジネス・チャンス 10 ―
在宅勤務で問題となるのは企業情報のセキュリティで
ある。在宅勤務者にはシンクライアント・パソコンが必
須な機器となり売れるだろう。
― ビジネス・チャンス 11 ―
ネット上の見張り業務のように時間給で働く場合には、
実際に働いているか、昼寝をしていないかをチェックす
る監視システムも必要になるかも知れない。
温
水
ポ
ン
プ
(~1m)
蒸
発
器
温
水
パ
イ
プ
タ
ー
ビ
ン
発
電
機
熱
媒
体
循
環
ポ
ン
プ
コ
ン
デ
ン
サ
ー
冷
水
ポ
ン
プ
電
解
槽
冷
水
パ
イ
プ
(~200m)
図3 海洋温度差発電
-4-
苛
性
ソ
ー
ダ
タ
ン
ク
塩
素
タ
ン
ク
水
素
タ
ン
ク
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開発工学
― ビジネス・チャンス 12 ―
海洋温度差発電所を設計し、赤道、熱帯、亜熱帯の諸
国に販売する。あるいは海洋温度差発電船を建造し、赤
道、熱帯、亜熱帯の公海に航海し、発電した電気で海水
を電気分解し、発生した水素をボンベに詰めてタンカー
で日本に持って来たり、近隣諸国に販売したりする。燃
料電池自動車が普及すれば、需要は拡大するだろう。
8.人工降雨による砂漠の緑化とエタノール生産
地球の陸地の面積は 1.49 億k㎡である。そのうち
3,660 万k㎡が砂漠である。実に陸地の 30%が砂漠なの
である。しかも砂漠化が進行し、毎年 6 万k㎡ずつ拡大
しつつある。すなわち、毎年四国と九州の面積が砂漠に
なっているのである。中国の砂漠から黄砂が日本にも飛
んでくる。砂漠に雨を降らすことができれば、そのメリ
ットは大きい。その雨で砂漠を緑化すれば、大気中の炭
酸ガスも削減できる。
そんなことができるだろうか。一つの方法として海に
黒い物質を浮かべ、太陽光の海面による反射や、深海へ
の浸透を防ぎ、海面1cm で 100%吸収させる。当然、
海面の温度が上昇し、海水の蒸発量は増加する。その海
に近い砂漠の地面に黒い物質を撒く。すると地面での太
陽光の反射がなくなり、100%吸収される。当然、地面
が高温になり、地面に接する空気が高温になり、軽くな
るので、上昇気流が発生する。その気流に海面上の水蒸
気が引き込まれて一緒に上空に到達する。そこで気圧が
低くなり、断熱膨張で気温が下がり、雲が発生し、雨が
降る。その雨でサトウキビを栽培し、それからアルコー
ルを取れば、石油、石炭、天然ガスの代替燃料となり化
石燃料の消費を減らすことができる。
アルコールの発熱量は石油の6割くらいしかないので、
航空機の燃料としては不適であるが、船舶、自動車、発
電所、化学工場、ビル、家庭用の代替エネルギーとして
利用可能である。石油は燃やすと空気中の炭酸ガスが増
えるし、化石燃料なので一回使用すれば枯渇するが、ア
ルコールは、その原料のサトウキビが炭酸ガスを吸収し
て成長したので、それを燃やしても炭酸ガスは増加しな
いし、毎年生産でき枯渇することがないというメリット
がある。
世界の砂漠で意外と海に近い砂漠が多い。アラビア半
島、オーストラリア、アメリカのカリフォルニア州、メ
キシコ、ペルー、アフリカなどには、海岸から砂漠が始
まっているところもある。すなわち、緑化できる砂漠は
多い。たとえば、2005 年のアラビア半島諸国のサウジア
ラビア、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、オマ
ーン、イエメンなどの産油国の原油生産量は.76.79 億バ
レルである。石油の比重を 0.9 とすると、1バレルは 143
kgとなる。
したがって、
生産量は 10.98 億トンになる。
アラビア半島の面積は 280 万k㎡である。これをすべて
サトウキビ畑にすると、耕地面積あたりのアルコールの
収量が 5,191.4ℓ/ha でアルコールの比重は 0.8 なので、
6.97 億トンのアルコールが取れる。これはカロリー換算
では石油の 63%になる。
― ビジネス・チャンス 13 ―
これは大きなプロジェクトなので付帯事業も色々出現
するだろう。たとえば、海と砂漠に撒く大量の黒い物質
を製造する工場を現地に建設しなければならない。サト
ウキビを収穫するコンバインも多数必要である。サトウ
キビからアルコールを生産する醸造工場も建設しなけれ
