電源について

電源について
1 安定化電源 二つの方式
2 スイッチング電源の回路方式
すべての電子機器は、動力源として電源部がなければ動
スイッチング電源方式は、半導体スイッチを素子とし、
作できません。しかもその大半が5Vや12Vの安定化直流
その半導体スイッチのON/OFFの時比率を制御すること
電源を必要とします。
によって、電力の流れを調整する電源方式です。
安定化電源を作る方式としては
商用の交流電源から作る
この方式では、半導体スイッチが飽和領域と遮断領域で
(AC-DC)
動作しているため、能動領域で動作するドロッパ電源に比
バッテリーなどの直流電源から作る (DC-DC)
べ、半導体スイッチにおける損失が少なく電力変換効率が
の二つの方法があります。
高いのが特長です。
これらには入力(1次)
と出力(2次)が絶縁されたものと、
絶縁されていないものとがあります。
スイッチング電源は、スイッチング・レギュレータを電力
調整部分とし、それにノイズフィルター、起動回路、整流回
現在、主に用いられている直流安定化電源の方法として
は、大別してドロッパ・レギュレータとスイッチング・レギ
ュレータと呼ばれる方式があります。
路、過電流、保護回路などの機能を付加したものです。
図2)は、スイッチング・レギュレータの基本構成を示し
たものです。直流入力電圧がスイッチング方式の DC-DC
ドロッパ・レギュレータ方式の電源はリップル・ノイズが
コンバータにより、任意の直流出力電圧に変換されます。
小さいという長所がありますが、大きくて重いという短所
その誤差電圧によってパルス幅変調回路は駆動回路を通し
があります。
て半導体スイッチのON/OFF時間比を変調させ、誤差電
スイッチング・レギュレータ方式の電源は、高効率で軽い
圧を抑えるように出力電圧を調整します。
という長所がありますが交流電圧を一旦整流した電圧とし
DC-DCコンバータは、電力を取り扱う回路で、スイッチ
て、その後高周波の交流に変換し、更に整流して直流として
ング電源の中で最も重要な部分であります。それには、
いるため、ノイズが大きいという短所があります。
種々の回路方式がありますが、大別すると方形波で動作す
近年はICによる回路の集積化が進み、複雑な機能を必要
とする回路が1チップ化されています。そして最近では数
点の外付け部品だけで、高効率なスイッチング・レギュレー
タを組上げる事が出来るようになり、あらゆる電子機器に
使用されています。両方式の違いを図1)に示します。
るPWMコンバータと、正弦波で動作する共振形コンバー
タに分けられます。
図2)スイッチングレギュレータの基本構成
入力
ノイズ
フィル
ター
入力
整流
平滑
出力
整流
平滑
コンバ
ータ
出力
図1)
ドロッパー・レギュレータとスイッチング・レギュレータの比較表
回路
項目
ドロッパー・レギュレータ
スイッチング・レギュレータ
効 率
低い(30∼50%)
高い(70∼90%)
寸 法
大きい
小さい(1/4-1/10)
重 量
重い
軽い(1/4-1/10)
回 路
簡単、部品点数少ない
複雑、部品点数多い
安定度
高い
普通
リップル・ノイズ
小さい(0.1-10mVP-P)
大きい(10-200mVP-P)
無し
有り
スイッチング周波数から
200MHz
不要輻射
制御
回路
1)シングルエンディッドフォワード方式
シングルエンディッドフォワード方式は、構成が簡単で制
御も比較的安定しています。
図3)シングルエンディットフォワード方式
T1
D1
L1
ON時
OFF時
D2
Vcc
C1
RL
S1
16
+
ON
4)フルブリッジ方式
回路動作の説明
図3)の回路でスイッチS1がONしている時、2次側では
フルブリッジ方式は、図6)のS1、S4とS2、S3が交互
矢印の方向へD1を通して電流が流れ、負荷RLへ電力が供
にONする方式であり、半導体スイッチがOFFしている時に
給されます。また、スイッチS1がOFFの時は、チョークコ
半導体スイッチの両端に印加される電圧はVccとなります。
イルL1に蓄積されたエネルギーがフライホイールダイオー
そのため、耐圧の低い半導体スイッチが使用できます。この
