文字量レイアウトルビ注意明治村の帝国ホテル株式会社名鉄百貨店代表取締役社長佐藤健明治村は昭和 40 年３月18日に開村。本年３月15日の50 周年記念式典で、作家・エッセイストの阿川佐和子さんが第四代村長に颯爽と就任されました。私は50 歳前後の３年間、明治村の所長を務め、明治時代の書生姿で高下駄を鳴らしながら、村内を歩き回っていました。そこで、こぼれ話をひとつ。明治村には明治時代の貴重な建築様式を残す建物が移築保存されていますが、１棟だけ明治の様式とは関係のない建物があります。それは帝国ホテル中央玄関です。大正 1 2 年９月１日正午からの竣工式典直前、関東大震災に遭遇するというドラマチックなデビューをしたフランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルが、何故、明治村に移築保存されることになったか？をご存じの方は少ないと思います。昭和 45 年の大阪万博に来日が予想される多数の外国人賓客の対応を迫られた帝国ホテルは、建て替えを決定しましたが、取壊しに反対する人々が帝国ホテルを守る会を立ち上げ、この運動はライトの母国アメリカにも飛び火していきました。そんな状況の昭和 42 年 11月半ば、訪米中の佐藤栄作首相に記者会見の席上、米国人ジャーナリストが「日本では帝国ホテルの取壊しが問題となっているが、首相はどのように考えているか。」と想定外の質問をした際、『明治村での保存』を示唆する発言をされたと、日本に伝わってきました。帰国後の21日、公式会見で「帝国ホテルは、一部でも良いから、明治村へ行けば幸せだと思う。」と答えられたのを機に、ことが一気に進んでいきました。明治村では大騒動。館長らが首相を訪問。正式な保存要請を受け、文部大臣に足を運び「復原の際は、助成金等の形で経費の一部を国で補助する。」と確答があったと、新聞各紙に掲載されました。 12月１日、明治村は『玄関ホールの部分に限って移築保存』と決定。示唆発言から半月、何とも猛烈なスピードでした。奇しくも同日、解体が始まり、ライト作の帝国ホテルは、44 年３ヶ月の生涯を閉じました。その後、費用の問題でひと悶着が起こります。工費３億 7000 万円の予算で補助金を申請しましはしたがねたが、第１次査定はゼロ。復活折衝でやっと付いたのが 1000 万円。「そんな端金なんか要らん。入鹿池にでも捨ててしまえ。」と、激怒する方もいたとか。帝国ホテル中央玄関が、解体から移築復原までに要した期間は実に17 年、費用は 11 億円を超えていました。風薫る一日、明治村の帝国ホテルで、ゆったりとお茶でもされてはいかがでしょうか。中経連 2015.5 1