フランス海外領土における通貨制度の脆弱性と独立問題 川戸秀昭(日本大学) 1. はじめに ギリシャの財政問題に端を発した欧州危機はEU経済に多大な影響を及ぼし,急激な円高ユーロ安の要因と もなった。欧州各国における財政健全化政策と財政赤字国への支援は国民生活への大きな負担は国民の不満要 因ともなっており,その不満はフランスにおいてサルコジ政権から社会党のオランド政権への移行という形で 表れた。こうした影響はフランス国内のみならず,海外県にも様々な影響を及ぼしている。本報告では特に南 太平洋におけるフランス海外領土の地域における通貨制度を取り上げ,欧州危機がどのような影響を及ぼし, その影響を受けて通貨制度に関しての政策,ひいては独立に対する世論がどのように変化していくのかについ て検証を行う。 2. 概要 南太平洋におけるフランス海外領土はフランス領ポリネシアとニューカレドニアがあり, ポリネシアは南太 平洋にあるフランスの海外共同体(Collectivité d'outre-mer,略して COM:海外準県)であり,その中でも 海外領邦(Pays d'outre-mer,略して POM)という特別な地位を有している。これらの海外領土は CFP フラン (franc pacifique)と呼ばれる通貨を使用し,0.00838 ユーロと等価である。 3. ニューカレドニア ニューカレドニアはメラネシアの島で,面積は 1 万 8,575 平方キロメートルである。コルシカ 島の 2 倍の大きさのグランド・テール島,ロワイヨーテ四島,ベレップ諸島,イル=デ=パン島のほか,いく つかの小島で成り立っている。人口は 20 万人で,メラネシア人(全体の 44%以上を占める)とヨーロッパ 人(約 34%)の社会に分かれている。1980 年代には,カナク派の独立運動が盛り上がりを見せた。1988 年 の合意文書によって,政治的に不安定な状態から脱し,経済再建の取り組みが始まった。1998 年以降,海外 県の地位の変更をめぐって,独自の道を歩んでいる。2014 年には,ニューカレドニアに 20 年以上居住して いる住民を対象に,独立するかどうかの投票が行われることになっている。 ニッケルの生産量では世界第 3 位で,他にもクロムやコバルト,鉄,同,鉛,亜鉛,ジャスパーなどを産 出する。 図表1 ニューカレドニアの主な輸出相手国(2010) 300 図表 2 ニューカレドニアの主な輸入相手国(2010) フランス 日本 その他アジア 200 EU 北米 韓国 豪州 100 東アジア スペイン 米国 0 輸入額(100万US$) 東南アジア ベルギー 先進アジア地域 [出所]UN Comtrade 4. フランス領ポリネシア 仏領ポリネシアは 250 万平方キロメートルの海域に点在する 118 の火山島・珊瑚島によって構成されてお り,海上に浮かぶ部分の面積の合計は 4,200 平方キロメートルである。島は 5 つの列島を形成している。 仏 領ポリネシアでは,人口 22 万人の 43%が 20 歳以下である。人口構成は 82.8%がポリネシア人,11.9%がヨ ーロッパ人,4.7%がアジア人である。1946 年,海外領土となり,1996 年からは自治権が与えられた。 昔から漁業とコプラ栽培が行われていたが,商業や伝統工芸,工業もさかんになり,最近では GDP の 20% 近くを占める観光業や,価値ベースで最大の輸出品となった真珠養殖(黒真珠)も加わった。1992 年 4 月に, 太平洋実験センターでの核実験が中止になったことを受け,フランス政府はポリネシアの経済・社会的変化に 対応するため,10 年計画の支援措置を開始した。 図表 3 フランス領ポリネシアの主な輸出相手国(2010) 図表 4 フランス領ポリネシアの主な輸入相手国(2010) 中国 50 日本 40 フランス 30 米国 20 英国 EU 北米 ニューカレドニア 10 東アジア シンガポール 0 東南アジア 豪州 輸入額(100万US$) NZ 先進アジア地域 [出所]UN Comtrade 5. ユーロ危機 2010 年のユーロ危機を境に,円に対しては 0.008(2010 年 1 月 1 日現在)から 0.0097(2012 年 11 月 6 日現在)まで下落,対ドルに対しても 1.5760(2008 年 6 月 1 日現在)から 1.2814(2012 年 11 月 6 日現在)ま で下落した。輸入超過の両地域においては,ユーロとの固定相場制を採っている現在,国内物価の上昇と いう問題が深刻になっている。EUからの輸入には問題がないものの,近年,特にアジア地域との貿易が 活発になっており,それらの国々から輸入している原油,自動車,医薬品,機械等の高騰は国民生活と経 済成長において,多大な足かせとなっている。 3 図表 5 ニューカレドニアとフランスのインフレ率 2.5 2 ニューカレドニア 1.5 フランス 1 0.5 0 1998 6. 2010 2011 [出所]CIA World Factbook おわりに 欧州単一通貨であるユーロがギリシャをはじめとする財政問題によって危機を迎え,その尻拭いに加盟各 国が追われている。ユーロとの固定相場制を採る両地域においては,単一通貨導入のデメリットを強く受け る形となったため,この影響がニューカレドニア独立の国民投票に強く反映し,フランス領からの独立へ向 かうことも大いに考えられる。また,この問題は最適通貨圏理論の事例研究としても重要な例として位置付 けることが可能であると言える。
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