ドD2を通して流れ、負荷RLへ電力を供給します。この方
方式は、AC200V系で出力電力300W以上の大電力用電
式は小電力から大電力(数100W)まで使用されています。
源に使用されています。
図6)フルブリッジ回路
2)シングルエンディッドフライバック方式
シングルエンディッドフライバック方式の特長は、シンプ
S3
S1
ルな回路であるため、部品点数を他の回路より少なくする
ことができ小電力のスイッチング電源に適しております。
T1
L1
D1
+
C1
Vcc
回路の動作説明
RL
S2
図4)の回路でS1がONの時、2次巻線に誘導される電圧
D2
S4
によって、ダイオードD1が逆バイアスされ2次巻線には電
流が流れません。ONの間、1次巻線が入力電圧Vccで励磁
され、エネルギーはトランスに蓄積されます。S1がOFFの
プッシュプル方式は、2個の半導体スイッチを交互にスイ
時、蓄積されたエネルギーは負荷に放出されます。
ッチングさせ、出力を取り出す方式であり、比較的大電力
図4)シングルエンディッドフライバック回路
(数kW)まで使用されています。
D1
T1
5)プッシュプル方式
+
回路の動作説明
C1
図7)の回路で各々のスイッチS1、S2のONの時に、各々
Vcc
負荷RLへエネルギーを供給する方式で、半導体スイッチS1
RL
S1
及びS2が同時にOFFした時は、整流ダイオードD1、D2
は、チョークコイルのフライホイールダイオードの役目を
します。
3)ハーフブリッジ方式
図7)プッシュプル回路
図5)の回路で、動作は5)項で述べるプッシュプル方式と
同じですが、違うのは、
トランスT1の1次巻線に印加される
T1
D1
L1
S1
ON
電圧は1/2Vccで半導体スイッチがOFFしている時、その
C1
+
VCC
RL
半導体スイッチに印加される電圧はVccに等しくなるため
です。そのため耐圧の低い半導体スイッチが使用できます。
D2
S2
ON
図5)ハーフブリッジ回路
S1
1
2 Vcc
6)降圧型チョッパー方式
T1
D1
C1
図8)に示す、降圧型チョッパー方式は、高い直流電圧を
別の低い直流電圧に変換したい時に使用するのでDC―DC
+
C1
Vcc
1
2 Vcc
L1
図8)降圧型チョッパー回路
L1
RL
C2
Vcc
S2
D2
S1
+
D1
C1
RL
17
コンバータの一種として考えられています。動作はシング
3 安全規格
ルエンディッドフォワード方式と同じです。
使用者の人命、財産を守るため、製品の安全基準が規格
7)昇圧型チョッパー方式
化されています。この基準は、各種製品、部品、材料、構造、
図9)に示す、昇圧型チョッパー方式は、低い直流電圧を
別の高い直流電圧に変換したい時に使用します。動作とし
てはS1がONしている期間にコイルL1にエネルギーを蓄
積し、S1がOFFした瞬間から発生する起電力で出力側へ
電力を伝達するものです。
絶縁、温度、表示、安全性等があり、製造・販売する国にお
ける安全規格を遵守・認証を得る必要があります。
当社の標準電源は、一部を除き、各種安全規格の認証を
受けているため、安心してお使いいただけます。
また、安全規格の認証を受けている電源は、お客様におけ
る規格申請は必要ありません。このため、イニシャルコスト
図9)昇圧型チョッパー回路
L1
の低減と開発スケジュールの短縮を図ることができます。
D1
Vcc
S1
1)本カタログ内の規格認証の呼称について
+
C1
RL
8)極性反転型チョッパー方式
図 10)に示す、極性反転型チョッパー方式は、入力電圧
認証
安全規格認定を第三者認定機関から取得して
おり、認証マークを表示できる。
準拠
電安法、IEC規格等に準じた設計、評価され
ている事が確認されている
対応
各種指令に基づき設計、評価されている事を
証明できる
(CEマーク:低電圧指令も含まれます)
と極性の反転した出力電圧を得ることができるのが大きな
特長であり、
(+)電源しかないところで OP アンプに使用
するバイアス用の(−)電源が必要な時には大変便利な方式
です。
動作は、フライバック方式と同じです。
図10)極性反転型チョッパー回路
S1
Vcc
2)IEC規格について
D1
−
