雑誌紹介記事:月刊環境ビジネス2007年3月号

事例2 高齢者介護施設でのCO2削減
オール電化で運営コストを大幅削減
安心・安全な介護施設として高い評価
◆東電ライフサポート「もみの樹・杉並」
省エネ・CO2削減に取り組んでいるのはオフィスや商業施設だけではない。高齢化社会を迎えるにあた
り、今後増加が予想される高齢者介護施設においても、
オール電化による安心・安全性の確保とともに、
CO2削減に取り組んでいる。
入居者や家族が安心できる
オール電化の有料老人ホーム
杉並区の閑静な住宅地にある介護付
き有料老人ホーム「もみの樹・杉並」
。
2006年3月に開設したこの有料老人ホー
ム(以下、ホーム)には、現在約40名
の高齢者が入居している。
高齢者が生活するホームでは、給湯
や空調などで多くのエネルギーを消費
する。3階建ての同ホームには、各階に
2つずつの風呂があり、冬は床暖房を稼
「もみの樹・杉並」が導入した日本イトミック社製「業務用エコキュート」。
動させている。
普通に給湯や空調を使っていれば運
コ・アイスに加え、日本イトミック社
まったく使わず、IH調理器等を使う厨
営コストも膨らむが、同ホームでは、
製の「業務用エコキュート(以下、エ
房や21㎡の各個室やリビングルーム、
割安な夜間電力を利用する空調のエ
コキュート)
」を4基設置。館内の給湯
ダイニングルームに設置した床暖房な
に利用し、省エネ・低コストを実現し
ど、すべてオール電化によるものだ。
ている。
入居希望者や家族からは、安全性の高
「介護が必要なお年寄り向けの浴室
や洗濯室、調理室、理髪室など、館内
「オール電化にすることで燃焼設備
共用部で使用するお湯はすべてエコキ
がなくなり、CO2排出量を削減し、さ
ュートで作ったお湯を使用している」
らに高効率なエコキュートの利用によ
と話すのは、東京電力のグループ企業
って、より環境に優しい施設とするこ
で「もみの樹・杉並」を運営・管理し
とができた」
(齊藤氏)
。
ている東電ライフサポートの企画部副
部長、齊藤敬二氏。
東電ライフサポート
企画部副部長
齊藤 敬二
氏
いホームとして評価されている。
「エコキュート」は、CO2冷媒によ
るヒートポンプシステムで、従来のフ
同社は2002年に練馬区に「もみの
ロン系冷媒では不可能だった90度の高
樹・練馬」をオープン。
「もみの樹・杉
温沸き上げを実現した。エネルギーの
並」は同社の2棟目のホームだ。
源は大気熱と電気。大気から熱を吸熱
建物にはオール電化を採用。直火を
し、冷媒に伝え、高圧力をかけること
特別企画 CO2削減のための最新手法
で、高温を生み出すことができる。
COPは最大で3.8
コストは従来比約50%
エコキュートの利用は、運営コスト
面で大きなメリットがある。
齊藤氏は、
「割安な夜間の電力を使っ
■オール電化とガス併用の場合、環境性能の比較
環境性比較
[kgーCO2/年]
350,000
100%
300,000
250,000
床暖システム
63%
200,000
厨房システム
150,000
給湯システム
100,000
て加熱している。夜間の電気料金は昼
間の6割引。安価で給湯できる」とエ
0
オール電化
コキュートのメリットについて語る。
ガスや油の従来方式に比べ、約50%の
ランニングコスト削減ができていると
空調システム
50,000
ガス併用
※エコキュートと同等の別途熱源システムを比較シミュレーション。実際は運転状況によって
変化等がある。
試算:東京電力/CO2排出原単位/電気 0.372kg-CO2/kWh/ガス 2.290kg-CO2/kWh
「エコキュートは、ランニングコス
費の削減もできるという。例えばビル
しかも東京電力では、夜間の電力は
トが格安であるため、約3年ほどで初
や工場などにあるボイラーと比較すれ
化石燃料の消費が少なく、主に原子力
期投資額の回収が可能」と日本イトミ
ば差は歴然。規模の大きなボイラーの
発電によって発電している。原子力発
ックのECO商品部ECO課の金井哲也課
場合、常に有資格者(ボイラー技士)
電はCO2の排出が少ない。エコキュー
長は話す。
が常勤し、安全点検を行なう。
いう。
トの利用によってCO2排出量の削減に
貢献でき、夜間電力の活用によってラ
ンニングコストも低減できることは大
専門の資格者も不要
簡単な操作で大きな効果
一方、エコキュートは設置するだけ
で、専門資格者の常勤も不要、保守点
検も年2回くらいですむ。設備面での
もみの樹・杉並の入居者は、週に3回
人件費がかからない分、その他のサー
お風呂に入るという。
「浴槽は約250褄。
ビスを充実させることもできる。何よ
COPは、一般のガス給湯器のCOPを1
一人一人お湯を入れ替えている。現在
りもガスや油に比べて安心度合いが違
とした場合、「エコキュート」のCOP
の入居者は40名ほどだが、最大64名が
うという。
は最大3.8になる。環境に優しく、しか
入居しても足りるだけの湯量を確保し
もパワフルな熱源である。
ている」
(齊藤氏)
。
きな魅力だ。
消費電力あたりの加熱能力を表す
用価値がある。屋上の貯湯槽は「コミ
大きなメリットがあるエコキュート
ュニティタンク」とも呼び、緊急時の
だが、操作は意外なほど簡単だという。
生活用水として、1ユニット最大3000褄
「制御盤に、設定温度などをセット
が使える。
「もみの樹・杉並」では、4
してスイッチを入れ、夏や冬など、季
ユニットを装備しており、最大12,000
節の設定を変えるだけで、難しい操作
褄もの湯または水が使用可能だ。
をすることはない」
(金井氏)
。
直火をまったく使わず、IH調理器等が使われて
いる厨房。
また、エコキュートは災害時にも利
こうした簡単な操作によって、人件
「もみの樹・杉並」は、オール電化
による環境に優しいホームとして、多
くの見学者が来るという。エコキュー
トは、同じような介護施設だけでなく、
大量のお湯を毎日定期的に使用するあ
らゆる施設に利用することが可能だ。
例えば、ホテルやレストラン、病院や
学校の給食センターなど、エコキュー
トのようなヒートポンプ給湯システム
バスルームは各階にある。最大64名が入居して
も足りるだけの湯量を確保している。
オール電化による床暖房で、冬でもフローリン
グの床は暖かい。
活用の可能性はさらに広がりそうだ。