ばならない。サトウキビ畑から醸造工場までサトウキビ
を運搬する道路建設と多数のトラックが必要となる。港
の近辺にはアルコール貯蔵タンクも必要である。
雲
太陽光
上昇気流
上昇気流
雨
水蒸気
海 面
黒い物質
黒い物質
エタノール・タンク
図4 人工降雨による砂漠の緑化とエタノール生産
-5-
沙 漠
サトウキビ畑
エタノール工場
2008.3
開発工学
9.海藻と貝による炭酸ガスの固定
カリフォルニア州モントレー市の太平洋沿岸にジャイ
アントケルプという長さ 60mにも達する巨大な昆布の
ような海藻が繁茂している。これは一日に 60cm も成長
するという。その成長の源は太陽光による光合成であ
る。その際、炭酸ガスが吸収される。深さ 60m 以下の
沿岸の面積はそんなに広くはない。そこで太平洋、大西
洋、インド洋などの真ん中でもジャイアントケルプを生
育させるためには、何らかの仕掛けが必要である。たと
えば、空のペット・ボトルの栓のところに 60m のひも
をつけ、その先にオモシをつける。そのオモシにジャイ
アントケルプの種子を撒いておく。私の研究では、全世
界の海面に厚さ1mmになるくらいジャイアントケルプ
を植えると、世界の炭酸ガス排出量 70 億トンの 12.6 年
分の炭酸ガスを吸収してくれることが分かった。
しかし全世界の海にジャイアントケルプが繁茂してし
まえば、それが成長し、枯れるまで炭酸ガスの吸収は飽
和してしまう。枯れると朽ち果てて、また炭酸ガスを放
出する。そこでジャイアントケルプの表面に貝を繁殖さ
せる。貝はジャイアントケルプを食べる。食べ尽くすと
貝は海底に落下する。貝の殻の成分は炭酸カルシウム
(CaCO3)である。その分子量は 100 で、重量の 12%
は炭素である。炭酸カルシウムの密度は 2.71 なので、貝
がジャイアントケルプを食べ尽くすと貝は海底に落下す
る。炭酸カルシウムは水溶性ではないので、永久に炭酸
ガスに戻ることはない。これは今から1万年以上も前の
縄文時代の大森貝塚の貝殻が原型を留めていることから
も明らかである。貝が死ぬとその身は魚の餌になるか、
腐敗して分解するだろうが、分解の時に炭酸ガスが出る
としても海水に溶けて、大気中には戻って来ないのでは
ないだろうか。
PETボトル
― ビジネス・チャンス 14 ―
公海の航路外の海面に、ジャイアントケルプの種をつ
けたオモシをぶら下げたペット・ボトルを浮かべる。ジ
ャイアントケルプが成長した時点で、稚貝をジャイアン
トケルプに乗せる。貝がジャイアントケルプを食べ尽く
したら、オモシにジャイアントケルプに種をつける。必
要な資金は炭酸ガスの排出権取引で捻出してはどうか。
まとめ
いまや環境問題は世界共通の大問題である。しかも炭酸ガ
スのように国境を越えて拡散するものもあり、よそ事ではない。
環境悪化の原因の追求、環境の改善方法の立案、その実施
には大きなビジネスチャンスがある。幸か不幸か、かつて日本
は“公害先進国”であった。大気汚染、水質汚濁、騒音公害、
地盤沈下、土砂崩れ、産業廃棄物不法投棄、赤潮、松枯れ病、
薬害などなど“公害の百貨店”の観を呈していた。その結果、
水俣病、イタイイタイ病、サリドマイド・ベビー、四日市喘息、カ
ネミ・オイル症、六価クロム症、ダイオキシン症などなど、多く
の公害病が発生した。現在、その多くの原因が突き止められ、
対策が講じられている。この技術を“公害後進国”に技術移転
することが可能であり、必要である。そこに大きなビジネス・チ
ャンスが見出せる。
参考文献
1)清水正元(1979)『砂漠化する地球』、講談社
2)石弘之(1988)『地球環境報告 I』、岩波書店
3)宇沢弘文(1995)『地球温暖化を考える』、岩波書店
4)石弘之(1998)『地球環境報告 II』、岩波書店
5)小宮山宏(1999)『地球持続の技術』、岩波書店
6)大聖泰弘・三井物産(株)(2004)『バイオエタノール最前線』、
工業調査会
7)村山正・常本秀幸(2004)『美しい地球を子孫に』、理工評論
出版
8)若林 宏明(2007)『安価な石油に依存する文明の終焉』、流
通経済大学出版会
9)アル・ゴア(2006)『不都合な真実』、ランダムハウス講談社「」
海面
炭酸ガス
貝に食われた
ジャイアントケルプ
ジャイアントケルプ
オモリ
海底
図5 海草と貝による炭酸ガスの固定
-6-
貝