IEC規格とは、国際電気標準規格のことで、電気・電子分
野の国際標準規格となっています。本規格には拘束力はあ
OFF時
L1
+
りませんが、各国の規格は、IEC規格を元に作成される場合
C1
がほとんどです。
+
RL
3)CEマーキングについて
CEマーキングとは、EU(欧州連合)地域に販売される指
定製品に対し、貼付を義務づけられているマークで、EC指
令(欧州指令)に適合したことを示します。
EC指令は、製品の分野別に複数存在しており、通常、機
械・電子機器が該当する指令は下記の3指令となります。
なお、電源装置を組込んだ最終製品のCEマーク対応は、
セットメーカーが公的認定機関等でテストを実施、規格準拠
等を確認の上で、製造者自身が適合宣言書(Declaration
of Conformity)を発行し、
「自己宣言」をすることで、CE
マーク表示ができます。また、適合宣言書は、EU圏内で保
管する必要があります。
電源単体にて、EU地域で販売する場合、弊社は、EU圏内
18
に現地法人がないため、お客様の現地法人または代理店に
おいて、宣言書を保管する必要があります。
①機械指令
工作機械、ロボットなどの産業機械を中心に、可動部に
危険性が認められるものが対象となります。
4 信頼性(故障と寿命)
1)故障率
故障率の時間的推移を表す手段として、一般的にバスタ
ブ曲線が使用されます。
②EMC指令
累計使用時間と故障率(バスタブ曲線)
電磁波の発生、あるいは外部の電磁波によって機能に
影響を受けるおそれのある製品に関する指令です。
標準電源単体では、本指令は適応されず、電源装置を
組込んだ最終製品に適応されます。このため、電源単体
としてのEMC指令に関する値は、参考値となります。
故
障
率
③低電圧指令
時間
AC50∼1000V、DC75∼1500Vの電源で駆動す
る電気製品が対象となります。
①初期故障期
②偶発故障期
③摩耗故障期
対応する規格は、EN60950またはIEC60950(事
務用機器を含む情報処理機器の安全性)であり、当社の
標準電源は、第三者認定機関より本規格の適合を確認さ
れています。
①初期故障期
使用開始後、比較的早い時期に発生する故障です。主な
原因は、部品不良や製造上の不良のため発生することが多
いと考えられます。
4)電気用品安全法について
②偶発故障期
日本国内における電化製品の安全に関わる技術基準を定
初期故障期間の後の通常使用期間にわたって発生する故
めた法律です。本法律に適合した製品は、
「PSEマーク」を
障で、偶発的に発生します。また、単に故障率と言う場合
表示し、表示が無い場合は販売することができません。本
は、本期間のことを示します。
法律は、標準電源単体では適用されず、電源装置を組込ん
③摩耗故障期
だ最終製品に適用されます。
部品寿命による故障となります。この寿命までの期間は、
使用環境により大きく異なります。
5)RoHS指令について
RoHS指令とは、電気・電子機器における6 種類の特定
有害物質の鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、六価ク
、ポリ臭化ジフェ
ロム(Cr 6+)、ポリ臭化ビフェルニ(PPB)
ニエーテル(PBDE)の使用を制限する欧州連合(EU)によ
る指令です。
当社の対応状況については、10ページのセレクションガ
イドをご覧ください。
2)寿命
一般的にスイッチング電源の寿命は、電源内部に使用さ
れている電解コンデンサに左右されます。
電解コンデンサの寿命は、使用する周囲温度により大き
く異なり、アレニウスの法則に従い、周囲温度が10℃上が
ると寿命は半分になり、逆に10℃下がると寿命は2倍延び
ます。
このため、電源を使用する際には、放熱に十分注意する
必要があります。放熱を考慮した取り付けや、場合により
ファンによる強制空冷を行ったり、また、使用する際の電
源の負荷率を下げることが有効です。
特に、装置に組み込んだ場合、電源の設置環境等により、
電源の周囲温度、電解コンデンサの温度が変化しますので、
ご注意願います。
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